説明

血小板由来成長因子(PDGF)−BB産生亢進剤、及びそれを含む幹細胞安定化剤

【課題】間葉系幹細胞の産生促進や幹細胞の安定化に寄与する血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)の産生亢進剤、および該産生亢進剤を含有する幹細胞安定化剤の提供。
【解決手段】トウダイグサ科エンブリカ属に属する落葉中低木亜高木であるアムラ抽出物及びツツジ科スノキ属の常緑小低木であるリンゴンベリー抽出物(通称:コケモモ)の少なくともいずれかを有効成分として含んでなるPDGF−BB産生亢進剤、および該産生亢進剤を含有する幹細胞安定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)産生亢進剤、及び、当該PDGF−BB産生亢進剤を含んでなる幹細胞安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、複数の細胞に分化した細胞を産生する多分化能と、細胞分裂によりその細胞と同じ細胞を産生する自己複製能という2つの性質を併せ持つ細胞である。受精卵の初期の発生段階である胚に由来する幹細胞は胚性幹細胞(ES細胞)と称される。ヒトES細胞は再生医療に使用することが期待されているものの、受精卵を利用するという倫理上の問題から、新たなヒトES細胞の作成は認められていない。
【0003】
近年、ES細胞類似の性質を持つ細胞として、人工多能性幹細胞(iPS細胞)にも注目が集まっている。しかしながら、iPS細胞の作成には細胞の癌化、作成効率等の観点で多くの問題がある。一方、特定の組織に分化する能力を有する体性幹細胞は、患者自身の身体の組織、例えば骨髄から得られるため、胚性幹細胞のような倫理上の問題はない。
【0004】
皮膚では表皮基底層に表皮幹細胞(非特許文献1)が存在することが良く知られており、また毛包のバルジ領域と呼ばれる領域には、毛包上皮幹細胞(非特許文献2)や皮膚色素幹細胞(非特許文献3)が存在することが報告されている。一方、真皮にはコラーゲンを主体とする繊維成分の中に、細長い紡錘形をした線維芽細胞が存在しているが、真皮の線維芽細胞に幹細胞が存在するかは明らかにされていない。また、真皮には脂肪、グリア、軟骨、筋肉など複数の細胞系列に分化する皮膚由来前駆細胞(skin-derived precursors:SKP)が存在すること(非特許文献4)は知られているものの、真皮線維芽細胞とSKPの関連は明らかではない。
【0005】
線維芽細胞の前駆細胞として骨髄から分離された間葉系幹細胞(非特許文献5)は、間葉系に属するさまざまな細胞(骨細胞、筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)に分化することから、骨や血管、筋の再構築など再生医療への応用が期待されている。最近では、間葉系組織を持つ組織の多くに存在する可能性が明らかになってきており、脂肪や臍帯血、胎盤等からも間葉系幹細胞が単離されている(非特許文献6〜8)。
【0006】
近年の知見によれば、間葉系幹細胞は、血管周皮細胞(ぺリサイト)として全身の血管に存在し、血管安定化や組織恒常性維持に働くことが知られている(非特許文献9及び10)。
また、組織損傷部位又はその近傍において血管が破壊されると、血管周皮細胞(ぺリサイト)である間葉系幹細胞は血管から離れて増殖し、失われた細胞を供給するとともに(非特許文献11〜14)、生物活性を持つ因子を放出して組織を保護し(非特許文献15〜19)、損傷した組織の修復・再生に作用する。これらの分泌因子は、血管形成や抗アポトーシスの作用のほか、免疫を強力に抑制する作用も有し(非特許文献21及び22)、T細胞やB細胞を介した損傷組織の破壊を抑える(非特許文献9及び22)ことも報告されている。
更に、間葉系幹細胞は、抗線維化の作用(非特許文献23及び24)や、多発性硬化症や糖尿病に対する効果(非特許文献9)も示すことが知られている。
【0007】
一方で、慢性炎症が、各種疾患(例えばメタボリックシンドローム、動脈硬化性疾患、癌、神経変性疾患、自己免疫疾患等)に共通する基盤病態であることが明らかになりつつある(非特許文献25)。例えば、慢性炎症によって内皮細胞機能障害やインスリン抵抗性が誘導され、糖尿病や動脈硬化性疾患等の種々の疾患の原因となることが報告されている(非特許文献26)。更には、肥満の脂肪組織そのものが、炎症性へと変化をきたすことも明らかになってきた(非特許文献27〜29)。慢性炎症は血管周囲に生じるため、慢性炎症においても、血管周皮細胞(ぺリサイト)である間葉系幹細胞と血管との相互作用の破綻が生じていると考えられる。
【0008】
以上の知見から、間葉系幹細胞の産生促進や安定化を図ることができれば、血管安定化、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、多発性硬化症や糖尿病等の各種疾患の予防・治療、メタボリックシンドローム等の各種状態の予防・改善等、各種の用途に極めて有効であると考えられる。
【0009】
本発明者等は、真皮にも間葉系幹細胞が存在することを報告し、真皮から効率よく間葉系幹細胞を単離する方法を確立した(特願2009−213291)。上述の間葉系幹細胞の作用を考慮すれば、真皮における間葉系幹細胞の安定化や産生亢進を図ることにより、真皮の状態改善や再生等にも有効であると考えられる。
【0010】
更に、本発明者等は、真皮や皮下脂肪において間葉系幹細胞の存在する部位をより詳細に明らかにするとともに、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF−BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010−209705)。
【0011】
血小板由来成長因子(PDGF)は、線維芽細胞、平滑筋細胞、グリア細胞等といった間葉系幹細胞の遊走及び増殖等の調節に関与する増殖因子であり、上皮細胞や内皮細胞等の様々な細胞によって産生される。PDGFにはPDGF−A、B、C及びDの少なくとも4種類が存在するが、A鎖及びB鎖はジスルフィド結合を形成することによりホモあるいはヘテロ2量体構造をとり3種類のアイソフォーム(PDGF−AA、AB、BB)を有している。PDGFはチロシンキナーゼ関連型であるPDGF受容体(PDGFR)を介してその生理作用を発現することが知られている。PDGF−Bの遺伝子は公知であり、遺伝子クローニングされている(非特許文献30)。
【0012】
斯かるPDGF−BBの産生亢進に有効な成分を見出すことができれば、これを用いて間葉系幹細胞の産生促進や幹細胞の安定化を図ることができ、ひいては上記の各種用途等に有効に使用できるものと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Watt FM, J Dermatol Sci, 28:173-180, 2002
【非特許文献2】Cotsarelis G et al., Cell, 57:201-209, 1989
【非特許文献3】Nishimura EK et al., Nature, 416:854-860, 2002
【非特許文献4】Wong CE al., J Cell Biol, 175:1005-1015, 2006
【非特許文献5】Pittenger MF et al., Science, 284:143-147, 1999
【非特許文献6】Park KW et al., Cell Metab, 8:454-457, 2008
【非特許文献7】Flynn A et al., Cytotherapy, 9:717-726, 2007
【非特許文献8】Igura K et al., Cytotherapy, 6:543-553, 2004
【非特許文献9】da Silva Meirelles L et al., Stem Cells, 2008 Sep;26(9):2287-2299
【非特許文献10】da Silva Meirelles L et al., J Cell Sci, 2006;119:2204-2213
【非特許文献11】Dai WD et al., Circulation, 2005;112:214-223
【非特許文献12】Fazel S et al., J Thorac Cardiovasc Surg, 2005;130:1310-1318
【非特許文献13】Noiseux N et al., Mol Ther, 2006;14:840-850
【非特許文献14】Zhao LR et al., Exp Neurol, 2002;174:11-20
【非特許文献15】Gnecchi M et al., Nat Med, 2005; 11:367-368
【非特許文献16】Kinnaird T et al., Circ Res, 2004;94:678-685
【非特許文献17】Kinnaird T et al., Circulation, 2004;109:1543-1549
【非特許文献18】Tang YL et al., Ann Thorac Surg, 2005;80:229-237
【非特許文献19】Zhang M et al., FASEB J, 2007;21:3197-3207
【非特許文献20】Le Blanc K et al., J Intern Med, 2007;262:509-525
【非特許文献21】Uccelli A et al., Trends Immunol, 2007;28:219-226
【非特許文献22】Caplan AI et al., J Cell Biochem, 2006;98:1076-1084
【非特許文献23】Fang BJ et al., Transplantation, 2004;78:83-88
【非特許文献24】Ortiz LA et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2003;100:8407-841
【非特許文献25】小川佳宏, 実験医学, 28:1680-1687, 2010
【非特許文献26】Medzhitov R, Nature, 454:428-35, 2008
【非特許文献27】Hotamisligil GS, Nature, 444(7121):860-7, 2006
【非特許文献28】Wellen KE et al., J Clin Invest, 115(5):1111-9, 2005
【非特許文献29】菅波孝祥他, 実験医学, 28:1717-1723, 2010
【非特許文献30】Dalla-Favera R et al., Nature, 292:31-35, 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたもので、その課題は、PDGF−BBの産生亢進に有効な剤を提供すると共に、これを用いて、間葉系幹細胞の産生促進及び/又はその安定化に有効な剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、多種多様な素材について検討を重ね、PDGF−BBの産生を亢進させる薬剤をスクリーニングした結果、アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物が、各々顕著なPDGF−BB産生亢進作用を示すことを見出し、本発明を為すに至った。
【0016】
したがって、本願は下記の発明を包含する:
[1]アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含んでなる血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)産生亢進剤。
[2][1]に記載のPDGF−BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、PDGF−BBの産生亢進に有効な剤が提供されるとともに、これを用いることにより、幹細胞の安定化等に有効な剤も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[アムラ抽出物]
アムラ(学名:Phyllanthus emblica又はEmblica officinalis)は、トウダイグサ科エンブリカ属に属する落葉中低木亜高木である。本発明に用いられるアムラの抽出物としては、アムラの果実(果肉や果皮)の抽出物が最も好ましいが、アムラの種、葉、茎、花、根等にも有効成分が含まれているので、これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。
【0019】
アムラからの有効成分の抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、アムラをそのまま使用することもできるが、顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく、アムラの粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、アムラの粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0020】
溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水、エタノール等の低級アルコール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって、果実の細胞組織を崩壊させることができ、これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては、細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
このような抽出操作により、アムラから有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0022】
なお、アムラの抽出物は、太陽化学株式会社、株式会社モナ、バイオアクティブズジャパン株式会社、株式会社サビンサジャパンコーポレーション、日本新薬株式会社等から市販されており、これらを用いることもできる。また、アムラを圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので、抽出物の代わりにアムラの圧搾液を使用することもできる。
【0023】
アムラは、これまで、細胞増殖剤・糖化抑制成分(特開2010−178627)及びヒアルロン酸産生促進成分(特開2010−229111)として用いられた例はあるが、アムラ抽出物にPDGF−BB産生促進作用及び幹細胞安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者等によって今回初めて見出された。
【0024】
[リンゴンベリー抽出物]
リンゴンベリー(通称コケモモ、学名:Vaccinium vitis-idaea L)は、ツツジ科スノキ属の常緑小低木である。本発明に用いられるリンゴンベリーの抽出物としては、リンゴンベリーの果実(果肉や果皮)の抽出物が最も好ましいが、リンゴンベリーの種、葉、茎、花、根等にも有効成分が含まれているので、これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。
【0025】
リンゴンベリーからの有効成分の抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、リンゴンベリーをそのまま使用することもできるが、顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく、リンゴンベリーの粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、リンゴンベリーの粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0026】
溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水、エタノール等の低級アルコール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって、果実の細胞組織を崩壊させることができ、これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては、細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
このような抽出操作により、リンゴンベリーから有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0028】
なお、リンゴンベリーの抽出物は、オリザ油化株式会社、BGG Japan 株式会社、DKSHジャパン株式会社等から市販されており、これらを用いることもできる。また、リンゴンベリーを圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので、抽出物の代わりにリンゴンベリーの圧搾液を使用することもできる。
【0029】
リンゴンベリーは、これまで、美白・抗炎症美容成分(オリザ油化株式会社リンゴンベリーエキスJ等)として用いられた例はあるが、アムラ抽出物にPDGF−BB産生促進作用及び幹細胞安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者等によって今回初めて見出された。
【0030】
[PDGF−BB産生亢進剤及び幹細胞安定化剤]
本発明のPDGF−BB産生亢進剤は、アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含有する。また、本発明の幹細胞安定化剤は、上記の有効成分を含む本発明のPDGF−BB産生亢進剤を含有する。本発明のPDGF−BB産生亢進剤及び幹細胞安定化剤(以降これらを総称して「本発明の剤」という場合がある。)は、上記の有効成分の何れか1種を単独で含有してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有してもよい。
【0031】
本発明の剤は、上記の有効成分を、1種又は2種以上の他の成分、例えば賦形剤、担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり、有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。
【0032】
本発明の剤は、各種の飲食品、飼料(ペットフード等)に配合してヒト及び動物に摂取させることができる。また、化粧品等に配合してヒト及び動物に使用し、或いは医薬製剤としてヒト及び動物に投与してもよい。
【0033】
具体的に、本発明のPDGF−BB産生亢進剤を飲食品や飼料等に配合する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法等に応じて適宜決めることができる。例えば、成人一日当たり植物又はその抽出物の摂取量が、アムラ抽出物では0.5mg〜1g(乾燥残分)、リンゴンベリー抽出物では0.5mg〜3g程度になるように配合できる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分による所定の効果が十分発揮されるように、成人一日当たり、アムラ抽出物では10mg〜500mg(乾燥残分)、リンゴンベリー抽出物では10mg〜1.5g(乾燥残分)となるように含有させることが好ましい。
【0034】
飲食品や飼料の形態としては、任意の形態とすることが可能であり、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状に成形することができる。これらの形態には、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜含有させることができる。
【0035】
本発明を化粧品に適用する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、化粧料全量中に、アムラ抽出物、リンゴンベリー抽出物それぞれ0.00001%〜50%(乾燥質量換算)を配合でき、中でも0.0001%〜5%(乾燥質量換算)が好ましい。
【0036】
上記成分に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0037】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体又はその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0038】
また、この皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能である。その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0039】
本発明の剤を化粧品として用いる場合は、化粧水、乳液、ファンデーション、口紅、リップクリーム、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、パック、ハンドクリーム、ハンドパウダー、ボディシャンプー、ボディローション、ボディクリーム、浴用化粧品等の形態として用いるのが好ましく、この際、これらの形態とする際に通常添加・配合される成分、例えば保湿剤、香料、可溶化剤、安定化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等の成分も適宜配合することができる。
【0040】
本発明の剤を外用剤として適用する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、化粧料全量中に0.00001%〜50%(乾燥質量換算)が好ましく、その他の飲食品では0.0001%〜5%(乾燥質量換算)が好ましい。
【0041】
本発明の剤を医薬部外品として用いる場合であれば、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、又は、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【0042】
外用剤であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用することが可能であるが、ローション剤、懸濁剤・乳剤、液剤、軟膏剤、貼付剤等の形体として用いるのが好ましい。なお、本発明の剤の採り得る形態が、これらの剤型及び形態に限定されるものではない。
【0043】
本発明の剤を投与した際の間葉系幹細胞中のPDGF−BB遺伝子の発現は、例えばPDGF−BBの量を測定することにより発現量を決定し、評価することができる。好ましくは、この測定は、PDGF−BBに特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素等を利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法等、様々な方法により実施できる。また、例えば、間葉系幹細胞中の総RNAを抽出し、PDGF−BをコードするmRNAの量を測定することにより決定して評価することもできる。mRNAの抽出、その量の測定も当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、例えばリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により行われる。RT−PCRに適切なプライマーの選定は、当業者に周知の方法により実施することができる。
【実施例】
【0044】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0045】
[評価対象サンプル]
PDGF−BBの産生亢進作用の評価対象サンプルとして以下を用いた。
【0046】
・アムラ抽出物:
太陽化学株式会社より市販されているアムラ抽出物(商品名:サンアムラ)を用いた。抽出物は乾燥した状態で冷蔵庫に保存し、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)1.8ppmとなるように使用した。
【0047】
・リンゴンベリー抽出物:
オリザ油化株式会社より市販されているリンゴンベリー抽出物(商品名:リンゴンベリーP0.5)を用いた。抽出物は乾燥した状態で冷蔵庫に保存し、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)15ppmとなるように使用した。
【0048】
[血管内皮細胞におけるPDGF−BBの産生亢進作用の評価]
ヒト血管内皮細胞HUVECをEGM-2培地(三光純薬)で継代培養し、継代4代目の細胞を、VEGF−Aを含まないHumedia-EG2培地(クラボウ)に懸濁して、コラーゲンコート24穴マルチプレート(旭硝子)に20,000個の割合で播種し、5%CO存在下、37℃で細胞が集密に達するまで3〜5日間の培養を行った。上記の各サンプルを上記濃度となるように添加、又は無添加のHumedia-EG2培地(クラボウ)に交換した後、さらに2日間培養を行った。培養後の細胞からRNA抽出試薬MagNA Pure LC mRNA HSキット(Roche)と自動核酸抽出装置MagNA Pure LC 1.0 インスツルメント(Roche)を用いて、提供されたプロトコールに従ってmRNAの抽出・精製を行った。各サンプルについて、同容量のmRNAを鋳型に、後述の配列番号1及び2のプライマーペア、反応試薬QuantiFast SYBR Green RT-PCR Kit(Qiagen)と反応装置LightCycler(Roche)を用いて、PDGF−B遺伝子のワンステップ定量リアルタイム(RT)−PCRを行った。組成条件はQiagenのプロトコールに従った。また、RT−PCRの条件は、RT反応50℃で20分、初期変性95℃で15分、変性94℃で15秒、アニール60℃で20秒、伸長72℃で30秒とした。なお、G3PDHは内部標準として用い(配列番号3及び4のプライマーペア)、これを用いて対照群のmRNA量を補正した。
【0049】
PDGF−B:
フォワードプライマー:5'-CCTGGCATGCAAGTGTGA-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-CCAATGGTCACCCGATTT-3'(配列番号2)
G3PDH:
フォワードプライマー:5'-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3'(配列番号4)
【0050】
[評価結果]
上記評価手順に従い、上記各サンプルについて得られたPDGF−BBのmRNAの発現量の、対照(DMSO)(サンプル無添加)について得られた発現量に対する比を、以下の表に示す。以下の結果から、これらの成分はPDGF−BB発現を亢進させる活性を有することが分かる。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含んでなる血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)産生亢進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のPDGF−BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。

【公開番号】特開2013−1669(P2013−1669A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133343(P2011−133343)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】