説明

被検物質評価方法

【課題】今日莫大な数の化学物質が存在する。これらの化学物質の中には、農薬、生理活性物質、重金属、大気汚染ガスなどの毒性物質や、薬剤、栄養補助食品などの有用物質がある。化学物質の効果を評価するには、マウス、ラット、イヌ、サルなどの高等動物が用いられている。しかし、高等動物を用いると、多大な労力と時間と費用を要する。一方、バクテリアを用いると、形体形成、器官形成などの高次の生命現象が見られず、代謝系も多細胞生物とのギャップが大きい。経口摂取した被検物質が線虫に与える影響を評価できる被検物質評価方法を提供する。
【解決手段】被検物質を封入したマイクロカプセルを含有する培地中で線虫を飼育することで、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線虫を用いた被検物質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日莫大な数の化学物質が存在する。これらの化学物質の中には、農薬、生理活性物質、重金属、大気汚染ガスなどの毒性物質や、薬剤、栄養補助食品などの有用物質がある。
【0003】
化学物質の効果を評価するには、マウス、ラット、イヌ、サルなどの高等動物が用いられている。しかし、高等動物を用いると、多大な労力と時間と費用を要する。一方、バクテリアを用いると、形体形成、器官形成などの高次の生命現象が見られず、代謝系も多細胞生物とのギャップが大きい。
【0004】
このため、高等動物より簡易に試験が行え、ヒトのような動物の神経系、生殖器官を有し、しかもヒトとの類似度性がある動物を用いることが要求されている。このような動物として、線虫のシノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)を用いる毒性試験方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開昭55−153599号公報
【特許文献2】特開2005−10110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬剤、栄養補助食品などの物質の場合、経口摂取による影響を正確に評価することが重要である。しかし、上記文献に記載の方法では、いずれも培地に被検物質を加え、それが線虫に与える影響を評価する。このため、物質が線虫に影響を与えたのが、経口摂取によるものか、経皮摂取によるものか区別できない。また、培地全体に溶け込ませる方法の場合、多量の被験物質を確保する必要がある。しかし、試験的に得られた天然抽出物などでは極めて少ない量の被験物質で試験を行う必要があり、経口的に確実に摂取させるほうが望ましい。さらに、培地に被検物質を加える方法では、被験物質の分子量や化学的性質により、線虫の体表面から吸収される量が異なると推察され、体内移行量を把握することは容易ではない。また、薬剤、栄養補助食品などの被検物質を摂取させた後に、病原菌などを摂取させることで、薬剤、栄養補助食品などの免疫力賦活効果を評価することができる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、経口摂取した被検物質が線虫に与える影響を評価できる被検物質評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、被検物質を封入したマイクロカプセルを含有する培地中で線虫を飼育することで、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果が評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
上記線虫は、シノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)であればよい。
【0009】
被検物質の生物機能に対する効果は、線虫の寿命の長短により評価することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被検物質評価方法を用いると、被検物質が経皮吸収される影響を排除して、経口摂取した被検物質が線虫に与える影響を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
[線虫]
本発明の被検物質評価方法に用いる線虫(シノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans))は、1500種程度知られている中から選択された体長約1mmの土壌線虫の一種である。この線虫は、飼育が容易で体細胞数が約1000個と少なく、雌雄同体が自家受精で増殖することができるものである。線虫は神経系、筋肉、消化器官、生殖器官等および表皮をもち、動物としての基本的体制をもっており、その遺伝子もヒトに近く、また、ヒトと同じ真正後生動物に属する。この線虫は、老化の分子生物学研究の実験動物や、病原微生物の感染モデルとして用いられている。
【0013】
このような線虫として、例えば、Caenorhabditis elegans Briostol株N2雌雄同体型が挙げられる。この線虫は、例えばCaenorhabditis Genetics Center(University of Minnesota、St Paul、MN、USA.)より入手することができる。本発明において、被検物質の評価は、線虫の寿命の長短により行う。通常、Caenorhabditis elegans Briostol株N2雌雄同体型の寿命は、25日程度である。線虫は毎日観察し、線虫を器具で軽く触れて動かなかった固体を死亡したものとして、評価した。なお、本明細書中において、25℃の温度条件下で飼育した場合に、線虫の幼虫期とは孵化後0〜3日齢を、成虫期とは4日齢以降をいう。
【0014】
線虫の飼育は、「C.elegans:A PRACTICAL APPROACH」、「線虫ラボマニュアル」記載の方法を一部変更して行う。
【0015】
[被検物質]
本発明で評価することができる被検物質は、経口摂取してその効果を評価するものであれば特に制限はない。本発明の方法は、薬剤や栄養補助食品などのように経被吸収の影響を排除して評価する必要があるものに用いることができる。
【0016】
[マイクロカプセル]
本発明で用いることのできるマイクロカプセルとしては、特に制限はなく、公知のマイクロカプセルが使用できる。マイクロカプセルは、相分離法、液中乾燥法、融解分散冷却法、スプレードライング法、パンコーティング法、界面重合法、in situ重合法、液中硬化被覆法などの公知の方法を用いて、形成することができる。
【0017】
マイクロカプセルの壁材、分散層は、封入する被検物質の性状(親油性、親水性など)種類によって、適宜選択することができる。壁材としては、特に制限はなく、アラビアガム、ゼラチン、ポリ乳酸、リン脂質などの公知の材料が使用できる。マイクロカプセルの壁剤の材質としては、線虫が忌避反応を起こさないものを選べばよい。また、被検物質が親油性の物である場合にはアラビアガムを用い、被検物質が親水性の物である場合にはフォスファチジルコリンなどのリン脂質を用いてリポゾームに封入すると、好ましい。また、親油性物質の場合であっても、水と混和する有機溶媒(例えば、ジメチルスルフォサイド、エタノールなど)に溶解させたものを水に混合させる、あるいは界面活性剤を用いて水と混和したものであれば、リン脂質を用いて、マイクロカプセル(リポゾーム)を作ることができる。
【0018】
本発明では、マイクロカプセルの粒径の大きさが重要である。線虫は、通常大腸菌を餌として飼育される。また、酵母サイズ(5μmより大きく、10μmより小さいサイズ)の大きさのものは、線虫が摂取しにくい。したがって、マイクロカプセルの粒径が、大腸菌の大きさと同じ程度(例えば、2μm〜5μm程度)であると好ましい。
【0019】
[評価方法]
被検物質は、マイクロカプセルに封入し、緩衝液に分散したものを、線虫育成用寒天平板に塗布する。この状態でしばらく置くと、緩衝液が寒天に吸収され、マイクロカプセルが線虫育成用寒天平板上に残る。この寒天平板上で所定期間線虫を飼育する。線虫の寿命を観察することで、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を評価する。また、薬剤、栄養補助食品などの被検物質を摂取させた後に、病原菌などを摂取させることで、薬剤、栄養補助食品などの効果を評価する。
【0020】
また、本発明の評価方法では、マイクロカプセルが存在する線虫育成用寒天平板で線虫を飼育する期間を変えることで、摂食した被検物質が線虫に影響を与える時期を正確に評価できる。例えば、ビタミンEでは、幼虫期のみの投与で、寿命を延長させることができる。
【0021】
[摂取量の測定方法]
本発明で用いるマイクロカプセルに、蛍光物質や抗原を被検物質とともに封入しておくと、線虫が被検物質をどの程度の量を摂取したかを容易に測定できる。すなわち、蛍光物質や抗原が封入されたマイクロカプセルを線虫に摂食させる。一定時間経過した後、線虫体内の蛍光物質の分布を蛍光顕微鏡で観察する。あるいは、虫体から回収される抗原量を酵素抗体法で測定する。これにより、単位時間当たりのマイクロカプセル摂取量を算定する。これからマイクロカプセルおよび包含される被検物質の経口摂取量を求めることができる。また、マイクロカプセルに封入する被検物質の濃度を調整することで、投与量を調整することも容易である。
【0022】
本発明の方法によれば、被検物質が経皮吸収される影響を排除して、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を直接評価できる。特に、経口摂取量を正確に測定でき、その効果を評価できる。この結果、薬剤、栄養補助食品などの経口摂取による物質の影響を正確に評価することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0024】
以下の実施例において、線虫、試薬、培養液は以下のものを用いた。
線虫:Caenorhabditis elegans Briostol株N2雌雄同体型(線虫)を用いた。
線虫育成用寒天平板(Nematode Growth Medium:NGM plate):
NaCl(和光純薬工業)1.5g、Agar(和光純薬工業)8.5gを485mlの蒸留水に混合し、オートクレーブ(121℃、15min)滅菌し、60℃のウォーターバス内で1hr冷却した後、1M CaClを500μl、1M MgSOを500μl、エタノール(和光純薬工業)で5mg/mlに調整したコレステロール(和光純薬工業)を500mg/ml、1M KPOを12.5ml混合し、直径60mmのシャーレ(Kord Products Inc.、Bramptom、Ontario、Canada)に12mlずつ分注したものを用いた。
【0025】
TRYPTONE SOYA寒天平板(TSA):
TRYPTONE SOYA AGAR(Oxoid)20gを500mlの蒸留水に混合し、オートクレーブ(121℃、15min)で滅菌して冷却後、90mmシャーレ(Greiner Bio−One)に約20mlずつ分注したものを用いた。
【0026】
M9 buffer:
KHPO(和光純薬工業)1.5g、NaHPO(和光純薬工業)3g、NaCl(和光純薬工業)2.5gを蒸留水500mlに混合し、オートクレーブ(121℃、15min)で滅菌して冷却後1M MgSO 500μlを加えて混合したものを用いた。
【0027】
1Mアジ化ナトリウム−M9溶液:
アジ化ナトリウム(和光純薬工業)0.65gを10mlのM9 bufferに加えて溶解させ、1Mアジ化ナトリウム−M9溶液を作製した。これを母液として、M9 bufferでそれぞれ希釈を行い、50mMアジ化ナトリウム−M9溶液と10mMアジ化ナトリウム−M9溶液を作製した。
【0028】
(親油性物質の取り込み)
(実施例1)
(マイクロカプセルの取り込みの確認)
蛍光マイクロカプセルの作成
オートクレーブ(121℃、15min)により滅菌した蒸留水3.5gとアラビアガム0.75gを遠心チューブに入れ、よく撹拌し、溶解させた。そこに、孔径0.45μmのディスクフィルター(東洋濾紙、東京)で濾過滅菌した、蛍光物質3、3’−Dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate(DiO、Sigma、 D4292)2.5mgを大豆油(和光純薬工業)1.0gに溶解した液0.75gを加え、氷上にて超音波分散機(UH−50、エスエムテー)の最大出力で2分間処理して、粒経1〜5μmのマイクロカプセルを作成した。
【0029】
蛍光物質含有マイクロカプセルの線虫への投与
TSAで一晩培養した餌となるOP(Escherichia coli OP50(以下「OP」という))をM9 bufferで200mg/mlに調整したもの50μlと蛍光物質含有マイクロカプセル50μlを撹拌混合した後、NGM plateに塗布した。その上に線虫を数匹ワームピッカーを用いて移し、一日間餌を自由摂食させた。
【0030】
蛍光物質含有マイクロカプセルの線虫への取り込みの確認
15ml容量のチューブに、3mlの10mMアジ化ナトリウム−M9溶液と0.15gのAgar(和光純薬工業)を入れ、撹拌した後、チューブのふたを緩めて電子レンジに数十秒かけて溶かし、5%寒天溶液を作った。5%寒天溶液は、固まらないうちに手早くスライドグラス(Matsunami)の上に滴下し、すぐに上からもう一枚スライドグラスをかぶせて平らなアガーパッドを作製した。アガーパッドが固まったら、上に重ねているスライドグラスをゆっくりと取り外し、アガーパッドの上に50mMアジ化ナトリウム−M9溶液を数滴のせて、その中に、ワームピッカーですくった線虫を載せた。その上に円形マイクロカバーガラス(Fisher Scientific)を被せて、顕微鏡観察用の線虫試料とした。
【0031】
結果
上記線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した。図1は、線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した写真である。図1から、線虫は、マイクロカプセルを摂取していることがわかる。
【0032】
(実施例2)
[ビタミンEを加えた培地上で飼育する線虫の寿命の評価]
本実施例では、以下の培地を用いた以外は、実施例1と同じものを用いた。
ビタミンE添加寒天培地(VE寒天):
α−トコフェロール(和光純薬工業)200mgをエタノール(和光純薬工業)1mlに溶解させ調整した200mg/mlのα−トコフェロール溶液100μlをシャーレに分注する上記液状のNGM100mlによく撹拌しながら添加し、200μg/mlビタミンE添加NGMを作製し、直径60mmのシャーレ(Kord Products Inc.、Bramptom、Ontario、Canada)に12mlずつ分注したものを用いた。
【0033】
0.1%エタノール添加寒天培地(対照用寒天):
シャーレに分注する前の液状のNGM500mlに、エタノール(和光純薬工業)500μlをよく撹拌しながら添加し、0.1%エタノール添加NGMを作製した。これを、直径60mmのシャーレ(Kord Products Inc.、Bramptom、Ontario、Canada)に12mlずつ分注したものを用いた。
【0034】
また、以下の実施例においては、観察により得られた結果は、4 Steps エクセル統計 第2版付属の統計ソフトStatcel 2(20)を用い、Kaplan−Meier法により生存率を計算後、Logrank testにより各群間の生存率の差を比較した。
【0035】
0.1%エタノール加寒天上での飼育が線虫の寿命に与える影響
3日齢まで成長した線虫を、OPを10mg/plateとなるように塗布したNGM plate上および0.1%エタノール加寒天上にそれぞれワームピッカーを用いて移した。その後、1日おきに新しくOPを塗布したplateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、0.1%エタノール添加群の線虫は全飼育期間をエタノール加寒天上で飼育し、対照群の線虫は全飼育期間をNGM plate上で飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0036】
NGM plate上で飼育した対照群と、NGMに0.1%エタノールを添加した培地上で飼育した0.1%エタノール添加群との間に、寿命の差はみられなかった。なお、本実施例では、0.1%エタノール添加群をビタミンE群に対する対照群として用いた。
【0037】
VE寒天上で全期間飼育することが線虫の寿命に与える実験
産卵期にある線虫から卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した。予め、TSAで37℃一晩培養したOPをVE寒天上および対照用の0.1%エタノール加寒天上に10mg/plateとなるように塗布した後、回収した虫卵を滴下した。3日齢まで飼育した後、OPを10mg/plateとなるように塗布したVE寒天上および対照用寒天上にそれぞれワームピッカーを用いて移し、その後、1日おきに新しくOPを塗布したplateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、ビタミンE群の線虫は、全飼育期間をVE寒天上で飼育し、対照群の線虫は、全飼育期間を対照用寒天上で飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0038】
全期間VE寒天上で飼育した群と、対照群との間に、寿命の差はみられなかった。このことから、全期間VE寒天上で線虫を飼育することは、線虫の寿命に対して、影響を及ぼさないと考えられた。
【0039】
幼虫期にのみVE寒天上で飼育することが線虫の寿命に与える影響
産卵期にある線虫から卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した。この後、TSAで37℃一晩培養したOPを10mg/plateとなるように塗布したVE寒天上および対照用寒天上にそれぞれ滴下した。3日齢まで飼育した後、OPを10mg/plateとなるように塗布した対照用寒天上にワームピッカーを用いて移し、その後、1日おきに新しくOPを塗布したplateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、ビタミンE群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期のみをVE寒天上で飼育し、その後3日齢以降は、対照用寒天上で飼育し、対照群の線虫は、全飼育期間を対照用寒天上で飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0040】
幼虫期のみVE寒天上で飼育した群と、対照群との間に、寿命の差はみられなかった。このことから、幼虫期にVE寒天上で線虫を飼育することは、線虫の寿命に対して、影響を及ぼさないと考えられた。
【0041】
成虫期にのみVE寒天上で飼育することが線虫の寿命に与える影響
産卵期にある線虫より卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した。この後、TSAで37℃一晩培養したOPを10mg/plateとなるように塗布した対照用寒天上に滴下した。3日齢まで飼育した後、OPを10mg/plateとなるように塗布したVE寒天上および対照用寒天上にそれぞれワームピッカーを用いて移した。その後、1日おきに新しくOPを塗布したplateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、ビタミンE群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期は対照用寒天上で飼育し、その後3日齢以降は、VE寒天上で飼育し、対照群の線虫は、全飼育期間を対照用寒天上で飼育した.また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0042】
成虫期のみVE寒天上で飼育した群と、対照群との間に、寿命の差はみられなかった。このことから、全期間VE寒天上で線虫を飼育することは、線虫の寿命に対して、影響を及ぼさないと考えられた。
【0043】
以上の結果から、VE寒天上飼育は線虫の寿命に対して影響を及ぼさないことがわかった。
【0044】
(実施例3)
[ビタミンE経口摂取が線虫の寿命に与える効果の評価]
以下のマイクロカプセルを作成して本実施例で用いた。
ビタミンE含有マイクロカプセル [MC(E)]:
α−トコフェロール(和光純薬工業)1.0gとトコフェロール除去コーン油(MP Biomedicals Inc、USA)0.6gとを混合した。次に、オートクレーブ(121℃、15min)により滅菌した蒸留水7.0gとアラビアガム1.5gを遠心チューブに入れ、よく撹拌し溶解させた。そこによく混合しておいたα−トコフェロールとトコフェロール除去コーン油を加えて、氷上にて超音波分散機(UH-50、エスエムテー)の最大出力で2分間処理して、MC(E)を作成した。
【0045】
対照用マイクロカプセル [MC(−)]:
オートクレーブ(121℃、15min)により滅菌した蒸留水7.0gとアラビアガム1.5gを遠心チューブに入れ、よく撹拌し溶解させた。そこに、トコフェロール除去コーン油(MP Biomedicals Inc、USA)1.6gを加えて、氷上にて超音波分散機(UH−50、エスエムテー)の最大出力で2分間処理し、MC(−)を作成した。
【0046】
MC(E)を全期間投与することが線虫の寿命に与える影響
産卵期にある線虫から卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した。TSAで37℃一晩培養したOPとMC(E)、またはOPとMC(−)とをボルテックスで混合したものを塗布したNGM plateに回収した虫卵を滴下した。このとき、OPは10mg/plate、MC(E)およびMC(−)は50μl/mlとなるように各プレートに塗布した。3日齢まで飼育した後、OPを10mg/plate、MC(E)またはMC(−)を50μl/mlとなるようにOPとMC(E)またはOPとMC(−)との混合物を塗布したNGM plate上に、ワームピッカーを用いて線虫を移した。その後、1日おきに新しくOPとMCとの混合物を塗布したNGM plateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした.このとき、MC(E)群の線虫は、全飼育期間OPとMC(E)の混合物を与えて飼育し、MC(−)群の線虫は、全飼育期間OPとMC(−)の混合物を与えて飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0047】
図2は、全期間ビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。横軸は、観察期間(day)を、縦軸は生存率(%)を示す。全期間ビタミンEを経口投与したMC(E)群(図2中、■で示す)と、対照となるMC(−)群(図2中、◆で示す)との間に、寿命の差はみられなかった(図2)。このことから、全期間MC(E)を経口投与して線虫を飼育することは、線虫の寿命に対して、影響を及ぼさないと考えられた。
【0048】
幼虫期にのみMC(E)を投与することが線虫の寿命に与える影響
産卵期にある線虫より卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した後、TSAで37℃、一晩培養したOPとMC(E)またはOPとMC(−)とをボルテックスで混合したものを塗布したNGM plateにそれぞれ滴下した。このとき、OPは10mg/plate、MC(E)およびMC(−)は50μl/mlとなるように各プレートに塗布した。3日齢まで飼育した後、OPを10mg/plateとなるように塗布したNGM plate上にワームピッカーを用いて移し、その後、1日おきに新しくOPを塗布したNGM plateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、MC(E)群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPとMC(E)の混合物を与えて飼育し、その後3日齢以降はOPを与えて飼育した。MC(−)群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPとMC(−)の混合物を与えて飼育し、その後3日齢以降はOPを与えて飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0049】
図3は、幼虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。横軸は、観察期間(day)を、縦軸は生存率(%)を示す。幼虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群(図3中、■で示す)と、対照となるMC(−)群(図3中、◆で示す)との間に、寿命の差がみられた(図3)。この結果から、幼虫期のみMC(E)を経口投与することが、線虫に対して寿命延長効果をもたらすことがわかった。
【0050】
成虫期にのみMC(E)を投与することが線虫の寿命に与える影響
産卵期にある線虫より卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した後、TSAで37℃、一晩培養したOPを10mg/plateとなるように塗布したNGM plate上に滴下した。3日齢まで飼育した後、OPとMC(E)またはOPとMC(−)とをボルテックスで混合したものを塗布したNGM plate上にワームピッカーを用いて線虫を移した。このとき、OPは10mg/plate、MC(E)およびMC(−)は50μl/mlとなるように各プレートに塗布した。その後、1日おきに新しくOPとMCとの混合物を塗布したplateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、MC(E)群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPを与えて飼育し、その後3日齢以降は、OPとMC(E)の混合物を与えて飼育した。MC(−)群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPを与えて飼育し、その後3日齢以降は、OPとMC(−)の混合物を与えて飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0051】
図4は、成虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。横軸は、観察期間(day)を、縦軸は生存率(%)を示す。成虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群(図4中、■で示す)と、対照となるMC(−)群(図4中、◆で示す)との間に、寿命の差はみられなかった(図4)。このことから、成虫期のみMC(E)を経口投与して線虫を飼育することは、線虫の寿命に対して、影響を及ぼさないと考えられた。
【0052】
以上から、ビタミンEをマイクロカプセルにより経口投与する場合、幼虫期にのみ投与することで、線虫に寿命延長効果をもたらすことがわかった。
【0053】
(実施例4)
[ビタミンE含有カプセル投与が線虫の感染抵抗性に与える影響の評価]
産卵期にある線虫より卵を回収し、25℃のインキュベーター内で1日培養した後、TSAで37℃、一晩培養したOPとMC(E)またはOPとMC(−)とをボルテックスで混合したものを塗布したNGM plateにそれぞれ滴下した。このとき、OPは10mg/plate、MC(E)およびMC(−)は50μl/mlとなるように各プレートに塗布した。3日齢まで飼育した後、SEを10mg/plateとなるように塗布したNGM plate上にワームピッカーを用いて移し、その後、1日おきに新しくSEを塗布したNGM plateに移しながら、毎日観察し、ピッカーで軽く触れて動かなかった個体を死亡とした。このとき、MC(E)群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPとMC(E)の混合物を与えて飼育し、その後3日齢以降はSEのみを与えた。対照群の線虫は、孵化後0〜3日間の幼虫期はOPとMC(−)の混合物を与えて飼育し、その後3日齢以降はSEのみを与えて飼育した。また、観察期間中にシャーレの壁に登ったものや、寒天中にもぐりこんだものは試験個体数から省いた。
【0054】
図5は、幼虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、サルモネラ菌感染における感染抵抗性を比較したグラフである。横軸は、観察期間(day)を、縦軸は生存率(%)を示す。幼虫期においてビタミンEを経口投与した後、成虫期からサルモネラに感染させたMC(E)群(図5中、■で示す)では、対照となるMC(−)群(図5中、◆で示す)との間に生存率の差はみられず、両群ともにサルモネラ感染によって、通常よりも早期に生存率が低下していく様子が観察された(図5)。
【0055】
以上の結果から、被検物質を封入したマイクロカプセルを線虫に経口投与し、線虫の寿命の長短を評価することで、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を評価できることがわかった。また、被検物質を封入したマイクロカプセルを線虫に経口投与する時期を変えることにより、投与時期の差による経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を評価できることもわかった。
【0056】
(親水性物質の取り込み)
(実施例5)
(マイクロカプセルの取り込みの確認)
蛍光マイクロカプセルの作成
蛍光物質フルオレセインナトリウム(以下、「ウラニン」という)の水溶液(2mg/ml)にL−α−ホスファチジルコリンなどのリン脂質を40mg/mlの濃度で溶解した。この溶液を攪拌、凍結、溶解を繰り返したものを試料液とした。孔径0.1μm、1μm、および5μmのワットマン社Nucleopore track−etched membraneを装着したリポゾーム作製装置用シリンジ(Mini−Extruder、Avanti Polar Lipid Inc.、Cat.No.610000)に、試料液を取り、65℃に加温したヒートブロック上でメンブレンを通過させて反対側にセットしたシリンジへ移動させた。この操作を繰り返すことで孔径と同じ(0.1μm、1μm、5μm)直径のウラニン水溶液を含むリポゾームを作製した。
【0057】
使用した線虫
線虫Bristol株N2の雌雄同体を実験に供した。線虫飼育用の餌として非病原性の大腸菌Escherichia coli OP50株(OP)を用いた。湿重量10mgのOPを25μl のM9 bufferに懸濁し、ペプトン未添加の線虫育成用寒天培地(NGM)に塗布した。虫卵をNGMに散布し、25℃のふ卵器内で3日齢まで飼育したものを用いた。
【0058】
蛍光物質含有マイクロカプセルの線虫への投与
表1に示す6種の条件で、ウラニンを添加したプレートを作成した。ウラニンをNGMに添加・塗布する場合(表1中、I−1、I−2、II)のウラニン濃度は、2mg/mlである。また、表1に示すように、各条件において、1プレートあたりのウラニン量は、I−1が25mgであるのに対し、他の条件(I−1、I−2、II、III−1、III−2、III−3)では、50μgであった。上記した3日齢の線虫を各プレートに50匹加え、3時間自由に摂食させた。
【表1】

【0059】
蛍光物質含有マイクロカプセルの線虫への取り込みの確認
15ml容量のチューブに、3mlの10mMアジ化ナトリウム−M9溶液と0.15gのAgar(和光純薬工業)を入れ、撹拌した後、チューブのふたを緩めて電子レンジに数十秒かけて溶かし、5%寒天溶液を作った。5%寒天溶液は、固まらないうちに手早くスライドグラス(Matsunami)の上に滴下し、すぐに上からもう一枚スライドグラスをかぶせて平らなアガーパッドを作製した。アガーパッドが固まったら、上に重ねているスライドグラスをゆっくりと取り外し、アガーパッドの上に50mMアジ化ナトリウム−M9溶液を数滴のせて、その中に、ワームピッカーですくった線虫を載せた。その上に円形マイクロカバーガラス(Fisher Scientific)を被せて、顕微鏡観察用の線虫試料とした。
【0060】
結果
上記線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した。図6は、線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した写真である。図6中、虫体の中に白く見える部分がウラニンである。図6から、高濃度のウラニンを添加したプレート(I−1)で飼育した線虫では、ウラニンが取り込まれていることがわかる。しかし、この場合に、経口摂取以外に経皮摂取によるウラニンの摂取も含まれている。低濃度のウラニンを添加したプレート(I−2)で飼育した線虫、低濃度のウラニンを培地表面に塗布したプレート(II)で飼育した線虫では、ウラニンを摂取していないことがわかる。一方、ウラニンを封入した直径1μmのリポソームを表面に含むプレート(III−2)で飼育した線虫では、ウラニンの摂取が認められた。
【0061】
蛍光物質含有マイクロカプセルの線虫への取り込み量の測定
上記各条件で3時間飼育した線虫各50匹を回収し、洗浄した。これをペッスルを用いて、物理的に粉砕した。この粉砕液の蛍光強度を測定し、あらかじめ既知の濃度ウラニンを溶解した複数のウラニン溶液の蛍光強度を測定して得た検量線から、線虫1匹あたりのウラニンの取り込み量を逆算して求めた。蛍光強度が、1000以下は不検出(ND)とした。蛍光強度は、蛍光マイクロプレートリーダー(Wallac社製,1420ARVO SX)を用いて、励起波長485nm・蛍光波長535nmで10秒間、測定した。結果を、図7に示す。図7は、各飼育条件における線虫1匹あたりのウラニンの取り込み量(ng)を示すグラフである。
【0062】
図7から、高濃度のウラニンを添加したプレート(I−1)で飼育した線虫では、約0.12(ng)のウラニンが取り込まれていることがわかる。また、低濃度のウラニンを添加したプレート(I−2)で飼育した線虫、低濃度のウラニンを培地表面に塗布したプレート(II)で飼育した線虫では、ウラニンの摂取が認められなかった。一方、ウラニンを封入した直径1μmのリポソームを表面に含むプレート(III−1、III−2、III−3)で飼育した線虫では、ウラニンの摂取(それぞれ約0.02(ng)前後)が認められた。また、リポソームの径が大きくなるほど摂取量が増加している。
【0063】
以上の結果から、本発明にかかるマイクロカプセルを用いると、少量の被験物質(50μg)を使用する場合は、リポゾームを用いた投与が、最も効率的に線虫に被験物質を取り込ませることができることがわかった。ウラニンを封入した直径1μmのリポソームを表面に含むプレート(III−1、III−2、III−3)では、1プレートあたりの使用ウラニン量は50μgであり、寒天平板に溶解させる方法(I−1)が25mgを要したのに比べると、1/500の使用量であったが、線虫体内へのウラニン取り込み量は1/5に低下するにとどまった。このことから、経口摂取による被検物質の評価をするには、本発明にかかるマイクロカプセルを用いる方法が優れていることがわかる。
【0064】
以上から、被検物質が親水性の物質の場合には、その水溶液をリン脂質を用いたマイクロカプセルに被検物質を封入することで、線虫の経口摂取による被検物質の評価をすることができることがわかった。


【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した写真である。
【図2】図2は、全期間ビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。
【図3】図3は、幼虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。
【図4】図4は、成虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、寿命の差を比較したグラフである。
【図5】図5は、幼虫期のみビタミンEを経口投与したMC(E)群と、対照となるMC(−)群との、サルモネラ菌感染における感染抵抗性を比較したグラフである。
【図6】図6は、線虫試料を蛍光顕微鏡で観察した写真である。
【図7】図7は、各飼育条件における線虫1匹あたりのウラニンの取り込み量(ng)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を封入したマイクロカプセルを含有する培地中で線虫を飼育し、経口摂取した被検物質の生物機能に対する効果を評価する被検物質評価方法。
【請求項2】
前記線虫がシノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)である請求項1に記載の被検物質評価方法。
【請求項3】
被検物質の生物機能に対する効果を、線虫の寿命の長短により評価する請求項1または2に記載の被検物質評価方法。






【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−145087(P2009−145087A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320205(P2007−320205)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(506411232)