説明

複合材料シートの製造方法

【課題】複合材料シートの製造効率の向上及び母材における強化材の分散態様の均質化を図ることができる当該シートの製造方法を提供する。
【解決手段】坩堝において母材としてのAl又はAl合金の溶湯中に強化材としてのSiC粒子を分散させる。その後、当該溶湯を坩堝から金属型に圧入してスラブを作製する。そして、スラブを熱間圧延してシート化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い放熱特性に加えて、張り合わせて使用される材料に対する線膨張係数の整合が求められるヒートスプレッダ又はヒートシンク等に好適な複合材料シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術1によれば、間隔をあけて対向配置されている一対のロールの間に、上方から複合材料の溶湯が供給されることにより、複合材料シートを製造する技術が提案されている(特許文献1参照)。先行技術2によれば、金属型に充填された微粒子又は繊維に対して、当該型と同種の金属の溶湯を加圧状態で含浸させた上で冷却することにより複合材料を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−093708号公報
【特許文献2】特許第3458832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、先行技術1によれば、一対のロールに対して溶湯の熱が伝わるために当該一対のロールのそれぞれの中腹部が膨らみ、この膨らみが複合材料シートに転写されてその中腹部が窪んでしまう。このため、シートが分断されることにより得られたスラブの圧延に先立ち、当該スラブに面出し加工を施す必要があり、製造コストの節約の観点から好ましくない。また、先行技術2によれば、加圧により溶湯が比較的高速で移動するため、強化材と母材とが分離しやすく、複合材料の均質化が困難である。
【0005】
そこで、本発明は、複合材料シートの製造効率の向上及び母材における強化材の分散態様の均質化を図ることができる当該シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の複合材料シートの製造方法は、強化材としてのセラミックス粒子が母材としての金属中に分散している複合材料シートを製造する方法であって、坩堝において前記母材としてのAl又はAl合金の溶湯中に前記強化材としてのSiC粒子を分散させる強化材分散工程と、前記強化材分散工程後に前記溶湯を前記坩堝から金属型に圧入してスラブを作製するスラブ作製工程と、前記スラブ作製工程において作製された前記スラブを熱間圧延してシート化する圧延工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の方法によれば、強化材粒子が分散されている母材の溶湯が金属型に圧入されることによりスラブが作製されるので、当該スラブに凹凸を生じさせることが回避される。このため、スラブがそのまま面出し加工などを要せずに熱間圧延されることで、平坦性が維持されたシートが製造される結果、製造コストの節約が図られる。また、母材としてのAl又はAl合金の溶湯中に強化材としてのSiC粒子を分散させることにより得られた溶湯からシートが製造されるため、母材における強化材の分散態様の均質化が図られる。
【0008】
また、SiC粒子とMg若しくはMg合金とAl合金との組み合わせ、又は、SiC粒子とMgを包含するAl合金との組み合わせを前記坩堝に入れ、前記強化材分散工程の前又は中において少なくとも一時的に当該組み合わせを窒素雰囲気に接触させることが好ましい。
【0009】
これにより、原料中のMgと雰囲気中の窒素とが反応することでSiC粒子の周囲にMg34が生成される結果、SiC粒子に対するAl又はその合金の溶湯の濡れ性を向上させることができる。これにより、SiC粒子間に対する溶湯の浸透を促進させ、溶湯においてSiCを均一に分散させ、さらには母材における強化材の分散態様の均質化が図られる。
【0010】
さらに、前記強化材分散工程において、前記溶湯を減圧雰囲気において攪拌する1次撹拌工程と、前記溶湯を不活性雰囲気において前記1次撹拌工程よりも高速で攪拌する2次撹拌工程とを実行することが好ましい。
【0011】
1次撹拌工程において、溶湯の脱泡が促され、溶湯中の残存気泡由来の溶湯の流動性低下及びスラブ及びシートの強度低下等の品質低下が回避されうる。また、2次撹拌工程において、1次撹拌高低において成長したSiCの2次粒子が適当な大きさに粉砕されることにより、溶湯における分散の均一化、さらには母材における強化材の分散態様の均質化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法により製造された複合材料シートの表面観察図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態としての本発明の複合材料シートの製造方法によれば、まず、坩堝において母材の溶湯中に強化材粒子を分散させる「強化材分散工程」が実行される。
【0014】
具体的には、複合材料シートの原料が真空溶解炉の坩堝に入れられる。原料は、例えば、強化材となる炭化珪素(SiC)粒子と、マグネシウム(Mg)含有原料と、母材となるアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金とにより構成されている。なお、SiC粒子と、Mgを含むアルミニウム合金との組み合わせが坩堝の中に入れられてもよい。
【0015】
ここで、溶湯の固化過程でセラミックス粒子が重力により偏析して均一な組織が得られなくなることを回避するため、SiC粒子の添加量は45[vol.%]以下に調節される。SiC粒子の平均粒子径が10[μm]未満である場合、溶融状態の母材がSiC粒子に浸透しない領域が増加する。また、SiC粒子の平均粒子径が30[μm]を超えている場合、SiC粒子が母材の溶解中に沈降する。したがって、平均粒子径が10〜30[μm]の範囲、特に13〜18[μm]の範囲に含まれるSiC粒子が用いられることが好ましい。
【0016】
Mg含有原料としては、マグネシウム酸化物又はマグネシウム窒化物等のマグネシウム化合物ではなく、Mg又はAlMg合金等、Mgが単体で存在する原料のみが採用される。Mg含有原料の添加量はSiC粒子に対してマグネシウム換算で0.1〜10[vol.%]の範囲に調節される。
【0017】
真空溶解炉の空気が窒素ガスに置換されることにより坩堝中の原料の雰囲気が窒素雰囲気に調節されるとともに、当該雰囲気温度が700〜1000[℃]に制御されることにより母材を溶解させ、SiC粉末の間に母材の溶湯を浸透させる。この過程で原料中のMgが蒸発して、雰囲気中の窒素と反応してSiC粒子の周囲にMg34が生成される。この窒化物がAlと反応し、溶湯のSiC粒子に対する濡れ性を向上させている。
【0018】
その上で、溶湯を減圧雰囲気において攪拌子によって機械的に攪拌する「1次撹拌工程」が実行される。攪拌子の溶湯中への溶解を防ぐために、カーボン製、またはセラミックス性の撹拌子が用いられる。例えば、雰囲気の気圧が600[Pa]以下に制御され、雰囲気温度が620〜780[℃]の範囲に制御され、撹拌子の回転速度が200〜500[rpm]に制御され、かつ、撹拌時間が30分以上に設定される。この過程で、SiCの1次粒子は100〜200[μm]程度の2次粒子に成長する。
【0019】
また、溶湯を不活性雰囲気において1次撹拌工程よりも高速で攪拌する「2次攪拌工程」が実行される。例えば、雰囲気の気圧が大気圧に戻され、雰囲気温度が620〜740[℃]の範囲に制御され、撹拌子の回転速度が1000〜2000[rpm]に制御され、かつ、撹拌時間が60分以上に設定される。この過程で、前記のように1次撹拌工程において100〜200[μm]程度の大きさに成長したSiCの2次粒子が、20〜50[μm]程度の大きさに粉砕される。
【0020】
1次及び2次攪拌工程の実行により溶湯中に小さい気泡が残存する。また、SiC粒子の表面に気泡が残り易い。そこで、強化材を母材溶湯に分散させた後、溶湯に真空脱泡を施すことが好ましい。具体的には、必要に応じて、溶湯からドロスが除去された後、溶湯の雰囲気が減圧された状態で、撹拌子により溶湯が撹拌される。例えば、雰囲気の気圧は600[Pa]以下に維持され、雰囲気温度が700〜780[℃]の範囲に制御され、撹拌子の回転速度が200〜500[rpm]に調節され、かつ、撹拌時間は1時間以上に設定される。これにより、溶湯中の残存気泡由来の溶湯の流動性低下及び複合材料の強度低下などの事態が回避されうる。
【0021】
続いて、溶湯を坩堝から金属型に圧入してスラブを作製する「スラブ作製工程」と、スラブを熱間圧延してシート化する「熱間圧延工程」とが実行される。スラブ作製工程ではスラブ形状を有した金型内に溶湯が圧入されるよう金型予熱温度や溶湯温度、溶湯を圧入する際の圧力を調整すれば良く、ダイカストやスクイズキャスト、低圧鋳造等の製法を適用できる。熱間圧延工程では、複合材料のマトリックスが軟化する温度で圧延すればよく、圧下率やロール周速等の条件は材料に合わせて適宜調整する。
【0022】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としての本発明の複合材料シートの製造方法によれば、坩堝中に、アルミニウム合金が入れられ、窒素雰囲気中で700〜1000[℃]に溶解された上で、その中にMg含有原料の粒子及び強化材としてのSiC粉末が投入される。この際、アルミニウム溶湯の表面に生成する酸化皮膜は、SiC粒子間にアルミニウムを浸透させる障壁となるので、これを防ぐため、溶湯を攪拌しながらセラミックス粒子が当該溶湯中に投入される。
【0023】
セラミックス粒子とMg含有原料粒子との混合粒子は予め窒素雰囲気において溶湯温度に近い温度で予熱されることにより、当該混合粒子間への溶湯の浸透を促進させることができる。Mgが酸化して燃えてしまい、その結果として強化材に対する母材溶湯の濡れ性の悪化を回避するため、窒素雰囲気は混合粒子が溶湯中に完全に沈むまで保持される。
【0024】
これ以降は、第1実施形態の方法と同様の条件下で1次撹拌工程、2次撹拌工程、スラブ作製工程及び熱間圧延工程が実施されることにより複合材料シートが製造される。
【0025】
(実施例)
平均粒径14μmのSiC粒子に対して、平均粒径50μmのMg粉末を1vol.%添加し、SiC粒子の添加量が30vol.%となるようAl−10Si合金の添加量を調整して本発明の方法により、SiCの2次粒子が均一に分散した溶湯が製造された。次に、溶湯温度700℃、金型予熱温度150℃、浸透圧力50MPaの条件でダイカスト装置により90[mm]×150[mm]の大きさのSiC添加量30vol.%のSiC/Al合金複合材料中間シート(スラブ)1〜5が製造された。各スラブについて、鋳造方向について垂直な一方の縁部の(1)上隅角箇所、(2)中間箇所及び(3)下隅角箇所に加えて、鋳造方向について当該一方の縁部に対向する(4)上隅角箇所、(5)中間箇所及び(6)下隅角箇所のそれぞれにおける厚みが測定された。
【0026】
表1には各スラブの各箇所における厚みの測定結果が、平均値、標準偏差(σ)及び最大偏差とともにまとめて示されている。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から、本発明の方法により作製されたスラブの厚みの標準偏差σが0.017〜0.032の範囲に含まれ、厚みの最大偏差が0.042〜0.085[mm]の範囲に含まれていることがわかる。
【0029】
次に、前記スラブを300〜550℃の温度で熱間圧延し、95[mm]×600[mm]の大きさの複合材料シートが製造された。表2には各シートのパススケジュール(温度、パス数、1パスあたりの圧下量)と得られたシートの厚みが示されている。
【0030】
【表2】

【0031】
表2から320〜500℃の範囲で厚み0.74〜0.75[mm]のSiC/Al合金複合材料シートを製造できたことがわかる。
【0032】
図1には、前記の手順にしたがって製造されたSiC/Al合金複合材料シートの表面観察結果が示されている。実線で囲まれている部分など、明度の低い部分がSiC粒子を表わし、明度の高い部分がAl合金を表わしている。図1から、前記のように2次撹拌工程において20〜50[μm]程度の大きさに調節されたSiCの2次粒子が、母材であるアルミニウム合金に均一に分散していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化材としてのセラミックス粒子が母材としての金属中に分散している複合材料シートを製造する方法であって、
坩堝において前記母材としてのAl又はAl合金の溶湯中に前記強化材としてのSiC粒子を分散させる強化材分散工程と、
前記強化材分散工程後に前記溶湯を前記坩堝から金属型に圧入してスラブを作製するスラブ作製工程と、
前記スラブ作製工程において作製された前記スラブを熱間圧延してシート化する圧延工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
SiC粒子とMg若しくはMg合金とAl合金との組み合わせ、又は、SiC粒子とMgを包含するAl合金との組み合わせを前記坩堝に入れ、前記強化材分散工程の前又は中において少なくとも一時的に当該組み合わせを窒素雰囲気に接触させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、
前記強化材分散工程において、前記溶湯を減圧雰囲気において攪拌する1次撹拌工程と、前記溶湯を不活性雰囲気において前記1次撹拌工程よりも高速で攪拌する2次撹拌工程とを実行することを特徴とする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76145(P2013−76145A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217882(P2011−217882)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【出願人】(511237900)株式会社秋葉ダイカスト工業所 (1)
【Fターム(参考)】