説明

表面に木材細胞の炭化物の開口部を有する部材の製造方法及び該製造方法により製造された部材

【課題】少なくとも一つの表面において木材の細胞の炭化物が均一に露出された部材を得るための製造方法及び該製造方法により得られた部材を提供することである。
【解決手段】木材にコーン状に収束されたレーザービームを走査照射して切断する(1)の方法、半コーン状に収束されたレーザービームを走査照射して切断する(2)の方法、木材を鋭利な刃物或いはレーザービームで切断して細胞の端部を露出させ、該露出した部分に高温物体を接触する(3)の方法、高温に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材の刃で、木材を切断することによる(4)の方法、高温に加熱された直線状のエッジを有する角状体のエッジを木材に押し当てて、スイープする(5)の方法、前記(1)〜(5)の方法により得られた部材を、更に低酸素ないし無酸素雰囲気で炭化処理を行う、のいずれかによるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の少なくとも一つの表面の細胞が炭化されており、細胞の長さ方向と設定された角度を成す平面において、該細胞の炭化物の開口部が均一に露出された部材の製造方法及び該製造方法により製造された部材に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な孔が表面に形成された部材は先端技術分野で非常に重要である。例えば、ガラス板表面に微細なセルが多数均一に形成された部材は化学品や医薬品の開発に利用されている。ガラス板の他にシリコンウエファーも利用されている。
【0003】
しかし、ガラスやシリコンを用いる場合は、いわゆる微細加工のため、フォトレジストの塗布、現像、洗浄等に多くの有害薬品を使う上に、コストが高くなる問題があった。
【0004】
ガラスやシリコンに微細なセルを形成する場合、セルの開口の大きさと深さの比はあまり大きくできなかった。例えば、開口の直径1に対して、深さを10程度にすることが限界であった。
【0005】
ガラスやシリコンの薄板表面に形成された微細なセルは、その断面がセルの入口に近い方(開口部)が大きく、セルの底の方に向かって小さくなるのが特徴である。セルの入口が狭く、内部の方が広い構造にすることは殆ど不可能であった。用途によってはこのような構造が望ましい場合がある。
【0006】
微細な孔を有する炭化物として、木炭がよく知られているが、通常の炭は木をのこぎりで切断してから焼くので、切断面に孔の開口部が均一に露出していない。のこぎりやチップソーによる切断面は、細胞の開口部が綺麗に均一に露出せず、細胞がむしり取られた状態で、開口部を塞いでいる。そのため、顕微鏡で観察すると、開口部は綿状或いは草原のように見え、ところどころに開口部が現れている程度である。従って、そういう状態の木材を炭化しても、均一に露出した炭化開口部を得ることは不可能であった。炭を砕いたり、折ったりすれば、割れ目(劈開面)が現れ、その面では孔(細胞の炭化物)の開口部が綺麗に均一に露出しているが、その面は曲面であったり、凹凸があったり、段差があったり、また細胞の方向に対しての角度が一定でない等、種々の問題がある。沢山の破片の中から、目的に合ったものを探すのは困難であった。
【0007】
また従来、精密切断機を用いて、木材の細胞方向に直角に、非常に薄く切断することは困難であった。2mm程度の厚さに切断することは可能であるが、その両面とも前述のように、細胞の切れ端が全面を覆っており、これを炭化しても細胞の炭化物が均一に露出した面は得られなかった。更に非常に薄いウエファー状で、その両面に炭化細胞が均一に露出し、且つ、ウエファーを細胞が貫通し、光が透過するウエファーを得ることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、(1)有害な薬品を使用せずに、低コストで製造が可能で、表面に多数の孔の開口部を有する部材の製造方法を提供すること。(2)孔の開口部が孔の内部の断面より小さい微細な孔を有する部材の製造方法を提供すること。(3)孔の開口の直径に対して、孔の深さを非常に大きくすることができる部材の製造方法をも提供すること。(4)多数の孔の開口部を有する表面の形状(均一性、平坦度等の面状、傾斜度等)を制御できる部材の製造方法を提供すること。(5)両面に木材の炭化された細胞が均一に露出した非常に薄いウエファー状部材の製造方法を提供すること。(6)両面に木材の炭化された細胞が均一に露出した非常に薄いウエファー状部材の周縁の少なくとも一部に、該ウエファー状部材の保護、補強、ハンドリングしやすさのための土手を設けた部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、木材の細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す少なくとも一つの表面において、該細胞の炭化物の開口部が均一に露出された部材の製造方法であって、
(1)木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向に、高エネルギー密度のレーザービームを走査照射して切断する、
(2)(1)において、レンズで収束される前のレーザービームの断面の略半分が遮断され、レンズで収束後の半コーン状のレーザービームの、レンズの中心を通り且つコーン状でないレーザービーム平面が、レーザービームの走査方向と一致するように、レーザービームを走査照射した後、該木材と前記レンズとの距離を短縮して、前記レーザービーム平面が、レーザービームの走査方向と一致するように、レーザービームの走査照射を行い、必要なら更にこの走査を繰り返す、
(3)木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向に、鋭利な刃物で或いは高エネルギー密度のレーザービームで切断して細胞の開口部を露出させ、しかるのちに該露出部分に高温に加熱された物体を短時間接触させることによって切断面を炭化する、
(4)木材が炭化する温度に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材の刃で木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度で切断する、
(5)木材が炭化する温度に加熱された直線状のエッジを有する角状体のエッジ部を木材に押し当てて、その細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向にスイープする、
(6)上記(1)〜(5)の方法によって得られた部材を、更に低酸素ないし無酸素雰囲気で高温炭化処理する、
のいずれかの方法によるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、薬品を使用せず、ドライ工程で、しかも低コストで、多くの先端技術分野への応用が可能な、表面に多数の微細孔を有する部材が得られる。また、後述するように、孔の開口部が孔の内部の断面よりも小さい孔を得ることも可能であるという利点がある。更に、孔の開口部を有する表面の形状を制御できる利点がある。本発明の製造方法によれば、薄いウエファー状の部材の両面に、炭化細胞が露出し、しかも細胞がウエファーを貫通し、光を通すことができる部材をも得ることが可能である。また、本発明の方向によって得られた部材を用い、炭化され露出している細胞の中に、磁性体を初め、金属、触媒、樹脂その他の物質を導入することにより、機能性材料の改良或いは新規開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の(1)の方法による製造方法の説明図である。
【図2】図2は本発明の(1)の方法により製造されたウエファー状部材の斜視図である。
【図3】図3は本発明の(1)の方法により製造された他のウエファー状部材の斜視図である。
【図4a】図4aは本発明の(1)の方法による製造方法の説明図である。
【図4b】図4bは本発明の(2)の方法による製造方法の説明図である。
【図5】図5は本発明の(3)の方法による製造方法の説明図である。
【図6】図6は本発明の(4)の方法による製造方法の説明図である。
【図7】図7は本発明の(4)の方法の改良された製造方法の説明図である。
【図8】図8は本発明の(5)の方法による製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の(1)の方法の説明図であって、1は木材、2は高エネルギー密度の収束されたレーザービームである。木材の細胞の方向は、図1で左右方向である。レーザーは出力10〜100ワット程度の炭酸ガスレーザーを用いることができる。木材の厚さは、材質にもよるが15mm程度までは可能である。この方法により得られる面は、広い範囲に渡り均一である。すなわち、切り残しがなく、凹凸や段差もなく、切り口が同一平面上に存在しているのである。レーザービームの走査速度や照射エネルギー密度を適当に選ぶことにより、表面の孔の開口部の狭さや炭化される深さを変えることができる。レーザービームのエネルギーが大きい場合は、開口部が高温に曝され、瞬間的に溶解し表面張力でリング状に集まると考えられる。このリングが形成されるため、開口部の開口が狭くなると考えられる。しかし、レーザービームによる切断では、孔の開口はあまり小さくすることは困難である。
【0013】
レーザービームによって木製の板を切断したり、木材や木にパターンを描くことは公知である。しかし、切断面を利用することは知られていない。ましてや、切断したものを高温で炭化処理して利用することも知られていない。
【0014】
レーザービームの走査照射によって木材を切断或いは深く切り込みを入れた後、レーザービームの走査位置をずらして走査照射することにより、非常に薄いウエファーが得られることが判った。最初の走査位置から、1mmずらして走査照射すると、約0.8mmの厚さのウエファーが得られる。驚くべきことに、走査位置を適当にずらすことにより、0.5mm或いはそれ以下の厚さのウエファーも製造可能である。但し、この方法では、大きな面積のウエファーを得ることは困難である。また、レーザービームがコーン状に収束されているので、レーザービームによる切り込み断面は、木材の表面近傍が広く、深部の方が狭くなる。換言すれば、レーザービームにより切り込まれた溝の断面はゆるいテーパー状になるのである。その結果、得られるウエファーの厚さは、ウエファー全体にわたって完全に一定ではないという問題はあるが、この問題は後記のように(2)の方法により解決できる。
【0015】
図2は本発明の(1)の方法により製造されたウエファーの1例の斜視図である。22は薄いウエファー部分、23はその周縁3辺の片面に形成された土手である。土手23は薄いウエファーの補強の役目を果たすと同時に、ピンセットでこの部分を掴むことができ、ハンドリングに便利である。このような形状のウエファーの製造方法は実施例3に示す。土手は必ずしも3辺に設ける必要はなく、少なくとも1辺或いは一部に設けてもよい。
【0016】
図3は本発明の(1)の方法により製造されたウエファーの他の例の斜視図である。22は薄いウエファー部分、23はその周縁3辺の片面に形成された土手である。24はウエファーの反対側の面の周縁の3辺に形成された土手である。このような構造により、ウエファーの補強効果は一層向上し、また、ウエファーを台の上に置く際に、ウエファーの面が直接台に接触しない利点がある。このような形状のウエファーの製造方法は実施例4に示す。土手は必ずしも3辺に設ける必要はなく、少なくとも1辺或いは一部に設けてもよい。
【0017】
本発明の(1)の方法では、出力25〜60Wのレーザーを用いた場合、木材1の厚さは15mm程度が限界である。その理由は、レーザービームが図4aのように収束されるため、更に厚い木材を更に深く切り込もうとして、レーザービームの収束点の位置が深くなるように、木材をレンズ5寄りに近づけると、最初に切り込まれた切り口にレーザービームが当たるので、切り口が広くなってしまうからである。すなわち、コーン状のレーザービームが、深く進むにしたがって、コーンが切り口に当たると考えると理解しやすい。このような現象があるので、15mm程度の板厚の木材の切断が限界なのである。更に大出力のレーザーを用い、収束レンズの焦点距離を長くすれば、更に厚い木材も切断できるが、レーザー装置の価格が非常に高くなる。
【0018】
図4bは、本発明の(2)の方法の説明図であって、図4aは通常のレーザービームの収束の様子を示しており、図4bは本発明の(2)の方法のレーザービームの収束の様子を示している。図4aにおいて、3はレーザー発振器から放射されたレーザービームで、発振器とレーザービーム収束系との間の任意の場所のレーザービームである。4はレーザービーム3を反射させて、レンズ5に導くための反射板である。6はコーン状に収束されたレーザービームで、コーンの先端がレーザービームの収束点である。実際には、図4aのように極端にビームが収束されるのではなく、レーザービーム3は直径が3ミリメートル前後と非常に細いのであるが、理解しやすいように誇張して描いてある。収束点の近くに木材(図示せず)が配置される。前述のとおり、収束点が下に移動するか、木材が上方に移動すれば、レーザービームによる切り口とコーン状レーザービームがぶつかることが容易に理解できる。
【0019】
図4bにおいて、7はレーザービーム3の略半分(図では上半分)を遮断する遮断板である。図では遮断板がレーザービームに対して直角に配置されているように描かれているが、実際には直角から約1乃至5度程度傾いている。そのため遮断板で反射したビームは、光路からそれて発振器の方に戻らないようになっている。遮断板はレーザービームを遮断する部材であればよいが、レーザービームを吸収して温度上昇しないものが望ましい。実際にはレーザービームを殆ど反射する反射板で、アルミニウム板、ステンレス鋼板等を使用できる。遮断板7を配置したことにより、遮断されなかったレーザービーム8は、反射板4で反射されレンズ5により収束される。遮断板がない場合には、図4aのようにレンズ5で収束されるレーザービームは、コーン状である。それに対して図4bでは、レンズ5で収束されるレーザービームは、コーンを紙面に垂直な面で半分に縦割りした状態になる。コーンの左半分にのみレーザービームが存在する。収束されたレーザービームの走査方向は、コーンの縦割り面9、すなわち、紙面に直角の方向である。
【0020】
このような状態で、木材をレーザービームの収束点の近くに置き、レーザービームを紙面に垂直方向に走査すると、木材は切断されて切り口が生ずる。切り込み深さを大きくするために、木材の位置をレンズ5に近づけても、切り口の片面(図で右側)は、コーン状レーザービームに当たらないので、片側の切断面は広がらない。次に、遮断板7の位置を、図4bで下方にずらし、レーザービーム3の下半分を遮断すると、レンズ5で収束されたビームは、コーンを半分に縦割りした右半分にレーザービームが存在する。そこで、上記で切断した位置から希望の距離だけ走査位置をずらして走査照射すると、極めて薄く、厚さが全面に渡り均一なウエファーが得られる。
【0021】
図5は本発明の(3)の方法の説明図であって、10は木材1の端部を鋭利な刃物或いは高エネルギー密度のレーザービームで切断した切断面である。鋭利な刃物としては、カッターナイフ、小刀、カミソリ、カンナ等がある。刃物が非常に鋭利で良く切れる場合は、面2には細胞が均一に露出するが、刃先が少しでも破損していたり、切れ味が悪いと細胞がむしり取られ、綺麗に均一に露出させることができなくなるので注意が必要である。11は高温に加熱された平板で、約1〜約5mm厚の金属板(好ましくはステンレス鋼板)、セラミック板等が用いられる。平板11の温度は、木材表面の細胞が炭化される程度の温度で、約450〜約650℃が適当であるが、この範囲外でも実施可能である。平板11は矢印12の方向に、面10に軽く短時間押し当てられる。
【0022】
平板11は高温なので、平板11が面10に接触した瞬間に表面の細胞が溶けて炭化する。溶けた状態で軽く押し付けられるため、細胞(孔)の開口部の壁が広がって厚くなり、開口部の開口が小さく(狭く)なる。また、熱が細胞の少し奥の方まで到達するので、面10の表面だけでなく、0.1mm程度内部までも炭化される。細胞の開口部の狭さや炭化される領域の深さは、平板11の温度、材質、厚さ、接触時間等により変化するので、適宜選択することができる。面10と平板11とが接触すると、その間に空気が殆ど存在しなくなり、燃えずにしかも瞬間的に炭化されると考えられる。面10と平板11との間に滑りがあると、細胞の開口部が塞がってしまうので注意が必要である。開口を塞ぐ必要がある場合は、逆にこの現象を利用することができる。
【0023】
図6は、本発明の(4)の方法の説明図であって、13は高温に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材であり、カッターナイフ、小刀、カミソリ等が用いられる。木材1の端部に近い部分を細胞とほぼ直角に切断する説明図である。通常のカッターナイフでは熱容量が小さいので、木材の厚さは約5mm以下でないと細胞の開口が均一に露出された状態に切断できない。更に厚い木材を切断する場合は、通電加熱するとか、先端はカッターナイフのように鋭利だが、先端から離れた部分を厚くして熱容量を大きくする必要がある。図6の方法によっても開口部が孔の内部の断面より小さい孔を得ることができる。
【0024】
図6では、部材13が木材1の端部に近い部分を切断しているが、その理由は部材13の熱が奪われにくくするためと、切断された部分を速やかに脱落させるためである。部材13のが、切断終了まで切断部に接触していると、部材13と切断面との間に滑りが生じ、細胞の入口が塞がってしまうことがある。部材13先端が通過したら、部材13の先端部以外は速やかに切断面から離れる方が望ましい。そのためには、部材13は先端の進入方向より、やや木材1端部側に傾斜しているのが望ましい。これを実現するには、端部に近い所を切断するのがよいのである。木材1の中央部を切断したのでは、切断しながらすでに切断された部分の幅を広げることは困難である。
【0025】
図7は、本発明の(4)の方法の改良された方法を示す説明図であって、高温に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材13で、木材1の中央部を切断する例を示す。木材1の中央部に配置された2個の支点16と17で木材1を支え、木材1の両端に荷重14と15を加えると、木材1は中央部が上に凸になるように曲げ荷重を受ける。実際には図7に表現されているほど撓まないが、図面では誇張して描かれている。この状態で高温の部材13を押し付けると、部材13によって形成された切り口が曲げ荷重により容易に広がるので、部材13が切り口の壁と接触している時間が短くなり、接触面に余分の炭化物が堆積する現象が回避できる。
【0026】
この考えは、本発明の(1)と(2)の方法にも適用できる。部材13の代わりに、図1のレーザービーム2で置き換えればよい。レーザービームの場合は、高温の部材が接触することはないが、切り込み部で発生する熱により、余分の堆積物が形成されるのを防ぐことができる。また、木材の1端から他端へのレーザービームの走査照射が終了する毎に木材の位置を上昇させれば、更に厚い木材の切断も可能である。
【0027】
図8は、本発明の(5)の方法の説明図であって、18は木材1を細胞方向に対して斜めに、通常の機械的手段により切断された面である。通常の機械的手段としては、のこぎり、チップソー、カンナ等がある。19は高温に加熱された物体で、金属やセラミック製の角状体(例えばステンレス鋼製の四角棒)で、20は紙面と直交する角状の直線状のエッジである。Aは細胞方向と切断面18との間の角度である。エッジ20の内角Bは90度前後が望ましい。角状体19を矢印21の方向に切断面18に押し付けながらスイープすると、エッジ20に接触した部分の木材は瞬間的に溶けて炭化される。スイープ速度と押し付け圧を適当に選ぶことにより、広い面積で細胞が均一に露出した部材が得られる。切断面18には、機械的手段で切断した際に多数の髭状の繊維が残っていて、顕微鏡で観察すると綿状、毛布の表面状或いはビロードのように見え、細胞の露出端はそれに隠れて殆ど見えないが、スイープすることによりこれらの髭が一掃され、綺麗な面が露出する。矢印21の方向は、必ずしも切断面18と平行な方向である必要はなく、切断面18に食い込む方向であっても良い。角状体19の熱容量が大きいほど深く食い込んでも良い。角状体19と木材1とが、面接触しないことが重要である。面接触した状態でスイープすると、開口が塞がってしまうことがある。
【0028】
上記の説明で、スイープとは、エッジで掻き落とす、或いはエッジでそぎ落とすという動作を含んでいる。例えば、高温に加熱された小刀で、切断面の髭状残査をそぎ落としながら、露出した細胞の開口部を炭化する方法も含まれる。また、高温に加熱されたちょうな(手斧)のような形状の刃物で、切断面の髭状残査を掻き落としながら、露出した細胞の開口部を炭化する方法も含まれる。
【0029】
本発明において、設定された角度という表現が使われているが、この角度は通常90度である。すなわち、木材の細胞の方向と直角である。この角度を30度とか45度に設定すると、開口部を楕円形にしたり、物質を真空蒸着して開口部の片側にだけ付着させることが容易にできるようになり、新しい用途が開発される可能性がある。
【0030】
本発明において、少なくとも一つの表面とは、例えば平板状の部材の片面或いは両面という意味も含んでいる。長尺部材の一方の端面の意味も含んでいる。
【0031】
木材としては、赤松、エゾ松、栂、その他の針葉樹が好適であるが、広葉樹でも本発明に使用できる。
【実施例1】
【0032】
本発明の(1)の方法(図1)の実施例を示す。レーザー加工装置として、株式会社ユー・イー・エス社のバーサレーザー・プラットフォームシリーズのモデルVLS3.60を使用した。出力25ワットの炭酸ガスレーザーである。被加工材料として、厚さ14mm、幅25mm、長さ200mmのエゾ松の板を、長さ方向(細胞の方向)と直角方向(幅方向)に走査照射するように、厚さ方向を上下にしてワークテーブルの上に固定し、端部から45mmの位置で容易に切断することができた。この方法により得られた切断面は、ほぼ全面に渡り開口部が炭化された細胞が均一に露出された。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同じレーザー加工条件で、実施例1で切断した位置から、レーザービームを0.7mmずらして走査照射し、次に1mmずらして走査照射、更に2mm、3mm、4mm、5mmとずらして走査照射し、約0.5mm厚、0.8mm厚、1.8mm厚、2.8mm厚、3.8mm厚、4.8mm厚で、サイズが25×14mmのウエファーが得られた。得られたウエファーの両面に炭化細胞が均一に露出した。0.5mm、0.8mmという薄さは驚くべきことである。0.5mm厚、0.8mm厚のウエファーでは、光学顕微鏡で光が貫通することが確認された。1.8mm厚のウエファーでも、光がかなり透過した。2.8mm厚のウエファーでは、部分的に光が透過した。このような厚さでも光が細胞孔を通って透過するということは驚くべきことである。
【実施例3】
【0034】
実施例2で得られた薄いウエファーは、破損しやすいので、取り扱いに注意する必要がある。ガラス板や金属板に置かれたウエファーを、ピンセットでつまみ上げる際に、ウエファーの端部がピンセットでつかみにくいという問題がある。また、ウエファーを直接ガラス板や金属板に置くと、汚染や破損の原因になる恐れもある。そこでウエファーの周縁部に土手を設ける例を以下に示す。実施例2と同じエゾ松の板(厚さ14mm、幅25mm、長さ200mm)を用い、実施例1と同じ加工条件のレーザービームを、まず図1のように長さ方向の端面から10mmのところを走査照射し、長さ方向と直角(幅方向)に、全幅にわたり切断した。端面は電動カッターによる切断面であり、細胞が殆ど露出していないので、この端面から10mmの部分は使用しない。次に、幅全体にわたって切断せずに、両側に2mmずつ切断されない部分を残すように設定し、また、蒸発による溝の深さが12mmとなるようにレーザー出力を調節し、図1で左方向にレーザービームの走査の送りピッチを0.2mmに設定して10回走査照射した。この操作で、最初の切断面から左方に2×21×12mmの体積だけ蒸発除去された。次いでレーザーヘッド(図4aのレンズ5と反射板4とが一体で、ガイドに沿って移動する部分)を、走査方向と直角方向に0.7mmずらし、板が完全に切断されるようにレーザー出力を元に戻し、幅全体にわたり切断した。かくして切れ出されたものを、最後の切断面が下になるように置くと、図2に示すような、ウエファーの厚さが約0.5mm、周縁の3辺に、幅2mm、高さ2mmの土手が形成されたウエファー部材が得られた。この土手をピンセットで掴むことができ、ハンドリングがしやすくなった。また、土手はウエファーの補強の役目も果たしている。ウエファー部分を台の上に直接置きたくない場合は、土手を下にして置く。
【実施例4】
【0035】
実施例3において、最後の切断をせずに、レーザーヘッドを走査方向と直角に0.7mmずらし、蒸発による溝の深さが12mmになるようにレーザー出力を調節し、板の幅方向の両側に2mmずつ切断されない部分を残すように設定して、実施例3と同様に走査の送りピッチを0.2mmに設定して10回走査照射した。最後にレーザー出力を元に戻し、板の全幅を走査照射して切断した。かくして図3に示すような、厚さ約0.5mmのウエファーの3辺の上下に、幅2mm、高さ2mmの土手が形成された。このウエファーは、両面に土手があることによって、ピンセットで掴みやすく、補強もされており、更に、どのように台の上に置いてもウエファーの面が直接台に触れることがないという大きなメリットがある。また、実施例3で得られたウエファー部材とともに、高温炭化処理をした際に、ウエファーが反りにくいという顕著なメリットがある。実施例4で得られたウエファー部材は、土手が両面に形成されているので、一層反りにくい。
【実施例5】
【0036】
本発明の(2)の方法(図4b)の実施例を示す。レーザー加工装置として、実施例1と同じものを使用した。図の反射板4の手前にアルミニウムの遮断板を取り付け、レーザービーム3の半分を遮断した。縦割りしたコーンの縦割り面に沿ってレーザーヘッドが走査されるように設定した。レーザー出力を50Wにして実施例2と同様に切断した。次に遮断板をずらして、先に遮断された部分のビームのみが通過するようにした。レーザーヘッドを、コーンの縦割り面側の切断面側に0.5mmずらして切断したところ、0.3mm厚で、両面の開口部の細胞が炭化され均一に露出した、均一な厚さのウエファーが得られた。このように薄いウエファーが得られることは実に驚くべきことであった。
【実施例6】
【0037】
本発明の(3)の方法の実施例を示す。実施例1で得られたレーザービームによる切断面に、約600℃に加熱されたステンレス鋼板を、軽く短時間(0.1秒程度)押し付けることにより、細胞の開口を約60%に小さくすることができた。ステンレス鋼板の温度と接触時間を選ぶことにより、開口を完全に塞ぐまで開口の大きさを変化させることが可能であった。
【実施例7】
【0038】
実施例6において、木材をレーザービームで切断する代わりに、木材の端面を鋭利なカッターナイフで切断した。それ以外は実施例6と同様にして、同様の結果が得られた。
【実施例8】
【0039】
本発明の(4)の方法の実施例を示す。鋭利な刃状先端を有する部材として、小刀を用いた。ガスバーナーで小刀が赤熱するまで加熱した。24mm角のエゾ松の角材の端部から1mmの部分に、赤熱した小刀の刃を当て、長さ方向(細胞の方向)とほぼ直角に、しかも途中で刃が角材の端面から抜けるような力をかけて一気に切断した。切り落とされて落下した部分は、割れ目が入り、反っていた。残った切断面には、表面が炭化された細胞の開口が均一に露出していた。
【実施例9】
【0040】
本発明の(5)の方法の実施例を示す。断面が40×40mm、長さ100mmの鉄製角棒に、直径10mm、長さ250mmの鉄製丸棒をネジ込み、端部に木製の取手を取り付けた。角棒部を赤熱するまでガスバーナーで加熱し、67mm角の栂角材の端面に、角棒のエッジ部を当て、押し付けながらスイープした。スイープの初めの部分は接触時間が長いため、細胞の開口は塞がり炭化していたが、約5mm先から綺麗に炭化した開口が露出した。
【実施例10】
【0041】
実施例1〜実施例9では、細胞が完全に炭化される深さは0.1mm強かそれ以下である。更に深く炭化するには、実施例1〜実施例9で得られた部材全体を、低酸素ないし無酸素雰囲気で高温炭化処理を行う必要がある。実施例1で得られた厚さ14mm、幅25mm、長さ45mmの板を、セラミック製の容器に入れ、蓋をして酸素を遮断し、電気炉で室温から3時間かけてゆっくり温度を上げ、500℃で30分保持したのち、自然放置で室温まで戻した。この炭化処理により、全体が炭化されて収縮したが、セルの形状は相似的に縮小した。実施例2〜実施例9の他の実施例についても同様の結果が得られた。
【実施例11】
【0042】
実施例1で得られた厚さ14mm、幅25mm、長さ45mmの板を、低酸素雰囲気の電気炉で室温から4時間かけてゆっくり温度を上げ、750℃で30分保持したのち、自然放置で室温まで戻した。この炭化処理により、全体が炭化されて収縮したが、セルの形状は相似的に縮小した。得られたものは導電性であった。炭化温度が750℃前後、或いはそれ以上になると、得られる炭化物は導電性になるので、新しい用途に利用できると考えられる。実施例2〜実施例8の他の実施例についても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
孔の中に何を閉じ込めるかによって、医薬品分野、バイオ分野、半導体分野、IT分野、電池分野、フィルター分野等、本発明の部材の利用可能性は多岐に亘る。孔の中には、例えば、磁性体(メッキ、蒸着、コロイド粒子吸着、化学反応等による)、金属(メッキ、蒸着、コロイド粒子吸着、化学反応等による)、樹脂(モノマー含浸、液体圧入等による)、触媒等を導入することができる。導電性セルの特徴を生かした新しい先端技術分野等、その他利用可能性は非常に多い。
【符号の説明】
【0044】
1 木材
2 コーン状に収束された高エネルギー密度のレーザービーム
3 発振器からのレーザービーム
4 反射板
5 レンズ
6 コーン状に収束されたレーザービーム
7 遮断板
8 半分割されたレーザービーム
9 半コーン状に収束されたレーザービームの縦割り平面
10 木材の切断面
11 高温物体
13 鋭利な刃状先端を有する高温部材
14、15 荷重
16、17 支点
18 機械的手段による切断面
19 高温の角状体
20 角状エッジ
21 押し付けスイープ方向
22 ウエファー
23、24 土手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向に、高エネルギー密度のレーザービームを走査照射して切断する、
(2)(1)において、レンズで収束される前のレーザービームの断面の略半分が遮断され、レンズで収束後の半コーン状のレーザービームの、レンズの中心を通り且つコーン状でないレーザービーム平面が、レーザービームの走査方向と一致するように、レーザービームを走査照射した後、該木材と前記レンズとの距離を短縮して、前記レーザービーム平面が、レーザービームの走査方向と一致するように、レーザービームの走査照射を行い、必要なら更にこの走査を繰り返す、
(3)木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向に、鋭利な刃物で或いは高エネルギー密度のレーザービームで切断して細胞の開口部を露出させ、しかるのちに該露出部分に高温に加熱された物体を短時間接触させることによって切断面を炭化する、
(4)木材が炭化する温度に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材の刃で木材をその細胞の長さ方向に対して設定された角度で切断する、
(5)木材が炭化する温度に加熱された直線状のエッジを有する角状体のエッジ部を木材に押し当てて、その細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す方向にスイープする、
(6)上記(1)〜(5)の方法によって得られた部材を、更に低酸素ないし無酸素雰囲気で高温炭化処理する、
のいずれかの方法によるものであることを特徴とする木材の細胞の長さ方向に対して設定された角度を成す少なくとも一つの表面において、該細胞の炭化物の開口部が均一に露出された部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造され、少なくとも一つの面に炭化された木材細胞の開口が均一に露出した部材。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により製造され、表裏面に、炭化された木材細胞の開口が均一に露出した部材。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法により製造され、表裏面に、炭化された木材細胞の開口が均一に露出し、表裏面間で光が透過する厚さであるウエファー状の部材。
【請求項5】
請求項3及び請求項4の部材において、表裏面の少なくとも一方の面の周縁の少なくとも一部に土手が形成されたことを特徴とする部材。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法により製造され、少なくとも一つの面に炭化された木材細胞の開口が均一に露出し、該開口が炭化細胞の内部の断面より小さい部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4a】
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【図4b】
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