説明

被膜付きセラミックス基複合材料およびその製造方法

【課題】製造が簡便で、被膜の厚さが薄く、高温雰囲気と低温雰囲気に繰り返し曝されても剥がれ難い被膜を表面に有する、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性を備える被膜付きセラミックス基複合部材の提供。
【解決手段】セラミックス基複合材料の表面に中間膜およびセラミックス膜をこの順で有し、前記中間膜が、高融点酸化物と1〜60体積%のガラス成分とから実質的になる被膜付きセラミックス基複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜付きセラミックス基複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなるセラミックス基複合部材(CMC)は、軽量で耐熱性に優れるため、ジェットエンジン部品(例えば、タービン翼、燃焼器、アフターバーナ部品等)へ適用することによって、エンジンの重量削減および燃料消費率の低減が期待される有望な材料である。
従来、このようなセラミックス基複合材料を適用した各種部品やその製造方法がいくつか提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には炭素繊維強化炭素複合材の基材面に、SiC下地被覆層、ムライト中間被覆層、SiO2またはB23もしくはB23・SiO2系のガラス質表面被覆層が3層状に積層被覆されてなることを特徴とする耐酸化性C/C複合材が記載されている。
【0004】
特許文献2には、耐熱強化繊維を埋設した主成分が炭素である母材層の表面に被覆されかつ耐熱強化繊維より高い耐酸化性を有する無機材からなる耐酸化性層と、該耐酸化性層の表面に一体に形成されかつ耐酸化性層よりも耐酸化性の高い表面被膜層とを具備することを特徴とする繊維強化複合材料が記載されている。
【0005】
特許文献3には、耐水蒸気性、耐酸化特性を備える層と、熱応力緩和機能を備える層とを有するセラミックス基複合材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−241087号公報
【特許文献2】特開平5−238860号公報
【特許文献3】米国特許第6969555号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セラミックス基複合材料の表面に被膜を形成して、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性を備えるものとするためには、その表面にいくつもの被膜を重ねて形成する必要があるため製造方法が複雑になるという問題点があった。また、積層数が増えるほど界面反応、界面剥離が生じる可能性が高まるという問題点があった。また、被膜全体としての厚さが大きくなるとコーティングに生じる熱応力が大きくなるため、剥離やクラック発生の原因となるという問題点があった。さらにコーティングが厚肉であるほど、剥がれた際にエンジン性能低下に与えるインパクトが大きいというという問題点があった。また、セラミックス基複合部材がジェットエンジン部品として用いられる場合、高温雰囲気と低温雰囲気に繰り返し曝されるので、セラミックス基複合部材の表面に形成された被膜が剥がれやすいという問題点があった。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は製造が簡便で、被膜の厚さが薄く、高温雰囲気と低温雰囲気に繰り返し曝されても剥がれ難い被膜を表面に有する耐熱応力性(耐熱衝撃性)を備え、また使用環境において水蒸気と反応して消失しない耐水蒸気性、被膜が酸化してコーティング機能を失わない耐酸化性を備える被膜付きセラミックス基複合部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討し、特定組成の中間膜とその上面のセラミックス膜とを有する被膜付きセラミックス基複合材料が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)〜(7)である。
(1)セラミックス基複合材料の表面に中間膜およびセラミックス膜をこの順で有し、
前記中間膜が、高融点酸化物と1〜60体積%のガラス成分とから実質的になる、
被膜付きセラミックス基複合材料。なお、高融点酸化物とは使用温度(環境温度)より融点(軟化点)が高く、外部から力を受けない限り構造が変化しない酸化物のことである。
(2)前記中間膜が、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射法によって形成されたものである、上記(1)に記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
(3)前記高融点酸化物が酸化ハフニウム、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ルテチウム、ケイ酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを主成分とする、上記(1)または(2)に記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
(4)セラミックス膜が酸化ハフニウム、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ルテチウム、ケイ酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを主成分とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
(5)前記中間膜および前記セラミックス膜以外の被膜を有さず、前記中間膜の厚さが200μm以下であり、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性を備える、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料を用いてなる、ジェットエンジン用部品。
(7)セラミックス基複合材料の表面に、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射して前記中間膜を形成する工程を備え、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料が得られる、被膜付きセラミックス基複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば製造が簡便で、被膜の厚さが薄く、高温雰囲気と低温雰囲気に繰り返し曝されても剥がれ難い被膜を表面に有する、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性を備える被膜付きセラミックス基複合部材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例の断面組織観察試験結果を説明するための断面写真である。
【図2】強度試験で用いた試験片の形状を表す図である。
【図3】実施例の強度試験の結果を示すグラフである。
【図4】実施例のバーナーリグ試験における熱サイクルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、セラミックス基複合材料の表面に中間膜およびセラミックス膜をこの順で有し、前記中間膜が、高融点酸化物と1〜60体積%のガラス成分とから実質的になる、被膜付きセラミックス基複合材料である。
このような被膜付きセラミックス基複合材料を、以下では「本発明の複合材料」ともいう。
【0013】
<セラミックス基複合材料>
初めに、本発明の複合材料におけるセラミックス基複合材料について説明する。
本発明の複合材料においてセラミックス基複合材料はセラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなり、一般的にCMC(Ceramic Matrix Composite)と称されるものである。
セラミックス基複合材料におけるセラミックス繊維およびセラミックスマトリックスの材質は特に限定されない。例えばSiC、C、Si34、Al23、ZrO2などからなるセラミックス繊維やセラミックスマトリックスであってよい。セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0014】
また、セラミックス基複合材料の構造も特に限定されず、例えば3次元構造を備える繊維織物であってよい。3次元構造の織物とは、例えばセラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって得られるものである。また、セラミックス基複合材料は2次元構造を備えるものであってもよい。
【0015】
セラミックス基複合材料の形状も特に限定されない。例えばタービン翼、燃焼器、アフターバーナ部品等のガスタービン部品に適した立体形状が挙げられる。また、平面形状であってもよい。
【0016】
<中間膜>
本発明の複合材料は前記セラミックス基複合材料を含み、その表面の少なくとも一部に、高融点酸化物と1〜60体積%のガラス成分とから実質的になる中間膜を有する。
中間膜は、前記セラミックス基複合材料の表面に存し、本発明の複合材料が水蒸気雰囲気や酸化雰囲気内にある場合に、水蒸気や酸素が前記セラミックス基複合材料と直接、接触することがないようにシールする機能を主に果たす。また、本発明の複合材料が有する被膜に亀裂が入った場合に、中間膜に1〜60体積%で含まれるガラス成分が、その亀裂内に浸透して亀裂を埋める役割を果たす。したがって、本発明の複合材料の被膜に亀裂が生じても、その亀裂を通じて水蒸気や酸素がセラミックス基複合材料と直接接することを防止できる。ここで中間膜に含まれるガラス成分の含有率が高すぎると、被膜が剥がれやすくなったり、前述のシール機能(水蒸気や酸素からセラミックス基複合材料を守る機能)が低下したりする傾向があり、逆に含有率が低すぎると、ここでいう亀裂を埋める役割を果たし難くなる傾向がある。
【0017】
中間膜は実質的に高融点酸化物およびガラス成分からなる。ここで「実質的に」とは、原料や製造工程から意図せずに含まれる不可避的不純物については含まれ得ることを意味する。
【0018】
ここで高融点酸化物は、酸化ハフニウム(HfO2など)、ケイ酸ハフニウム(HfSiO4など)、ケイ酸ルテチウム(Lu2Si27など)、ケイ酸イッテルビウム(Yb2SiO5、Yb2Si27など)、酸化チタニウム(TiO2など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5など)、ケイ酸アルミニウム(Al6Si213など)およびルテチウムハフニウム酸化物(Lu4Hf312など)からなる群から選ばれる少なくとも一つが主成分であることが好ましく、これらからなる群から選ばれる少なくとも一つであることがより好ましい。ここで「主成分」とは含有率が60体積%以上であることを意味し、この含有率は70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、実質的に100%、すなわち、酸化ハフニウム(HfO2など)、ケイ酸ハフニウム(HfSiO4など)、ケイ酸ルテチウム(Lu2Si27など)、ケイ酸イッテルビウム(Yb2SiO5、Yb2Si27など)、酸化チタニウム(TiO2など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5など)、ケイ酸アルミニウム(Al6Si213など)およびルテチウムハフニウム酸化物(Lu4Hf312など)からなる群から選ばれる少なくとも一つからなることがさらに好ましい。
高融点酸化物がこれらの成分からなると、セラミックス膜や前記セラミックス基複合材料との化学的親和性が高まり、被膜がより剥がれ難くなり好ましい。前記セラミックス基複合材料を構成するセラミックス繊維がSiCからなり、かつセラミックスマトリックスもSiCからなる場合に、このような効果が高まる傾向がある。
【0019】
中間膜が含むガラス成分の含有率は1〜60体積%であり、5〜50体積%であることが好ましく、10〜30体積%であることがさらに好ましい。この含有率が高すぎると、被膜が剥がれやすくなったり、前述のシール機能が低下したりする傾向があり、逆に含有率が低すぎると亀裂を埋める役割を果たし難くなる傾向がある。
【0020】
また、ガラス成分は耐熱ガラスであることが好ましい。また、ガラス成分は、本発明の複合材料の使用環境温度と関係で、その温度においてある程度の流動性を備えることになる組成を有するものであることが好ましく、軟化点が700℃以上のものであること好ましい。本発明の複合材料が有する被膜に亀裂が生じた場合に、流動性を備えるガラス成分がその亀裂に入り込み、塞ぐ役割を果たすからである。したがって、使用環境との関係でガラス成分は調整することが好ましい。
【0021】
中間膜の厚さは特に限定されないが、200μm以下であることが好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。また、中間膜の厚さは、後述するセラミック膜の厚さの1〜200%であることが好ましく、15〜50%であることがより好ましい。このような厚さであると、本発明の複合部材の耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性がより高まる傾向があるからである。
【0022】
ここで中間膜の厚さは、本発明の複合材料の断面を光学顕微鏡を用いて200倍で観察し、10mm幅の試験片から中間膜の任意の5箇所について厚さを測定して、それらの単純平均値を算出して求めた値を意味するものとする。
【0023】
また、中間膜は高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射法によって形成されたものであることが好ましい。溶射法によると中間膜を簡便に形成することができ、また、基材の強度劣化を引き起こすような温度(概ね1300〜1500℃)にしないで形成できる点で好ましい。
溶射法の具体的内容については、後述する本発明の好適製造方法と同様である。
【0024】
<セラミックス膜>
本発明の複合材料は、前記セラミックス基複合材料の表面に前記中間膜およびセラミックス膜をこの順で有する。また、本発明の複合材料は、前記セラミックス基複合材料の表面に前記中間膜を有し、その中間膜の表面にセラミックス膜を有することが好ましく、その他の膜を有さないことがさらに好ましい。被膜全体の厚さが薄くなるからである。また、製造工程が簡略化されるからである。
【0025】
本発明の複合材料においてセラミックス膜は、主として本発明の複合材料に耐熱応力性を付与する役割を果たす。
【0026】
セラミックス膜は酸化ハフニウム(HfO2など)、ケイ酸ハフニウム(HfSiO4など)、ケイ酸ルテチウム(Lu2Si27など)、ケイ酸イッテルビウム(Yb2SiO5、Yb2Si27など)、酸化チタニウム(TiO2など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5など)、ケイ酸アルミニウム(Al6Si213など)およびルテチウムハフニウム酸化物(Lu4Hf312など)からなる群から選ばれる少なくとも一つが主成分であることが好ましく、これらからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ここで「主成分」とは含有率が60体積%以上であることを意味し、この含有率は70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、実質的に100%、すなわち、酸化ハフニウム(HfO2など)、ケイ酸ハフニウム(HfSiO4など)、ケイ酸ルテチウム(Lu2Si27など)、ケイ酸イッテルビウム(Yb2SiO5、Yb2Si27など)、酸化チタニウム(TiO2など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5など)、ケイ酸アルミニウム(Al6Si213など)およびルテチウムハフニウム酸化物(Lu4Hf312など)からなる群から選ばれる少なくとも一つからなり、原料や製造工程から含有される不可避的不純物以外の成分は含まないことがさらに好ましい。
セラミックス膜がこれらの成分からなると、本発明の複合材料の耐熱応力性がより高まるからである。また、中間膜との化学的親和性が高まり、被膜がより剥がれ難くなり好ましい。
【0027】
ただし、セラミックス膜の組成は、前記中間膜の組成と異なるものとする。
【0028】
セラミックス膜の厚さは特に限定されず、使用目的によって変化させることができるが、1mm以下であることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。このような厚さであると、本発明の複合部材の耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性がより高まる傾向があるからである。
【0029】
ここでセラミックス膜の厚さは、前記中間層と同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0030】
本発明の複合材料は、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性に優れるので、ジェットエンジン用部品として好ましく用いることができる。
本発明の複合材料を用いてなるジェットエンジン用部品としては、タービン動静翼、燃焼器、アフターバーナ部品が挙げられる。
【0031】
<製造方法>
本発明の複合材料の製造方法は特に限定されないが、セラミックス基複合材料の表面に、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射して前記中間膜を形成する工程を備える製造方法であることが好ましい。この好ましい製造方法を、以下では本発明の好適製造方法ともいう。
以下に本発明の好適製造方法について説明する。
【0032】
本発明の好適製造方法では、初めにセラミックス基複合材料を用意する。セラミックス基複合材料は従来公知のものであってよく、その製造方法も特に限定されない。
例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって3次元の織物繊維を得て、さらにCVI法(Chemical Vapor Infiltration:気相含浸法)によって処理することで、セラミックス基複合材料を製造することができる。
また、例えば前記繊維束をマンドレル上にブレード織りして所望の立体形状とし、さらにCVI法によって処理してセラミックス基複合材料を得ることができる。ブレード織りとは、円柱形状等のマンドレルの周りにマンドレルの長手方向に延在する複数の中央糸(繊維束)と、螺旋状に巻回される組糸(繊維束)とを編み込むことによって、中空織物を形成する方法である。
また、例えば、縦糸と横糸からなる通常の平織り、ロービングを一方向に並列したプリプレグシート、3軸織物などを用意し、さらにCVI法によって処理して、平面形状のセラミックス基複合材料を得ることができる。
ここでCVI法は、例えば立体形状の繊維織物を専用治具に固定して炉内に置き、密閉し、加熱し、減圧雰囲気にした後、原料ガス(例えばメチルトリクロロシラン)を流入させることで、繊維織物における繊維表面や繊維間にマトリックスを形成する処理である。
【0033】
また、CVI処理を行った後、さらに湿式加振含浸法、乾式加振含浸法、乾式加圧含浸法、スラリー含浸法、ポリマー含浸焼結法(PIP法:Polymer Impregnation and Pyrolysis)等に供して、マトリックスを形成することもできる。CVI処理を行わないで、これらの方法に供してマトリックスを形成してもよい。
【0034】
具体的には、例えば、セラミックス基複合材料を原料粉末およびメタノールを入れたビーカー内へ浸漬させた後、振動を加え、しばらくしてからビーカー内から取り出して105℃程度で1時間程度乾燥させる湿式加振含浸法によってマトリックスを形成することができる。
【0035】
また、具体的には、例えば、セラミックス基複合材料を原料粉末を十分量入れたビーカー内へ埋めるように入れ、振動を加え、しばらくしてからビーカー内から取り出す乾式加振含浸法によってマトリックスを形成することができる。
【0036】
また、具体的には、例えば、セラミックス基複合材料を原料粉末を十分量入れた天然ラテックス製の薄肉の袋の内部に原料粉末に包まれるように配置し、袋の内部を真空引きし、しばらくしてから100MPa程度で加圧する乾式加圧含浸法によってマトリックスを形成することができる。
【0037】
本発明の好適製造方法では、セラミックス基複合材料の表面に、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射して前記中間膜を形成する。
【0038】
溶射する場合について説明する。
初めに原料粉末を用意する。そして、得られる中間膜におけるガラス成分の含有率を調整し、高融点酸化物となる原料とガラス成分となる原料とを混合する。
そして、100〜1000℃に加熱したセラミックス基複合材料に、アルゴン、水素などの作動ガスを使用してセラミックス基複合材料に対して垂直に吹き付けて溶射する。
【0039】
このようにして溶射して中間膜を形成した後、この中間膜の上にセラミックス膜を形成する。セラミックス膜の形成方法は特に限定されないが、例えば中間膜の場合と同様に溶射して形成することができる。
具体的には、セラミックス膜となる原料粉末を用意し、これを用いて100〜1000℃に加熱したセラミックス基複合材料に、アルゴン、水素などの作動ガスを使用して、セラミックス基複合材料に対して垂直に吹き付けて溶射する。溶射の後は、セラミックス膜の厚さが所望の値となるようにダイヤモンド、SiC等の研磨剤を用いて表面を削ってもよい。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例の範囲に限定されるものではない。
【0041】
<断面組織観察試験>
SiC繊維織物にSiCマトリックスを形成した直方体形状のセラミックス基複合材料(大きさ:10mm×10mm、厚さ:4mm)を2つ用意した。そして、各々のセラミックス基複合材料の表面へ、原料粉末を溶射して中間膜を形成した。ここで原料粉末は、高融点酸化物としてのムライトと、ガラス成分としてのPyrexガラス(登録商標)とを混合したものである。減圧下、不活性ガス雰囲気中にセラミックス基複合材料を設置し、これを100〜1000℃に加熱した後、セラミックス基複合材料の主面に略垂直に原料粉末を吹き付けて溶射し、中間膜を形成した。また、中間膜の厚さは75±25μmとした。
次に、中間膜の上面に、HfO2の原料粉末を溶射してセラミックス膜を形成した。溶射は中間膜を形成した場合と同様の方法で行った。ただし、大気雰囲気で大気圧下にて行った。また、セラミックス膜の厚さは300μmとした。
このようにして試験片を2つ作成した後、一方の試験片を、さらに1000℃で1h熱処理した。熱処理をしていない試験片を「試験片1」、熱処理した試験片を「試験片2」とした。
【0042】
次に、試験片1および試験片2の断面を光学顕微鏡を用いて観察した。断面写真を図1に示す。図1(a)が試験片1の断面写真、図1(b)が試験片2の断面写真であり、いずれも倍率は200倍である。
図1(a)、(b)から、試験片1、試験片2のいずれもムライトとPyrexガラス(登録商標)とからなり、Pyrexガラス(登録商標)を概ね50体積%含む中間膜が存在していることを確認できた。
【0043】
<水蒸気暴露試験>
断面組織観察試験で用いたものと同じセラミックス基複合材料を7つ用意した。そして、その中の6つのセラミックス基複合材料の両表面へ、断面観察試験の場合と同様の条件で同様の中間膜およびセラミックス膜を形成した。ここで中間層の厚さは断面組成観察試験の場合と同様に75±25μmとしたが、セラミックス膜は、3つを150μm、3つを300μmとした。
このようにして作成したセラミックス膜の厚さが150μmの3つの試験片と、300μmの3つの試験片と、中間膜およびセラミックス膜を形成していない1つの試験片について、水蒸気暴露試験を行った。
具体的には、各試験片を水蒸気暴露試験装置に入れて暴露した後、試験片の表面状態を観察し、割れや剥離等の有無を調査した。
【0044】
水蒸気暴露試験装置の仕様は次の通りである。
・東伸工業株式会社製
・最高温度:1500℃(常用1400℃)
・ヒーター:MoSi2
・試験チャンバー内の最大圧力:9.5気圧
・熱電対:Rタイプ熱電対(Pt−Rh)
・最大ガス流量:空気、窒素=〜2.01/min、
酸素、炭酸ガス=〜0.51/min
・試験チャンバー内のサイズ:φ80×180(420)Lmm
・導入ガス:空気、窒素、酸素、炭酸ガス
【0045】
このような水蒸気暴露試験装置において、Al23製の試験チャンバー内に試験片を設置し、チャンバー内の温度を1300℃、9.5atmに保持しつつ、チャンバー内へ水蒸気(大気:8.0atm、H2O:1.5atm)を常に供給して水蒸気暴露試験を行った。
そして、このような水蒸気暴露試験の暴露時間を、0h、60h、125h、185hと変化させた。具体的には、セラミックス膜の厚さが150μmの3つの試験片について、暴露時間を、1つを0h(試験片3)、もう1つを125h(試験片4)、さらにもう1つを185h(試験片5)とした。また、セラミックス膜の厚さが300μmの3つの試験片について、暴露時間を、1つを0h(試験片6)、もう1つを60h(試験片7)、さらにもう1つを185h(試験片8)とした。そして、中間膜およびセラミックス膜を形成していない1つの試験片について、暴露時間を60h(試験片20)とした。
【0046】
この結果、7つの試験片は、一部について端部にクラックが生じたが、表面は健全であり、試験片は形状を維持していた。
これに対して、本発明の範囲外である試験片20は、暴露によって形状が維持できないほど腐食していた。
【0047】
<強度試験>
断面組織観察試験で用いたものと同じ、中間膜およびセラミックス膜を形成していないセラミックス基複合材料を1つ用意し、これを試験片21とした。
次に、水蒸気暴露試験に供した後の7つの試験片および試験片21の残存強度を測定した。具体的には、試験片3〜8、試験片20および試験片21を、常温、大気中で3点曲げ強度試験に供し、得られた強度測定結果から、次の式(I)に従い残存強度率(%)を求めて評価した。試験片形状は、図2の形状とした。クロスヘッド速度は、0.5mm/minとした。
残存強度率=暴露試験後の試験片強度÷暴露試験前の試験片強度×100・・式(I)
【0048】
つまり、残存強度率は、試験片4および試験片5については、試験片3に対する強度の比(百分率)であり、試験片7および試験片8については、試験片6に対する強度の比(百分率)であり、試験片20については、試験片21に対する強度の比(百分率)である。
結果を図3に示す。
【0049】
図3から、本発明の範囲内であるすべての試験片について、残存強度率が100%以上となっていることがわかる。これは暴露によって被膜にクラックや剥離が生じても、中間膜中のガラス成分が浸透効果によってその隙間部分を埋めたためと考えられる。
これに対して本発明の範囲外である試験片20の強度は0%となった。
【0050】
<バーナーリグ試験>
SiC繊維織物にSiCマトリックスを形成した直径が15mmの円盤状のセラミックス基複合材料を用意した。そして、セラミックス基複合材料の表面へ、ムライトとPyrexガラス(登録商標)とを体積比で1:1に混合した原料粉末を溶射して中間膜を形成した。ここで溶射条件は、断面組織観察試験の場合と同様とした。また、中間膜の厚さは75±25μmとした。
次に、中間膜の上面に、HfO2の原料粉末を溶射してセラミックス膜を形成した。ここで溶射条件は断面組織観察試験の場合と同様とした。また、セラミックス膜の厚さは150μmとした。
このようにして試験片を「試験片9」とした。
【0051】
次に、得られた試験片9をバーナーリグ試験に供した。
バーナーリグ試験はバーナーリグ試験機を用いて行った。バーナーリグ試験機は、TP保持治具に保持した試験片の被膜表面の温度を、放射温度計(パイロメーター)を用いて常に測定できるようになっていて、被膜表面の温度が所定のサイクルとなるように、被膜表面へ加熱バーナーの火炎を当てて調整できる構成となっている。なお、放射温度計による被膜表面温度の校正は黒体塗料を塗布した部分と試験片部分とで同等な温度となるように試験片の放射率を調整した。また、バーナーリグ試験機の内部には被膜表面を撮影できるカメラも設置されていて、所望のタイミングで被膜表面を撮影して観察することができる。
【0052】
このようなバーナーリグ試験機のTP保持治具に試験片9をセットし、昇温:45sec、保持:45sec、降温:90secの合計180secを1サイクルとする図4に示す温度サイクルの熱負荷を加えた。また、試験開始前、3サイクル後、500サイクル後、1000サイクル後の各々のタイミングで被膜表面を撮影した。ここで保持の際の温度は1250℃とした。また、降温の際は火炎を止め放冷した。放冷時に被膜表面温度は600℃以下となる。
【0053】
試験開始前、3サイクル後、500サイクル後、1000サイクル後の各々のタイミングで被膜表面を撮影して得た写真から、500サイクル程度の熱負荷では試験開始前と外観に差異は生じないことがわかった。また、1000サイクル後は、被膜の一部に欠けが見られたものの、剥離には至らなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基複合材料の表面に中間膜およびセラミックス膜をこの順で有し、
前記中間膜が、高融点酸化物と1〜60体積%のガラス成分とから実質的になる、
被膜付きセラミックス基複合材料。
【請求項2】
前記中間膜が、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射法によって形成されたものである、請求項1に記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
【請求項3】
前記高融点酸化物が酸化ハフニウム、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ルテチウム、ケイ酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを主成分とする、請求項1または2に記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
【請求項4】
セラミックス膜が酸化ハフニウム、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ルテチウム、ケイ酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを主成分とする、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
【請求項5】
前記中間膜および前記セラミックス膜以外の被膜を有さず、前記中間膜の厚さが200μm以下であり、耐水蒸気性、耐酸化性および耐熱応力性を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料を用いてなる、ジェットエンジン用部品。
【請求項7】
セラミックス基複合材料の表面に、高融点酸化物およびガラス成分の原料を用いて溶射して前記中間膜を形成する工程を備え、請求項1〜6のいずれかに記載の被膜付きセラミックス基複合材料が得られる、被膜付きセラミックス基複合材料の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−112562(P2013−112562A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259612(P2011−259612)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)