説明

補助ブレーキ装置

【課題】一つの補助弁で吸気と排気ができ、制御が簡単な補助ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】各気筒#1〜#4のシリンダヘッド2に、アクチュエータ3で開閉駆動される補助弁4が設けられると共に、補助弁4を介してシリンダ5内に連通する補助吸排気管6がそれぞれ接続され、行程の位相が互いに360°異なる気筒の補助吸排気管6同士がバイパス管7で連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの補助弁で吸気と排気ができ、制御が簡単な補助ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を有する4サイクル式ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)では、各気筒のシリンダヘッドに、カムシャフトで駆動される吸気弁及び排気弁がそれぞれ設けられる。クランクシャフトに連動するカムシャフトの働きにより、各々の気筒において、吸気行程では吸気弁のみが開放され、圧縮行程と膨張行程では吸気弁及び排気弁が遮断され、排気行程では排気弁のみが開放される。これにより、吸気行程では、吸気マニホールドから吸気ポートを経由してシリンダへ新気が吸入され、排気行程では、シリンダから排気ポートを経由して排気マニホールドへ排気ガスが排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−133031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンを搭載した車両では、圧縮行程中にシリンダ内ガスを排出したり、膨張行程中に新気を吸入したりすることで、いわゆるポンプ仕事を増加させて車両の制動力を得る補助ブレーキを採用することがある。
【0005】
補助ブレーキにおける吸気と排気に吸気弁や排気弁を使用する場合、燃料を噴射して燃焼させている通常運転時のタイミング(カムシャフトで決まるタイミング)とは異なるタイミングで吸気弁や排気弁を開閉することになるため、吸気弁や排気弁を随時開閉駆動できるアクチュエータを設ける必要があり、機構が複雑化し、制御も複雑となり、コストも増大する(例えば、特許文献1)。
【0006】
吸気弁や排気弁とは別途に補助弁(特許文献1の第3弁)を設けて補助ブレーキ作動時のガスの吸入や排出を行うようにすれば、吸気弁や排気弁とは独立に補助弁を構成できるので、機構が簡素になる。しかし、シリンダ内ガスを排気マニホールドに排出し、かつ、吸気マニホールドから新気を吸入するためには、シリンダから排気マニホールドに繋がる配管と、吸気マニホールドからシリンダに繋がる配管と設け、これらの配管にそれぞれ補助弁を設けることになり、2つの補助弁と2つの配管が必要となる。シリンダヘッドには、吸気弁と排気弁(通常、2つずつ)、及び燃料インジェクタが既に配置されているため、2つの補助弁を設ける余裕がない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、一つの補助弁で吸気と排気ができ、制御が簡単な補助ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の補助ブレーキ装置は、偶数個の気筒を有するエンジンのための補助ブレーキ装置であって、各気筒のシリンダヘッドに、アクチュエータで開閉駆動される補助弁が設けられると共に、前記補助弁を介してシリンダ内に連通する補助吸排気管がそれぞれ接続され、行程の位相が互いに360°異なる気筒の前記補助吸排気管同士がバイパス管で連結されたものである。
【0009】
全気筒の補助弁が一斉に開閉されてもよい。
【0010】
前記補助弁は、吸気弁、排気弁のいずれよりも受圧面積が小さくてもよい。
【0011】
前記補助吸排気管は、互いに逆方向に向けた逆止弁を並列に備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0013】
(1)一つの補助弁で吸気と排気ができる。
【0014】
(2)制御が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す補助ブレーキ装置の通常運転時の構成図である。
【図2】図1の補助ブレーキ装置の作動時における、気筒#1が圧縮行程にあるクランク角度での構成図である。
【図3】図1の補助ブレーキ装置の作動時における、気筒#1が膨張行程にあるクランク角度での構成図である。
【図4】図1の補助ブレーキ装置の作動時における、気筒#1が排気行程にあるクランク角度での構成図である。
【図5】図1の補助ブレーキ装置の作動時における、気筒#1が吸気行程にあるクランク角度での構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1に示されるように、本発明に係る補助ブレーキ装置1は、偶数個の各気筒#1〜#4のシリンダヘッド2に、アクチュエータ3で開閉駆動される補助弁4が設けられると共に、補助弁4を介してシリンダ5内に連通する補助吸排気管6がそれぞれ接続され、行程の位相が互いに360°異なる気筒の補助吸排気管6同士がバイパス管7で連結されたものである。本実施形態では、補助吸排気管6は、互いに逆方向に向けた逆止弁8,9を並列に備える。
【0018】
各気筒#1〜#4のシリンダ5内にピストン10が設けられる。ピストン10に対向するシリンダヘッド2に、吸気弁11、排気弁12、燃料インジェクタ13、補助弁4が設けられる。吸気弁11及び排気弁12は、従来通り、図示しないカムシャフトで駆動されるものであり、各行程における開閉動作も従来通りのものである。
【0019】
補助弁4は、吸気弁11、排気弁12と同様のポペットバルブで構成されるが、吸気弁11、排気弁12のいずれよりも受圧部の面積が小さく形成される。アクチュエータ3には限定はなく、例えば、油圧シリンダ、電磁ソレノイド、モータを用いることができる。
【0020】
補助吸排気管6は、方向を逆にして並列に配置された2つの逆止弁8,9を介してバイパス管7に接続される。バイパス管7は、行程の位相が互いに360°異なる2つの気筒の補助吸排気管6に接続される。4気筒エンジンは、あるクランク角度において、圧縮行程に該当する気筒#1と、膨張行程に該当する気筒#2と、排気行程に該当する気筒#3と、吸気行程に該当する気筒#4とを有する。したがって、バイパス管7は、気筒#1と気筒#3の補助吸排気管6の間、及び気筒#2と気筒#4の補助吸排気管6の間に設けられる。
【0021】
以下、本発明の補助ブレーキ装置1の動作を説明する。
【0022】
図1は、燃料インジェクタ13から燃料を噴射して燃焼させている通常運転時、すなわち補助ブレーキ装置1の非作動時を示している。通常運転時は、全ての補助弁4が全行程にわたり閉じられている。気筒#1は、圧縮行程であるため、吸気弁11と排気弁12が閉じられている。気筒#2は、膨張行程であるため、吸気弁11と排気弁12が閉じられている。気筒#3は、排気行程であるため、吸気弁11が閉じられ、排気弁12が開かれている。気筒#4は、吸気行程であるため、吸気弁11が開かれ、排気弁12が閉じられている。クランク角度が変わって行程が進んでも各気筒における吸気弁11及び排気弁12の開閉動作は従来通りであるので、説明を省略する。
【0023】
図2〜図5は、補助ブレーキ装置1の作動時を示している。補助ブレーキ装置1の作動時は、燃料インジェクタ13からの燃料噴射はなく、かつ、全ての気筒の補助弁4が全行程、すなわち全クランク角度にわたり開かれている。
【0024】
図2では、気筒#1が圧縮行程であり、気筒#2が膨張行程であり、気筒#3が排気行程であり、気筒#4が吸気行程である。
【0025】
気筒#1に注目すると、ピストン10がシリンダヘッド2に向かって移動しており、シリンダ5の内圧が高まる傾向にある。一方、気筒#3では、ピストン10がシリンダヘッド2に向かって移動しているものの、排気弁12が開いておりシリンダ内ガスが排気ポートへ抜けるので、シリンダ5の内圧は高まらない。このため気筒#1のシリンダ5の内圧が気筒#3のシリンダ5の内圧より高くなり、気筒#1の補助吸排気管6では逆止弁9が開通し、気筒#3の補助吸排気管6では逆止弁8が開通する。この結果、気筒#1では、バイパス管7を介して気筒#3にシリンダ内ガスが排出され、気筒#3では、気筒#3にもともとあったシリンダ内ガスに加えて気筒#1から流入したシリンダ内ガスも排気ポートから排気マニホールドへ排出される。
【0026】
さらに、気筒#2に注目すると、ピストン10がシリンダヘッド2から離れるよう移動しており、シリンダ5の内圧が低まる傾向にある。一方、気筒#4では、ピストン10がシリンダヘッド2から離れるよう移動しているものの、吸気弁11が開いており吸気ポートから新気が入るので、シリンダ5の内圧は低まらない。このため気筒#2のシリンダ5の内圧が気筒#4のシリンダ5の内圧より低くなり、気筒#2の補助吸排気管6では逆止弁8が開通し、気筒#4の補助吸排気管6では逆止弁9が開通する。この結果、気筒#4では、吸気ポートから新気が吸入されると同時に、新気の一部がバイパス管7に排出され、気筒#2では、バイパス管7からの新気が吸入される。
【0027】
図3では、気筒#1が膨張行程であり、気筒#2が排気行程であり、気筒#3が吸気行程であり、気筒#4が圧縮行程である。
【0028】
この場合、圧縮行程にある気筒#4のシリンダ内ガスがバイパス管7を介して排気行程にある気筒#2に流入し、気筒#2の排気ポートから排気マニホールドへ排出される。同時に、吸気行程にある気筒#3の新気がバイパス管7を介して膨張行程にある気筒#1に吸入される。
【0029】
図4では、気筒#1が排気行程であり、気筒#2が吸気行程であり、気筒#3が圧縮行程であり、気筒#4が膨張行程である。
【0030】
この場合、圧縮行程にある気筒#3のシリンダ内ガスがバイパス管7を介して排気行程にある気筒#1に流入し、気筒#1の排気ポートから排気マニホールドへ排出される。同時に、吸気行程にある気筒#2の新気がバイパス管7を介して膨張行程にある気筒#4に吸入される。
【0031】
図5では、気筒#1が吸気行程であり、気筒#2が圧縮行程であり、気筒#3が膨張行程であり、気筒#4が排気行程である。
【0032】
この場合、圧縮行程にある気筒#2のシリンダ内ガスがバイパス管7を介して排気行程にある気筒#4に流入し、気筒#4の排気ポートから排気マニホールドへ排出される。同時に、吸気行程にある気筒#1の新気がバイパス管7を介して膨張行程にある気筒#3に吸入される。
【0033】
以上説明したように、本発明に係る補助ブレーキ装置1は、各気筒#1〜#4のシリンダヘッド2に補助弁4が設けられると共に各シリンダヘッド2に補助吸排気管6が接続され、行程の位相が互いに360°異なる気筒の補助吸排気管6同士がバイパス管7で連結された構成を有することにより、補助弁4が開かれると、常時、圧縮行程にある気筒から排気行程にある気筒を通して排気マニホールドへシリンダ内ガスが排出されると共に、吸気行程にある気筒に吸入される新気がバイパス管7を介して膨張行程にある気筒に吸入される。これにより、ポンプ仕事(ポンピング損失)を増加させて車両の制動力を高めることができる。
【0034】
本発明に係る補助ブレーキ装置1は、上記構成を有することにより、補助弁4を開くだけで、シリンダ内ガスを排気マニホールドに排出することと、吸気マニホールドから新気を吸入することが同時に実現できる。
【0035】
本発明に係る補助ブレーキ装置1は、通常運転時、すなわち補助ブレーキ装置1の非作動時は全ての補助弁4を全てのクランク角度にわたり閉じ、補助ブレーキ装置1の作動時は全ての気筒の補助弁4を全てのクランク角度にわたり開くという制御を行うので、制御が簡単である。
【0036】
本発明に係る補助ブレーキ装置1は、吸気弁11及び排気弁12が従来通りの動作でよいので、吸気弁11及び排気弁12に新規なアクチュエータを追加する必要がなく、制御手順を追加する必要もない。
【0037】
本発明に係る補助ブレーキ装置1は、補助弁4は、吸気弁11や排気弁12よりも受圧部の面積を小さく形成するのが好ましい。受圧部の面積が小さいことにより、筒内圧から受ける抵抗力が小さいので、アクチュエータ3として駆動力が小さい方式を採用することが可能となる。これにより、アクチュエータ3には、油圧シリンダ、電磁ソレノイド、モータなど多様な選択肢が得られる。
【0038】
本実施形態の補助ブレーキ装置1は、補助吸排気管6に逆止弁8,9を並列に備えたが、これらの逆止弁8,9は備えずとも本発明を実施できる。逆止弁8,9が無い場合、補助吸排気管6の構造が簡素になる。逆止弁8,9がある場合、逆止弁8,9のバネによる抵抗力を適切に調整しておくことにより、ポンピング損失を増加させ、車両の制動力をいっそう高めることができる。
【0039】
本実施形態では、エンジンは4気筒エンジンとしたが、偶数気筒エンジンであれば、行程の位相が互いに360°異なる気筒が存在するので、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 補助ブレーキ装置
2 シリンダヘッド
3 アクチュエータ
4 補助弁
5 シリンダ
6 補助吸排気管
7 バイパス管
8、9 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偶数個の気筒を有するエンジンのための補助ブレーキ装置であって、
各気筒のシリンダヘッドに、アクチュエータで開閉駆動される補助弁が設けられると共に、前記補助弁を介してシリンダに連通する補助吸排気管がそれぞれ接続され、
行程の位相が互いに360°異なる気筒の前記補助吸排気管同士がバイパス管で連結されたことを特徴とする補助ブレーキ装置。
【請求項2】
全気筒の補助弁が一斉に開閉されることを特徴とする請求項1記載の補助ブレーキ装置。
【請求項3】
前記補助弁は、吸気弁、排気弁のいずれよりも受圧面積が小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の補助ブレーキ装置。
【請求項4】
前記補助吸排気管は、互いに逆方向に向けた逆止弁を並列に備えることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の補助ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104379(P2013−104379A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249760(P2011−249760)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】