説明

衝撃吸収部材およびバンパー装置

【課題】量産性、レインフォースメントに取り付けた場合の牽引特性に優れた衝撃吸収部材、これを用いたバンパー装置を提供する。
【解決手段】衝撃吸収部材1は、底部11と、フランジ部12と、底部11およびフランジ部12との間に設けられ、四つの側壁面13a、13b、13c、13dから構成される略角筒状の衝撃吸収部13とを有する。底部11、フランジ部12、衝撃吸収部13は、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されている。フランジ部12は、衝撃吸収部13の端縁から突出する本体部12aと、本体部12aの外周に設けられ、衝撃吸収部13側に起立する起立部12bとを有する。バンパー装置2は、衝撃吸収部材1の底部11がレインフォースメントに固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収部材およびバンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の前方および後方には、車両の衝突時の衝撃を吸収して、車両に伝達される衝撃エネルギーを緩和させるためにバンパーが設けられている。バンパーは、一般に、樹脂製の外部カバーと、車両幅方向に延設されたレインフォースメントと、外部カバーとレインフォースメントとの隙間を充填する発泡樹脂とを有している。そして、レインフォースメントは、座屈変形により衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材を介して車両本体のフレームに取り付けられる。
【0003】
上記衝撃吸収部材としては、例えば、特許文献1等に記載されるように、衝撃吸収を考慮した所定の断面形状を有するアルミニウム合金製の押出形材が広く使用されている。
【0004】
他にも、特許文献2には、アルミニウム板材をプレス深絞り加工して有底筒体を形成した後、この有底筒体を軸方向にプレス加工して外壁面に螺旋状の段部を形成してなる衝撃吸収部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−30647号公報
【特許文献2】特開2007−261557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題がある。すなわち、上記衝撃吸収部材として押出形材を使用する場合、押出形材からなる衝撃吸収部、レインフォースメントに固定するための固定部材、車両のフレームに固定するための固定部材の3部品が必要となる。そのため、各部品の切断や部品同士の線溶接(全周溶接)による組み立てなどの製造工程が多くなる。とりわけ部材同士の線溶接はコストを増大させる。このように押出形材を用いる衝撃吸収部材は、製造工程が増加し、量産性に劣るといった問題がある。
【0007】
一方、特許文献2の衝撃吸収部材は、有底筒体の形成を行うプレス深絞り加工以外にも、外壁面に螺旋状の段部を形成するためのプレス加工を行う必要がある。そのため、製造工程が多くなり、量産性に優れるプレス成形の利点が十分に活かされているとはいえない。また、有底筒体の外壁面に螺旋状の段部をプレス加工により形成するのは、難易度が高い。
【0008】
さらに、自動車等の車両は牽引されることがある。車両の牽引は、バンパー内のレインフォースメントに設けた牽引フックを、車両前方向(フロントバンパーの場合)あるいは車両後方向(リヤバンパーの場合)へ引っ張ることにより行われる。したがって、レインフォースメントと車両本体のフレームとを繋ぐ衝撃吸収部材には、牽引時に負荷される引張荷重(牽引荷重)に対して変形し難いことが要求される。ところが、特許文献2の衝撃吸収部材は、このような要求に対して何ら解決手段を提示していない。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、量産性、レインフォースメントに取り付けた場合の牽引特性に優れた衝撃吸収部材、これを用いたバンパー装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、車両のバンパー補強用のレインフォースメントに固定するための底部と、車両本体のフレームに固定するためのフランジ部と、上記底部および上記フランジ部との間に設けられ、四つの側壁面から構成される略角筒状の衝撃吸収部とを有し、上記底部、上記フランジ部および上記衝撃吸収部は、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されており、上記フランジ部は、上記衝撃吸収部の端縁から突出する本体部と、該本体部の外周に設けられ、上記衝撃吸収部側に起立する起立部とを有することを特徴とする衝撃吸収部材にある(請求項1)。
【0011】
また、本発明の他の態様は、車両のバンパー補強用レインフォースメントと、上記衝撃吸収部材とを有し、該衝撃吸収部材は、上記レインフォースメントに上記底部が固定されていることを特徴とするバンパー装置にある(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
上記衝撃吸収部材は、上記構成を有するので、量産性、レインフォースメントに取り付けた場合の牽引特性に優れる。
具体的には、上記底部、上記フランジ部および上記衝撃吸収部が、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されている。そのため、押出形材を用いる場合に比べ、部品点数が少なくなり、各部品の切断や部品同士の線溶接による組み立てなどの製造工程が不要になる。また、特許文献2に記載されるように、側壁面に段部を形成するための加工も不要になる。それ故、量産性に優れる。とりわけ、衝撃吸収部材の形成に線溶接工程が不要になることは、低コスト化を図るうえで有利である。
【0013】
また、上記フランジ部は、上記衝撃吸収部の端縁から突出する本体部と、該本体部の外周に設けられ、上記衝撃吸収部側に起立する起立部とを有している。そのため、フランジ部の剛性を向上させることができ、牽引荷重に対する耐変形性が向上する。それ故、底部をレインフォースメントに固定するとともにフランジ部を車両本体のフレームに固定した状態で、車両前方向(フロントバンパー側に適用した場合)あるいは車両後方向(リヤバンパー側に適用した場合)に牽引荷重が負荷された場合であっても、永久変形し難く、優れた牽引特性を発揮することができる。
【0014】
上記バンパー装置は、上記衝撃吸収部材を用いているので、量産性、車両の牽引時の牽引特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、衝撃吸収部材の構成を示す斜視図である。
【図2】実施例1における、衝撃吸収部材の構成を示す平面図である。
【図3】実施例1における、バンパー装置の構成(但し、車両前方向、つまり、フロントバンパー側に適用した場合の左側半分)を示す説明図である。
【図4】実施例1における、バンパー装置の衝撃吸収部材の断面形状を拡大して示す説明図である。
【図5】実施例1における、バンパー装置のレインフォースメントの断面形状を示す説明図である。
【図6】シミュレーションによる評価方法の概略を示す説明図である。
【図7】負荷点変位−荷重の関係を示すシミュレーション結果である。
【図8】実施例2における、衝撃吸収部材の構成を示す斜視図である。
【図9】実施例2における、衝撃吸収部材の構成を示す平面図である。
【図10】図8におけるA−A断面の構成を示す断面図である。
【図11】図8におけるB−B断面の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記衝撃吸収部材は、上述のように、車両のバンパー補強用のレインフォースメントに固定するための底部と、車両本体のフレームに固定するためのフランジ部と、底部およびフランジ部との間に設けられる衝撃吸収部とを有する。上記衝撃吸収部材において、レインフォースメントへ底部を固定する方法、車両本体のフレームへフランジ部を固定する方法は、特に限定されるものではない。上記固定方法としては、例えば、ボルト、ナット等の締結部材による締結、かしめやセルフピアシングリベットなどによる機械的接合、摩擦撹拌接合やスポット溶接などの方法を例示することができる。
【0017】
上記底部の形状は、略角筒状の衝撃吸収部における底部側の端縁形状との関係から、略四角形状が好適である。また、底部は、底部を固定するためのレインフォースメントの車両前後方向の内側に配置される側壁面に沿った形状に形成すればよい。
【0018】
上記衝撃吸収部は、四つの側壁面から構成される略角筒状に形成されている。四つの側壁面は、プレス成形性の向上等の観点から、平坦面であるとよい。この際、側壁面同士の接続部は、角がないように丸みを帯びていてもよいし、角がついていてもよい。上記接続部は、好ましくは、プレス成形時の脱型性に優れ、プレス成形性の向上に寄与できる観点から、角がないように丸みを帯びていることが好ましい。
【0019】
上記衝撃吸収部の四つの側壁面は、互いに対向する側壁面どうしが略平行となるように配置することができる。また、四つの側壁面のうち、少なくとも1つの側壁面が、底部からフランジ部側に向かって、筒外側に向かって拡がるように形成された傾斜面とすることも可能である。例えば、四つの側壁面のうち、車両幅方向の内側に配置される側壁面を、車両前後方向に対し5°〜15°の範囲内で車両幅方向の内側かつフランジ部側が広がるように形成された傾斜面等にすることができる。この場合には、衝撃荷重を受けたときの初期座屈荷重と横倒れ防止とのバランスに優れるので、上記牽引特性の向上に加えて、衝撃吸収特性も向上させやすくなる。
【0020】
上記フランジ部の本体部は、衝撃吸収部の端縁から筒外側に向かって突出して形成されているが、その突出量は特に限定されるものではない。起立部の形成性、フレームへの取付容易性、プレス加工性などを考慮して最適な突出量に調整可能である。本体部の外形は、特に限定されるものではなく、略四角形状等の略多角形状、略円形状などであってもよい。本体部の外形は、好ましくは、フレームへの取付容易性などの観点から、略四角形状であるとよい。また、フランジ部を車両本体のフレームへ締結部材により固定する場合には、ボルトを挿通させる取付孔を本体部に1または2以上形成することができる。
【0021】
上記フランジ部の起立部は、本体部の外周に設けられ、衝撃吸収部側に起立している。起立部は、本体部の全外周に亘って連続的に設けられていてもよいし、不連続な部分を含むように設けられていてもよい。不連続な部分は、例えば、切欠き部やスリット等の空間部から形成することができ、これらは1または2以上形成することができる。また、起立部は、本体部の外周に部分的に設けられていてもよい。
【0022】
また、起立部は、衝撃吸収部側に起立しておれば、本体部と起立部との間のなす角の大きさは、特に限定されるものではない。本体部と起立部との間のなす角は、フランジ部の剛性向上の効果が大きいなどの観点から、好ましくは、90°±10°の範囲内、より好ましくは、90°±5°の範囲内にあるとよい。また、起立部の本体部からの高さも、特に限定されるものではない。起立部の本体部からの高さは、フランジ部の剛性向上の効果が大きい、起立部の形成性向上などの観点から、好ましくは、5〜25mmの範囲内、より好ましくは、10〜20mmの範囲内にあるとよい。
【0023】
上記底部、フランジ部および衝撃吸収部は、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されている。底部とフランジ部との間、フランジ部と衝撃吸収部との間には、かしめ部や接合等による継ぎ目が存在していない。なお、本願にいう「アルミニウム」は、アルミニウムを主体とする金属および合金の総称であり、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含む概念である。
【0024】
上記プレス成形法としては、深絞り加工を好適に用いることができる。底部およびフランジ部の厚みは、牽引特性などの観点から、また、衝撃吸収部の厚みは、衝撃エネルギー吸収特性などの観点から、いずれも好ましくは2〜4mmの範囲内であり、一枚のアルミニウム板材から一体成形されているとよい。また、上記フランジ部の起立部は、深絞り加工等のプレス成形により形成してもよいし、プレス成形後に折り曲げ加工することにより形成してもよい。なお、衝撃吸収部の車両前後方向の長さは、レインフォースメントと車両本体のフレームとの間の距離に合わせて適宜決定することができる。
【0025】
上記衝撃吸収部材において、上記本体部は、上記衝撃吸収部の四つの側壁面との交わり部の四辺と略平行な四辺を有する略四角形状に形成されており、上記起立部は、上記本体部の四辺にそれぞれ互いに独立して形成された起立片から構成されていることが好ましい(請求項2)。
【0026】
この場合には、プレス成形、あるいは、その後の打ち抜き加工等により、フランジ部の本体部と同一面上に、折り曲げにより起立片となる曲げしろを予め形成しておき、この曲げしろをプレス成形後に折り曲げ加工することにより、各起立片を形成することができる。簡易な曲げ加工を利用できるため、加工性に優れ、量産性の向上に寄与することができる。また、各起立片どうしの両端間には空間部が形成されるため、軽量化にもつながる。また、本体部の外形が、衝撃吸収部の四つの側壁面との交わり部の四辺と略平行な四辺を有する略四角形状に形成されているので、フレームに対する取付容易性に優れる。また、締結部材により固定する場合における、ボルトの取付孔を適切な配置で形成しやすいなどの利点もある。
【0027】
上記起立片は、上記本体部と垂直な方向に曲げて構成してもよいし、さらに、上記起立片の先端部を上記本体部と水平な方向に曲げた構成にしてもよい。上記起立片がこのように構成されている場合には、フランジ部の剛性をより向上させることができるので、牽引荷重によって変形し難くなり、優れた牽引特性を得やすくなる。
【0028】
上記衝撃吸収部材において、上記本体部は、その略四隅に、締結により上記フレームに固定するための取付孔をそれぞれ有し、上記各起立片の長さは、上記取付孔間の中心間距離より長いことが好ましい(請求項3)。
【0029】
上記取付孔間よりも外側は牽引荷重により変形し難いが、取付孔間よりも内側は牽引荷重により変形しやすい傾向がある。そのため、上記構成とした場合には、起立片の折り曲げ形成性とフランジ部の剛性向上効果とのバランスに優れる。なお、上記締結手段には、ボルト、ナット等を好適に用いることができる。また、各取付孔は、上記本体部の四隅付近にあればよく、上記フレーム取付時フレームとフランジ部との位置関係等によっては、起立片の中央部よりに各取付孔が形成されることも許容される。また、この場合、「取付孔間の中心間距離」は、取付孔間の中心を結ぶ長さを、起立片と平行な面に投影したときの長さをいう。
【0030】
上記衝撃吸収部材において、上記衝撃吸収部を構成する四つの側壁面のうち、いずれか一つ以上の側壁面と、上記フランジ部の本体部との少なくとも交わり部には、1または2以上のビード部が形成されていることが好ましい(請求項4)
【0031】
この場合には、牽引荷重により比較的大きな負荷がかかりやすい交わり部の剛性を向上させることができる。そのため、牽引荷重に対する耐変形性がより一層向上する。それ故、底部をレインフォースメントに固定するとともにフランジ部を車両本体のフレームに固定した状態で、車両前方向(フロントバンパー側に適用した場合)あるいは車両後方向(リヤバンパー側に適用した場合)に牽引荷重が負荷された場合であっても、より一層永久変形し難く、より一層優れた牽引特性を発揮することができる。また、上記ビード部は、交わり部への導入が比較的容易であるので、量産性も損ない難い。
【0032】
上記衝撃吸収部材において、衝撃吸収部は四つの側壁面より構成されていることから、側壁面とフランジ部の本体部との交わり部は四つ存在することになる。上記ビード部は、いずれの交わり部に形成されていてもよい。例えば、上記衝撃吸収部材を用いてバンパー装置を構成した際に車両幅方向と略平行となる2つの交わり部のいずれか一方または双方に形成されていてもよい。また、上記衝撃吸収部材を用いてバンパー装置を構成した際に車両上下方向と略平行となる2つの交わり部のいずれか一方または双方に形成されていてもよい。上記ビード部は、必要とされる牽引荷重に応じて適宜形成することが可能である。なお、上記ビード部は、少なくとも交わり部に存在しておればよく、上記ビード部の一部が衝撃吸収部を構成する側壁面やフランジ部の本体部に掛かる状態で存在していても構わない。
【0033】
上記ビード部は、交わり部の剛性を向上させることができれば、その形状は特に限定されるものではない。上記ビード部は、交わり部の山側から谷側あるいは交わり部の谷側から山側に向かって交わり部の一部または全部を塑性変形させることにより好適に構成することが可能である。より具体的には、例えば、上記ビード部は、交わり部の山側から谷側に向かって交わり部の一部を塑性変形させることにより膨出させた膨出部などから構成することが可能である。ビード部は、例えば、衝撃吸収部の側壁面とフランジ部の本体部との交わり部を含み、かつフランジ部の本体部とのなす角が45°である面で切断したときの切断面が、略三角形状、略半円状などの形状とすることができる。上記切断面が略三角形状であるビード部は、型成形などにより比較的容易に形成することができる。そのため、量産性の向上に寄与しやすくなる。
【0034】
上記ビード部のピッチは、交わり部の長さによって、適宜設定することが可能である。上記ビード部のピッチは、例えば、15〜35mmの範囲内から選択することができる。
【0035】
上記衝撃吸収部材において、上記アルミニウム板材は、6000系アルミニウム合金(以下、「6000系合金」と称する。)よりなることが好ましい(請求項5)。
6000系合金は、曲げ割れが発生し難い。そのため、衝撃吸収部が略蛇腹状に座屈変形する際に割れが発生し難く、衝撃吸収特性を悪化させ難い。具体的な6000系合金としては、例えば、6009、6016、6111、6061、6063などが挙げられる。
【0036】
一枚のアルミニウム板材から上記衝撃吸収部材をプレス成形するにあたっては、O材またはT4材からなるアルミニウム板材を用いてプレス成形して形状を定めた後、T6材となるように熱処理を施すことが好ましい。底部、フランジ部および衝撃吸収部が一体化された衝撃吸収部材の形状へのプレス加工は、強加工である。そのため、比較的軟質なO材またはT4材からなるアルミニウム板材を用いてプレス成形するようにした場合には、形状加工性に優れる。また、形状を定めた後、最終的にT6材となるように熱処理が施されている場合には、衝撃吸収性を高めやすくなる。なお、フランジ部の起立片を折り曲げ加工により形成する場合、当該折り曲げ加工は、上記熱処理の前に行うことが好ましい。
【0037】
上記バンパー装置において、レインフォースメントは、バンパー装置の衝撃吸収特性の向上を図る観点から、好ましくは、中空状であるとよい。また、この場合、側壁面の内面間を連結するリブが1または2以上設けられていてもよい。レインフォースメントを車両前後方向で切断したときの断面形状は、好ましくは、略矩形状、略「日」の字状、略「目」の字状、略「田」の字状などを例示することができる。但し、この場合、車両上下方向に略平行な側壁面については、車両前後方向に略平行な側壁面から突出していても構わない。
【0038】
また、レインフォースメントは、通常、車両の意匠上、両端部側が折り曲げ形成される。上記バンパー装置においても、上記レインフォースメントは、両端部にそれぞれ曲げ部を有していてもよい。また、上記バンパー装置において、衝撃吸収部材は、車両本体のフレームのうち、車両前後方向の左右の車両本体のフレーム等に一つずつ取り付けることができるように、取付位置に対応させた状態でレインフォースメントに2つ取り付けられていることが好ましい。
【0039】
上記バンパー装置において、上記衝撃吸収部材の底部は、上記レインフォースメントに摩擦撹拌接合によって固定されていることが好ましい(請求項7)。
【0040】
ボルト、ナットにより底部を固定する場合、底部、レインフォースメントに対して前加工(取付孔の形成やナット固定)などが必要となり、締結時間がかかる。これに対し、摩擦撹拌接合により固定する場合には、上記前加工が不要になるのでその分取付時間を短くすることができ、量産性を向上させることができる。また、溶接により底部を固定する場合、ブローホールや融合不良等の内部欠陥の懸念がある上、歪も発生しやすい。これに対し、摩擦撹拌接合により固定する場合には、上記内部欠陥や歪の発生を心配する必要がないので欠陥検査の手間を少なくでき、量産性を向上させることができる。また、セルフピアッシングリベットにより底部を固定する場合には、固定強度が比較的低い上、固定のための専用工具が必要になる。これに対し、摩擦撹拌接合により固定する場合には、比較的高い固定強度を確保することができる上、専用工具も不要である。さらに、摩擦撹拌接合により固定する場合には、ボルト、ナット、溶加材、セルフピアッシングリベット等の固定部材が不要になる分、バンパー装置の軽量化を図ることができる。さらに量産性の向上や固定部材の削減を通じて、バンパー装置の低コスト化を図ることも可能になる。
【0041】
上記摩擦撹拌接合は、摩擦撹拌線接合、摩擦撹拌点接合のいずれも用いることができる。これらを組み合わせることも可能である。また、上記摩擦撹拌接合は、衝撃吸収部側から行われていてもよいし、レインフォースメント側から行われていてもよい。上記衝撃吸収部材における衝撃吸収部の車両前後方向の長さ等を考慮して作業性を確保しやすい方向から行えばよい。
【0042】
上記摩擦撹拌線接合は、牽引や固縛による引張に対する耐性を高める観点から、線接合長が好ましくは50mm以上、線接合幅が好ましくは3mm以上、線接合面積が好ましくは150mm以上であるとよい。なお、摩擦撹拌線接合の線接合部は、付与したい耐性の程度等を考慮して1または2以上から構成することができる。一方、上記摩擦撹拌点接合は、牽引や固縛による引張に対する耐性を高める観点から、打点数が好ましくは6打点以上であるとよい。
【0043】
また、上記摩擦撹拌接合の接合方向は特に限定されるものではない。上記衝撃吸収部材の衝撃吸収部において、車両幅方向の車両内側に配置される側壁板の方が、車両幅方向の車両外側に配置される側壁板よりも、車両前後方向の長さが長く設定されている場合、つまり、車両幅方向の車両外側に底部が傾斜して設けられている場合には、車両幅方向の車両外側から車両内側に向かって摩擦撹拌接合が行われていることが好ましい。摩擦撹拌接合時に、摩擦撹拌接合装置のピンと衝撃吸収部材との不必要な接触を抑制しやすくなるからである。
【0044】
なお、上記衝撃吸収部材、バンパー装置は、車両のフロントバンパー側、リヤバンパー側のいずれの側にも適用可能である。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
実施例1に係る衝撃吸収部材およびバンパー装置について、図1〜図5を用いて説明する。なお、全図中、FRは車両前後方向を、FRIは車両前後方向の車両内側を、FROは車両前後方向の車両外側を意味する。また、Wは車両幅方向を、WIは車両幅方向の車両内側を、WOは車両幅方向の車両外側を意味する。また、UDは車両上下方向を、Uは車両上側を、Dは車両下側を意味する。これら符号は以下の説明において適宜使用する。なお、本例の衝撃吸収部材、バンパー装置は、車両のフロントバンパー側への適用を想定したものであるが、これに限定されることなく、本例の衝撃吸収部材、バンパー装置は、車両のリヤバンパー側へも適用することができる。
【0046】
<衝撃吸収部材>
本例の衝撃吸収部材1は、図1〜図4に示すように、車両のバンパー補強用のレインフォースメント3に固定するための底部11と、車両本体のフレーム(不図示)に固定するためのフランジ部12と、底部11およびフランジ部12との間に設けられ、四つの側壁面13a、13b、13c、13dから構成される略角筒状の衝撃吸収部13とを有している。つまり、本例の衝撃吸収部材1は、全体として有底略角筒体に形成されており、底部11と反対側の有底略角筒体の外周縁に、有底略角筒体の外側に突出するフランジ部12を有している。
【0047】
底部11、フランジ部12および衝撃吸収部13は、一枚のアルミニウム板材をプレス成形による絞り加工することにより一体的に形成されている。アルミニウム板材としては、6000系アルミニウム合金であるA6016の板材を用いた。プレス成形するにあたっては、先ず、O材からなる上記アルミニウム板材(厚み2.5mm)を用いてプレス成形して形状を定めた後、熱処理を施してT6材とした。なお、後述するフランジ部12の起立部12bは、上記熱処理の前に折り曲げ加工することにより形成した。
【0048】
本例の衝撃吸収部材1において、底部11は、レインフォースメント3における車両前後方向の内側FRIの側壁面32aに固定するためのものである。また、レインフォースメント3は、車両の意匠上、車両前後方向の内側FRIに向かって折れ曲がる曲げ部31を有していることが多い。本例では、このようなレインフォースメント3の曲げ部31における車両前後方向の内側FRIの側壁面32aに底部11を固定することを想定している。そのため、底部11は、レインフォースメント3の曲げ部31に沿うように、斜め方向に傾斜して形成されている。
【0049】
底部11は、略四角形状に形成されている。また、底部11の四隅の角部は、丸みを帯びるように湾曲させた形状に形成されているが、他にも、角ばった形状に形成されていてもよい。底部11の外形は、略角筒状の衝撃吸収部13の底部11側の外形を考慮して決定することができる。
【0050】
また、底部11は、レインフォースメント3に締結により固定可能とされている。具体的には、底部11の四隅の角部に、それぞれ取付孔(不図示)が設けられており、締結部材としてのボルト、ナットを用いてレインフォースメント3の側壁面32aに固定可能とされている。他にも、底部11は、上記の取付孔を設けることなく、レインフォースメント3に摩擦撹拌接合により固定する構成とすることもできる。
【0051】
本例の衝撃吸収部材1において、衝撃吸収部13は、略角筒状に形成されており、四つの平坦な側壁面13a、13b、13c、13dから構成されている。略角筒状の衝撃吸収部13の一端部に、底部11が一体的に繋がっており、他端部に、フランジ部12が一体的に繋がっている。
【0052】
また、衝撃吸収部13の側壁面13a、13b、13c、13dは、車両前後方向FRと略平行になるように形成された平行面とされている。すなわち、車両幅方向の内側WIおよび外側WOに配置される側壁面13a、13bは、車両前後方向FRと車両上下方向UDとを含む平坦面として形成されている。つまり、本例において、側壁面13aと車両前後方向FRとのなす角、側壁面13bと車両前後方向FRとのなす角は、ともに0°に設定されている。また、車両上下方向の上側Uおよび下側Dに配置される側壁面13c、13dは、車両前後方向FRと車両幅方向Wとを含む平坦面として形成されている。つまり、本例において、側壁面13cと車両前後方向FRとのなす角、側壁面13dと車両前後方向FRとのなす角は、ともに0°に設定されている。
【0053】
なお、衝撃吸収部13におけるフランジ部12直上の略四角形状の断面形状は、車両幅方向Wの外寸を110mm、車両上下方向UDの外寸を90mmに設定した。また、側壁面13aの寸法LIは、100mmに設定した。側壁面13bの寸法LOは、フランジ部12からレインフォースメント3の側壁面32aに突き当たるまでの長さとされている。本例において、衝撃吸収部13は、側壁面13a、13b、13c、13dどうしの接続部が丸みを帯びるように湾曲させた形状に形成されているが、他にも、角ばった形状に形成することもできる。
【0054】
本例の衝撃吸収部材1において、フランジ部12は、車両本体のフレーム、具体的には、車両幅方向の外側WOにそれぞれ配置される車両本体のフレームに固定するためのものである。フランジ部12は、衝撃吸収部13の端縁から突出する本体部12aと、本体部12aの外周に設けられ、衝撃吸収部13側に起立する起立部12bとを有している。
【0055】
本体部12aは、衝撃吸収部13の底部11と反対側の端部外形よりも大きな略四角形状に形成されている。具体的には、本体部12aは、衝撃吸収部13の四つの側壁面13a、13b、13c、13dとの交わり部の四辺と略平行な四辺を有する略四角形状に形成されている。なお、本体部12の四隅の角部は、丸みを帯びるように湾曲させた形状に形成されているが、他にも、角ばった形状に形成されていてもよい。
【0056】
フランジ部12は、本体部12aにて車両本体のフレームに締結により固定可能とされている。具体的には、図2に示すように、衝撃吸収部13の中心軸方向から見た際、本体部12aは、その略四隅に、締結によりフレームに固定するための取付孔121a、122a、123a、124aを有している。つまり、略四角形状の本体部12aの四隅の角部に、取付孔121a、122a、123a、124aが設けられている。そして、取付孔121a、122a、123a、124aに締結部材としてのボルトを挿通してナットを用いてフレームに固定可能とされている。
【0057】
起立部12bは、本体部12aの四辺にそれぞれ互いに独立して形成された起立片121b、122b、123b、124bから構成されている。つまり、起立片121b、122b、123b、124bどうしの両端部間には、空間部が形成されている。起立片121b、122b、123b、124bは、プレス成形後の打ち抜き加工により、フランジ部12の本体部12aと同一面上に、折り曲げにより起立片121b、122b、123b、124bとなる曲げしろを予め形成しておき、その後、この曲げしろを折り曲げ加工することにより形成した。なお、本体部12aと起立部12b(起立片121b、122b、123b、124b)との間のなす角は、90°に設定されている。
【0058】
また、起立片121b、122b、123b、124bの長さは、取付孔121a、122a、123a、124a間の中心間距離より長く形成されている。具体的には、図2に示すように、起立片122bの長手方向の長さT2は、取付孔121a、122a間の中心間距離T1より長く形成されている。以下同様に、起立片123bの長手方向の長さは、取付孔122a、123a間の中心間距離より長く形成されている。起立片124bの長手方向の長さは、取付孔123a、124a間の中心間距離より長く形成されている。起立片121bの長手方向の長さは、取付孔124a、121a間の中心間距離より長く形成されている。
【0059】
なお、本例において、フランジ部12の本体部12aの外形は、車両幅方向Wの寸法を200mm、車両上下方向UDの寸法を180mmとした。また、起立片121b、122b、123b、124bの本体部12aからの高さは、いずれも15mmとした。また、起立片121b、123bの長さは、150mm、起立片122b、124bの長さは、170mmとした。また、取付孔121a、122a、123a、124aの孔径は、いずれも11mmとした。
【0060】
<バンパー装置>
本例のバンパー装置2は、図3に示すように、車両のバンパー補強用のレインフォースメント3と、上述した衝撃吸収部材1とを有する。衝撃吸収部材1は、レインフォースメント3に底部11が締結により固定されている(締結部材は省略)。上述したように、底部11に上記の取付孔を設けることなく、レインフォースメント3に摩擦撹拌接合によって固定する構成を採用する場合には、具体的には以下の手順によればよい。すなわち、衝撃吸収部13のフランジ部12側の開口から衝撃吸収部13内に摩擦撹拌接合装置のピンを差し込む。この際、底部11の内側面における車両幅方向の車両外側WOの位置にピンを垂直に挿入する。そして、このピンを底部11に挿入した状態で回転させながら、車両幅方向のほぼ車両内側WIに沿って移動させ、摩擦撹拌線接合を行う。その後、ピンの移動を停止させて接合を終了し、衝撃吸収部13内からピンを抜く。摩擦撹拌線接合時の条件としては、例えば、ピンの寸法:ショルダー径16mm、プローブ径:先端部6mm、付け根部8mm、ピンの回転数750rpm、ピンの送り速度250mm/minという条件を例示することができる。また、線状接合部は、例えば、長さ80mm、幅4mm、線状接合部の本数は、例えば、車両上下方向UDに3本とすることができる。
【0061】
なお、図3は、フロントバンパー側に適用した場合におけるバンパー装置2の左側半分を示したものであるが、中心線Sの右側には、バンパー装置2の車両前方向の左側半分と左右対称なバンパー装置2の車両前方向の右側半分(不図示)が存在している。したがって、本例では、上述した衝撃吸収部材1を2つ有していることになる。
【0062】
レインフォースメント3は、車両幅方向Wに延設されており、車両幅方向Wと10°の角度を持つように車両前後方向の内側FRIに向かって両端部側が折り曲げ形成された曲げ部31を有している。衝撃吸収部材1の底部11は、レインフォースメント3の曲げ部31における車両前後方向の内側FRIの側壁面32aに固定されている。
【0063】
レインフォースメント3は、図5(a)に示すように、車両前後方向FRで切断したときの断面形状が略「日」の字状であるアルミニウム中空形材より形成されている。図5(b)に示すように、車両前後方向の外側FROの側壁面32b、車両前後方向の内側FRIの側壁面32aは、車両上下方向の上側Uおよび下側Dの側壁面32c、32dから突出していてもよい。なお、上記アルミニウム中空形材としてはA7N01−T6を用いた。
【0064】
<牽引特性評価>
以下、牽引特性評価を行うため、図3に示す形状のバンパー装置2について、市販のFEM解析ソフトによるシミュレーションを実行した。
【0065】
先ず、図3に示す形状のバンパー装置2をメッシュモデル化し、牽引特性を調べるための解析モデルを作成した。次に、この解析モデルに以下の特性を入力した。
すなわち、レインフォースメント3は、耐力320MPaのアルミニウム合金(A7N01−T6)の中空形材から構成され、衝撃吸収部材1は、耐力280MPaのアルミニウム合金(A6016−T6)から構成されることを想定し、各耐力を想定した応力−ひずみ特性を解析モデルに入力した。
【0066】
レインフォースメント3を車両前後方向FRで切断したときの断面形状は、略「日」の字状とした。略「日」の字状断面形状における、車両前後方向FRに配置された側壁面32a、32bの寸法は100mm、厚みは4mm、車両上下方向UDに配置された側壁面32c、3dの寸法は80mm、厚みは2mm、中央リブ33の厚みは2mmとした。また、レインフォースメント3は、車両幅方向と10°の角度を持つように両端部が曲げ加工された状態とした。
【0067】
また、衝撃吸収部13におけるフランジ部12直上の略四角形状の断面形状は、車両幅方向Wの外寸を110mm、車両上下方向UDの外寸を90mmとした。また、車両幅方向の内側WIに配置される側壁面13aの寸法LIを100mmとした。なお、車両幅方向の外側WOに配置される側壁面13bの寸法LOは、フランジ部12の本体部12aからレインフォースメント3の側壁面32aに突き当たるまでの長さになる。
【0068】
また、フランジ部12の本体部12aの外形は、車両幅方向Wの寸法を200mm、車両上下方向UDの寸法を180mmとした。また、起立片121b、122b、123b、124bの高さは、いずれも15mmとした。また、起立片121b、123bの長さは、150mm、起立片122b、124bの長さは、170mmとした。また、取付孔121a、122a、123a、124aの孔径は、いずれも11mmとした。
【0069】
次に、上記特性を入力した解析モデルに対し、図6に示すように、牽引特性を調べるためのシミュレーションを行った。具体的には、レインフォースメント3の曲げ部31における車両前後方向の外側FROの側壁面32bに牽引フック4を取り付けることを想定し、この部位に対して、100mm/sの速度設定で強制変位(図6矢印P方向、車両前後方向の外側FRO方向の変位)を与えた。図6中、5は、車両本体フレームを模擬した剛体である。この剛体5に、フランジ部12の本体部12aがボルト、ナット(不図示)により締結されている。
【0070】
通常、バンパー装置は、牽引フックを介して車両前後方向の外側FROへ牽引荷重が負荷される。その際、負荷点の変位が小さいほど、牽引特性に優れているといえる。具体的には、バンパー装置は、レインフォースメントを通じて衝撃吸収部材に車両前後方向の外側FROへ牽引荷重が負荷される。その結果、車両本体のフレームから衝撃吸収部材のフランジ部が持ち上がるような変形を生じやすい。この種の変形がフランジ部に生じないほど、牽引特性に優れていることになる。
【0071】
なお、フランジ部12の本体部12aの外周に起立部12b(起立片121b、122b、123b、124b)を形成しなかった以外は図1と同様の衝撃吸収部材(比較例1に係る衝撃吸収部材)を用いたバンパー装置(比較例1に係るバンパー装置)について、上記と同様のシミュレーションを行った。
【0072】
シミュレーション結果を図7示す。図7は、負荷点変位−荷重の関係を示したものであり、この図から塑性変形が始まるときの変位量を求めることができる。なお、図7は、実施例1の結果のみならず、後述する実施例2の結果も併せて示されている。図7に示すように、同じ荷重を負荷した場合、実施例1のバンパー装置は、比較例1のバンパー装置に比べ、変位量が少ないことがわかる。また、塑性変形が始まる荷重Qは、比較例1のバンパー装置よりも実施例1のバンパー装置のほうが高いことがわかる。この結果から、実施例1の衝撃吸収部材、バンパー装置は、優れた牽引特性を有していることが確認できた。
【0073】
以上から、本例の衝撃吸収部材1は、量産性、レインフォースメント3に取り付けた場合の牽引特性に優れるといえる。
具体的には、底部11、フランジ部12および衝撃吸収部13が、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されている。そのため、押出形材を用いる場合に比べ、部品点数が少なくなり、各部品の切断や部品同士の線溶接による組み立てなどの製造工程が不要になる。また、起立部12bは、略四角形状の本体部12aの四辺にそれぞれ互いに独立して形成された起立片121b、122b、123b、124bから構成されている。そのため、簡易な曲げ加工により簡単に形成することができる。それ故、量産性に非常に優れている。
【0074】
また、フランジ部12は、衝撃吸収部13の端縁から突出する本体部12aと、本体部12aの外周に設けられ、衝撃吸収部12a側に起立する起立部12bとを有している。そのため、フランジ部12の剛性を向上させることができ、牽引荷重に対する耐変形性が向上する。とりわけ、起立片121b、122b、123b、124bの長さは、起立片121b、122b、123b、124bの両端近傍にある取付孔121a、122a、123a、124a間の中心間距離より長く設定されている。そのため、起立片121b、122b、123b、124bの折り曲げ形成性とフランジ部12の剛性向上効果とのバランスに優れている。
【0075】
それ故、底部11をレインフォースメント3に固定するとともにフランジ部12を車両本体のフレームに固定した状態で、車両前方向(フロントバンパー側に適用した場合)あるいは車両後方向(リヤバンパー側に適用した場合)に牽引荷重が負荷された場合であっても、永久変形し難く、優れた牽引特性を発揮することができるといえる。
【0076】
また、本例のバンパー装置2は、本例の衝撃吸収部材1を用いているので、量産性、車両の牽引時の牽引特性に優れているといえる。
【0077】
(実施例2)
実施例2に係る衝撃吸収部材およびバンパー装置について、図7〜図11を用いて説明する。実施例2に係る衝撃吸収部材1およびバンパー装置2は、実施例1に係る衝撃吸収部材1およびバンパー装置2と比較して、衝撃吸収部13を構成する四つの側壁面13a、13b、13c、13dとフランジ部12の本体部12aとの交わり部に、複数のビード部15を有している点で異なっている。その他の構成は実施例1に係る衝撃吸収部材1およびバンパー装置2と同様である。
【0078】
実施例2の衝撃吸収部材1において、ビード部15は、側壁面13a、13bとそれらに繋がっているフランジ部12aとの交わり部にそれぞれ2つずつ、側壁面13c、13dとそれらに繋がっているフランジ部12aとの交わり部にそれぞれ3つずつ形成されている。なお、側壁面13a、13bとそれらに繋がっているフランジ部12aとの交わり部における各ビード部15のピッチは30mmとした。また、側壁面13c、13dとそれらに繋がっているフランジ部12aとの交わり部における各ビード部15のピッチは27.5mmとした。
【0079】
図10に示すように、ビード部15は、交わり部の山側15Yから谷側15Tに向かって塑性変形させることにより膨出させた膨出部から構成されている。なお、本例では型成形によりビード部15を形成した。また、図11に示すように、側壁面13cと本体部12aとの交わり部を含み、かつ本体部12aとのなす角が45°である面で切断したときの切断面は、略三角形状に形成されている(残りの側壁面13a、13b、13dについても同様)。ビード部15を構成する面151と面152とがなす角(頂角θ)は、90°とした。また、交わり部から略三角形の頂点Xまでの距離hは約7mmとした。
【0080】
このように構成した実施例2の衝撃吸収部材1およびバンパー装置2について、ビード部形成による効果を確認するため、実施例1と同様のシミュレーションを実施し、牽引特性評価を行った。
【0081】
そのシミュレーション結果を図7に示す。図7に示すように、同じ荷重を負荷した場合、実施例2のバンパー装置2は、実施例1のバンパー装置2に比べ、変位量が少ないことがわかる。また、塑性変形が始まる荷重Qは、実施例1のバンパー装置2よりも実施例2のバンパー装置2のほうが高いことがわかる。この結果から、交わり部にビード部15を形成することにより、交わり部の剛性を向上させることができ、牽引荷重に対する耐変形性がより一層向上するがわかる。このように実施例2の衝撃吸収部材1およびバンパー装置2は、より一層優れた牽引特性を有していることが確認できた。また、ビード部15は、交わり部への導入が比較的容易であるので、量産性も損ない難いといえる。
【0082】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。
【符号の説明】
【0083】
1 衝撃吸収部材
11 底部
12 フランジ部
12a 本体部
121a〜124a 取付孔
12b 起立部
121b〜124b 起立片
13 衝撃吸収部
13a 側壁面(車両内側)
13b 側壁面(車両外側)
13c 側壁面(車両上側)
13d 側壁面(車両下側)
15 ビード部
2 バンパー装置
3 レインフォースメント
31 曲げ部
32a 側壁面(車両内側)
32b 側壁面(車両外側)
32c 側壁面(車両上側)
32d 側壁面(車両下側)
33 中央リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバンパー補強用のレインフォースメントに固定するための底部と、
車両本体のフレームに固定するためのフランジ部と、
上記底部および上記フランジ部との間に設けられ、四つの側壁面から構成される略角筒状の衝撃吸収部とを有し、
上記底部、上記フランジ部および上記衝撃吸収部は、一枚のアルミニウム板材をプレス成形することにより一体的に形成されており、
上記フランジ部は、上記衝撃吸収部の端縁から突出する本体部と、該本体部の外周に設けられ、上記衝撃吸収部側に起立する起立部とを有することを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収部材において、
上記本体部は、上記衝撃吸収部の四つの側壁面との交わり部の四辺と略平行な四辺を有する略四角形状に形成されており、
上記起立部は、上記本体部の四辺にそれぞれ互いに独立して形成された起立片から構成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項3】
請求項2に記載の衝撃吸収部材において、
上記本体部は、その略四隅に、締結により上記フレームに固定するための取付孔をそれぞれ有し、上記各起立片の長さは、上記取付孔間の中心間距離より長いことを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材において、
上記衝撃吸収部を構成する四つの側壁面のうち、いずれか一つ以上の側壁面と、上記フランジ部の本体部との少なくとも交わり部に、1または2以上のビード部が形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材において、
上記アルミニウム板材は、6000系アルミニウム合金よりなることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項6】
車両のバンパー補強用レインフォースメントと、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材とを有し、
該衝撃吸収部材は、上記レインフォースメントに上記底部が固定されていることを特徴とするバンパー装置。
【請求項7】
請求項6に記載のバンパー装置において、
上記衝撃吸収部材の上記底部は、上記レインフォースメントに摩擦撹拌接合によって固定されていることを特徴とするバンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−188106(P2012−188106A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160939(P2011−160939)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)