説明

蛍光ランプ

【課題】 ガラス管径を小さくしても発光効率および全光束の低下を抑制することができる直管形蛍光ランプを提供する。
【解決手段】 直管形蛍光ランプ11は、フィラメント8を有する電極a、フィラメント8’を有する電極bと口金4,4’とをガラス管(発光管)1の両端部にそれぞれ備え、発光管1内に封入される緩衝ガスはKrを主成分とし、NeおよびArのうちの少なくとも一方をKr以外の成分として含み、且つ、発光管1の外径寸法は14.0mm以上17.0mm以下であり、ランプ点灯中の管壁負荷が650W/m以上1000W/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般照明用として使用される直管形蛍光ランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光ランプは白熱電球と比較して、発光効率が良いため、施設照明や家庭用照明として広く普及している。近年では地球環境に配慮するために、蛍光ランプにおいては省エネルギーの面で発光効率の改善を目的とした、高周波点灯専用蛍光ランプの比率が年々増加してきている。また、高周波点灯専用蛍光ランプは省エネルギーだけではなく、従来の蛍光ランプよりもガラス管径の小さいガラス管を用いており、省資源の面からも注目を浴びている。
【0003】
蛍光ランプは、放電によりランプ内に封入された微量の水銀から放射される紫外線が、蛍光ランプガラス管内面にコーティングされた蛍光体に照射されることにより可視光に変換されるのが発光原理であるが、蛍光ランプの発光効率は幾つかの因子に影響される。一般的に蛍光ランプは放電長が長くなるに従い、電極部のロスがランプ全体に与える影響が小さくなるため、発光効率は向上していく。また、蛍光ランプに封入された水銀は蛍光ランプ内では液体状態で存在するものと蒸気で存在するものがあり、発光に寄与する形態は蒸気で存在するものであるが、蛍光ランプの表面温度が高くなるに従い、水銀蒸気圧は上昇し、最適な発光効率は水銀の蒸気圧が約0.8Paといわれている。その状態は、蛍光ランプの最冷点温度が約40℃の時に相当する。最冷点温度を最適に制御する手法とし、ランプに投入する電力の大きさ、ランプ全長およびガラス管径等の基本構造、積極的に最冷点を形成するための電極構造、封入水銀のアマルガム化などがある。例えば特許文献1には、水銀を封入したバルブの両端部で相互に電極高さを異ならせた低圧水銀蒸気放電灯が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−267501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光ランプは白熱電球と比較して環境に配慮した照明であるが、地球資源の観点から、更なる省資源化が今後必要であり、直管形蛍光ランプで現在主流となっている管径25.5mm、全長1198mmの高周波点灯専用形蛍光ランプ(FHF32)と同じ効率で、使用材料を低減することができれば、資源を節約できる有効な光源となる。しかしながら、資源を節約するためにガラス管径を小さくすると、ガラス管径が細くなった分、ガラス表面温度が上昇し、最適な水銀蒸気圧を確保できなくなる。また、最適な水銀蒸気圧を確保するために、投入電力を低下することで、ガラス管表面温度は低下し、発光効率は改善することができるが、光束が低下し、必要な明るさを得るためにはランプの点灯数を増加させる必要がある。
【0006】
本発明の目的は、ガラス管径を小さくしても発光効率および全光束の低下を抑制することができる直管形蛍光ランプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らはガラス管径を小さくすることでガラス管表面温度が上昇し、発光効率が低下することを防止するために、熱伝導率の低い封入ガス組成の選定および最適な水銀蒸気圧に制御できる電極構造を検討することで、器具に装着した状態で、最高の発光効率が得られることを見いだした。また、発光効率だけではなく、全光束の低下を少なくするため、ガラス管内面にコーティングした蛍光体にかかる最適な負荷となるガラス管径を選定することにより、高効率、高出力の蛍光ランプを提供することができ、省資源化が達成できることを見いだした。
【0008】
すなわち、本発明に係る直管形蛍光ランプは次のようなものである。
(1)フィラメントを有する電極と口金とをガラス管両端部にそれぞれ備えた直管形蛍光ランプであって、前記ガラス管内に封入される緩衝ガスがKrを主成分とし、NeおよびArのうちの少なくとも一方をKr以外の成分として含み、且つ、前記ガラス管の外径寸法が14.0mm以上17.0mm以下であり、ランプ点灯中の管壁負荷が650W/m以上1000W/m以下であることを特徴とする直管形蛍光ランプ。
(2)前記電極の口金端部からフィラメントまでの距離が、一方の電極では35mm以上、他方の電極では30mm以下であることを特徴とする上記(1)記載の直管形蛍光ランプ。
(3)前記電極のフィラメントよりも口金側であって前記ガラス管の長手方向と交差する面にセラミック板を備えたことを特徴とする上記(1)または(2)記載の直管形蛍光ランプ。
(4)前記ガラス管内面に設けられた蛍光体層と前記ガラス管内表面との間に金属酸化物で形成した保護膜を備えたことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の直管形蛍光ランプ。
(5)前記金属酸化物が、紫外線を遮断する酸化チタン、酸化セリウムおよび酸化亜鉛のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする上記(4)記載の直管形蛍光ランプ。
【0009】
また、本発明に係る照明器具は次のようなものである。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の直管形蛍光ランプと、前記直管形蛍光ランプを点灯させるための点灯装置とを備えたことを特徴とする照明器具。
(7)前記点灯装置が、前記直管形蛍光ランプを10kHz以上の高周波で点灯させることを特徴とする上記(6)記載の照明器具。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス管径を小さくしても発光効率および全光束の低下を抑制することができる直管形蛍光ランプを得ることができる。これにより本発明では、蛍光ランプの省資源化およびランプを装着する蛍光灯器具の省資源化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る直管形蛍光ランプの一実施例を示す全体図である。
【図2】(a)、(b)は、図1の直管形蛍光ランプの両端部の電極および口金の部分をそれぞれ示す図である。
【図3】本発明の実施例1の管壁負荷と発光効率の関係の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1および比較例1の管壁負荷とガラス管温度の関係の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の周囲温度と相対効率の関係の一例を示すグラフである。
【図6】比較例1の周囲温度と相対効率の関係の一例を示すグラフである。
【図7】本発明に係る直管形蛍光ランプを装着した照明器具の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係る直管形蛍光ランプの一実施例を示す全体図である。図2(a)、(b)は、図1の直管形蛍光ランプの両端部の電極および口金の部分をそれぞれ示す図である。直管形蛍光ランプ11において、発光管(ガラス管)1の内面表面には保護膜2が形成されており、保護膜2の上に蛍光体層3が形成されている。発光管1の両端には口金4,4’がそれぞれ接着されている。電極aは、ステムガラス5、排気管6、リード線7、フィラメント8、およびセラミック板9を備える。電極bは、ステムガラス5’、リード線7’、フィラメント8’、およびセラミック板9’を備える。また電極bには発光源である水銀を一定量含ませた水銀ディスペンサ10が具備されている。電極aと電極bではステムガラスの高さが異なっているため、蛍光ランプ口金端部からフィラメントまでの距離が両者異なっている。本実施例では蛍光ランプ端部からフィラメントまでの距離を異ならせるための手法として、ステムガラスの高さを変更しているが、ステムガラスの高さを変えずに、例えばリード線の長さを調整することで、フィラメントまでの距離を異ならせても良い。
【0013】
このように、直管形蛍光ランプ11は、フィラメント8を有する電極a、フィラメント8’を有する電極bと口金4,4’とをガラス管(発光管)1の両端部にそれぞれ備える。そして、発光管1内に封入される緩衝ガスはKrを主成分とし、NeおよびArのうちの少なくとも一方をKr以外の成分として含む。緩衝ガスとしてKrを主成分とする理由は、熱伝導率の低いKrを混合して同じ管壁負荷でも最冷点温度を低下させるためである。NeおよびArのうちの少なくとも一方をKr以外の成分として含ませる理由は、Krの比率が高くなるに従い、ランプを点灯させる時に必要な始動電圧が高くなっていくことと、周囲温度が低い環境で充分な明るさが得られなくなるなど、実使用には耐えられない性能になるため、これらを解決するためにはNe或いはArを混合した混合ガスとすることが必要であるからである。また、発光管1の外径寸法は14.0mm以上17.0mm以下である。外径寸法が14.0mm未満であると管径が小さすぎて発光効率の低下の抑制が困難であることと全光束を得るための蛍光体からの発光面積が小さくなり、必要な全光束が得られなくなってしまう。また、外径寸法が17.0mmを超えるとガラスを含む種々の材料の使用量低減が十分でなく、蛍光ランプの省資源化およびランプを装着する蛍光灯器具の省資源化への貢献度が小さくなってしまう。
【0014】
さらに、ランプ点灯中の管壁負荷は650W/m以上1000W/m以下ある。これは、ランプ全長が1198mmのとき、管壁負荷が650W/mではランプ電力32Wに相当し、900W/mではランプ電力45Wに相当するので、実用上のランプ電力を勘案して管壁負荷が650W/m以上1000W/m以下であるようにしたものである。また、電極a、bの口金4,4’端部からフィラメント8,8’までの距離は、好適には、電極aでは35mm以上、電極bでは30mm以下である。これは、最冷点の温度を所望の値まで低下させることを考慮して定めた範囲である。加えて、電極a、bのフィラメント8,8’よりも口金4,4’側であって発光管1の長手方向と交差する面にセラミック板9,9’を備える。セラミック板は点灯中の熱源となるフィラメントと最冷点の間に位置していることから、最冷点への直射熱を遮断する効果がある。発光管1内面に設けられた蛍光体層3と発光管1内表面との間には、金属酸化物で形成した保護膜2を備える。この金属酸化物は、好適には、紫外線を遮断する酸化チタン、酸化セリウムおよび酸化亜鉛のうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
図1に示した構造の蛍光ランプは以下の方法により製作した。ガラス管(発光管)は外径寸法が15.5mm、全長1194mmの直管ガラス管を用いた。初めに、直管ガラス管の内面を洗浄し、乾燥させた後、公知の方法にて、酸化アルミナを主成分とする保護膜、蛍光体を塗布乾燥させる。その後、保護膜、蛍光体層に含まれているバインダを公知の方法にて焼成する。焼成したガラス管の端部に付着している蛍光体を公知の方法にて拭き取りガラス管両端に電極を封止する。封止する寸法は口金を接着した後の全長寸法が1198mmとなるような寸法で封止した。封止する電極は図2(a)、(b)に示した、ステムガラスの高さが異なるものを用いる。口金端部からフィラメントまでの距離として、例えば電極aは40mm、電極bは24mmが望ましい。これらの電極は公知の方法により作成する。電極を封止した後、公知の方法にて、電極の活性化、ガラス管内を排気し、Kr66%−Ne34%で構成する緩衝ガスを267Pa封入、封止し、水銀ディスペンサにコーティングしている水銀を公知の方法にて、過熱放出させる。その後、口金を接着し蛍光ランプを作成する。
【0016】
完成した蛍光ランプは点灯用電源として、高周波電源等の装置を用い、安定器として無誘導抵抗器を用いることにより点灯可能である。管壁負荷の調整はランプ電流を調整することで可能であり、抵抗値を変化させて或いは入力電圧を変化させて行う。図7は、本発明に係る直管形蛍光ランプを装着した照明器具の一例を示す図である。照明器具10は、下面開放型直付箱型器具の例であり、複数の直管形蛍光ランプ11と、直管形蛍光ランプ11を点灯させるための点灯装置12とを備える。直管形蛍光ランプ11は器具本体13に装着される。点灯装置12は器具本体13に取り付けられており、直管形蛍光ランプ11を好適には10kHz以上の高周波で点灯させるものである。点灯周波数を10kHz以上とする理由は、点灯周波数を高周波にすることにより電極での損失が低減し、発光効率が向上するからである。
【0017】
本ランプを実施例1として高周波電源にて点灯し、周囲温度25℃での管壁負荷(W/m)とランプ発光効率(lm/W)の関係を測定した結果を図3に示す。管壁負荷が650W/mの時、ランプ電力は32.4Wであり、その時の全光束は3243lmであった。更に管壁負荷を増大させ、900W/mとした時にはランプ電力は45.3Wとなり、全光束4488lmが得られた。管壁負荷の変化に対し、ランプ発光効率はほぼ横ばいで大きな変動はない。このことは、ランプ電力が増加するのに比例して、全光束がほぼ同じ割合で増加していることを示している。また、周囲温度25℃での管壁負荷と最冷点温度(ガラス管温度)の関係を図4に示す。実施例1における最冷点は、図2(a)の電極aにおける口金4に隣接する発光管(ガラス管)1の部分にある。最冷点温度は管壁負荷の増加に伴い上昇している。比較例1は、実施例1のランプと緩衝ガス組成のみ異なるもので、緩衝ガスとしてAr100%の組成を用いている。実施例1のランプを、緩衝ガス組成をAr100%とした比較例1のランプにおける最冷点温度と比較してみると、実施例1のランプの方が比較例1のランプに比べ約4℃低下していることがわかった。これは緩衝ガスとして熱伝導率が低いKrを含む混合ガスを用いた効果であり、熱伝導率の低いKrを混合したことにより、同じ管壁負荷でも最冷点温度が低下したと考える。また、異なる電極高さにする効果として、電極高さが低い側のガラス管温度は最冷点温度と比較して、11.4℃も高くなることがわかった。従って、最冷点の温度を低下させるためには、緩衝ガス組成として、Krを主成分とする混合ガスを使用することと異なる電極高さにすることが有効であることが確認できた。
【0018】
また、実施例1のランプで周囲温度を変化させた時の発光効率を図5に示す。比較例1のランプの周囲温度特性を図6に示す。発光効率(相対効率)のピーク温度は、それぞれ40℃と35℃となっており、緩衝ガス組成による最冷点温度が約4℃低下したのに相当するピーク温度のシフトが確認できた。実施例1のランプの方は、発光効率がピークとなる周囲温度(40℃)で、108lm/Wの効率となり、4937lmの全光束が得られる。
【0019】
以上のように、ガラス管径を小さくすることで、発光効率を低下させずに省資源化を図るためには、ガラス管径が小さくなることによる、最冷点温度の上昇を抑える必要があり、解決方法として、緩衝ガス組成としてKrを含む混合ガスを用い、異なる高さの電極を用いることが有効であることがわかった。更に管壁負荷が650W/mはランプ電力32Wに相当し、900W/mは45Wに相当する。管壁負荷が900W/mで周囲温度40℃の時の明るさは約4950lmとなり、FHF32の高出力点灯時の明るさとほぼ同等となる。
【0020】
周囲温度40℃の状態は図7に示したような下面開放の箱型状照明器具でランプを点灯した場合のランプの周囲温度に相当する。従って、実施例1のランプは器具に装着したときに最適な効率を引き出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
全光束および発光効率を低下させずに蛍光ランプの仕様材料を低減できることから、現在使用しているFHF32と比較すると廃棄物の量を格段に低減することができる。また、ランプ材料だけではなく、照明器具の省資源化も実現できるため、環境に配慮した製品として、提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 発光管
2 保護膜
3 蛍光体層
4 口金
5 ステムガラス
6 排気管
7 リード線
8 フィラメント
9 セラミック板
10 水銀ディスペンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントを有する電極と口金とをガラス管両端部にそれぞれ備えた直管形蛍光ランプであって、前記ガラス管内に封入される緩衝ガスがKrを主成分とし、NeおよびArのうちの少なくとも一方をKr以外の成分として含み、且つ、前記ガラス管の外径寸法が14.0mm以上17.0mm以下であり、ランプ点灯中の管壁負荷が650W/m以上1000W/m以下であることを特徴とする直管形蛍光ランプ。
【請求項2】
前記電極の口金端部からフィラメントまでの距離が、一方の電極では35mm以上、他方の電極では30mm以下であることを特徴とする請求項1記載の直管形蛍光ランプ。
【請求項3】
前記電極のフィラメントよりも口金側であって前記ガラス管の長手方向と交差する面にセラミック板を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の直管形蛍光ランプ。
【請求項4】
前記ガラス管内面に設けられた蛍光体層と前記ガラス管内表面との間に金属酸化物で形成した保護膜を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の直管形蛍光ランプ。
【請求項5】
前記金属酸化物が、紫外線を遮断する酸化チタン、酸化セリウムおよび酸化亜鉛のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4記載の直管形蛍光ランプ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の直管形蛍光ランプと、前記直管形蛍光ランプを点灯させるための点灯装置とを備えたことを特徴とする照明器具。
【請求項7】
前記点灯装置が、前記直管形蛍光ランプを10kHz以上の高周波で点灯させることを特徴とする請求項6記載の照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−186604(P2010−186604A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28920(P2009−28920)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000005474)日立ライティング株式会社 (130)
【Fターム(参考)】