説明

血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤およびその吸着剤を充填したモジュール並びにそのモジュールを用いた血液あるいは血漿の浄化方法

【課題】血液または血漿中のビリルビン等の病原性蛋白を効率的に除去吸着する吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明の吸着剤は、血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物を含む。チタン酸化物が正の表面電荷を保持するように、チタン酸化物の等電点を少なくとも7.5とする。チタン酸化物の等電点は、比較的高い等電点を持つ金属酸化物や金属水酸化物を担持させる、表面をアルカリ溶液で処理する等の手段により制御可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤に関し、より詳細には、血液中のビリルビン等の病原性蛋白あるいは血液から有形成分を分離した血漿中のビリルビン等の病原性蛋白を効率的に吸着除去する吸着剤に関する。さらには、その吸着剤を充填したモジュール並びにそのモジュールを用いた血液あるいは血漿の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で老化した赤血球は肝臓および脾臓の網内系細胞で破壊され、血球内のヘモグロビンは遊離ビリルビン(ヘモビリルビン)に変化する。この遊離ビリルビン(以下、間接ビリルビンと称する場合がある)は脂溶性であり、これが血液中に増加すると、脳細胞の核にある脂質に溶解しながら沈着し神経毒を発揮して核黄疸を発症する。ヒト体内では、この遊離ビリルビンにアルブミンや一部のα2−グロブリンが結合し血液に乗って肝臓に運ばれ、無毒化が図られる。すなわち、肝臓中で肝臓酵素の一つであるグルクロン酸転化酵素の作用によって遊離ビリルビンはウリジンジホスフェートグルクロン酸(UDPGA)からグルクロン酸(GA)を受け取り肝臓細胞内でミクロソーム分割中の滑面小胞体に含まれるビリルビンUDPグルクロニルトランスフェラーゼによってグルクロン酸抱合を受け、ビリルビングルクロニド(抱合ビリルビンの一種であり、抱合ビリルビンを以下、直接ビリルビンと称する場合がある)となり水溶性に変わる(無毒化)。一般に1分子のビリルビンに2分子のグルクロン酸が結合してビリルビンジグルクロニド(抱合ビリルビン、直接ビリルビン)となり、これはさらに肝細胞から胆管、十二指腸管内に排出され、健常者の血液中の総ビリルビン濃度(間接ビリルビンと直接ビリルビンとの総和)は食事、筋肉労働などによる変動はあるもののほぼ一定の濃度範囲に保たれている。しかし、肝実質障害や胆管閉塞などによって、十二指腸管への排出が阻害されると、血液中の総ビリルビン濃度が上昇し、黄疸症状を呈して高ビリルビン血症を発症し、意識障害から傾眠、さらには昏睡状態となり、乏尿から無尿に進行する腎障害を併発することも稀ではない。
【0003】
このような症状に対する当初の血液浄化法としては、活性炭による直接血液吸着法(Direct hemoperfusion)が施行されたが、直接ビリルビンは除去されるものの間接ビリルビンの除去が不充分であり、治療効果を充分に上げることができなかった。
【0004】
その後、血液遠心法(へモネティック社)、膜、例えば中空膜による血漿分離法によって、血液を有形成分と血漿に容易に分離する方法が確立された。これに伴って、血小板に対しては刺激性(凝固促進作用)があっても、分離された血漿からビリルビンを効率的に除去でき、血漿の凝固−線溶系に対してはそれ程影響しない吸着剤の探索が続けられている。そのような中で、遊離ビリルビンの分子内の2個のカルボン酸に対してアニオン性吸着剤が有効であろうという概念に基づき、現在、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体に活性点として、アミノ基(NH2)、第4級アンモニウム基(N+・(CH33・Cl)などを持つアニオン性イオン交換樹脂が臨床使用されている。しかし、このようなイオン交換樹脂も血漿に対して適合性は不十分であり、それを改良するためにポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(PHEMA)など血液適合性高分子物質でコーティングすることによって前記不都合を改良する方法が採用されている(特開昭63−275351号公報、中路修平ほか)。しかし該処理は、ビリルビンの除去に寄与するイオン交換樹脂の細孔容積や表面積の減少という不都合を招く。また、水中でのイオン交換樹脂は機械的強度も充分ではなく、使用中に破砕されるという不都合が生ずる場合がある。更に、臨床使用する際の必須条件である滅菌処理に高圧蒸気滅菌法以外を採用することができず、しかも該滅菌条件(130℃、10分間)に対する耐性も充分ではない。
【0005】
そこで、本発明者らは先に、上述したイオン交換樹脂の欠点を克服し、前記活性炭を用いたビリルビン除去による治療法に対しても改善特性を持つ吸着剤として特定の物性を有する二酸化チタンを提案した(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−245973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献1には、300〜600℃で焼成することによって得られた二酸化チタンが比表面積20〜80m/g、平均細孔径150〜200Å、pHの値が6〜7.5などの物性を持ち、ビリルビン、特に直接ビリルビンに対して高い吸着性能を有すること、及びヒト新鮮血漿に接触させた際の凝固特性が、接触させない場合(ブランク)と実質的に変わりがなく、二酸化チタンが血漿に対して適合性を有することが記載されているが、間接ビリルビンの吸着性能が十分ではなくさらなる改善が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、二酸化チタンの間接ビリルビン吸着性能を改善するために、二酸化チタンの表面電荷に着目し、通常の二酸化チタンの等電点が水中において5〜6程度であるのに対して、例えば酸化アルミニウムなどを担持させて二酸化チタンの等電点を7.5以上に制御することができ、実際に使用する血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有させて、そのため間接ビリルビンを吸着しやすくできることなどを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物を含むことを特徴とする血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着剤は、優れた間接ビリルビンの吸着性能を有することから、血液あるいは血漿中のビリルビン等の病原性蛋白の吸着除去に有用である。また、本発明の吸着剤は、血液あるいは血漿に対する適合性を有し、機械的強度、滅菌処理の耐性も充分にあることから、直接血液吸着法による血液の浄化に適しており、血漿分離法で得られた血漿の浄化にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤は、血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物を含むことが重要であり、正の電荷を保持することにより間接ビリルビンがチタン酸化物の粒子表面に速やかに吸着する。
血液あるいは血漿中においてチタン酸化物が正の表面電荷を保持するためには、水中でのチタン酸化物の等電点が血液、血漿のpHより高いことが必要である。血液、血漿のpHは通常7.4であることから、チタン酸化物の等電点が少なくとも7.5程度あれば血液あるいは血漿中において正の表面電荷を保持することができ、少なくとも7.8程度であれば間接ビリルビンの吸着量が増加するため好ましく、少なくとも8.0程度がより好ましく、少なくとも8.5程度がさらに好ましい。等電点の上限値は特に制限されないが、理論的な上限値である14程度の高い等電点を要求されない場合が多く、そのため等電点の上限値は13程度が好ましく、12程度がより好ましく、11程度がさらに好ましい。等電点は、チタン酸化物を水中に分散させた分散液のゼータ電位が0となるpHをいい、ゼータ電位測定器(例えば大塚電子株式会社製(ELS-6000))を用いて通常の方法で測定することができる。
【0011】
本発明のチタン酸化物とは、二酸化チタンのほかに、二酸化チタンの水和物である水和二酸化チタン、含水二酸化チタン、メタチタン酸、βチタン酸と称されるものを含み、チタンの水酸化物である水酸化チタン、オルソチタン酸、αチタン酸と称されるものを含む。それらはチタン原子と酸素原子等の化合物群であり、組成上は類似しているので通常一群の化合物として取り扱われるものである。このチタン酸化物はX線的に見て、アナタース型結晶、ルチル型結晶またはブルッカイト型結晶を含んでいてもよく、X線回折では明確なピークを有さないアモルファス状のチタン酸化物が含まれていてもよい。
通常のチタン酸化物は水中での等電点が5〜6程度であり、血液、血漿のpHが7.4程度であることから、通常、血液あるいは血漿中において負に帯電している。本発明の血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物は、チタン酸化物の粒子表面に、比較的高い等電点を持つ金属酸化物や金属水酸化物を担持させることにより、あるいはチタン酸化物の表面をアルカリ溶液で処理することなどにより、チタン酸化物の等電点を上記範囲に制御したものである。
【0012】
チタン酸化物の粒子表面に担持する金属酸化物や金属水酸化物について、金属酸化物の等電点は従来から調べられており、また、チタン酸化物の粒子表面に担持してチタン酸化物の表面電荷を制御することも知られており、このような文献、技術を参照して担持物、担持方法を適宜選択することができる(酸化チタン−物性と応用技術、清野学著、技報堂出版株式会社、1991年発行、60頁−62頁、225頁−228頁;Journal of Coatings Technology,Vol.61,No.776,P57-P63,9月,1989;色材,40(1967),P163-P166;USP3,015,573;3,076,719)。例えば酸化アルミニウムの等電点は8〜9、酸化亜鉛が9、酸化マグネシウムが10であり、それらの水酸化物も同程度と考えられることから、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物及び/又は金属水酸化物を好ましく用いることができる。一方、酸化ケイ素の等電点は2〜3程度、酸化スズが5であることから、これらの金属酸化物は使用に適さないが、担持方法によって等電点が変化し、その結果、チタン酸化物の表面電荷が適した範囲に変化することもある。このため、実際にチタン酸化物の粒子表面に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を担持し、その等電点を測定して適否を判断する必要がある。金属酸化物には、金属酸化物のほかに金属酸化物の水和物である水和金属酸化物、含水金属酸化物が含まれる。
【0013】
金属酸化物及び/又は金属水酸化物の担持によって、チタン酸化物の表面電荷を制御し等電点を適切な範囲にすることができるほかに、担持した金属酸化物や金属水酸化物も間接ビリルビン等の病原性蛋白を吸着する性能を有し補助的な吸着効果を持つ場合もある。その担持量は、所望の等電点に調整できる程度の量を適宜設定することができ、例えばチタン酸化物に対して0.1〜40重量%程度とすることができ、好ましくは1.0〜35重量%程度、より好ましくは5.0〜30重量%程度である。担持量が40重量%より多いとチタン酸化物の表面が金属酸化物等の担持物で覆われてしまい、吸着活性点が少なくなるため好ましくなく、0.1重量%より少ないと表面電荷の制御が充分でなくなるため好ましくない。
【0014】
本発明において、使用するチタン酸化物の好ましい実施態様としては、熱安定性に優れ、生体組織への安全性や生体適合性がよいルチル型二酸化チタン結晶がより多く含まれるのが好ましく、チタン酸化物自体(担持した金属酸化物、金属水酸化物を除いたチタン酸化物)に対してより好ましくは少なくとも50重量%、さらに好ましくは少なくとも60重量%程度、さらに好ましくは少なくとも70重量%程度、最も好ましくは少なくとも90重量%程度のほぼすべてがルチル型結晶の二酸化チタンである。ルチル型二酸化チタン結晶以外には、アナタース型結晶、ブルッカイト型結晶やX線回折では明確なピークを有さないアモルファス状の二酸化チタンが含まれていてもよい。ルチル型、アナタース型、ブルッカイト型の結晶のそれぞれの含有量はX線回折によって求めることができる。
また、間接ビリルビンの吸着性能ならびに直接ビリルビンの吸着性能が高いことから、使用するチタン酸化物はその比表面積が大きいものが好ましく、さらに、チタン酸化物の粒子表面に金属酸化物や金属水酸化物を担持した状態においても比表面積が大きいものが好ましく、それらは10〜250m/g程度の範囲がより好ましく、15〜150m/g程度がさらに好ましい。比表面積はBET法により測定する。また、平均細孔径は特開2001−245973号公報に記載のように150〜200Å程度であれば充分好ましい。
【0015】
本発明で用いるチタン酸化物は公知の方法で得られたものを使用できる。具体的には、(1)硫酸チタン、硫酸チタニル、塩化チタン、硝酸チタンなどの無機チタン化合物やチタンアルコキシド、チタン酸エステルなどの有機チタン化合物を加水分解あるいは中和する方法、(2)前記の(1)の方法で得られた生成物の懸濁液を40〜250℃程度の温度範囲で加熱する方法、この場合、沸点以上で行うにはオートクレーブの耐圧装置で行う水熱処理がよい、(3)前記の(1)、(2)で得られた生成物を150〜900℃程度の温度範囲で焼成する方法が挙げられる。さらには、市販されている硫酸法、塩素法で得られた二酸化チタン顔料や湿式加水分解法、火炎加水分解法などで得られた超微粒子二酸化チタンなどを用いることもできる。
【0016】
チタン酸化物の粒子表面に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を担持するには、公知のチタン酸化物の表面処理技術を用いることができる。具体的には、チタン酸化物の懸濁液に担持物となる成分を添加し、中和あるいは加水分解して沈殿させる方法を用いることができる。このようにして得られた生成物を必要に応じてろ過し、洗浄し、80〜150℃程度の温度で乾燥してもよい。また、中和あるいは加水分解して得られた生成物の懸濁液を必要に応じて40〜250℃程度の温度範囲で加熱してもよく、あるいは、生成物を必要に応じて150〜900℃程度の温度範囲で焼成してもよい。
このようにして担持処理したチタン酸化物を製造した後は、必要に応じて公知の方法により、乾式粉砕を行ってもよい。乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機や、噴霧乾燥機等の機器を用いることができる。
さらには、市販されている硫酸法、塩素法で得られた二酸化チタン顔料や湿式加水分解法、火炎加水分解法などで得られた超微粒子二酸化チタンなどのうち、表面処理剤等により等電点が適したものを用いてもよい。
【0017】
一方、チタン酸化物の表面電荷を制御する別の方法として、チタン酸化物の表面をアルカリ溶液で処理する方法が挙げられる。具体的にはチタン酸化物の懸濁液にアルカリ溶液を添加し、撹拌した後、ろ過し、80〜150℃程度の温度で乾燥する。撹拌の際には必要に応じて40〜250℃程度の温度範囲で加熱してもよく、乾燥した後必要に応じて150〜900℃程度の温度範囲で焼成してもよい。前記のアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等が挙げられ、これらの少なくとも一種を用いることができる。
【0018】
血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物を吸着剤として用いるには、前記の吸着剤をモジュールに充填し、そのモジュールの上部側もしくは下部側から血液や血漿を送液してモジュールを通過する間に血液や血漿中のビリルビン等の病原性蛋白を吸着除去する。具体的には、チタン酸化物を適当な大きさに造粒、成形したもの、さらには、ガラスビーズやポリマー粒子の上にチタン酸化物を固定したものをモジュールに充填して用いることができる。チタン酸化物の造粒、成形には転動造粒機、押し出し成形機など公知の造粒機、成形機を用いることができ、形状は造粒機等に応じて任意の形とすることができる。その大きさはモジュールの規模に応じて適宜設定することができ、約0.5〜5mm程度が適当である。造粒物、成形物にはチタン酸化物のほかにバインダ成分、充填剤、抗菌剤、吸着剤などを必要に応じて含めることができる。そのため、造粒物、成形物中のチタン酸化物の含有量は適宜設定することができ、例えば10〜100重量%程度が適当である。
別の用い方としては、チタン酸化物の粉末や造粒物、成形物をシート上に固定したものを積層し、あるいはコイル状に巻いてモジュール内に充填して用いることができる。チタン酸化物を固定するシートとしては、例えば、セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量約30モル%)、ポリスルホン、ポリアクリロニトリルなどでできたシートを用いることができる。
モジュールの大きさは血液や血漿の処理量に応じて適宜設定することができる。また、モジュールの形は効率を考えて適宜設定することができ、例えば図6のような円筒状や多角筒状のものが好ましい。血液や血漿を送液するモジュールの上部側とは、モジュールの最上部でなくてもよく、モジュールの側面上部の適当な箇所からでもよい。また、モジュールの下部側とは、モジュールの最下部でなくてもよく、モジュールの側面下部の適当な箇所からでもよい。血液や血漿の送液速度はモジュールの大きさに応じて適宜設定でき、例えば30〜120ml/分が好ましい。モジュールから排出された血液や血漿は吸着量が不十分な場合には循環して再度モジュールに送液してもよい。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0020】
実施例1
TiOとして200g/リットルの濃度の四塩化チタン水溶液を30℃に保持しながら水酸化ナトリウム水溶液で中和してコロイド状の非晶質水酸化チタンを析出させ、このコロイド状水酸化チタンを90℃以上の温度で2時間熟成してルチル型結晶を有する二酸化チタン(試料a)を得た。
次いで、前記の二酸化チタンの懸濁液(試料a)に撹拌下、アルミン酸ナトリウム(Alとして150g/リットル)と10%硫酸とを同時に添加し、懸濁液のpHを8〜9に維持した。その後、ろ過、洗浄し、さらに、リパルプした後、引き続き、ナトリウム分を除去するために80℃の温度で2日間温水処理した後、ろ過、洗浄し、105℃の温度で3時間乾燥して、酸化アルミニウムを15重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料A)を得た。
【0021】
実施例2
実施例1で得られた試料Aを330℃の温度で3時間焼成して、酸化アルミニウムを15重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料B)を得た。
【0022】
実施例3
実施例1で得られた試料Aを705℃の温度で3時間焼成して、酸化アルミニウムを15重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料C)を得た。
【0023】
実施例4
実施例1に記載の方法に準じて、酸化アルミニウムを10重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料D)を得た。
【0024】
実施例5
実施例1に記載の方法に準じて、酸化アルミニウムを20重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料E)を得た。
【0025】
比較例1
実施例1に記載の方法に準じて試料aに相当する二酸化チタン懸濁液を得、次いで、その懸濁液をろ過、洗浄し、さらに、リパルプした後、引き続き、ナトリウム分を除去するために80℃の温度で2日間温水処理した後、ろ過、洗浄し、105℃の温度で3時間乾燥して、ルチル型二酸化チタン(試料F、表面処理なし)を得た。
【0026】
比較例2
比較例1で得られた試料Fを330℃の温度で3時間焼成して、ルチル型二酸化チタン(試料G、表面処理なし)を得た。
【0027】
比較例3
比較例1で得られた試料Fを705℃の温度で3時間焼成して、ルチル型二酸化チタン(試料H、表面処理なし)を得た。
【0028】
比較例4
実施例1に記載の方法に準じて試料aに相当する二酸化チタン懸濁液を得、次いで、その懸濁液に撹拌下、ケイ酸ナトリウム(SiOとして150g/リットル)と10%硫酸とを同時に添加し、懸濁液のpHを8〜9に維持した。その後、ろ過、洗浄し、さらに、リパルプした後、引き続き、ナトリウム分を除去するために80℃の温度で2日間温水処理した後、ろ過、洗浄し、105℃の温度で3時間乾燥して、酸化ケイ素を5重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料I)を得た。
【0029】
比較例5
比較例4で得られた試料Iを330℃の温度で3時間焼成して、酸化ケイ素を5重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料J)を得た。
【0030】
比較例6
比較例4で得られた試料Iを705℃の温度で3時間焼成して、酸化ケイ素を5重量%担持したルチル型二酸化チタン(試料K)を得た。
【0031】
実施例1〜5、比較例1〜6で得られた試料A〜Kの結晶構造をX線回折法で調べた結果、いずれの試料もルチル型二酸化チタンに帰属されることを確認した。
また、試料A〜Kの等電点をゼータ電位測定器(大塚電子株式会社製(ELS-6000))を用いて測定した結果と比表面積の測定結果を表1に示す。試料A〜Eの酸化アルミニウムを担持した二酸化チタンの等電点は7.8〜8.5の範囲であり、血液、血漿のpHよりも高く、血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有することがわかった。一方、酸化アルミニウムを担持していない試料F〜Hの等電点は4.9〜5.3の範囲であり、また、酸化ケイ素を担持した試料I〜Kの等電点は3.3〜4.7の範囲であり、血液、血漿のpHよりも低く、血液あるいは血漿中において負の表面電荷を有することがわかった。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kのビリルビン吸着除去能を以下の方法で測定した。
A.吸着性試験用の抱合ビリルビンを含有したアルブミンの調製法
a.試薬:ビリルビン(和光純薬(株))0.12gを0.1規定−水酸化ナトリウム水溶液50mLに溶解した。
b.牛血清アルブミン(和光純薬(株)、純度98〜99%)7.50gを蒸留水50mLに溶解した。
次に、a溶液とb溶液を混合し、この混合溶液に0.1規定塩酸水溶液50mLを添加した。これに5規定−水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを7.2に調整し、塩化ナトリウム1.06gを添加して総ビリルビン標準溶液とした。
B.チタン酸化物のビリルビンの吸着性能の測定
試料A〜C、F〜Kの粉末(粒径:213〜300μm)のビリルビンの吸着性能を測定した。それぞれ試料0.1mgを容積5.0mLのポリエチレン製ディスポーザブル試験管に採取し、生理食塩液1.0mLに浸漬して、真空デシケーター内で1時間脱気した。これに予め調製した前記総ビリルビン標準溶液3mLを添加して、暗所内で37℃の恒温槽中で所定時間(5時間)振とうした。振とう後、それらの試料を細孔径0.45μmのディスポーザブルフィルターでろ過し、溶液中の総ビリルビン(T.Bil)および抱合(直接)ビリルビン(D.Bil)濃度を臨床検査キット〔和光純薬(株)、ビリルビンBII−テストワコー〕で測定した。遊離(間接)ビリルビン(In.Bil)濃度は総ビリルビン濃度と抱合(直接)ビリルビン濃度の差から算出した。それぞれの試料の総ビリルビン(T.Bil)、間接ビリルビン(In.Bil)、直接ビリルビン(D.Bil)の吸着性能〔単位重量当たり(g)〕を図1〜図5に示す。
【0034】
図1〜5から明らかのように、間接ビリルビンの吸着性能は、酸化アルミニウムを担持した試料A〜Cが高く、また、総ビリルビン吸着性能もそれに応じて高いことがわかった。一方、酸化ケイ素を担持した試料I〜Kは間接ビリルビンの吸着性能も低く、総ビリルビン吸着性能も低いことがわかった。
この吸着性能と各試料の等電点の結果から、等電点が高いほど間接ビリルビンの吸着性能がよく、試料の等電点が血液、血漿のpHよりも高く、血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有する場合に間接ビリルビンの吸着性能が特によいことがわかった。
【0035】
図6に示すモジュールに、実施例1の試料Aを直径約1mmの球状に成形したものを充填し、約50ml/分の速度で血漿を送液した結果、血漿中の間接ビリルビンが吸着除去されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の吸着剤は、優れた間接ビリルビンの吸着性能を有することから、血液あるいは血漿のビリルビン等の病原性蛋白の吸着除去に有用である。また、本発明の吸着剤は、血液あるいは血漿に対する適合性を有し、機械的強度、滅菌処理の耐性も充分にあることから、直接血液吸着法による血液の浄化に利用が可能であり、また、血漿分離法で得られた血漿の浄化にも利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kの総ビリルビン吸着性能を示すグラフである。図1中、○は試料A〜C、●は試料F〜H、△は試料I〜Kの各乾燥、焼成温度の総ビリルビン吸着量を示す。
【図2】実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kの間接ビリルビン吸着性能を示すグラフである。図2中、○は試料A〜C、●は試料F〜H、△は試料I〜Kの各乾燥、焼成温度の間接ビリルビン吸着量を示す。
【図3】実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kの直接ビリルビン吸着性能を示すグラフである。図3中、○は試料A〜C、●は試料F〜H、△は試料I〜Kの各乾燥、焼成温度の直接ビリルビン吸着量を示す。
【図4】実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kの総ビリルビン吸着性能を示すグラフである。図4中、○は試料A〜C、●は試料F〜H、△は試料I〜Kの各等電点と総ビリルビン吸着量の関係を示す。
【図5】実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜C、F〜Kの間接ビリルビン吸着性能を示すグラフである。図5中、○は試料A〜C、●は試料F〜H、△は試料I〜Kの各等電点と間接ビリルビン吸着量の関係を示す。
【図6】本発明のモジュールの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液あるいは血漿中において正の表面電荷を有するチタン酸化物を含むことを特徴とする血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤。
【請求項2】
チタン酸化物の水中での等電点が8以上であることを特徴とする請求項1に記載の血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤。
【請求項3】
粒子表面に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を担持させたチタン酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤。
【請求項4】
チタン酸化物に担持する金属酸化物及び/又は金属水酸化物の金属元素がアルミニウム、亜鉛、マグネシウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤。
【請求項5】
チタン酸化物がルチル型結晶を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の血液浄化あるいは血漿浄化用吸着剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸着剤を充填したことを特徴とする血液浄化あるいは血漿浄化用モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のモジュールの上部側もしくは下部側から血液または血漿を30〜120ml/分の速度で送液することを特徴とする血液あるいは血漿の浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−54947(P2008−54947A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235804(P2006−235804)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】