説明

装飾部材及びその製造方法

【課題】立体的な曲面形状の着色面を有する装飾部材において、着色面の印刷領域の見切りが鮮明で、製造工程を簡素化できる装飾部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂基材2の着色面2b側の縁端部2c上の各点からの距離の和が最小となる基準平面zから意匠面2a側に向かって凹設された三次元形状の着色面2bをもつ透明の樹脂基材2において、樹脂基材2の着色面2b側には、背景部10を囲むと共に、樹脂基材2と一体に形成された隔壁3が設けられている。隔壁3の先端部3cは、基準平面zを越えない基準平面zの近傍まで突設しており、背景部10のインクジェット印刷時に、インクの横方向への飛散が隔壁3で遮られて、インクが光輝部11に吹き込むことがなく、背景部10の鮮明な見切りが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などに装着されるオーナメント、エンブレム、ロゴマークなどの装飾部材と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、メーカーのマーク、車種などを表すオーナメント、エンブレム、フロントグリルガーニッシュなどの装飾部材が用いられている。これらの装飾部材は一般に、表面が意匠面、裏面が着色面である透明な樹脂基材から形成され、樹脂基材の裏面に着色された色が表面から視認できる構造となっている。そして、着色面は背景部と光輝部に区画され、背景部の中に光輝部が浮き上がって表出する意匠とされる場合が多い。
【0003】
このような装飾部材を製造する場合、光輝部と背景部との見切りが重要である。そこで従来の装飾部材の製造方法として、樹脂基材の裏面に光輝部を蒸着法により形成し、さらに背景部をスクリーン印刷で形成する方法がある。具体的には、スクリーン印刷で背景部を形成しておき、その後に背景部に形成された印刷層を含めて樹脂基材の裏面全体に蒸着法で金属の蒸着膜を形成する。
【0004】
近年では、装飾部材の背景部の意匠として高級感のあるグラデーション意匠が採用される傾向がある。また、平面形状より曲面形状の意匠が好まれることから、装飾部材の全体形状は三次元の曲面形状とされる傾向がある。特許文献1には、このような複雑な意匠に対して、スクリーン印刷によって背景部を形成する方法が提案されている。特許文献1に記載されている従来の装飾部材の製造方法を説明する断面図を図6に示す。
【0005】
この装飾部材の製造方法は、三次元形状の曲面表面51をもち、曲面表面51には凹部52及び凸部53が形成された透明な樹脂基材50を用意し、スクリーン印刷によって曲面表面51の凸部53にグラデーション意匠をもつ背景層を形成すると共に、凹部52に金属光沢をもつ光輝層を形成するものである。
【0006】
グラデーション模様のスクリーン印刷には、グラデーション模様の透孔が形成されたスクリーン60を用いる。このスクリーン60を樹脂基材50の曲面表面51に沿うように弛ませた状態で配置し、ゴム製のスキージ61を軸62を中心にして揺動させつつ第1色を印刷する。第1色の印刷が完了した後に、スクリーン60を第2色印刷用のスクリーンに交換し、第1色の上に第2色を塗り重ねる。
【0007】
この製造方法によれば、背景層と光輝層との見切りがシャープとなり、グラデーション意匠と相乗的に作用して高級感のある立体的な意匠を発現することができる。また、マスク工程や、作業者の熟練も不要であるので、装飾部材を容易にかつ低コストで安定して製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−284713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、スクリーン印刷によって背景部を形成する特許文献1に記載の従来の装飾部材の製造方法においては、印刷色の一色毎にスクリーンや色を交換する工程が必要である。また、スクリーンへのインクの残留による透孔の目詰まり等を防止するためにはスクリーンの洗浄が必要である。これにより作業に手間がかかり、作業工程数の増大が製造コストの増大の要因となっていた。
【0010】
また、スクリーン印刷ではグラデーション模様をドットで表現することしかできないため、グラデーション模様が粗いことが意匠性の低下の要因となっていた。
【0011】
このようなスクリーン印刷の問題点を解決する方法として、インクジェット印刷によるグラデーション意匠の形成が考えられる。
【0012】
ところが、インクヘッドが直線的に往復動する市販のインクジェットプリンタを用いて装飾部材の曲面形状の着色面へ着色を行う場合には以下の問題がある。
【0013】
インクヘッドから液滴として噴射されるインクには、往復動するインクヘッドの速度が慣性力として加わっているため、インクの落下軌道は円弧を描く。また、インクヘッドと着色面との距離が離れていると、インクの着弾までに時間がかかり、インクに作用する空気抵抗によってインクの軌道にバラツキが発生する。したがって、装飾部材の着色面の曲面形状の凹み量が大きいとインクヘッドと着色面との距離も離れるため、インクの着弾精度が低下し、所定の印刷領域からインクがはみ出して、インクジェット印刷領域の見切りが不鮮明になる。
【0014】
この見切りを鮮明にするために、非印刷領域にマスキングを施す場合には、マスク工程の作業性を考慮して、非印刷領域の曲面形状に合わせて成形された硬質のマスキング部材を非印刷領域に配置する方法が用いられる。ところが、装飾部材の着色面の曲面形状の凹み量が大きいほど、マスキング部材の曲面形状を装飾部材の曲面形状に合うように正確に成形することが困難になる。このため、装飾部材の曲面形状とマスキング部材の曲面形状とが噛み合わずにマスキングに隙間が発生するおそれがある。そして、この隙間から非印刷領域にインクが吹き込むという問題が生じる。
【0015】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、立体的な曲面形状の着色面を有する装飾部材において、着色面の印刷領域の見切りが鮮明で、製造工程を簡素化できる装飾部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0017】
(1)本発明の装飾部材は、透明な樹脂基材と、該樹脂基材の裏面を着色して形成された着色面とを有すると共に、該着色面が該樹脂基材の表面である意匠面から視認される装飾部材であって、前記着色面が、前記樹脂基材の前記裏面側の縁端部上の各点からの距離の和が最小となる基準平面から該樹脂基材の前記表面側に向かって凹設された三次元形状の面からなり、前記着色面は、インクジェット印刷によって着色されるインクジェット印刷領域と、該インクジェット印刷領域以外の領域である非インクジェット印刷領域とからなり、前記インクジェット印刷領域と前記非インクジェット印刷領域とを区画すると共に、前記基準平面に向かって該基準平面を越えない該基準平面の近傍まで突出する隔壁が、前記樹脂基材の前記裏面に一体に形成されていることを特徴とする。
【0018】
基準平面とは、樹脂基材の裏面側の縁端部上の各点からの距離の和が最小になる仮想平面をいう。基準平面は、樹脂基材の裏面を覆うように裏面側の縁端部上に載置された平面を仮想している。樹脂基材の裏面の縁端部は、樹脂基材の厚み方向の高さが均一な場合と、不均一な場合とがある。樹脂基材の裏面の縁端部の高さが均一な場合には、基準平面は縁端部の全周に接する。樹脂基材の裏面の縁端部の高さが不均一な場合には、基準平面は、縁端部の中で最も高い部分を含む少なくとも2点に接する。樹脂基材の裏面の縁端部の高さが均一であっても不均一であっても、基準平面は、樹脂基材の裏面を覆うように裏面側の縁端部上に載置された1つの仮想平面として決定される。
【0019】
非インクジェット印刷領域とは、インクジェット印刷以外の手段によって着色される領域、及び無着色の領域のことである。
【0020】
このような構成によれば、意匠面にはインクジェット印刷により形成されたインクジェット印刷領域が設けられている。インクジェット印刷は、同時に複数色のインクを所望の位置に吹き付けることにより、1工程で多色印刷を行うことができる。このため、インクジェット印刷では、1色ずつ印刷するスクリーン印刷とは異なって、印刷工程数を大幅に削減することができる。また、インクジェット印刷は、スクリーンを通してインクを着色するスクリーン印刷とは異なって、インクヘッドから樹脂基材にインクを吹き付けるため、緻密な意匠を形成することができる。
【0021】
着色面のインクジェット印刷領域と非インクジェット印刷領域とが隔壁によって区画されており、隔壁の先端部が、基準平面を越えない基準平面の近傍まで突設している。ここで、基準平面の近傍とは、基準平面と同じ高さか、それよりも着色面側に位置しており、かつインクジェットプリンタから噴射されたインクが非インクジェット領域に飛散するのを抑制することができる程度の高さを意味する。具体的には、基準平面の近傍とは、基準平面の高さと同じか、または基準平面の高さよりも低くかつ基準平面と隔壁下端との間の1/2の高さよりも高い部分をいう。
【0022】
隔壁は、上記の高さに突出して、インクジェット領域と非インクジェット領域とを区画している。このため、インクジェットプリンタのインクヘッドと着色面との距離が離れている場合であっても、インクの横方向への飛散が隔壁で遮られて、インクが非インクジェット印刷領域に吹き込み難い。ゆえに、インクジェット印刷と非インクジェット印刷との見切りを、鮮明に形成することができる。
【0023】
また、隔壁の先端部が、基準平面を越えない高さまで突出している。このため、インクジェットプリンタのインクヘッドを、樹脂基材の基準平面と同じかそれよりも若干上側に配置して、インクを樹脂基材の着色面に吹き付ける際には、隔壁がインクヘッドと干渉するおそれはない。
【0024】
また、インクジェット印刷を行う際には、マスキング部材の周縁部を隔壁の先端部に保持して樹脂基材の裏面における非インクジェット印刷領域を被覆する場合がある。ここで、本発明においては、隔壁の先端部が、樹脂基材の裏面に突設している。このため、マスキング部材は、樹脂基材の裏面に浮いた状態で保持されるため、樹脂基材の裏面の非インクジェット印刷領域の三次元的な形状に沿わせる必要がない。これにより、マスキング部材の形状が単純となるためにマスキング部材の成形精度が良好となる。また、マスキング部材の周縁部と隔壁の先端部との間の隙間を少なくすることができ、良好なマスキングを施すことが容易となる。
【0025】
(2)本発明の装飾部材において、好ましくは、前記隔壁の先端部と前記基準平面との距離は2mm以内であることを特徴とする。
【0026】
インクジェット印刷においては、インクヘッドと着色面との距離を通常1〜1.5mm、最大3mm程度とするのがインクの着弾精度を確保するための推奨距離とされている。
【0027】
したがって、本発明の構成のように、隔壁の先端部と、樹脂基材の縁端部の裏面側に仮想された基準平面との間の距離を2mm以内にすることにより、例えば、インクヘッドを基準平面から1mm離してインクジェット印刷を行う場合には、インクヘッドと隔壁の先端部との距離を推奨距離である3mm以内に保つことができる。
【0028】
これにより、インクが隔壁の先端部を越えて非インクジェット印刷領域に吹き込むおそれが十分に小さくなり、インクジェット印刷領域と非インクジェット印刷領域との見切りをより一層鮮明に形成することができる。また、インクジェット印刷の際に非インクジェット印刷領域をマスキングしない場合であっても、インクが非インクジェット印刷領域に吹き込むおそれが十分に小さいことにより、インクジェット印刷と非インクジェット印刷との見切りを、鮮明に形成することができる。
【0029】
(3)本発明の装飾部材において、好ましくは、前記隔壁は、略直角三角形状の断面をもち、該隔壁の前記先端部を挟んで略直立面と傾斜面とを有しており、該略直立面は前記非インクジェット印刷領域側に配置され、該傾斜面は前記インクジェット印刷領域側に配置されていることを特徴とする。
【0030】
この場合には、インクジェット印刷によって傾斜面にも良好に着色することが可能である。また、非インクジェット印刷領域側に配置される略直立面は、インクジェット印刷領域との見切りと一致して視認される。ゆえに、隔壁は、樹脂基材の意匠面から視認されない。
【0031】
(4)本発明の装飾部材において、好ましくは、前記隔壁の前記略直立面の前記先端部側には、前記インクジェット印刷領域にインクジェット印刷する際に前記非インクジェット印刷領域を被覆するマスキング部材を保持する段部が形成されていることを特徴とする。
【0032】
インクジェット印刷領域のインクジェット印刷を行う際に、非インクジェット印刷領域がマスキングされていれば、インクが非インクジェット印刷領域へ吹き込むことを確実に防止することができる。ここで、隔壁の略直立面側の先端部にマスキング部材を支持する段部が形成されていることにより、マスキング部材を容易かつ確実に配置することができ、作業性が良好である。
【0033】
また、隔壁の先端部に設けた段部にはマスキング部材を安定に保持することができる。したがって、隔壁の先端部とマスキング部材との間の隙間を一層少なくすることができ、より鮮明に、インクジェット印刷領域の見切りを形成することができる。
【0034】
(5)本発明の装飾部材において、好ましくは、前記インクジェット印刷領域には、グラデーション意匠が形成され、前記非インクジェット印刷領域には、金属光沢を呈する金属光輝意匠が形成されていることを特徴とする。
【0035】
インクジェット印刷は、従来のスクリーン印刷よりも緻密かつ多色のグラデーション模様等を印刷することが可能である。グラデーション模様は、色彩または/および濃淡が徐々に変化する模様をいう。このため、インクジェット印刷領域にグラデーション意匠を形成し、非インクジェット印刷領域に金属光輝意匠を形成することにより、グラデーション意匠と金属光輝意匠とが相乗的に作用して高級感のある立体的な意匠を発現することができる。
【0036】
(6)本発明の装飾部材の製造方法は、透明な樹脂基材と、該樹脂基材の裏面を着色して形成された着色面とを有すると共に、該着色面が該樹脂基材の表面である意匠面から視認され、該着色面が、該樹脂基材の該裏面側の縁端部上の各点からの距離の和が最小となる基準平面から該樹脂基材の該表面側に向かって凹設された三次元形状の面からなり、インクジェット印刷により着色されたインクジェット印刷領域と、該インクジェット印刷領域以外の領域である非インクジェット印刷領域とをもつ装飾部材を製造する方法であって、前記インクジェット印刷領域と前記非インクジェット印刷領域とを区画すると共に、前記基準平面に向かって該基準平面を越えない該基準平面の近傍まで突出する隔壁を前記樹脂基材の前記裏面に一体に形成した該樹脂基材の該裏面を、インクジェットプリンタのインクヘッドと対面させて、該インクヘッドと該樹脂基材の該基準平面との距離を一定間隔に保ちつつ、該樹脂基材の該裏面における該インクジェット印刷領域に、該インクヘッドからインクを吹き付けて着色を行うインクジェット印刷領域着色工程と、前記インクジェット印刷領域着色工程の後工程として、前記樹脂基材の前記裏面における前記非インクジェット印刷領域の着色を行う非インクジェット印刷領域着色工程と、を備えることを特徴とする。
【0037】
このような構成によれば、インクジェット印刷領域着色工程の後工程として、インクジェット以外の着色法による非インクジェット印刷領域着色工程を実施する。上記(1)における作用効果で述べたとおり、インクジェット印刷領域着色工程でインクジェット印刷領域の鮮明な見切りが得られていることから、非インクジェット印刷領域着色工程において、非インクジェット印刷領域外にインクがはみ出したとしても、はみ出したインクはインクジェット印刷層の裏面に隠れてしまい、樹脂基材の表面からは視認されない。ゆえに、装飾部材の意匠性が損なわれることはない。したがって、本発明の装飾部材の製造方法の手順によれば、非インクジェット印刷領域の着色が容易である。
【0038】
(7)本発明の装飾部材の製造方法において、好ましくは、前記インクジェット印刷領域着色工程を行う前に、前記樹脂基材の前記裏面における前記非インクジェット印刷領域をマスキングすることを特徴とする。
【0039】
上記(4)における作用効果で述べたとおり、インクジェット印刷領域着色工程を行う前に、非インクジェット印刷領域をマスキングすることによって、インクが非インクジェット印刷領域へ吹き込むことを確実に防止することができ、鮮明な見切りが得られる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の装飾部材及びその製造方法によれば、装飾部材の立体的な曲面形状の着色面に製造工程を簡素化して着色可能であると共に、着色面のインクジェット印刷領域と非インクジェット印刷領域との見切りを鮮明に形成することができる。また、インクジェット印刷の採用により、従来のスクリーン印刷よりも緻密かつ多色のグラデーション模様等を印刷することが可能となり、装飾部材の意匠性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態におけるオーナメントを装着した自動車の一部斜視図を示している。
【図2】本発明の一実施形態におけるオーナメントの完成時の状態を説明する断面図であって、着色面側に成型樹脂層が形成されたオーナメントを示している。
【図3】本発明の一実施形態におけるオーナメントのインクジェット印刷領域着色工程後の樹脂基材の状態を説明する説明図であって、(a)は意匠面側からみた平面図、(b)は着色面側からみた平面図、(c)は(b)におけるA−A線で切断した断面図、(d)は(c)における要部Bを拡大した断面図を示している。
【図4】本発明の一実施形態におけるオーナメントのインクジェット印刷領域着色工程を説明する斜視図を示している。
【図5】本発明の他の実施形態におけるオーナメントの完成時の状態を説明する断面図であって、着色面側に保護塗膜が形成されたオーナメントを示している。
【図6】従来の装飾部材の製造方法を説明する断面図であって、スクリーン印刷によってオーナメントの背景部を着色している状況を示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0043】
(1)オーナメント1の構造
本実施形態の装飾部材は、図1に示すように、自動車のフロントグリルFに設置されるオーナメント1である。このオーナメント1は、ミリ波ガーニッシュとも称されており、オーナメント1の裏面側には、オートクルーズシステムに用いられるミリ波レーダ装置が配設されている。
【0044】
オーナメント1の完成時の状態を説明する断面図を図2に示す。オーナメント1は、透明な樹脂基材2と、樹脂基材2の裏面を着色して形成された着色面2bとを有する。
【0045】
着色面2bの一部の領域には背景層4が形成されていると共に、着色面2bの全領域には光輝層5が背景層4の裏面側に重ねて形成されている。これにより、オーナメント1を樹脂基材2の表面である意匠面2a側から見ると、透明な樹脂基材2を通して着色面2bが視認される。
【0046】
オーナメント1の全体の肉厚は、図示しないミリ波レーダ装置から放射されるミリ波の透過を阻害しない肉厚とする必要がある。このため、光輝層5の表面には成形樹脂層6が形成され、オーナメント1の肉厚が均一の厚さとなっている。
【0047】
樹脂基材2の着色面2b側には、従来のオーナメントの樹脂基材にはない構造である隔壁3を備えている。そして、この隔壁3がもたらす作用によって着色面2bへのインクジェット印刷が可能となっている。
【0048】
図3にオーナメント1のインクジェット印刷領域着色工程後の樹脂基材2の状態を説明する説明図を示す。図3(a)は意匠面2a側からみた平面図、図3(b)は着色面2b側からみた平面図、図3(c)は図3(b)におけるA−A線で切断した断面図、図3(d)は図3(c)における要部Bを拡大した断面図を示している。
【0049】
図3(a)に示すとおり、オーナメント1の樹脂基材2の意匠面2aからは、樹脂基材2の着色面2bが視認される。着色面2bは、金属光沢を呈する金属光輝意匠の光輝部11と、光輝部11間に形成された背景部10とからなり、背景部10は、濃色部10aと淡色部10bとのグラデーション意匠を構成している。なお、背景部10は、本発明におけるインクジェット印刷領域であり、光輝部11は、本発明における非インクジェット印刷領域である。
【0050】
樹脂基材2は、ポリカーボネートからなる透明な樹脂により射出成形によって形成される。図3(c)に示すとおり、樹脂基材2の全体形状は皿形状であり、着色面2bは、樹脂基材2の着色面2b側の縁端部2c上の各点からの距離の和が最小となる基準平面zから意匠面2a側に向かって凹設された三次元形状の面からなる。樹脂基材2の着色面2b側の縁端部2cは、樹脂基材2の厚み方向の高さが均一であり、縁端部2cの全周で基準平面zが接している。
【0051】
樹脂基材2の着色面2b側には、ポリカーボネートからなる透明な樹脂により樹脂基材2と一体に形成された隔壁3が設けられている。図3(d)に示すとおり、隔壁3は、略直角三角形の断面形状を呈しており、基準平面zに対して略直角の略直立面3aと、基準平面zに対してある程度の傾斜をもつ傾斜面3bとを有する。隔壁3の略直立面3aは、光輝部11側に配置されており、背景部10と光輝部11との境界線である見切り線v上にある。隔壁3の傾斜面3bは、背景部10側に配置されており、隔壁3によって背景部10が囲まれている。
【0052】
隔壁3は、樹脂基材2の着色面2b側に、基準平面zに向かって突設しており、隔壁3の先端部3cは、基準平面zを越えない基準平面zの近傍に位置している。ここで、先端部3cと基準平面zとの距離が2mm以内に設定されている。隔壁3の略直立面3a側の先端部3cには、光輝部11への着色を防止するための金属製の薄板からなるマスキング部材7を支持する段部3dが形成されている。
【0053】
なお、隔壁3の略直立面3aには光輝層5が蒸着により形成されるため、略直立面3aの傾斜は、基準平面zに対して略直角で構わない。略直立面3aは、基準平面zに対して80°から100°の範囲で直立しているとよい。一方、隔壁3の傾斜面3bには背景層4がインクジェット印刷により形成されるため、インクの塗りムラを防止するために、傾斜面3bの傾斜を、基準平面zに対して30°から60°の範囲とするとよい。
【0054】
(2)オーナメント1の製造方法
上述したオーナメント1を製造するにあたっては、樹脂基材2の光輝部11をマスキングするマスク工程と、樹脂基材2をインクジェットプリンタに固定する樹脂基材固定工程と、インクジェット印刷により背景層4の着色を行うインクジェット印刷領域着色工程と、蒸着により光輝層5を形成する光輝層形成工程と、をこの順に実施する製造工程を備えている。なお、光輝層形成工程は、本発明における非インクジェット印刷領域着色工程に相当する。
【0055】
図4にインクジェット印刷領域着色工程を説明する斜視図を示す。まず、マスク工程においては、樹脂基材2の光輝部11を金属製の薄板からなるマスキング部材7でマスキングする。図3(d)で示したとおり、マスキング部材7の周縁部を、隔壁3の先端部3cに形成された段部3dで支持する。
【0056】
次に、樹脂基材固定工程において、固定治具8に、樹脂基材2の着色面2bが上側になるように樹脂基材2を固定する。樹脂基材2を固定した固定治具8をインクジェットプリンタ20の固定治具設置台22に搭載する。固定治具設置台22には、水平面内のY方向に固定治具8を移動させる固定治具送り機構23が設けられている。固定治具設置台22の上方には、水平面内で、Y方向と直行するX方向に延びるガイド25が設けられている。ガイド25には、インクヘッド21がX方向に移動可能に保持されている。
【0057】
続いて、インクヘッド21と樹脂基材2の基準平面zとの距離が1mmになるまで、高さ調整機構24で固定治具設置台22の高さを調整する。前述のとおり、先端部3cと基準平面zとの距離が2mm以内に設定されていることから、インクヘッド21と樹脂基材2の基準平面zとの距離を1mmにすることによって、インクヘッド21と隔壁3の先端部3cとの距離が3mm以内に保たれる。
【0058】
次に、インクジェット印刷領域着色工程において、インクジェットプリンタ20にコンピュータから指令を送り、ガイド25に沿ってインクヘッド21をX方向に往復動しながら、インクヘッド21から樹脂基材2の着色面2bに向けてインクを噴射するとともに、これに同調して固定治具送り機構23で固定治具8をY方向に送ることで着色面2bの背景部10にグラデーション意匠からなる背景層4を形成する。
【0059】
背景層4のインクが乾燥した後に、光輝部11のマスキング部材7を取り外し、光輝層形成工程を実施する。光輝層形成工程においては、着色面2bの全領域に光輝層5を背景層4の裏面側に重ねて形成する。光輝層5の形成は、PVD法又はCVD法によって行うことができる。PVD法としては、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどを利用することができ、CVD法としては無電解めっきなどを利用することができる。本実施形態においては、蒸着により光輝層5を形成する。
【0060】
光輝層5は各種金属から形成することができるが、本実施形態のオーナメント1においては、ミリ波を透過可能なインジウム、錫、金などを用いる。
【0061】
前述のとおり、オーナメント1の肉厚はミリ波の透過を阻害しない均一厚さの肉厚とする必要がある。例えば、76.5GHzのミリ波を対象とした場合、オーナメント1の肉厚を1.2mmの整数倍の厚さとする必要がある。
【0062】
光輝層形成工程の後工程として、図2に示すように、光輝層5の表面に成形樹脂層6を形成し、オーナメント1の完成時の肉厚を15.6mmの均一の厚さとしている。成形樹脂層6の形成は、図示しない金型内に、光輝層5の形成が完了した樹脂基材2を装填した後に、金型内にAES樹脂を注入するインサート成形により行う。なお、成形樹脂層6の剛性を確保するためには、成形樹脂層6の肉厚が2mm以上であることが好ましい。すなわち、成形樹脂層6の肉厚が最も薄くなる隔壁3の先端部3cにおいて、成形樹脂層6の肉厚が2mm以上であることが好ましい。
【0063】
成形樹脂層6のインサート成形時に、成形樹脂層6の縁端部に取付用突起部6aを形成する。この取付用突起部6aを自動車のフロントグリルFに形成された図示しない取付用突起部挿入孔に挿入することにより、オーナメント1のフロントグリルFへの取り付けを完了する。
【0064】
(3)オーナメント1及びその製造方法による効果
本実施形態のオーナメント1及びその製造方法による効果は次のとおりである。
【0065】
着色面2bの背景部10が隔壁3によって囲まれており、隔壁3の先端部3cが基準平面zを越えない基準平面zの近傍まで突設している。このため、インクジェット印刷のインクヘッド21と着色面2bとの距離が離れている場合であっても、インクの横方向への飛散が隔壁3で遮られて、インクが光輝部11に吹き込むことがなく、鮮明な見切りが得られる。
【0066】
また、隔壁3の先端部3cが、基準平面zを越えない高さまで突出している。このため、インクジェットプリンタ20のインクヘッド21を、樹脂基材2の基準平面zと同じかそれよりも若干上側に配置して、インクを樹脂基材2の着色面2bに吹き付ける際には、隔壁3がインクヘッド21と干渉するおそれはない。
【0067】
また、隔壁3の先端部3cが、樹脂基材2の着色面2b側に突設している。このため、マスキング部材7は、樹脂基材2の着色面2b側に浮いた状態で保持されるため、樹脂基材2の着色面2bの光輝部11の三次元的な形状に沿わせる必要がない。これにより、マスキング部材7の形状が単純となるためにマスキング部材7の成形精度が良好となる。また、マスキング部材7の周縁部と隔壁3の先端部3cとの間の隙間を少なくすることができ、良好なマスキングを施すことが容易となる。
【0068】
また、隔壁3の先端部3cには、マスキング部材7を支持する段部3dが形成されているために、光輝部11にマスキング部材7を容易かつ確実に配置することができ、作業性が良好である。
【0069】
また、隔壁3の先端部3cに設けた段部3dにはマスキング部材7を安定に保持することができる。したがって、隔壁3の先端部3cとマスキング部材7との間の隙間を一層少なくすることができ、より鮮明に、背景部10の見切りを形成することができる。
【0070】
また、隔壁3の断面形状が略直角三角形であり、隔壁3の先端部3cから背景部10に向かって傾斜面3bが形成されているため、インクジェット印刷によって傾斜面3bにも良好に着色することが可能である。また、光輝部11側に配置される略直立面3aは、背景部10との見切りと一致して視認される。ゆえに、隔壁3は、樹脂基材2の意匠面から視認されない。
【0071】
本実施形態のオーナメント1の製造方法によれば、インクジェット印刷領域着色工程の後工程として、光輝層形成工程を実施する。インクジェット印刷領域着色工程で背景部10の鮮明な見切りが得られていることから、光輝層形成工程において、光輝部11外に光輝層5がはみ出したとしても、光輝層5は背景層4の裏面に隠れてしまい、樹脂基材2の意匠面2a側からは視認されない。ゆえに、オーナメント1の意匠性が損なわれることはない。したがって、本実施形態のオーナメント1の製造方法によれば、光輝層5の形成が容易である。
【0072】
本実施形態のインクジェット印刷領域着色工程においては、インクヘッド21と隔壁3の先端部3cとの距離が3mm以内に保たれている。このため、インクの横方向への飛散が隔壁3で遮られて、インクが光輝部11に吹き込み難い。したがって、例えば、光輝部11にマスキング部材7を配置しない場合であっても、背景部10と光輝部11との見切りを、鮮明に形成することができる。ただし、本実施形態においては、マスク工程を実施することにより、インクの光輝部11への吹き込みをより確実に防止している。
【0073】
本実施形態のインクジェット印刷によって、樹脂基材2の着色面2bの背景部10を安価かつ簡素な印刷工程で着色することが可能となる。また、背景部10には緻密かつ多色のグラデーション模様が形成されるため、オーナメント1の意匠性が高まる。
【0074】
(4)その他の実施形態
なお、本発明のオーナメント1及びその製造方法は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0075】
例えば、隔壁3の傾斜面3bを直線傾斜面として形成しているが、傾斜面3bを曲線傾斜面として形成してもよい。また、隔壁3の略直立面3aを基準平面zに対して略直角の面として形成しているが、略直立面3aを基準平面zに対してある程度の傾斜をもつ面として形成することで、光輝部11の立体感に本実施形態とは異なる意匠性を付与することもできる。
【0076】
また、本実施形態においては、背景部10にグラデーション意匠を形成したが、背景部10の意匠はグラデーション意匠に限らず様々な意匠とすることができる。インクジェット印刷では印刷の絵柄を変更することが容易であるため、例えば、所定の意匠の背景部を有するオーナメントを少量生産する場合であっても、安価かつ迅速にオーナメントを製造することも可能である。
【0077】
また、本実施形態においては、オーナメント1としてミリ波ガーニッシュとしての適用について説明したが、ミリ波透過性に配慮しないオーナメントとしての適用も可能である。この場合のオーナメントは、図5の断面図に示すように、成形樹脂層6の代わりに保護塗膜9が形成される。保護塗膜9は、背景層4と光輝層5を保護する機能を有すればよく、均一な厚みの薄膜であってもよい。また、保護塗膜9は、公知の各種塗料を用い、公知の塗装法を用いて形成することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 … オーナメント(装飾部材) 2 … 樹脂基材
2a … 表面(意匠面) 2b … 裏面(着色面)
2c … 縁端部 3 … 隔壁
3a … 直立面 3b … 傾斜面
3c … 先端部 3d … 段部
4 … 背景層 5 … 光輝層
7 … マスキング部材
10 … 背景部(インクジェット印刷領域)
11 … 光輝部(非インクジェット印刷領域)
20 … インクジェットプリンタ 21 … インクヘッド
v … 見切り線 z … 基準平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂基材と、該樹脂基材の裏面を着色して形成された着色面とを有すると共に、該着色面が該樹脂基材の表面である意匠面から視認される装飾部材であって、
前記着色面が、前記樹脂基材の前記裏面側の縁端部上の各点からの距離の和が最小となる基準平面から該樹脂基材の前記表面側に向かって凹設された三次元形状の面からなり、
前記着色面は、インクジェット印刷によって着色されるインクジェット印刷領域と、該インクジェット印刷領域以外の領域である非インクジェット印刷領域とからなり、
前記インクジェット印刷領域と前記非インクジェット印刷領域とを区画すると共に、前記基準平面に向かって該基準平面を越えない該基準平面の近傍まで突出する隔壁が、前記樹脂基材の前記裏面に一体に形成されていることを特徴とする装飾部材。
【請求項2】
前記隔壁の先端部と前記基準平面との距離は2mm以内であることを特徴とする請求項1に記載の装飾部材。
【請求項3】
前記隔壁は、略直角三角形状の断面をもち、該隔壁の前記先端部を挟んで略直立面と傾斜面とを有しており、該略直立面は前記非インクジェット印刷領域側に配置され、該傾斜面は前記インクジェット印刷領域側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の装飾部材。
【請求項4】
前記隔壁の前記略直立面の前記先端部側には、前記インクジェット印刷領域にインクジェット印刷する際に前記非インクジェット印刷領域を被覆するマスキング部材を保持する段部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の装飾部材。
【請求項5】
前記インクジェット印刷領域には、グラデーション意匠が形成され、前記非インクジェット印刷領域には、金属光沢を呈する金属光輝意匠が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の装飾部材。
【請求項6】
透明な樹脂基材と、該樹脂基材の裏面を着色して形成された着色面とを有すると共に、該着色面が該樹脂基材の表面である意匠面から視認され、該着色面が、該樹脂基材の該裏面側の縁端部上の各点からの距離の和が最小となる基準平面から該樹脂基材の該表面側に向かって凹設された三次元形状の面からなり、インクジェット印刷により着色されたインクジェット印刷領域と、該インクジェット印刷領域以外の領域である非インクジェット印刷領域とをもつ装飾部材を製造する方法であって、
前記インクジェット印刷領域と前記非インクジェット印刷領域とを区画すると共に、前記基準平面に向かって該基準平面を越えない該基準平面の近傍まで突出する隔壁を前記樹脂基材の前記裏面に一体に形成した該樹脂基材の該裏面を、インクジェットプリンタのインクヘッドと対面させて、該インクヘッドと該樹脂基材の該基準平面との距離を一定間隔に保ちつつ、該樹脂基材の該裏面における該インクジェット印刷領域に、該インクヘッドからインクを吹き付けて着色を行うインクジェット印刷領域着色工程と、
前記インクジェット印刷領域着色工程の後工程として、前記樹脂基材の前記裏面における前記非インクジェット印刷領域の着色を行う非インクジェット印刷領域着色工程と、
を備えることを特徴とする装飾部材の製造方法。
【請求項7】
前記インクジェット印刷領域着色工程を行う前に、前記樹脂基材の前記裏面における前記非インクジェット印刷領域をマスキングすることを特徴とする請求項6に記載の装飾部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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