説明

親水性ポリプロピレン成型物

【課題】
本発明が解決しようとする課題は疎水性のポリプロピレン繊維に優れた親水性を付与し、廉価に供給することである。
【解決手段】
本発明ポリプロピレン成型物、例えば繊維および不織布は界面活性剤のノニオン部分がエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイド3モル以上であるノニオン系アルキル界面活性剤が成型物表面に0.2から1.0W%、成型物内部に0.1から1.0W%含有され、成型物表面近傍に多く微分散したポリエチレンを0.5から10W%含有するポリプロピレン成型物である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙おむつなどの吸水性不織布、電池用セパレーター、吸水パッド、ワイパーなどの親水性ポリプロピレン成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルググライターらは非特許文献1でHDPEの表面を改質するためPEとPEGのブロックコポリマーをブレンドしたところ、ブロックコポリマーは固化される際にブリードアウトして、親水基であるPEG部分が外向きになってHDPE表面に配位することを見出した。
【0003】
フィラメントやステープル繊維を製造する際には一般的には紡糸油剤を0.3から3W%繊維表面にローラーなどで塗布するので、疎水性繊維であるポリプロピレン繊維も親水化される。しかし、不織布、射出成型品、フィルムなどは一般的には製造工程に親水化油剤を付与する工程がないため、成型品となってから後で加工することになり、工程数が増加するため経済的に割高となり、また、付着斑となりやすい欠点がある。
【0004】
特許文献1には、長鎖アルコールなどの疎水性基とPEGなどの親水基からなる防曇剤(界面活性剤)が農業用ポリオレフィンフィルムにブレンドされて一般的に使用されることが開示されている。フィルムに防曇剤はフィルム総重量に対して0.5から1W%が配合されている。しかし、繊維表面積はフィルム表面積の10倍以上であり、同様にして繊維表面にこのような界面活性剤層を形成させるためには5から10W%の界面活性剤を配合する必要に計算上なる。一方、例えば通常のポリプロピレン繊維では5W%もの多量の界面活性剤を配合して紡糸することは糸切れなどにより操業不可能である。
【0005】
特許文献2にポリプロピレン紡糸実施例として3W%の界面活性剤を含有したかのような記載があるが、良く読むと、界面活性剤は予めExxon Polybond3155(相溶化剤ブロックコポリマー)をゴムマトリックスとして使用した添加剤として製造されている。従って、このような高価なゴム状の相溶化剤ブロックコポリマーを使用せずにポリプロピレンにこのような多量の界面活性剤を配合して紡糸することはできない。また、このような相溶化剤ブロックコポリマーは界面活性剤を多量に含有することができるため、逆にポリプロピレン繊維表面にブリードする界面活性剤量が少なくなり、結果としてより多量に界面活性剤の配合が必要となり、相溶化剤ブロックコポリマー配合による原料費アップと重なり経済的に不利になる。
【非特許文献1】Macromolecules25(1992年),636−643
【特許文献1】USP5,262,233号公報
【特許文献2】特表2004−523666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は疎水性のポリプロピレン繊維などの成型物に優れた親水性を付与し、廉価に供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明ポリプロピレン成型物、例えば繊維および不織布は界面活性剤のノニオン部分がエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイド3モル以上であるノニオン系アルキル界面活性剤が成型物表面に0.2から1.0W%、成型物内部に0.1から1.0W%含有され、成型物表面近傍に多く微分散したポリエチレンを0.5から10W%含有するポリプロピレン成型物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明ポリプロピレン成型物は繊維、スパンボンドまたはメルトブローン不織布などに一般的な方法で加工でき、紙オムツ、電池用セパレーター、吸水パッド、ワイパーなどに廉価で好適である。また、親水性表面が形成されるため、本発明成型物の制電性、ワイピング性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明ポリプロピレン成型物は界面活性剤のノニオン部分がエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドであるノニオン系アルキル界面活性剤が成型物表面に0.2から1.0W%、成型物内部に0.1から1.0W%含有され、成型物表面近傍に多く微分散したポリエチレンを0.5から10W%含有するポリプロピレン成型物である。
また、その1形態は成型物が繊維または不織布である。また好ましくは界面活性剤のアルキル部分が炭素数10以上の直鎖状飽和炭化水素である。また好ましくは界面活性剤のエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドが3量体以上であるポリプロピレン成型物である。
【0010】
前記ノニオン系アルキル界面活性剤のノニオン部分はエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイド重合物である。エチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドが3量体以上であることがより低配合量で優れた親水性が得られ好ましい。
【0011】
前記ノニオン系アルキル界面活性剤のアルキル部分は炭素数10以上の直鎖状飽和炭化水素であることがPEと類似性が高く、分岐飽和炭化水素、または直鎖状不飽和炭化水素より好ましく、より好ましくは炭素数が12以上、さらに好ましくは14以上が界面活性剤の必要配合量が少なくなり、経済的である。また、アルキル部分の原料がアルコールであることがアルキル部分の原料がカルボン酸より、繊維への水浸透性を向上させ好ましい。
【0012】
前記長鎖アルキルアルコールとしては例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどがある。これらは天然物に限らず合成品であっても良い。
【0013】
本発明では相溶化剤ブロックコポリマーを使用せず、前記ノニオン系アルキル界面活性剤を例えば20W%配合したマスターバッチを製造する。即ち、本発明ではポリプロピレンとポリエチレンをポリブレンドし、相分離した界面にノニオン系アルキル界面活性剤を保持させることにより、高配合量のマスターバッチを製造する。従来不可能と考えられる多量の界面活性剤を本発明で含有させることができるのは、相分離した界面に前記ノニオン系アルキル界面活性剤がミセル形成するためであると考えられる。従って、安定なミセル形成とともに、相分離した界面の面積が大きくなるほど高配合マスターバッチが得られる。相分離した界面積を大きくするためにはより細かく分散させることが肝要で、混練時の剪断力を大きくすることが好ましく、液体サイドインジェクション2軸混練押し出し機を使用する場合、回転速度が1,000回転/分以上が好ましい。より好ましくは1,500回転/分以上である。
【0014】
本発明ポリプロピレン繊維表面にある前記界面活性剤量は0.2W%以上である。繊維径が細くなると好ましくは0.3W%以上である。繊維表面以外に前記界面活性剤は繊維内部にも存在する。繊維表面と繊維内部の前記界面活性剤の比率は他の添加剤の配合量によっても異なる。一般的にポリプロピレンには耐熱剤、耐光剤が配合され、添加剤総量は0.5から1W%になる。他の添加剤の配合量が少ない場合、内部に残留する前記界面活性剤量が大きくなる。従って、マスターバッチの配合量は繊維径、原料ポリプロピレンに含有される添加剤総量、添加剤の種類により影響される。概ねメルトブローンでは5W%、スパンボンドでは3W%のマスターバッチ配合量を目安とすれば良く、適宜微調整すると良い。
【0015】
本発明ポリプロピレンスパンボンド、メルトブローン不織布の製造方法は一般的なマスターバッチを使用する製造方法および製造設備で良く、例えばスパンボンドはダイ温度250℃、メルトブローンダイ温度280℃で紡糸できる。ポリプロピレン・マルチフィラメント、フィラメント、テープヤーン、ステープルも同様に紡糸オイルを使用せずに製造することができる。また、紡糸の際に最終製品の組成で前記2軸押し出し機を一般的に使用されている紡糸用単軸押し出し機に変更し、紡糸し、本発明のポリプロピレン繊維を製造することも可能であるが、設備更新費用が高価であるため、マスターバッチを使用し、従来設備を使用する方が経済的である。
【0016】
同様にして本発明ポリプロピレンフィルムの製造方法は一般的なマスターバッチを使用する例えばTダイ法およびインフレーション法などの製造方法および製造設備で良く、ダイ温度250℃で製造できる。この場合、効果的に表面に前記ノニオン系アルキル界面活性剤を配分できるため、その配合量は従来法より大幅に軽減でき、より経済的である。
また、同様にして射出成型物の製造もマスターバッチを使用し、一般的な製造設備で製造することができる。かくして、本発明成型物に容易かつ廉価に帯電防止性能や、防汚性能を樹脂成型品に付与することができる。
【0017】
また、本発明のポリプロピレン成型物の成型時、製品に影響ない内範囲で添加剤を加えて成型しても良い。添加剤としては光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤等の安定剤、着色顔料、芳香剤、抗菌剤、防カビ剤等の機能付加剤、カーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカなどの粉末、アラミド繊維、合成繊維、天然繊維、再生繊維、紙パルプなどの補強剤、増量剤等がある。
【0018】
親水性の評価方法として繊維製品は透水速度の測定をINDA IST 70.3(98)に準じ、9g食塩/リッター水の透過速度を秒単位で測定した。
前記界面活性剤の表面付着量は繊維製品試料1gを50mlバイエル瓶中n-Hexane30mlに浸漬し、振幅4mm、振幅数100回/分、1分振盜後、表面洗浄液を液体クロマトグラフで定量した。また、内部残留前記界面活性剤含有量はソックスレー抽出を行い、誤差が3%未満になる抽出回数まで抽出を繰り返し、抽出条件をここに設定し、抽出液を液体クロマトグラフで定量した。

さらに詳細については実施例にて説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1
マトリックスポリマーとして日本ポリエチレン(株)製ノバテック(商標名)MFR5のLDPE44重量部とプライムポリマー(株)製プライムポリプロ(商標名)MFR5のPP36重量部を高速回転2軸混練押し出し機のホッパーから定量供給し、ラウリルアルコール・エチレンオキサイド3モル付加物20重量部をプランジャーポンプで押し出し機の途中から定量的にサイドインジェクションし、スクリュー回転速度1,200回転/分、最高温度200℃、ダイ温度190℃で索状に押し出し、急冷後カットし、親水性マスターバッチペレットを製造した。マスターバッチ製造時溶融ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物のノズルからの噴出もなく、操業性にも問題はなかった。本名発明マスターバッチ中、ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は18.8W%と良好な歩留まりであった。
【0020】
前記マスターバッチを3重量部とプライムポリプロ(商標名)MFR50のPP97重量部をスパンボンド製造装置に定量供給し、紡糸温度250℃で繊維径約30ミクロン、目付30g/m2の本発明スパンボンド不織布を製造した。
この不織布表面ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は0.28W%であった。また、繊維内部残留ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は0.22W%であった。この不織布の食塩水透過速度は1秒未満であり、紙オムツ表面材などに好適な透水速度を示した。
また、この不織布単繊維を液体窒素により冷却後破断した破断面のSEM観察により、PEが繊維表面近傍により多く微分散していることが観察された。
【0021】
比較例1
実施例1と同様にして配合量を実施例1で製造した前記マスターバッチを1.5重量部とプライムポリプロ(商標名)MFR50のPP98.5重量部にのみ変更し、製造した不織布の食塩水透過速度は38秒であり、紙オムツ表面材としては不十分な透水速度を示した。この不織布表面ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は0.13W%であった。
【0022】
比較例2
実施例2と同様にして、実施例1で製造した前記マスターバッチの代わりにラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物0.6重量部をプライムポリプロ(商標名)MFR50のPP99.4重量部にドライブレンドし、不織布を製造した。この不織布の食塩水透過速度は60秒以上であり、紙オムツ表面材としては不十分な透水速度を示した。この不織布表面ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は0.09W%であった。これはマトリックスにポリエチレンが含まれていないため、ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は繊維中に均一に分散し、繊維表面量が少なくなったものと考えられる。
【0023】
実施例2
実施例1と同様にして、ラウリルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物の代わりに炭素数8のオクチルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物を用いたマスターバッチを使用し、実施例2と同様にして製造した不織布の食塩水透過速度は3秒であり、紙オムツ表面材としては十分な透水速度を示した。この不織布表面オクチルアルコール・エチレンオキサイド5モル付加物は0.22W%であった。表面量が低下したのはオクチルアルコールがラウリルアルコールと比べポリエチレンに親和性が小さいため、比較例2と同様にマトリックスポリプロピレン中により多く均一に分散したためと考えられ、そのため透過速度が少し遅くなったと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤のノニオン部分がエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドであるノニオン系アルキル界面活性剤が成型物表面に0.2から1.0W%、成型物内部に0.1から1.0W%含有され、成型物表面近傍に多く微分散したポリエチレンを0.5から10W%含有するポリプロピレン成型物。
【請求項2】
成型物が繊維または不織布である請求項1のポリプロピレン成型物。
【請求項3】
界面活性剤のアルキル部分が炭素数10以上の直鎖状飽和炭化水素である請求項1および2のポリプロピレン成型物。
【請求項4】
界面活性剤のエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドが3量体以上である請求項1から3のポリプロピレン成型物。

【公開番号】特開2009−144275(P2009−144275A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321490(P2007−321490)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(503188092)有限会社サンサーラコーポレーション (14)
【出願人】(591045105)クラレリビング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】