説明

裁断方法及び裁断装置

【構成】 点列での点毎の制限速度をメモリに記憶する。点列での隣接した点間での制限速度の差をΔv,距離をd,裁断ヘッドの加速度をaとして、Δvの絶対値が
(a・d)1/2以下となるように、プロセッサにより各ポイントの制限速度を変更する。そして変更した制限速度に従って、裁断ヘッドを運動させ、シート材を裁断する。
【効果】 裁断ヘッドがオーバーランして裁断パターンから外れることがない。またオーバーランを防ぐ範囲で最小限の速度制限を加えるため、短時間で裁断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は布や皮革などのシート材の裁断に関する。
【背景技術】
【0002】
裁断テーブル上にシート材を載置し、裁断ヘッドをXYの2方向に運動させて、パーツを切り出すことが知られている。パーツを切り出す裁断パターンは点列で指定され、ヘッドは例えばXYの2個のサーボモータで駆動される。出願人はパターンの曲率から各ポイントへの制限速度を求めて、裁断パターンに忠実に裁断できるようにすることを提案した(特許文献1:JPH07-67679B)。しかしながら発明者は、曲率が大きく変化する箇所、即ち裁断パターンの向きが急変する箇所では、特許文献1の制御では裁断パターンから実際のヘッドの軌跡が外れることがあることを見出した。
【特許文献1】JPH07-67679B
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、短時間でかつ裁断パターンに忠実に裁断できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、平面上の点列で指定される裁断パターンに沿って、かつ裁断パターンの曲率により定まる点列での点毎の制限速度以下で、少なくとも2軸のサーボモータにより、裁断ヘッドを前記平面上を運動させて、シート材から複数のパーツを裁断する方法において、
a) 前記点列での点毎に、前記裁断パターンの曲率から定まる制限速度を、メモリに記憶するステップと、
b) 前記点列での隣接した点間での制限速度を比較し、制限速度の差をΔv,距離をd,裁断ヘッドの加速度をaとして、Δvの絶対値が(a・d)1/2以下となるように、プロセッサにより各ポイントの制限速度を定めて、点毎の制限速度を変更する、制限速度の比較ステップと、
c) 変更した制限速度に従って裁断ヘッドを運動させることにより、シート材を裁断するステップ、とを設けたことを特徴とする。なおステップa)をステップb)の前に完了する必要はなく、ステップa)を一部の点に対して完了してステップb)を開始し、ステップb)の完了前にステップa)を完了するようにしても良い。
【0005】
この発明はまた、平面上の点列で指定される裁断パターンに沿って、かつ裁断パターンの曲率により定まる点列での点毎の制限速度以下で、少なくとも2軸のサーボモータにより、裁断ヘッドを前記平面上を運動させて、シート材から複数のパーツを裁断する装置において、
前記点列での点毎の制限速度をメモリに記憶するための手段と、
前記点列での隣接した点間での制限速度の差をΔv,距離をd,裁断ヘッドの加速度をaとして、Δvの絶対値が(a・d)1/2以下となるように、プロセッサにより各ポイントの制限速度を定めて、点毎の制限速度を変更するための手段とを設けて、
変更した制限速度に従って裁断ヘッドを運動させることにより、シート材を裁断するように構成したことを特徴とする。
この明細書において、裁断方法に関する記載はそのまま裁断装置にも当てはまり、逆に裁断装置に関する記載はそのまま裁断方法にも当てはまる。
【0006】
この発明では、隣接した点間での速度差が、裁断ヘッドの加速度で追随可能な範囲に留められるので、裁断ヘッドがオーバーランして裁断パターンから外れることがない。また裁断ヘッドに加える速度制限は、オーバーランを防ぐ範囲で最小限のものであるため、短時間で裁断を実行できる。
【0007】
好ましくは、前記ステップb)では、前記点列の少なくとも一点を着目点、着目点から裁断方向1ポイント後方の点を第2の点、着目点から裁断方向1ポイント前方の点を第3の点として、
b1) 前記第2の点と前記着目点との制限速度を比較し、第2の点の制限速度が高すぎる場合は第2の点の制限速度を低下させると共にステップb2)を実行し、第2の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点後方の処理を終了し、
b2) 前記第2の点から裁断方向1ポイント後方の点を第4の点として、前記第2の点と前記第4の点との制限速度を比較し、第4の点の制限速度が高すぎる場合は、第4の点の制限速度を低下させると共にステップb3)を実行し、第4の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点後方の処理を終了し、
b3) 前記第4の点を新たな第2の点とし、該新たな第2の点から裁断方向1ポイント後方の点を新たな第4の点として、ステップb2)に戻り、
b4) 前記第3の点と前記着目点との制限速度を比較し、第3の点の制限速度が高すぎる場合は第3の点の制限速度を低下させると共にステップb5)を実行し、第3の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点前方の処理を終了し、
b5) 前記第3の点から裁断方向1ポイント前方の点を第5の点として、前記第3の点と前記第5の点との制限速度を比較し、第5の点の制限速度が高すぎる場合は、第5の点の制限速度を低下させると共にステップb6)を実行し、第5の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点前方の処理を終了し、
b6) 前記第5の点を新たな第3の点とし、該新たな第3の点から裁断方向1ポイント前方の点を新たな第5の点として、ステップb5)に戻り、
b7) 着目点の前方と後方との処理を終了すると、他の点を新たな着目点としてステップb1)へ戻ると共に、前記点列の全ての点が着目点として処理されると、ステップb)を終了して、ステップc)を実行する。
【0008】
このようにすると、単純なアルゴリズムで確実に全ての点に対して、隣接した点間の速度差に関する条件を充たす制限速度を生成できる。着目点毎のステップb1)〜b7)の内で、ステップb7)は最後に実行され、ステップb1)〜b3)とステップb4)〜b6)のいずれを先に実行するかは任意である。
【0009】
また好ましくは、前記ステップb)では、前記点列の少なくとも一点を着目点とし、着目点と裁断方向の前後に隣接した点との間で、制限速度を比較することにより、隣接点の制限速度が高過ぎる、隣接点の制限速度が低すぎる、隣接点の制限速度が妥当のいずれであるかを求めて、
b8) 裁断方向後方の隣接点の制限速度が高すぎる場合は、隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、隣接点の制限速度が妥当な場合は隣接点の制限速度を変更せずに隣接点を新たな着目点とし、次ぎに1ポイントさらに後方の点を新たな隣接点として、新たな着目点との間で制限速度を比較し、
b9) 裁断方向後方の隣接点の制限速度が低すぎる場合は、着目点の制限速度を低下させ、次ぎに着目点と裁断方向前方の隣接点との間で制限速度を比較し、裁断方向前方の隣接点の制限速度が高過ぎる場合は隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、1ポイントさらに前方の隣接点との間で制限速度を比較することを、隣接点の制限速度が高過ぎなくなるまで繰り返し、
b10) 裁断方向前方の隣接点の制限速度が高すぎる場合は、隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、隣接点の制限速度が妥当な場合は隣接点の制限速度を変更せずに隣接点を新たな着目点とし、次ぎに1ポイントさらに前方の点を新たな隣接点として、新たな着目点との間で制限速度を比較し、
b11) 裁断方向前方の隣接点の制限速度が低すぎる場合は、着目点の制限速度を低下させ、次ぎに着目点と裁断方向後方の隣接点との間で制限速度を比較し、裁断方向後方の隣接点の制限速度が高過ぎる場合は隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、1ポイントさらに後方の隣接点との間で制限速度を比較することを、隣接点の制限速度が高過ぎなくなるまで繰り返し、
b12) 前記点列の全ての点が、ステップb8),b10)のいずれかで処理されると、ステップb)を終了して、ステップc)を実行する。
【0010】
このようにしても、比較的単純に点列の全ての点に対して、隣接した点間の速度差に関する条件を充たす制限速度を生成できる。またステップb8)〜b11)の実行順序は適宜に変更でき、この内で特に効率的なのは、ステップb8),b9)をセットとし、ステップb10),b11)をセットとして、裁断開始点と裁断終了点まで処理することである。ステップb8),b9)のセットと、ステップb10),b11)のセットのいずれを先に実行するかは、任意である。
【0011】
特に好ましくは、ステップa)及びステップb)を、パーツ間で裁断ヘッドを移動させる間に実行する。すると制限速度の生成のために、実行効率が低下しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0013】
図1〜図9に実施例を示す。各図において、2は裁断装置で、4はコントローラで、バス6と、CPU7、入出力インターフェース8、及びメモリ9を備えている。コントローラ4にはカメラ10が接続され、図示しない裁断ベッド上のシート材を撮像し、モニタ12に例えばシート材の画像に重ねて、裁断パターンを表示する。そしてユーザは、マウス14などにより、裁断パターンに関する種々の指示を行う。
【0014】
16はヘッドコントローラで裁断ヘッドを駆動し、ヘッドコントローラ16はDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)などのプロセッサ18と、メモリ19とを備えた情報処理装置である。なおハードウェア的には、ヘッドコントローラ16はコントローラ4と同一のものでもよい。コントローラ4のメモリ9にはシート材の裁断パターンが記憶され、裁断パターンはパーツの輪郭に沿って配置した点列からなる。点列は点を指定する座標の列からなり、例えばパーツ単位で1つの点列とする。
【0015】
ヘッドコントローラ16のメモリ19には、例えば1パーツ分の点列の座標と、隣接した点間の距離、点毎の裁断方向の変化角θ、並びに点毎の制限速度が記憶される。メモリ19に記憶するデータの種類は任意で、例えば前記のもの以外に、各点での制限速度のX方向成分とY方向成分、及び各点でのX方向及びY方向の加速度などを記憶させてもよい。裁断ヘッドが運動するのに必要なデータは、例えば点間の距離と速度及び加速度なので、これらのデータを生成すると、点列の座標と変化角などをメモリ19から消去しても良い。
【0016】
図示しない裁断ヘッドを駆動するため、3個のサーボモータ20〜22があり、サーボモータ20は例えばX方向に沿って裁断ヘッドを駆動し、サーボモータ21はY方向に沿って裁断ヘッドを駆動し、サーボモータ22は裁断ヘッドに設けた刃先を例えば水平面内で回転させる。24〜26はサーボコントローラで、サーボモータ20〜22をサーボ制御し、サーボモータ20〜22からはフィードバック信号として、エンコーダ値がサーボコントローラ24〜26と、ヘッドコントローラ16とに入力される。
【0017】
例えば裁断ベッドの長手方向(Y方向)に沿ってレールを設け、レールからX方向に延びるアームに沿って裁断ヘッドを取り付ける。そしてサーボモータ21でアームを走行させ、サーボモータ20で裁断ヘッドをアームに沿って運動させる。サーボモータ20,21が裁断ヘッドを運動させる方向は、ここでは水平面内で直交しているが、例えば第1のサーボモータで図示しないアームを伸縮させ、第2のサーボモータでアームの向きを回転させても良い。
【0018】
裁断ヘッドに設けた刃先モータ28は例えばオープンループの制御で、裁断用の刃先を昇降させる。そしてパーツとパーツの間を移動する場合、刃先がシート材に触れないように上昇させておく。なおコントローラ4の構成や裁断ヘッドの構成自体は、特許文献1などにより公知である。そしてこれらの構成は公知技術に従って自由に変更できる。
【0019】
図2に裁断パターンの例を示し、31〜33は点列のポイント(点)である。また図2の左から右へと裁断ヘッドが進行するものとする。ポイント32からポイント33へと裁断パターンは大きな曲率で変化し、このため特許文献1でも、ポイント32での制限速度は充分小さくなる。しかし特許文献1では、ポイント31の制限速度がポイント32と関係なく定まるため、ポイント31からポイント32への間に、サーボモータを充分に加減速できず、裁断ヘッドが点線36のようにオーバーランして、裁断パターンから逸脱することがある。
【0020】
これに対して実施例では、ポイント31での制限速度は、ポイント32の制限速度を加味し、ポイント31−32間でポイント32の速度まで加減速できるように定められる。このため曲率が大きい場合、即ち曲率半径が小さい場合、裁断ヘッドが点列で定まる裁断パターンから逸脱することはなく、例えば実線35に沿って正確な裁断ができる。なおこの明細書において、速度は速さではなく、平面内でのX方向とY方向あるいは半径方向と角度方向などの2つの成分から成るベクトルである。
【0021】
図3にポイント間の距離dと変化角θを示す。37〜39はポイントで、図のようにポイント間の距離と変化角とを定める。図の矢印は裁断ヘッドの走行方向である。そして周知のように曲率半径は d/2/sin(θ/2) で定まり、曲率は (2×sin(θ/2))/d で定まる。この明細書では、各ポイントでの制限速度を求めることが重要であり、途中の計算式自体は重要ではない。計算量を少なくするため、同じ式でも実際の計算方法は多数ある。また同じ結果を得るためでも、近似計算の方法は多数ある。
【0022】
図4に制限速度の生成プロセスを示す。ヘッドコントローラ16のメモリ19に設けたテーブル40に、1パーツ分の点列の各点の座標x,yをメモリ9から入力する。プロセッサ18は初期値生成プロセス41で、各ポイントの座標から変化角θとポイント間の距離dとを求める。そして制限速度vの候補として、(a/c)1/2 を求め、ここにaは裁断ヘッドの加速度で、cは曲率である。制限速度の候補vがデフォールトで定まる速度よりも小さければ、各ポイントに求めた制限速度を記載し、それ以外の場合デフォールトの値を制限速度とする。以上のように、各ポイントに対し変化角と前のポイントとの距離及び制限速度を、テーブル40に書き込む。
【0023】
制限速度更新プロセス42は、テーブル40の制限速度の初期値を前後のポイントとの比較により更新する。ここに制限速度を比較するとは、隣接するポイントまで裁断ヘッドが設定された加速度で移動した際に、一方のポイントの制限速度から他方のポイントの制限速度に変化できるように比較することである。プロセス42は、前向きプロセス43と後向きプロセス44とから成り、前向きプロセス43は処理済みの点を基準として未処理の点の制限速度を更新(変更)するプロセスで、後向きプロセス44は未処理の点を基準として処理済みの点の制限速度を更新するプロセスである。制限速度の更新では処理の方向を変化させる必要があるので、例えばLIFO(後入れ先出し)のスタック46を用いて、戻りポイントと次の処理の方向とを記憶する。処理方向は例えばここでは右向き(時計回り)がR、左向き(反時計回り)をLとする。またポインタ47として処理中のポイントの番号と処理の方向とを記憶する。
【0024】
図5〜図8に、前向きプロセスと後向きプロセスとにより制限速度を更新する過程を示す。図5の前向きプロセスでは、例えば1パーツ分の点列の適宜の1点、好ましくは制限速度の初期値が平均よりも低い点で、最も好ましくは制限速度の初期値が下位の所定の範囲にある点、例えば下位3位以内の点を1点選び出す。そしてスタック46に処理を開始したポイントの番号と、最初の処理方向とは逆向きの処理の方向を記憶し、ポインタ47に次ぎに処理するポイントと処理の向きを記憶する。なお処理の向きは、裁断ヘッドの走行方向を基準として、前方あるいは後方のいずれでもよい。また処理を開始する点は処理済みの点と見なす。
【0025】
処理済みの点と隣接する1点を選び出し、処理済みの点と制限速度を比較する。隣接する2点での制限速度の差の絶対値は、 (a・d)1/2 以下でなければならず、ここにaは裁断ヘッドの加速度で、dは2点間の距離である。未処理の点の制限速度が高すぎる場合、制限速度の差が (a・d)1/2 となるように、その点の制限速度を低下させ、ポインタ47の点を1変更して、次の点の処理に移る。未処理の点の制限速度が低すぎる場合、処理済みの点の制限速度を低下させる必要があり、図6の後向きプロセスへ移行する。これ以外の場合、次のポイントの処理を行い、次のポイントが無くなると、即ち点列の一端まで処理すると、スタック46にスタックに記載されたポイントに戻り、スタック46に記載された処理方向に沿って処理を行う。スタック46に戻る点がない場合、1パーツ分の全ての点の処理が完了している。
【0026】
図6の後向きプロセス44では、戻りポイントと処理の方向(R or L)をLIFO(ラーストイン・ファーストアウト)のスタック46にスタックする。そして後向きプロセスでは、処理済みのポイントを再度処理し、処理を開始した点に近づく方向に処理する。例えば裁断ヘッドの走行方向後方に処理していた状態から反転して、前方に処理する場合、1ポイント前方のポイントの制限速度を更新対象とし、その制限速度が高すぎる場合、制限速度を低下させる。そして制限速度の更新が必要でなくなるまで、即ち、1ポイント前方のポイントの制限速度が高過ぎないので、後向きの処理を打ち切ることができるようになるまで、処理を続行する。そして更新の必要が無くなると、スタック46のデータに従って戻りポイントに戻り、前向きプロセスを実行する。
【0027】
この状況を図7に模式的示す。図7の上部はデフォールトでの制限速度を示し、P1〜P9はポイントである。次ぎに各ポイントの曲率cに従い、制限速度の候補として
(a/c)1/2 を求め、この値がデフォールトよりも小さければ、制限速度を
(a/c)1/2 とし、そうでない場合はデフォールトの制限速度を用いる。この結果、制限速度は図7の第2段のようになり、ここでポイントP5が最も制限速度が小さいので、例えばこの点を開始点とする。前向きプロセスは、ポイントP5から走行方向前後の双方に対して行い、例えばポイントP5が開始点であることをスタック46に記憶し、ポイントP5からポイントP4への向きに処理を開始したことも、スタック46に記憶する。
【0028】
ポイントP5を基準として、ポイントP4の制限速度は高すぎるので低下させ、ポイントP4を基準として、ポイントP3の制限速度も高すぎるので低下させる。次ぎにポイントP2を処理すると、ポイントP3の制限速度が高すぎる。なお図7の鎖線は前のポイントを基準とする制限速度の範囲を示している。そこでポイントP2を戻りポイントとして、図7の左方向が処理の方向あることをスタックに記憶し、後向きプロセスにジャンプする。ポイントP2を基準としてポイントP3の制限速度を低下させる。次の処理対象のポイントP4では、ポイントP3を基準としてポイントP4の制限速度が許容範囲内にあるので、ポイントP4の制限速度を更新する必要がない。
【0029】
このためポイントP3で後向きプロセスから前向きプロセスにジャンプし、スタックを用いてポイントP2へ戻り、ポイントP1の処理を実行する。これらによって裁断ヘッドの走行方向後方への制限速度の更新を完了する。次いでスタックを用いてポイントP5へ戻り、走行方向前方への処理を開始する。同様にして処理を行うと、図8のような制限速度のパターンが得られる。なお裁断パターンではポイントP1とポイントP9はごく近接した点であるが、ポイントP1から裁断を開始しポイントP9で裁断を中止するので、ポイントP9からポイントP1へ移行することは考慮する必要がない。
【0030】
図9に処理の手順を示す。図1のコントローラ4を用い裁断パターンを生成し、この時コントローラ4のメモリ9に各パーツ毎のポイントを記憶させる。裁断ヘッドは裁断パターンで指定された順に沿って各パーツを裁断する。このために裁断ヘッドは、パーツ毎の裁断開始位置へ移動する必要がある。この移動の間に、図5〜図7の処理を実行して、各ポイント毎の制限速度を例えば1パーツ分生成し、ヘッドコントローラ16のメモリ19に記憶する。裁断ヘッドがパーツの最初のポイントに到着すると、ポイント毎の制限速度に従ってヘッドを駆動し、1パーツを裁断する。1パーツの裁断が終了すると、次のパーツの最初のポイントへ移動し、これと並行してポイント毎の制限速度を生成する。
【0031】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 裁断ヘッドが裁断パターンからオーバーランすることがないので、正確な裁断ができる。
(2) 制限速度は、各ポイントでの曲率によって定まる制限速度以下であり、かつ隣接したポイントへ移動する間に、移動先のポイントでの制限速度まで加減速できる最大の速度である。従って必要最小限の速度制御を課すことになるので、裁断時間を短くできる。
(3) パーツへの移動の間に制限速度を算出するので、無駄な時間が生じない。
【0032】
実施例では、前向きプロセスと後向きプロセスを1点から開始したが、複数の点から開始しても良い。例えばパーツを裁断方向に沿って複数のエリアに分割し、各エリアでの制限速度の初期値が最小の点から処理しても良い。そしてエリアの境界のポイントが、走行方向の前後いずれのポイントに対しても、制限速度の条件を充たすようにすればよい。実施例では、制限速度の初期値を1パーツの全ポイント分、テーブル40に書き込んだ後に、制限速度の更新を開始した。しかしながら、処理を開始するポイントとその前後のポイントに対してのみ、最初に制限速度の初期値をテーブル40に書き込んでも良い。この場合、他のポイントでは、例えばそのポイントの制限速度の初期値が必要になった際に初期値を求めて、テーブル40に書き込む。
【0033】
図10〜図12に第2の実施例を示し、特に指摘した点以外は図1〜図9の実施例と同様である。第2の実施例では、1パーツ分のポイントの1点、例えば裁断を開始する点を着目点とし、裁断方向後方の隣接点(第2の点)の制限速度が高過ぎるか否かを判断する。制限速度が高過ぎる場合、後方隣接点の制限速度を、着目点との距離と加速度から定まる速度へ変更し、後方隣接点から着目点へ走行する間に、着目点の制限速度まで減速できるようにする。そしてさらに1ポイント後方の点(第4の点)と、直前に処理した後方の隣接点(第2の点)との間で制限速度を比較し、1ポイント後方の点(第4の点)の制限速度が高過ぎると、1ポイント後方の点(第4の点)の制限速度を制限する。そして裁断方向後方にポイントが無くなるか、1ポイント後方の隣接点(第4の点)で、制限速度の変更が不要なものを処理するまで、上記の処理を繰り返す。
【0034】
裁断方向後方にポイントが無くなるか、制限速度の変更が不要な1ポイント後方の隣接点(第4の点)に達すると、裁断方向後方への処理を完了する。次ぎに着目点から見て、裁断方向前方の隣接点(第3の点)と、着目点との間で制限速度を比較し、前方の隣接点(第3の点)の制限速度が高過ぎると、前記と同様に第3の点の制限速度を低下させる。そしてさらに1ポイント前方の点(第5の点)と、直前に処理した前方の隣接点(第3の点)との間で制限速度を比較し、1ポイント前方の点(第5の点)の制限速度が高過ぎると、1ポイント前方の点(第5の点)の制限速度を制限する。そして裁断方向前方にポイントが無くなるか、制限速度の変更が不要な第5の点に達するまで、上記の処理を繰り返す。
【0035】
裁断方向前方にポイントが無くなるか、制限速度の変更が不要な第5の点に達すると、着目点を例えば裁断方向前方へ1ポイントずらし、全てのポイントを着目点として処理すると、制限速度の生成処理を完了する。
【0036】
図12に、ポイントP1〜P10に対する制限速度の生成を示す。最初の実施例と同様に、制限速度の初期値及び隣接点との距離等をテーブル40に書き込み、例えば裁断を開始するポイントP1から最後のポイントP10への順に処理する。ポイントP1を最初の着目点とすると、後方に隣接点が無く、前方のポイントP2の制限速度は高過ぎないので、ポイントP2の制限速度を変更せず、着目点をポイントP2に移す。ポイントP2に対し、ポイントP1の制限速度は高過ぎないので、裁断方向後方への処理を終わる。ポイントP3の制限速度は高過ぎるので低下させ、ポイントP4の制限速度は、ポイントP3の制限速度を基準として高過ぎないので、そのままとし、着目点をポイントP3へ移す。
【0037】
以下同様にして処理する。例えばポイントP4が着目点の場合、ポイントP3,P5の制限速度を変更し、ポイントP2,P6の制限速度は高過ぎないので、ポイントP2,P6よりも遠方のポイントP1,P7は処理しない。次いで着目点をポイントP5等に1ポイントずつ順次移動させ、ポイントP10が着目点となるまで、即ち全ポイントが着目点となるまで処理を継続する。最初の実施例では、着目点に相当する点の制限速度も後向きプロセスで変更したが、第2の実施例では着目点自体の制限速度は変更せず、後向きプロセスに相当する処理を実行しない点が異なる。
【0038】
なお裁断開始点から裁断方向に沿って1ポイントずつ着目点を移すことには、万一、裁断ヘッドの移動中に制限速度の計算が完了しない場合でも、裁断開始位置までヘッドが到着すると裁断を開始できる利点がある。この場合、例えば裁断中のプロセッサ18の空き時間に制限速度を計算する。空き時間が無い場合、例えば裁断速度をオーバーランのない速度まで低下させるか、裁断を一時停止する。

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例の裁断装置の制御系を示すブロック図
【図2】実施例でのポイントと、制御遅れによる裁断ラインの逸脱を示す図
【図3】実施例でのポイントの間隔dと変化角θとを示す図
【図4】実施例での制限速度の生成プロセスを模式的に示す図
【図5】実施例での、前向きプロセスを示す図
【図6】実施例での、後向きプロセスを示す図
【図7】実施例での、制限速度の生成過程を示す図
【図8】実施例での、制限速度を示す図
【図9】実施例での、裁断パターンの生成から裁断の実行までの処理を示す図
【図10】第2の実施例での、制限速度の生成アルゴリズムを示すフローチャート
【図11】図10に続くフローチャート
【図12】第2の実施例での、制限速度の生成過程を示す図
【符号の説明】
【0040】
2 裁断装置
4 コントローラ
6 バス
7 CPU
8 入出力インターフェース
9 メモリ
10 カメラ
12 モニタ
14 マウス
16 ヘッドコントローラ
18 プロセッサ
19 メモリ
20〜22 サーボモータ
24〜26 サーボコントローラ
28 刃先モータ
31〜33 ポイント
35 実線
37〜39 ポイント
40 テーブル
41 初期値生成プロセス
42 制限速度更新プロセス
43 前向きプロセス
44 後向きプロセス
46 スタック
47 ポインタ

d ポイント間隔
θ 変化角
a 加速度
c 曲率
P1〜P9 ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上の点列で指定される裁断パターンに沿って、かつ裁断パターンの曲率により定まる点列での点毎の制限速度以下で、少なくとも2軸のサーボモータにより、裁断ヘッドを前記平面上を運動させて、シート材から複数のパーツを裁断する方法において、
a) 前記点列での点毎に、前記裁断パターンの曲率から定まる制限速度を、メモリに記憶するステップと、
b) 前記点列での隣接した点間での制限速度を比較し、制限速度の差をΔv,距離をd,裁断ヘッドの加速度をaとして、Δvの絶対値が(a・d)1/2以下となるように、プロセッサにより各ポイントの制限速度を定めて、点毎の制限速度を変更する、制限速度の比較ステップと、
c) 変更した制限速度に従って裁断ヘッドを運動させることにより、シート材を裁断するステップ、とを設けたことを特徴とする、裁断方法。
【請求項2】
前記ステップb)では、前記点列の少なくとも一点を着目点、着目点から裁断方向1ポイント後方の点を第2の点、着目点から裁断方向1ポイント前方の点を第3の点として、
b1) 前記第2の点と前記着目点との制限速度を比較し、第2の点の制限速度が高すぎる場合は第2の点の制限速度を低下させると共にステップb2)を実行し、第2の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点後方の処理を終了し、
b2) 前記第2の点から裁断方向1ポイント後方の点を第4の点として、前記第2の点と前記第4の点との制限速度を比較し、第4の点の制限速度が高すぎる場合は、第4の点の制限速度を低下させると共にステップb3)を実行し、第4の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点後方の処理を終了し、
b3) 前記第4の点を新たな第2の点とし、該新たな第2の点から裁断方向1ポイント後方の点を新たな第4の点として、ステップb2)に戻り、
b4) 前記第3の点と前記着目点との制限速度を比較し、第3の点の制限速度が高すぎる場合は第3の点の制限速度を低下させると共にステップb5)を実行し、第3の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点前方の処理を終了し、
b5) 前記第3の点から裁断方向1ポイント前方の点を第5の点として、前記第3の点と前記第5の点との制限速度を比較し、第5の点の制限速度が高すぎる場合は、第5の点の制限速度を低下させると共にステップb6)を実行し、第5の点の制限速度が高過ぎ無い場合は着目点前方の処理を終了し、
b6) 前記第5の点を新たな第3の点とし、該新たな第3の点から裁断方向1ポイント前方の点を新たな第5の点として、ステップb5)に戻り、
b7) 着目点の前方と後方との処理を終了すると、他の点を新たな着目点としてステップb1)へ戻ると共に、前記点列の全ての点が着目点として処理されると、ステップb)を終了して、ステップc)を実行する、ことを特徴とする請求項1の裁断方法。
【請求項3】
前記ステップb)では、前記点列の少なくとも一点を着目点とし、着目点と裁断方向の前後に隣接した点との間で、制限速度を比較することにより、隣接点の制限速度が高過ぎる、隣接点の制限速度が低すぎる、隣接点の制限速度が妥当のいずれであるかを求めて、
b8) 裁断方向後方の隣接点の制限速度が高すぎる場合は、隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、隣接点の制限速度が妥当な場合は隣接点の制限速度を変更せずに隣接点を新たな着目点とし、次ぎに1ポイントさらに後方の点を新たな隣接点として、新たな着目点との間で制限速度を比較し、
b9) 裁断方向後方の隣接点の制限速度が低すぎる場合は、着目点の制限速度を低下させ、次ぎに着目点と裁断方向前方の隣接点との間で制限速度を比較し、裁断方向前方の隣接点の制限速度が高過ぎる場合は隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、1ポイントさらに前方の隣接点との間で制限速度を比較することを、隣接点の制限速度が高過ぎなくなるまで繰り返し、
b10) 裁断方向前方の隣接点の制限速度が高すぎる場合は、隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、隣接点の制限速度が妥当な場合は隣接点の制限速度を変更せずに隣接点を新たな着目点とし、次ぎに1ポイントさらに前方の点を新たな隣接点として、新たな着目点との間で制限速度を比較し、
b11) 裁断方向前方の隣接点の制限速度が低すぎる場合は、着目点の制限速度を低下させ、次ぎに着目点と裁断方向後方の隣接点との間で制限速度を比較し、裁断方向後方の隣接点の制限速度が高過ぎる場合は隣接点の制限速度を低下させると共に隣接点を新たな着目点とし、1ポイントさらに後方の隣接点との間で制限速度を比較することを、隣接点の制限速度が高過ぎなくなるまで繰り返し、
b12) 前記点列の全ての点が、ステップb8),b10)のいずれかで処理されると、ステップb)を終了して、ステップc)を実行する、ことを特徴とする請求項1の裁断方法。
【請求項4】
前記ステップa)及びステップb)を、パーツ間で裁断ヘッドを移動させる間に実行することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの裁断方法。
【請求項5】
平面上の点列で指定される裁断パターンに沿って、かつ裁断パターンの曲率により定まる点列での点毎の制限速度以下で、少なくとも2軸のサーボモータにより、裁断ヘッドを前記平面上を運動させて、シート材から複数のパーツを裁断する装置において、
前記点列での点毎の制限速度をメモリに記憶するための手段と、
前記点列での隣接した点間での制限速度の差をΔv,距離をd,裁断ヘッドの加速度をaとして、Δvの絶対値が(a・d)1/2以下となるように、プロセッサにより各ポイントの制限速度を定めて、点毎の制限速度を変更するための手段とを設けて、
変更した制限速度に従って裁断ヘッドを運動させることにより、シート材を裁断するように構成したことを特徴とする、裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−155287(P2010−155287A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333317(P2008−333317)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】