説明

複合ノイズ発生器

【課題】 任意の特性を有する複合ノイズを容易にかつ安定して生成可能とする複合ノイズ発生器を提供する。
【解決手段】 予めガウス性ノイズ信号の波形データを任意のエンベロープ波形で選択的に発生するためのゲートが組み込まれ、外部からのパラメータによって波形データの特性を任意に制御可能とするFPGA11を備える。このFPGA11を制御用コンピュータ12によってパラメータ制御することで複合ノイズの波形データを発生し、D/A変換器13によってアナログ信号に変換出力する。ノイズのパラメータとして、平均電力、時間率の振幅確率分布(タイムベースAPD)、交差率分布(CRD)、継続時間分布(BDD)、発生頻度分布(OFD)、およびエンベロープ信号波形を任意に選択可能とした結果、プログラムによる自動的な制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要求に応じて多種多様な特性を持つ複合ノイズを発生する複合ノイズ発生器に係り、例えば電子機器の電磁ノイズによる障害検査に利用するためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会に伴う電子・情報通信機器の普及により電磁ノイズが増加し、電磁環境が悪化しており、それに伴って通信機器の受信障害を含む電子機器への障害が問題となっている。このため、電子機器製造においては、耐ノイズ性(Noise Immunity)試験が不可欠となってきている。特に、通信機器の外部ノイズによる妨害の検査は、新しい通信方式、機器の開発には欠かせないものである。
【0003】
従来から、電子機器の耐ノイズ性試験には、ノイズ源として適当な特性の電磁ノイズを発生するノイズ発生器が用いられている。しかしながら、電子機器の高集積化、高周波数化なども進んできており、要求されるノイズの発生形態や性質は多様化してきている。また、ノイズを表現するパラメータは非常に多い。
【0004】
一方、熱雑音の振幅分布は正規分布に従うことが知られており、通信機器の設計においてはガウス性ノイズ発生器が用いられている。ところが、今日では都市雑音などのノイズ源の多様化により、ガウス性ノイズに対する検討だけでは十分ではなくなってきている。例えば、狭帯域ディジタル通信ではビット誤り率とノイズの時間率による振幅確率分布(Amplitude Probability Distribution,以下タイムベースAPD)に相関があるとの報告もあり、非ガウス性ノイズに対する検討も必要となってきている。
【0005】
上記タイムベースAPDを含めて対応する複合ノイズを発生するための基本原理については、非特許文献1に提案されている。しかしながら、この文献1に開示される装置はアナログ構成であり、パラメータの設定・変更が非常に困難である。
【0006】
また、ディジタル構成のガウス性信号源を用いたノイズ発生器が非特許文献2で提案されているが、非ガウス性ノイズとして代表的な発生頻度分布(Occurrence Frequency Distribution,以下OFD)、継続時間分布(Burst Duration Distribution,以下BDD)、交差率分布(Crossing Distribution,以下CRD)に対する制御は考慮されていない。
【0007】
また、ノイズの確率統計量を制御可能なノイズ発生器が非特許文献3で提案されているが、ノイズのエンベロープ波形を制御できないため、出力ノイズ波形が現実的とは言えない。
【0008】
また、ガウス性ノイズ信号とエンベロープ波形信号を乗算する方式の複合ノイズ発生器が非特許文献4で提案されているが、乗算部分がアナログ回路で構成されている。また、特定のコンピュータを使用しなければならないため、汎用性に問題がある。
【非特許文献1】井上浩,高木相:“銀接点開離時アークの1〜MHzの誘導雑音の統計的測定と複合雑音発生器(CNG)の提案”,信学論(B),vol.J68-B,no.12,pp.1506-1512,1985.
【非特許文献2】曽根秀昭,静谷啓樹,高木相:“全ディジタル構成のガウス性信号源”,信学論C,vol.J70-C,no.7,pp.1101-1102,1987.
【非特許文献3】山根孝二,大沼孝一:“指定APD,CRD,PDD,PSDに従う擬似雑音の発生方法”,2002信学通信ソ大,B-4-36,2002.
【非特許文献4】M. Tanaka, K. Sasajima, H. Inoue and T. Takagi:“Programmable Composite Noise Generator (P-CNG) ‐As Class A Noise Simulator and Its Application to Opinion Test on TV Picture Degradation‐”,IEICE Trans. Commun.,vol.E85-B,no.7,pp.1352-1359,2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように従来の複合ノイズ発生器では、ガウス性ノイズ、非ガウス性ノイズに対する検討が十分でなく、制御手法がアナログ的で、安定した制御がなされていないのが実情である。
【0010】
本発明は上記の問題を解決し、ガウス性ノイズ、非ガウス性ノイズのいずれも発生可能で、その特性を容易にかつ安定して制御可能とする複合ノイズ発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る複合ノイズ発生器は、以下のように構成される。
【0012】
(1)予め不規則ノイズ信号の波形データを任意に組み合わせ、任意のエンベロープ波形で発生するためのゲートが組み込まれ、外部から与えられるパラメータに基づいて前記ノイズ信号の波形データ、エンベロープ波形の特性を選択可能とするゲート回路装置と、指定されるノイズ特性に基づくパラメータを発生して前記ゲート回路装置に与え、前記指定のノイズ特性を有する複合ノイズの波形データを前記ゲート回路装置に生成させる制御装置と、前記ゲート回路装置から出力される複合ノイズの波形データをアナログ信号に変換するディジタル・アナログ変換器とを具備することを特徴とする。
【0013】
(2)(1)の構成において、前記ゲート回路装置は、前記不規則ノイズ信号の波形データを指定パラメータに基づく特性で発生して複合ノイズの波形データを生成する不規則ノイズ信号源と、前記指定パラメータに基づく時間間隔で振幅値を切り替えることでエンベロープ信号を生成するエンベロープ生成回路と、前記不規則ノイズ信号源及びエンベロープ生成回路の基準としているクロックを指定パラメータに基づいて周波数制御するクロック制御回路と、前記不規則ノイズ信号源から出力される不規則ノイズ信号の波形データと前記エンベロープ生成回路で生成されるエンベロープ信号の波形データとを乗算して複合ノイズ信号の波形データを生成する乗算器とを備えることを特徴とする。
【0014】
(3)(1)の構成において、前記ゲート回路装置には、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイを用いることを特徴とする。
【0015】
(4)(1)の構成において、前記パラメータには、前記複合ノイズの平均電力、時間率による振幅確率分布、交差率分布、継続時間分布、発生頻度分布、エンベロープ波形の少なくともいずれかが含まれることを特徴とする。
【0016】
(5)(2)の構成において、前記不規則ノイズ信号源は、ガウス性ノイズ信号の波形データを発生することを特徴とする。
【0017】
(6)(2)の構成において、前記不規則ノイズ信号源は、互いに異なる乱数を発生する複数の一様乱数発生回路を前記パラメータに基づいて駆動し、加算出力することで複合ノイズの波形データを生成することを特徴とする。
【0018】
(7)(2)の構成において、前記エンベロープ生成回路は、複数のカウント値を閾値とするカウンタと、このカウンタのカウント値と前記閾値との比較結果に基づいて予め決められた振幅値を選択する振幅値セレクタとを備えることを特徴とする。
【0019】
(8)(2)の構成において、前記不規則ノイズ信号源がガウス性信号源を利用するとき、前記ガウス性信号源の動作クロックを制御することで交差率分布を求めることを特徴とする。
【0020】
(9)(2)の構成において、前記エンベロープ生成回路で生成するエンベロープを選択的に制御することで、振幅確率分布、継続時間分布、発生頻度分布およびエンベロープを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、ガウス性ノイズ、非ガウス性ノイズのいずれも発生可能で、その特性を容易にかつ安定して制御可能とする複合ノイズ発生器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る複合ノイズ発生器では、電磁雑音の統計的性質を模擬できることが要求される通信機器の外部ノイズによる妨害検査への利用を想定する。具体的には、従来から開発が進められている「開離する接点放電の電磁ノイズを模擬した方式」(非特許文献1参照)に本発明を適用し、ディジタル方式でその特性を可変して、電磁ノイズの模擬を一般化できる複合ノイズ発生器について説明する。
【0024】
上記の電磁ノイズ模擬方式による複合ノイズ発生器は、従来にある、連続的ノイズ、パルス的なノイズ及び統計的な性質のみを擬似するノイズ源に比べて、より現実に近く、都市雑音の性質も併せ持ち、新しいノイズイミュニティ計測を提案するものである。
【0025】
特に、本発明の特徴とする点は、これまでに解析してきた様々な種類のノイズを数値化し、ノイズの種類に応じたパラメータを統合的に制御することで、様々な複合ノイズを模擬できるようにしたところにある。
【0026】
すなわち、従来のノイズ源は、ノイズの統計的性質のみを模擬しているので、波形的な模擬はできていない。ノイズは確定した波形ではないので、不規則な再現性のない波形であるが、ノイズの発生源の性質により波形に特徴がある。その特徴ある波形を模擬することができるノイズ源は、未だ提供されていない。このような事情を踏まえ、本発明に係るノイズ発生器は、波形そのものの特徴を考慮しながら、その統計的特徴を確実に再現する複合型のノイズ発生器を提案する。
【0027】
ここで、プログラマブル可能な複合ノイズ(Composite Noise、以下CN)の発生器(プログラマブル複合ノイズ発生器:Programmable-Composite Noise Generator、以下P−CNG)の基本構成は、ガウス性(正規性)の不規則なノイズ信号とエンベロープ波形信号を乗算する構成である。この構成については前述の非特許文献4に記載されている。
【0028】
これに対し、本発明に係るP−CNGは、従来可変性に十分ではなく、またアナログ回路が混在されていた構成部分を、FPGA(Field Programmable Gate Array,以下FPGA)を使用してディジタル回路のみで実現し、さらに、専用コンピュータを用いずに、FPGAとそれを接続できる汎用コンピュータ(コントローラ)、およびD/A変換器だけで実現する。FPGAは、回路プログラムによって所望の論理機能を持つICを自由に作成することができ、近年の半導体技術の進歩により飛躍的に動作速度が向上してきた、汎用性を高い製品として知られている。
【0029】
本実施形態において、コントローラプログラムにより制御可能なノイズのパラメータは、
1)平均電力、
2)時間率による振幅確率分布(time-base Amplitude Probability Distribution,以下タイムベースAPD)、
3)交差率分布(Crossing Distribution,以下CRD)、
4)継続時間分布(Burst Duration Distribution,以下BDD)、
5)発生頻度分布(Occurrence Frequency Distribution,以下OFD)、
6)ノイズのエンベロープ波形
とする。各パラメータの値はコンピュータに制御プログラムを組み込んで実行することにより制御する。
【0030】
また、不規則ノイズ信号はガウス性信号源を利用し、クロック等でCRDを制御できるもので構成する。タイムベースAPD、BDD、OFDおよびエンベロープは、いずれもエンベロープ波形信号源で任意のエンベロープ波形信号を発生させることによって制御する。
【0031】
複合ノイズ発生器(CNG)の基本原理は、振幅と継続時間が異なる複数個のバースト状のガウス性ノイズを組み合わせることによって所望のタイムベースAPDを持つ複合ノイズを合成する。
【0032】
図1は本発明に係るP−CNGの概略構成を示すブロック図であり、複数のバースト状のガウス性ノイズを組み合わせた複合ノイズのエンベロープモデルを実現する。このP−CNGは、予めガウス性ノイズ信号の波形データを任意のエンベロープ波形で選択的に発生するためのゲートが組み込まれ、外部からのパラメータによって波形データの特性を任意に制御可能とするFPGA11を備える。このFPGA11のコントローラ(Controller)には汎用のパーソナルコンピュータ(Computer)(以下、制御用コンピュータ)12を利用する。FPGA11の出力端にはディジタル/アナログ(D/A)変換器(D/A Converter)13を接続し、このA/D変換器13によってFPGA11で発生された波形データをアナログ信号に変換出力する構成とする。
【0033】
上記FPGA11は、ガウス性信号源(Gaussian signal source)111とエンベロープ生成回路(Envelope generator)112とを備え、それぞれマスタークロック制御回路(Master clock controller)113で制御されるマスタークロックを基準にしてガウス性ノイズ信号、エンベロープ波形信号を生成する。これらの回路ブロック111〜113は制御用コンピュータ12からのパラメータによって制御され、任意のノイズ波形、バースト継続時間、及び発生頻度の分布を選択可能とする。ガウス性信号源111で発生されるガウス性ノイズ信号とエンベロープ生成回路112で発生されるエンベロープ波形信号は乗算器114で乗算されて合成出力される。
【0034】
すなわち、上記FPGA11では、ガウス性信号源111の入力クロック周波数をマスタークロック制御回路113によって制御することで交差率分布(CRD)を形成することができる。また、任意のエンベロープ波形信号を発生させることによって任意の波形、時間率の振幅確率分布(タイムベースAPD)、継続時間分布(BDD)、発生頻度分布(OFD)を持つノイズの合成が可能となる。
【0035】
試作には、Xilinx社のFPGA(Spartan-II XC2S150)を用いた。上記構成による複合ノイズ発生器では、FPGA11を用いたことにより、パーソナルコンピュータなどで作成した回路データの転送によって、設計された論理機能を自由にプログラム可能となっている。使用したFPGAは、15万ゲート規模のロジックを設計することができ、クロック周波数は32MHzまで設定可能である。回路設計には、回路記述用言語VHDL(Very high-speed integrated circuit Hard-ware Description Language)を用いた。
【0036】
上記ガウス性信号源111は、例えば図2に示すように、構成が容易なシフトレジスタ(SR)によるM系列発生回路(M-sequence generator)を複数個(図ではn個)用意し、それぞれ入力クロック周波数に基づいてM系列の乱数を発生させる。そして、各M系列発生回路A11〜A1nを初期化回路(Initializer)A2で任意に初期化しつつ、加算器A3で加算合成することによってガウス性ノイズ信号を得る。
【0037】
例えば、10ビットM系列シフトレジスタを8個用意し、下位2ビットの微小項として無視し、上位8ビットを加算して出力する。このときの出力は11ビットとなり、ノイズ信号は、振幅値0〜211−1(=2047)の範囲でディジタル出力される。
【0038】
この構成によるガウス性信号源111のディジタル出力信号をロジックアナライザで測定した結果を図3に示す。横軸はクロックパルス数であり、時間に対応する。縦軸は11ビット2進数値を10進数化した振幅値を示している。図3に示す波形(1026ポイント)の自己相関を求めると、遅延時間が0のとき1であり、他はほぼ0であるから、擬似ランダム信号が得られていることがわかる。
【0039】
一方、エンベロープ生成回路112は、例えば図4に示すように、クロックを計数し定期的に初期化されるカウンタB1と、このカウンタB1のカウント値に応じて振幅値を決定する振幅セレクタB2とを備える。また、制御用コンピュータ12からの指定パラメータに基づいてカウンタB1を制御するOFD制御部B3及びBDD制御部B4を備える。OFD制御部B3及びBDD制御部B4は、いずれも図2に示すガウス性信号源111と同様な構成の一様乱数源を備え、カウンタB1に入力されるクロック及び初期化信号に基づいて一様乱数を生成し、予め設定される閾値との比較結果に基づいてカウンタB1の閾値を制御する。
【0040】
上記構成によるエンベロープ生成回路112の処理は、図5に示す手順に従う。すなわち、カウンタB1の値CTは、初期化されると零からクロックを数え始め、クロックが入力される毎にカウント値CTを加算する(ステップS1)。ここで、加算後のカウント値CTを発生間隔設定値D0 と比較し(ステップS2−0)、続いて継続時間設定値の第1乃至第n閾値D1 〜Dn と比較する(ステップS2−1〜S2−n)。
【0041】
ステップS2−0でカウント値CTが初期閾値D0 (T0 に対応)を越えない間は、振幅セレクタB2に初期振幅値A0 を設定し(ステップS3−0)、ステップS2−1で初期閾値D0 を越えると第1振幅値A1 に設定する(ステップS3−1)。さらに、カウント値CTが第1閾値D1 を越えると第2振幅値A2 (ステップS3−2)に設定する。以後、同様の比較設定を行い、カウント値CTがエンベロープ波形の1周期分の時間を数え終わる(カウント値CTが第n閾値Dn となる)(ステップS3−n)と第n振幅値An に設定する。このとき、カウント値CTは0にリセットされ(ステップS4)、次の周期に移行する。上記構成のエンベロープ生成回路112では、時間最小分解能は、カウンタB1に入力されるクロック周波数に依存する。
【0042】
上記の手順に対し、OFD制御部B3では、入力クロックに基づいて一様乱数を発生し(ステップS5)、この一様乱数からカウンタB1の発生間隔における初期閾値D0 を決定する(ステップS6)。また、BDD制御部B4では、入力クロックに基づいて一様乱数を発生し(ステップS7)、この一様乱数からカウンタB1の第1乃至第n閾値それぞれの継続時間D1 〜Dn を決定する(ステップS8)。
【0043】
以上の処理によって、例えば図6に示すようなエンベロープ信号波形が得られる。このエンベロープ信号波形は、実効値比をσ0 :σ1 :σ2 =0:1:3と継続時間比をT0 :T1 :T2 =1:3:1に設定し、周期的に発生させた例である。
【0044】
上記ガウス性信号源111で得られたガウス性ノイズ信号とエンベロープ生成回路112によって生成されたエンベロープ波形信号を乗算器114で乗算することで複合ノイズが得られる。
【0045】
図7に複合ノイズのエンベロープ波形の基本形を示す。i番目のエンベロープ区間内におけるガウス性ノイズの実効値をσi 、その継続時間をTi (i=0,1,2,…,n)とすると、複合ノイズのタイムベースAPDは
【数1】

【0046】
と表される。ここで、ノイズの発生間隔Tは
【数2】

【0047】
で表される。σ0 =0のとき、複合ノイズは不連続性ノイズであり、T0 はノイズのない空白時間である。また,Tは周期的なノイズの特性測定時間と同じ意味を持っている。不連続性ノイズ部分の全継続時間Td は
【数3】

【0048】
で表される。一方、CNの平均電力は
【数4】

【0049】
で求められる。
上記エンベロープ生成回路112によってOFD及びBDDを制御するには、図4及び図5に示したように、エンベロープの発生間隔とその長さを制御して実行することが可能である。図4と図5を対応させると、図4に示すカウンタB1は図5の判断ステップS2−1〜S2−nに対応し、発生間隔値D0 を設定することによりOFDを制御することができる。図4に示すOFD制御部B3は、図2に示すガウス性信号源の構成と同様な一様乱数源を用意し、[0〜2k −1]の整数値を持つ一様乱数Uを生成させ、閾値をLth=(2k −1)p+1と設定し、乱数Ui がUi ≧LthであればD0 のカウントを終了し、D1 のカウントに移行する。ここで、kは一様乱数源のビット長であり,pはパルスの生起確率である。pを変えることによりOFDを制御できる。
【0050】
BDDの制御には、不連続性ノイズ部分の全継続時間
【数5】

【0051】
の分布を制御すればよい。すなわち、図4,図5におけるD1 からDn までの設定がBDDの設定に対応し、エンベロープはそのタイムベースAPDに対応する時間関係にあるように、各バースト性ノイズの継続時間Ti (i=1,2,…,n)を設定する。タイムベースAPDと平均電力は、それぞれ継続時間Ti と発生間隔Tを平均値とすることで求められる。尚、BDDを制御するためには、異なる一様乱数源を用意する必要がある。
【0052】
図8に合成したCNの波形例を示す。この例では、ガウス性信号源として、10ビットM系列シフトレジスタを8個用意し、下位2ビットを微小項として省略し、上位8ビットを加算したときの出力波形を示している。エンベロープ信号は、先に例示したように、実効値比をσ0 :σ1 :σ2 =0:1:3と継続時間比をT0 :T1 :T2 =1:3:1に設定し、周期的に発生させている。このCNのタイムベースAPDを測定した結果、図9に示すような結果が得られた。図9に示す複合ノイズのタイムベースAPDは理論値とよく一致しており、所望のタイムベースAPDを持つ複合ノイズが合成できていることがわかる。
【0053】
以上のことから明らかなように、本発明に係る複合ノイズ発生器は、ノイズのパラメータとして、平均電力、時間率の振幅確率分布(タイムベースAPD)、交差率分布(CRD)、継続時間分布(BDD)、発生頻度分布(OFD)、およびエンベロープ信号波形を任意に選択して、プログラムによる自動的な制御が可能である。
【0054】
また、汎用のパーソナルコンピュータも利用可能なため、マン−マシンインターフェースを充実することができる。
【0055】
また、全ディジタル化によってIC化を実現することができ、制御処理の安定化を実現することができる。
【0056】
上記効果の得られる複合ノイズ発生器の実現により、ソフトウェアで制御可能な電磁ノイズを簡単に発生できるようになる。この結果、通信イミュニティ試験を容易に行う試験法の普及を実現することができる。
【0057】
また、狭帯域ディジタル通信ではビット誤り率とノイズのタイムベースAPDに相関があるとの報告もあり、全ての通信機器に非ガウス性ノイズに対する検討が必要になっているが、上記構成による複合ノイズ発生器を利用することで、情報通信方式・機器の分野において、設計・開発の段階から非ガウス性ノイズの影響を考慮することができ、ノイズの統計的性質だけではなく実際に問題となるノイズ波形に対する影響も評価できる装置を提供することができる。
【0058】
勿論、通信機器のみならず、その他の電子機器のノイズイミュニティ試験にも利用可能であり、多くのノイズを用いた実験・研究に応用することができる。
【0059】
上記複合ノイズ発生器の原理を利用して、現在、テレビジョン画像のノイズ感受性検査(イミュニティ)の研究を行っている。このようなノイズ感受性検査法は、現状では少ないが、今後多くの通信イミュニティの検査は、正規性ノイズでなく、本発明で提案する方法がより現実のノイズに近い試験法であるので、更なる利用が期待できる。
【0060】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る複合ノイズ発生器の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すガウス性信号源の具体的な構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示すガウス性信号源で発生されるガウス性ノイズ信号の一例を示す波形図である。
【図4】図1に示すエンベロープ生成回路の具体的な構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すエンベロープ生成回路の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図4に示すエンベロープ生成回路で生成されるエンベロープ信号の一例を示す波形図である。
【図7】図1に示すFPGAにおいて、複合ノイズに対するエンベロープ波形の基本形を示す波形図である。
【図8】図1に示す乗算器で得られる複合ノイズの例を示す波形図である。
【図9】図8に示す複合ノイズのタイムベースAPDを測定した結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0062】
11…FPGA(Field Programmable Gate Array)、
111…ガウス性信号源(Gaussian signal source)、
112…エンベロープ生成回路(Envelope generator)、
113…マスタークロック制御回路、
114…乗算器、
12…制御用コンピュータ、
13…D/A変換器、
A11〜A1n…M系列発生回路、
A2…初期化回路(Initializer)、
A3…加算器、
B1…カウンタ、
B2…振幅値セレクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め不規則ノイズ信号の波形データを任意に組み合わせ、任意のエンベロープ波形で発生するためのゲートが組み込まれ、外部から与えられるパラメータに基づいて前記ノイズ信号の波形データ、エンベロープ波形の特性を選択可能とするゲート回路装置と、
指定されるノイズ特性に基づくパラメータを発生して前記ゲート回路装置に与え、前記指定のノイズ特性を有する複合ノイズの波形データを前記ゲート回路装置に生成させる制御装置と、
前記ゲート回路装置から出力される複合ノイズの波形データをアナログ信号に変換するディジタル・アナログ変換器とを具備することを特徴とする複合ノイズ発生器。
【請求項2】
前記ゲート回路装置は、
前記不規則ノイズ信号の波形データを指定パラメータに基づく特性で発生して複合ノイズの波形データを生成する不規則ノイズ信号源と、
前記指定パラメータに基づく時間間隔で振幅値を切り替えることでエンベロープ信号を生成するエンベロープ生成回路と、
前記不規則ノイズ信号源及びエンベロープ生成回路の基準としているクロックを指定パラメータに基づいて周波数制御するクロック制御回路と、
前記不規則ノイズ信号源から出力される不規則ノイズ信号の波形データと前記エンベロープ生成回路で生成されるエンベロープ信号の波形データとを乗算して複合ノイズ信号の波形データを生成する乗算器とを備えることを特徴とする請求項1記載の複合ノイズ発生器。
【請求項3】
前記ゲート回路装置には、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイを用いることを特徴とする請求項1記載の複合ノイズ発生器。
【請求項4】
前記パラメータには、前記複合ノイズの平均電力、時間率による振幅確率分布、交差率分布、継続時間分布、発生頻度分布、エンベロープ波形の少なくともいずれかが含まれることを特徴とする請求項1記載の複合ノイズ発生器。
【請求項5】
前記不規則ノイズ信号源は、ガウス性ノイズ信号の波形データを発生することを特徴とする請求項2記載の複合ノイズ発生器。
【請求項6】
前記不規則ノイズ信号源は、互いに異なる乱数を発生する複数の一様乱数発生回路を前記パラメータに基づいて駆動し、加算出力することで複合ノイズの波形データを生成することを特徴とする請求項2記載の複合ノイズ発生器。
【請求項7】
前記エンベロープ生成回路は、複数のカウント値を閾値とするカウンタと、このカウンタのカウント値と前記閾値との比較結果に基づいて予め決められた振幅値を選択する振幅値セレクタとを備えることを特徴とする請求項2記載の複合ノイズ発生器。
【請求項8】
前記不規則ノイズ信号源がガウス性信号源を利用するとき、前記ガウス性信号源の動作クロックを制御することで交差率分布を求めることを特徴とする請求項2記載の複合ノイズ発生器。
【請求項9】
前記エンベロープ生成回路で生成するエンベロープを選択的に制御することで、振幅確率分布、継続時間分布、発生頻度分布およびエンベロープを制御することを特徴とする請求項2記載の複合ノイズ発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−80879(P2006−80879A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262489(P2004−262489)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月14日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.104 No.74」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】