説明

複合Vベルト

【課題】複合Vベルトの高効率での動力伝達を可能にする。
【解決手段】複合VベルトBは、各々、ベルト幅方向の両側部のそれぞれに側方に開口したスリット状の嵌合部11が形成された複数のブロック10と、各々、複数のブロック10の嵌合部11に複数のブロック10を連結するように嵌め入れられた一対のエンドレスの張力帯20とを備える。複数のブロック10のそれぞれは、各嵌合部11の上側面に嵌合凸部12aが形成されている。一対の張力帯20のそれぞれは、上面側にブロック10における嵌合部11の上側面の嵌合凸部12aに嵌合する嵌合凹部21が形成されていると共に下面側が摩擦係数0.7以上の平坦面に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合Vベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用機械や自動車等における変速装置として、変速時の操作性の向上や燃料消費率の改善等を図ることができるベルト式無段変速装置が知られている(例えば、特許文献1及び2)。かかるベルト式無段変速装置に用いられる複合Vベルトは、エンドレスの張力帯に、多数のブロックがベルト長さ方向に間隔をおいて係止固定された構成を有し、これによりプーリに巻き付いたときに両側面がプーリからの高い側圧に耐え得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−120794号公報
【特許文献2】国際公開2010/023824パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、複合Vベルトの高効率での動力伝達を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、各々、ベルト幅方向の両側部のそれぞれに側方に開口したスリット状の嵌合部が形成された複数のブロックと、
各々、上記複数のブロックの嵌合部に該複数のブロックを連結するように嵌め入れられた一対のエンドレスの張力帯と、
を備え、
上記複数のブロックのそれぞれは、各嵌合部の上側面に嵌合凸部が形成されており、
上記一対の張力帯のそれぞれは、上面側に上記ブロックにおける嵌合部の上側面の嵌合凸部に嵌合する嵌合凹部が形成されていると共に下面側が摩擦係数0.7以上の平坦面に構成された複合Vベルトである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、張力帯の上面側においてブロックに嵌合する構造を有する一方、下面側が摩擦係数0.7以上の平坦面に構成されているので、高効率での動力伝達が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】高負荷伝動用Vベルトの斜視図である。
【図2】図1におけるII-II断面図である。
【図3】ブロックの側面図である。
【図4】張力帯の側面図である。
【図5】張力帯の摩擦係数の測定方法を示す説明図である。
【図6】(a)及び(b)はベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図7】(a)及び(b)は張力帯の下面側の嵌合構造の有無による作用の相異を示す説明図である。
【図8】(a)〜(d)は、試験評価1で実施したベルト走行試験のプーリレイアウト図である。
【図9】(a)〜(c)は、試験評価2で試験評価した試験評価ベルト1〜3の側面図である。
【図10】試験評価2における試験方法を示す説明図である。
【図11】恒温槽内の温度とベルト曲げ剛性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1及び2は本実施形態に係る複合VベルトBを示す。この複合VベルトBは、例えば、排気量が250cc以下の自動二輪の無段変速装置に変速ベルトとして好適に用いられるものである。
【0010】
本実施形態に係る複合VベルトBは、複数のブロック10が両側部のそれぞれで一対のエンドレスの張力帯20によって連結された構成を有する。複合VベルトBは、例えば、ベルト長さが450〜750mm、ベルトピッチ幅が20〜30mmである。複合VベルトBは、例えば、ブロック10の数が90〜375個、ブロックピッチが2〜5mmである。
【0011】
図3はブロック10を示す。
【0012】
各ブロック10は、平面視で上底が下底よりも長い台形状の板状体のベルト幅方向の両側部のそれぞれに側方に開口したスリット状の嵌合部11が形成された「H」の文字を横にしたような形状に構成されている。各ブロック10は、側面視で嵌合部11より上側部分が均一厚さに形成されている一方、嵌合部11より下側部分が下方に向かうに従って厚さが薄くなるように形成されている。各ブロック10は、例えば、高さが10〜16.5mm、幅が20〜30mm、及び厚さが2〜5mmである。両側部のなす角度、すなわち、ベルト角度は例えば15〜26°である。
【0013】
各ブロック10の各嵌合部11は、中央側の奥部から側部の開口に向かって均一な間隔で水平に延びるように形成されている。各嵌合部11は、上側面に、厚さ方向の両側が平坦面で挟まれるように、ベルト幅方向に延びる断面略矩形状の突条からなる上側嵌合凸部12aが形成されていると共に、下側面に、厚さ方向の全体に、ベルト幅方向に延びる断面外郭円弧状の突条からなる下側支持凸部12bが形成されている。なお、下側支持凸部12bの曲面の最大曲率は使用される最小プーリのプーリ径以下であることが好ましい。各嵌合部11は、奥部が上面から連続して奥側に傾斜した面とその面に連続して外側に傾斜して下面に続く面とによって構成されている。各嵌合部11は、例えば、ベルト厚さ方向の隙間tが0.7〜3.0mm、及びベルト幅方向の奥行きが2〜5mmである。上側嵌合凸部12aは、例えば、高さが0.5〜1.0mm及び幅が1.0〜2.0mmである。上側嵌合凸部12a両側の平坦面の幅は例えば5.0〜15.0mmである。下側支持凸部12bは、曲率半径が例えば1.0〜1.5mmである。なお、上側嵌合凸部12a及び下側支持凸部12bの形状や寸法構成はこれらのものに限定されるものではない。
【0014】
各ブロック10は、骨格をなすように中央に配された金属補強材13が硬質樹脂被覆材で被覆された構成を有する。なお、金属補強材13全体が硬質樹脂被覆材で被覆されている必要はなく、少なくとも張力帯20及びプーリとの接触部分が被覆されていればよく、その他の部分では金属補強材13が露出していてもよい。
【0015】
金属補強材13は、ブロック10と同様に「H」の文字を横にしたような形状に形成され、ベルト幅方向に延びる上側及び下側ビーム13a,13bの中央部間がセンターピラー13cで上下に連結された構成を有する。金属補強材13は、例えば高強度及び高弾性率の軽量アルミニウム合金等で形成されている。金属補強材13は、例えば、上側ビーム13aの高さが5.0〜9.5mm、及び下側ビーム13bの高さが5.0〜9.5mmである。
【0016】
硬質樹脂被覆材は、例えば硬質の熱硬化性フェノール樹脂材料から形成されており、アラミド短繊維やミルドカーボンファイバ等が混合されていてもよい。硬質樹脂被覆材は、層厚さが例えば0.8〜1.5mmである。
【0017】
図4は張力帯20を示す。
【0018】
各張力帯20は、エンドレスの平帯状に形成されている。各張力帯20は、一方の側部がブロック10の奥部の形状に対応するように上側及び下側のそれぞれで面取り加工されており、他方の側部がブロック10の側部の傾斜に対応した傾斜面に形成されている。各張力帯20は、上面側にベルト幅方向に延びるブロック10の上側嵌合凸部12aに対応した形状の嵌合凹部21がベルト長さ方向に一定ピッチで形成されていると共に、下面側が摩擦係数μ’0.7以上の平坦面に構成されている。各張力帯20は、例えば、長さが450〜750mm、幅が20〜30mm、及び厚さが2〜5mmである。特に嵌合凹部21の底部における厚さの最も薄い部分(嵌め入れ部分)tが例えば0.7〜3.0mmである。tの全体厚さに対する割合は例えば16%である。嵌合凹部21は、ブロック10の上側嵌合凸部12aよりも大きく、例えば、深さが0.5〜1.0mm及び幅が1.0〜2.0mmである。張力帯20の下面側の摩擦係数μ’は、0.7以上であるが、0.7〜1.5であることが好ましい。張力帯20の下面側の摩擦係数μ’は、張力帯20の下面側を構成するゴム、繊維(補強短繊維含む)、樹脂等の材料の弾性率やその配合(例えば補強短繊維の配合量等)により調整することができる。また、摩擦係数μ’は、図5に示すように、張力帯20を短冊状に切断して作成したテストピースBを、下面側が接触するようにプーリPに巻き掛け角θで巻き掛け、プーリPから水平に延びる一方の部分の端を壁に固定したロードセルLに接続すると共に、プーリPから鉛直に垂下する他方の部分の端に重錘Wを取り付け、プーリPを回転させたときの一方の部分の張力Tt(ロードセルLの荷重)及び他方の部分の張力Ts(重錘Wの重量)から、Eulerの式exp(μ’θ)=Tt/Tsに基づいて、μ’=ln(Tt/Ts)/θとして求めることができる。
【0019】
各張力帯20は、本体を構成する保形ゴム層22のベルト厚さ方向の略中央に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線23が埋設されていると共に、上面側に上側補強布24及び下面側に下側補強布25がそれぞれ貼設された構成を有する。従って、張力帯20の下面側の平坦面は下側補強布25で構成されている。なお、張力帯20は、上側補強布24及び/又は下側補強布25が設けられていない構成であってもよく、下側補強布25が設けられていない構成の場合、張力帯20の下面側の平坦面は保形ゴム層22で構成される。
【0020】
保形ゴム層22は、H−NBRやEPDM等を原料ゴムとするゴム組成物で形成されている。保形ゴム層22を構成するゴム組成物は、原料ゴムがジメタクリル酸亜鉛やジアクリル酸亜鉛等の不飽和カルボン酸金属塩が添加されて強化されていることが好ましく、また、補強材であるカーボンブラック或いはシリカの他、アラミド短繊維やナイロン短繊維等の有機短繊維が配合されて補強されていることが好ましく、さらに、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物で架橋されていることが好ましい。保形ゴム層22を構成するゴム組成物は、JIS−C硬度計で測定したときに70°以上のゴム硬度を有するものであることが好ましく、70〜80°のゴム硬度を有するものであることがより好ましい。
【0021】
心線23は、アラミド繊維、PBO繊維、カーボン繊維等の高強度繊維の撚り糸或いは組紐にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されたもので構成されている。心線23は、例えば、2640〜4400dtexのフィラメント束で構成され、外径が0.55〜0.70mmである。
【0022】
上側及び下側補強布24,25のそれぞれは、アラミド繊維やナイロン繊維等の織布、編物、或いは不織布にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬或いはゴム糊をコートした後に乾燥させる処理が施されたもので構成されている。上側及び下側補強布24,25のそれぞれは、厚さが例えば0.6〜1.2mmである。
【0023】
なお、これらの寸法及び構成は、これらのものに限定するものではない。
【0024】
本実施形態の複合VベルトBは、複数のブロック10の嵌合部11にそれらを連結するように張力帯20が嵌め入れられている。具体的には、各ブロック10の各嵌合部11には、面取り加工された一方の側部の方から張力帯20が挿入され、嵌合部11の上側面の上側嵌合凸部12aが張力帯20の上面側の嵌合凹部21に嵌合すると共に、下側面の下側支持凸部12bの頂部が張力帯20の下面側の平坦面に当接し、且つ嵌合部11の奥部に張力帯20の一方の側部が当接するように、嵌合部11に張力帯20が嵌め入れられている。そして、それによって複数のブロック10が一対の張力帯20にベルト長さ方向に間隔をおいて係止固定された構造が構成されると共に、複数のブロック10の両側部及び外側に露出した張力帯20の他方の側部がプーリに接触する動力伝達部に構成されている。
【0025】
本実施形態の複合VベルトBでは、ブロック10の嵌合部11の隙間の隙間tが張力帯20の嵌合凹部21における厚さtよりも若干小さい。従って、張力帯20は圧縮状態でブロック10の嵌合部11に嵌め入れられている。ここで、その締め代t−tは例えば0.03〜0.15mmであり、ブロック10の嵌合部11の隙間の隙間tに対する締め代t−tの割合である締め代率をα={(t−t)/t1}×100で表すとすると、α=1〜5%であることが好ましく、2〜3%であることがより好ましい。
【0026】
また、本実施形態の複合VベルトBでは、張力帯20はブロック10の側部からはみ出して突出した状態に設けられており、これによって複合VベルトBがプーリに突入する際の衝撃を突出した張力帯20により緩和することができる。ここで、その出代Δdは例えば0.03〜0.15mmであり、一方、ベルトピッチラインにおける張力帯20の挿入ピッチ幅wは例えば7.5〜12.0mmであり、ベルトピッチラインにおけるブロック10の張力帯噛合位置での張力帯20の挿入ピッチ幅(又はブロック10の張力帯噛合位置でのブロックピッチ幅の半分)wに対する出代Δdの割合である出代率をβ=(Δd/w)×100で表すとすると、β=0.3〜1.5%であることが好ましく、0.4〜7%であることがより好ましい。なお、この出代Δdは、複合VベルトBの側面をコントレーサ(輪郭形状測定器)で走査すれば容易に測定することができる。
【0027】
これらの締め代率αと出代率βとの積α×βは0.6〜5.0であることが好ましく、0.8〜2.1であることがより好ましい。
【0028】
図6(a)及び(b)は上記複合VベルトBを用いたベルト伝動装置30を示す。
【0029】
このベルト伝動装置30は、駆動軸31とそれに平行に配置された従動軸33とを備え、駆動軸31上には駆動プーリ32が、また、従動軸33上には駆動プーリ32と略同径の従動プーリ34が、それぞれ設けられている。駆動プーリ32は、駆動軸31上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブと、その固定シーブに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブと、を備えている。同様に、従動プーリ34は、従動軸33上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブと、その固定シーブに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブとを備えている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、固定シーブと可動シーブとの間にV溝が構成され、これらの駆動プーリ32及び従動プーリ34のV溝間に複合VベルトBが掛け渡されている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、プーリピッチ径(ベルトピッチラインに対応する位置でのプーリ径)が55〜155mmの範囲で可変に構成されている。
【0030】
そして、このベルト伝動装置30では、ベルト伝動に要する動力が駆動軸31側で供給されて従動軸33側で消費され、また、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径及び従動プーリ34の巻き掛け径が変化することにより複合VベルトBの走行速度が変化するように構成されている。具体的には、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブに接近させ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブから遠ざけると、図6(a)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも大きくなり、その結果、複合VベルトBは高速で走行することとなる。逆に、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブから遠ざけ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブに接近させると、図6(b)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも小さくなり、その結果、複合VベルトBは低速で走行することとなる。つまり、このベルト伝動装置30では、以上のような構成により無段変速機構を構成している。
【0031】
以上の本実施形態の複合VベルトBでは、張力帯20の上面側においてブロック10に嵌合する構造を有する一方、下面側が摩擦係数μ’0.7以上の平坦面に構成されているので、張力帯20の下面側における嵌合構造を有さず、ブロック10が張力帯20に対して適度な拘束を受けつつ自由度が高められ、図7(a)に示すように、プーリに巻き掛かって曲げ変形が加わった際でも、ベルト曲げ剛性が高まるのを回避して発熱を抑制することができる。これに対し、張力帯20の下面側に嵌合構造を有すると、図7(b)に示すように、プーリに巻き掛かって曲げ変形が加わった際には、張力帯20の下面側の嵌合凹部21’が閉じられ、ブロック10への嵌合力は高まり、それに伴って圧縮歪みが生じて発熱が大きくなってしまう。また、張力帯20の上面側及び下面側の両方に嵌合構造を有すると、ベルト温度が上昇した際に、張力帯20の膨張がブロック10の膨張よりも著しいため、ブロック10による張力帯20の締め付け力が高まってベルト曲げ剛性の上昇を招くこととなるが、本実施形態の複合VベルトBの場合、かかるベルト曲げ剛性の上昇を抑制することができる。そして、その結果、本実施形態の複合VベルトBによれば、高効率での動力伝達が可能となる。なお、自動車等におけるベルト式無段変速装置等における極めて高い負荷の動力伝達の場合、張力帯20の下面側のブロック10との嵌合構造が重要となるが、排気量が250cc以下の自動二輪の無段変速装置程度の負荷であれば、本実施形態の複合VベルトBのように張力帯20の上面側にブロック10との嵌合構造を有し且つ下面側に嵌合構造を有さない構造とすることにより、著しく高効率での動力伝達が可能となる。本実施形態の複合VベルトBでは、かかる高効率での動力伝達を可能にする観点から、ブロック10の重心がベルトピッチライン上、つまり、ベルト厚さ方向の心線23の中心位置にあることが好ましい。
【0032】
次に、複合VベルトBの製造方法について説明する。
【0033】
−シート状未架橋ゴム組成物準備工程−
バンバリーミキサー等のゴム練り加工機に原料ゴム素練りした後、これにゴム配合剤を投入して混練りする。そして、練り上がった未架橋ゴム組成物をカレンダロールによりシート状に加工する。
【0034】
−心線準備工程−
撚り糸又は組紐に、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理を施したものを心線23とする。なお、これらの処理の前に撚り糸等にエポキシ溶液やイソシアネート溶液に浸漬した後に乾燥させる処理を施してもよい。
【0035】
−上側及び下側補強布準備工程−
織布、編物、或いは不織布に、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬或いはゴム糊をコートした後に乾燥させる処理を施したものを上側及び下側補強布24,25とする。なお、これらの処理の前に織布等に、エポキシ溶液やイソシアネート溶液に浸漬した後に乾燥させる処理を施してもよい。
【0036】
−張力帯成形工程−
外周面に凹凸を有さない円筒金型を筒状に形成した下側補強布25で被覆し、その上にシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設ける。
【0037】
次いで、加熱加圧装置の中に円筒金型を入れ、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行するように、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行して保形ゴム層22の下側半分の形状が成形される。
【0038】
続いて、加熱加圧装置の中から円筒金型を取り出し、半架橋したゴム組成物の上から心線23を等ピッチで螺旋状に巻き付け、その上に再びシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設け、その上から筒状に形成した上側補強布24を被せる。
【0039】
次いで、内周面に張力帯20の嵌合凹部21の形状の金型軸方向に延びる突条が周方向に等ピッチで設けられた筒状のスリーブを最外層に被せる。
【0040】
そして、加熱加圧装置の中に材料をセットした円筒金型を入れ、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、半架橋及び未架橋ゴム組成物の架橋が進行して保形ゴム層22が構成される。また、心線23表面の接着剤と保形ゴム層22とが相互拡散することにより、心線23が保形ゴム層22に一体に接着すると共に、上側及び下側補強布24,25に付着した接着剤と保形ゴム層22とが相互拡散することにより、上側及び下側補強布24,25が保形ゴム層22に一体に接着する。以上のようにして、円筒金型表面に円筒状のスラブが成形される。
【0041】
最後に、加熱加圧装置から円筒金型を取り出し、その周面上に形成された円筒状のスラブを脱型し、これを所定幅の帯状に輪切りし、それを面取り加工等を行うことにより張力帯20を成形する。
【0042】
−ブロック成形工程−
ブロック成形型に形成されたキャビティ内に金属補強材13をセットして型締めした後、そこに硬質樹脂被覆材を射出して冷却後に型開きし、金属補強材13が硬質樹脂被覆材内にインサートされたブ成形品であるブロック10を取り出す。そして、成形したブロック10に、強度を高めるために必要な各種の加工を施す。
【0043】
−組立工程−
一方の張力帯20の嵌合凹部21にブロック10の上側嵌合凸部12aを対応させ、嵌合凹部21に上側嵌合凸部12aが嵌め入れられ、また、張力帯20の下面側の平坦面がブロック10の下側支持凸部12bの頂部に当接するように、ブロック10の一方の嵌合部11に張力帯20を挿入し、ブロック10を張力帯20に係止させる。この操作を張力帯20の全周について行う。同様に、他方の張力帯20をブロック10の他方の嵌合部11に挿入し、それによって複合VベルトBを得る。
【実施例】
【0044】
[試験評価1]
(複合Vベルト)
以下の試験評価用の複合Vベルトを作製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0045】
<実施例1>
上記実施形態と同様の構成の複合Vベルトであって、ベルト長さが612mm、ベルト角度が26°、ベルトピッチ幅が25mm、ブロックピッチが3mm、ブロック厚さが2.95mm、ブロック高さが12.5mm、金属補強材の上側ビーム高さが3mm、張力帯の保形ゴム層を構成するゴム組成物のJIS−C硬度計で測定したゴム硬度が81°、張力帯の下面側の摩擦係数μ’が0.9、締め代(t−t)が0.05mm及び締め代率αが1.67%、出代Δdが0.05mm及び出代率βが0.50%、並びにα×βが0.83であるものを実施例1とした。
【0046】
<実施例2>
締め代(t−t)が0.03mm及び締め代率αが1.00%、出代Δdが0.06mm及び出代率βが0.60%、並びにα×βが0.60であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例2とした。
【0047】
<実施例3>
締め代(t−t)が0.06mm及び締め代率αが2.00%、出代Δdが0.03mm及び出代率βが0.30%、並びにα×βが0.60であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例3とした。
【0048】
<実施例4>
締め代(t−t)が0.09mm及び締め代率αが3.00%、出代Δdが0.09mm及び出代率βが0.90%、並びにα×βが2.70であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例4とした。
【0049】
<実施例5>
締め代(t−t)が0.12mm及び締め代率αが4.00%、出代Δdが0.12mm及び出代率βが1.20%、並びにα×βが4.80であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例5とした。
【0050】
<実施例6>
締め代(t−t)が0.10mm及び締め代率αが3.33%、出代Δdが0.15mm及び出代率βが1.50%、並びにα×βが5.00であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例6とした。
【0051】
<実施例7>
締め代(t−t)が0.15mm及び締め代率αが5.00%、出代Δdが0.10mm及び出代率βが1.00%、並びにα×βが5.00であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例7とした。
【0052】
<実施例8>
締め代(t−t)が0.03mm及び締め代率αが1.00%、出代Δdが0.14mm及び出代率βが1.40%、並びにα×βが1.40であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例8とした。
【0053】
<実施例9>
締め代(t−t)が0.14mm及び締め代率αが4.67%、出代Δdが0.03mm及び出代率βが0.30%、並びにα×βが1.40であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例9とした。
【0054】
<実施例10>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が0.7であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例10とした。
【0055】
<実施例11>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が1.2であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを実施例11とした。
【0056】
<比較例1>
締め代(t−t)が0.04mm及び締め代率αが1.33%、出代Δdが0.04mm及び出代率βが0.40%、並びにα×βが0.53であり、張力帯の下面側に、ブロックの嵌合部の下面側の下側支持凸部に嵌合する嵌合凹部が形成された、従って、張力帯の上面側及び下面側のいずれにも嵌合構造を有することを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを比較例1とした。
【0057】
<比較例2>
締め代(t−t)が0.13mm及び締め代率αが4.33%、出代Δdが0.14mm及び出代率βが1.40%、並びにα×βが6.07であることを除いて比較例1と同一構成の複合Vベルトを比較例2とした。
【0058】
<比較例3>
締め代(t−t)が0.03mm及び締め代率αが1.00%、出代Δdが0.17mm及び出代率βが1.70%、並びにα×βが1.70であることを除いて比較例1と同一構成の複合Vベルトを比較例3とした。
【0059】
<比較例4>
締め代(t−t)が0.17mm及び締め代率αが5.67%、出代Δdが0.03mm及び出代率βが0.30%、並びにα×βが1.70であることを除いて比較例1と同一構成の複合Vベルトを比較例4とした。
【0060】
<比較例5>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が1.2、締め代(t−t)が0.05mm及び締め代率αが1.67%、出代Δdが0.05mm及び出代率βが0.50%、並びにα×βが0.83であることを除いて比較例1と同一構成の複合Vベルトを比較例5とした。
【0061】
<比較例5>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が1.2、締め代(t−t)が0.05mm及び締め代率αが1.67%、出代Δdが0.05mm及び出代率βが0.50%、並びにα×βが0.83であることを除いて比較例1と同一構成の複合Vベルトを比較例5とした。
【0062】
<比較例6>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が1.2であり、ブロックの嵌合部の上側面及び下側面のいずれもが平坦面で、且つ張力帯の上面側及び下面側のいずれもが平坦面に形成された、従って、張力帯の上面側及び下面側のいずれにも嵌合構造を有さないことを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを比較例6とした。
【0063】
<比較例7>
張力帯の下面側の摩擦係数μ’が0.6であることを除いて実施例1と同一構成の複合Vベルトを比較例7とした。
【0064】
【表1】

【0065】
(試験評価方法)
以下のベルト走行試験を行った。
【0066】
<伝動特性試験>
実施例1〜11及び比較例1〜7のそれぞれの複合VベルトBについて、図8(a)に示すように、プーリピッチ径が65.2mmの駆動プーリ71及びプーリピッチ径が130.4mmの従動プーリ72に巻き掛けると共に、従動プーリ72に3000Nのデッドウエイトを負荷し、恒温槽73内を室温として、駆動プーリ71を2600rpmの回転数で回転させ、スリップ率2%として、そのときの入力トルク(N・m)を伝動特性として求めた。
【0067】
<伝動効率試験>
実施例1〜11及び比較例1〜7のそれぞれの複合VベルトBについて、図8(b)に示すように、プーリピッチ径が130.4mmの駆動プーリ71及びプーリピッチ径が65.2mmの従動プーリ72に巻き掛けると共に、従動プーリ72に2000Nのデッドウエイトを負荷し、恒温槽73内を室温として、駆動軸トルク30N・mで駆動プーリ71を6000rpmの回転数で回転させ、そのときのN:入力回転数、N:出力回転数、Tr:入力トルク、及びTr:出力トルクとして、(N×Tr)/(N×Tr))×100を伝動効率として求めた。また、恒温槽73内に90℃の温風を吹き込みながら、同様に伝動効率を求めた。
【0068】
<発熱特性試験>
実施例1〜11及び比較例1〜7のそれぞれの複合VベルトBについて、図8(c)に示すように、プーリピッチ径が130.4mmの駆動プーリ71及びプーリピッチ径が65.2mmの従動プーリ72に巻き掛けると共に、従動プーリ72に3000Nのデッドウエイトを負荷し、恒温槽73内に120℃の温風を吹き込みながら、駆動軸トルクを無負荷として駆動プーリ71を3000rpmの回転数で回転させ、ベルト表面の温度を非接触型温度計で測定し、定常となったベルト温度を発熱特性として求めた。
【0069】
<高速耐久性試験>
実施例1〜11及び比較例1〜7のそれぞれの複合Vベルトについて、図8(d)に示すように、プーリピッチ径が133.6mmの駆動プーリ71及びプーリピッチ径が61.4mmの従動プーリ72に巻き掛けると共に、従動プーリ72に2500Nのデッドウエイトを負荷し、恒温槽73内に120℃の温風を吹き込みながら、駆動軸トルク63.7N・mで駆動プーリ71を5016rpmの回転数で回転させ、最長走行時間500時間としてベルトが破壊するまで走行させた。そして、ベルトが破壊するまでの走行時間を高速耐久性の寿命とした。
【0070】
(試験評価結果)
試験結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
伝動特性は、実施例1〜9が83.0N・m、実施例10が78.0N・m、及び実施例11が90.0N・mであり、並びに比較例1〜5が83.0N・m、比較例6が40.0N・m、及び比較例6が60.0N・mであった。
【0073】
伝動効率は、室温では、実施例1〜11が98%であり、並びに比較例1が97%、比較例2が96%、比較例3が97%、比較例4が97%、比較例5が97%、比較例6が98%、及び比較例7が98%であった。90℃では、実施例1〜6が98%、実施例7が97%、及び実施例8〜11が98%であり、並びに比較例1が92%、比較例2が90%、比較例3が91%、比較例4が91%、比較例5が91%、比較例6が98%、及び比較例7が98%であった。
【0074】
発熱特性は、実施例1が106℃、実施例2が106℃、実施例3が105℃、実施例4が108℃、実施例5が114℃、実施例6が112℃、実施例7が115℃、実施例8が108℃、実施例9が110℃、実施例10が100℃、及び実施例11が110℃であり、並びに比較例1が110℃、比較例2が145℃、比較例3が125℃、比較例4が145℃、比較例5が112℃、比較例6が135℃、及び比較例7が130℃であった。
【0075】
高速耐久寿命は、実施例1〜11が500時間以上、並びに、比較例1が500時間以上、比較例2が350時間、比較例3が500時間以上、比較例4が500時間以上、比較例5が500時間以上、比較例6が300時間、及び比較例7が450時間であった。比較例2、6、及び7のいずれも破損モードはブロック破損であった。
【0076】
トータルの評価は、実施例1〜11が○、及び比較例1〜7が×であった。
【0077】
[試験評価2]
図9(a)に示すように張力帯20の上面側及び下面側の両方に嵌合構造が構成された複合Vベルト(試験評価1の比較例5)を試験評価ベルト1、図9(b)に示すように張力帯20の上面側が平坦面に形成されたことを除いて試験評価ベルト1と同一構成の複合Vベルトを試験評価ベルト2、及び図9(c)に示すように張力帯20の下面側が平坦面に形成されたことを除いて試験評価ベルト1と同一構成の複合Vベルト(試験評価1の実施例1)を試験評価ベルト3とした。
【0078】
試験評価ベルト1〜3のそれぞれについて、図10に示すように、恒温槽91内において、下側支持部材92とロードセル93に結合した上側押圧部材94との間に、ベルトピッチラインにおける曲率半径が6cmとなるように保持し、恒温槽91内の温度を室温から170℃前後まで上昇させながらロードセル93により反力Fを検知した。そして、ベルト曲げ剛性EIを、数式EI=1.74×F×6×10−1に基づいて計算して求めた。
【0079】
図11は、恒温槽91内の温度とベルト曲げ剛性との関係を示す。
【0080】
図11によれば、試験評価ベルト1では、恒温槽91内の温度上昇に伴ってベルト曲げ剛性が著しく上昇するのに対し、試験評価ベルト2では、ベルト曲げ剛性の上昇率が試験評価ベルト1よりも小さく、試験評価ベルト3では、ベルト曲げ剛性の上昇がほとんど無いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は複合Vベルトについて有用である。
【符号の説明】
【0082】
B 複合Vベルト
10 ブロック
11 嵌合部
12a 上側嵌合凸部
12b 下側支持凸部
13 金属補強材
13a 上側ビーム
13b 下側ビーム
13c センターピラー
20 張力帯
21,21’ 嵌合凹部
22 保形ゴム層
23 心線
24 上側補強布
25 下側補強布
30 ベルト伝動装置
31 駆動軸
32 駆動プーリ
33 従動軸
34 従動プーリ
71 駆動プーリ
72 従動プーリ
73 恒温槽
91 恒温槽
92 下側支持部材
93 ロードセル
94 上側押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々、ベルト幅方向の両側部のそれぞれに側方に開口したスリット状の嵌合部が形成された複数のブロックと、
各々、上記複数のブロックの嵌合部に該複数のブロックを連結するように嵌め入れられた一対のエンドレスの張力帯と、
を備え、
上記複数のブロックのそれぞれは、各嵌合部の上側面に嵌合凸部が形成されており、
上記一対の張力帯のそれぞれは、上面側に上記ブロックにおける嵌合部の上側面の嵌合凸部に嵌合する嵌合凹部が形成されていると共に下面側が摩擦係数0.7以上の平坦面に構成された複合Vベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された複合Vベルトにおいて、
上記複数のブロックのそれぞれは、その重心がベルトピッチライン上にある複合Vベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された複合Vベルトにおいて、
上記一対の張力帯のそれぞれは、JIS−C硬度計で測定したときのゴム硬度が75°以上である保形ゴム層を有する複合Vベルト。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された複合Vベルトにおいて、
上記ブロックの嵌合部の隙間をt、上記張力帯の該ブロックの嵌合部への嵌め入れ部分の厚さをtとしたとき、α={(t−t)/t1}×100で表される締め代率αが1〜5%であり、
また、上記張力帯の上記ブロックの嵌合部からの突出量である出代をΔd、該ブロックの張力帯噛合位置での該張力帯の挿入ピッチ幅をwとしたとき、β=(Δd/w)×100で表される出代率βが0.3〜1.5%であり、
さらに、α×βが0.6〜5.0である複合Vベルト。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された複合Vベルトにおいて、
用途が自動二輪無段変速である複合Vベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−193770(P2012−193770A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56879(P2011−56879)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)