説明

複合セラミックス部材の保管方法

【課題】高精度に加工された複合セラミックス部材に生じる精度変化を抑制できる複合セラミックス部材の保管方法を提供する。
【解決手段】正膨張の材料および負膨張の材料から成り、高精度に加工された複合セラミックス部材の保管方法であって、複合セラミックス部材を真空パックし、真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の温度を18℃以上28℃以下、かつ、湿度を70%RH以下に管理する。これにより、温度変化や湿度変化に対して、複合セラミックス部材に精度変化が生じるのを抑制できる。正膨張の材料とは、少なくとも室温近傍の所定の温度範囲で熱膨張係数が正となる材料をいい、負膨張の材料とは、少なくとも室温近傍の所定の温度範囲で熱膨張係数が負となる材料をいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正膨張の材料および負膨張の材料から成り、高精度に加工された複合セラミックス部材の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置のように使用の際に精度が求められる装置には、高精度に加工された低熱膨張のセラミックス部材が構成部品として用いられることが多い。たとえば、特許文献1記載の複合セラミックスは、熱膨張係数およびヤング率が所定の式で表されるように、重量割合W%の第1の材料と重量割合W%の第2の材料からなり緻密質である。これにより、低熱膨張特性と高剛性とを兼備し、半導体製造装置、計測機器、精密機器などの部品に好適な材料となっている。
【0003】
特許文献2記載の低熱膨張セラミックスは、相対密度が98%以上であり、低熱膨張セラミックスを構成する材料組成がβ−ユークリプタイト72.7〜76.1質量%と、炭化珪素27.2〜18.9質量%と、窒化珪素0.1〜5.0質量%とからなる。そして、20〜30℃における熱膨張係数が−1×10−6〜1×10−6/℃の範囲内である。
【0004】
一方、特許文献3記載の固体電解質型電池の製造方法は、焼成後のベータアルミナセラミックスを1200〜1500℃、1〜40時間の条件下で熱処理する。そして、水系研削液を用いて所定の形状に研削加工したベータアルミナセラミックスを200℃以下の温度で加熱処理して、その吸着水分量を0.7mg/cm以下に調整している。このようにして、アルカリイオンがイオン伝導体の表面へ移動し水と反応する現象を防止し、焼結体内部組成の不均一化や結晶構造の崩壊等の問題を解消している。
【0005】
また、特許文献4記載のスパッタリングターゲットの製造方法は、スパッタリングターゲットの製造において、機器の保管場所等の作業環境における大気中の水蒸気量を16g/m以下とすることで、ターゲットの割れを防止している。このようにして機器あるいは保管場所等からの実効ある水分を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−058866号公報
【特許文献2】特開2004−284856号公報
【特許文献3】特開2000−302582号公報
【特許文献4】特開2003−082454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1、2記載の低熱膨張セラミックスは、これを構成部品として含む半導体製造装置が使用される場面では温度や湿度が管理される。しかしながら、このような低熱膨張セラミックスの部材について、製造されてから装置が組み立てられるまでの間の管理は十分であるとはいえない。この際の保管が不十分だと、高精度に加工された部材であっても精度に狂いが生じる。
【0008】
特に、高精度の加工部材として、正膨張の材料および負膨張の材料から成る複合セラミックス部材を用いる場合には、粒子界面に焼成時や加工時の歪みが残留しており、過酷な環境下でそのような部材が保管されると、歪みが開放され、精度変化の原因となる。したがって、たとえ特許文献3、4に記載されるような保管場所の湿度管理等を行なったとしても不十分であり、複合セラミックスの粒界歪みにより不具合が生じたときには高精度加工品の精度変化を抑制できない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高精度に加工された複合セラミックス部材に生じる精度変化を抑制できる複合セラミックス部材の保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の複合セラミックス部材の保管方法は、正膨張の材料および負膨張の材料から成り、高精度に加工された複合セラミックス部材の保管方法であって、複合セラミックス部材を真空パックし、前記真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の温度を18℃以上28℃以下、かつ、湿度を70%RH以下に管理することを特徴としている。これにより、温度変化や湿度変化に対して、複合セラミックス部材に精度変化が生じるのを抑制できる。
【0011】
(2)また、本発明の複合セラミックス部材の保管方法は、前記複合セラミックス部材が、5wt%以上50wt%以下の炭化珪素および50wt%以上95wt%以下のβ−ユークリプタイトを合計98wt%以上含むことを特徴としている。このような複合セラミックス部材に対して、温度管理を行なうことで熱膨張係数を−1〜+1ppm/℃に抑え、精度変化を抑制できる。
【0012】
(3)また、本発明の複合セラミックス部材の保管方法は、前記複合セラミックス部材が、半導体製造装置の構成部品であり、前記複合セラミックス部材の製造後、半導体製造装置の組み立てに用いられるまでの間、前記複合セラミックス部材を保管することを特徴としている。これにより、製造後の使用までの間の環境で生じる精度変化を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高精度に加工された複合セラミックス部材に生じる精度変化を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の保管方法の対象となる複合セラミックス部材を説明する。
【0015】
(複合セラミックス部材の構成)
複合セラミックス部材は、正膨張の材料および負膨張の材料から成り、高精度に加工されている。正膨張の材料および負膨張の材料から構成されているため、低熱膨張な部材となっている。正膨張の材料とは、少なくとも室温近傍の所定の温度範囲で熱膨張係数が正となる材料をいい、負膨張の材料とは、少なくとも室温近傍の所定の温度範囲で熱膨張係数が負となる材料をいう。室温近傍の所定の温度範囲としては、18℃以上28℃以下が挙げられるが、23℃近傍または20℃以上26℃以下としてもよい。
【0016】
正膨張の材料としては炭化珪素、窒化珪素、サイアロン、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウムなどが好ましく、特に熱膨張係数が小さいという観点では窒化珪素、サイアロンが好ましい。化学的に反応しなければ、上記の材料の中から複数の材料を組合せて、正膨張の材料として用いることも可能である。
【0017】
負膨張の材料としては例えばβ−ユークリプタイトを用いることができる。β−ユークリプタイトは、23℃近傍で負の熱膨張係数を有し、正膨張の材料と組み合わせることにより、極めて低い熱膨張係数の複合セラミックス部材を得ることが可能である。β−ユークリプタイト以外にもβ−ユークリプタイトと化学的に反応しない他の材料を組合せて負膨張の材料を構成することができる。他の材料には、スポジューメン、ペタライト、β石英固溶体等のリチウムアルミノシリケート、コーディエライト、アルミナスキータイト、タングステン酸ジルコニウム、りん酸ジルコニウム等が挙げられる。低熱膨張の観点からはリチウムアルミノシリケートのうちβ−ユークリプタイトやスポジューメンを主とした組合せが好ましい。
【0018】
好ましい一例として、5wt%以上50wt%以下の炭化珪素および50wt%以上95wt%以下のβ−ユークリプタイトを合計98wt%以上含む複合セラミックス部材が挙げられる。炭化珪素およびβ−ユークリプタイト以外に窒化珪素を0wt%以上2wt%以下含んでいてもよい。このような構成の低熱膨張な複合セラミックス部材に対しては、18℃以上28℃以下の範囲の温度管理により熱膨張係数を−1〜+1ppm/℃に抑え、精度変化を抑制できる。これは後述の実験結果により実証されている。このように構成された複合セラミックス部材は、高精度加工品として、たとえば半導体製造装置、計測機器、精密機器等の構成部品に用いられる。
【0019】
(複合体セラミックス部材の製造方法)
次に、複合セラミックス部材の製造方法を説明する。まず、正膨張の材料の原料粉末と、負膨張の材料の原料粉末を配合し、その後ボールミルなどにより十分に混合する。そして、所定形状に所望の成形手段、例えば、金型プレス,冷間静水圧プレス,押出し成形等により任意の形状に成形する。
【0020】
このようにして得られた成形体を、真空、不活性ガス雰囲気中または大気中で1200〜1500℃の温度で数時間程度焼成する。材料のいずれかに非酸化物を用いる場合、酸化を避けるため、真空またはAr、Nなどの不活性ガス雰囲気中で焼成する。得られた焼結体は、たとえば半導体製造装置の構成部品として高精度に加工する。このようにして、複合セラミックス部材を製造することができる。
【0021】
(複合体セラミックスの保管方法)
上記のような複合セラミックス部材を真空パックし、真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の温度を18℃以上28℃以下に管理する。これにより、温度変化や湿度変化に対して、高精度に加工された複合セラミックス部材に精度変化が生じるのを抑制できる。温度管理は、エアコンによる制御等で行なう。
【0022】
真空パックは、アルミ蒸着されたビニールで複合セラミックスを包装して行なうのが好ましい。これにより、包装外部の温度変化の影響を受けにくく、更には、ビニール内部への水分の透過を防ぐことができる。維持する温度範囲は20℃以上26℃以下とするのがさらに好ましい。なお、「保管」には、対象物を一定の場所に格納して環境を管理することだけでなく、運搬中に環境を管理することも含まれる。
【0023】
また、真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の湿度は、70%RH以下の湿度に管理することが好ましい。複合セラミックス部材が、水に溶解する成分を含む場合には、有効である。このような湿度管理により、複合セラミックス部材から成分が溶出するのを防止できる。水に溶解する成分には、一定のガラス成分が挙げられる。例えば、コーディエライトMgAl(AlSi18)には水に溶解するガラス成分が含まれる。
【0024】
また、複合セラミックス部材にβ−ユークリプタイト等のLiを含む材料を用いている場合には、70%RH以下の湿度で、保管するのが有効である。これにより、水に溶解するLiの溶出を防止できる。その結果、β−ユークリプタイトの組成が変化し、熱膨張の特性に変化が生じるのを防止できる。特に、β−ユークリプタイトを構成するLi元素は水に溶解し易いため、湿度管理が効果的である。
【0025】
複合セラミックス部材の用途には、半導体製造装置の位置決め用のミラーやステージ部材が挙げられる。このような用途には、低熱膨張の特性が保証された部材が求められる。複合セラミックス部材が、半導体製造装置の構成部品である場合には、複合セラミックス部材の製造後、半導体製造装置の組み立てに用いられるまでの間、複合セラミックス部材を保管することが好ましい。これにより、製造後の使用までの間の環境で生じる精度変化を防止することができる。
【0026】
(試験1)
次に、各組成の試料を作製して行なった試験を説明する。表1に示すように、試料No1〜6、No8〜10について、5wt%以上50wt%以下の炭化珪素、50wt%以上95wt%以下のβ−ユークリプタイトおよび0wt%以上2wt%以下の窒化珪素から成る複合セラミックス部材を作製し、それぞれの特性を測定した。また、試料No7について、35wt%の窒化珪素および65wt%のβ−ユークリプタイトから成る複合セラミックス部材を作製し、特性を測定した。
【表1】

【0027】
原料粉末としては、市販のβ−ユークリプタイト粉末と炭化珪素粉末と窒化珪素粉末を用いた。表1の第1列に記載されているβ−ユークリプタイト粉末と炭化珪素粉末と窒化珪素粉末の配合割合で原料粉末をエタノール溶媒とアルミナボールと共にボールミル内に投入し、16時間湿式にて混合粉砕を行なった。このようにして得られた混合粉砕粉末を乾燥し、解砕した。
【0028】
上記のようにして得られた混合粉砕粉末を一軸加圧成形(100kg/cmで1分間)した後、冷間静水圧成形(1200kg/cmで1分間)し、成形体を作製した。次に、この成形体を常圧、窒素雰囲気中で1300〜1380℃の温度で焼成し、形状30mm×30mm×210mmの焼結体を作製した。得られた焼結体は、平面研削加工機を用いて、形状25mm×25mm×200mmとし、25mm×200mmの一面を鏡面研磨加工により、平面度を0.050〜0.060μmに調整した。鏡面加工した面の平面度測定は、レーザ干渉平面度測長機(zygo)を用いた。
【0029】
得られた焼結体の試験体をJIS R3251「低膨張ガラスのレーザ干渉計による線膨張率の測定方法」に規定されている方法により18℃以上28℃以下の範囲における熱膨張係数を測定した。その結果、表1に示すように、全ての試験体が、−1〜1ppm/℃の範囲内に収まることを確認した。
【0030】
複合セラミックス部材を真空パックし、真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の温度を18℃以上28℃以下、湿度を70%RH以下に管理して、1ヶ月間保管した。1ヶ月間保管した部材の平面度を測定した。その結果、平面度変化は最大でも0.004μmであり、加工精度に変化が無いことを確認できた。
【0031】
以上のように、本発明の複合セラミックス部材について、18℃以上28℃以下の範囲の温度管理および70%RH以下の湿度管理により、精度変化を抑制できることが実証できた。
【0032】
(試験2)
次に、同じ組成の試料を異なる環境で保管したときの試験について説明する。上記のNo8と同じ組成を有する試料No11〜14を用意し、1か月の保管の前後で平面度を測定し、加工精度の変化を評価した。表2は、各試料の組成と保管条件および結果を示す表である。表2に示すように、試料No11は、真空パックせずに、温度23℃、湿度50%RHの環境で保管した。試料No12〜14は、真空パックした状態で、各温度および湿度の環境で保管した。
【表2】

【0033】
試験の結果、試料No11〜14の平面度変化はいずれも上記の試験1での最大値0.004μmより著しく大きい値となり、加工精度に変化が生じていた。試料No8の保管条件に対して湿度のみ75%RHに変えて保管した試料No14も、最も平面度変化は小さかったものの、平面度変化が0.023μmであった。これは、試料が組成に水に溶解しやすいLiを含むため、18℃以上28℃以下の範囲内で温度管理され、真空パックされていても、湿度の影響で平面度変化することを示している。このように、本発明の複合セラミックス部材について、18℃以上28℃以下の範囲の温度管理および70%RH以下の湿度管理がなされない場合には、精度変化が保証されないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正膨張の材料および負膨張の材料から成り、高精度に加工された複合セラミックス部材の保管方法であって、
複合セラミックス部材を真空パックし、前記真空パックされた複合セラミックス部材が置かれる環境の温度を18℃以上28℃以下、かつ、湿度を70%RH以下に管理することを特徴とする複合セラミックス部材の保管方法。
【請求項2】
前記複合セラミックス部材は、5wt%以上50wt%以下の炭化珪素および50wt%以上95wt%以下のβ−ユークリプタイトを合計98wt%以上含むことを特徴とする請求項1記載の複合セラミックス部材の保管方法。
【請求項3】
前記複合セラミックス部材は、半導体製造装置の構成部品であり、
前記複合セラミックス部材の製造後、半導体製造装置の組み立てに用いられるまでの間、前記複合セラミックス部材を保管することを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合セラミックス部材の保管方法。