説明

西ナイルウイルスにより引き起こされる疾患を予防するために生ウイルスワクチン中に用いるための西ナイルウイルスおよびデングウイルスキメラの構築

【課題】弱毒化され且つ免疫原性であるキメラフラビウイルスを提供することを課題とする。
【解決手段】西ナイルウイルスの少なくとも1つの構造タンパク質をコードする第一のヌクレオチド配列およびデング2型ウイルスまたはデング3型ウイルスの野生型株の非構造タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を含む核酸キメラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、免疫原性生弱毒化西ナイルウイルスワクチンの製造のためにデングウイルスバックボーン(backbone)上に構築された弱毒化免疫原性西ナイルウイルスキメラに関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
先ず図1Aから説明すると、フラビウイルスゲノムは、5'非翻訳化領域(5'UTR)、3つのウイルス構造タンパク質、NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、NS5と呼ばれる7つの非構造タンパク質をコードするコード領域、ならびに3'非翻訳化領域(3'UTR)を含有する、約11kb長の一本鎖プラスセンスRNAである。ウイルス構造タンパク質は、キャプシド(C)、前膜/膜(prM)およびエンベロープ(E)タンパク質を含む。構造および非構造タンパク質は、シングルポリタンパク質として翻訳される。ポリタンパク質は次に、細胞およびウイルスプロテアーゼによりプロセシングされる。
【0003】
西ナイルウイルス(WN)は、その多くが重要なヒト病原体である60より多いウイルスを含むフラビウイルス科に属する。WNは、セントルイス脳炎、日本脳炎ウイルス(JE)およびマレー渓谷脳炎ウイルスを含む蚊媒介性フラビウイルスの日本脳炎ウイルス(JE)血清型群の一成員である(Calisher, C.H. et al. 1989 J Gen Virol 70: 27-43; Burke, D.S. & Monath, T.P. 2001 in : Fields Virology, eds. Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 4-th ed., pp. 1043-1125)。JE抗原性複合体のその他の成員と同様に、WNは蚊媒介動物および鳥類を包含する天然サイクル中に保持されるが、一方、ヒトおよびウマは通常は偶発的宿主である。長年WNは、アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、中東および西アジアを含めた地理的範囲を有する最も広範に分布するフラビウイルスの1つと認識されてきた(Burke, D.S. & Monath, T.P. 2001 in : Fields Virology, eds. Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 4-th ed., pp. 1043-1125; Hayes, C.G. 1989 in: The Arboviruses: Epidemiology and Ecology, ed. Monath T.P. Boca Raton, FL CRC Press, Volume V, pp. 59-88)。1999年の間に、WNは先ず、米国において北東および中央大西洋沿岸州で定着し、さらに近年、このウイルスはその範囲を拡大して、南東および西の洲を含むに至った(Anderson, J.F. et al. 1999 Science 286: 2331-2333; Lanciotti, R.S. et al. 1999 Science 286: 2333-2337; Campbell, G.L. et al. 2002 Lancet
2: 519-529)。風土病地域では、ほとんどのヒトWN感染は無症候性であるか、あるいは低度の発熱、頭痛、身体痛、発疹、筋肉痛および多発性関節炎の症候を伴う軽症疾病を引き起こす。しかしながら重症疾患を伴うヒト流行病は、イスラエル、フランス、ルーマニアおよびロシアで報告されている。急性重症疾病では、このウイルスは肝炎、髄膜炎および脳炎を引き起こして、麻痺および昏睡をもたらして、死に至らしめる。神経病理学的病変はJEの場合と同様で、び慢性CNS炎症およびニューロン変性を伴う。ウイルスは、感染個体の脾臓、肝臓、リンパ節および肺にも見出される。米国におけるWNの1999年の大発生中に、60名以上が発症し、7名が死亡したが、一方、2002年中は、罹患率は3873例で、死亡は246例であった(CDC Report: West Nile Update Current
case Count, Jan. 2, 2003)。米国の北東から南東および西へのWNの近年の且つ予期せぬ蔓延のために、このウイルスは、国内のかなりの領域にわたってそれ自体が広がってきており(embedded itself)有意な緊急疾患脅迫と考えられる。現在、公認ヒトワクチ
ンはWN病の予防のために利用可能でない。蚊の制御が疾患の蔓延と戦うための唯一の実際的戦略であるが、しかし有効な噴霧は都市圏においては実行が難しい。危険に曝された集団を防御するためには、有効なワクチンが必要とされていることは明らかである。
【0004】
デングウイルスは、フラビウイルス属(フラビウイルス科)の蚊媒介性病原体である。デングウイルス(DEN)の4つの血清型、例えばデング1型ウイルス(DEN1)、デング2型ウイルス(DEN2)、デング3型ウイルス(DEN3)およびデング4型ウイルス(DEN4)が同定されている。4つ全ての血清型の生弱毒化デングウイルスが、初代イヌ腎細胞培養中で野生型ウイルスを継代することにより、タイのMahidol大学で開発された(Sabchareon, A. et al. 2002 Am J Trop Med Hyg 66: 264-272)。これらは一般に、弱毒化の実際的メカニズムに対する弱毒化関連変異の相対的関与に関して、あるいはワクチン候補のいずれかを野生型デングウイルスのビルレント生物学的表現型に戻す復帰変異の可能性に関しても十分に特性化されているわけではないため、デングウイルス感染および/または疾患に対する免疫感作のための少なくとも有望な生弱毒化ワクチン候補である。これらのワクチン候補は、それらのデング血清型、それらが継代された細胞株、ならびにそれらが継代された回数の組合せにより命名されてきた。したがって初代イヌ腎臓(PDK)細胞中で13回継代されたデング血清型1野生型ウイルスは、DEN1 PDK13ウイルスと呼ばれる。その他のワクチン候補は、DEN2 PDK53、DEN3 PGMK30/FRhL3(初代ミドリザル腎臓細胞中で30回の継代、その後、アカゲザル胎児肺細胞中で3回の継代)およびDEN4 PDK48である。これら4つの候補ワクチンウイルスは、それぞれ野生型親DEN1 16007、DEN2 16681、DEN3 16562およびDEN4 1036ウイルスの組織培養継代により得られた。
【0005】
DEN2 PDK53ウイルスを除いて、細胞培養中での多数回の継代中に生じた、そしてワクチン候補の弱毒化表現型に関連する遺伝子変異の数および同一性は未知である。弱毒化の実際的メカニズムに対するこのような弱毒化関連変異の関与も、野生型デングウイルスのビルレント生物学的表現型にワクチン候補のいずれかが戻る復帰変異の可能性も、これら4つのワクチン候補のいずれに関して分かっていない。ワクチン候補の特徴を理解することは、その安定性および安全性の予測のために重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Calisher, C.H. et al. 1989 J Gen Virol 70: 27-43
【非特許文献2】Burke, D.S. & Monath, T.P. 2001 in : Fields Virology, eds. Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 4-th ed., pp. 1043-1125
【非特許文献3】Hayes, C.G. 1989 in: The Arboviruses: Epidemiology and Ecology, ed. Monath T.P. Boca Raton, FL CRC Press, Volume V, pp. 59-88
【非特許文献4】Anderson, J.F. et al. 1999 Science 286: 2331-2333
【非特許文献5】Lanciotti, R.S. et al. 1999 Science 286: 2333-2337
【非特許文献6】Campbell, G.L. et al. 2002 Lancet 2: 519-529
【非特許文献7】CDC Report: West Nile Update Current case Count, Jan. 2, 2003
【非特許文献8】Sabchareon, A. et al. 2002 Am J Trop Med Hyg 66: 264-272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがってフラビウイルスに対する防御を付与するフラビウイルスワクチンの開発において用いられる弱毒化されたが、依然として免疫原性のフラビウイルスが必要とされている。理想的なのは、同時的に、フラビウイルス疾患に対して個体を防御し、そして安定性お
よび安全性が予測可能であるよう十分に特性化されるワクチンである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[発明の要約]
弱毒化され且つ免疫原性であるキメラフラビウイルスが提供される。デングウイルスの非構造タンパク質遺伝子を含有するキメラウイルスは、西ナイルウイルスの構造タンパク質遺伝子が置換されるバックボーンとして用いられる。これらのキメラウイルスは、ウイルス性疾患の随伴臨床症候の非存在下で顕著な免疫原性を示す。弱毒化キメラウイルスは、免疫原またはワクチンとして有効であり、西ナイルウイルスに対する免疫を付与するために薬物学的組成物中に混入され得る。
【発明の効果】
【0009】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
免疫原性WN/DENフラビウイルスキメラおよびWN/DENフラビウイルスキメラの調製方法が、本明細書中で提供される。免疫原性WN/DENフラビウイルスキメラは、西ナイルウイルスによる感染に対して個体および動物を免疫感作し、防御するために、単独でまたは免疫原性組成物として薬学的に許容可能な担体と組合せて、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】フラビウイルスポリタンパク質の翻訳およびプロセシングを示す。上段は構造および非構造タンパク質コード領域を有するウイルスゲノムを描いており、5'キャップ、ならびに5'および3'非翻訳化領域(UTR)を示す。ゲノムの下のボックスは、タンパク質分解的プロセシングカスケードにより生成される前駆体および成熟タンパク質を示す。成熟構造タンパク質を陰影ボックスで、そして非構造タンパク質および構造タンパク質前駆体を中白ボックスで示す。非荷電アミノ酸の連続伸長は、黒棒で示す。星印は、N連結グリカンを有するタンパク質を意味するが、しかし必ずしも利用される部位の位置または数を示すわけではない。宿主シグナラーゼ(菱型)、ウイルスセリンプロテアーゼ(下向き矢印)、フリンまたはその他のゴルジ局在化プロテアーゼ(ハート型)または未知のプロテアーゼ(?)の切断部位が示されている(Field's Virology, 2001 Fourth Edition, B.D. Lindenbach and C.M. Rice, page 998, Chapter 32より引用)。
【図1B】DEN4のprMおよびEタンパク質に関する遺伝子を西ナイルウイルスの対応する遺伝子に置き換えて、候補弱毒化ワクチン株として役立つWN/DEN4キメラを産生するために用いられる戦略を示す。
【図2】キメラWN/DEN4 cDNAの部分の構造を示す。上段は、ゲノムの5'末端からNS1遺伝子の3'末端までのキメラウイルスcDNAゲノムを示す。中黒ボックスは、ポリタンパク質中の疎水性ドメインを表す。垂直実線矢印は、CおよびprMタンパク質間のポリタンパク質中の考え得るNS2B−NS3プロテアーゼ切断部位の位置を示す(キメラゲノム中の第一の接合部)。細胞シグナラーゼに関する切断部位は、中白三角(▽)により示される。WN前膜(prM)およびエンベロープ糖タンパク質(E)構造タンパク質遺伝子に関する配列を保有する制限酵素切断WNcDNA断片を、PstIおよびXhoI部位でDEN4 cDNA中に挿入した(下線を施す)。第二の接合部は、2つの疎水性ドメイン間のWN Eタンパク質のCOOH末端に置かれる。WNのアミノ酸およびヌクレオチド配列を太字で表し、ヌクレオチド番号系はGenBank寄託番号AF196835からである。サルベロまたはC6/36蚊細胞をトランスフェクトし、免疫蛍光検定により感染の証拠に関して細胞培養を評価することにより、全長cDNA構築物からのRNA転写物の感染性を試験した。群4中の2つのクローンは、cDNAのクローニング中に、切断部位から+6下流のアミノ酸のI(イソロイシン)からT(トレオニン)への突然変異を維持した(図に示されている)。これら2つのクローンのみが生育可能で、全長RNA転写体のトランスフェクション後に感染性ウイルスを生じた。 *プロテアーゼ切断部位の3+位置下流で変化するキメラ構築物中のアミノ酸を示す。**適用可能でない。+2つの感染性キメラWN/DEN4ウイルス、即ち群4からのクローン18および55を単離した。
【化1】

【図3】親WNもしくはDEN4ウイルスまたはそれらのWN/DEN4キメラもしくはその3'欠失変異型WN/DEN4−3'Δ30を接種されたアカゲザルのウイルス血症を示す。4つの群の20匹のアカゲザル(Maccaca mulatta)に、WN、DEN4、WN/DEN4クローン18またはWN/DEN4−3'Δ30クローン1を皮下(SC)接種した。免疫染色フォーカス形成検定を用いたベロ細胞中での直接滴定により、サル血清中のウイルスの量を確定した。個別に各サルに対して、接種後12日間毎日、ウイルス血症を試験した。示された各サル群の血清中の平均ウイルス力価;nは群中のサルの数である。ウイルスの検出限界は100.7FFU/mlであった。そしてWN/DEN4およびWN/DEN4−3'Δ30ウイルスは、血清中のウイルスの検出レベルまたはそれ以下であった。
【図4−1】A. Δ30突然変異は、DEN4の3'UTRから30連続ヌクレオチド(陰影部)を除去する。ヌクレオチドは、3'末端から番号を付ける。B. DEN4およびDEN1ならびにそれらのΔ30誘導体のTL2領域のヌクレオチド配列アラインメント。4つのDEN血清型の各々に関する対応領域も示され、大文字は4つの血清型全ての間で相同である配列を示す。下線は、ステム構造を形成するために対合するヌクレオチドを示す。
【図4−2】C. 各DEN血清型のTL2領域の予測二次構造。すでに構築されたDEN1Δ30、DEN4Δ30、DEN2Δ30ウイルスに関してΔ30突然変異により除去されるヌクレオチドを左側に示し(まとめて示し(boxed))、提唱DEN3Δ30ウイルスを右側に示す(DEN1−nts10562〜10591、DEN2−Tonga/74−nts10541〜10570、DEN3 Sleman/78−nts10535〜10565およびDEN4−nts10478〜10507)。
【化2】

【化3】

【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のキメラは、西ナイルウイルスの免疫原性構造タンパク質をコードするヌクレオチド配列、ならびにさらに、デングウイルスのバックボーンから選択されるヌクレオチド配列を含む。ヌクレオチド配列に由来するキメラウイルスを用いて、西ナイルウイルスに対する免疫原性応答を誘導し得る。
【0012】
別の実施形態では、好ましいキメラは、西ナイルウイルスの少なくとも1つの構造タンパク質をコードする第一のヌクレオチド配列、ならびにデングウイルスの非構造タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を含む核酸キメラである。別の実施形態では、デン
グウイルスは弱毒化される。別の実施形態では、デングウイルスはDEN4である。別の実施形態では、構造タンパク質は西ナイルウイルスのCタンパク質、西ナイルウイルスのprMタンパク質、西ナイルウイルスのEタンパク質またはそれらの任意の組合せであり得る。
【0013】
「残基」という用語は、アミノ酸(DまたはL)あるいはアミド結合によりペプチド中に組入れられるアミノ酸模倣物を指すために本明細書中で用いられる。このようなものとして、アミノ酸は、天然アミノ酸であり得るし、あるいは特に限定されることがない限り、天然アミノ酸と同様の方式で機能する天然アミノ酸の既知の類似体(即ちアミノ酸模倣物)を包含し得る。さらにアミド結合模倣物は、当業者に既知のペプチドバックボーン修飾を含む。
【0014】
さらに、単一アミノ酸、あるいはコード配列中の数パーセントのアミノ酸(典型的には5%未満、さらに典型的には1%未満)を変更、付加または欠失するアミノ酸配列中の、またはアミノ酸をコードするヌクレオチド配列中の個々の置換、欠失または付加は、保存的修飾変更であって、この場合、変更は化学的類似アミノ酸による一アミノ酸の置換を生じる、と当業者は認識する。機能的類似アミノ酸を提示する保存的置換表は、当該技術分野で既知である.以下の6群は各々、互いに対する保存的置換であるアミノ酸を含有する。1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0015】
本明細書中で用いる場合、「ウイルスキメラ」、「キメラウイルス」、「フラビウイルスキメラ」および「キメラフラビウイルス」という用語は、西ナイルウイルスの免疫原性をコードするヌクレオチド配列ならびにさらにデングウイルスのバックボーンに由来するヌクレオチド配列を含む本発明の感染性構築物を意味する。
【0016】
本明細書中で用いる場合、「感染性構築物」とは、細胞を感染させるために用いられ得るウイルス、ウイルス構築物、ウイルスキメラ、ウイルスまたはその任意の部分に由来する核酸を示す。
【0017】
本明細書中で用いる場合、「核酸キメラ」とは、西ナイルウイルスの免疫原性をコードするヌクレオチド配列およびさらにデングウイルスのバックボーンに由来するヌクレオチド配列を含む核酸を含む本発明の構築物を意味する。それに対応して、本発明の任意のキメラフラビウイルスまたはフラビウイルスキメラは、核酸キメラの一例として認識されるべきものである。
【0018】
本発明の構造および非構造タンパク質は、完全タンパク質、タンパク質のエピトープまたは例えばその3つ以上のアミノ酸残基を含む任意の断片の配列を含む任意のタンパク質あるいはそれらをコードする任意の遺伝子を包含すると理解されるべきである。
【0019】
フラビウイルスキメラ
西ナイルウイルスおよびデングウイルスは、蚊媒介性フラビウイルス病原体である。フラビウイルスゲノムは、5'非翻訳化領域(5'UTR)を、その後にキャプシドタンパク質(C)コード領域、その後に前膜/膜タンパク質(prM)コード領域、その後にエンベロープタンパク質(E)コード領域、その後に非構造タンパク質をコードする領域(NS1−NS2A−NS2B−NS3−NS4A−NS4B−NS5)を、最後に3'非翻訳
化領域(3'UTR)を含有する。ウイルス構造タンパク質は、C、prMおよびEであり、そして非構造タンパク質はNS1〜NS5である。構造および非構造タンパク質は、単一ポリタンパク質として翻訳され、細胞およびウイルスプロテアーゼによりプロセシングされる。
【0020】
本発明のフラビウイルスキメラは、西ナイルウイルスの構造タンパク質遺伝子をデングウイルス、例えばDEN1、DEN2、DEN3またはDEN4の非構造タンパク質遺伝子と融合することにより形成される構築物である。
【0021】
本明細書中で提供される弱毒化免疫原性フラビウイルスキメラは、それに対する免疫原性が付与される西ナイルウイルスの1つもしくは複数の構造タンパク質遺伝子またはその抗原性部分、ならびにデングウイルスの非構造タンパク質遺伝子を含有する。
【0022】
本発明のキメラは、デングウイルスゲノムのC、prMもしくはEタンパク質(単数または複数)をコードする構造タンパク質遺伝子(単数または複数)またはそれらの組合せが防御されるべき西ナイルウイルスの対応する構造タンパク質遺伝子(単数または複数)で置換されるバックボーンとしてのデングウイルスゲノムを含有する。その結果生じるキメラウイルスは、デングウイルスによりキメラ化されるおかげで、弱毒性という特性を有し、したがってビルレンスが低減されるが、しかしWN構造遺伝子産物の抗原性エピトープを発現し、したがって免疫原性である。
【0023】
任意のデングウイルスのゲノムは、本明細書中に記載された弱毒化キメラ中でバックボーンとして用いられ得る。バックボーンは、デングウイルスの弱毒性表現型に関与するかあるいは例えばベロ細胞を製造するために用いられる細胞基質中における複製を促す突然変異を含有し得る。突然変異は、非構造タンパク質をコードするヌクレオチド配列、5'非翻訳化領域または3'非翻訳化領域中に存在し得る。バックボーンは、弱毒性表現型の安定性を保持し、そして弱毒化ウイルスまたはキメラがビルレント野生型ウイルスに逆戻りし得る可能性を低減するためのさらなる突然変異も含有し得る。例えば3'非翻訳化領域中の第一の変異および5'非翻訳化領域中の第二の変異は、所望により、付加的弱毒性表現型安定性を提供する。特に、nts10478〜10507間のDEN4ゲノムの3'非翻訳化領域の30ntsの欠失である突然変異は、DEN4ウイルスの弱毒性を生じる(Men et al. 1996 J Virol 70: 3930-3933; Durbin et al. 2001 Am J Trop Med 65: 405-413)。したがってこの遺伝子座にこのような突然変異を含有する任意のデング4型ウイルスのゲノムは、本明細書中に記載された弱毒化キメラ中のバックボーンとして用いられ得る。さらに、その他のデングウイルス血清型のゲノムの3'非翻訳化領域中の類似の欠失変異を含有するその他のデングウイルスゲノムも、本発明のバックボーン構造として用いられ得る。
【0024】
このような突然変異は、当業者に既知の技法を用いて、部位特異的変異法により達成され得る。本明細書中に記載され、そして当該技術分野で既知である毒性スクリーニング検定を用いて、ビルレントおよび弱毒化バックボーン構造の間を区別し得る、と当業者に理解される。
【0025】
フラビウイルスキメラの構築
本明細書中に記載されたフラビウイルスキメラは、当業者に既知の組換え工学処理技法を用いて、デングウイルスゲノムバックボーン中で、それに対する免疫が所望される西ナイルウイルスの構造タンパク質遺伝子の少なくとも1つを置換することにより、即ち指定デングウイルス遺伝子を取り出し、そしてそれを西ナイルウイルスの所望の対応する遺伝子と置き換えることにより、産生され得る。あるいは、GenBankで提供される配列を用いて、フラビウイルスタンパク質をコードする核酸分子は、既知の核酸合成技法を用い
て合成され、適切なベクター中に挿入され得る。したがって弱毒化免疫原性ウイルスは、当業者に既知の組換え工学処理技法を用いて産生される。
【0026】
上記のように、バックボーンに挿入される遺伝子は、西ナイルウイルス構造タンパク質をコードする。好ましくは挿入される西ナイルウイルス遺伝子は、Cタンパク質、prMタンパク質および/またはEタンパク質をコードする遺伝子である。デングウイルスバックボーン中に挿入される配列は、prMおよびE構造タンパク質の両方をコードし得る。デングウイルスバックボーン中に挿入される配列は、C、prMおよびE構造タンパク質をコードし得る。デングウイルスバックボーンは、DEN1、DEN2、DEN3またはDEN4ウイルスゲノムあるいはこれらの血清型のいずれかの弱毒化デングウイルスゲノムであり、そして西ナイルウイルスのC、prMおよび/またはE構造タンパク質(単数または複数)をコードする置換遺伝子(単数または複数)あるいは西ナイルウイルスのprMおよび/またはE構造タンパク質(単数または複数)をコードする置換遺伝子(単数または複数)を包含する。本発明の特定の実施形態では、西ナイルウイルスの構造タンパク質をコードする置換遺伝子は、DENのキャプシドタンパク質および西ナイルウイルスの前膜タンパク質を分離する切断部位の下流の3位および6位アミノ酸に、それぞれAspおよびThrを含有するprMタンパク質の合成を指図する。
【0027】
西ナイルウイルスの構造タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する適切なキメラウイルスまたは核酸キメラは、免疫原性の保持を伴うビルレンスの低減を示す弱毒化の表現型マーカーに関してそれらをスクリーニングすることにより、ワクチンとしての有用性に関して評価され得る。抗原性および免疫原性は、当業者に既知のルーチンスクリーニング手法を用いて、西ナイルウイルス抗体とのin vitroもしくはin vivo反応性、または免疫反応性血清を用いて評価され得る。
【0028】
フラビウイルスワクチン
好ましいキメラウイルスおよび核酸キメラは、免疫原またはワクチンとして有用な生弱毒化ウイルスを提供する。好ましい実施形態では、キメラは高免疫原性を示し、一方、同時に危険な病原性または致死作用を生じない。
【0029】
本発明のキメラウイルスまたは核酸キメラは、野生型または弱毒化デングウイルスバックボーン中に西ナイルウイルスの構造遺伝子を含み得る。例えばキメラは、デングウイルスまたは弱毒化デングウイルスバックグラウンドのいずれかにおいて西ナイルウイルスの構造タンパク質遺伝子を発現し得る。
【0030】
デングウイルスゲノムの非構造領域を含有する遺伝子バックグラウンドを用いることについて本明細書中に記載された、そして西ナイルウイルスの構造タンパク質遺伝子を発現するための、弱毒化の特性である、キメラ化による戦略は、所望の免疫原性を有する構造タンパク質遺伝子を発現する生弱毒化フラビウイルスワクチン候補の開発をもたらした。したがって西ナイルウイルス病原体の制御のためのワクチン候補が意図され得る。
【0031】
本明細書中に記載されたキメラに用いられるウイルスは、典型的には当該技術分野で既知の技法を用いて増殖される。次に細胞培養中で増殖されるウイルスの生育可能性、力価および表現型特徴を査定するために、ウイルスプラークまたはフォーカス形成単位(FFU)滴定が実施され、プラークまたはFFUが計数される。野生型ウイルスは、弱毒化候補出発物質を得るために変異化される。
【0032】
キメラ感染性クローンは、種々のフラビウイルス株から構築される。ウイルス特異的cDNA断片のクローニングも、所望により成し遂げられ得る。構造タンパク質または非構造タンパク質遺伝子を含有するcDNA断片は、種々のプライマーを用いて、フラビウイル
スRNAから逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により増幅される。増幅断片は、他の中間クローンの切断部位にクローン化される。次に中間キメラフラビウイルスクローンはシーケンシングされて、挿入フラビウイルス特異的cDNAの配列を立証する。
【0033】
ベクター中にフラビウイルスの構造または非構造タンパク質遺伝子領域を挿入することにより構築される全ゲノム長キメラプラスミドは、当業者に既知の組換え技法を用いて生成可能である。
【0034】
投与方法
本明細書中に記載されたウイルスキメラは、ヒトまたは動物への免疫原またはワクチンとしての投与のために、薬学的に許容可能な担体またはビヒクルと個別にまたは一緒に組合される。「薬学的に許容可能な担体」または「薬学的に許容可能なビヒクル」という用語は、有害な生理学的応答を引き起こすことなく生体動物またはヒト組織と接触して用いるのに適しており、そして有害な様式で組成物の他の構成成分と相互作用しない例えば水または生理食塩水、ゲル、膏薬、溶媒、希釈剤、流体軟膏基剤、リポソーム、ミセル、巨大ミセル等(これらに限定されない)を含む任意の組成物または化合物を意味するために本明細書中で用いられる。
【0035】
免疫原性またはワクチン処方物は、ウイルスプラーク形成単位(PFU)またはフォーカス形成単位(FFU)剤形中に存在するのが便利であり、慣用的薬学的技法を用いて調製され得る。このような技法としては、活性成分と薬学的担体(単数または複数)または賦形剤(単数または複数)とを会合させる工程が挙げられる。概して処方物は、活性成分を液体担体と均一に且つ密接に会合させることにより調製される。非経口投与に適した処方物としては、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤および処方物を意図されたレシピエントの血液と等張にさせる溶質を含有し得る水性および非水性滅菌注射溶液、ならびに沈殿防止剤および増粘剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。処方物は、単位用量または多用量容器中に、例えば密封アンプルおよびバイアル中に存在し、そして使用直前に滅菌液体担体、例えば注射用水の付加のみを要する凍結乾燥(凍結乾燥化)状態で保存され得る。即時調合注射溶液および懸濁液は、当業者に一般的に用いられる滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。
【0036】
好ましい単位投薬処方物は、投与成分の一用量または単位あるいはその適切な分画を含有するものである。特に上記された成分のほかに、本発明の処方物は、当業者により一般的に用いられるその他の作用物質を含み得る、と理解されるべきである。
【0037】
免疫原性またはワクチン組成物は、異なる経路により、例えば経口的または非経口的に、例えば頬および舌下、直腸、エアロゾル、鼻腔、筋肉内、皮下、皮内および局所的に(これらに限定されない)投与され得る。組成物は、異なる形態で、例えば溶液、乳濁液および懸濁液、微小球、粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子およびリポソーム(これらに限定されない)で投与され得る。免疫感作スケジュール当たり約1〜約5用量が必要とされ得る、と予測される。初回用量は、約100〜約100,000PFUまたはFFUの範囲であり、好ましい投薬量範囲は約500〜約20,000PFUまたはFFU、さらに好ましい投薬量範囲は約1000〜約12,000PFUまたはFFU、最も好ましい投薬量範囲は約1000〜約4000PFUまたはFFUである。追加免疫注射は、約100〜約20,000PFUまたはFFUの投薬量の範囲であり、好ましい投薬量範囲は約500〜約15,000、さらに好ましい投薬量範囲は約500〜約10,000PFUまたはFFU、最も好ましい投薬量範囲は約1000〜約5000PFUまたはFFUである。例えば投与容積は、投与経路によって変わる。筋内注射は、約0.1ml〜1.0mlの容積の範囲であり得る。
【0038】
組成物は、約−100℃〜約4℃の温度で保存され得る。組成物は、室温を含めた異なる温度で、凍結乾燥状態でも保存され得る。組成物は、当業者に既知の慣用的手段により滅菌され得る。このような手段としては、例えば濾過が挙げられるが、これに限定されない。組成物は、細菌増殖を抑制するために静菌剤とも組合され得る。
【0039】
投与スケジュール
本明細書中に記載された免疫原性またはワクチン組成物は、ヒトまたは家畜動物、例えばウマまたはトリに、特に西ナイルウイルス感染が存在する地域に旅行する個体に、そしてそれらの地域の居住者にも投与され得る。組成物の最適投与時期は、西ナイルウイルスへの初回曝露の約1〜3ヶ月前である。しかしながら組成物は、疾患進行を改善するために初回感染後に、すなわち疾患を治療するために初回感染後にも投与され得る。
【0040】
アジュバント
当業者に既知の種々のアジュバントが、本発明の免疫原性またはワクチン組成物中でキメラウイルスと一緒に投与され得る。このようなアジュバントとしては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ポリマー、コポリマー、例えばポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー、例えばブロックコポリマー、ポリマーp1005、フロイント完全アジュバント(動物用)、フロイント不完全アジュバント;モノオレイン酸ソルビタン、スクアレン、CRL−8300アジュバント、明礬、QS21、ムラミルジペプチド、CpGオリゴヌクレオチドモチーフおよびCpGオリゴヌクレオチドモチーフの組合せ、トレハロース、細菌抽出物、例えばマイコバクテリア抽出物、解毒化内毒素、膜脂質あるいはそれらの組合せ。
【0041】
核酸配列
西ナイルウイルスおよびデングウイルスの核酸配列は、高感受性および特異性を有する試料または検体中の西ナイルウイルスおよびデングウイルスキメラの検出のための核酸プローブおよびプライマーを設計するために有用である。西ナイルウイルスおよびデングウイルスに対応するプローブまたはプライマーは、ワクチンウイルスの存在を検出するために用いられ得る。核酸および対応するアミノ酸配列は、生物体および疾患を試験するための、そして疾患の療法および治療を開発するための実験室ツールとして有用である。
【0042】
核酸プローブおよびプライマーは、西ナイルウイルスおよびデングウイルスをコードする核酸分子、あるいはその相補的配列と選択的にハイブリダイズする。「選択的な」または「選択的に」とは、西ナイルウイルス配列およびデングウイルス配列の適切な検出を防止するために他の核酸とハイブリダイズしない配列を意味する。したがって核酸をハイブリダイズするという意図において、選択性は、試料中に存在する他の構成成分によっている。ハイブリダイズする核酸は、それがハイブリダイズする核酸のセグメントと少なくとも約70%の相補性を有する必要がある。核酸を説明するために本明細書中で用いる場合、「選択的にハイブリダイズする」という用語は、時折ランダムにハイブリダイズする核酸を排除し、したがって「特異的にハイブリダイズする」と同一の意味を有する。本発明の選択的にハイブリダイズする核酸プローブおよびプライマーは、それがハイブリダイズする配列のセグメントと、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%および99%の相補性を有し、好ましくは85%以上の相補性を有し得る。
【0043】
本発明は、コード核酸またはその核酸の相補的または反対の鎖と選択的にハイブリダイズする配列、プローブおよびプライマーも意図する。核酸との特異的ハイブリダイゼーションは、機能的種−種ハイブリダイゼーション可能性が保持される限り、核酸中で最小修飾または置換で起こり得る。「プローブ」または「プライマー」とは、それらの検出または増幅のために相補的核酸配列との選択的ハイブリダイゼーションのためのプローブまたは
プライマーとして用いられ得る核酸配列を意味し、このプローブまたはプライマーは、約5〜100ヌクレオチド、好ましくは約10〜50ヌクレオチド、最も好ましくは約18〜24ヌクレオチドで長さが変わり得る。ストリンジェントな条件下で種特異的核酸と選択的にハイブリダイズし、そしてMolecular Cloning : A Laboratory Manual, 2nd ed., Sambrook, Fritsch and Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されたように当該配列と相補的な少なくとも5つのヌクレオチドを有する単離核酸が本明細書中で提供される。
【0044】
プライマーとして用いられる場合、組成物は好ましくは、所望の領域を増幅するために、標的分子の異なる領域とハイブリダイズする少なくとも2つの核酸分子を含む。プローブまたはプライマーの長さに応じて、標的領域は、70%相補的塩基および全相補性間の範囲に及び、そして依然としてストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。例えば西ナイルウイルスおよびデングウイルスの存在を検出する目的のためには、ハイブリダイズする核酸(プローブまたはプライマー)とそれがハイブリダイズする配列との間の相補性の程度は、他の生物体の核酸とのハイブリダイゼーションを区別するのに少なくとも十分なものである。
【0045】
西ナイルウイルスおよびデングウイルスをコードする核酸配列は、ベクター、例えばプラスミド中に挿入され、生体生物体(living organism)中で組換え的に発現されて、組換え西ナイルウイルスおよびデングウイルスペプチドおよび/またはポリペプチドを産生し得る。
【0046】
本発明の核酸配列は、逆転写/ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ならびにcDNAアンプリコンを増幅するよう意図される正および逆アンプライマーを用いることにより、ウイルスゲノムRNA鋳型から増幅されるcDNAアンプリコンの検出を報告するのに役立つ診断用プローブを含む。ある場合には、アンプライマーの1つは、アンプライマーの3'末端にワクチンウイルス特異的変異を含有するよう意図され、これは、標的部位でのプライマーの延長と、その結果としての増幅が、ウイルスRNA鋳型がその特異的変異を含有する場合にのみ起こるため、ワクチン株に対して試験をより特異的にするのに有効である。
【0047】
自動PCRベースの核酸配列検出システムが、近年開発された。TaqMan検定(Applied Biosystems)が広範に用いられる。診断用遺伝子検定のためにさらに近年開発された戦略は、分子ビーコンを使用する(Tyagi and Kramer 1996 Nature Biotechnology 14: 303-308)。分子ビーコン検定は、TaqMan検定に用いられるものとは異なるクエンチャーおよびレポーターダイを用いる。これらのそしてその他の検出システムが、当業者に用いられ得る。
【0048】
免疫原性または防御効力を損失することなく神経毒性および末梢毒性を低減される西ナイルウイルス/デング4型ウイルスキメラ
米国で近年出現した向神経性フラビウイルスである西ナイルウイルス(WN)に関して、候補生弱毒化ワクチン株が構築された。デング4型ウイルス(DEN4)とのキメラ化により、マウスに関してかなりの弱毒化が達成された。全長感染性cDNAクローン中に存在するDEN4の構造前膜(prM)およびエンベロープ(E)タンパク質が、WN NY99株の対応する遺伝子により置き換えられた。WN/DEN4キメラの18の全長cDNAクローンのうちの2つが、感受性細胞中でトランスフェクトされた場合に感染性である全長RNA転写体を産生した。2つの感染性クローンは、キメラのDEN4キャプシドタンパク質とWN前膜タンパク質を分離するNS2B−NS3プロテアーゼ切断部位の直下流に位置する膜貫通シグナルドメイン中のモチーフを共有した。このモチーフ、即ち、それぞれ切断部位の下流3位および6位アミノ酸のAspおよびThrは、16の非感
染性cDNAクローン中には存在しなかった。WN/DEN4キメラは、そのWN親と比較して、マウスにおいて高度に弱毒化された。キメラは、脳内接種された乳児マウスにおいては少なくとも28,500分の1の神経毒性、ならびに腹腔内接種された成体マウスにおいては少なくとも10,000分の1のビルレントであった。それにもかかわらず、WN/DEN4キメラおよびそれに由来する欠失変異体は免疫原性で、致死性WN曝露に対して完全防御を提供した。これらの観察は、生弱毒化WNワクチンの開発を遂行するための基礎を提供する。
【0049】
組換えDNA技術における近年の進歩は、生弱毒化フラビウイルスワクチンを構築するための新規のアプローチをわれわれが開発するのを可能にした(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751;
Pletnev, A.G. et al. 2000 Virology 274: 26-31; Pletnev, A.G. et al. 2001 J Virol 75: 8259- 8267)。ゲノム構成、ウイルスタンパク質の数、反復可能な戦略、遺伝子発現、ビリオン構造および形態形成のフラビウイルス間での保存により、われわれのアプローチは可能になった(Lindenbach, B.D. & Rice, C.M. 2001 in: Fields Virology, eds.
Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 4-th ed., pp. 1043-1125)。全てのフラビウイルスが、キャプシド(C)、前膜(prM)およびエンベロープ糖タンパク質(E)構造タンパク質を、その後、非構造タンパク質NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4BおよびNS5をその順序で産生するようプロセシングされる単一の長いポリタンパク質をコードするプラスセンス非セグメント化RNAゲノムを有する。これらの共有特性は、フラビウイルスの全長感染性cDNAクローン中のウイルス構造タンパク質に関する遺伝子を、別のフラビウイルスの対応するウイルス遺伝子(cDNA形態の)で置き換えることにより、生育可能なキメラウイルスが産生され得ることを示唆した。試験した場合、この戦略は、ダニ媒介脳炎ウイルス(TBEV)またはダニ媒介ランガットウイルス(LGT)のウイルス構造タンパク質prMおよびEに関する配列を含有するキメラに関しては首尾よく言ったが、一方、他の配列は全て、蚊媒介性デング4型ウイルス(DEN4)の全長感染性cDNAに由来した。これは、不同性フラビウイルスTBEVまたはLGTのウイルス構造タンパク質が、シス作用性5'および3'配列およびDEN4の非構造タンパク質の情況で機能し得る、ということを示した。両キメラが末梢毒性に関して、即ち接種の末梢部位からCNSに蔓延し、脳炎を引き起こすウイルスの能力に関して、マウスにおいて高度に弱毒化されることを立証したことは有意であった。それにもかかわらず、キメラは、免疫原性であり、そしてTBEVまたはLGTによる曝露に対してマウスにおける耐性を誘導可能であることを立証した(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751; Pletnev, A.G. et al. 2000 Virology 274: 26-31)。in vivoでのウイルス複製の低減(弱毒化)と防御的免疫の誘導との間の好ましい平衡が達成されていた、ということは明らかであった。われわれはこれを、感染性および免疫の誘導に十分な、しかしin vivoでの高レベルの複製およびCNSに蔓延する能力を要するビルレンスの完全発現には不十分なレベルでのDEN4非構造タンパク質ならびにシス作用性5'および3'配列の情況で、ダニ媒介性フラビウイルスprMおよびEが相互作用し得ることを意味すると解釈する。
【0050】
この戦略の論理的延長はWN/DEN4キメラを構築することであったが、しかしいくつかのフラビウイルス組合せ、例えばいくつかのランガットウイルス(prMおよびE)/デングウイルスキメラ、ならびにデングウイルス(prMおよびE)/ランガットデングウイルスキメラは生育可能であることを立証していないために、生育可能性は予め予測できない、とわれわれは了解した。それにもかかわらず、遠縁の蚊媒介性WNの構造prMおよびEタンパク質遺伝子がDEN4の対応する遺伝子に代わって置換された生育可能なWN/DEN4キメラを構築することに、われわれは意外にも成功した。DEN4を安全にさせるが、しかし成人ボランティアにおいて依然として免疫原性であることが前に示さ
れていた3'非翻訳化領域(3'UTR)における30のヌクレオチド欠失を伴うWN/DEN4キメラも、われわれは生成した(Durbin, A.P. et al. 2001 Am J Trop Med Hyg 65: 405-413)。マウスにおける試験を先ず実施して、新規構築WN/DEN4キメラウイルスの神経毒性、末梢毒性、免疫原性および防御効力を評価した。
【0051】
材料および方法
細胞およびウイルス
サルベロ細胞(WHO種子継代143)および蚊C6/36細胞は、L. Potash博士(Novavax Inc., Rockville, MD)から入手した。これらのベロ細胞は、候補ヒトワクチンの製造に用いるために認定されている。サルLLCMK2細胞は、アメリカ培養細胞コレクション(American Type Culture Collection)(Manassas, VA)から購入した。西ナイルウイルスを用いて開始し、この試験に用いたWN野生型NY99−35262株は、R. Lanciotti博士(Centers for Disease Control and Prevention, Fort Collins, CO)の御厚意により提供いただいた。それは、1999年にブロンクス動物園(ニューヨーク)のチリフラミンゴから最初に単離された(Lanciotti, R.S. et al. 1999 Science 286: 2333-2337)。WN NY99ゲノムの配列は、GenBank寄託番号AF196835(表1による)として入手可能であり、そしてWNのその他の株は、WN NY99ゲノムの配列の代わりに用いられ得る。ベロ細胞で調製されるウイルス懸濁液は、免疫染色フォーカス形成検定(Pletnev, A.G. 2001 Virology 282: 288-300)およびWN−特異的マウス抗体を用いてベロ細胞で決定した場合、2.6×107フォーカス形成単位/ミリリットル(FFU/ml)の力価を有した。デングウイルスに目を向けると、野生型DEN4カリブ株814669(GenBank寄託番号AF326573)が用いられ、これはベロ細胞中で複製され、力価は1.1×108FFU/mlであった。組換えDEN4ゲノムの配列は、GenBank寄託番号AF326825(表1による)として入手可能であり、そしてDEN4のその他の株は、DEN4ゲノムの配列の代わりに用いられ得る。DEN1ゲノムの配列はGenBank寄託番号U88536として入手可能であり、DEN2ゲノムの配列はGenBank寄託番号M19197として入手可能であり、そしてDEN3ゲノムの配列はGenBank寄託番号M93130として入手可能であり、ならびにこれらの配列のいずれかはDEN4ゲノムの配列の代わりに用いられ得る。
【0052】
キメラWN/DEN4 cDNAおよび感染性ウイルスの回収
キメラTBEV/DEN4およびLGT/DEN4ウイルス(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS. USA 95: 1746-1751)の回収のために前に用いたDEN4全長感染性cDNAを含有するプラスミドp2A(XhoI)(Bray, M. & Lai, C.-J. 1991 PNAS USA 88: 10342-10346)を、WN/DEN4 cDNAの構築のために用いた。これは、WNprMおよびEタンパク質遺伝子のcDNAを対応するDEN4遺伝子のcDNAの代わりに用いることにより達成した(図1B)。WN cDNAの供給源は、WN NY99株ゲノムのヌクレオチド(nts)233〜2758を含むPCR産物であった。これは、R. Lanciotti博士(CDC)の御厚意により提供いただいた。このPCR断片中の構造タンパク質遺伝子のヌクレオチド配列を確定し、WN NY99の発表済み配列と比較した(GenBank寄託番号AF196835)。3つのヌクレオチド差(C1893→U、C2370→UおよびC2385→A)がEタンパク質配列中に同定されたが、こらはいずれもアミノ酸置換を生じなかった。
【0053】
ダニ媒介性/DEN4キメラの構築および分析を伴う従来の経験は、生育可能性のために必要とされるDEN4 Cタンパク質/ダニ媒介性フラビウイルスprMタンパク質接合部の配列を先験的に予測できない、ということを示した(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751)。この理由のために、われわれは経験的アプローチを採用し、いくつかの異なるC/prM接合部配列を試験した(図2)。これは、WN EのCOOH末端領域内に位置したため
、下流接合部に必要でなかった。最初に、3組のC/prM接合部を試験したが、しかし生育可能なWN/DEN4キメラを生じたのは1組だけであった(図2)。PCRによるキメラの構築のために用いられたプライマーは、オリゴヌクレオチド5'−TCAAAACAAAAGAAAAGATCTGCAGTGACCGGAATTGCAGTCATGATTGGC−3'(配列番号34)または5'−TCAAAACAAAAGAAAAGATCTGCAGGGACCGGAATTGCAGTCATGATTGGC−3'(配列番号35)または5'−TCAAAACAAAAGAAAAGATCTGCAGACACCGGAATTGCAGTCATGATTGGC−3'(配列番号36)を正プライマーとして、ならびにオリゴヌクレオチド5'−CCGCAAGAAACGTCATAGCAATTGACCTGTCACTCGAGTTGATTCCCATCCACAACAGAAGAGC−3'(配列番号37)を逆プライマーとして用いた。その両方がPstIおよびXhoIにより消化されるPCR産物およびベクターを含有するライゲーション混合物を用いた大腸菌BD1528の形質転換後、安定全長WN/DEN4 cDNAクローンを同定した(図2)。各キメラプラスミド中のWNおよびDEN4遺伝子間の接合部の配列を立証した。
【0054】
全長WN/DEN4 cDNAを含有するプラスミドDNAを、Asp718でリニアライズした。in vitroRNA合成ならびにそのRNA転写体による細胞のトランスフェクションを前述したように実施した(Pletnev, A.G. 2001 Virology 282: 288-300)。簡潔には、図2に列挙した全長WN/DEN4構築物のRNA転写体を用いて、L. Markoff博士(CBER, FDA)の御厚意で提供されたBSL−3実験室でリポフェクトアミン2000(Lipofect Amine 2000)試薬(GIBCO, BRL, Gaithersburg, MD)の存在下で、サルLLCMK2、サルベロ細胞または蚊C6/36細胞をトランスフェクトした。WNまたはDEN4特異的高度免疫マウス腹水(HMAF)を用いて、WNまたはDEN4タンパク質の存在に関して、免疫蛍光検定(IFA)によりトランスフェクト細胞を検査した。WN/DEN4群4接合部を含有する2つの感染性キメラウイルス(図2)、即ちWN/DEN4クローン18および55を単離した。回収キメラをサルベロまたは蚊C6/36細胞中で一旦増幅し、ウイルスRNAを単離して、次に配列分析のために用いるcDNA中に逆転写した(表1)。同様にして、2回の限界希釈による付加的精製および0.01の多重度で感染させたベロ細胞中での増幅後、ベロ細胞由来WN/DEN4クローン18の配列を確定した。その結果生じたウイルス懸濁液は、1.7×106FFU/mlの力価を有した。
【0055】
WN/DEN4ゲノムの3'非翻訳化領域(UTR)中に欠失を導入するために、XhoI部位(DEN4ゲノムのnt 2345;GenBank寄託番号AF326827)およびプラスミドWN/DEN4−18DNAの3'末端のAsp718部位間のDNA断片を、DEN4変異体、クローンp4Δ30の全長cDNAの対応するXhoI−Asp718断片により置換した(Durbin et al. 2001 Am J Trop Med. Hyg 65: 405-413)。この変異体は、nts 10478〜10507間にゲノムの3'非翻訳化領域(UTR)から欠失された30ntsを有した。10の異なるプラスミドからSP6ポリメラーゼにより生成された全長RNAを、サルベロ細胞のトランスフェクションにより感染性に関して試験した。2つの個々のWN/DEN4−3'Δ30 cDNAクローンは感染性であった。救出欠失変異型WN/DEN4−3'Δ30クローン1および78を、限界希釈により2回精製し、ベロ細胞においてそれぞれ1.4×105および6×104FFU/mlの力価に増幅した。ウイルスRNAを単離し、3'欠失変異型ゲノムの完全配列を確定した(表1)。
【0056】
マウスにおける親およびキメラウイルスの評価
ベロ細胞培養−増殖化親WN(NY99株)、親DEN4(814669株)、キメラWN/DEN4(クローン18)およびその欠失変異体(クローン1)の神経毒性を、BS
L−3施設で評価した。9〜12の群中の3日齢スイスウェブスターマウス(Taconic Farms)を、0.03mlのMEM/0.25%ヒト血清アルブミン中の0.1〜105FFUのウイルスの範囲の十倍ごとの希釈で、脳内(IC)経路により接種した。致死的脳炎の発症に関して、マウスを21日間観察した。Reed and Muench(Reed, L.J. & Muench, H. 1938 Am. J Hyg 27: 493-497)の方法により、各ウイルスの50%致死用量(LD50)を確定した。10の群中での3週齢スイス雌マウスの腹腔内(IP)接種による末梢毒性に関しても、親およびキメラウイルスを分析した。マウスを0.1〜105FFUの範囲のウイルスの十倍ごとの希釈で接種し、致死的脳炎に関して28日間観察した。瀕死マウスは、慈悲深く安楽死させた。
【0057】
IP接種を生き残ったマウスを28日目に採血し、WN特異的中和抗体応答を評価した。各群のマウスからの血清をプールし、血清プールのWNウイルス−中和抗体力価を、前述のようにベロ細胞中でのFFU低減検定により確定した(Pletnev, A.G. et al. 2001 J Virol 75: 8259- 8267; Pletnev, A.G. 2001 Virology 282: 288-300)。簡潔には、プール血清の1:10希釈液を、2%ウシ胎児血清(FBS)を含有するMEM中に調製し、次に56℃で30分間加熱不活性化した。不活性化プール血清の連続2倍希釈液を、約50FFUのWNを含有する等容積のウイルス懸濁液と混合した。混合物を37℃で30分間インキュベートし、次に0.4mlを6ウエルプレート中のベロ細胞の二重反復実験ウエルに付加した。37℃で1時間の吸収後、接種物を除去し、2%FBS、50μg/mlゲンタマイシン、0.25μg/mlフンギゾンおよび1%トラガカントゴムを含有するMEMで細胞を覆った。WN特異的HMAFを用いた免疫染色フォーカス形成検定(Pletnev, A.G. 2001 Virology 282: 288-300)により、インキュベーションの2日後に抗体力価を確定した。中和抗体力価は、非免疫感作マウスから収集した血清と比較してフォーカス形成を50%低減したプール血清の最高希釈液であった。
【0058】
親WNウイルスの100IP LD50(103FFU)を用いて29日目に生存マウスをIP曝露し、21日間、致死的脳炎に関して観察した。瀕死マウスは慈悲深く安楽死させた。
【0059】
結果
キメラWN/DEN4ウイルスの構築および回収
全体で、DEN4の他の全ての配列とともにWN NY99株の構造prMおよびEタンパク質遺伝子を含む全長キメラWN/DEN4 cDNAを含有する18のプラスミドを、われわれは構築した(図2)。18のキメラcDNAのうちの2つのみからSP6 RNAポリメラーゼにより生成された全長RNAは、蚊C6/36またはサルベロ細胞中にトランスフェクトされた場合、感染性であった。ウイルス感染性に関する証拠を、IFAにより検出した。2つの生育可能なキメラウイルスの場合、トランスフェクト細胞の80〜100%が、WN特異的HMAFを用いてIFAにより指示通りに5日目までに感染された。2つの生育可能なキメラウイルス(WN/DEN4クローン18および55)は、図2に示した、即ちそれぞれ切断部位の+3Aspおよび+6Thrアミノ酸下流に、群4キメラのC/prM遺伝子間接合配列を有した。この接合部の存在を、回収キメラの配列分析により確証した。さらにまた、ベロ細胞中のcDNAから救出された2つのキメラの完全遺伝子配列を確定し、それらの親WN NY99およびDEN4ウイルスのコンセンサス配列と、ならびに感染性RNA転写体が由来するプラスミドDNA中のWN/DEN4ウイルスキメラ挿入物のヌクレオチド配列と比較した(表1)。プラスミドDNAの分析は、WN NY99株の高力価懸濁液のRT−PCRにより確定されたコンセンサスWN配列のヌクレオチド配列中の4つの差を明示した。これらの差異のうちの3つは、prM(Ile6→ThrおよびIle146→Val)およびE(Thr282→Ala)におけるアミノ酸置換を生じた。さらに(i)Glu92およびAspならびに(ii)Leu112およびSer間の生育可能性を、WN/DEN4クローン55のDEN4NS3およ
びNS4B非構造タンパク質で同定した。さらにまた、ベロ細胞増殖WN/DEN4クローン18の配列は、DEN4 NS4B遺伝子中のその先祖プラスミドcDNA配列とは異なった。置換Leu112→Serを引き起こす変化U7162→Cを同定したが、これは前に観察された(Blaney, J.E. et al. 2001 J Virol 75: 9731-9740)。興味深いことに、この遺伝子座での異なる置換Leu112→Pheも、ベロ細胞中での野生型DEN4の継代時にBlaney等により前に観察された。
【0060】
全長感染性WN/DEN4 cDNAの構築にわれわれが成功した後、それらの3'非翻訳化領域(UTR)中の30ヌクレオチド欠失を伴うキメラウイルス変異体をわれわれは構築した。2つの変異型WN/DEN4−3'Δ30クローン1およびクローン78を、トランスフェクト化ベロ細胞から回収した。これら両クローンの完全配列を分析した(表1)。クローン78の配列は、その感染性RNA転写体が由来するプラスミドDNAの配列と異なった。C7141→Uの変化は、NS4Bタンパク質中のアミノ酸置換Thr105→Ileを生じた。WN/DEN4−3'Δ30クローン1は、プラスミドcDNA配列と1つだけのヌクレオチド差も示した。これは、WN/DEN4クローン18で観察された同一NS4Bアミノ酸変化(Leu112→Ser)を生じた。
【0061】
WN/DEN4キメラは、WN/DEN4−3'Δ30の場合と比べてベロ細胞中でより効率的に複製した。非修飾WN/DEN4キメラは、0.01の感染多重度で感染させた細胞中で6日目に106FFU/mlの力価に達した。これは6日までに欠失変異体が達成した力価より約10倍高かった。非修飾キメラの力価は、同一条件下で親DEN4により達成されたものとほぼ同一であった。
【0062】
マウス神経毒性
マウスにおけるビルレンスに関するキメラウイルスの評価の前に、ベロ細胞救出キメラWN/DEN4ウイルスおよびその3'欠失変異体を、限界希釈により生物学的に2倍にクローン化し、次に適格ベロ細胞中で増幅した。ベロ細胞適合WN/DEN4クローン18およびWN/DEN4−3'Δ30クローン1が達成した力価は、それぞれ1.7×106FFU/mlおよび1.4×105FFU/mlであった。
【0063】
キメラWN/DEN4ウイルスおよび欠失変異型WN/DEN4−3'Δ30、ならびに親WN NY99株およびDEN4 814669株ウイルスを、直接IC接種により、神経毒性に関して3日齢スイスマウスで評価した(表2)。ベロ細胞中で増殖させた野生型WN NY99は高神経毒性で、乳児スイスマウスにおいて0.35FFUの脳内LD50を有した。これもまたベロ細胞中で増殖させた野生型DEN4は低神経毒性で、IC LD50は407FFUであった。WN/DEN4およびWN/DEN4−3'Δ30キメラウイルスはともに、それらのWNおよびDEN4親と比較して神経毒性の有意な低減を示した。103FFUのWN/DEN4またはその3'欠失変異体をIC接種されたマウスは全て、21日の観察期間中、生存した。104FFUというより高用量では、WN/DEN4を接種された11匹のマウスのうち死亡したのは4匹だけであった。したがって乳児マウスでは、WN/DEN4キメラはそのWN親の28,571分の1より多い神経毒性であった。30nt欠失を有するキメラも、そのWN親より有意に低い神経毒性を有した。これらの観察は、DEN4とのTBEVまたはLGTのキメラ化がマウスに関するそれらの神経毒性を有意に低減したという初期の観察と一致する(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751;
Pletnev, A.G., Bray, M. & Lai, C.-J. 1993 J Virol 67: 4956-4963)。
【0064】
マウスにおける末梢毒性
その後、末梢毒性に関して、即ち末梢部位から中枢神経系に蔓延し、脳炎を引き起こすIP経路により接種されたウイルスの能力に関して、キメラウイルスをわれわれは評価した
。両キメラは、それらのWN親と比較して高度に弱毒化された(表2および表3)。注目すべきは、104FFUの欠失変異型キメラまたは105FFUの非修飾キメラのIP接種は、3週齢スイスマウスのいずれにおいても致死的脳炎を誘導しなかったが、一方、WN親に関するIP LD50は10FFUであった。
【0065】
ダニ媒介性フラビウイルスおよびそれらのDEN4キメラの過去の試験が、SCIDマウスは免疫適格マウスよりも末梢毒性に関してより高い感受性検出体であることを示したため、成体SCIDマウスにおいてもキメラを評価した。最大量のキメラ、即ちWN/DEN4に関しては105FFUおよびWN/DEN4−3'Δ30に関しては104FFUの腹腔内接種は、いかなる場合にも脳炎を生じなかった(表2)。これに対比して、親WNに関するIP LD50は6FFUであった。これらの観察は、WNキメラの末梢毒性の除去が達成されていた、ということを確証した。
【0066】
マウスにおけるキメラウイルスの免疫原性および防御効力
2つのキメラは免疫原性であった。102FFUのWN/DEN4キメラの1回IP接種は、中等度レベルの血清WN中和抗体(1:93)を誘導し、一方、10倍高い濃度(103FFU)は、非常に高い力価のWN中和抗体(1:1189)を誘導した(表3)。さらにまた、103FFUのキメラWN/DEN4−3'Δ30欠失変異体は、高レベルのこのような抗体(1:292)を刺激した。親WNの100IP LD50(103FFU)による29日目の免疫感作マウスの腹腔内曝露は、この高用量のWN曝露に対して90〜100%防御をキメラが提供することを示した(表3)。免疫感作に応答して発現された血清WN中和抗体の力価と誘導された耐性の程度との間には良好な相関が認められた。非ワクチン接種対照マウスは全て、100IP LD50のWNによる曝露の7〜13日後にCNS疾患の徴候を発症し、そしてこれらの動物はその直後に死亡した。WNに対する年齢に関連する耐性が存在するか否かを確定するために、別の群の7週齢マウスも対照として供した。それらは曝露時点で免疫感作マウスと同一齢であった。この群のより高齢の対照マウスを、3週齢マウスにおいて確定された1回IP LD50で曝露した。8匹のマウスのうち7匹は21日の観察期間中に死亡した。これは、WNに対するマウスの年齢依存性耐性が免疫感作の観察された防御作用における一因子でないことを示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
アカゲザルにおける西ナイルウイルス/DEN4キメラの弱毒化、免疫原性および防御効

いくつかの非ヒト霊長類は末梢経路により多数のフラビウイルスに容易に感染する、ということが確定されている(Simmons et al. 1931 Philipp J Sci 44: 1-247; Rosen, 1958
Am J Trop Med Hyg 7: 406-410)。したがってサルの感染は、ヒトのフラビウイルス感染に最も密接な実験系を表す。フラビウイルス感染に対するサルの応答は、4〜6日のウイルス血症が認められるという点でヒトの場合に類似するが、しかしより下等な霊長類は臨床的フラビウイルス症候を通常は発症しない。サルにおけるフラビウイルス試験の目的は、(1)種々の候補ワクチンの免疫原性を評価すること;(2)ウイルス血症の継続期間(日)およびピークウイルス力価(FFU/ml)により測定した場合の候補ワクチンの感染性およびビルレンス(弱毒化表現型)を評価すること;ならびに(3)野生型フラビウイルスによる曝露に対する候補ワクチンの防御効力を評価することである。
【0073】
(1)接種:SPGを含有するL15培地中に希釈した合計105または106FFUのウイルスを各サルに接種する(Durbin, A. P. et al. 2001 Am J Trop Med Hyg 65: 405-413)。普通は、麻酔動物に皮下経路によりウイルスを接種する。
【0074】
(2)血液採取:ウイルス接種後、2週間毎日3.0mlの血液試料、そして3週目、4週目、5週目および6週目に5.0mlの血液試料を採取する。
【0075】
(3)親野生型フラビウイルスによる曝露:防御効力を評価するのにウイルス曝露が適切であると思われる場合、1.0mlの容積中に105FFU/用量で野生型ウイルスをサルの上腕域に皮下接種する。
【0076】
(4)実験室検定:以下の(a)直接ウイルスプラークまたはFFU検定によるウイルス血症の持続期間およびレベル;ならびに(b)FFU低減中和試験により測定した場合に誘導される中和抗体の力価(試験は全て、ワクチン開発の技術分野の熟練者に既知である)を確定するために用いられる血清試料を採取する。
【0077】
20匹のアカゲザルにおいて、西ナイルウイルス/DEN4キメラの弱毒化、免疫原性および防御効力を試験した(表4および表5)。8匹のサルにWN/DEN4(クローン18)を皮下(SC)接種した;4匹は105FFUを摂取したが、一方他の4匹は106FFUを摂取した。4匹のサルに105FFUのWN/DEN4−3'Δ30(クローン1)をSC接種した。4匹の一群には親西ナイルウイルスをSC接種した;2匹は105FFUを摂取したが、一方他の2匹は106FFUを摂取した。最後に、別の群の4匹に106のDEN4をSC接種した(表4)。
【0078】
105または106FFUの西ナイルウイルスをSC接種されたサルは各々、5〜6日間存続するウイルス血症を発症し、2.6〜2.8log10(FFU/ml)の平均ピーク力価を達成した(図3、表4)。これに対比して、WN/DEN4は、105または106FFUを接種された8匹のサルのうち5匹においてのみウイルス血症を誘導した。ウイルス血症は1〜2日のみ存続し、WN感染したサルに関して観察されたものの100分の1以下のピーク力価を達成した。105FFUのWN/DEN4−3'Δ30変異体をSC接種されたサル4匹の各々が、検出可能なウイルス血症を発症し得なかったことは、有意である。
【0079】
WN/DEN4キメラおよびその欠失変異体はアカゲザルに関して有意に弱毒化されたが、しかしこれらのハイブリッドウイルスは中〜高レベルの血清WN中和抗体を各免疫感作動物において誘導した(表5)。2つのキメラは、免疫感作後42日目に、105FFUの西ナイルウイルスによるSC曝露に対する完全耐性も誘導した。WNのウイルス血症は、WN/DEN4またはその欠失変異体で免疫感作された12匹のサルのいずれにおいて
も検出されなかった。西ナイル曝露ウイルスは、DEN4ウイルスに予め感染させたサルにおいて効率的に複製した。これは、WN/DEN4キメラウイルスを用いた感染によりもたらされるWN曝露に対する高レベルの防御が、キメラにおけるWN防御性抗原により特定され、キメラのDEN4構成成分によっては特定されない、ということを示す。
【0080】
Δ30突然変異は、DEN4ウイルスにおいて先ず説明され、キャラクタライズされた(Men, R. et al. 1996 J Virol 70: 3930-7)。DEN4において、突然変異は、TL2と呼ばれる推定ステムループ構造を形成する(Proutski, V. et al. 1997 Nucleic Acids Res 25: 1194-202)3'UTRのヌクレオチド10478〜10507を含む30連続ヌクレオチドの除去から成る(図4A)。フラビウイルスの間では、UTRの大部分は高度保存二次構造を形成する(Hahn, C.S. et al. 1987 J Mol Biol 198: 33-41; Proutski, V.
et al. 1997 Nucleic Acids Res 25: 1194-202)。個々のヌクレオチドはこの領域で必ずしも保存されないが、しかし適切な塩基対合は、各血清型中のステムループ構造を保存し、実際は、一次配列を考察するのみである場合には容易に認められない(図4B、C)。Δ30突然変異は、他のDEN血清型、DEN1(Whitehead, S.S. et al. 2003 J Virol 77: 1653-1657)およびDEN2(Tonga/74)(米国特許仮出願第NIH230.002PRとして2002年12月23日提出)に輸送可能である弱毒化表現型を特定する、ということをわれわれは実証した。これは、Δ30突然変異がDEN3野生型ウイルスに及ぼす対応する作用を有すると予測される、ということを示す。ウイルスのTL2領域の欠失によりこの存続ウイルス、例えばDEN3(Sleman/78)を構築することを、をわれわれは予見する(図4C)。これらの弱毒化または野生型DEN1、DEN2またはDEN3ウイルスは、これらの実施例において示されたDEN4野生型またはDEN4−3'Δ30ウイルスに容易に置き換わり得る。
【0081】
これらの知見は特に、2つの候補WN生弱毒化ウイルスワクチンを同定する。第一のWN/DEN4は、高度制限レベルのウイルス血症により示されるように、WN野生型ウイルスと比較して約100倍弱毒化される。第二のウイルスWN/DEN4−3'Δ30は、サル血清中のウイルス血症の非存在により、そして血清中和抗体応答の中等度の低減により示されるように、WN/DEN4より弱毒化される。したがって教示された方法およびウイルスは、異なるレベルの弱毒化を示し、その各々が野生型WNウイルス曝露に対して高度に防御的である生弱毒化WNワクチンを提供する。DEN1、DEN2またはDEN3バックグラウンドに関する同様の弱毒化WN/DEN4キメラウイルスが予見される。
【0082】
これらのワクチン候補の構成成分として役立つDEN4の非構造タンパク質に関する遺伝子中の付加変異の導入によるWN/DEN4キメラのさらなる弱毒化。
必要な場合には、1つまたは複数の弱毒化変異をキメラのDEN4構成成分に付加することにより、候補ワクチンWN/DEN4またはWN/DEN4−3'Δ30キメラの弱毒化のレベル増大を達成することを、をわれわれは意図する。マウスにおけるDEN4を弱毒化する大きな組の突然変異(Blaney, et al. 2001 J Virol 75: 9731-9740; Blaney, et al. 2002 Virology 300: 125-139; Hanley, et al. 2002 J Virol 76: 525-31)が、WN/DEN4キメラウイルス中に含まれるDEN4ゲノムの一部で同定された。この組の弱毒化変異の成員は、これらのウイルスをさらに弱毒化するためにWN/DEN4キメラウイルス中に導入され得る。例えば、上記のような多少の残存神経毒性を保有するWN/DEN4ウイルスをさらに弱毒化することが必要であり得る。さらなる弱毒化を達成するためのこのアプローチの実現可能性は、乳児マウス脳における温度感受性表現型、ならびに増殖制限の表現型を特定する生育可能な突然変異を、WN/DEN4キメラのDEN4構成成分の非構造タンパク質3(NS3)中に導入することにより例示される。突然変異4891(イソロイシン→トレオニン)は、DEN4のNS3遺伝子のヌクレオチド4891で以前に同定されていた(Blaney, et al. 2002 Virology 300: 125-139)。突然変異4891は、2つの望ましい表現型、即ち脳組織における温度感受性および増殖制限を
特定した。同様に突然変異4995(セリン→プロリン)も、NS3において、同一の2つの望ましい表現型を特定した(Blaney, et al. 2001 J Virology 75: 9731-9740, 2001)。4891および4995突然変異は、ベロ細胞中でのDEN4の複製適性も増大する。即ちそれらはベロ細胞適合変異である。DEN4 4891の野生型アミノ酸残基(イソロイシン)は、DEN2 Tonga/74およびDEN3 Sleman/78においては保存されるが、しかしDEN1WestPacificでは保存されない。DEN4
4995の野生型アミノ酸残基(セリン)は、DEN1 WestPacific、DEN2 Tonga/74で保存されるが、しかしDEN3 Slemanでは保存されない。これらの突然変異の一方または両方は、WN/DEN1、2または3キメラ中にも含まれる。したがってWN/DEN4ウイルス中のそれらの含入は、ベロ細胞中のウイルスの複製増大またはベロ細胞で製造中の突然変異の遺伝子安定性を達成する場合に意図される。
【0083】
考察
最初に、遠縁のダニ媒介性および蚊媒介性フラビウイルスのprMおよびEタンパク質は高度分岐性であるが、しかしこれらのタンパク質は、ウイルス生育可能性を損失せずに、いくつかの場合には交換され得る、ということをわれわれは実証した(Pletnev, A.G. et
al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751)。このアプローチは、新規のキメラフラビウイルスを作製するために用いられた(Bray, M., Men, R. & Lai, C.-J. 1996 J. Virol. 70: 4162-4166; Chambers, T.J. et al. 1999 J Virol 73: 3095-3101; Guirakhoo, F. et al. 2000 J Virol 74: 5477-5485; Huang, C.Y. et al. 2000 J Virol 74: 3020-3028; Van Der Most, R.G. et al. 2000 J Virol 74: 8094-8101; Caufour, P.S. et al. 2001 Virus Res 79: 1-14)。
【0084】
生育可能なダニ媒介性/DEN4キメラを構築し、回収することに、以前われわれは成功した(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751; Pletnev, A.G., Bray, M. & Lai, C.-J. 1993 J Virol
67: 4956-4963)。これらの場合、ダニ媒介性フラビウイルス親は、ダニ媒介性脳炎ウイルス、高ビルレントウイルスまたはランガットウイルス、天然弱毒化ダニ媒介性ウイルスであった。したがってこれらのキメラの2つの構成成分は、不同性のベクター宿主を、即ちダニ、そしてDEN4の場合には蚊を有した。キメラにおける遺伝子産物相互作用の効率低減は、これらのハイブリッドウイルスにより示される顕著な弱毒化のための基礎であると考えられた。それにもかかわらず、マウスにおいて高度に弱毒化されるが、しかしTBEV/DEN4およびLGT/DEN4キメラは免疫原性で、そしてそれらの親ダニ媒介性フラビウイルスに対するかなりの防御を提供した。本発明の場合には、WN/DEN4キメラの両ウイルス親は、蚊により伝播される。しかしながらベクター選択性は異なり、DEN4に関してはヤブカ属(Aedes)、WNに関してはイエカ属(Culex)である(Burke, D.S. & Monath, T.P. 2001 in Fields Virology, eds. Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 4-th ed., pp. 1043-1125; Hayes,
C.G. 1989 in The Arboviruses: Epidemiology and Ecology, ed. Monath T.P. Boca Raton, F. L.: CRC Press, Volume V, pp. 59-88)。
【0085】
本発明の試験において、その遺伝子が構造prMおよびEタンパク質に関してWN NY99株の対応する遺伝子により置換されたDEN4ゲノムを含有する生育可能なWN/DEN4キメラをわれわれは構築した。フラビウイルスの間では、CおよびprM間の疎水性ドメイン(「膜貫通シグナルドメイン」)は配列中で変わり、長さも14〜20アミノ酸まで変わる(Stocks, C.E. & Lobigs, M. 1998 J Virol 72: 2141-2149)。それは、このタンパク質の翻訳後成熟が起こる小胞体管腔中へのprMタンパク質の移行のためのシグナル配列として作用する(Lindenbach, B.D. & Rice, C.M. 2001 in Fields Virology,
eds. Knipe, D.M. & Howley, P.M. Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia,
4-th ed., pp. 1043-1125)。このシグナルペプチドは、そのNH2末端領域でウイルスプロテアーゼNS2B−NS3切断部位により、そしてそのCOOH末端領域で細胞シグナラーゼ切断部位により側面に並ばれる。DEN4 CおよびWN prMタンパク質間のプロテアーゼ切断部位での4つの異なる接合部を、キメラ構築物中に別々に導入した(図2)。キメラ中のウイルスプロテアーゼ切断部位(KR↓S)でのC/prM融合配列を、キメラポリタンパク質のプロセシングのためのそのNS2B−NS3プロテアーゼを提供するDEN4親の場合と同様であるよう構築した。しかしながら群1および2キメラのキメラ構築物の各々は、プロテアーゼ切断部位の下流の3位アミノ酸の膜貫通シグナル配列中に独自の置換を含有し、一方、別の配列は群3および群4キメラに共有される(図1A、図2)。したがって構築物の膜貫通シグナルは、長さは類似するが、群1、群2および群3に関して、そして群4と一緒に多型性を示す。これは、プロテアーゼ切断部位の下流の3位アミノ酸で起こる。構築物第4(図2)が用いられた場合のみ、生育可能なWN/DEN4ウイルスを回収して、トランスフェクションのためのRNA転写体を調製した。3+アミノ酸位置でのAspをコードする5つの別個のクローンのうちの2つから、感染性ウイルスを回収した。IleをThrに置換したプロテアーゼ切断部位の下流の6+アミノ酸位置に第二部位突然変異も含有する2つのクローンのみが、感染性であった。この突然変異は、細菌中でのcDNAのクローニング中に起きた(図2、表1)。これに対比して、3+アミノ酸位置のGlyまたはValをコードする13のクローンのうち、トランスフェクション後に感染性ウイルスを産生したものはなかった。これは、CおよびprM間の膜貫通シグナル配列がWN/DEN4キメラの情況における生育可能性の決定因子である、ということを示唆する。これは、CおよびprMタンパク質間の膜貫通シグナル配列が生育可能性および神経毒性に一役を演じる、という黄熱病ウイルスを用いてなされた初期の観察と一致する(Lee, E. et al. 2000 J. Virol. 74: 24-32)。
【0086】
キメラの生育可能性に必要とされるキャプシドタンパク質−preMタンパク質切断部位での+3および+6AspおよびThrモチーフは、いずれの親の配列からも予測され得なかった。即ち、DEN4および西ナイルウイルスは、親がこの+3および+6モチーフを有さなかったためである。切断部位での多数の不同性の配列を試験することにより成功が達成され、これが生育可能性に必要とされる+3および+6AspおよびThrモチーフの同定をもたらした。この理由のために、等しく生育可能であるキメラウイルスを産生する他のモチーフの同定のために、いくつかの異なるC/prM接合部配列を試験することを包含する経験的アプローチをわれわれは支持する。
【0087】
WN NY99株は、スイスマウスにおいてかなりのビルレンスを示した。そのIC LD50は、乳児マウスに関しては0.35FFUであり、そのIP LD50は3週齢スイスマウスに関して10FFUであった(表2)。ほぼ同一レベルの神経毒性が、CD−1(ICR)マウスにおいて評価されたイスラエルで単離されたWNの野生型株に関して観察された。IC LD50およびIP LD50はそれぞれ、1.1および4.3PFUと概算された(Halevy, M. et al. 1994 Arch Virol 137: 355-370)。さらに、WN NY99およびWN Israel−1998間の高度のゲノム類似性(>99.8%)が、配列分析により近年確証された(Lanciotti, R.S. et al. 1999 Science 286: 2333-2337)が、これは、北米および中東ウイルスを表すWNの高度病原性株がともに密接に関連する、ということを示す。野生型DEN4カリブ株814669は乳児マウスに関して中等度に神経毒性で、407FFUというIC LD50を有し、そしてそれはそのcDNAクローン化ウイルスより約20倍以上ビルレントであった(Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS USA 95: 1746-1751)。これに対比して、WN/DEN4キメラおよびその3'欠失変異体は、それらの野生型DEN4またはWN親より有意に低い神経毒性を示した。WN/DEN4キメラをIC接種されたマウスの少数が、104FFUという高用量でのみ死亡する。さらにまた、この用量でIC接種されるWN/DEN4キメラは、乳児マウスの死亡を親WNウイルスより遅くさせる:野生型WNに関しては感染の4〜5日後、これに比してキ
メラに関しては感染の9〜13日後。マウスの脳に関してDEN4ウイルスを弱毒化することが既知である突然変異の導入により、WN/DEN4キメラウイルスのICビルレンスのさらなる弱毒化を可能にするというさらなる方法および手法が教示される。さらに、付加的弱毒化変異の組入れによりWN/DEN4−3'Δ30のさらなる弱毒化を達成することも、われわれは意図する。
【0088】
野生型WN NY99株の高末梢毒性(IP LD50:10FFU)にもかかわらず、DEN4によるWNのキメラ化は、そのWN親のこの特性を完全に除去した。したがって3週齢スイスマウスは、104または105FFUのキメラウイルスのIP接種を生き残った。われわれの観察は、TBEVまたはLGTの末梢神経毒性の同様に大きい低減が、DEN4によるキメラ化後に起きる、という初期の知見と一致する(Pletnev, A.G. et al. 1992 PNAS USA 89: 10532-10536; Pletnev, A.G. & Men, R. 1998 PNAS. USA 95: 1746-1751; Pletnev, A.G., Bray, M. & Lai, C.-J. 1993 J Virol 67: 4956-4963)。WN/DEN4キメラがSCIDマウスで末梢毒性に関して試験された場合に、同様の観察がなされた(表2)。
【0089】
高度に弱毒化されるが、しかしWN/DEN4キメラは、WN NY99に対する中〜高レベルの血清中和抗体を刺激した(表3)。免疫感作により誘導されるWNに対する中和抗体のレベルとその後の致死的WN曝露に対する耐性との間には、強い相関が認められた。キメラを接種されたマウスの免疫応答は用量依存性であり、非修飾WN/DEN4キメラが、対応する3'欠失変異体よりもわずかに高免疫原性であることを示した。しかしながら1回103FFU用量のWN/DEN4キメラまたはその3'欠失変異体が免疫感作のために用いられた場合に、WN曝露に対する90〜100%防御が達成された。さらに高い用量(104FFU)のいずれかのキメラは、WN曝露に対する完全防御を提供した。WN/DEN4およびWN/DEN4−3'Δ30は、非ヒト霊長類(アカゲザル)においても、高度に弱毒化され、免疫原性で、そしてWNウイルス曝露に対して防御的であった。したがってキメラウイルスのWN prMおよびEタンパク質は、マウスおよびサルの両方において、高ビルレントWNによる曝露に対する完全防御を誘導可能な有効な抗原を代表する。マウスおよびサルにおけるキメラWN/DEN4ワクチン候補の安全性、免疫原性および防御効力に関するわれわれの観察は、ワクチン候補のわれわれの評価を、高度の危険に直面しているヒトに、そして家畜動物に、例えばウマまたは鳥類に拡大するための基礎を提供する。このようにして、ワクチンとしてのWN/DEN4キメラの使用が、ヒトおよび家畜動物、例えばウマまたは鳥類に関して予見される。
【0090】
本発明を、明快にし、理解するために多少詳しく説明してきたが、本発明の真の範囲を逸脱しない限り、形態および詳細の種々の変更がなされ得ると、当業者は理解する。上で言及された図、表、付録、特許、特許出願および出版物は全て、それらの記載内容が参照により本明細書中で援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
西ナイルウイルスの少なくとも1つの構造タンパク質をコードする第一のヌクレオチド配列およびデング2型ウイルスまたはデング3型ウイルスの野生型株の非構造タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を含む核酸キメラ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公開番号】特開2012−40014(P2012−40014A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225056(P2011−225056)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2009−58277(P2009−58277)の分割
【原出願日】平成15年1月9日(2003.1.9)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】