説明

視程障害緩和装置

【課題】 道路等に対する吹雪による視程障害を緩和し、また、道路等側方の視界を閉ざすことによる圧迫感や閉塞感を感じさせないようにする。
【解決手段】 道路や軌道の主風向側の路肩に沿って堆雪防止板3を配設し、この堆雪防止板3の上部に、風車枠4を取り付け、この風車枠4内に垂直軸タイプの複数の風車5を一列に並べて配置する。そして、隣接する風車5と風車5の間隔を、風車の羽根直径以内の間隔とする。この際、風車5と風車5の間に、セパレータ部材を配設してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や軌道の視界が吹雪により低下するのを緩和するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積雪地方の道路や軌道等の側縁には、道路上の雪を吹き払い、また雪による視程障害の発生を防止するため、吹止め式、吹溜め式、吹払い式等の防雪柵が設置されることがあり、このような防雪柵として、例えば道路の風上側側縁に沿って所定間隔置きに支柱を立設し、各支柱間に複数の翼型防雪板を上下に間隔をあけて、かつ風の吹込み側が高くなるように傾斜させて取り付け、この翼型防雪板の断面形状を、下側が凸となる形状にすることで、遠方まで雪の吹払い効果が得られるようにするとともに、ドライバーに対する視程障害の発生を防止し、また、防雪板の吹き飛びを防止するようにした技術が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
また、吹雪を捕捉する吹き止め柵の風上側に形成される雪丘の高さが柵高に近づいても吹雪の捕捉機能が低下しないよう、吹き止め柵を鉛直部と円弧翼型誘導板部との二つの部分で構成し、鉛直部で吹雪の吹き止めと堆雪を、円弧翼型誘導板部で柵を越流した吹雪流を道路空間の高い位置に移動させて道路の風下側に吹き払うようにした技術も知られている。(例えば、特許文献2参照。)
一方、道路や軌道において、強い横風により安全走行が阻害されるのを防止する技術として、道路等の側方に風車を設置し、風車の下流側の路面の横風を低減させるような技術も知られている。(例えば、特許文献3参照。)
【0003】
【特許文献1】特開2003−138525号公報
【特許文献2】特開2001−288715号公報
【特許文献3】特開2003−232012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1や特許文献2の防雪柵や吹き止め柵の場合は、運転者の視界が常に制限されることから、運転者に圧迫感や閉塞感を与え易く、また、特許文献3の場合は、風車のタイプが水平軸タイプであるため、強風時等にプロペラが壊れたり、損傷し易い等の問題があり、地吹雪等が多発する地域に設置するには向いていなかった。
【0005】
そこで本発明は、強風等が吹いた場合でも地吹雪等による視程障害を緩和することができ、また、側方の視界を全く閉ざすことによる圧迫感や閉塞感を感じさせないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、道路や軌道の主風向側の路肩に沿って堆雪防止板を配設し、この堆雪防止板の上部に、垂直軸タイプの複数の風車を一列に並べて配置するとともに、隣接する風車と風車の間隔を、風車の羽根直径以内の間隔とした。
【0007】
そして、道路や軌道の主風向側の路肩に沿って堆雪防止板を配設し、その上部に垂直軸タイプの風車を一列に並べて配置することで、風車の下流側の風速を減速させるとともに、空気の流れを攪拌して道路上の吹雪による視程障害が緩和されるようにするが、この際、垂直軸タイプの風車の下流側の空気の乱れは、一般的に、回転する羽根の直径と同程度の幅間隔までの領域となる。このため、隣接する風車間の間隔を、風車の横幅以内の間隔にすれば、風車と風車の間から一般風が入り込むことがなく、視程障害緩和を道路全域に及ぼすことができる。
また、風車の下方の堆雪防止板によって、道路側方の法面等から吹雪が吹き込んで道路上に堆雪するのを防止するが、この堆雪防止板としては、例えば金属板や樹脂板等が使用可能である。
また、堆雪防止板上では、風車と風車の間に隙間が形成され、また、風車の羽根の回転に伴って外側の景色が見えるため、ドライバーに対する圧迫感や閉塞感を緩和できる。
また、垂直軸タイプの風車を使用することで、風が強まるほど回転速度が大きくなって、より強い乱流を生じさせることが可能になるとともに、水平軸タイプに較べて風に対する耐久度を高めることができる。
【0008】
また、本発明では、前記風車と風車の間に、セパレータ部材を配設するようにした。
そして、このセパレータ部材によりお互いの風車間の風の干渉を避けるようにすれば、風車の回転方向をすべて同一にしても支障はなくなり、好都合である。
これに対して、セパレータ部材がない場合は、風車の回転方向をすべて同一方向にすると、隣接する風車間の風が干渉し合って攪拌効果が少なくなり、視程障害緩和効果が薄れるため、隣接する風車の羽根の向きを変える等の処置が必要となる。
【0009】
また本発明では、前記風車によって発電機を起動させ、その発電を視線誘導または融雪に利用するようにした。
このように、風車によって発電させ、その発電を利用するようにすれば、風の有効利用が図られてより安全な走行を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
道路や軌道の主風向側の路肩に沿って堆雪防止板を配設し、この堆雪防止板の上部に、風車の横幅以内の間隔で垂直軸タイプの風車を一列に並べて配置することにより、風下側の空気の流れを攪拌して道路上の地吹雪による視程障害を緩和することができ、また、道路側方の視界が開けて開放感を増すことができる。
そして、風車と風車の間にセパレータ部材を配設すれば、風車の回転方向をすべて同一方向にしても支障がなくなり、また、風車によって発電機を起動させ、その発電を視線誘導または融雪に利用するようにすれば、風の有効利用が図られて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明に係る視程障害緩和装置の設置概要図、図2は視程障害緩和装置の基本構造の要部を示す正面図、図3は同平面図、図4は本視程障害緩和装置の作用を従来と比較して示す作用図、図5は風車間にセパレータ部材を配設した例の平面図である。
【0012】
本発明に係る視程障害緩和装置は、例えば道路を車両で運行中、強風等が吹いた場合でも吹雪による視程障害が緩和され、また、道路の側方の視界を閉ざすことによってドライバーに圧迫感や閉塞感を与えることがないようにされている。この際、吹雪による視程悪化現象は、降雪に強風が伴って視程障害が起きる場合と、道路上に積もった雪が強風によって舞い上がって視程障害が起きる場合と、両者が入り混じる場合等があるが、ここでは、これらを含んですべて吹雪と称することにする。
【0013】
そしてこの吹雪による視程障害は、降雪状態や風速や気温等の影響を受けるものの、風速に支配される度合いが多く、吹雪によって運ばれる雪の量は、ほぼ風速の3乗に比例すると云われており、今、例えば風速12m/sの吹雪では視程が28m程度、風速10m/s時には視程が40m程度、風速8m/s時には視程が75m程度、風速6m/s時には視程が130m程度になると云われている。
一方、一般的に視程が30m以下では車両の走行は不能となり、30〜50mでは前方視認性が悪くて止まる車も出るようになり、50〜100mでは視程誘導物を頼りにして定速走行が可能であるというデータもあり、実際に視程が50m以下になると通行止めになる場合が多い。
【0014】
そこで本発明に係る視程障害緩和装置1では、吹雪によって視程障害が発生する要件を満たしている場合でも、道路交通に支障を来たすことがないようにされており、図1乃至図3に示すように、道路の主風向側の路肩に沿って所定間隔置きに立設される金属製支柱2と、各支柱2の下部に固定される堆雪防止板3と、この堆雪防止板3の上部に風車枠4を介して取り付けられる垂直軸風車5を備えており、風車5より下流の風速を弱めると同時に、流れに乱れを生じさせて道路上の視程障害を緩和できるようにされている。
【0015】
ここで、風車には、水平軸型風車と垂直軸型風車が知られており、いずれも風車後流の風速は低減されるが、水平軸タイプの風車は強風時にプロペラ等が破損しやすく機種が多く、吹雪対策には向いていない。
これに対して、垂直軸タイプの風車は、強風時でも安定して回転し、強風になればなるほど回転速度が高まって、後流の風速を減速するのに効果的であり、吹雪時の視程障害緩和に好適である。
ここで、垂直軸風車の具体的種類等は任意であり、例えばサボニウス型やクロスフロー型等が適用可能であるが、本実施例では、サボニウス型風車を採用している。
【0016】
前記堆雪防止板3は、本実施例では、無孔の金属板で、例えば強度補強のためジグザグに折り曲げられたものを金属製支柱2の下部にボルト等で固定したものであり、道路側方の法面等から雪が吹き付けられて道路上に堆雪するのを防止する機能と、道路上の雪を雪掻きした場合に、掻いた雪が道路側方の法面等に落下するのを防止する機能を有している。勿論、この堆雪防止板3の素材や形状等は任意であり、樹脂製等でも構わず、折り曲げのない平坦面のものでも良い。
【0017】
前記風車枠4は、堆雪防止板3の上部の支柱2間に配設されており、複数の風車5の上下の軸を回転自在に支持している。
【0018】
前記風車5は、風車枠4内部の長手方向に沿って一列に配置されるとともに、隣接する風車5と風車5間の間隔xは風車5の羽根の直径a(図3)以内とされている。
これは、垂直軸タイプの風車5の後流の空気の乱れは、一般的に、回転する羽根の直径と同程度の幅間隔までの領域となるため、風車5間の間隔xを、風車の羽根直径a以内の間隔にすることで、視程障害緩和を道路全域に及ぼすことができるからである。
また、風車5間に所定の間隔xを設定することで、ドライバーは道路側方の景色等を視認できるようになり、圧迫感や閉塞感をなくして、開放感を得ることができる。
【0019】
また、本実施例では、風車5の高さを2.0〜3.0mとしている。これは、垂直軸風車5の場合、後述するように、風車5の回転力により、風車5の後流側では風の巻き上げ効果が発揮され、従来の防雪柵に較べて高さを2/3程度に低く抑えても道路の車線全域の風速を低減させることが出来るからである。因みに、従来の防雪柵の場合、二車線道路(幅員約10m)では、高さが3m程度、四車線道路では、高さが4m程度である。
【0020】
以上のような視程障害緩和装置1の作用等について、図4に基づき説明する。
風速が強まり、吹雪による視程障害発生条件を満たすようになると、垂直軸風車5は回転は風速に比例した速度で回転し、風車5の風下側の風はエネルギーを取られて風速が低減する。そして、風速が強まれば強まるほど風車の回転速度は大きくなり、クロスフロー型風車による風洞実験の結果、風車5から風下側に向けて風車5の高さの4倍程度の距離まで、風上側の風速100に対して、40以下の風速に減速でき、また、その後も一般流のに流れに沿って流れるため、風車5の高さの8〜10倍程度の距離まで弱風域が形成されることが確認されている。
また、実際の道路に垂直軸風車5を並べて設置したテスト例でも、風車5の風上側の風速12m/s(視程28m程度)の吹雪に対して、風車5の風下側では、道路二車線以上まで視程80m以上が確保されている。
【0021】
このため、風速の減少に伴って吹雪による視程障害は緩和され、走行車両の前方視認性が大幅に改善され、見え方が向上する。そして、この視程の改善は、風速が高まれば高まるほど垂直軸風車5の回転速度が増大することもあって、吹雪の視程障害緩和に極めて有効である。
また、高さ方向についても、風車5を利用した場合は、後流が巻き上げられるように上昇するため、弱風域の最大高さが風車5の高さの1.5倍程度まで拡大されることも確認されている。これに対して、従来の防雪柵51の場合は、図4(b)に示すように、弱風域の最大高さは、防雪柵51の高さとほぼ同一である。
なお、このような従来の防雪柵51の一例は、主風向側の道路の路肩に沿って配設される堆雪防止板52と、この堆雪防止板52の上部に取り付けられる有孔折板53を備えており、この有孔折板53は、多数のパンチ孔を有しており、また強度補強のため水平方向の折り曲げ線でジグザグ状に折り曲げられている。
【0022】
また、風車5を利用する場合、風車5が回転体であるため、風に対する支柱2等の強度要求値は、従来の防雪柵51の固定式の支柱の強度要求値に較べて少なくて済むようになり、しかも、支柱2等の高さも、前述のように従来の防雪柵51に較べて2/3程度で同じ効果が得られることから、従来に較べて設置コストの削減が可能である。
【0023】
また、風車5が垂直軸タイプの風車であるため、強風が吹いても損傷しにくく、水平軸タイプの風車に較べて耐久性が高い。
更に、前述のようにドライバーは道路側方の景色等を視認できるようになり、圧迫感や閉塞感を防止して、開放感を得ることができる。
【0024】
ところで、図5に示すように、隣接する風車5間にセパレータ部材6を配設するようにしても良い。このセパレータ部材6は、隣の風車5が回転することによる風の影響が、その隣の風車5に影響を及ぼさないように配設されるものであり、このようなセパレータ部材6を配設することにより、風車5の回転方向を全て同一にしても、風車5間の風が干渉し合うような不具合がなくなり、風車5の羽根の向きを変更しなくても、道路全域の気流の攪拌効果を高めることができる。
因みに、このセパレータ部材6の奥行長さ(風車5と風車5を結ぶ線に対して直角方向の長さ)は、風車5の羽根の直径+直径×20%以内程度にすることが好ましい。
【0025】
また、これらの風車5に発電機を取り付けて、得られた発電を視線誘導や融雪に利用することも可能である。このように風車5の発電を利用するようにすれば、環境に優しいエネルギーによってより安全な車両運行を図ることができる。
【0026】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、垂直軸タイプの風車として、サボニウス型に限られるものではなく、また、本視程障害緩和装置は、道路以外に鉄道等の軌道にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
道路の主風向側の路肩に配設した堆雪防止板の上部に垂直軸風車を配置することにより、道路の視程障害が緩和され、円滑な交通と安全走行が図られる。また、ドライバーに対して圧迫感や閉塞感を与えるような不具合もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る視程障害緩和装置の設置概要図
【図2】視程障害緩和装置の基本構造の要部を示す正面図
【図3】同平面図
【図4】本視程障害緩和装置の作用を従来と比較して示す作用図で、(a)は本発明の場合、(b)は従来例
【図5】風車間にセパレータ部材を配設した例の平面図
【符号の説明】
【0029】
1…視程障害緩和装置、3…堆雪防止板、5…垂直軸風車、6…セパレータ部材、a…羽根直径、x…風車間隔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路や軌道の主風向側の路肩に沿って堆雪防止板を配設し、この堆雪防止板の上部に垂直軸タイプの複数の風車を一列に並べて配置するとともに、隣接する風車間の間隔を、風車の羽根直径以内の間隔にすることを特徴とする視程障害緩和装置。
【請求項2】
前記風車と風車の間に、セパレータ部材を配設することを特徴とする請求項1に記載の視程障害緩和装置。
【請求項3】
前記風車によって発電機を起動させ、その発電を視線誘導または融雪に利用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の視程障害緩和装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−9300(P2006−9300A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184616(P2004−184616)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(591135082)日本道路公団 (8)
【出願人】(595008869)株式会社応用気象エンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】