視野測定方法
【課題】人間の視野が心理的に狭くなりやすい特殊な状況における被験者の視野を定量的に測定するための方法および装置を提供する。
【解決手段】人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示し、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させ、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に基づいて被験者Sの視野を測定する。視覚刺激VSを、顔画像50における頭髪の領域上、および顔と頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させる。
【解決手段】人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示し、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させ、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に基づいて被験者Sの視野を測定する。視覚刺激VSを、顔画像50における頭髪の領域上、および顔と頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野測定方法および視野測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の視野の広さや視野欠損を測定するための方法や装置が提案されている。視野とは、網膜の黄斑部の中心にあたる中心窩を基準として、視覚刺激を処理することができる上下左右方向の視角の大きさである。視野については、次のように考えられている。健常者の視野は、垂直方向の上側が60度程度、下側が75度程度である。水平(左右)方向では、単眼の場合、鼻側が60度程度、耳側が100度程度である。よって、両眼では、正面を中心として左右に120度程度の視角が重複して観察される。このうち、中心窩から20度程度の中央の円形の視野領域を中心視野とよび、その周囲の120度程度までのドーナツ状の視野領域を周辺視野という。一般に中心視野は周辺視野よりも空間分解能が高く、また周辺視野では色覚が失われる。
例えば、被験者が緑内障などの視覚障害を発症している場合には、視野の一部に欠損が生じている可能性があるため、視野を測定することで視覚障害の進行度合いを検査することができる。
【0003】
視野は、被検眼を動かさず、視標となる視覚刺激の方を動かして、被験者が認識できる領域の最大範囲を測定して求めることが一般的である。視野の測定方法には、大別して静的視野測定と動的視野測定とがある。静的視野測定は、固定点の輝度を徐々に増加させながら網膜感度を調べる方法である。動的視野測定は、発光点を移動させて視覚機能を調べる方法である。動的視野測定のうち、視野全体を定量的に測定する方法を動的量的視野測定と呼称する。動的視野測定にはゴールドマン視野計を用いることが一般的である。
【0004】
特許文献1には、被験者が視点を固定する固視点(要注視点)を表示し、視標となる発光点を固視点の周囲で渦巻状に移動させる視野測定法が記載されている。この方法では、発光点が視野範囲外から周辺視野に入った瞬間に被験者は発光点の存在を認識する。被験者は遅滞なく押しボタンなどの操作部を操作して、発光点を認識したことを回答する。これにより、被験者の周辺視野の最外位置が取得される。
【0005】
特許文献2には、視覚刺激に対する被験者の目の動きを追尾し、視覚刺激の移動方向に視点が移動した場合に、被験者が視覚刺激を認識したと判定する視野検査システムが記載されている。このシステムによれば、被験者の主観的な回答操作によることなく、被験者が視覚刺激を視認可能な領域を客観的に判定することができるとされている。また、このシステムでは、被験者の現在の視点位置と要注視点との距離に基づいて、次の視覚刺激の表示位置が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−075350号公報
【特許文献2】特表2010−526623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人の視野の広狭は、目視対象に強く注目しているか否かという心理的要因によって著しく変動する。特に、目視対象が人の顔である場合、人間は本能的にその目に注目することが経験的に知られている。一方、人の顔の美容判断や人の動作分析など、人を観察対象として各種の動作を行う場合には、顔の一部分に局所的に注目するのではなく、顔の全体、または顔を含む全身を観察することが好適な場合がある。このことは、後記の参考実験を用いて詳述する。そして、被験者の周辺視野の医学的な最大範囲ではなく、目視対象が顔であることによる心理的要因によって狭くなった視野(以下、狭視野)を測定することは極めて有用である。
【0008】
これに対して、上記の特許文献1や特許文献2における視野の測定は、医学的見地から被験者の周辺視野の最大範囲を測定するものである。よって、これらの方法は、無地の背景の上で視覚刺激を渦巻状や直線状などの幾何学形状に沿って移動させるという、被験者の心理的要因を排した状態のもとで行われる。したがって、特許文献1や特許文献2の発明では、被験者の心理的要因に起因する狭視野を測定することはできない。
【0009】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、人間の視野が心理的に狭くなりやすい特殊な状況における被験者の視野を定量的に測定するための方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の視野測定方法は、人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の視野測定装置は、人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える。
【0012】
上記発明によれば、被験者は顔画像を目視することにより本能的に狭視野になりやすい状態にある。この状態で、顔の領域上にある要注視点を目視すると、被験者の視野は特に狭くなりやすい。このように被験者の視野が特に心理的に狭くなりやすい特殊な状況を形成したうえで被験者の視野を測定することにより、顔その他の対象物に対する被験者の目視の傾向を好適に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人間の視野が心理的に狭くなりやすい特殊な状況における被験者の視野を定量的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる視野測定装置の一例を示す構成図である。
【図2】本実施形態にかかる視野測定方法のフローチャートである。
【図3】顔画像の一例を示す図である。
【図4】顔画像および第一の視覚刺激を示す図である。
【図5】顔画像および第二の視覚刺激を示す図である。
【図6】視野決定ステップの変形例を示すフローチャートである。
【図7】人の顔を含まない風景画像を示す図である。
【図8】無地画像を示す図である。
【図9】顔画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図10】被験者の視野角の説明図である。
【図11】風景画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図12】無地画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図13】参考実験2に用いた顔サンプル画像を示す図である。
【図14】各集団の錯視正解率(%)を示すグラフである。
【図15】顔画像のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、被験者の目と顔画像との距離を変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【図16】顔画像のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、被験者の目と顔画像との距離を変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【図17】顔画像のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、刺激提示時間を変化させた場合の錯視正解率の推移を示すグラフである。
【図18】顔画像のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、刺激提示時間を変化させた場合の錯視正解率の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
(視野測定装置)
図1は、本発明の実施形態にかかる視野測定装置100の一例を示す構成図である。
【0017】
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
視野測定装置100は、人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示する顔画像提示部10と、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させる刺激発生部60と、を備えている。
【0018】
視野測定装置100は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるように、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット、等の汎用デバイスで構築されたハードウェア、所定の処理動作を実行するように構築された専用の論理回路、これらの組み合わせ、等で構成されている。
【0019】
視野測定装置100は、視線取得部20、視線データ蓄積部30および専門家データ記憶部32を更に備えている。顔画像提示部10、視線取得部20、視線データ蓄積部30、専門家データ記憶部32および刺激発生部60は互いに接続されている。
【0020】
顔画像提示部10は、液晶ディスプレイやスクリーンなどの画像表示装置である。顔画像提示部10は平面状であってもよく、または半球面状であってもよい。顔画像提示部10は被験者Sに正対して配置される。顔画像提示部10には顔画像50が表示される。被験者Sは、この顔画像50を目視する。
【0021】
顔画像50には要注視点RPが設定されている。この要注視点RPは、顔画像50に表示される視標でもよく、または顔画像50には表示されない仮想点でもよい。要注視点RPは、顔画像50における目の近傍に設定されることが好ましい。被験者Sは顔画像50における目に本能的に注目するため、目またはその近傍に要注視点RPを設定することで、被験者Sの視点が要注視点RPに集中しやすい。
【0022】
被験者Sが顔画像50を目視している間に、刺激発生部60は予め定められたパターンで顔画像50に視覚刺激VSを発生させる。刺激発生部60は、具体的にはCPUである。刺激発生部60は、被験者Sの周辺視野における知覚閾下の視覚刺激VSを、被験者Sの周辺視野と視野外とに発生させる。
【0023】
人の中心視野は空間分解能および時間分解能が高く、知覚閾値が低い。一方、周辺視野は、中心視野よりも空間分解能および時間分解能が低く、知覚閾値は中心視野よりも高くなる。本実施形態では、周辺視野における知覚閾値よりも低い視覚刺激VSを、被験者Sの視野外または周辺視野に発生させるため、被験者Sにとって周辺視野に発生した視覚刺激VSは閾下(サブリミナル)刺激となる。したがって、被験者Sは、視野外に発生した視覚刺激VSを認識せず、周辺視野に発生した視覚刺激VSを無意識下で認識する。
【0024】
なお、視覚刺激VSの刺激強度は、中心視野における閾上(スプリミナル)刺激であってもよく、または中心視野における閾下(サブリミナル)刺激であってもよい。
【0025】
刺激発生部60は、視野外および周辺視野に加えて、視覚刺激VSを被験者の中心視野に発生させてもよい。ただし、中心視野における閾上(スプリミナル)刺激の視覚刺激VSを中心視野内に発生させると、被験者Sは当該視覚刺激VSを意識下で察知して、要注視点RPに注目する心理が緩和される。したがって、中心視野に視覚刺激VSを発生させる場合は、視覚刺激VSの刺激強度を中心視野における閾下とするか、または、視野外および周辺視野に所定回数の視覚刺激VSを発生させた後に、中心視野に視覚刺激VSを発生させるようにすることが好ましい。これにより、被験者Sが要注視点RPに注目している状態における周辺視野の範囲を、被験者Sの無意識下で測定することができる。
【0026】
同様の理由により、所定の刺激時間に亘って、視覚刺激VSの発生を被験者Sに予告せずに間欠的または連続的にこれを発生させた後に、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に関する回答を被験者Sから取得するとよい。これにより、被験者Sが本能的に顔画像50の要注視点RPに注目して狭視野となっている状態を維持したままで、被験者Sの視野を測定することが可能である。具体的には、被験者Sからの回答に基づいて、要注視点RPからの距離がどの程度までの視覚刺激VSを被験者Sが認識したかを分析することで、顔画像50を目視している状態における被験者Sの周辺視野の最大範囲を判定することができる。
【0027】
視線取得部20は、視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って被験者の視線方向に関する視線データVDを取得する手段である。視線データ蓄積部30は、被験者Sから取得した視線データVDを記憶しておくための記憶手段である。視線取得部20には、眼検知装置(アイカメラ)を用いることができる。一例として、Tobii社製の注視点追跡システム(アイトラッカー)を好適に用いることができる。
【0028】
専門家データ記憶部32は、美容専門家を被験者として上記のように視野を測定した結果(専門家視線データPD)を記憶しておくための記憶手段である。視線取得部20、視線データ蓄積部30および専門家データ記憶部32の使用態様は後述する。
【0029】
(視野測定方法)
以下、本実施形態の視野測定装置100を用いて行う視野測定方法(以下、本方法という場合がある)について説明する。図2は本方法のフローチャートである。
【0030】
本方法の概要について説明する。本方法は、人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示し(図2:ステップS10)、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させ(図2:ステップS30)、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に基づいて被験者Sの視野を測定する(図2:ステップS70)ことを特徴とする。
【0031】
つぎに、本方法を詳細に説明する。図3は顔画像50の一例を示す図である。顔画像50は、人の顔と認識できる対象物を被写体として含む画像である。人間の頭部のほか、人間の頭部を模した人形の画像またはコンピュータグラフィクスでもよい。
【0032】
本方法では、視覚刺激VSを、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上、および顔FCと頭髪HRを含む頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)上に発生させる。視覚刺激VSを更に顔FCの領域上に発生させてもよい。
【0033】
要注視点RPは、顔画像50における両目の間または目EYの近傍に設定されている。本方法における目EYの近傍とは、顔画像50における両目の外接円OCの内部、またはこの外接円OC上を意味する。本実施形態の要注視点RPは顔画像50における両目の間に設定されている。本実施形態の要注視点RPは、顔画像50に表示される視標である。
【0034】
本方法で顔画像50に発生させる視覚刺激VSは、上述のように一般的な人(被験者S)の周辺視野における知覚閾下の強度であり、かつ中心視野における閾上の強度の刺激である。視覚刺激VSの具体的な態様は特に限定されない。視覚刺激VSは、点もしくは点とみなしうる微小領域でもよく、または線もしくは面の領域でもよい。
【0035】
顔画像50における顔FCの大きさは、一般的な成人の顔と略同等の大きさであることが好ましい。これにより、被験者Sが顔画像50を目視した場合の視野が、被験者Sが実際の人間を目視した場合の視野と略同等となる。
【0036】
ここで、顔画像50に視覚刺激VSを発生させるとは、被験者Sが顔画像50を目視したときに視覚刺激VSが顔画像50に重畳された状態に視認されるようにすることをいう。具体的な例としては、顔画像50における一または複数の画素の明度もしくは色成分と、その周囲の画素の明度もしくは色成分との比または逆比が所定以上となるように当該画素の画素値を変化させることが挙げられる。このほか、視覚刺激VSは、顔画像50の表面上または顔画像50と被験者Sの被検眼との空間的な間隙に配置された、発光体などの視標でもよい。
【0037】
以下、本方法では二通りの視覚刺激VSを例示する。第一の視覚刺激VS1は光点の瞬間的な発光である。かかる光点の光度および発光時間を所定以下にすることで、第一の視覚刺激VS1の刺激強度を被験者Sの周辺視野における知覚閾下に抑制することができる。第二の視覚刺激VS2は、顔画像50の画素値の変化である。各画素における画素値の変化速度を所定以下とし、また画素値を変化させる領域の移動速度を所定以下とすることで、第二の視覚刺激VS2の刺激強度を被験者Sの周辺視野における知覚閾下に抑制することができる。
【0038】
本実施形態の視野測定装置100においては、オペレータによる操作部(図示せず)の操作により、視覚刺激VSの態様(モード)が選択される(図2:ステップS10)。
【0039】
ステップS10において、被験者Sに対する顔画像50の提示タイミングと刺激モードの選択タイミングとの先後は任意である。さらに、視覚刺激VSの発生(ステップS30)の開始タイミングと、顔画像50を被験者Sに提示するタイミングの先後も任意である。すなわち本方法においては、被験者Sに顔画像50を提示した後に視覚刺激VSの発生を開始してもよく、または視覚刺激VSの発生が既に開始している顔画像50を被験者Sに提示してもよい。
【0040】
(第一の視覚刺激)
図4は、顔画像50および第一の視覚刺激VS1を示す図である。図4に示す第一の視覚刺激VS1は、上記のように、被験者Sの周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点1〜8(白丸で図示)の発光である。より具体的には、要注視点RPからの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の光点1〜8を順次点灯させ、被験者Sがその発光を認識した一または複数の光点1〜8と要注視点RPとの最大距離に基づいて被験者Sの視野を決定する。
【0041】
図4には、要注視点RPを中心とする同心円CCを便宜上図示しているが、かかる同心円CCは被験者Sに提示されない。光点1〜8は、異なる径の同心円CC上にそれぞれ配置されている。光点1〜8のうち番号が小さいものほど、大径の同心円CC上に配置されている。したがって、光点1〜8を番号順に、かつ間欠的に発光させることで、あたかも顔画像50の外縁から要注視点RPに向かって縮径する螺旋状に光点が移動するように視認される第一の視覚刺激VS1が発生する。
【0042】
オペレータは、被験者Sに対して、顔画像50の目EYまたは要注視点RPに注目するように指示する。被験者Sが目EYまたは要注視点RPに視線をあわせている間に、光点1を短時間(単発光時間)に亘って発光させる。かかる発光は点灯でも点滅でもよい。単発光時間は、1ミリ秒以上100ミリ秒未満が好ましく、10ミリ秒以上50ミリ秒以下が更に好ましい。発光時間が過小であると被験者Sによっては視野が過小に評価され、発光時間が過大であると被験者Sによっては第一の視覚刺激VS1が周辺視野における閾上刺激となる場合がある。上記範囲の単発光時間とすることで、光点1〜8の発光は被験者Sの閾下(サブリミナル)刺激となる。以下、かかる顔画像50をサブリミナル動画と呼ぶ。
【0043】
光点1〜8の一部(光点1〜4)は顔画像50における頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)に設定されている。光点1〜8の他の一部(光点5〜7)は、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上に設定されている。光点1〜8の更に他の一部(光点8)は、顔画像50における顔FCの領域上に設定されている。光点8は一般的な被験者Sの中心視野に含まれる。
【0044】
光点1〜8の発光が終了すると(図2:ステップS40)、オペレータは被験者Sに対して、一以上の光点を発光させた事実を告知する。被験者Sは、意識下で認識した発光の位置を、口頭または顔画像50へのポインティングにより回答する(図2:ステップS60)。本方法において、総ての光点1〜8の位置は、要注視点RPを中心として異なる方向にある。言い換えると、要注視点RPを基端として光点1〜8を先端とする個々のベクトル(図示せず)は互いに一致しない。このため、被験者Sは、発光を認識した光点の位置のみならず、要注視点RPを基端とする光点の方向を回答してもよい。これにより、被験者Sが認識した光点1〜8を容易に識別することができる。
【0045】
また、光点1〜8は、要注視点RPからの距離が互いにすべて異なっている。視野決定ステップS70では、被験者Sが認識した光点(たとえば、光点6〜8)のうち、要注視点RPからの距離が最大であるもの(光点6)を、被験者Sの周辺視野の外縁と定める。そして、当該光点(光点6)が載る同心円CCの半径を、顔画像50を目視しているときの被験者Sの狭視野の範囲と決定する。
【0046】
(第二の視覚刺激)
図5は、顔画像50および第二の視覚刺激VS2を示す図である。図5に示す第二の視覚刺激VS2は、顔画像50の画素値を変化させることによって与えられる動画像である。具体的には、要注視点RPを囲む異径の複数の環状領域CAを顔画像50に設ける。環状領域CAに含まれる画素の画素値を、周辺視野における知覚閾下で時間変化させる。そして、画素値が変化したことを被験者Sが認識した一または複数の環状領域CAのうちの最大半径に基づいて視野を決定する。
【0047】
図5にも、要注視点RPを中心とする同心円CCが便宜上図示されているが、かかる同心円CCは被験者Sに提示されない。環状領域CAは、同心円CCで隔てられた領域であり、多数の画素を包含している。図中の(1)〜(8)の数字は、要注視点RPを中心として、遠位にある環状領域CA(1)から近位にある環状領域CA(7)、さらに中心の円形領域(8)に向かって順に符号を付したものである。
【0048】
オペレータは、被験者Sに対して、顔画像50の目EYまたは要注視点RPに注目するように指示する。被験者Sが目EYまたは要注視点RPに視線をあわせている間に、環状領域CA(1)に含まれる画素の画素値を変化させる。本方法では、変化前の明度を所定の割合(変化比率)だけ増大させる。この変化比率が過小であると、被験者Sによっては画素値の変化を知得することができず視野が過小に評価される。また、変化比率が過大であると被験者Sによっては第二の視覚刺激VS2が周辺視野における閾上刺激となる場合がある。本方法では、環状領域CAに含まれる画素の明度または輝度を、10%以上50%未満の増加率にて増大させることが好ましい。以下、かかる顔画像50をフェードアウト動画と呼ぶ。
【0049】
環状領域CA(1)からCA(3)は、顔画像50における頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)に設定されている。環状領域CA(4)およびCA(5)は、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上に設定されている。環状領域CA(6)およびCA(7)は、顔FCの一部または全部を包含している。
【0050】
環状領域CA(1)に含まれる画素の明度を所定の割合(変化比率)で変化させた後、当該環状領域CA(1)の内側に隣接する環状領域CA(2)に含まれる画素の明度の変化を開始させる。以下順に環状領域CA(7)まで、各環状領域に含まれる画素の明度を変化させる。更に、環状領域CA(7)の内側の、要注視点RPを含む円形領域(8)の明度を変化させると、第二の視覚刺激VS2の発生が終了する(図2:ステップS40)。
【0051】
以下、オペレータは被験者Sに対して、顔画像50の画素値を変化させた事実を告知する。被験者Sは、画素値の変化を意識下で認識した位置を、口頭または顔画像50へのポインティングにより回答する(図2:ステップS60)。
【0052】
ここで、環状領域CAの数は特に限定されないが、これを5以上とすることで、被験者Sの視野を実用的な解像度で測定することができる。また、環状領域CAの数は20以下が好ましい。環状領域CAの数が過大であると、個々の環状領域CAの幅寸法が微小となるため、顔画像50の外縁から要注視点RPに向かって、画素値が変化する画素が実質的に連続的に進行することとなる。これにより、被験者Sが画素値の変化に気づきにくくなって視野が過小に評価される。これに対し、環状領域CAの数が上記の範囲内であると、個々の環状領域CAが所定の幅寸法をもつため、画素値が変化する領域が要注視点RPに向かって段階的に進行することとなる。これにより、被験者Sは、周辺視野の内側の画素の画素値が変化したことを意識下で好適に認識することができる。
【0053】
視野決定ステップS70では、画素値の変化を被験者Sが最初に認識した環状領域CAを、被験者Sの周辺視野の外縁と定める。具体的には、環状領域CAの幅中心の半径、または環状領域CAの内周縁の半径を、顔画像50を目視しているときの被験者Sの狭視野の範囲と決定する。
【0054】
(その他の工程)
視野提示ステップS80では、視野決定ステップS70で決定された視野を被験者Sに提示する。ここで、視野を提示するとは、視野の範囲を提示する場合のほか、顔画像50と被験者Sとの位置関係および上記視野に基づいて算出される視角を提示する場合を含む。
【0055】
本方法では、一の被験者Sと、美容専門家である他の被験者と、から上記の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定する。美容専門家の視野を表す専門家視線データPDは、専門家データ記憶部32(図1を参照)に記憶されている。被験者Sは美容の素人(美容非専門家)であるとする。そして、一の被験者Sの視野(素人視野)と、他の被験者(美容専門家)の視野(専門家視野)と、を対比して一の被験者Sに提示する。これにより、人の顔を目視するときに美容専門家と美容非専門家とで視野範囲が異なることを被験者Sに対して定量的に示すことができる。具体的には、要注視点RPを中心とする二つの円形を顔画像50に重畳的に表示することにより、被験者Sの視野と美容専門家の視野を対比するとよい。
【0056】
(視線追跡)
本方法では、視線取得部20を用いて、視覚刺激VSを目視する被験者Sの視線データVDを取得し、これを視線データ蓄積部30に記憶する(図1を参照)。具体的には、視線取得部20は、被験者Sの頭部に向かって赤外線などの光ビームを照射するとともに、その反射光を受光する。視線取得部20は、受光光を画像化し、画素のコントラストに基づいて被験者Sの瞳孔位置を算出することで、被験者Sの目の位置を検出してその視点位置(視線方向)を数値データまたは画像データとして取得する。
【0057】
顔画像50を被験者Sに提示(図2:ステップS10)した後に、被験者Sの視線データVDの取得を開始する(図2:ステップS20)。ただし、視線データVDの取得開始のタイミングは図2に限定されるものではなく、視覚刺激VSの発生を開始(図2:ステップS30)した後でもよい。そして、視覚刺激VSの発生を停止(図2:ステップS40)後に、視線データVDの取得を終了する(図2:ステップS50)。
【0058】
被験者Sの視線データVDを取得することにより、視覚刺激VSの発生中に被験者Sが要注視点RPを注目しているか否かを把握することができる。また、視線データVDを用いることで、被験者Sの視野を高精度で測定することができる。以下説明する。
【0059】
図6は、視野決定ステップS70の変形例を示すフローチャートである。視線取得部20が視線データVDを取得すると、視野測定装置100のCPUは、被験者Sの視点位置が要注視点RPから所定の正常範囲内に含まれているか否かを判定(図6:ステップS71)する。被験者Sの視点位置が正常範囲内に収まっていないと判定された場合には(図6:ステップS71=NO)、かかる判定結果を示す報知出力を行うとともに視野測定を中止してもよい。
【0060】
正常の視点位置であると判定された場合には(図6:ステップS71=YES)、視覚刺激VSの発生履歴を示す刺激履歴データと、視線データVDとを時刻情報に基づいて同期させる(図6:ステップS72)。刺激履歴データと視線データVDは、相互に対応づけが可能な時刻情報を共に包含している。これにより、視覚刺激VSの発生位置と、その瞬間の被験者Sの目視点との乖離距離が算出される(図6:ステップS73)。
【0061】
オペレータは、被験者Sが意識下で認識した視覚刺激VS(図4の光点1〜8、または図5の環状領域CA)に関する回答を受け付けると(図2:ステップS60)、上記の乖離距離の最大値に基づいて、目視点からの最大距離を算出する(図6:ステップS74)。かかる最大距離を、被験者Sの周辺視野の最大範囲とする。
【0062】
すなわち、本方法では、視線データVDと視覚刺激VSの発生位置を示す位置情報とに基づいて、被験者Sが認識した一または複数の視覚刺激VSの発生位置と被験者Sの目視点との最大距離を算出する。そして、この最大距離から被験者Sの視野を決定する。
【0063】
これにより、被験者Sの視点が無意識のうちに要注視点RPから離間していた場合でも被験者Sの狭視野を好適に測定することができる。
【0064】
以下、本実施形態の視野測定方法の如く人の顔を目視した場合の視野範囲を測定することが有効であることを示す参考実験の結果を説明する。
【0065】
<参考実験1>
参考実験1では、美容専門家の視野と美容非専門家の視野との広狭の差異が目視対象によって変化し、特にこれが人の顔である場合に顕著な差異となることを検証した。
図7は、人の顔を含まない風景画像51を示す図である。風景画像51はカラー画像である。図8は、無地画像52を示す図である。風景画像51および無地画像52には、要注視点RPと、要注視点RPを中心とする同心円CCが内部的に設定されている。要注視点RPは、風景画像51および無地画像52のそれぞれ中心付近に設定されている。なお、図7および図8では要注視点RPおよび同心円CCを便宜上図示しているが、これらは被験者Sには提示されない。図7および図8の各同心円CC上には、図4の顔画像50(サブリミナル動画)と同様に光点1〜8が配置されている。すなわち、図7は風景画像51のサブリミナル動画であり、図8は無地画像52のサブリミナル動画である。
【0066】
さらに、図7の風景画像51に加えて、図5の顔画像50(フェードアウト動画)と同様に要注視点RPを中心とする環状領域CAを画成し、遠位にある環状領域CAから近位にある環状領域CAに向かって、各環状領域CAに含まれる画素の画素値を変化させるフェードアウト動画(図示せず)を用意した。また、図8の無地画像52に関しても、同様にフェードアウト動画を用意した。
【0067】
顔画像50、風景画像51、無地画像52のサブリミナル動画およびフェードアウト動画について、20人の被験者Sによる視野の測定を実施した。20人の被験者Sのうち、美容専門家は5人、美容非専門家は15人とした。
【0068】
図4に示すサブリミナル動画において、顔画像50を被験者に提示してから所定時間経過後に光点1を発光させた。そして、光点1、光点2、・・・と次の光点が発光するまでの時間(発光間隔)を2秒として、光点8までを順番に、かつ間欠的に1回ずつ発光させた。したがって、光点1の発光から光点8の発光までの時間は14秒である。光点1から光点8の個々の点灯時間は30ミリ秒とした。すなわち、このサブリミナル動画は、0.03秒の発光と1.97秒の非発光とを繰り返す動画像である。以下、光点1の発光開始から光点8の発光終了までの時間を、サブリミナル動画における刺激提示時間という。
【0069】
図5に示すフェードアウト動画に関しては、顔画像50の提示開始より、環状領域CA(1)から環状領域CA(7)、そして円形領域(8)まで、順番にかつ連続的に、各領域内の画素の明度を20%だけ増大させた。各領域の画素の明度を3秒〜4秒で増大させ、顔画像50の全体の明度を合計約30秒で増大させた。以下、環状領域CA(1)の画素値の変化開始から円形領域(8)の画素値の変化終了までの時間を、フェードアウト動画における刺激提示時間という。
【0070】
図7の風景画像51および図8の無地画像52に関しても、サブリミナル動画とフェードアウト動画における視覚刺激は顔画像50と同様とした。
【0071】
図9は、顔画像50に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。美容専門家の測定結果を円で囲んである。視野角は、被験者Sが視覚刺激を認識した最大範囲FOVを表す頂角θ(図10を参照)である。図4、図5に示す顔画像50の縦寸法は28.5cm、横寸法は38cm、被験者Sから顔画像50までの距離を45cmとした。風景画像51および無地画像52に関しても同様とした。
【0072】
図9の結果から、人の顔を含む顔画像50の場合、サブリミナル動画とフェードアウト動画との相違によらず、美容専門家の視野は美容非専門家の視野に比べて顕著に広いことが分かった。
【0073】
図11は、風景画像51に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。図12は、無地画像52に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【0074】
図11と図12の結果から、美容専門家と美容非専門家の視野の広狭に有意な差異は見られなかった。すなわち、被験者Sのうち、美容専門家の視野が美容非専門家の視野よりも医学的に元々広かったわけではないことが分かる。したがって、美容専門家が美容非専門家に比べて広い視野で人の顔を目視するという傾向は、訓練または経験によって美容専門家が身に付けた能力であると考えられる。
【0075】
<参考実験2>
参考実験2では、美容専門家が美容非専門家に比べて、肌色の見え方の印象変化に関して高い感度をもっていることを検証した。図13は、参考実験2に用いた顔サンプル画像53を示す図である。
【0076】
本発明者の検討によれば、色の同化や対比などの視覚的効果によって、髪色を変化させた場合に肌色の見え方が変化することが明らかとなっている。より具体的には、髪色の明度を変化させた場合には、対比効果が生じて、肌色の見た目の明度が反対方向に変化することが実験的に明らかとなっている。そして、髪色の彩度または色相を変化させた場合には、同化効果が生じて、肌色の見た目の彩度または色相が同方向に変化することが実験的に明らかとなっている。したがって、染毛料等を用いて髪色を変化させる場合には、髪色の変化に起因して肌色の見え方が変化する錯視効果を考慮して、髪色と肌色との似合いを判断することが好ましい。
【0077】
(錯視試験)
そこで、図13に示す頭髪HRの彩度・明度・色相を変化させた場合に、顔FCの肌色に同化効果または対比効果(以下、あわせて錯視効果)が生じることを被験者Sが正確に判断できるか否かをもって、人の顔の美容判断の的確性を測定した。具体的には、まず図13の顔サンプル画像53と、当該顔サンプル画像53の頭髪HRの彩度を7%(=7/100)だけ増加させた他の画像(高彩度画像:図示せず)とを被験者Sに対比観察させた。そして、どちらの肌色が鮮やか、すなわち彩度が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。高彩度画像の肌色が鮮やかに見えるという回答が正解である。
同様に、図13に示す頭髪HRの明度を7%(=7/100)だけ増加させた高明度画像(図示せず)と、逆に明度を7%(=7/100)だけ低下させた低明度画像(図示せず)を用意し、それぞれの画像と図13の顔サンプル画像53とを被験者Sに対比観察させた。そして、どちらの肌色の明度が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。髪色と肌色との明度の対比効果によって、高明度画像の肌色は元の顔サンプル画像53の肌色よりも暗く(低明度に)見え、逆に低明度画像の肌色は元の顔サンプル画像53の肌色よりも明るく(高明度に)見えるという回答が正解である。
さらに、図13に示す頭髪HRの色相に関して、約2%(=7/360)だけ黄味を帯びさせた(以下、色相を高くした)高色相画像(図示せず)と、逆に約2%(=7/360)だけ赤味を帯びさせた(以下、色相を低くした)低色相画像(図示せず)を用意し、それぞれの画像と図13の顔サンプル画像53とを被験者Sに個別に対比観察させた。そして、どちらの肌色の色相が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。髪色と肌色との色相の同化効果によって、高色相画像の肌色の色相は高く(黄味を帯びて)見え、低色相画像の肌色の色相は低く(赤味を帯びて)見えるという回答が正解である。
【0078】
これらの錯視効果による肌色の見え方の繊細な変化に関して、以下の集団の正解率を算出した。
(1)顔広視野集団:図9で右上にプロットされた、顔画像50に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(2)顔狭視野集団:図9で左下にプロットされた、顔画像50に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
(3)風景広視野集団:図11で右上にプロットされた、風景画像51に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(4)風景狭視野集団:図11で左下にプロットされた、風景画像51に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
(5)無地広視野集団:図12で右上にプロットされた、無地画像52に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(6)無地狭視野集団:図12で左下にプロットされた、無地画像52に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
【0079】
図14は、上記(1)〜(6)の各集団の錯視正解率(%)を示すグラフである。各集団の錯視正解率は、(1)顔広視野集団=92%、(2)顔狭視野集団=48%、(3)風景広視野集団=72%、(4)風景狭視野集団=64%、(5)無地広視野集団=64%、(6)無地狭視野集団=68%であった。なお、強制二者択一法であるため、当て推量による回答の錯視正解率は50%である。
【0080】
この結果より、顔画像50に対する視野角が大きい顔広視野集団は錯視正解率が顕著に高く、顔狭視野集団の錯視正解率に対して約2倍となった。これに対し、風景広視野集団と風景狭視野集団の錯視正解率に有意な差異は見られなかった。同様に、無地広視野集団と無地狭視野集団の錯視正解率にも有意な差異は見られなかった。この結果より、美容判断においては美容専門家のように人の頭部を広い視野で観察することが有効であることが分かった。
【0081】
<参考実験3>
視野を広げることにより錯視正解率が向上することを検証した。図15は、顔画像50のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団(1a)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2a)について、被験者Sの目と顔画像50との距離を45cm、90cm、135cmに変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
図16は、顔画像50のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団(1b)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2b)について、被験者Sの目と顔画像50との距離を45cm、90cm、135cmに変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【0082】
図15および図16の結果より、視野角の小さい被験者Sでも、遠い距離から顔画像50を観察することで、頭部HDの全体を観察することができ、結果として錯視効果の発生を正確に判断できるようになることが分かった。
【0083】
これにより、美容判断にあたっては、頭髪HRや顔FCを局所的に観察するのではなく、頭部HDの全体を大局的に観察することが有効であることが明らかとなった。したがって、本実施形態の視野測定装置100を用いて行う視野測定方法により、顔画像50に対する被験者Sの視野を測定することが有効である。そして、被験者Sの視野が十分でない場合には、測定結果を専門家視線データPDと対比して提示することが有効である。
【0084】
<参考実験4>
視覚刺激VSの付与時間に好適な数値範囲があることを明らかにした。参考実験1と同様に顔画像50のサブリミナル動画(図4)を被験者に目視させて視野角を測定した。本実験では、15人の被験者に対して、5秒間の刺激提示時間(光点1の発光開始から光点8の発光終了までの時間)に亘って顔画像50および第一の視覚刺激VS1を提示した。光点1から光点8の個々の発光時間は参考実験1と同様に30ミリ秒とし、各光点の発光間隔を均等とした。光点8の発光の終了後に、当該被験者が発光を認識した光点を口頭で回答させて、参考実験1と同様に視野角を算出した。
【0085】
その結果から、顔画像50のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団(1a)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2a)とを抽出した。
この集団(1a)と(2a)に対して、参考実験2および参考実験3と同様に図13の顔サンプル画像53とその高彩度画像を用いた錯視試験を実施して、錯視正解率を求めた。
【0086】
以上と同様の視野角測定および錯視試験を、異なる15人の被験者に対して、刺激提示時間を5秒から10秒に代えて実施した。更に、異なる15人の被験者を12組用意し、刺激提示時間を、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、60秒、75秒、90秒、120秒と変化させて、同様の視野角測定および錯視試験を行った。刺激提示時間と錯視正解率との関係を図17に示す。
【0087】
つぎに、更に異なる15人の被験者に対して、顔画像50のフェードアウト動画(図5)を目視させて視野角を測定した。このときの刺激提示時間(環状領域CA(1)の画素値の変化開始から円形領域(8)の画素値の変化終了までの時間)も5秒とした。視野角の大きい5人の集団(1b)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2b)とを抽出した。この集団(1b)と(2b)に対して、上記と同様に錯視試験を実施して錯視正解率を求めた。
【0088】
更に異なる15人の被験者を13組用意して、刺激提示時間を、10秒、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、60秒、75秒、90秒、120秒と変化させて、同様にフェードアウト動画に対する視野角測定、および錯視試験を行った。刺激提示時間と錯視正解率との関係を図18に示す。
【0089】
図17および図18の結果より、視野角が大きい集団(1a)および(1b)は、刺激提示時間が15秒以上45秒以下の場合に、特に高い錯視正解率になることが分かった。これは、15秒以上の刺激提示時間であることで、落ち着いて十分な注意をもって顔画像50を目視できたためと推察される。また、刺激提示時間が45秒以下であることで、被験者Sの脳が自発活動を始める前に刺激の発生が終了したため、要注視点RPを中心とする顔画像50の全体観察が集中力を持続したまま行われたものと推察される。
【0090】
これに対し、刺激提示時間が50秒以上になると、視野角が小さい集団(2a)および(2b)の錯視正解率が、集団(1a)および(1b)と略同等となった。これは、45秒を超える刺激提示を受けて、いずれの集団の被験者も脳が無意識のうちに自発活動を初めて視点が移動を始め、結果として要注視点RPへの注視が失われたためと推察される。すなわち、刺激提示時間が長くなると被験者の視点が無意識のうちに移動し始めるため視野角の測定精度が低下し、顔画像50の全体観察が可能で錯視正解率が高い集団と、視野角の大きい集団とが一致しなくなったためと考えられる。
【0091】
したがって、被験者Sの視野を測定するにあたっては、視覚刺激VSを間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下であることが好ましい。15秒以上であることで被験者Sの視点が要注視点RPに定まって顔画像50の好適な全体観察が可能となる。また、45秒以下であることで、顔画像50の要注視点RPへの注視が継続でき、周辺視野の内側に発生した視覚刺激VSを的確に認識することが可能である。
【0092】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする視野測定方法;
(2)前記視覚刺激を、前記顔画像における頭髪の領域上、および前記顔と前記頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させることを特徴とする請求項1に記載の視野測定方法;
(3)前記要注視点が、前記顔画像における両目の間または目の近傍である上記(1)または(2)に記載の視野測定方法;
(4)前記被験者の周辺視野における知覚閾下の前記視覚刺激を、前記被験者の周辺視野と視野外とに発生させる上記(1)から(3)のいずれかに記載の視野測定方法;
(5)前記視覚刺激が、前記周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点の発光であり、前記要注視点からの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記光点を順次点灯させ、前記被験者が前記発光を認識した一または複数の前記光点と前記要注視点との最大距離に基づいて前記視野を決定する上記(4)に記載の視野測定方法;
(6)前記視覚刺激が前記顔画像の画素値を変化させることによって与えられるとともに、前記要注視点を囲む異径の複数の環状領域を前記顔画像に設け、前記環状領域に含まれる画素の画素値を前記周辺視野における知覚閾下で時間変化させ、前記画素値が変化したことを前記被験者が認識した一または複数の前記環状領域のうちの最大半径に基づいて前記視野を決定する上記(4)に記載の視野測定方法;
(7)前記視覚刺激の発生を前記被験者に予告せずに所定の刺激時間に亘って前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させた後に、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に関する回答を前記被験者から取得する上記(1)から(6)のいずれかに記載の視野測定方法;
(8)前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って前記被験者の視線方向に関する視線データを取得する上記(1)から(7)のいずれかに記載の視野測定方法;
(9)前記視線データと前記視覚刺激の発生位置を示す位置情報とに基づいて、前記被験者が認識した一または複数の前記視覚刺激の発生位置と前記被験者の目視点との最大距離を算出し、前記最大距離から前記視野を決定する上記(8)に記載の視野測定方法;
(10)前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下である上記(1)から(9)のいずれかに記載の視野測定方法;
(11)一の被験者と、美容専門家である他の被験者と、から上記(1)から(10)のいずれかに記載の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定し、前記一の被験者の視野と、前記他の被験者の視野と、を対比して前記一の被験者に提示することを特徴とする視野測定方法;
(12)人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える視野測定装置。
【0093】
本発明の視野測定方法は、順番に記載された複数の工程を用いて説明される場合があるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番やタイミングを限定するものではない。このため、本発明の視野測定方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障のない範囲で変更することができ、また複数の工程の実行タイミングの一部または全部が互いに重複していてもよい。
また、本発明の視野測定装置の各種の構成要素は、その機能を実現するように形成されていればよく、たとえば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたデータ処理装置または画像処理装置、コンピュータプログラムによりデータ処理装置または画像処理装置に実現された所定の機能、これらの任意の組み合わせ、等として実現することができる。本発明の視野測定装置の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【符号の説明】
【0094】
1〜8:光点、10:顔画像提示部、20:視線取得部、30:視線データ蓄積部、32:専門家データ記憶部、50:顔画像、51:風景画像、52:無地画像、53:顔サンプル画像、60:刺激発生部、100:視野測定装置、θ:頂角、CA:環状領域、CC:同心円、EY:目、FC:顔、FOV:最大範囲、HD:頭部、HR:頭髪、OC:外接円、PD:専門家視線データ、R1:頭髪領域、R2:頭部外領域、RP:要注視点、S:被験者、VD:視線データ、VS:視覚刺激、VS1:第一の視覚刺激、VS2:第二の視覚刺激
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野測定方法および視野測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の視野の広さや視野欠損を測定するための方法や装置が提案されている。視野とは、網膜の黄斑部の中心にあたる中心窩を基準として、視覚刺激を処理することができる上下左右方向の視角の大きさである。視野については、次のように考えられている。健常者の視野は、垂直方向の上側が60度程度、下側が75度程度である。水平(左右)方向では、単眼の場合、鼻側が60度程度、耳側が100度程度である。よって、両眼では、正面を中心として左右に120度程度の視角が重複して観察される。このうち、中心窩から20度程度の中央の円形の視野領域を中心視野とよび、その周囲の120度程度までのドーナツ状の視野領域を周辺視野という。一般に中心視野は周辺視野よりも空間分解能が高く、また周辺視野では色覚が失われる。
例えば、被験者が緑内障などの視覚障害を発症している場合には、視野の一部に欠損が生じている可能性があるため、視野を測定することで視覚障害の進行度合いを検査することができる。
【0003】
視野は、被検眼を動かさず、視標となる視覚刺激の方を動かして、被験者が認識できる領域の最大範囲を測定して求めることが一般的である。視野の測定方法には、大別して静的視野測定と動的視野測定とがある。静的視野測定は、固定点の輝度を徐々に増加させながら網膜感度を調べる方法である。動的視野測定は、発光点を移動させて視覚機能を調べる方法である。動的視野測定のうち、視野全体を定量的に測定する方法を動的量的視野測定と呼称する。動的視野測定にはゴールドマン視野計を用いることが一般的である。
【0004】
特許文献1には、被験者が視点を固定する固視点(要注視点)を表示し、視標となる発光点を固視点の周囲で渦巻状に移動させる視野測定法が記載されている。この方法では、発光点が視野範囲外から周辺視野に入った瞬間に被験者は発光点の存在を認識する。被験者は遅滞なく押しボタンなどの操作部を操作して、発光点を認識したことを回答する。これにより、被験者の周辺視野の最外位置が取得される。
【0005】
特許文献2には、視覚刺激に対する被験者の目の動きを追尾し、視覚刺激の移動方向に視点が移動した場合に、被験者が視覚刺激を認識したと判定する視野検査システムが記載されている。このシステムによれば、被験者の主観的な回答操作によることなく、被験者が視覚刺激を視認可能な領域を客観的に判定することができるとされている。また、このシステムでは、被験者の現在の視点位置と要注視点との距離に基づいて、次の視覚刺激の表示位置が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−075350号公報
【特許文献2】特表2010−526623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人の視野の広狭は、目視対象に強く注目しているか否かという心理的要因によって著しく変動する。特に、目視対象が人の顔である場合、人間は本能的にその目に注目することが経験的に知られている。一方、人の顔の美容判断や人の動作分析など、人を観察対象として各種の動作を行う場合には、顔の一部分に局所的に注目するのではなく、顔の全体、または顔を含む全身を観察することが好適な場合がある。このことは、後記の参考実験を用いて詳述する。そして、被験者の周辺視野の医学的な最大範囲ではなく、目視対象が顔であることによる心理的要因によって狭くなった視野(以下、狭視野)を測定することは極めて有用である。
【0008】
これに対して、上記の特許文献1や特許文献2における視野の測定は、医学的見地から被験者の周辺視野の最大範囲を測定するものである。よって、これらの方法は、無地の背景の上で視覚刺激を渦巻状や直線状などの幾何学形状に沿って移動させるという、被験者の心理的要因を排した状態のもとで行われる。したがって、特許文献1や特許文献2の発明では、被験者の心理的要因に起因する狭視野を測定することはできない。
【0009】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、人間の視野が心理的に狭くなりやすい特殊な状況における被験者の視野を定量的に測定するための方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の視野測定方法は、人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の視野測定装置は、人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える。
【0012】
上記発明によれば、被験者は顔画像を目視することにより本能的に狭視野になりやすい状態にある。この状態で、顔の領域上にある要注視点を目視すると、被験者の視野は特に狭くなりやすい。このように被験者の視野が特に心理的に狭くなりやすい特殊な状況を形成したうえで被験者の視野を測定することにより、顔その他の対象物に対する被験者の目視の傾向を好適に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人間の視野が心理的に狭くなりやすい特殊な状況における被験者の視野を定量的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる視野測定装置の一例を示す構成図である。
【図2】本実施形態にかかる視野測定方法のフローチャートである。
【図3】顔画像の一例を示す図である。
【図4】顔画像および第一の視覚刺激を示す図である。
【図5】顔画像および第二の視覚刺激を示す図である。
【図6】視野決定ステップの変形例を示すフローチャートである。
【図7】人の顔を含まない風景画像を示す図である。
【図8】無地画像を示す図である。
【図9】顔画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図10】被験者の視野角の説明図である。
【図11】風景画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図12】無地画像に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者の視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【図13】参考実験2に用いた顔サンプル画像を示す図である。
【図14】各集団の錯視正解率(%)を示すグラフである。
【図15】顔画像のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、被験者の目と顔画像との距離を変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【図16】顔画像のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、被験者の目と顔画像との距離を変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【図17】顔画像のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、刺激提示時間を変化させた場合の錯視正解率の推移を示すグラフである。
【図18】顔画像のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団と、同じく視野角の小さい5人の集団について、刺激提示時間を変化させた場合の錯視正解率の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
(視野測定装置)
図1は、本発明の実施形態にかかる視野測定装置100の一例を示す構成図である。
【0017】
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
視野測定装置100は、人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示する顔画像提示部10と、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させる刺激発生部60と、を備えている。
【0018】
視野測定装置100は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるように、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット、等の汎用デバイスで構築されたハードウェア、所定の処理動作を実行するように構築された専用の論理回路、これらの組み合わせ、等で構成されている。
【0019】
視野測定装置100は、視線取得部20、視線データ蓄積部30および専門家データ記憶部32を更に備えている。顔画像提示部10、視線取得部20、視線データ蓄積部30、専門家データ記憶部32および刺激発生部60は互いに接続されている。
【0020】
顔画像提示部10は、液晶ディスプレイやスクリーンなどの画像表示装置である。顔画像提示部10は平面状であってもよく、または半球面状であってもよい。顔画像提示部10は被験者Sに正対して配置される。顔画像提示部10には顔画像50が表示される。被験者Sは、この顔画像50を目視する。
【0021】
顔画像50には要注視点RPが設定されている。この要注視点RPは、顔画像50に表示される視標でもよく、または顔画像50には表示されない仮想点でもよい。要注視点RPは、顔画像50における目の近傍に設定されることが好ましい。被験者Sは顔画像50における目に本能的に注目するため、目またはその近傍に要注視点RPを設定することで、被験者Sの視点が要注視点RPに集中しやすい。
【0022】
被験者Sが顔画像50を目視している間に、刺激発生部60は予め定められたパターンで顔画像50に視覚刺激VSを発生させる。刺激発生部60は、具体的にはCPUである。刺激発生部60は、被験者Sの周辺視野における知覚閾下の視覚刺激VSを、被験者Sの周辺視野と視野外とに発生させる。
【0023】
人の中心視野は空間分解能および時間分解能が高く、知覚閾値が低い。一方、周辺視野は、中心視野よりも空間分解能および時間分解能が低く、知覚閾値は中心視野よりも高くなる。本実施形態では、周辺視野における知覚閾値よりも低い視覚刺激VSを、被験者Sの視野外または周辺視野に発生させるため、被験者Sにとって周辺視野に発生した視覚刺激VSは閾下(サブリミナル)刺激となる。したがって、被験者Sは、視野外に発生した視覚刺激VSを認識せず、周辺視野に発生した視覚刺激VSを無意識下で認識する。
【0024】
なお、視覚刺激VSの刺激強度は、中心視野における閾上(スプリミナル)刺激であってもよく、または中心視野における閾下(サブリミナル)刺激であってもよい。
【0025】
刺激発生部60は、視野外および周辺視野に加えて、視覚刺激VSを被験者の中心視野に発生させてもよい。ただし、中心視野における閾上(スプリミナル)刺激の視覚刺激VSを中心視野内に発生させると、被験者Sは当該視覚刺激VSを意識下で察知して、要注視点RPに注目する心理が緩和される。したがって、中心視野に視覚刺激VSを発生させる場合は、視覚刺激VSの刺激強度を中心視野における閾下とするか、または、視野外および周辺視野に所定回数の視覚刺激VSを発生させた後に、中心視野に視覚刺激VSを発生させるようにすることが好ましい。これにより、被験者Sが要注視点RPに注目している状態における周辺視野の範囲を、被験者Sの無意識下で測定することができる。
【0026】
同様の理由により、所定の刺激時間に亘って、視覚刺激VSの発生を被験者Sに予告せずに間欠的または連続的にこれを発生させた後に、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に関する回答を被験者Sから取得するとよい。これにより、被験者Sが本能的に顔画像50の要注視点RPに注目して狭視野となっている状態を維持したままで、被験者Sの視野を測定することが可能である。具体的には、被験者Sからの回答に基づいて、要注視点RPからの距離がどの程度までの視覚刺激VSを被験者Sが認識したかを分析することで、顔画像50を目視している状態における被験者Sの周辺視野の最大範囲を判定することができる。
【0027】
視線取得部20は、視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って被験者の視線方向に関する視線データVDを取得する手段である。視線データ蓄積部30は、被験者Sから取得した視線データVDを記憶しておくための記憶手段である。視線取得部20には、眼検知装置(アイカメラ)を用いることができる。一例として、Tobii社製の注視点追跡システム(アイトラッカー)を好適に用いることができる。
【0028】
専門家データ記憶部32は、美容専門家を被験者として上記のように視野を測定した結果(専門家視線データPD)を記憶しておくための記憶手段である。視線取得部20、視線データ蓄積部30および専門家データ記憶部32の使用態様は後述する。
【0029】
(視野測定方法)
以下、本実施形態の視野測定装置100を用いて行う視野測定方法(以下、本方法という場合がある)について説明する。図2は本方法のフローチャートである。
【0030】
本方法の概要について説明する。本方法は、人の顔を含む顔画像50を被験者Sに提示し(図2:ステップS10)、顔画像50における顔の領域上に定められた要注視点RPとの距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激VSを発生させ(図2:ステップS30)、被験者Sが認識した視覚刺激VSの発生位置に基づいて被験者Sの視野を測定する(図2:ステップS70)ことを特徴とする。
【0031】
つぎに、本方法を詳細に説明する。図3は顔画像50の一例を示す図である。顔画像50は、人の顔と認識できる対象物を被写体として含む画像である。人間の頭部のほか、人間の頭部を模した人形の画像またはコンピュータグラフィクスでもよい。
【0032】
本方法では、視覚刺激VSを、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上、および顔FCと頭髪HRを含む頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)上に発生させる。視覚刺激VSを更に顔FCの領域上に発生させてもよい。
【0033】
要注視点RPは、顔画像50における両目の間または目EYの近傍に設定されている。本方法における目EYの近傍とは、顔画像50における両目の外接円OCの内部、またはこの外接円OC上を意味する。本実施形態の要注視点RPは顔画像50における両目の間に設定されている。本実施形態の要注視点RPは、顔画像50に表示される視標である。
【0034】
本方法で顔画像50に発生させる視覚刺激VSは、上述のように一般的な人(被験者S)の周辺視野における知覚閾下の強度であり、かつ中心視野における閾上の強度の刺激である。視覚刺激VSの具体的な態様は特に限定されない。視覚刺激VSは、点もしくは点とみなしうる微小領域でもよく、または線もしくは面の領域でもよい。
【0035】
顔画像50における顔FCの大きさは、一般的な成人の顔と略同等の大きさであることが好ましい。これにより、被験者Sが顔画像50を目視した場合の視野が、被験者Sが実際の人間を目視した場合の視野と略同等となる。
【0036】
ここで、顔画像50に視覚刺激VSを発生させるとは、被験者Sが顔画像50を目視したときに視覚刺激VSが顔画像50に重畳された状態に視認されるようにすることをいう。具体的な例としては、顔画像50における一または複数の画素の明度もしくは色成分と、その周囲の画素の明度もしくは色成分との比または逆比が所定以上となるように当該画素の画素値を変化させることが挙げられる。このほか、視覚刺激VSは、顔画像50の表面上または顔画像50と被験者Sの被検眼との空間的な間隙に配置された、発光体などの視標でもよい。
【0037】
以下、本方法では二通りの視覚刺激VSを例示する。第一の視覚刺激VS1は光点の瞬間的な発光である。かかる光点の光度および発光時間を所定以下にすることで、第一の視覚刺激VS1の刺激強度を被験者Sの周辺視野における知覚閾下に抑制することができる。第二の視覚刺激VS2は、顔画像50の画素値の変化である。各画素における画素値の変化速度を所定以下とし、また画素値を変化させる領域の移動速度を所定以下とすることで、第二の視覚刺激VS2の刺激強度を被験者Sの周辺視野における知覚閾下に抑制することができる。
【0038】
本実施形態の視野測定装置100においては、オペレータによる操作部(図示せず)の操作により、視覚刺激VSの態様(モード)が選択される(図2:ステップS10)。
【0039】
ステップS10において、被験者Sに対する顔画像50の提示タイミングと刺激モードの選択タイミングとの先後は任意である。さらに、視覚刺激VSの発生(ステップS30)の開始タイミングと、顔画像50を被験者Sに提示するタイミングの先後も任意である。すなわち本方法においては、被験者Sに顔画像50を提示した後に視覚刺激VSの発生を開始してもよく、または視覚刺激VSの発生が既に開始している顔画像50を被験者Sに提示してもよい。
【0040】
(第一の視覚刺激)
図4は、顔画像50および第一の視覚刺激VS1を示す図である。図4に示す第一の視覚刺激VS1は、上記のように、被験者Sの周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点1〜8(白丸で図示)の発光である。より具体的には、要注視点RPからの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の光点1〜8を順次点灯させ、被験者Sがその発光を認識した一または複数の光点1〜8と要注視点RPとの最大距離に基づいて被験者Sの視野を決定する。
【0041】
図4には、要注視点RPを中心とする同心円CCを便宜上図示しているが、かかる同心円CCは被験者Sに提示されない。光点1〜8は、異なる径の同心円CC上にそれぞれ配置されている。光点1〜8のうち番号が小さいものほど、大径の同心円CC上に配置されている。したがって、光点1〜8を番号順に、かつ間欠的に発光させることで、あたかも顔画像50の外縁から要注視点RPに向かって縮径する螺旋状に光点が移動するように視認される第一の視覚刺激VS1が発生する。
【0042】
オペレータは、被験者Sに対して、顔画像50の目EYまたは要注視点RPに注目するように指示する。被験者Sが目EYまたは要注視点RPに視線をあわせている間に、光点1を短時間(単発光時間)に亘って発光させる。かかる発光は点灯でも点滅でもよい。単発光時間は、1ミリ秒以上100ミリ秒未満が好ましく、10ミリ秒以上50ミリ秒以下が更に好ましい。発光時間が過小であると被験者Sによっては視野が過小に評価され、発光時間が過大であると被験者Sによっては第一の視覚刺激VS1が周辺視野における閾上刺激となる場合がある。上記範囲の単発光時間とすることで、光点1〜8の発光は被験者Sの閾下(サブリミナル)刺激となる。以下、かかる顔画像50をサブリミナル動画と呼ぶ。
【0043】
光点1〜8の一部(光点1〜4)は顔画像50における頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)に設定されている。光点1〜8の他の一部(光点5〜7)は、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上に設定されている。光点1〜8の更に他の一部(光点8)は、顔画像50における顔FCの領域上に設定されている。光点8は一般的な被験者Sの中心視野に含まれる。
【0044】
光点1〜8の発光が終了すると(図2:ステップS40)、オペレータは被験者Sに対して、一以上の光点を発光させた事実を告知する。被験者Sは、意識下で認識した発光の位置を、口頭または顔画像50へのポインティングにより回答する(図2:ステップS60)。本方法において、総ての光点1〜8の位置は、要注視点RPを中心として異なる方向にある。言い換えると、要注視点RPを基端として光点1〜8を先端とする個々のベクトル(図示せず)は互いに一致しない。このため、被験者Sは、発光を認識した光点の位置のみならず、要注視点RPを基端とする光点の方向を回答してもよい。これにより、被験者Sが認識した光点1〜8を容易に識別することができる。
【0045】
また、光点1〜8は、要注視点RPからの距離が互いにすべて異なっている。視野決定ステップS70では、被験者Sが認識した光点(たとえば、光点6〜8)のうち、要注視点RPからの距離が最大であるもの(光点6)を、被験者Sの周辺視野の外縁と定める。そして、当該光点(光点6)が載る同心円CCの半径を、顔画像50を目視しているときの被験者Sの狭視野の範囲と決定する。
【0046】
(第二の視覚刺激)
図5は、顔画像50および第二の視覚刺激VS2を示す図である。図5に示す第二の視覚刺激VS2は、顔画像50の画素値を変化させることによって与えられる動画像である。具体的には、要注視点RPを囲む異径の複数の環状領域CAを顔画像50に設ける。環状領域CAに含まれる画素の画素値を、周辺視野における知覚閾下で時間変化させる。そして、画素値が変化したことを被験者Sが認識した一または複数の環状領域CAのうちの最大半径に基づいて視野を決定する。
【0047】
図5にも、要注視点RPを中心とする同心円CCが便宜上図示されているが、かかる同心円CCは被験者Sに提示されない。環状領域CAは、同心円CCで隔てられた領域であり、多数の画素を包含している。図中の(1)〜(8)の数字は、要注視点RPを中心として、遠位にある環状領域CA(1)から近位にある環状領域CA(7)、さらに中心の円形領域(8)に向かって順に符号を付したものである。
【0048】
オペレータは、被験者Sに対して、顔画像50の目EYまたは要注視点RPに注目するように指示する。被験者Sが目EYまたは要注視点RPに視線をあわせている間に、環状領域CA(1)に含まれる画素の画素値を変化させる。本方法では、変化前の明度を所定の割合(変化比率)だけ増大させる。この変化比率が過小であると、被験者Sによっては画素値の変化を知得することができず視野が過小に評価される。また、変化比率が過大であると被験者Sによっては第二の視覚刺激VS2が周辺視野における閾上刺激となる場合がある。本方法では、環状領域CAに含まれる画素の明度または輝度を、10%以上50%未満の増加率にて増大させることが好ましい。以下、かかる顔画像50をフェードアウト動画と呼ぶ。
【0049】
環状領域CA(1)からCA(3)は、顔画像50における頭部HDの外部領域(頭部外領域R2)に設定されている。環状領域CA(4)およびCA(5)は、顔画像50における頭髪HRの領域(頭髪領域R1)上に設定されている。環状領域CA(6)およびCA(7)は、顔FCの一部または全部を包含している。
【0050】
環状領域CA(1)に含まれる画素の明度を所定の割合(変化比率)で変化させた後、当該環状領域CA(1)の内側に隣接する環状領域CA(2)に含まれる画素の明度の変化を開始させる。以下順に環状領域CA(7)まで、各環状領域に含まれる画素の明度を変化させる。更に、環状領域CA(7)の内側の、要注視点RPを含む円形領域(8)の明度を変化させると、第二の視覚刺激VS2の発生が終了する(図2:ステップS40)。
【0051】
以下、オペレータは被験者Sに対して、顔画像50の画素値を変化させた事実を告知する。被験者Sは、画素値の変化を意識下で認識した位置を、口頭または顔画像50へのポインティングにより回答する(図2:ステップS60)。
【0052】
ここで、環状領域CAの数は特に限定されないが、これを5以上とすることで、被験者Sの視野を実用的な解像度で測定することができる。また、環状領域CAの数は20以下が好ましい。環状領域CAの数が過大であると、個々の環状領域CAの幅寸法が微小となるため、顔画像50の外縁から要注視点RPに向かって、画素値が変化する画素が実質的に連続的に進行することとなる。これにより、被験者Sが画素値の変化に気づきにくくなって視野が過小に評価される。これに対し、環状領域CAの数が上記の範囲内であると、個々の環状領域CAが所定の幅寸法をもつため、画素値が変化する領域が要注視点RPに向かって段階的に進行することとなる。これにより、被験者Sは、周辺視野の内側の画素の画素値が変化したことを意識下で好適に認識することができる。
【0053】
視野決定ステップS70では、画素値の変化を被験者Sが最初に認識した環状領域CAを、被験者Sの周辺視野の外縁と定める。具体的には、環状領域CAの幅中心の半径、または環状領域CAの内周縁の半径を、顔画像50を目視しているときの被験者Sの狭視野の範囲と決定する。
【0054】
(その他の工程)
視野提示ステップS80では、視野決定ステップS70で決定された視野を被験者Sに提示する。ここで、視野を提示するとは、視野の範囲を提示する場合のほか、顔画像50と被験者Sとの位置関係および上記視野に基づいて算出される視角を提示する場合を含む。
【0055】
本方法では、一の被験者Sと、美容専門家である他の被験者と、から上記の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定する。美容専門家の視野を表す専門家視線データPDは、専門家データ記憶部32(図1を参照)に記憶されている。被験者Sは美容の素人(美容非専門家)であるとする。そして、一の被験者Sの視野(素人視野)と、他の被験者(美容専門家)の視野(専門家視野)と、を対比して一の被験者Sに提示する。これにより、人の顔を目視するときに美容専門家と美容非専門家とで視野範囲が異なることを被験者Sに対して定量的に示すことができる。具体的には、要注視点RPを中心とする二つの円形を顔画像50に重畳的に表示することにより、被験者Sの視野と美容専門家の視野を対比するとよい。
【0056】
(視線追跡)
本方法では、視線取得部20を用いて、視覚刺激VSを目視する被験者Sの視線データVDを取得し、これを視線データ蓄積部30に記憶する(図1を参照)。具体的には、視線取得部20は、被験者Sの頭部に向かって赤外線などの光ビームを照射するとともに、その反射光を受光する。視線取得部20は、受光光を画像化し、画素のコントラストに基づいて被験者Sの瞳孔位置を算出することで、被験者Sの目の位置を検出してその視点位置(視線方向)を数値データまたは画像データとして取得する。
【0057】
顔画像50を被験者Sに提示(図2:ステップS10)した後に、被験者Sの視線データVDの取得を開始する(図2:ステップS20)。ただし、視線データVDの取得開始のタイミングは図2に限定されるものではなく、視覚刺激VSの発生を開始(図2:ステップS30)した後でもよい。そして、視覚刺激VSの発生を停止(図2:ステップS40)後に、視線データVDの取得を終了する(図2:ステップS50)。
【0058】
被験者Sの視線データVDを取得することにより、視覚刺激VSの発生中に被験者Sが要注視点RPを注目しているか否かを把握することができる。また、視線データVDを用いることで、被験者Sの視野を高精度で測定することができる。以下説明する。
【0059】
図6は、視野決定ステップS70の変形例を示すフローチャートである。視線取得部20が視線データVDを取得すると、視野測定装置100のCPUは、被験者Sの視点位置が要注視点RPから所定の正常範囲内に含まれているか否かを判定(図6:ステップS71)する。被験者Sの視点位置が正常範囲内に収まっていないと判定された場合には(図6:ステップS71=NO)、かかる判定結果を示す報知出力を行うとともに視野測定を中止してもよい。
【0060】
正常の視点位置であると判定された場合には(図6:ステップS71=YES)、視覚刺激VSの発生履歴を示す刺激履歴データと、視線データVDとを時刻情報に基づいて同期させる(図6:ステップS72)。刺激履歴データと視線データVDは、相互に対応づけが可能な時刻情報を共に包含している。これにより、視覚刺激VSの発生位置と、その瞬間の被験者Sの目視点との乖離距離が算出される(図6:ステップS73)。
【0061】
オペレータは、被験者Sが意識下で認識した視覚刺激VS(図4の光点1〜8、または図5の環状領域CA)に関する回答を受け付けると(図2:ステップS60)、上記の乖離距離の最大値に基づいて、目視点からの最大距離を算出する(図6:ステップS74)。かかる最大距離を、被験者Sの周辺視野の最大範囲とする。
【0062】
すなわち、本方法では、視線データVDと視覚刺激VSの発生位置を示す位置情報とに基づいて、被験者Sが認識した一または複数の視覚刺激VSの発生位置と被験者Sの目視点との最大距離を算出する。そして、この最大距離から被験者Sの視野を決定する。
【0063】
これにより、被験者Sの視点が無意識のうちに要注視点RPから離間していた場合でも被験者Sの狭視野を好適に測定することができる。
【0064】
以下、本実施形態の視野測定方法の如く人の顔を目視した場合の視野範囲を測定することが有効であることを示す参考実験の結果を説明する。
【0065】
<参考実験1>
参考実験1では、美容専門家の視野と美容非専門家の視野との広狭の差異が目視対象によって変化し、特にこれが人の顔である場合に顕著な差異となることを検証した。
図7は、人の顔を含まない風景画像51を示す図である。風景画像51はカラー画像である。図8は、無地画像52を示す図である。風景画像51および無地画像52には、要注視点RPと、要注視点RPを中心とする同心円CCが内部的に設定されている。要注視点RPは、風景画像51および無地画像52のそれぞれ中心付近に設定されている。なお、図7および図8では要注視点RPおよび同心円CCを便宜上図示しているが、これらは被験者Sには提示されない。図7および図8の各同心円CC上には、図4の顔画像50(サブリミナル動画)と同様に光点1〜8が配置されている。すなわち、図7は風景画像51のサブリミナル動画であり、図8は無地画像52のサブリミナル動画である。
【0066】
さらに、図7の風景画像51に加えて、図5の顔画像50(フェードアウト動画)と同様に要注視点RPを中心とする環状領域CAを画成し、遠位にある環状領域CAから近位にある環状領域CAに向かって、各環状領域CAに含まれる画素の画素値を変化させるフェードアウト動画(図示せず)を用意した。また、図8の無地画像52に関しても、同様にフェードアウト動画を用意した。
【0067】
顔画像50、風景画像51、無地画像52のサブリミナル動画およびフェードアウト動画について、20人の被験者Sによる視野の測定を実施した。20人の被験者Sのうち、美容専門家は5人、美容非専門家は15人とした。
【0068】
図4に示すサブリミナル動画において、顔画像50を被験者に提示してから所定時間経過後に光点1を発光させた。そして、光点1、光点2、・・・と次の光点が発光するまでの時間(発光間隔)を2秒として、光点8までを順番に、かつ間欠的に1回ずつ発光させた。したがって、光点1の発光から光点8の発光までの時間は14秒である。光点1から光点8の個々の点灯時間は30ミリ秒とした。すなわち、このサブリミナル動画は、0.03秒の発光と1.97秒の非発光とを繰り返す動画像である。以下、光点1の発光開始から光点8の発光終了までの時間を、サブリミナル動画における刺激提示時間という。
【0069】
図5に示すフェードアウト動画に関しては、顔画像50の提示開始より、環状領域CA(1)から環状領域CA(7)、そして円形領域(8)まで、順番にかつ連続的に、各領域内の画素の明度を20%だけ増大させた。各領域の画素の明度を3秒〜4秒で増大させ、顔画像50の全体の明度を合計約30秒で増大させた。以下、環状領域CA(1)の画素値の変化開始から円形領域(8)の画素値の変化終了までの時間を、フェードアウト動画における刺激提示時間という。
【0070】
図7の風景画像51および図8の無地画像52に関しても、サブリミナル動画とフェードアウト動画における視覚刺激は顔画像50と同様とした。
【0071】
図9は、顔画像50に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。美容専門家の測定結果を円で囲んである。視野角は、被験者Sが視覚刺激を認識した最大範囲FOVを表す頂角θ(図10を参照)である。図4、図5に示す顔画像50の縦寸法は28.5cm、横寸法は38cm、被験者Sから顔画像50までの距離を45cmとした。風景画像51および無地画像52に関しても同様とした。
【0072】
図9の結果から、人の顔を含む顔画像50の場合、サブリミナル動画とフェードアウト動画との相違によらず、美容専門家の視野は美容非専門家の視野に比べて顕著に広いことが分かった。
【0073】
図11は、風景画像51に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。図12は、無地画像52に関するサブリミナル動画とフェードアウト動画について、各被験者Sの視野角の測定結果をプロットした散布図である。
【0074】
図11と図12の結果から、美容専門家と美容非専門家の視野の広狭に有意な差異は見られなかった。すなわち、被験者Sのうち、美容専門家の視野が美容非専門家の視野よりも医学的に元々広かったわけではないことが分かる。したがって、美容専門家が美容非専門家に比べて広い視野で人の顔を目視するという傾向は、訓練または経験によって美容専門家が身に付けた能力であると考えられる。
【0075】
<参考実験2>
参考実験2では、美容専門家が美容非専門家に比べて、肌色の見え方の印象変化に関して高い感度をもっていることを検証した。図13は、参考実験2に用いた顔サンプル画像53を示す図である。
【0076】
本発明者の検討によれば、色の同化や対比などの視覚的効果によって、髪色を変化させた場合に肌色の見え方が変化することが明らかとなっている。より具体的には、髪色の明度を変化させた場合には、対比効果が生じて、肌色の見た目の明度が反対方向に変化することが実験的に明らかとなっている。そして、髪色の彩度または色相を変化させた場合には、同化効果が生じて、肌色の見た目の彩度または色相が同方向に変化することが実験的に明らかとなっている。したがって、染毛料等を用いて髪色を変化させる場合には、髪色の変化に起因して肌色の見え方が変化する錯視効果を考慮して、髪色と肌色との似合いを判断することが好ましい。
【0077】
(錯視試験)
そこで、図13に示す頭髪HRの彩度・明度・色相を変化させた場合に、顔FCの肌色に同化効果または対比効果(以下、あわせて錯視効果)が生じることを被験者Sが正確に判断できるか否かをもって、人の顔の美容判断の的確性を測定した。具体的には、まず図13の顔サンプル画像53と、当該顔サンプル画像53の頭髪HRの彩度を7%(=7/100)だけ増加させた他の画像(高彩度画像:図示せず)とを被験者Sに対比観察させた。そして、どちらの肌色が鮮やか、すなわち彩度が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。高彩度画像の肌色が鮮やかに見えるという回答が正解である。
同様に、図13に示す頭髪HRの明度を7%(=7/100)だけ増加させた高明度画像(図示せず)と、逆に明度を7%(=7/100)だけ低下させた低明度画像(図示せず)を用意し、それぞれの画像と図13の顔サンプル画像53とを被験者Sに対比観察させた。そして、どちらの肌色の明度が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。髪色と肌色との明度の対比効果によって、高明度画像の肌色は元の顔サンプル画像53の肌色よりも暗く(低明度に)見え、逆に低明度画像の肌色は元の顔サンプル画像53の肌色よりも明るく(高明度に)見えるという回答が正解である。
さらに、図13に示す頭髪HRの色相に関して、約2%(=7/360)だけ黄味を帯びさせた(以下、色相を高くした)高色相画像(図示せず)と、逆に約2%(=7/360)だけ赤味を帯びさせた(以下、色相を低くした)低色相画像(図示せず)を用意し、それぞれの画像と図13の顔サンプル画像53とを被験者Sに個別に対比観察させた。そして、どちらの肌色の色相が高く見えるかを、強制二者択一法で回答させた。髪色と肌色との色相の同化効果によって、高色相画像の肌色の色相は高く(黄味を帯びて)見え、低色相画像の肌色の色相は低く(赤味を帯びて)見えるという回答が正解である。
【0078】
これらの錯視効果による肌色の見え方の繊細な変化に関して、以下の集団の正解率を算出した。
(1)顔広視野集団:図9で右上にプロットされた、顔画像50に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(2)顔狭視野集団:図9で左下にプロットされた、顔画像50に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
(3)風景広視野集団:図11で右上にプロットされた、風景画像51に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(4)風景狭視野集団:図11で左下にプロットされた、風景画像51に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
(5)無地広視野集団:図12で右上にプロットされた、無地画像52に対する視野角が大きい5人の被験者Sの集団。
(6)無地狭視野集団:図12で左下にプロットされた、無地画像52に対する視野角が小さい5人の被験者Sの集団。
【0079】
図14は、上記(1)〜(6)の各集団の錯視正解率(%)を示すグラフである。各集団の錯視正解率は、(1)顔広視野集団=92%、(2)顔狭視野集団=48%、(3)風景広視野集団=72%、(4)風景狭視野集団=64%、(5)無地広視野集団=64%、(6)無地狭視野集団=68%であった。なお、強制二者択一法であるため、当て推量による回答の錯視正解率は50%である。
【0080】
この結果より、顔画像50に対する視野角が大きい顔広視野集団は錯視正解率が顕著に高く、顔狭視野集団の錯視正解率に対して約2倍となった。これに対し、風景広視野集団と風景狭視野集団の錯視正解率に有意な差異は見られなかった。同様に、無地広視野集団と無地狭視野集団の錯視正解率にも有意な差異は見られなかった。この結果より、美容判断においては美容専門家のように人の頭部を広い視野で観察することが有効であることが分かった。
【0081】
<参考実験3>
視野を広げることにより錯視正解率が向上することを検証した。図15は、顔画像50のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団(1a)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2a)について、被験者Sの目と顔画像50との距離を45cm、90cm、135cmに変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
図16は、顔画像50のフェードアウト動画に対する視野角の大きい5人の集団(1b)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2b)について、被験者Sの目と顔画像50との距離を45cm、90cm、135cmに変化させた場合の錯視正解率の変化を示すグラフである。
【0082】
図15および図16の結果より、視野角の小さい被験者Sでも、遠い距離から顔画像50を観察することで、頭部HDの全体を観察することができ、結果として錯視効果の発生を正確に判断できるようになることが分かった。
【0083】
これにより、美容判断にあたっては、頭髪HRや顔FCを局所的に観察するのではなく、頭部HDの全体を大局的に観察することが有効であることが明らかとなった。したがって、本実施形態の視野測定装置100を用いて行う視野測定方法により、顔画像50に対する被験者Sの視野を測定することが有効である。そして、被験者Sの視野が十分でない場合には、測定結果を専門家視線データPDと対比して提示することが有効である。
【0084】
<参考実験4>
視覚刺激VSの付与時間に好適な数値範囲があることを明らかにした。参考実験1と同様に顔画像50のサブリミナル動画(図4)を被験者に目視させて視野角を測定した。本実験では、15人の被験者に対して、5秒間の刺激提示時間(光点1の発光開始から光点8の発光終了までの時間)に亘って顔画像50および第一の視覚刺激VS1を提示した。光点1から光点8の個々の発光時間は参考実験1と同様に30ミリ秒とし、各光点の発光間隔を均等とした。光点8の発光の終了後に、当該被験者が発光を認識した光点を口頭で回答させて、参考実験1と同様に視野角を算出した。
【0085】
その結果から、顔画像50のサブリミナル動画に対する視野角の大きい5人の集団(1a)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2a)とを抽出した。
この集団(1a)と(2a)に対して、参考実験2および参考実験3と同様に図13の顔サンプル画像53とその高彩度画像を用いた錯視試験を実施して、錯視正解率を求めた。
【0086】
以上と同様の視野角測定および錯視試験を、異なる15人の被験者に対して、刺激提示時間を5秒から10秒に代えて実施した。更に、異なる15人の被験者を12組用意し、刺激提示時間を、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、60秒、75秒、90秒、120秒と変化させて、同様の視野角測定および錯視試験を行った。刺激提示時間と錯視正解率との関係を図17に示す。
【0087】
つぎに、更に異なる15人の被験者に対して、顔画像50のフェードアウト動画(図5)を目視させて視野角を測定した。このときの刺激提示時間(環状領域CA(1)の画素値の変化開始から円形領域(8)の画素値の変化終了までの時間)も5秒とした。視野角の大きい5人の集団(1b)と、同じく視野角の小さい5人の集団(2b)とを抽出した。この集団(1b)と(2b)に対して、上記と同様に錯視試験を実施して錯視正解率を求めた。
【0088】
更に異なる15人の被験者を13組用意して、刺激提示時間を、10秒、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、60秒、75秒、90秒、120秒と変化させて、同様にフェードアウト動画に対する視野角測定、および錯視試験を行った。刺激提示時間と錯視正解率との関係を図18に示す。
【0089】
図17および図18の結果より、視野角が大きい集団(1a)および(1b)は、刺激提示時間が15秒以上45秒以下の場合に、特に高い錯視正解率になることが分かった。これは、15秒以上の刺激提示時間であることで、落ち着いて十分な注意をもって顔画像50を目視できたためと推察される。また、刺激提示時間が45秒以下であることで、被験者Sの脳が自発活動を始める前に刺激の発生が終了したため、要注視点RPを中心とする顔画像50の全体観察が集中力を持続したまま行われたものと推察される。
【0090】
これに対し、刺激提示時間が50秒以上になると、視野角が小さい集団(2a)および(2b)の錯視正解率が、集団(1a)および(1b)と略同等となった。これは、45秒を超える刺激提示を受けて、いずれの集団の被験者も脳が無意識のうちに自発活動を初めて視点が移動を始め、結果として要注視点RPへの注視が失われたためと推察される。すなわち、刺激提示時間が長くなると被験者の視点が無意識のうちに移動し始めるため視野角の測定精度が低下し、顔画像50の全体観察が可能で錯視正解率が高い集団と、視野角の大きい集団とが一致しなくなったためと考えられる。
【0091】
したがって、被験者Sの視野を測定するにあたっては、視覚刺激VSを間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下であることが好ましい。15秒以上であることで被験者Sの視点が要注視点RPに定まって顔画像50の好適な全体観察が可能となる。また、45秒以下であることで、顔画像50の要注視点RPへの注視が継続でき、周辺視野の内側に発生した視覚刺激VSを的確に認識することが可能である。
【0092】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする視野測定方法;
(2)前記視覚刺激を、前記顔画像における頭髪の領域上、および前記顔と前記頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させることを特徴とする請求項1に記載の視野測定方法;
(3)前記要注視点が、前記顔画像における両目の間または目の近傍である上記(1)または(2)に記載の視野測定方法;
(4)前記被験者の周辺視野における知覚閾下の前記視覚刺激を、前記被験者の周辺視野と視野外とに発生させる上記(1)から(3)のいずれかに記載の視野測定方法;
(5)前記視覚刺激が、前記周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点の発光であり、前記要注視点からの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記光点を順次点灯させ、前記被験者が前記発光を認識した一または複数の前記光点と前記要注視点との最大距離に基づいて前記視野を決定する上記(4)に記載の視野測定方法;
(6)前記視覚刺激が前記顔画像の画素値を変化させることによって与えられるとともに、前記要注視点を囲む異径の複数の環状領域を前記顔画像に設け、前記環状領域に含まれる画素の画素値を前記周辺視野における知覚閾下で時間変化させ、前記画素値が変化したことを前記被験者が認識した一または複数の前記環状領域のうちの最大半径に基づいて前記視野を決定する上記(4)に記載の視野測定方法;
(7)前記視覚刺激の発生を前記被験者に予告せずに所定の刺激時間に亘って前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させた後に、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に関する回答を前記被験者から取得する上記(1)から(6)のいずれかに記載の視野測定方法;
(8)前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って前記被験者の視線方向に関する視線データを取得する上記(1)から(7)のいずれかに記載の視野測定方法;
(9)前記視線データと前記視覚刺激の発生位置を示す位置情報とに基づいて、前記被験者が認識した一または複数の前記視覚刺激の発生位置と前記被験者の目視点との最大距離を算出し、前記最大距離から前記視野を決定する上記(8)に記載の視野測定方法;
(10)前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下である上記(1)から(9)のいずれかに記載の視野測定方法;
(11)一の被験者と、美容専門家である他の被験者と、から上記(1)から(10)のいずれかに記載の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定し、前記一の被験者の視野と、前記他の被験者の視野と、を対比して前記一の被験者に提示することを特徴とする視野測定方法;
(12)人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える視野測定装置。
【0093】
本発明の視野測定方法は、順番に記載された複数の工程を用いて説明される場合があるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番やタイミングを限定するものではない。このため、本発明の視野測定方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障のない範囲で変更することができ、また複数の工程の実行タイミングの一部または全部が互いに重複していてもよい。
また、本発明の視野測定装置の各種の構成要素は、その機能を実現するように形成されていればよく、たとえば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたデータ処理装置または画像処理装置、コンピュータプログラムによりデータ処理装置または画像処理装置に実現された所定の機能、これらの任意の組み合わせ、等として実現することができる。本発明の視野測定装置の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【符号の説明】
【0094】
1〜8:光点、10:顔画像提示部、20:視線取得部、30:視線データ蓄積部、32:専門家データ記憶部、50:顔画像、51:風景画像、52:無地画像、53:顔サンプル画像、60:刺激発生部、100:視野測定装置、θ:頂角、CA:環状領域、CC:同心円、EY:目、FC:顔、FOV:最大範囲、HD:頭部、HR:頭髪、OC:外接円、PD:専門家視線データ、R1:頭髪領域、R2:頭部外領域、RP:要注視点、S:被験者、VD:視線データ、VS:視覚刺激、VS1:第一の視覚刺激、VS2:第二の視覚刺激
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、
前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする視野測定方法。
【請求項2】
前記視覚刺激を、前記顔画像における頭髪の領域上、および前記顔と前記頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させることを特徴とする請求項1に記載の視野測定方法。
【請求項3】
前記要注視点が、前記顔画像における両目の間または目の近傍である請求項1または2に記載の視野測定方法。
【請求項4】
前記被験者の周辺視野における知覚閾下の前記視覚刺激を、前記被験者の周辺視野と視野外とに発生させる請求項1から3のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項5】
前記視覚刺激が、前記周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点の発光であり、
前記要注視点からの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記光点を順次点灯させ、
前記被験者が前記発光を認識した一または複数の前記光点と前記要注視点との最大距離に基づいて前記視野を決定する請求項4に記載の視野測定方法。
【請求項6】
前記視覚刺激が前記顔画像の画素値を変化させることによって与えられるとともに、
前記要注視点を囲む異径の複数の環状領域を前記顔画像に設け、前記環状領域に含まれる画素の画素値を前記周辺視野における知覚閾下で時間変化させ、前記画素値が変化したことを前記被験者が認識した一または複数の前記環状領域のうちの最大半径に基づいて前記視野を決定する請求項4に記載の視野測定方法。
【請求項7】
前記視覚刺激の発生を前記被験者に予告せずに所定の刺激時間に亘って前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させた後に、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に関する回答を前記被験者から取得する請求項1から6のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項8】
前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って前記被験者の視線方向に関する視線データを取得する請求項1から7のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項9】
前記視線データと前記視覚刺激の発生位置を示す位置情報とに基づいて、前記被験者が認識した一または複数の前記視覚刺激の発生位置と前記被験者の目視点との最大距離を算出し、前記最大距離から前記視野を決定する請求項8に記載の視野測定方法。
【請求項10】
前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下である請求項1から9のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項11】
一の被験者と、美容専門家である他の被験者と、から請求項1から10のいずれか一項に記載の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定し、
前記一の被験者の視野と、前記他の被験者の視野と、を対比して前記一の被験者に提示することを特徴とする視野測定方法。
【請求項12】
人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える視野測定装置。
【請求項1】
人の顔を含む顔画像を被験者に提示し、
前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させ、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に基づいて前記被験者の視野を測定することを特徴とする視野測定方法。
【請求項2】
前記視覚刺激を、前記顔画像における頭髪の領域上、および前記顔と前記頭髪を含む頭部の外部領域上に発生させることを特徴とする請求項1に記載の視野測定方法。
【請求項3】
前記要注視点が、前記顔画像における両目の間または目の近傍である請求項1または2に記載の視野測定方法。
【請求項4】
前記被験者の周辺視野における知覚閾下の前記視覚刺激を、前記被験者の周辺視野と視野外とに発生させる請求項1から3のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項5】
前記視覚刺激が、前記周辺視野における知覚閾下の光度および発光時間で点灯する光点の発光であり、
前記要注視点からの距離または方向の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記光点を順次点灯させ、
前記被験者が前記発光を認識した一または複数の前記光点と前記要注視点との最大距離に基づいて前記視野を決定する請求項4に記載の視野測定方法。
【請求項6】
前記視覚刺激が前記顔画像の画素値を変化させることによって与えられるとともに、
前記要注視点を囲む異径の複数の環状領域を前記顔画像に設け、前記環状領域に含まれる画素の画素値を前記周辺視野における知覚閾下で時間変化させ、前記画素値が変化したことを前記被験者が認識した一または複数の前記環状領域のうちの最大半径に基づいて前記視野を決定する請求項4に記載の視野測定方法。
【請求項7】
前記視覚刺激の発生を前記被験者に予告せずに所定の刺激時間に亘って前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させた後に、前記被験者が認識した前記視覚刺激の発生位置に関する回答を前記被験者から取得する請求項1から6のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項8】
前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている所定の刺激時間に亘って前記被験者の視線方向に関する視線データを取得する請求項1から7のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項9】
前記視線データと前記視覚刺激の発生位置を示す位置情報とに基づいて、前記被験者が認識した一または複数の前記視覚刺激の発生位置と前記被験者の目視点との最大距離を算出し、前記最大距離から前記視野を決定する請求項8に記載の視野測定方法。
【請求項10】
前記視覚刺激を間欠的または連続的に発生させている刺激時間が15秒以上45秒以下である請求項1から9のいずれか一項に記載の視野測定方法。
【請求項11】
一の被験者と、美容専門家である他の被験者と、から請求項1から10のいずれか一項に記載の視野測定方法を用いて視野をそれぞれ測定し、
前記一の被験者の視野と、前記他の被験者の視野と、を対比して前記一の被験者に提示することを特徴とする視野測定方法。
【請求項12】
人の顔を含む顔画像を被験者に提示する顔画像提示手段と、前記顔画像における前記顔の領域上に定められた要注視点との距離が互いに異なる複数の位置に視覚刺激を発生させる刺激発生手段と、を備える視野測定装置。
【図1】
【図2】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図2】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【公開番号】特開2013−85709(P2013−85709A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229016(P2011−229016)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
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