説明

複合逆浸透膜及びその製造方法

【課題】高い塩阻止性能と高い透過流束を発現する複合逆浸透膜を提供すること。
【解決手段】多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜が形成されている複合逆浸透膜であって、
(1)2以上のアミノ基を有する多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を該多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成する工程;
(2)下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
{式中、R及びnは明細書に規定した通りである}
で表される有機ケイ素化合物(B)、及び2以上の酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液を該塗布層上に塗布する工程;並びに
(3)該水溶液及び該有機溶液を界面重合して、該多孔性支持膜上に該芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を形成する工程により得られる前記複合逆浸透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜及びこれを支持する多孔性支持膜とから成る複合逆浸透膜に関する。かかる複合逆浸透膜は、超純水の製造、又はかん水若しくは海水の脱塩等に好適であり、また染色排水、電着塗料排水等の公害発生原因である汚物等から、その中に含まれる汚染源又は有効物質を除去・回収する排水処理に用いることができる。また、食品用途の有効成分の濃縮、並びに浄水及び下水用途の有効成分の除去等の高度な処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
複合逆浸透膜は、多孔性支持膜上に選択分離性を有する薄膜を形成して成る分離膜であり、一般的には、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られる芳香族ポリアミドを主成分とするスキン層が支持膜上に形成されたものが知られている(特許文献1〜3)。これら複合逆浸透膜は、高い脱塩性能を有している。しかし、高い脱塩性能を維持したままさらに透過流束を向上させることが、分離効率等の点から望まれている。
【0003】
これまで透過流束を向上させるために各種添加剤が検討されており、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアシル化触媒の存在下において芳香族ポリアミドの界面重合を行うと、生成する芳香族ポリアミドのカルボン酸末端の割合が増加するため透過流束が増加することが知られている(特許文献4)。
【0004】
また、アルコール、エタノール等の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm1/2の化合物を添加して界面重合を行うと、芳香族ポリアミドから成るスキン層の表面形状が変化して透過流束が増加することが知られている(特許文献5及び6)。
【0005】
一方で、透過流束を向上させることを目的として、シリカ粒子を含有する芳香族ポリアミド複合逆浸透膜が開示されている(非特許文献1)。しかし、シリカ粒子は、その分散媒が水に制限されるため、多官能芳香族アミンとともに多孔性支持膜上に塗布しなくてはならない。従って、多官能酸ハロゲン化物を含む溶液と接触させた際にシリカ粒子の効果が発現しにくいという問題がある。
【0006】
また、芳香族ポリアミドを形成する界面重合時に、少なくとも2個のアミノ基を有する芳香族アミンとアミノアルコキシシランとを含有する水溶液を含浸させた多孔性基材に、芳香族ポリカルボン酸ハライドの有機溶液を接触させることにより製造した芳香族ポリアミド複合逆浸透膜が開示されている(特許文献7)。しかし、特許文献7には、多官能芳香族アミンにアミノアルコキシシランを混合して作製した芳香族ポリアミド複合逆浸透膜の耐塩素性向上について示されているが、芳香族ポリアミド複合逆浸透膜の透過流束は十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−147106号公報
【特許文献2】特開昭62−121603号公報
【特許文献3】特開昭63−218208号公報
【特許文献4】特開昭63−12310号公報
【特許文献5】特開平8−224452号公報
【特許文献6】特許3023300号公報
【特許文献7】特開平9−99228号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Journal of Membrane Science」2009年、328号、257頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高い塩阻止率性能及び高い透過流束を有する複合逆浸透膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、下記複合逆浸透膜により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜が形成されている複合逆浸透膜であって、該複合逆浸透膜が、
(1)2以上のアミノ基を有する多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を該多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成する工程;
(2)下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
{式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜15の有機官能基であり、かつ同一であっても異なっていてもよい(ただし、全てのRが水素原子である場合を除く。)。そしてnは、1〜10の整数である。}
で表される有機ケイ素化合物(B)、及び2以上の酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液を該塗布層上に塗布する工程;並びに
(3)該水溶液及び該有機溶液を界面重合して、該多孔性支持膜上に該芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を形成する工程
により得られることを特徴とする、前記複合逆浸透膜。
【0012】
[2]前記多官能酸ハロゲン化物(C)に対する前記有機ケイ素化合物(B)の質量比が、0.01〜50である、[1]に記載の複合逆浸透膜。
【0013】
[3]前記有機溶液が、酸をさらに含む、[1]又は[2]に記載の複合逆浸透膜。
【0014】
[4]前記工程(3)が、40℃〜120℃の温度での乾燥処理により行なわれる、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【0015】
[5]前記有機ケイ素化合物(B)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランから成る群から選択される、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【0016】
[6]前記有機ケイ素化合物(B)において、前記一般式(1)のnが2〜5である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【0017】
[7]多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜が形成されている複合逆浸透膜の製造方法であって、該製造方法が、
(1)2以上のアミノ基を有する多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を該多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成する工程;
(2)下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
{式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜15の有機官能基であり、かつ同一であっても異なっていてもよい(ただし、全てのRが水素原子である場合を除く。)。そしてnは、1〜10の整数である。}
で表される有機ケイ素化合物(B)、及び2以上の酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液を該塗布層上に塗布する工程;並びに
(3)該水溶液及び該有機溶液を界面重合して、該多孔性支持膜上に該芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を形成する工程
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合逆浸透膜は、高い塩阻止性能を有し、かつ、透過流束に優れるものである。多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂が形成されている複合逆浸透膜は、上記方法で作製した場合にこのような顕著な効果を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の複合逆浸透膜は、多官能芳香族アミン(A)を含有する水溶液と前記式(1)で表わされる有機ケイ素化合物(B)及び多官能酸ハロゲン化物(C)を含有する有機溶液とを接触させた界面重合反応により多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド薄膜を形成させることにより得られる。
【0020】
本発明の水溶液は、水及び少なくとも1種の多官能芳香族アミン(A)を含む。
【0021】
多官能芳香族アミン(A)とは、2以上のアミノ基を有する芳香族アミンである。多官能芳香族アミン(A)の例としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、及びジアミノピリジン等が挙げられる。これら多官能芳香族アミン(A)は1種で用いてもよく、2種以上用いてもよい。また、2種以上用いる場合は、多官能脂肪族アミン及び多官能脂環式アミンを併用してもよい。高塩阻止性能の薄膜を得るためには、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、又は1,3,5−トリアミノベンゼンを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の有機溶液は、有機溶媒、少なくとも1種の有機ケイ素化合物(B)及び2以上の酸ハライド基を有する酸ハロゲン化物(C)を含む。
【0023】
有機ケイ素化合物(B)とは、下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
に示すような化合物である。一般式(1)中では、Rはアルキル基、アリール基、アシル基等の炭素数1〜15の有機官能基、又は水素原子である。また、Rは同一であっても異なっていてもよいが、全てが水素原子である化合物は含まれない。nは、1〜10の整数であり、好ましくは、2〜5の整数である。また、上記一般式(1)のnについては、上記一般式(1)で表される化合物は、オルトケイ酸エステルモノマー、及びその部分加水分解縮合物であるオリゴマー又はポリマーも含んでよい。部分加水分解縮合物とは、ケイ酸エステル部の全てではなく、ケイ酸エステル部の一部分が、加水分解又は加水分解及び縮合してなり、加水分解されていないケイ酸エステル部を分子中に有する化合物のことをいう。これら部分加水分解縮合物は、市販品を用いるか、又は公知の方法を用いることにより合成してもよい。例えば、オルトケイ酸エステルモノマーを含む溶液中において、加水分解反応及び縮合反応を一部進行させ、所望の部分加水分解縮合物を得ることができる。
【0024】
Rについては、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基等が挙げられる。また、Rについては、アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、そしてアシル基の例としては、アセチル基等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)の具体的な化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)シラン、テトラアセトキシシラン等のオルトケイ酸エステルが挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易であり、かつ透過流束の高い向上効果を示すことから、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン又はテトライソプロポキシシランが好ましく、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0026】
なお、オルトケイ酸エステルとその部分加水分解縮合物は併用するか、又はいずれかを単独で使用してもよい。
【0027】
また、多官能芳香族アミン(A)水溶液と多官能酸ハロゲン化物(C)及び上記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物(B)を含む有機溶液との間で界面重合を行う際、その他の有機ケイ素化合物(B)としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、及びこれらの部分加水分解縮合物を併用することができる。
【0028】
多官能酸ハロゲン化物(C)とは、2以上の酸ハライド基を有する酸ハロゲン化物をいう。多官能酸ハロゲン化物(C)としては、芳香族、脂肪族、又は脂環式の多官能酸ハロゲン化物(C)が挙げられる。多官能芳香族酸ハロゲン化物(C)の例としては、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。多官能脂肪族酸ハロゲン化物(C)の例としては、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。多官能脂環式酸ハロゲン化物(C)の例としては、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラヒドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これら多官能酸ハロゲン化物(C)は、1種で用いてもよく、又は2種以上用いてもよい。高塩阻止性能の薄膜を得るためには、イソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、トリメシン酸トリクロライドを用いることが好ましい。
【0029】
有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔性支持膜を劣化させず、そして多官能酸ハロゲン化物(C)を溶解するものであれば、特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素を挙げることができる。好ましくは、有機溶媒は、沸点が300℃以下、さらに好ましくは、沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0030】
多官能酸ハロゲン化物(C)及び有機ケイ素化合物(B)を含む有機溶液には、界面重合により芳香族ポリアミド薄膜を形成する際、有機ケイ素化合物(B)の透過流束向上効果を高める目的で酸を加えることが好ましい。酸は、無機酸又は有機酸のいずれでもよい。
【0031】
無機酸の例としては、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等が挙げられる。有機酸化合物の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、シクロヘキサンカルボン酸、オクタン酸、マレイン酸、2−クロロプロピオン酸、シアノ酢酸、トリフルオロ酢酸、パーフルオロオクタン酸、安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、フタル酸等のカルボン酸類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸等のスルホン酸類;リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸等のリン酸・ホスホン酸類;三フッ化ホウ素エーテラート、スカンジウムトリフレート、アルキルチタン酸、アルミン酸等のルイス酸類を挙げることができる。これらの中でも特に酢酸が有機ケイ素化合物(B)の透過流束向上効果を高めることから好ましい。
【0032】
界面重合を行う際に、製膜を容易にするか、又は得られる複合逆浸透膜の性能を向上させるための目的で、本発明の水溶液及び/又は有機溶液には各種の試薬を存在させることが好ましい。これらの試薬として、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、縮重合反応にて生成するハロゲン化水素を除去できる水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、3級アミン塩を形成するトリエチルアミン及びカンファースルホン酸、又は公知のアシル化触媒、アルコール、エーテル等の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm1/2の化合物等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の水溶液及び有機溶液を界面重合するときには、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等のポリマー、又はソルビトール、グリセリン等の多価アルコール等を共重合させてもよい。
【0034】
前記芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を支持する多孔性支持膜としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。これらの中では化学的、機械的、及び熱的に安定である観点からポリスルホン又はポリエーテルスルホンを用いることが好ましい。
【0035】
上記多孔性支持膜は、対称構造でも非対称構造でもよいが、薄膜の支持機能と通液性を両立させる上で、非対称構造が好ましい。なお、多孔性支持膜の薄膜形成側面の平均孔径は、1〜1000nmが好ましい。また、多孔性支持膜は織布、不織布等による裏打ちにて補強されていてもよく、公知の手法を用いて作製することができる。例えば、本発明の多孔性支持膜は、ポリスルホンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液をポリエステル不織布の上に一定の厚さに塗布し、一定時間空気中で表面の溶媒を除去した後、水等の凝固液中で凝固させることによって得られるが、これらの作製方法に限定されるものではない。かかる多孔性支持膜は、通常25〜250μm、好ましくは約40〜200μmの厚みを有するが、必ずしもこれらに限定されるものではない。また、多孔性支持膜は、通常、純水又は保存液中に保存されるため湿潤膜としてポリアミド樹脂を含む薄膜を形成させる際の基材に使用されることが多いが、上記湿潤膜から純水又は保存液を除去・乾燥して得られる乾燥膜を基材として用いてもよい。
【0036】
次に、本発明の複合逆浸透膜の製造方法について説明する。
本発明の複合逆浸透膜は、芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を多孔性支持膜上に形成させるために、多孔性支持膜上に多官能芳香族アミン(A)を含有する水溶液を多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成した後に、有機ケイ素化合物(B)及び多官能酸ハロゲン化物(C)を含有する有機溶液にかかる多孔性支持膜上の塗布層を接触させる界面重合法によって製造することができる。接触させる手段としては、前記水溶液を多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成した後に、前記塗布層上に有機溶液を塗布して接触させる方法等が挙げられる。
【0037】
多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液における多官能芳香族アミン(A)の含有量は、水溶液の全質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。多官能芳香族アミン(A)の含有量が0.1質量%未満の場合には薄膜にピンホール等の欠陥が生じやすくなるか、又は塩若しくは非イオン性物質の阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能芳香族アミン(A)の含有量が10質量%を超える場合には膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0038】
多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を多孔性支持膜に塗布した後に、過剰な水溶液をゴムローラー、ゴムブレードワイパー、スポンジ、エアーナイフ、又は適切な手段を使って除去する。過剰な水溶液を除去するまでの時間は特に制限されないが、1分〜10分であることが好ましく、さらに好ましくは1分〜3分である。
【0039】
次に、かかる多孔性支持膜上の前記水溶液を含む塗布層を、有機ケイ素化合物(B)及び多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液に接触させ、多官能芳香族アミン(A)と有機ケイ素化合物(B)及び多官能ハロゲン化物(C)との間の界面重合により、芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜層が形成される。有機溶液の接触時間は、特に制限されないが、界面重合を十分に進行させるためには2〜600秒であることが好ましく、さらに好ましくは5〜60秒である。
【0040】
多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液中の多官能酸ハロゲン化物(C)の含有量は、有機溶液の全質量を基準として0.01〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。多官能酸ハロゲン化物(C)の含有量が0.01質量%未満の場合には薄膜にピンホール等の欠陥が生じ易くなるか、又は塩若しくは非イオン性物質の阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能酸ハロゲン化物(C)の含有量が10質量%を超える場合には膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0041】
本発明の複合逆浸透膜を製造する方法において、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物(B)及び多官能酸ハロゲン化物(C)を含む混合溶液を用いて界面重合を行う。有機ケイ素化合物(B)は一般式(1)で表されるオルトケイ酸エステル又は/及びその部分加水分解縮合物を用いることができるが、部分加水分解縮合物を用いる場合、一般式(1)においてnは2〜10が好ましく、さらに好ましくは2〜5である。nが10を超える部分加水分解縮合物は有機溶液への溶解性が低下するか、又は形成された芳香族ポリアミド薄膜に欠陥が生じて阻止性能が低下する傾向になる。また、有機溶液中の多官能酸ハロゲン化物(C)と一般式(1)で表される有機ケイ素化合物(B)の使用割合については、多官能酸ハロゲン化物(C)に対する有機ケイ素化合物(B)の質量比が、0.01〜50がさらに好ましい。多官能酸ハロゲン化物(C)に対する有機ケイ素化合物(B)の質量比が、0.01を下回ると、芳香族ポリアミド薄膜形成時に有機ケイ素化合物(B)の効果が発揮されない傾向があり、50を超えると、芳香族ポリアミド薄膜の形成を阻害して透過流束が低下するか、又は芳香族ポリアミド薄膜に欠陥が生じて阻止性能が低下する傾向になる。
【0042】
さらに、前記有機溶液中には酸を加えることができる。前記有機溶液中の酸の含有量は、有機溶液の全質量を基準として0.001〜0.5質量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%である。0.001質量%を下回ると、透過流束を向上させる効果が発揮されない傾向があり、一方で0.5質量%を超えると、芳香族ポリアミド薄膜の形成を阻害して透過流束が低下するか、又は芳香族ポリアミド薄膜に欠陥が生じて阻止性能が低下する傾向になる。
【0043】
有機溶液との接触後、界面重合を促進するために、多孔性支持膜上の過剰な有機溶液を除去し、多孔性支持膜上の形成膜を40〜120℃で加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥する温度が40℃より低い場合は、芳香族ポリアミドの架橋密度が低下して阻止性能が低下し、一方で120℃より高い場合は、膜構造が変化するか、又は芳香族ポリアミド薄膜に欠陥が生じて透過流束が低下する傾向がある。加熱時間は30秒〜20分程度が好ましく、さらに好ましくは1〜10分程度である。加熱乾燥後、必要により未反応のアミン又は酸を除去するために蒸留水で水洗してもよい。
【0044】
芳香族ポリアミド薄膜の厚みは、0.01〜2μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。当該厚みは、2μm以内である場合には透過流束の面で優れるが、0.01μm未満である場合には薄膜の機械的強度が低下して欠陥が生じ易く、塩又は非イオン性物質の阻止性能に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0045】
本発明の複合逆浸透膜は、高い塩阻止性能を有し、かつ、高い透過流束を有するものである。また、薄膜上にさらに他の層を設ける必要がないため、本発明の複合逆浸透膜は生産性にも優れるものである。
【0046】
また、本発明の複合逆浸透膜は、かん水、海水等の脱塩による淡水化、又は半導体の製造に必要とされる超純水の製造等に好適に用いることができる。特に、染色排水、電着塗料排水等の公害発生原因である汚れ等から、その中に含まれる汚染源又は有効物質を除去・回収する排水処理に用いることができる。さらに、食品用途における有効成分の濃縮、又は浄水若しくは下水用途における有害成分の除去等の高度な処理に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、食塩の阻止率は下記式により算出される値である。
<食塩の阻止率>
阻止率(%)=(1−(膜透過液中の食塩濃度/原水中の食塩濃度))×100
【0048】
膜透過液中の食塩濃度及び原水中の食塩濃度は、各液の電気伝導度を測定することにより求めた。各液の電気伝導度は電気伝導率セルを純水で洗浄後、各液で十分共洗いした後測定した。
【0049】
(実施例1)
m−フェニレンジアミン2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%、及び水97.85質量%を混合して水溶液を溶液Aとして調製した。該溶液Aを多孔性ポリスルホン支持膜(限外ろ過膜、厚さ:約190μm)上に塗布した後、余分な溶液Aを除去した。次に、トリメシン酸クロライド0.2質量%及びテトラエトキシシラン10質量%を含むn−ヘキサン溶液を溶液Bとして前記膜上に塗布した。その後、余分な溶液Bを除去して40℃の乾燥器内で10分間保持した後、蒸留水で水洗して複合逆浸透膜を得た。
作製した複合逆浸透膜を用いて、1000mg/lの食塩水を原水として、25℃、操作圧力1.50MPaの条件下で透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2〜7)
実施例1において、溶液Bを除去した後の乾燥温度を種々変えた以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製して、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0051】
(実施例8〜11)
実施例1において、溶液Bをトリメシン酸クロライド0.2質量%、テトラエトキシシラン10質量%、及び酢酸を含む溶液に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、酢酸の添加濃度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0052】
(実施例12〜14)
実施例1において、溶液Bをトリメシン酸クロライド0.2質量%、テトラエトキシシラン10質量%、及び酢酸0.03質量%を含む溶液に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、溶液Bを除去した後の乾燥温度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0053】
(実施例15〜21)
実施例1において、溶液Bに用いる有機ケイ素化合物(B)をテトラエトキシシランからテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物を主成分とするシリケート45(多摩化学工業(株)製、Sin−1(OC2(n+1):平均鎖式n=3、含有量95%以上、Si(OC:分子量208.33、含有量4%以下)に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、シリケート45の添加濃度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0054】
(実施例22〜23)
実施例1において、溶液Bに用いる有機ケイ素化合物(B)をテトラエトキシシランからテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物を主成分とするシリケート40(多摩化学工業(株)製、Sin−1(OC2(n+1):平均鎖式n=3、含有量60〜70%以上、Si(OC:分子量208.33、含有量25〜35%未満、エタノール:分子量46.07、含有量10%以下)に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、シリケート40の添加濃度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0055】
(実施例24〜26)
実施例1において、溶液Bに用いる有機ケイ素化合物(B)をテトラエトキシシランからテトラメトキシシランの部分加水分解縮合物を主成分とするMシリケート51(多摩化学工業(株)製、Sin−1(OCH2(n+1):平均鎖式n=3〜5、含有量95.7%、Si(OCH:分子量152.25、含有量4%以下)に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、Mシリケート51の添加濃度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、溶液Bに有機ケイ素化合物(B)を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製して、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2〜4)
実施例1において、溶液Aをm−フェニレンジアミン2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%、及びコロイダルシリカ(アルドリッチ(Aldrich)社製、LUDOX HS-30)を含む溶液に変更した以外は、実施例1と同様に複合逆浸透膜を作製した。その際、コロイダルシリカの添加濃度を種々変更して複合逆浸透膜を作製し、透過試験を行った。透過試験の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、多官能芳香族アミン(A)と一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物(B)及び多官能酸ハロゲン化物(C)とを反応させて得られる本発明の芳香族ポリアミド複合逆浸透膜は、従来の多官能芳香族アミン(A)と多官能酸ハロゲン化物(C)から成る芳香族ポリアミド複合逆浸透膜、又はシリカ粒子を含有する多官能芳香族アミン(A)と多官能酸ハロゲン化物(C)とを反応させて得られる芳香族ポリアミド複合逆浸透膜に比べて高い透過流束を示すのに優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の製造方法で得られる複合逆浸透膜は、高い塩阻止性能と高い透過流束を有するため、各種脱塩用途又は排水等の回収用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜が形成されている複合逆浸透膜であって、該複合逆浸透膜が、
(1)2以上のアミノ基を有する多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を該多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成する工程;
(2)下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
{式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜15の有機官能基であり、かつ同一であっても異なっていてもよい(ただし、全てのRが水素原子である場合を除く。)。そしてnは、1〜10の整数である。}
で表される有機ケイ素化合物(B)、及び2以上の酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液を該塗布層上に塗布する工程;並びに
(3)該水溶液及び該有機溶液を界面重合して、該多孔性支持膜上に該芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を形成する工程
により得られることを特徴とする、前記複合逆浸透膜。
【請求項2】
前記多官能酸ハロゲン化物(C)に対する前記有機ケイ素化合物(B)の質量比が、0.01〜50である、請求項1に記載の複合逆浸透膜。
【請求項3】
前記有機溶液が、酸をさらに含む、請求項1又は2に記載の複合逆浸透膜。
【請求項4】
前記工程(3)が、40℃〜120℃の温度での乾燥処理により行なわれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物(B)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランから成る群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物(B)において、前記一般式(1)のnが2〜5である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合逆浸透膜。
【請求項7】
多孔性支持膜上に芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜が形成されている複合逆浸透膜の製造方法であって、該製造方法が、
(1)2以上のアミノ基を有する多官能芳香族アミン(A)を含む水溶液を該多孔性支持膜上に塗布して塗布層を形成する工程;
(2)下記一般式(1):
Sin−1(OR)2(n+1) (1)
{式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜15の有機官能基であり、かつ同一であっても異なっていてもよい(ただし、全てのRが水素原子である場合を除く。)。そしてnは、1〜10の整数である。}
で表される有機ケイ素化合物(B)、及び2以上の酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化物(C)を含む有機溶液を該塗布層上に塗布する工程;並びに
(3)該水溶液及び該有機溶液を界面重合して、該多孔性支持膜上に該芳香族ポリアミド樹脂を含む薄膜を形成する工程
を含むことを特徴とする、前記製造方法。

【公開番号】特開2012−66181(P2012−66181A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212177(P2010−212177)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】