説明

角膜障害の予防及び/又は治療剤

【課題】 角膜障害の予防及び/または治療のための医薬、並びに角膜保護剤を提供すること。
【解決手段】 3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンなどのピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬、並びに角膜保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は直径約1cm、厚さ約1mm程度の大きさを有し、透明な無血管の組織である。角膜の透明性は視機能に重要な影響を与え、角膜における生理生化学的現象は、主として角膜の透明性の維持を目的として機能している。種々の疾患により引き起こされる角膜上皮欠損は、混合感染の併発がなければ自然に修復するが、修復が遅延したり、修復がなされずに上皮欠損が遷延化すると、上皮の構築が不完全になるのみならず、実質や内皮の構造及び機能にも障害が生じる。一方、角膜内皮は、細胞間の接合体の働きによって前房水からの水分の移動を減少させるバリアー機能を有し、角膜の含水量および厚みを一定に保ち、角膜の透明性を維持するのに関与している。
【0003】
近年、眼科領域における手術的治療は著しい進展をなし、放置すれば失明に至る疾患に関しても視力の維持や改善が可能となった。しかしながら、これら手術成績は十分に満足できるものではなく、さらに良好な成績が収められる手術方式や医薬品等の発展が期待されている。例えば、超音波白内障手術においては前房内灌流や超音波の発振により角膜内皮細胞が障害を受け、細胞数が減少し、角膜混濁に至る症例も認められる。
【0004】
一方、下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特許文献1参照)、過酸化脂質生成抑制作用(特許文献2参照)、抗潰瘍作用(特許文献3参照)、血糖上昇抑制作用(特許文献4参照)等が知られている。また、上記のピラゾロン誘導体の眼科関連の用途については、白内障や網膜症の予防剤又は治療剤(特許文献5)、視神経疾患等の治療及び/又は予防剤(特許文献6)、並びに網膜光障害の予防剤及び/又は治療剤(特許文献7)が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(非特許文献1;非特許文献2参照)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、エダラボンの角膜への作用については、これまでの所、報告がない。
【0006】
【特許文献1】特公平5−31523号公報
【特許文献2】特公平5−35128号公報
【特許文献3】特開平3−215425号公報
【特許文献4】特開平3−215426号公報
【特許文献5】特開平7−25765号公報
【特許文献6】国際公開WO02/00260号公報
【特許文献7】特開2003−252760号公報
【非特許文献1】Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997
【非特許文献2】Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬、並びに角膜保護剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、式(I)で示されるピラゾロン誘導体を用いて、角膜内皮細胞の細胞死に対する抑制効果を検討した。その結果、上記ピラゾロン誘導体の投与により、角膜内皮細胞の細胞死を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、下記式(I):
【化2】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬が提供される。
【0010】
好ましくは、角膜障害は角膜内皮障害である。
好ましくは、角膜内皮障害が角膜混濁である。
好ましくは、角膜混濁が眼科手術に起因する角膜混濁である。
好ましくは、本発明の医薬は、眼内灌流液の形態である。
【0011】
好ましくは、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体は3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜保護剤が提供される。
好ましくは、本発明の角膜保護剤は、角膜内皮細胞の保護のために使用される。
【0013】
本発明のさらに別の局面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、角膜障害を予防及び/または治療する方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の局面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、角膜を保護する方法が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬の製造のための上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、角膜保護剤の製造のための上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明による医薬及び角膜保護剤は、角膜障害を効果的に予防及び/または治療することができ、また角膜を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明により提供される角膜障害の予防及び/または治療のための医薬及び角膜保護剤(以下、これらを総称して、本発明の医薬と称する場合がある)は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む。
【0019】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I')又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I')又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0020】
【化3】

【0021】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0022】
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0023】
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0024】
1及びR2の定義における炭素数3〜5のアルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルテトラメチレン基等が挙げられる。
【0025】
2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0026】
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0027】
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0028】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0030】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0031】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0032】
3,3',4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0033】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0034】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0035】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩が挙げられる。この他、生理的に許容されるものであれば塩の種類は特に限定されることはない。
【0036】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0037】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。また、本発明の医薬は、眼科手術の治療成績を高める目的で眼内灌流液等に添加して使用することができる。また、本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、点眼剤、注射剤、軟膏剤、徐放剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを調製することができる。
【0038】
本発明の医薬の投与量は、有効成分の種類や作用の程度により適宜選択することができるが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重であり、点眼する場合には、1〜20mg/mlを1〜2滴、1日1〜数回点眼することが好ましい。
【0039】
本発明の医薬の投与時期及び投与期間も特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、本発明の医薬は、角膜障害の発症に先立って予防的に投与してもよいし、角膜障害の発症後に、治療、症状の改善、又は症状の悪化の防止を目的として投与してもよい。
【0040】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0041】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、抗酸化剤及び粘着剤等を用いることができる。
【0042】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0043】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0044】
また本発明の医薬の製剤化に際しては、有効成分であるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を、サイクロデキストリン包接体やリポソーム中に入れる等の操作をして徐放化することもできる。
【0045】
点眼剤に適する医薬組成物には、滅菌精製水、生理食塩水等の水性溶剤または綿美油、大豆油ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤を用い、これに前記式(I)の化合物またはその塩を溶解または懸濁することで得ることができる。このとき、等張化剤、pH調節剤、粘調剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤等を必要に応じて適宜加えてもよい。等張化剤としては塩化ナトリウム、ホウ酸、硝化ナトリウム、硝酸カリウム、D−マンニトール、ブドウ糖などを用いることができ、pH調節剤としてはホウ酸、無水亜硫酸ナトリウム、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂などを用いることができ、粘調剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。懸濁化剤としてはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシヒマシ油などを用いることができ、乳化剤としては卵黄レシチン、ポリソルベート80などを用いることができ、保存剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、パラオキシ安息香酸エステル類などを用いることができる。
【0046】
なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤を用いることができる。
【0047】
本発明の医薬は、角膜障害を防止する予防剤の作用、角膜障害を正常な状態に回復させる治療剤としての作用、並びに角膜(特に、角膜内皮細胞)を保護する作用を有している。本明細書で言う角膜障害とは、種々の要因により角膜が損傷を受けた状態を広く意味し、例えば、角膜潰瘍、角膜炎、眼球乾燥症などを挙げることができる。本明細書で言う角膜障害は、好ましくは、角膜内皮障害であり、例えば、角膜混濁、さらに具体的には、眼科手術に起因する角膜混濁などを挙げることができる。
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボン又はMCI−186と称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0050】
試験例:
実体顕微鏡下、ウサギ眼角膜片より角膜内皮細胞が付着した状態でデスメ膜を採取した。デスメ膜を少量の培養液中で細切した後、培養フラスコに播種し、5%CO2、37℃の条件下で培養した。培養液は20%牛胎児血清を含有するダルベッコ変法MEM(ダルベッコ変法イーグル培地2、日水製薬)を使用した。
【0051】
デスメ膜片から伸展した角膜内皮細胞が培養フラスコにほぼコンフルエントになった時点でトリプシン消化を行い、培養液に懸濁後、40μmのナイロンメッシュでろ過し、デスメ膜片を除去して角膜内皮細胞を単離した。
【0052】
角膜内皮細胞を96穴培養プレートに播種し、24時間培養後、MCI−186を0.1μM〜100μM添加し、30分間インキュベートした。30分後、0.65mMの過酸化水素を添加し、細胞障害を惹起した。過酸化水素添加1.5時間後に市販の測定キット(CellTiter 96 AQuesous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay、Promega社)を用いて生存細胞を測定した。
【0053】
生存細胞の測定結果を図1に示す。図1の結果から分かるように、MCI−186は過酸化水素による角膜内皮細胞の細胞死を濃度依存的に抑制した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、角膜内皮細胞の細胞死に対するエダラボン(MCI−186)の効果を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜障害の予防及び/または治療のための医薬。
【請求項2】
角膜障害が角膜内皮障害である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
角膜内皮障害が角膜混濁である、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
角膜混濁が眼科手術に起因する角膜混濁である、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
眼内灌流液の形態である、請求項1から4の何れかに記載の医薬。
【請求項6】
式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである、請求項1から5の何れかに記載の医薬。
【請求項7】
下記式(I):
【化2】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、角膜保護剤。
【請求項8】
角膜内皮細胞の保護のために使用される、請求項7に記載の角膜保護剤。
【請求項9】
式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである、請求項7又は8に記載の角膜保護剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266142(P2008−266142A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231804(P2005−231804)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】