説明

複写用変倍光学系

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、共役長固定で変倍を行う複写用変倍光学系に係り、負,正,負の3レンズ群構成で5枚からなるコンパクトな複写用変倍光学系に関する。
【0002】
【従来の技術】変倍機能を有する複写機では、まだ殆どがミラーの移動と組み合わせた共役長変倍方式により行うように構成されており、ズームレンズによる共役長固定方式の変倍方式を適用すれば、ズームレンズの移動のみで連続変倍が可能となり、装置全体の小型化が図られることから最近このようなズームレンズ系の提案がなされている。
【0003】例えば、特開昭62−12302号公報に記載されたズームレンズ系も、このような共役長可変の複写用ズームレンズ系であり、Fナンバーが8〜6.3,半画角ωが19.2°、倍率が0.5×〜2.0×で8枚構成のズームレンズ系である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、さらにレンズ枚数を少なくし、小型で広変倍域が得られる複写用変倍光学系を得ようとするものである。また、非対称型のレンズ系にして各種の収差を良好に補正するようにしている。そして、レンズ5枚と少枚数構成で移動群を負,正,負の3レンズ群から構成し、上記正レンズ群の中にも移動させる部分を設けてある。
【0005】従来のものでは、0.64×〜1.41×という変倍範囲においてはレンズ枚数が少数枚のものが知られているが、0.5×〜2.0×の変倍範囲においては5枚構成のレンズ系は殆どなく、第2正レンズ群2の中にも移動部を設けることにより、この発明では5枚構成で達成することができ、変倍時の像面湾曲,歪曲収差の変動を抑えたことを特徴としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明の複写用変倍レンズ系は、物体側より順に、物体側に強いパワーの凹面を向けた負レンズの第1レンズからなる第1負レンズ群1、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズの第2レンズと物体側に曲率半径の大きい方の面を向けた両凹レンズの第3レンズと両凸レンズの第4レンズとからなり,全体として正のパワーをもち,第3レンズと第4レンズ間の軸上面間隔d6 が変動するように構成された第2正レンズ群2と、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズの第5レンズからなる第3負レンズ群3とから構成され、変倍時には第1負レンズ群1と第2正レンズ群2との間隔d2と第2正レンズ群2と第3負レンズ群3との間隔d8 および第2正レンズ群2の移動部を変動させるとともに、レンズ系全体を光軸方向に移動させることにより共役長一定で変倍を行うレンズ系であって、第2正レンズ群2中の第3負レンズと第4レンズの面間隔d6 の変動量が第1負レンズ群1と第2正レンズ群2との間隔d2 または第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔d8 の変動と比較すると微少であり、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 ,第2レンズ群2の焦点距離をF2 ,第3負レンズ群3の焦点距離をF3,等倍時におけるレンズ全系の焦点距離をFとするとき
【0007】
【数10】


【0008】
【数11】


【0009】の各条件式を満足することを特徴とする複写用変倍光学系である。
【0010】また、この発明の複写用変倍光学系は、第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔d2 と第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔d8 が第2正レンズ群2について非対称に移動し、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 ,第3負レンズ群3の焦点距離をF3 ,第i面の曲率半径をri ,縮小時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12 に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外3】


,拡大時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外4】


,第3レンズと第4レンズの変倍時における軸上面間隔の変動量をΔD34 とするとき
【0011】
【数12】


【0012】
【数13】


【0013】
【数14】


【0014】
【数15】


【0015】の各条件式を満足することを特徴とする複写用変倍レンズ系である。
【0016】さらに、この発明の複写用変倍レンズ系は、第iレンズの焦点距離をfi ,第2レンズの軸上面間隔をd3 、第2正レンズ群の焦点距離をF2 とするとき
【0017】
【数16】


【0018】
【数17】


【0019】
【数18】


【0020】の各条件式を満足することを特徴とする複写用変倍レンズ系である。
【0021】
【実施例】以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。図1〜図3は、実施例1〜実施例3のレンズ構成を示す断面図である。左側の物体側より順に、物体側に凹面を向けた負レンズの第1レンズからなる第1負レンズ群1,物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズの第2レンズと物体側に曲率半径の大きい方の面を向けた両凹レンズの第3レンズおよび両凸レンズの第4レンズとからなる第2正レンズ群2、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズの第5レンズからなる第3負レンズ群3とから構成される。そして、第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間の間隔d2 および第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間の間隔d8 を変動させるとともに、レンズ系全系を移動させることにより共役長を一定に保ったまま投影倍率を変化させている。
【0022】このズーミングにおいては、第1負レンズ群1と第3負レンズ群3とがズーミングの役割を果す。図7に等倍時におけるレンズ配置を示す。第2正レンズ群2は第3レンズと第4レンズの間隔が微小変動するため、前群2aと後群2bとに分けて示している。
【0023】図8に第1負レンズ群1,第3負レンズ群3および第2正レンズ群2の前群2aおよび後群2bの変倍時における移動位置をそれぞれ実線で示している。即ち、第2正レンズ群2に対し、第1負レンズ群1と第3負レンズ群3は非対称に移動され(参考に対称移動を破線で示す)、第2正レンズ群2の第3レンズと第4レンズ間の軸上面間隔d6 を微小に移動し、全体に光軸方向に移動して変倍することにより−0.5〜−2.0×という広範囲に亘り収差補正を行っている。
【0024】そして、倍率βが−1の等倍時におけるレンズ系全系の焦点距離をF、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 、第2正レンズ群2の焦点距離をF2 および第3負レンズ群の焦点距離をF3 とするとき
【0025】
【数19】


【0026】
【数20】


【0027】の各条件式を満足させる。
【0028】上記条件式(1)は、第2正レンズ群2のパワー配置を決定するための条件であり、その上限値を越えると、第2正レンズ群2のパワーが緩くなるため収差補正には有利であるが、等倍時にレンズ系を小型化しようとすると、第1負レンズ群1および第3負レンズ群3の負のパワーを弱くする必要があり、従って、変倍時の移動量が大きくなってしまい、変倍時を含めたレンズ系全体の小型化を達成できなくなってしまう。また、下限値を越えると、逆に第1負レンズ群1と第3負レンズ群3のパワーを強めることになるため、変倍時の移動量が小さくなって小型化することができるが、主に収差補正を担当する第2正レンズ群2のパワーが強くなるため、等倍時および変倍時の収差補正が極めて困難になる。
【0029】上記条件式(2)は、第1負レンズ群1および第3負レンズ群3のパワーの配分を決める条件であり、非対称性の度合を決めるものである。この条件式を外れると、レンズ系の前方と後方とでパワーが異なりすぎるため、軸外でのコマ収差等の非対称収差が大きく発生してしまいその補正が困難となってしまう。また、変倍時において、歪曲収差の変動量が大きくなってしまう。
【0030】また、この発明の複写用変倍光学系は、第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔d2 と第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔d8 が第2正レンズ群2について非対称に移動し、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 ,第3負レンズ群3の焦点距離をF3 ,第i面の曲率半径をri ,縮小時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12 に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外5】


,拡大時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外6】


,第3レンズと第4レンズの変倍時における軸上面間隔の変動量をΔD34 とするとき
【0031】
【数21】


【0032】
【数22】


【0033】
【数23】


【0034】
【数24】


【0035】の各条件式を満足することを特徴とする複写用変倍光学系である。
【0036】上記条件式(3)は変倍時の非対称性を決定するための条件である。この条件式を外れると、像面湾曲と歪曲収差の両方を変倍範囲の全域において補正することが困難となってしまう。特に、上限値を越えると、歪曲収差の変動が増大してしまう。また、下限値を越えると、拡大時における像面湾曲が補正できなくなる。
【0037】上記条件式(4),(5)は、第1負レンズ群1の第1レンズと第3負レンズ群3の第5レンズの形状を規定する条件であり、レンズ系外側の凹面のパワーを決めるものである。これは主に軸外光線の収差補正に係り、これらの条件内にすることにより等倍時および変倍時においても収差補正が良好に保たれる。その上限値を越えると、像面湾曲が発生し、特に変倍時において著しくなり補正困難となる。また、下限値を越えると、特に変倍時においてコマフレアが発生し、補正することが困難になる。
【0038】上記条件式(6)は、第2正レンズ群の第3レンズおよび第4レンズ間の変動量を決める条件である。この条件式をはずれると変倍時の諸収差の変動が大きくなり過ぎてしまい、諸収差の補正が極めて困難になる。
【0039】さらに、この発明の複写用変倍光学系は、第iレンズの焦点距離をfi 、第2正レンズ群2の第2レンズの軸上面間隔をd3 、第2正レンズ群2の焦点距離をF2 とするとき
【0040】
【数25】


【0041】
【数26】


【0042】
【数27】


【0043】の各条件式を満足することを特徴とする。これらの条件式(7),(8)および(9)は、いずれも第2正レンズ群2のパワー配分を決める条件である。
【0044】上記条件式(7)は、第2レンズのパワーを決める条件である。この上限値を越えると球面収差が補正過剰となり、非点収差も増大する。また、下限値を越えると球面収差が補正不足となり、コマフレアも発生する。
【0045】上記条件式(8)は、第3レンズと第4レンズのパワーの配分を決める条件であり、この上限値を越えると球面収差が補正過剰となり、また、下限値を越えると像面湾曲が大きくなってしまう。
【0046】上記条件式(9)は、第2レンズの厚さを規定する条件であり、この上限値を越えると球面収差が補正過剰となり、レンズ厚が厚くなりすぎてしまい、この発明の目的とする小型化が不可能になってしまう。また、下限値を越えるとコマフレアの発生量が大きくなり、また、球面収差および歪曲収差の補正が困難となる。
【0047】この他に、第2正レンズ群2の軸上面間隔の和を
【外7】


とするとき、次の条件式(10)を満足させることが望ましい。
【0048】
【数28】


【0049】上記条件式(10)を満足することにより、小型で収差補正が良好に行われたレンズ系を得ることができる。
【0050】また、当然のことながら、この光学系は結像面(像面)と物体面とを入れ替えても使用可能である。そして、この光学系は非対称型のレンズ構成であるため、図示の状態で使用した場合には物体面から光学系までの距離を長くとることができ、特に拡大時においては対称型の光学系と比較すればスペース的に余裕があり、機械構成上有利なものとなる。また、この光学系を逆向きに使用した場合は、この逆の効果が得られることになる。
【0051】次に、この発明の具体的な実施例1〜実施例3のレンズ構成を図1〜図3に示し、そのレンズ諸元を第1表〜第3表に示す。これらの各表において、左側の物体側から順に曲率半径r1 ,r2 ,・・・,r10、軸上面間隔d1 ,d2 ,・・・,d9 、硝材のd線での屈折率N1 ,N2 ,・・・,N5 およびアッベ数ν1,ν2 ,・・・,ν5の各面での数値である。
【0052】また、実施例1〜実施例3の収差曲線図を図4〜図6に示す。これらの各図において上段から−1×,−0.50×および−2.00×における球面収差,非点収差および歪曲収差をそれぞれ示している。
【0053】さらに各条件式の実施例1〜実施例3の数値を第4表に纒めて示している。
【0054】
【表1】


【0055】
【表2】


【0056】
【表3】


【0057】
【表4】


【0058】
【発明の効果】以上説明したとおり、この発明の複写用変倍対物レンズ系は、Fナンバー8,半画角ω=21°,倍率β=−0.5〜−2.0のレンズ系ながら、5枚レンズ構成と少枚数で小型のレンズ系でありながら変倍時の収差補正が良好になされたレンズ系となっている。また、非対称のレンズ構成ながら歪曲収差の補正が良好に行なわれている。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の複写用変倍光学系の実施例1のレンズ構成を示す断面図、
【図2】この発明の複写用変倍光学系の実施例2のレンズ構成を示す断面図、
【図3】この発明の複写用変倍光学系の実施例3のレンズ構成を示す断面図、
【図4】「図1」に示す複写用変倍光学系の−1×,−0.5×および−2×における球面収差,非点収差および歪曲を示す収差曲線図、
【図5】「図2」に示す複写用変倍光学系の−1×,−0.5×および−2×における球面収差,非点収差および歪曲を示す収差曲線図、
【図6】「図3」に示す複写用変倍光学系の−1×,−0.5×および−2×における球面収差,非点収差および歪曲を示す収差曲線図、
【図7】この発明の実施例のズーミングの状態を説明するためのレンズ配置図、
【図8】ズーミングの移動状態を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 物体面側より順に、物体面側に強いパワーの凹面を向けた負レンズの第1レンズからなる第1負レンズ群1、物体面側に凸面を向けた正メニスカスレンズの第2レンズと物体面側に曲率半径の大きい方の面を向けた両凹レンズの第3レンズと両凸レンズの第4レンズとからなり,全体として正のパワーをもち,第3レンズと第4レンズ間の軸上面間隔d6 が変動するように構成された第2正レンズ群2と、像面側に凹面を向けた負メニスカスレンズの第5レンズからなる第3負レンズ群3とから構成され、変倍時には第1負レンズ群1と第2正レンズ群2との間隔d2 と第2正レンズ群2と第3負レンズ群3との間隔d8および第2正レンズ群2の移動部を変動させるとともに、レンズ系全体を光軸方向に移動させることにより共役長一定で変倍を行う光学系であって、第2正レンズ群2中の第3負レンズと第4レンズの面間隔d6 の変動量が第1負レンズ群1と第2正レンズ群2との間隔d2 または第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔d8 の変動と比較すると微少であり、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 ,第2正レンズ群2の焦点距離をF2 ,第3負レンズ群3の焦点距離をF3 ,等倍時におけるレンズ全系の焦点距離をFとするとき
【数1】


【数2】


の各条件式を満足することを特徴とする複写用変倍光学系。
【請求項2】 第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔d2 と第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔d8 が第2正レンズ群2について非対称に移動し、第1負レンズ群1の焦点距離をF1 ,第3負レンズ群3の焦点距離をF3,第i面の曲率半径をri ,縮小時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12 に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外1】


,拡大時における第1負レンズ群1と第2正レンズ群2の間隔の変動量ΔD12に対する第2正レンズ群2と第3負レンズ群3の間隔の変動量ΔD23 の比を
【外2】


,第3レンズと第4レンズの変倍時における軸上面間隔の変動量をΔD34 とするとき
【数3】


【数4】


【数5】


【数6】


の各条件式を満足することを特徴とする請求項1記載の複写用変倍光学系。
【請求項3】 第iレンズの焦点距離をfi ,第2レンズの軸上面間隔をd3 、第2正レンズ群の焦点距離をF2 とするとき
【数7】


【数8】


【数9】


の各条件式を満足することを特徴とする請求項2記載の複写用変倍光学系。
【請求項4】 物体面と像面とを入れ替えて構成したことを特徴とする「請求項1」ないし「請求項3」記載の複写用変倍光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第2998286号(P2998286)
【登録日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【発行日】平成12年1月11日(2000.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−124466
【出願日】平成3年4月30日(1991.4.30)
【公開番号】特開平4−328711
【公開日】平成4年11月17日(1992.11.17)
【審査請求日】平成10年3月6日(1998.3.6)
【出願人】(000006079)ミノルタ株式会社 (155)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−180928(JP,A)
【文献】特開 平1−123210(JP,A)