説明

補強材用袋体拘束具、及びそれを使用した地盤の補強方法

【課題】補強材に対する袋体の装着作業が簡単になると共に、水硬パテ等の止水材の塗布作業等も不要になり、作業工程を簡略化できる補強材用袋体拘束具、及びそれを使用した地盤の補強方法を提供すること。
【解決手段】補強材用袋体拘束具1は、補強材を挿通させる中空部11の一端側に、補強材外周面に沿うように折り畳まれた袋体端部を補強材外周面の雄ネジ部との間で挟んで進入させる、内方に向かうに従って縮径する傾斜雌ネジ部11aが形成されている一方、中空部11の他端側には補強材外周面の雄ネジ部に螺合し、補強材に対する取付け位置を決める螺合用雌ネジ部11dが形成され、螺合用雌ネジ部11dと傾斜雌ネジ部11aとの間には袋体端部を圧縮する圧縮部(平行雌ネジ部11b、凹部11c)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄ネジ部が形成された円筒状鋼材や棒状鋼材からなる補強材の外周面に袋体を装着し、袋体内部にグラウト材を加圧注入することにより袋体を削孔内で膨らませ、地盤との周面摩擦抵抗を改善させる地盤の補強方法において、袋体端部を補強材外周面に対して閉塞状態で固定するための補強材用袋体拘束具、及びそれを使用した地盤の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、斜面などの不安定な地盤を補強する方法として、鉄筋や全ねじボルト等の補強材に筒状の袋体を組み合わせた補強工法が知られている。この技術は、補強材の一端側に法枠や受圧板などの構造物に対する固定手段となる頭部を形成すると共に、地盤の削孔内に埋設される他端側には合成繊維糸を筒状に織成した柔軟な袋体を被せた状態で削孔に挿入し、袋体の内部にグラウト材を加圧注入して硬化させるものである。
【0003】
上記技術では、グラウト材の注入圧力により筒状袋体を削孔内で膨張させるものであるから、袋体の両端部からグラウト材が漏出しないように、補強材の外周面に対して閉塞状態で固定することがきわめて重要である。そこで、袋体の端部を固定する方法として、本願出願人は締付けバンドと水硬パテ等の止水材を併用する技術を既に提案している(特許文献1、2)。また、袋体の頭部側(口元側)については締付けバンドと水硬パテを使用し、先端側についてはソケットとキャップにより固定する技術も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−191582号公報
【特許文献2】特許第4696556号公報
【特許文献3】特許第3836848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記補強工法で使用する筒状袋体の内径は、一般的に補強材外径の2〜10倍程度と大きいため、袋体端部を補強材の外周面に合わせて窄めたとき、その大きな周長差により袋体端部に、補強材の長手方向に延びるシワが形成され、そのシワに沿って複数の折り畳み部分が形成される。このような状況から、上記特許文献1〜3に記載の各固定方法では、補強材と袋体端部との間の隙間や、袋体端部の折り畳み部分からグラウト材が漏れ出さないよう水硬パテ等の止水材を塗布することで対応している。しかしながら、このような方法では、作業工程が多く複雑であり、特に水硬パテ等の止水材の塗布作業には熟練を要することから、閉塞状態が十分に確保された固定状態を安定的に提供できるかについては、なかなか難しい面が残されている。さらに、装着作業において、袋体端部に塗布する止水材の量を目視で確認ができず、また補強材と袋体とが密着しているかどうかの確認も目視に頼らざるを得ないことから、改善の余地が残されている。
【0006】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、補強材に対する袋体の装着作業を簡単かつ確実に行えると共に、水硬パテ等の止水材の塗布作業を不要にして作業工程を簡略化できる補強材用袋体拘束具(以下、単に袋体拘束具という場合もある。)、及びそれを使用した地盤の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明の補強材用袋体拘束具は、雄ネジ部が形成された補強材の外周面に、グラウト材の加圧注入により膨張する袋体の端部を閉塞状態で固定する補強材用袋体拘束具であって、補強材を挿通させる中空部の一端側には補強材外周面に沿うように折り畳まれた袋体端部を補強材外周面の雄ネジ部との間で挟んで内部に進入させる、内方に向けて径が縮小した傾斜雌ネジ部が形成されると共に、中空部の他端側には補強材外周面の雄ネジ部に螺合して補強材に対する取付け位置を決める螺合用雌ネジ部が形成され、該螺合用雌ネジ部と前記傾斜雌ネジ部との間に袋体端部を圧縮する圧縮部を設けたことを特徴としている。これにより、この袋体拘束具を回転させると、傾斜雌ネジ部が袋体端部を徐々に拘束しながら補強材外周面に密着させて円滑に圧縮部に送り込み、圧縮部が補強材外周面との間で袋体端部を圧縮するので、補強材と袋体端部との間の閉塞状態が十分に確保され、また袋体の装着作業が容易になると共に、手間のかかる水硬パテ等の止水材の塗布作業も不要になり、袋体の装着に関わる作業工程を大幅に簡略化できる。
また、請求項2の発明の補強材用袋体拘束具は、請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、袋体端部が介在した状態で補強材外周面の雄ネジ部に螺合して袋体端部を径方向に圧縮する平行雌ネジ部と、該平行雌ネジ部と螺合用雌ネジ部の間にあって袋体端部を長手方向に折り重ね状態で圧縮する該平行雌ネジ部および螺合用雌ネジ部よりも拡径した凹部であることを特徴とする。この構成によれば、袋体端部を径方向、すなわち補強材の中心に向けて圧縮すると共に、袋体の長手方向にも折り重ね状態で圧縮するので、これら2箇所における圧縮作用により装着部位での閉塞状態は一段と向上し、この袋体拘束具の装着部位からグラウト材が漏れ出すことを確実に防止できる。
また、請求項3の発明の補強材用袋体拘束具は、請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、傾斜雌ネジ部と螺合用雌ネジ部の間にあって袋体端部を長手方向に折り重ね状態で圧縮する該平行雌ネジ部および螺合用雌ネジ部よりも拡径した凹部であることを特徴とする。この構成によれば、凹部において袋体端部を袋体の長手方向に折り重ね状態で圧縮するので、この袋体拘束具の装着部位からグラウト材が漏れ出すことを防止できる。
また、請求項4の発明の補強材用袋体拘束具は、請求項2または請求項3記載の補強材用袋体拘束具において、前記凹部は、水平雌ネジ部の径および接合用雌ネジ部の境界にそれぞれ軸方向に対しほぼ垂直の段差面部を有しており、それらの段差面部の間で袋体端部をロックボルトの長手方向に折り重ね状態で圧縮することを特徴とする。この構成によれば、平行雌ネジ部および螺合用雌ネジ部よりも拡径した凹部の前後端に軸方向に対しほぼ垂直の段差面部を有し、前後端の段差面部により袋体端部を折り重ね状態で圧縮するので、袋体端部を軸方向に対しほぼ垂直方向に確実に折り重ね状態で圧縮することができ、袋体拘束具の装着部位からグラウト材が漏れ出すことをより確実に防止できる。
また、請求項5の発明の補強材用袋体拘束具は、請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、袋体端部が介在した状態で補強材外周面の雄ネジ部に螺合して袋体端部を径方向に圧縮する平行雌ネジ部であることを特徴とする。この構成によれば、袋体端部をその径方向、すなわち補強材の中心に向けて圧縮するので、この拘束具の装着部位からグラウト材が漏れ出すことを防止できる。
また、請求項6の発明の補強材用袋体拘束具は、請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載の補強材用袋体拘束具において、外側から内側の圧縮部まで貫通した貫通孔を備えることを特徴とする。これにより、袋体端部が袋体拘束具の圧縮部まで到達したか否かをその貫通孔を利用して外部から目視で確認することができ、より確実な装着作業が可能となる。
また、請求項7の発明の補強材用袋体拘束具を使用した地盤の補強方法は、雄ネジ部が形成された補強材の外周面に、グラウト材の加圧注入により膨張する筒状の袋体を挿入すると共に、請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載の補強材用袋体拘束具を螺合し、袋体の端部を補強材外周面に沿わせるように窄ませて折り畳み、折り畳んだ該端部に補強材用袋体拘束具を傾斜雌ネジ部の入口側から螺入して袋体の端部を閉塞状態で固定した後、袋体が装着された補強材を地盤に設けた削孔内に挿入してグラウト材を袋体内に加圧注入し、その後削孔内にグラウト材を注入することを特徴とする。これにより、補強材と袋体とグラウト材による地盤の補強工事において、補強材に対する袋体の装着作業が容易になり、施工性の向上に大きく寄与する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の補強材用袋体拘束具、及びそれを使用した地盤の補強方法によれば、補強材の所定位置に挿通した筒状の袋体の端部を補強材外周面に沿うように折り畳んで部分的に重なり状態とし、この端部に向けて袋体拘束具を回転させると、傾斜雌ネジ部が、折り畳みによって部分的に厚くなった袋体端部を徐々に均一化しながら内方の圧縮部に送り込み、圧縮部が補強材外周面との間で袋体端部を圧縮するので、簡単かつ確実に補強材と袋体端部との間に閉塞状態を形成し、装着部位からグラウト材が漏出することのない取付が可能になり、その装着作業を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る補強材用袋体拘束具の使用状態を示す斜視図である。
【図2】補強材用袋体拘束具の部分断面図である。
【図3】補強材に袋体を挿入した状態を示す部分断面図である。
【図4】補強材用袋体拘束具の傾斜ネジ部が袋体の端部を拘束した状態を示す部分断面図である。
【図5】補強材用袋体拘束具の平行ネジ部が袋体の端部を圧縮している状態を示す部分断面図である。
【図6】補強材用袋体拘束具の凹部が袋体の端部を圧縮している状態を示す部分断面図である。
【図7】補強材用袋体拘束具の凹部が袋体の端部で満たされ、袋体の端部が捩れた状態を示す図である。
【図8】本発明に係る補強材用袋体拘束具の他の例を示す断面図である。
【図9】本発明に係る補強材用袋体拘束具のさらに他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る補強材用袋体拘束具、及びそれを使用した地盤の補強方法の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明において、「補強材」とは、中空棒鋼からなるロックボルトや円形鋼管などの円筒状鋼材からなるもの、あるいは中空部の無い棒状鋼材を意味し、少なくとも長手方向の一部に袋体拘束具が螺合可能な雄ネジ部が形成されたものである。
【0011】
≪補強材用袋体拘束具の構成≫
図1は本発明に係る補強材用袋体拘束具1の使用状態を示す斜視図、図2はその補強材用袋体拘束具1を拡大したもので、長手方向の中心線より下側部分を断面で示している。図中の斜線部分は、袋体拘束具1の断面における肉厚を示している。図1に示すように、この袋体拘束具1は、グラウト材の加圧注入により膨張する筒状の袋体3を補強材2に挿入し、両方の端部を補強材2の外周面に対して閉塞状態で固定するための部材である。その素材としては、金属、セラミックス、硬質樹脂等の硬質材料が使用され、図2に示すように、補強材2を内部に挿通させる中空部11を有した筒体状に形成されている。なお、本発明に適用する補強材2は円筒状鋼材からなり、その外周面には、さく岩機用継ぎロッド(JIS M3914参照)のねじ部として規定されているロープ形のねじ形状からなる雄ネジ部21が形成されている。また、袋体3は、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維などの繊維糸を筒状に織成したもので、例えば補強材2の外径の2〜10倍程度のものが使用され、その径と長さは使用条件に応じて適宜選定すればよい。本発明では、これら補強材2と袋体3の間に存在する大きな径差を解消する手段として、大径の袋体3の端部を小径の補強材2の外周面に沿うように折り畳み、この折り畳んだ端部を袋体拘束具1で固定することにより、袋体3の端部に信頼性の高い閉塞状態を実現した点に大きな特徴がある。
【0012】
そのため、この袋体拘束具1の中空部11の内部には、図2に示すように、図上左側から図上右側に向かい、それぞれ、傾斜雌ネジ部11aと、平行雌ネジ部11bと、凹部11cと、螺合用雌ネジ部11dとが形成された構成になっている。なお、この実施形態の袋体拘束具1では、平行雌ネジ部11bと凹部11cが、本発明の圧縮部に相当している。
【0013】
袋体3の入口側に位置する傾斜雌ネジ部11aは、補強材2の外周面に合わせるように折り畳まれた袋体3の端部を捕捉し、その内側に位置する平行雌ネジ部11bに案内できるように内方(袋体3の進入方向)に向かうに従って徐々に窄まり、補強材2の雄ネジ部21と同じねじピッチのテーパーねじ状に形成されている。この場合、傾斜雌ネジ部11aは、折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部を円滑に袋体拘束具1の内部に案内しながら収納させるガイド的な機能を有する。なお、傾斜雌ネジ部11aの入口側となる袋体拘束具1の端面14には、図示はしないが、所定の面取りが施される。これは、袋体3がグラウト材の加圧注入によって膨らんだとき、その端面14の周縁部分がエッジとなって袋体3を損傷させることを防止するためである。
【0014】
次に、平行雌ネジ部11bは、傾斜雌ネジ部11aの小径側に連続し、その雌ネジの山と山、あるいは谷と谷が中空部11の長手方向に平行に連なり、補強材2の雄ネジ部21と同じねじピッチで形成されている。つまり、平行雌ネジ部11bは、折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部を、同じねじピッチである補強材2の雄ねじ部21との間で挟むと、挟まれた袋体3の端部が素材の柔軟性と弾性により両者のネジ山形状に追随するので、補強材2の雄ねじ部21に対して、あたかもシール材(袋体3の端部)を介在させた螺合状態となる。これにより、平行雌ネジ部11bは、補強材2の雄ねじ部21との間で袋体3の端部を径方向(中空部11の中心方向)に圧縮し、密着させる機能を発揮する。そのため、この平行雌ネジ部11bと補強材2の雄ねじ部11との間に形成されるクリアランスは、補強材2の軸方向と直交する横断面において、折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部の厚さとほぼ同じ厚さか、その厚さよりわずかに大きくすることが望ましい。つまり、補強材2の軸方向と直交する横断面におけるそのクリアランスの断面積は、袋体3の端部(肉厚)の断面積とほぼ等しいか、密着性および挿入性を損なわない程度にわずかに大きいことが望ましい。具体的には、そのクリアランスの断面積は、袋体3の端部のほつれ、折り畳みの不均等、挿入時の変形や折れ曲り等を考慮し、袋体3の端部の断面積の1.0〜1.5倍程度とする。但し、この範囲は、袋体3の素材にもよるので、あくまで一例である。このように設定することにより、袋体3の端部を窄めて折り畳みながら袋体拘束具1を回転させ挿入していくと、袋体3の端部がそのクリアランス内に均等に近い状態で納まり、雄ねじ部21との間で径方向に圧縮される。
【0015】
凹部11cは、平行雌ネジ部11bと螺合用雌ネジ部11dとの間に設けられ、かつ、平行雌ネジ部11bおよび螺合用雌ネジ部11dよりも大径で、傾斜雌ネジ部11aや平行雌ネジ部11bとは異なり、内周面に雌ネジ部が形成されていない形状である。この凹部11cは、切断により端部がばらけたり、ほつれた状態で折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部を、図6に示すように、長手方向に折り重ねた状態で圧縮することにより、平行雌ネジ部11bにおける径方向への挟み付け(圧縮)効果と一体となってグラウト材の流出防止を行う機能を有する。この場合、凹部11cは、平行雌ネジ部11bおよび螺合用雌ネジ部11dの径より大径で、径方向外方に拡がるポケット状の空間となっているため、平行雌ネジ部11bとの境界に形成された段差面部11c1と、螺合用雌ネジ部11dとの境界に形成された段差面部11c2との間の空間において、袋体3の端部をその長手方向(補強材2の長手方向でもある。)に1または複数回折り重ねてさらに圧縮することで、袋体3の端部を補強材2の外周面にさらに密着させる。なお、袋体3の端部を補強材2の長手方向に折り重ねることの弊害にならない限り、凹部11cの内周面に雌ネジ部を形成しても良い。
【0016】
螺合用雌ネジ部11dは、傾斜雌ネジ部11aとは反対側の中空部11の内周面に形成され、平行雌ネジ部11bや凹部11cよりも小径で、補強材2の雄ねじ部21に螺合し、袋体拘束具1を補強材2の任意の位置に移動させ、所定位置に固定するものである。なお、傾斜雌ネジ部11a、平行雌ネジ部11bおよび螺合用雌ネジ部11dのねじピッチは、同一であることが望ましい。それらのねじピッチが異なると、袋体拘束具1を袋体3の端部に装着して回転させた際に、ピッチずれが原因で袋体3の端部に徐々にシワが発生し、袋体3の端部の挿入や送り込みが困難となるからである。
【0017】
一方、袋体拘束具1の外周面には、パイルレンチを引っ掛けるための複数の溝部12が周方向に所定間隔で形成されると共に、外側から中空部11の凹部11cまで筒壁を貫通した1または複数の貫通孔13が形成されている。この貫通孔13は、外側から内側を覗くことにより、凹部11cの位置にまで袋体3の端部が到達しているか、さらには袋体3の端部が長手方向に折り重ねられているか否かの状態についても容易に確認することができるので、確実な施工を行う上で有用であるが、必須要件ではない。
【0018】
<補強材用袋体拘束具1を使用した地盤の補強方法>
次に、上述のような構造の補強材用袋体拘束具1を使用した地盤の補強方法について、図3〜図7を参照しながら説明する。なお、図4〜図6では、便宜上、傾斜雌ネジ部11aと、平行雌ネジ部11bと、凹部11cと、螺合用雌ネジ部11dの符号は、補強材2の外側に付している。
【0019】
まず、図3に示すように、中空で外周面に雄ネジ部21が形成された補強材2の所定位置(先端部分)に、筒状の袋体3を挿入する。次いで、袋体3の両端部を拘束するため、2個の袋体拘束具1を、それぞれ螺合用雌ネジ部11dを介して補強材2に螺合して取り付ける。次に、袋体3の端部を補強材2の外周面に密着するようになるべく均等に窄ませまながら幾重にも折り畳み、折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部に対して、袋体拘束具1を傾斜雌ネジ部11a側から回転させながら被せていく。その際、袋体拘束具1の外周面には、溝部12が所定間隔で形成されているため、手廻しが困難になった時点でパイルレンチ(図示せず。)を引っ掛けて回す。傾斜雌ネジ部11aは、入口側は径が大きく、出口側(内方)にいくほど径が小さくなるよう窄まっているので、袋体拘束具1を回転させることにより、一様の切断面とするのが困難で、しかも折り畳みによって厚さを増した袋体3の端部を、図4に示すように徐々に拘束しながら補強材2外周面の雄ねじ部21との間で挟み込み、平行雌ネジ部11bヘ送り込む。
【0020】
図5は、袋体3の端部を平行雌ネジ部11bと補強材2の雄ねじ部21とにより圧縮している状態を示す部分断面図である。図5に示すように、平行雌ネジ部11bは、折り畳まれて厚さを増した袋体3の端部を介在させた状態で補強材2の雄ねじ部21と螺合することにより、その雄ねじ部21との間で袋体3の端部をその径方向、すなわち補強材2の中心方向に圧縮することにより、袋体拘束具1の内周面と補強材2の外周面の雄ねじ部21に確実に密着させ、この区間でシールすることができる。
【0021】
上記状態からさらに袋体拘束具1を回転させると、図6に示すように、袋体3の端部は、平行雌ネジ部11bから凹部11cに送り込まれ、螺合用雌ネジ部11dとの境界の段差面部11c1に端部の先端が当接する。ここで、凹部11cは、平行雌ネジ部11bより大径のポケット状の空間部となっているため、さらに袋体拘束具1を回転させると、袋体3の端部が次々に平行雌ネジ部11bから凹部11cに送り込まれ、図6に示すように螺合用雌ネジ部11dとの境界の段差面部11c2と、平行雌ネジ部11bとの境界の段差面部11c1との間で補強材2の長手方向に圧縮され、幾重にも折り重なり密着し合う。つまり、平行雌ネジ部11bの区間では、袋体3の端部を介在させた(挟んだ)状態で補強材2の雄ねじ部21と螺合する際に、袋体3の端部を径方向に圧縮することによりシールするのに対し、この凹部11cの区間では、袋体3の端部を段差面部11c1と段差面部11c2との間の空間で補強材2の長手方向に圧縮し、折り重ね状態とすることでシールしている。
【0022】
従って、この袋体拘束具1では、傾斜雌ネジ部11aが不均等に束ねられた袋体3の端部を徐々に拘束しながら補強材2外周面の雄ねじ部21との間で挟み込み、内方ヘ順次送り込むので、袋体3の装着作業を簡単にできる。また、平行雌ネジ部11bと凹部11cの2箇所において、それぞれ異なる方向(径方向と長手方向)に対して袋体3の端部を圧縮するので、それらの相乗効果によってシール機能が飛躍的に向上し、袋体3の端部における止水材の塗布作業が不要になり、作業工程を大幅に簡略化できる。特に、袋体拘束具1を回転させるだけで、袋体3の端部を確実に拘束し、補強材2に対して信頼性の高い閉塞状態で固定することが可能となるので、施工性が大きく向上する。また、水硬パテ等の止水材や締付けリング、キャップ・ソケットなども不要になり、簡易な構成の袋体拘束具1によりグラウト材の漏出を防止できるため、施工コストの低減にもつながる。
【0023】
なお、袋体拘束具1を回転して締め付けていく過程において、凹部11cが袋体3の端部で満たされ、これ以上圧縮できなくなると、袋体拘束具1と袋体3との摩擦抵抗が大きくなり、図7に示すように袋体3が捩れ始める。このような状態になったら、袋体拘束具1を逆回転させ、その捩れを戻す。なお、袋体拘束具1の外周面には貫通孔13が形成されているため、捩れが発生した時点、あるいはそれ以前に外側から貫通孔13を通して内側を覗くことによっても、凹部11cにまで袋体3の端部が到達しているか、さらにはその端部に折り重ね部分が形成されているかを確認することができ、確実な施工が可能となる。袋体3の他方の端部についても同様に袋体拘束具1により固定させる。なお、袋体拘束具1は、必ずしも袋体3の両端側に使用することはなく、先端側に比べて圧力が高い口元側のみに適用し、先端側を他の固定手段としてもよい。
【0024】
その後、袋体3が取り付けられた補強材2を地盤に形成した削孔内に挿入し、補強材2の中空部を介してグラウト材を袋体3内に加圧注入する。グラウト材は、補強材2の外周面またはカプラー(図示せず。)の外周面に設けた貫通孔(図示せず。)から袋体3内に流出させる。そして、袋体3内のグラウト材が硬化した後、袋体3よりも上方の削孔内にさらにグラウト材を注入し、削孔内のグラウト材の硬化後、補強材2の頭部を地盤の表面に定着させる。
【0025】
なお、上記実施形態に係る袋体拘束具1では、圧縮部として、平行雌ネジ部11bと凹部11cの双方を備える事例について説明したが、本発明では、これに限定されない。すなわち、図8に示す袋体拘束具1’のように、平行雌ネジ部11bを省略して、凹部11cのみを設けたり、図9に示す袋体拘束具1”のように、凹部11cを省略して、平行雌ネジ部11bのみを設けるようにしても良い。また、凹部11cの形状についても、要は、平行雌ネジ部11bおよび螺合用雌ネジ部11dよりも拡径していればよく、段差面部11c1,11c2を設けることは必須ではない。例えば、平行雌ネジ部11bと螺合用雌ネジ部11dとの間を円弧状断面の凹部とし、段差面部11c1,11c2を省略することもできる。また、補強材2として円筒状鋼材に適用した事例について説明したが、例えば、ねじ節鉄筋などの中空部の無い棒状鋼材に袋体拘束具1と袋体3を取り付け、注入ホースの端部を適宜手段で袋体3の内部に開口させ、注入ホースを介してグラウト材を袋体3内に充填してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1,1’,1”…補強材用袋体拘束具1、11…中空部、11a…傾斜雌ネジ部、11b…平行雌ネジ部(圧縮部)、11c…凹部(圧縮部)、11c1,11c2…段差面部、11d…螺合用雌ネジ部、12…溝部、13…貫通孔、2…補強材、21…雄ネジ部、3…袋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ネジ部が形成された補強材の外周面に、グラウト材の加圧注入により膨張する袋体の端部を閉塞状態で固定する補強材用袋体拘束具であって、補強材を挿通させる中空部の一端側には補強材外周面に沿うように折り畳まれた袋体端部を補強材外周面の雄ネジ部との間で挟んで内部に進入させる、内方に向けて径が縮小した傾斜雌ネジ部が形成されると共に、中空部の他端側には補強材外周面の雄ネジ部に螺合して補強材に対する取付け位置を決める螺合用雌ネジ部が形成され、該螺合用雌ネジ部と前記傾斜雌ネジ部との間に袋体端部を圧縮する圧縮部を設けたことを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項2】
請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、袋体端部が介在した状態で補強材外周面の雄ネジ部に螺合して袋体端部を径方向に圧縮する平行雌ネジ部と、該平行雌ネジ部と螺合用雌ネジ部の間にあって袋体端部を長手方向に折り重ね状態で圧縮する該平行雌ネジ部および螺合用雌ネジ部よりも拡径した凹部であることを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項3】
請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、傾斜雌ネジ部と螺合用雌ネジ部の間にあって袋体端部を長手方向に折り重ね状態で圧縮する該平行雌ネジ部および螺合用雌ネジ部よりも拡径した凹部であることを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の補強材用袋体拘束具において、前記凹部は、水平雌ネジ部の径および接合用雌ネジ部の境界にそれぞれ軸方向に対しほぼ垂直の段差面部を有しており、それらの段差面部の間で袋体端部をロックボルトの長手方向に折り重ね状態で圧縮することを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項5】
請求項1記載の補強材用袋体拘束具において、前記圧縮部は、袋体端部が介在した状態で補強材外周面の雄ネジ部に螺合して袋体端部を径方向に圧縮する平行雌ネジ部であることを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載の補強材用袋体拘束具において、外側から内側の圧縮部まで貫通した貫通孔を備えることを特徴とする補強材用袋体拘束具。
【請求項7】
雄ネジ部が形成された補強材の外周面に、グラウト材の加圧注入により膨張する筒状の袋体を挿入すると共に、請求項1〜請求項5のいずれか一の請求項に記載の補強材用袋体拘束具を螺合し、袋体の端部を補強材外周面に沿わせるように窄ませて折り畳み、折り畳んだ該端部に補強材用袋体拘束具を傾斜雌ネジ部の入口側から螺入して袋体の端部を閉塞状態で固定した後、袋体が装着された補強材を地盤に設けた削孔内に挿入してグラウト材を袋体内に加圧注入し、その後削孔内にグラウト材を注入することを特徴とする補強材用袋体拘束具を使用した地盤の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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