説明

被覆冠及びその製造方法

【課題】審美性が高く、患者への負担及び為害性の低い被覆冠を提供すること。
【解決手段】被覆冠は、支台歯を被覆するフレームと、被覆冠の色調を整えると共に、フレームより硬度が低い第1陶材層と、を備える。第1陶材層は、支台歯に被せたときに外部に露出する面の少なくとも一部に形成されている。被覆冠の厚さが0.5mm〜1.2mmである。被覆冠の厚さに対するフレームの厚さは、第1陶材層の最も厚い部分において、60%〜95%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の治療のために支台歯を被覆する被覆冠(歯冠・クラウン・差し歯)、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の治療の際、支台歯を被覆する被覆冠(歯冠・クラウン・差し歯)としては、金属が用いられていた。しかし、金属が外観に現れると審美性に欠けると共に、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。金属性の外観を解消するため、金属表面に結晶化ガラス等の陶材を焼き付けて白い歯を再現した被覆冠も存在するが、金属層が内在するため、天然歯のような透明性を再現することはできない。
【0003】
そこで、金属の使用に伴う問題を解消するため、アルミナ等のセラミックフレーム(例えば特許文献1参照)に陶材(例えば特許文献2及び特許文献3参照)を焼き付けた被覆冠が用いられるようになってきている。特に、近年、審美性及び強度の観点から、ジルコニア(酸化ジルコニウム)をフレームに用いた被覆冠が使用されるようになってきている。ジルコニアを用いた被覆冠としては、陶材焼付ジルコニア冠(Porcelain Fused to Zirconia;以下「PFZ」と表記する)及びフルカントゥアージルコニアクラウン(Full Contour Zirconia Crown;以下「FCZ」と表記する)が知られている。
【0004】
PFZは、ジルコニア製の厚さ約0.5mmのフレーム上に、審美性を改善するための複数層の陶材を1〜2mm厚程度築盛したものである。
【0005】
FCZは、近年、ジルコニア材料の改良により開発されたものであり、厚さ0.5mm〜1mmのジルコニアのみで成形されている。なお、「ジルコニアオールセラミッククラウン」又はこれに類似する名称の被覆冠が存在するが、これは、ジルコニアのみで形成されたFCZを意味するものではなく、陶材を有するPFZを意味するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−323354号公報
【特許文献2】特開2007−126360号公報
【特許文献3】特開2009−185001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の分析は、本発明の観点から与えられる。
【0008】
PFZの全体的な厚さは1.5mm〜2.5mmとなる。したがって、PFZを装着するためには、PFZを装着する患者の歯をPFZの厚さ分だけ切削する必要がある。しかし、切削深さが深くなるほど患者の痛みも強くなる。そのため、患者の苦痛を低減するためには、被覆冠の厚さをより薄くする必要がある。
【0009】
また、被覆冠が厚くなると、患者が良好な口腔環境を得られない可能性が高くなる。被覆冠は、対合歯との噛み合わせ等を考慮して歯科技工士によって成形される。したがって、PFZに築盛する陶材の厚さが厚いほど、患者が自分の口腔に適合した被覆冠を得られるかどうかは歯科技工士の技量への依存度が高くなることになる。すなわち、技量の低い歯科技工士が担当した場合に、患者は、自分の口腔環境に適合した被覆冠を得ることができない可能性が高くなってしまう。
【0010】
一方、FCZは、0.5mm〜1mmと薄く形成可能であり、PFZについて挙げたような上記課題は生じない。しかしながら、FCZは、為害性及び審美性の点で課題が生ずる。
【0011】
FCZが口腔内で天然歯と直接噛み合う場合、天然歯はジルコニアに比べて硬度が1/4〜1/3と低いので、FCZと当接する対合歯は経年的に磨耗する。このため、FCZは、異常磨耗に伴う歯科疾患の原因となる。また、天然歯の異常磨耗は、噛み合わせ不良を発生させ、顎関節症をはじめとする全身疾患を発症させるおそれがある。
【0012】
FCZの外観はジルコニア面となるので、ジルコニアの外観がそのまま被覆冠の外観となる。しかしながら、天然歯の表面にはエナメル質が存在するので天然歯にはエナメル質による光沢があるが、ジルコニアにおいては光沢を出すことは難しくエナメル質のような光沢は得にくい。したがって、FCZを患者に装着すると、FCZの外観と天然歯の外観とは整合せず、歯列に不自然さが現れてしまう。また、FCZはジルコニア単一素材であるので、天然歯のような色調変化を再現することも困難である。
【0013】
以上より、PFZ及びFCZによれば、患者の負担、歯科技工士の技量への依存性、為害性及び審美性のすべてを改善することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1視点によれば、被覆冠は、支台歯を被覆するフレームと、被覆冠の色調を整えると共に、フレームより硬度が低い第1陶材層と、を備える。第1陶材層は、支台歯に被せたときに外部に露出する面の少なくとも一部に形成されている。被覆冠の厚さが0.5mm〜1.2mmである。被覆冠の厚さに対するフレームの厚さは、第1陶材層の最も厚い部分において、60%〜95%である。
【0015】
本発明の第2視点によれば、被覆冠は、支台歯を被覆するフレームと、被覆冠の色調を整えると共に、フレームより硬度が低い第1陶材層と、被覆冠の色調を整える第2陶材層と、を備える。第1陶材層は、支台歯に被せたときに外部に露出する面の少なくとも一部に形成されている。第2陶材層は、フレームと第1陶材層との間の少なくとも一部に形成されている。被覆冠の厚さが0.5mm〜1.3mmである。被覆冠の厚さに対するフレームの厚さが、第1陶材層の最も厚い部分において、55%〜95%である。
【0016】
本発明の第3視点によれば、被覆冠の製造方法は、支台歯を被覆するフレームを形成する工程と、フレーム上に、第1陶材及び第1溶媒を含有する第1スラリーを塗布する工程と、第1スラリーを塗布したフレームを焼成して、フレーム上に第1陶材層を形成する工程と、を含む。フレームを形成する工程において、第1スラリーを塗布する領域が被覆冠の最終外形より0.05mm〜0.3mm縮小した形状を有するようにフレームを成形すると共に、フレームの透過率が25%〜50%となるようにフレームを形成する。
【0017】
本発明の第4視点によれば、被覆冠の製造方法は、支台歯を被覆するフレームを形成する工程と、フレーム上に、第2陶材及び第2溶媒を含有する第2スラリーを塗布する工程と、第2スラリーを塗布したフレームを焼成して、フレーム上に第2陶材層を形成する工程と、フレーム及び第2陶材層上に、第1陶材を含有する第1スラリーを塗布する工程と、第1スラリーを塗布したフレームを焼成して、フレーム及び第2陶材層上に第1陶材層を形成する工程と、を含む。フレームを形成する工程において、第1スラリー及び第2スラリーを塗布する領域が被覆冠の最終外形より0.05mm〜0.4mm縮小した形状を有するようにフレームを成形すると共に、フレームの透過率が25%〜50%となるようにフレームを形成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以下の効果のうち少なくとも1つを有する。
【0019】
本発明においては、フレームを薄く形成することにより、フレーム及び第1陶材層、又はフレーム、第1陶材層及び第2陶材層により、天然歯の色調を再現している。これにより、陶材層の層数及び各陶材層の厚さを薄くすることができ、陶材層のみで天然歯の色調を再現するPFZより、被覆冠の厚さをより薄くすることができる。被覆冠の厚さを薄くすることにより、歯を切削する際の苦痛等、患者に掛かる負担を軽減することができる。また、陶材層の層数及び各陶材層の厚さを薄くすることにより、PFZよりも、歯科技工士の技量への依存度を低減することができる。
【0020】
本発明においては、フレーム上に少なくとも第1陶材層が形成されているので、FCZよりも、天然歯の色調・光沢により近づけることができる。また、通常第1陶材層の硬度はジルコニアの硬度より低いので、FCZよりも、対合歯の磨耗や患者の顎に掛かる負担等を低減することができる。
【0021】
以上より、本発明によれば、PFZ及びFCZが有する課題を同時に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る被覆冠断面の模式図。
【図2】図1に示す被覆冠を支台歯に被覆した歯の部分断面の模式図。
【図3】歯を直方体として示した本発明の被覆冠の露出面の模式図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る被覆冠断面の模式図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る被覆冠断面の模式図。
【図6】図4に示す被覆冠を支台歯に被覆した歯の部分断面の模式図。
【図7】実施例1において作製した本発明の被覆冠の断面図。
【図8】比較例1において作製した本発明の被覆冠の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記第1〜第4視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、フレームの彩度が5〜34である。
【0025】
上記第2視点の好ましい形態によれば、第2陶材層の厚さが、0.005mm〜0.1mmである。
【0026】
上記第2視点の好ましい形態によれば、第2陶材層の彩度が17〜32である。
【0027】
上記第2視点の好ましい形態によれば、フレームの彩度が0〜18である。
【0028】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、フレームの透過率が、25%〜50%である。
【0029】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層の最も厚い部分において、被覆冠の透過率が28%〜48%である。
【0030】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層の最も厚い部分又は第2陶材層が存在する部分において、被覆冠の彩度が2〜32である。
【0031】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層の厚さが、第1陶材層の最も厚い部分において、0.05mm〜0.3mmである。
【0032】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層の硬度は、300Hv〜600Hvである。
【0033】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層は、咬合面に形成されている。
【0034】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、第1陶材層は、頬側面及び近心面にさらに形成されている。
【0035】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、第2スラリーを塗布する工程において、フレーム上の第2スラリーの厚さが0.1mm以下となるように第2スラリーを塗布する。
【0036】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、第2スラリーにおいて、第2陶材と第2溶媒との質量比は、第2陶材の質量:第2溶媒の質量:=74:26〜65:35を満たす。
【0037】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、第1スラリーを塗布する工程において、フレーム上の第1スラリーの厚さが0.3mm以下となるように第1スラリーを塗布する。
【0038】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、第1スラリーにおいて、第1陶材と第1溶媒との質量比は、第1陶材の質量:第1溶媒の質量=74:26〜65:35を満たす。
【0039】
本発明の第1実施形態に係る被覆冠について説明する。図1に、本発明の第1実施形態に係る被覆冠断面の模式図を示す。図2に、図1に示す被覆冠を支台歯に被覆した歯の部分断面の模式図を示す。なお、模式図及び参照符号は、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。本発明の第1実施形態に係る被覆冠10は、支台歯31に面するフレーム11と、口腔内に露出するフレーム11の表面を覆う第1陶材層12と、を備える。
【0040】
本発明におけるフレーム11は、支台歯31を被覆すると共に、第1陶材層12を被覆するための基礎となるセラミックスである。支台歯とは、本発明の被覆冠10を被せる歯のことをいう。例えば、支台歯31は、歯科医師によって虫歯等を削り取られ、被覆冠を被せるための前準備を終えた歯のことである。支台歯31は、天然歯であっても、インプラントに代表される人工的な構造体であってもよい。フレーム11は、例えば、支台歯31を覆うような凹形状(椀形状)を有し、例えば、支台歯31の対合歯との噛み合わせや隣接する歯33,34との隙間等、患者の口腔内の環境に応じて適宜設定される。
【0041】
フレーム11の材料としては、ジルコニア(酸化ジルコニウム、ZrO)が好ましい。ジルコニアは、正方晶ジルコニアが主体である部分安定化ジルコニアであると好ましく、立方晶ジルコニアを含有してもよい。例えば、ジルコニアは、正方晶ジルコニアと、正方晶ジルコニアを被覆する立方晶を有してもよい。これにより、単斜晶への転移を抑制して、フレーム11の強度劣化を抑制することができる。安定化剤としては、イットリア(酸化イットリウム、Y)が好ましく、酸化チタン(TiO)を併用してもよい。イットリアの含有率は、フレーム11中において、2mol%〜6mol%であると好ましく、3mol%〜4mol%であるとより好ましい。酸化チタンを含有する場合、その含有率は、1mol%以下であると好ましい。ジルコニアは、さらに、酸化カルシウム(CaO)(例えば、好ましくは1mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下)、酸化マグネシウム(MgO)(例えば、好ましくは1mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下)、スピネル(MgO・Al)(例えば、好ましくは1mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下)、セリア(酸化セリウム、CeO)(例えば、好ましくは1mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下)、B・Al、酸化ランタン(La)のうち少なくとも1つを含有してもよい。
【0042】
フレーム11の厚さTは、例えば、0.5mm〜0.9mmであると好ましく、0.7mm〜0.9mmであるとより好ましく、0.75mm〜0.85mmであるとさらに好ましい。フレーム11の厚さが0.5mm未満であると、被覆冠としての強度が不足し、口腔内で破損するおそれがある。また、フレーム11の厚さが0.9mmより厚いと、患者の支台歯の切削量が多くなるため、患者の苦痛が増大すると共に、所望の透過率を得ることができず、周囲の天然歯に合わせた色調にすることが困難となる。
【0043】
被覆冠10の厚さT10に対するフレーム11の厚さTの割合(=T/T10×100)は、第1陶材層12の最も厚い部分において、例えば、60%〜95%であると好ましく、73%〜86%であるとより好ましく、77%〜83%であるとさらに好ましい。
【0044】
フレーム11の透過率は、天然歯の色調に合わせて審美性を高めるために、例えば、25%〜50%であると好ましく、25%〜40%であるとより好ましく、28%〜32%であるとさらに好ましい。フレーム11の透明性を高めることにより、フレーム11も天然歯の色調を再現するための陶材層として機能させることができ、フレーム11と少なくとも第1陶材層とを組み合わせることによって天然歯の色調を再現できる。また、陶材層の層数を少なくすると共に、第1陶材層12の厚さを薄くすることができ、支台歯の切削に伴う患者の苦痛を低減することができる。
【0045】
本発明における「透過率」とは、測定対象に入射させた光が当該測定対象を透過する割合である。例えば、透過率は、ISO Visual(ISO 5-2)に準拠して測定すると好ましい。
【0046】
フレーム11の色調は、天然歯のエナメル質の色調(白色から薄いアイボリー色、以下「エナメル色」と表記する)よりも天然歯のデンティン質の色調(例えるとアイボリー色〜オレンジ色、以下「デンティン色」と表記する)に近いものを選択すると好ましい。これを彩度で表すと、フレーム11の彩度は、例えば、好ましくは5〜34、より好ましくは13〜17、より好ましくは14〜16とすることができる。これにより、フレーム11上に被覆するエナメル色に近い第1陶材層12によって天然歯の色調を再現しやすくなる。
【0047】
本発明において、「エナメル色」と「デンティン色」とは、二者択一的なものではなく、両者が重複している範囲が存在し、いずれの色にも含まれる色も存在する。
【0048】
本発明における「彩度」は、例えば、CIE1976Lab規格に準拠して、L値、a値及びb値を測定し、以下の式1に基づき彩度cを算出すると好ましい。
【0049】
[式1]
={(a+(b1/2
【0050】
第1陶材層12は、フレーム11の色調と融合することにより被覆冠10の色調を患者の天然歯の色調に合わせるものである。また、第1陶材層12は、天然歯の光沢を再現するものである。さらに、第1陶材層12は、被覆冠10としての硬度をフレーム11自体の硬度より低下させて、対合歯の損傷を抑制し、さらには患者の顎に掛かる負荷を低減するものである。第1陶材層12の材料としては、天然歯のエナメル質の機能及び色調を再現できるようなものが好ましい。例えば、第1陶材層12の材料としては、ガラス又は結晶化ガラスを使用することができ、例えば、アモルファスタイプのカリアルミノシリケートガラス(4SiO・Al・KO)、リューサイト結晶タイプのカリアルミノシリケートガラス、フルオロアパタイトガラス、リチウムシリケートガラスのうち少なくとも1種を使用することができる。このうち、特にリューサイト結晶タイプのカリアルミノシリケートガラスを使用すると好ましい。第1陶材層12は、微妙な色調を調整するための無機顔料、無機乳濁材等を含有してもよい。
【0051】
図3に、歯を直方体として示した本発明の被覆冠の露出面の模式図を示す。図3は、下顎臼歯をモデルとしている。ここでは、解剖学的分類と同様にして、歯の露出面を大きく5つの面に分割している。すなわち、図3に示す被覆冠10のモデルは、対合歯に対向する(対合歯と当接する)咬合面10a、頬側に面する頬側面10b、舌側に面する舌側面10c、口唇側に面する近心面10d、及び喉側に面する遠心面10eを有する。
【0052】
第1陶材層12は、フレーム11を支台歯31に被せたときに外部に露出する面に形成する。例えば、フレーム11が凹形状(椀形状)である場合、第1陶材層12は、外面の少なくとも一部に形成する。第1陶材層12は、為害性の観点(対合歯の損傷の防止、顎の故障の防止)及び審美性の観点から、少なくとも、対合歯と当接すると共に、最も他人の目に触れやすい咬合面10aに形成すると好ましい。加えて、第1陶材層12は、審美性の観点から他人の目に触れやすい面である頬側面10b及び近心面10dにも形成すると好ましく、頬側面10b、舌側面10c及び近心面10dにも形成するとより好ましい。最も好ましくは、生産性・作業性の観点も含めて、第1陶材層12は、5面10a〜10e全部に形成すると好ましい。
【0053】
第1陶材層12の厚さTは、最も厚い部分において、例えば、0.05mm〜0.3mmであると好ましく、0.15mm〜0.25mmであるとより好ましい。0.05mm未満であると、所望の色調を実現したり対合歯に対する緩衝作用を得ることが困難となる。0.3mmより厚くなると、患者の支台歯の切削量が多くなり、患者の苦痛が増大してしまう。また、厚さ0.3mm以下とすれば、第1陶材層12の塗布量が少ないので、歯科技工士間の技量の差によって生ずる影響をより低減することができる。
【0054】
第1陶材層12の硬度(ビッカース硬さ)は、天然歯のエナメル質の硬度と同等であると好ましく、例えば、300Hv〜600Hvであると好ましく、350Hv〜550Hvであるとより好ましく、350Hv〜450Hvであるとさらに好ましい。例えばジルコニアの硬度は1200Hv〜1300Hvであるので、フレーム11を第1陶材層12で被覆することにより、被覆冠10と対合する歯の損傷を抑制すると共に、患者の顎の故障を抑制することができる。
【0055】
本発明において、硬度は、JISZ2244に準拠して測定すると好ましい。
【0056】
第1陶材層12の透過率は、天然歯の色調に合わせて審美性を高めるために、最も厚い部分において、例えば、40%〜70%であると好ましく、45%〜60%であるとより好ましく、47%〜53%であるとさらに好ましい。
【0057】
第1陶材層12の彩度は、天然歯の色調(エナメル色)に合わせて審美性を高めると好ましい。例えば、第1陶材層12の彩度は、第1陶材層12の最も厚い部分において、例えば、好ましくは0〜18、より好ましくは2〜17とすることができる。
【0058】
被覆冠10において、フレーム11の厚さTに対する第1陶材層12の厚さT(=T/T)は、第1陶材層12の最も厚い部分において、例えば、0.05〜0.6であると好ましく、0.16〜0.36であるとより好ましく、0.2〜0.3であるとさらに好ましい。被覆冠10の厚さT10は、第1陶材層12の最も厚い部分において、0.5mm〜1.2mmであると好ましく、0.85mm〜1.15mmであるとより好ましく、0.95mm〜1.05mmであるとさらに好ましい。これにより、被覆冠10全体としての厚さを薄くすることができ、患者に掛かる苦痛及び負荷を低減することができる。また、歯科技工士の技量による差も低減することができる。
【0059】
被覆冠10としての透過率は、天然歯の色調に合わせて審美性を高めるために、第1陶材層12の最も厚い部分において、例えば、28%〜48%であると好ましく、28%〜38%であるとより好ましく、28%〜32%であるとさらに好ましい。
【0060】
被覆冠10の彩度は、天然歯の色調に合わせて審美性を高めると好ましい。例えば、被覆冠10の彩度は、第1陶材層12の最も厚い部分において、例えば、好ましくは2〜32、より好ましくは13〜17とすることができる。
【0061】
被覆冠10の硬度は、第1陶材層12の硬度と同様であり、例えば、300Hv〜600Hvであると好ましく、350Hv〜550Hvであるとより好ましく、350Hv〜450Hvであるとさらに好ましい。
【0062】
被覆冠10において、フレーム11及び第1陶材層12の厚さを測定する場合には、例えば、ダイヤルゲージを使用することができる。被覆冠10において、透過率、彩度及び硬度を測定する場合には、測定する領域を例えばダイヤモンドカッター等で切り出して、これを測定試料とする。切り出した試料に反り等がある場合には、全体の厚みが変化しないようにしながら研磨し、測定可能となるように平面化する。また、例えば、フレーム11を測定する場合には、第1陶材層12を研磨除去してフレーム11のみが露出するようにする。
【0063】
本発明においては、フレームを薄くしてフレーム自体の透明度を高めている。これにより、フレームの色調を被覆冠の色調調整に利用することができる。これにより、被覆冠の色調を調節するための、フレーム上に被覆する陶材層の層数を少なくすることができると共に、陶材層の厚さを薄くすることができる。したがって、被覆冠の天然歯としての色調を損なうことなく、フレーム及び陶材層をともに薄くすることができ、結果として被覆冠全体の厚さを薄くすることができる。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態に係る被覆冠について説明する。図4に、本発明の第2実施形態に係る被覆冠断面の模式図を示す。図5に、図4とは異なる形態である第2実施形態に係る被覆冠断面の模式図を示す。図6に、図4に示す被覆冠を支台歯に被覆した歯の部分断面の模式図を示す。図4〜図6において、第1実施形態と同じ要素には同じ符号を付してある。本発明の第2実施形態に係る被覆冠20,21は、支台歯31に面するフレーム11と、口腔内に露出するフレーム11の表面を覆う第1陶材層12と、第1陶材層12とフレーム11との間に形成された第2陶材層22と、を備える。すなわち、第2実施形態に係る被覆冠20,21は、第2陶材層22を有する点において第1実施形態と異なる。
【0065】
第2陶材層22は、被覆冠20,21の色調をより天然歯に近づけるためのものである。第2陶材層22の材料としては、フレーム11及び第1陶材層12の色調と合わせて天然歯のデンティン色を再現できるようなものが好ましい。第2陶材層22の主たる材料としては、例えば、ガラス又は結晶化ガラスを使用することができ、例えば、アモルファスタイプのカリアルミノシリケートガラス(4SiO・Al・KO)、リューサイト結晶タイプのカリアルミノシリケートガラス、フルオロアパタイトガラス、リチウムシリケートガラスのうち少なくとも1種を使用することができる。このうち、特にリューサイト結晶タイプのカリアルミノシリケートガラスを使用すると好ましい。第2陶材層22は、さらに、天然歯の色調を再現するための顔料及び乳濁材のうち少なくとも一方を含有する。顔料としては、例えば、酸化プラセオジウム、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化マンガン、酸化セリウム、酸化スズ等を使用することができる。また、乳濁材としては、例えば、ケイ酸ジルコニウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム等を使用することができる。これらは、所望する色調に応じて適宜含有される。
【0066】
第2陶材層22は、デンティン色を再現したい箇所に適宜形成する。図4に示す被覆冠20においては、第2陶材層22は、頬側面、舌側面、近心面及び遠心面のうち、対向する両面に形成されている。図5に示す被覆冠21においては、第2陶材層22は、咬合面の中央部にも形成されている。第2陶材層22の形成箇所は、図4〜図6に限定されること無く、適宜所望の箇所に形成することができる。また、第2陶材層22は、頬側面、舌側面、近心面及び遠心面に形成する場合、少なくとも歯茎側から各面の3分の2までの領域に形成すると好ましい。
【0067】
第2陶材層22の厚さTは、デンティン色を再現可能な範囲の薄さにとどめると好ましく、例えば、最も厚い部分において、0.005mm〜0.1mmであると好ましく、0.02mm〜0.08mmであるとより好ましい。
【0068】
第2陶材層22の彩度は、天然歯の色調(デンティン色)に合わせて審美性を高めると好ましい。例えば、第2陶材層22の彩度は、第2陶材層22の最も厚い部分において、例えば、好ましくは17〜32、より好ましくは20〜24とすることができる。
【0069】
第2実施形態においては、第1実施形態とは異なり、着色用の第2陶材層22を設けるので、フレーム11の色調は、デンティン色よりもエナメル色に近いものを選択すると好ましい。これを彩度で表すと、例えば、フレーム11の彩度は、例えば、好ましくは0〜18、より好ましくは2〜17とすることができる。これにより、フレーム11上に被覆する第1陶材層12及び第2陶材層22によって天然歯の色調を再現しやすくなる。
【0070】
被覆冠20,21の厚さT20に対するフレーム11の厚さTの割合(=T/T20×100)は、第1陶材層12及び第2陶材層22の合計が最も厚い部分において、例えば、55%〜95%であると好ましく、68%〜85%であるとより好ましい。
【0071】
被覆冠20,21において、第2陶材層22が形成された領域のうち第2陶材層22の最も厚い部分において、フレーム11の厚さTに対する第1陶材層12及び第2陶材層22の合計の厚さ(T+T)(=(T+T)/(T))は、例えば、0.05〜0.8であると好ましく、0.18〜0.47であるとより好ましい。
【0072】
被覆冠20,21の厚さT20は、第2陶材層22が形成された領域のうち第2陶材層22の最も厚い部分において、0.5mm〜1.3mmであると好ましく、0.87mm〜1.23mmであるとより好ましい。
【0073】
被覆冠20,21の透過率は、第2陶材層22が存在する領域において第1実施形態と同様であると好ましい。被覆冠20,21の彩度は、第2陶材層22が存在する領域は第1実施形態と同様であると好ましい。被覆冠20,21の硬度は、第1陶材層12が外層に存在するので、第1実施形態と同様である。
【0074】
第2実施形態において上記以外の形態は、第1実施形態の形態と同様である。
【0075】
次に、本発明の被覆冠の製造方法について以下に説明する。以下の説明においては、第2実施形態に係る被覆冠を例にして説明するが、第1実施形態に係る被覆冠を製造する場合には第2陶材層に関する工程を除外すればよい。
【0076】
まず、被覆冠を処置する口腔内のデータを採取する。このデータを基に被覆冠20,21の形状、形状等を決定する。
【0077】
次に、決定した被覆冠20,21のデータを基づき、フレーム11を作製する。このフレーム11は、陶材層12,22を形成する領域においては、患者の噛み合わせに応じた被覆冠の最適な形状より、形成する陶材層12,22の合計の厚さの分だけ薄く設計する。すなわち、少なくとも、被覆冠の対合歯と接触する領域及び滑走運動時接触領域においては、被覆冠の最適な形状より0.05mm〜0.4mm縮小させた設計とする。例えば、ジルコニアでフレーム11を作製する場合、ジルコニアディスクの未焼成品又は仮焼成品を準備し、これを所望の形状に加工する。次に、加工品を焼結させてジルコニアフレーム11を作製する。ジルコニアディスクの焼結品を直接加工して、フレーム11を作成してもよい。
【0078】
次に、第2陶材層22の原料である第2陶材を分散させた液体・スラリー(以下「第2陶材分散液」という)をフレーム11に塗布する。第2陶材層22は、デンティン色を再現させたい箇所にのみ塗布する。第2陶材の平均粒径は、例えば、0.5μm〜15μmであると好ましく、2μm〜8μmであるとより好ましく、3μm〜7μmであるとさらに好ましい。
【0079】
分散液の溶媒(練和液)は、屈折率が陶材の屈折率(約1.5)に近いと好ましい。陶材と溶媒とを混合させたときに、分散液が半透明となり、完成物の色に近い色調を再現でき、焼成後の色調予測が容易になるからである。これにより、作業効率を高めることができる。また、溶媒は、陶材焼成時に陶材層を黒く変色させないものであり、乾燥が速いものが好ましい。分散液の溶媒としては、有機溶媒又は水を使用することができ、例えば、2−フェノキシエタノール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリン、精製水等を使用することができ、このうち、乾燥速度及び作業性の観点から特に2−フェノキシエタノールが好ましい。
【0080】
分散液の陶材と溶媒の混合比(=陶材の質量:溶媒の質量)は、74:26〜65:35であると好ましく、70:30〜65:35であると好ましい。分散液の粘度は、1Pa・S〜50Pa・Sであると好ましく、18Pa・S〜44Pa・Sであるとより好ましい。第2陶材分散液は、例えば筆を用いて塗布することができる。第2陶材分散液を塗布したときのフレーム11上の分散液の厚さは、焼成後に10%〜15%線収縮することを考慮した厚さとする。第2陶材分散液を塗布した後、焼成し、第2陶材層22を形成する。
【0081】
次に、第1陶材層12の原料である第1陶材を分散させた液体(以下「第1陶材分散液」という)をフレーム11及び第2陶材層22上に塗布する。第1陶材分散液は、咬合面の他、エナメル質の色調を再現させたい領域に塗布する。第1陶材分散液の溶媒、陶材と溶媒の混合比、粘度、厚さは、第2陶材分散液と同じ範囲にすることができる。第1陶材分散液を塗布した後、焼成し、第1陶材層12を形成する。これにより、被覆冠20,21を製造することができる。
【0082】
本発明において、「粘度」は、JISK7117−1に準拠して測定すると好ましい。
【実施例】
【0083】
[実施例1:本発明の被覆冠の製造]
[比較例1:PFZの製造]
本発明の被覆冠、及び比較例としてPFZを作製した。図7に、作製した本発明の被覆冠の断面図を示す。図7においては、第2実施形態と同じ符号を用いている。また、図8に、作製したPFZの断面図を示す。
【0084】
本発明の被覆冠10は、以下のように作製した。まず、印象材と呼ばれる型取り材を用い、支台歯、その対合歯及び支台歯周囲の歯列のメス型を採った。次に、そこへ石膏を流し込みオス型の石膏模型を作製し、支台歯、その対合歯及び支台歯周囲の歯列を再現した。次に、ワックスを用いて、石膏模型の支台歯上に、噛み合わせ、形状、寸法等を合わせたワックス冠を形成した。このワックス冠は、フレーム形成の基礎となるものである。次に、ワックス冠において、フレームに第1陶材及び第2陶材を塗布する領域の表面を深さ約0.2mm削り落とした。次に、石膏模型の支台歯及びワックス冠をノリタケデンタルサプライ社製スキャナSC−3を用いて光学スキャンして、支台歯及びワックス冠のデジタル化した3次元データを得た。なお、本実施例では、石膏模型を光学スキャンしたが、口腔内スキャナにより直接口腔内を光学スキャンしてもよい。また、ワックス冠を用いずに、石膏模型を光学スキャンした後、3次元CADソフトを用いて仮想的なフレーム形状に基づく3次元データを作製してもよい。
【0085】
次に、フレーム11の原料である市販の98.5mm×14.0mmのノリタケデンタルサプライ社製ジルコニアディスクKD−13を準備した。このジルコニアディスクは、イットリア(酸化イットリウム)を3mol%固溶させた部分安定化正方晶ジルコニアである。また、このジルコニアディスクは、品番に応じて無機顔料を均一分散されているものもある。次に、3次元データに基づき、ノリタケデンタルサプライ社製ミリング加工機DWX−50Nを用いてφ2.0mm及びφ0.8mmの超硬ドリルでジルコニアディスクをフレーム形状に加工した。成形したフレーム前駆体を、SKメディカル社製焼成炉F1を使用して、1375℃で90分焼成して焼結させ、フレーム11を作製した。
【0086】
次に、フレーム11に陶材層を築盛するための前準備を行った。ジルコニアフレーム11表面に残っている余剰部分を、軸付きダイヤモンド砥粒を用いてリューターで除去した。次に、50μmのアルミナを0.2MPaの圧力でサンドブラスト処理を行い、ジルコニアフレーム11表面をつや消し状態とした。次に、アセトン溶液中にてジルコニアフレーム11を超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0087】
次に、第2陶材として、蛍光剤や顔料を含有する内部着色用陶材(ノリタケデンタルサプライ社製セラビアンZR)を、溶媒として2−フェノキシエタノールに、陶材の質量:溶媒の質量=67:33の比率で混合した。この第2陶材分散液(スラリー)の粘度は26Pa・sであった。この第2陶材分散液をジルコニアフレームの咬合面の中央部、並びに頬側面、近心面、舌側面及び遠心面の歯茎側90%以上の領域に、筆で0.05mm〜0.1mmの厚みで均一に塗布(築盛)した。次に、ジェルラス社製陶材焼成用真空電気炉VIPユニバーサルXプレスを用いて、これを930℃程度の温度で焼成し、デンティン色を再現するための厚さ0.04mmの第2陶材層22を形成した。
【0088】
次に、第1陶材として、外部用グレージング陶材(ノリタケデンタルサプライ社製セラビアンZRプレス)を、溶媒として2−フェノキシエタノールに、陶材の質量:溶媒の質量=67:33の比率で混合した。この第1陶材分散液(スラリー)の粘度は26Pa・sであった。この第1陶材分散液をジルコニアフレームの表面に筆で0.2mmの厚みで均一に塗布(築盛)した。次に、これを860℃程度の温度で焼成し、エナメル色を再現するための厚さ0.16mmの第1陶材層12を形成した。表1に、使用した第1陶材層12及び第2陶材層22の組成を示す。表1においては、第2陶材層22の組成を3種類示しているが、それぞれ異なる色を発色する。
【0089】
[表1]

【0090】
最後に、咬合面の調整を行い、被覆冠10を完成させた。作製した被覆冠10を表面観察したところ、その表面には何らクラックが存在せず、所望の歯冠形状及び色調が得られたことが確かめられた。
【0091】
一方、PFZ90の製造方法は、基本的作業は本発明の被覆冠10の製造方法と同様である。上述と同様に作製したジルコニアフレーム91上に、陶材を含有させたスラリーを築盛して焼成することにより、デンティン色を再現するための第1陶材層92(ノリタケデンタルサプライ社の呼称でいう「オペーシャスボディ陶材」)及び第2陶材層93(「ボディ陶材」)、並びにエナメル色を再現するための第3陶材層94(「エナメル陶材」)及び第4陶材層95(「トランスルーセント陶材」)を形成した。各スラリーにおいて、精製水を溶媒として、溶媒の質量:陶材の質量=72:28とした。各スラリーの粘度は16Pa・sであった。第1陶材層92から第4陶材層95までの厚さは1.5mm〜2.0mmとなった。なお、大まかに言えば、本発明の被覆冠10における第1陶材層12とPFZ90における第4陶材層95とが対応関係にあり、本発明の被覆冠10における第2陶材層22とPFZ90における第2陶材層93とが対応関係にある。
【0092】
本発明の被覆冠10においては、第1陶材層12及び第2陶材層22の合計の厚さは0.2mmであるのに対し、PFZはこれよりも1.3mm以上厚くなった。本発明の被覆冠10においては、フレーム11自体を、天然歯の色調を再現するための陶材の代わりとして使用する、すなわちフレーム11がフレームの機能と陶材の機能の両方を果たすことによって、陶材層の層数を少なくすると共に、各陶材層を薄くすることができた。一方、PFZ90においては、陶材層のみで天然歯の色調を再現するため、陶材層の層数を増やすと共に、厚い陶材層も必要となり、結果として被覆冠の厚さが厚くなってしまっている。
【0093】
スラリーを塗布する際、PFZ90の製造においては、スラリーを築盛するため、塗布作業中スラリーの乾燥が速いと好ましいので精製水を使用したが、本発明の被覆冠10の製造においては、PFZの作業時と同様の乾燥速度であると作業しにくくなるため、溶媒として2−フェノキシエタノールを使用した。また、スラリーにおける陶材の含有率を高くした理由は、粘度を高めて塗布操作性を向上するためである。
【0094】
[実施例2〜4及び比較例2〜5:透過率及び彩度の測定]
本発明の被覆冠、PFZ及びFCZについて透過率及び彩度を測定した。測定試料は、測定を容易にするため、平板状とした。
【0095】
まず、10mm×10mmの平板状のフレームを準備した。市販のノリタケデンタルサプライ社製カタナジルコニアディスクKD-12をダイヤモンドカッターを用い切り出し、SKメディカル社製F1焼成炉にて室温から1375℃まで加熱し、焼結させた。焼結後、表面をダイヤモンド砥粒の研磨紙にて流水下で、所定の厚さまで研磨加工し、50ミクロンのアルミナを0.2MPaでサンドブラスト処理を行い、表面をつや消し状態とした。最後に、アセトン溶液に入れ超音波洗浄を行い、ジルコニアフレームを得た。ジルコニアフレームは、厚さが0.5mm、0.7mm及び0.8mmの3種類を準備した。
【0096】
次に、各フレーム上に、天然歯のデンティン色を再現する第2陶材層を形成した。第2陶材としては、ノリタケデンタルサプライ社製CZRプレス陶材ISステイン品番Aプラス、サーモンピンク、フルオロ、そしてブライトの4種を1:1:3:3の比率にて秤量したものを使用し、これを2−フェノキシエタノールにて、第2陶材質量:溶媒質量=67:33の比で、十分に練和した。第2陶材含有スラリーをフレームの表面に塗布して焼成した。第2陶材層は厚さ0.04mmであった。
【0097】
次に、第2陶材層上に、天然歯の透明感を再現する第1陶材層を形成した。第1陶材としては、ノリタケデンタルサプライ社製グレージングパウダーを2−フェノキシエタノールにて、第2陶材質量:溶媒質量=67:33の比で、十分に練和した。第1陶材含有スラリーを第2陶材層上に塗布して焼成した。第1陶材層は厚さ0.16mmであった。第1陶材層と第2陶材層の合計の厚さは0.2mmとなった。
【0098】
このように作製した試料について透過率及び彩度を測定した。透過率は、X-Rite社製X-Rite 361T(V)ビジュアル透過濃度計を使用し、光源の色温度は2850Kとして、測定した。彩度は、オリンパス株式会社製クリスタルアイタイプCE100-DCを使用し、算出したL*a*b*値を基に、彩度(c*)を算出した。
【0099】
FCZに対応する比較例(比較例2〜4)として、第1陶材層及び第2陶材層を形成していないジルコニアフレームについても透過率及び彩度を測定した。ジルコニアフレームは、厚さ以外は上述と同様である。また、PFZに対応する比較例(比較例5)として、上述のジルコニアフレーム上に、比較例1と同様の計4層の陶材を積層した試料についても透過率及び彩度を測定した。第1層(オペーシャスボディ陶材)0.2mm、第2層(ボディ陶材)0.6mm、第3層及び第4層(エナメル陶材及びトランスルーセント陶材)0.2mmとした。
【0100】
測定結果を表2に示す。PFZに対応する比較例5によれば、外観は天然歯の色調を再現できていると評価することができた。したがって、比較例5の透過率及び彩度は、人工歯による天然歯に近い透過率及び彩度であると仮定できる。しかしながら、被覆冠としての厚さは1.5mmと最も厚く、患者に掛かる負担が大きくなってしまう。FCZに対応する比較例2及び3によれば、高い透明性は得られるが、外観は天然歯の色調を再現できていなかった。また、彩度をみてもPFZのような高い彩度を実現できていなかった。また、比較例4によれば、透過率が低く、天然歯のような透明感は再現できていなかった。
【0101】
一方、本発明に対応する実施例2〜4によれば、外観は天然歯の色調を再現できており、透過率及び彩度も、比較例5の値に近い値が得られ、天然歯のような色調を再現できていることが分かる。また、実施例4でも厚さ1.0mmであり、仮に、支台歯を円柱形状とすれば、実施例4と比較例5とでは支台歯の直径が1mmも異なることになる。したがって、本発明によれば、歯の切削量をより低減できることが分かる。以上より、本発明によれば、天然歯の色調及び薄い被覆冠の両方を実現することができる。
【0102】
[表2]

【0103】
本発明の被覆冠被覆及びその製造方法は、上記実施形態に基づいて説明されているが、上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、上記実施形態に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができることはいうまでもない。また、本発明の請求の範囲の枠内において、種々の開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0104】
本発明のさらなる課題、目的及び展開形態は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【符号の説明】
【0105】
10,20,21 被覆冠
10a 咬合面
10b 頬側面
10c 舌側面
10d 近心面
10e 遠心面
11 フレーム
12 第1陶材層
22 第2陶材層
31 支台歯
32 歯茎
33,34 隣接する歯
90 PFZ
91 フレーム
92 第1陶材層
93 第2陶材層
94 第3陶材層
95 第4陶材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支台歯を被覆するフレームと、
被覆冠の色調を整えると共に、前記フレームより硬度が低い第1陶材層と、を備え、
前記第1陶材層は、支台歯に被せたときに外部に露出する面の少なくとも一部に形成され、
被覆冠の厚さが0.5mm〜1.2mmであり、
被覆冠の厚さに対する前記フレームの厚さは、第1陶材層の最も厚い部分において、60%〜95%であることを特徴とする被覆冠。
【請求項2】
前記フレームの彩度が5〜34であることを特徴とする請求項1に記載の被覆冠。
【請求項3】
支台歯を被覆するフレームと、
被覆冠の色調を整えると共に、前記フレームより硬度が低い第1陶材層と、
被覆冠の色調を整える第2陶材層と、を備え、
前記第1陶材層は、支台歯に被せたときに外部に露出する面の少なくとも一部に形成され、
前記第2陶材層は、前記フレームと前記第1陶材層との間の少なくとも一部に形成され、
被覆冠の厚さが0.5mm〜1.3mmであり、
被覆冠の厚さに対する前記フレームの厚さが、第1陶材層の最も厚い部分において、55%〜95%であることを特徴とする被覆冠。
【請求項4】
前記第2陶材層の厚さが、0.005mm〜0.1mmであることを特徴とする請求項3に記載の被覆冠。
【請求項5】
前記第2陶材層の彩度が17〜32であることを特徴とする請求項3又は4に記載の被覆冠。
【請求項6】
前記フレームの彩度が0〜18であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項7】
前記フレームの透過率が、25%〜50%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項8】
前記第1陶材層の最も厚い部分において、透過率が28%〜48%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項9】
前記第1陶材層の最も厚い部分又は前記第2陶材層が存在する部分において、彩度が2〜32であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項10】
前記第1陶材層の厚さが、第1陶材層の最も厚い部分において、0.05mm〜0.3mmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項11】
前記第1陶材層の硬度は、300Hv〜600Hvであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項12】
前記第1陶材層は、咬合面に形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の被覆冠。
【請求項13】
前記第1陶材層は、頬側面及び近心面にさらに形成されていることを特徴とする請求項12に記載の被覆冠。
【請求項14】
支台歯を被覆するフレームを形成する工程と、
前記フレーム上に、第1陶材及び第1溶媒を含有する第1スラリーを塗布する工程と、
前記第1スラリーを塗布した前記フレームを焼成して、前記フレーム上に第1陶材層を形成する工程と、を含み、
前記フレームを形成する工程において、前記第1スラリーを塗布する領域が被覆冠の最終外形より0.05mm〜0.3mm縮小した形状を有するように前記フレームを成形すると共に、前記フレームの透過率が25%〜50%となるように前記フレームを形成することを特徴とする被覆冠の製造方法。
【請求項15】
支台歯を被覆するフレームを形成する工程と、
前記フレーム上に、第2陶材及び第2溶媒を含有する第2スラリーを塗布する工程と、
前記第2スラリーを塗布した前記フレームを焼成して、前記フレーム上に第2陶材層を形成する工程と、
前記フレーム及び前記第2陶材層上に、第1陶材を含有する第1スラリーを塗布する工程と、
前記第1スラリーを塗布した前記フレームを焼成して、前記フレーム及び前記第2陶材層上に第1陶材層を形成する工程と、
を含み、
前記フレームを形成する工程において、前記第1スラリー及び前記第2スラリーを塗布する領域が被覆冠の最終外形より0.05mm〜0.4mm縮小した形状を有するように前記フレームを成形すると共に、前記フレームの透過率が25%〜50%となるように前記フレームを形成することを特徴とする被覆冠の製造方法。
【請求項16】
前記第2スラリーを塗布する工程において、前記フレーム上の前記第2スラリーの厚さが0.1mm以下となるように前記第2スラリーを塗布することを特徴とする請求項15に記載の被覆冠の製造方法。
【請求項17】
前記第2スラリーにおいて、前記第2陶材と前記第2溶媒との質量比は、
前記第2陶材の質量:前記第2溶媒の質量=74:26〜65:35を満たすことを特徴とする請求項15又は16に記載の被覆冠の製造方法。
【請求項18】
前記第1スラリーを塗布する工程において、前記フレーム上の前記第1スラリーの厚さが0.3mm以下となるように前記第1スラリーを塗布することを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載の被覆冠の製造方法。
【請求項19】
前記第1スラリーにおいて、前記第1陶材と前記第1溶媒との質量比は、
前記第1陶材の質量:前記第1溶媒の質量=74:26〜65:35を満たすことを特徴とする請求項14〜18のいずれか一項に記載の被覆冠の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−56103(P2013−56103A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197311(P2011−197311)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(301069384)クラレノリタケデンタル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】