説明

誘導型医療システム

【課題】血管の所望のルートに医療器具を容易に挿入させる。
【解決手段】磁石ヘッド25に磁石を有し、血管内に挿入可能な弾性体からなる筒状または線状のガイドワイヤ12と、永久磁石55を保持して体内に挿入可能なデバイスヘッド部を有し、血管内に挿入されるガイドワイヤ12の磁石に対してデバイスヘッド部の永久磁石55により磁気反発力を作用させて磁石ヘッド25を誘導する誘導装置14とを備える誘導型医療システム10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導型医療システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血管内に挿入されるガイドワイヤやカテーテル等の医療器具を、血管分岐点において所望の血管ルートに誘導する誘導型医療システムが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。特許文献1に記載の誘導型医療システムは、患者の体外に強力なマグネットを配置して体内に磁場勾配を発生させることにより、磁石が搭載されたカテーテルを血管内や心内において誘導することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6975197号明細書
【特許文献2】特開2005−161052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の誘導型医療システムは、強力なマグネットを有するため、装置本体が大きく高価なものとなるという不都合がある。
【0005】
本発明は、血管の所望のルートに医療器具を容易に挿入させることができる誘導型医療システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、先端部に磁石を有し、血管内に挿入可能な弾性体からなる筒状または線状の医療器具と、磁石を保持して体内に挿入可能な挿入部を有し、前記血管内に挿入される前記医療器具の磁石に対して前記挿入部の磁石により磁気反発力を作用させて前記先端部を誘導する誘導装置とを備える誘導型医療システムを提供する。
【0007】
本発明によれば、患者の体内に誘導装置の挿入部を挿入し、血管内に挿入された医療器具の磁石に対して誘導装置の磁石により磁気反発力を作用させることで、医療器具の先端部を誘導装置の挿入部に対して反発する方向に移動させることができる。
【0008】
したがって、複数のルートに枝分かれする血管の分岐部において、所望のルートとは異なるルートの入口上に誘導装置の挿入部を配置して磁気反発力により医療器具の磁石を所望のルートの入口に向けて反発することで、医療器具の先端部を所望のルートへ誘導することができる。これにより、血管の所望のルートに医療器具を容易に挿入させることができる。
【0009】
上記発明においては、前記誘導装置の挿入部が、前記医療器具の先端部に対面させられる対面部を有し、前記医療器具の磁石の先端方向に向けられる磁力と前記誘導装置の磁石の前記対面部方向に向けられる磁力とが同一の極性を有することとしてもよい。
【0010】
このように構成することで、医療器具の先端部の前方にその進行方向に対して誘導装置の挿入部の対面部を傾斜させて配置すれば、磁気反発力により医療器具の磁石の進行方向を挿入部の対面部に沿って変化させることができる。したがって、血管の分岐部において、所望のルートとは異なるルートの入口上に誘導装置の挿入部の対面部を所望のルートに沿うように傾斜させて配置すれば、医療器具の先端部を誘導して所望のルートに容易に挿入させることができる。
【0011】
本発明は、また、先端部に磁石を有し、血管内に挿入可能な弾性体からなる筒状または線状の医療器具と、磁石を保持して体内に挿入可能な挿入部を有し、前記血管内に挿入される前記医療器具の磁石に対して前記挿入部の磁石により磁気吸引力を作用させて前記先端部を誘導する誘導装置とを備える誘導型医療システムを提供する。
【0012】
本発明によれば、患者の体内に誘導装置の挿入部を挿入し、血管内に挿入された医療器具の磁石に対して誘導装置の磁石により磁気吸引力を作用させることで、医療器具の先端部を誘導装置の挿入部に近接する方向に移動させることができる。
【0013】
したがって、複数のルートに枝分かれする血管の分岐部において、所望のルートの入口上に誘導装置の挿入部を配置して磁気吸引力により医療器具の磁石を誘導装置の挿入部に引き付けることで、医療器具の先端部を所望のルートへ誘導することができる。これにより、血管の所望のルートに医療器具を容易に挿入させることができる。
【0014】
上記発明においては、前記誘導装置の挿入部が、前記医療器具の先端部に対面させられる対面部を有し、前記医療器具の磁石の先端方向に向けられる磁力と前記誘導装置の磁石の前記対面部方向に向けられる磁力とが対極の極性を有することとしてもよい。
【0015】
このように構成することで、医療器具の先端部の前方に誘導装置の挿入部の対面部を対面させて配置すれば、磁気吸引力により医療装置の先端部を挿入部に引き付けることができる。したがって、血管の分岐部において、所望のルートの入口上に医療器具の先端部が挿入されてくる方向に誘導装置の挿入部の対面部を向けて配置すれば、医療器具の先端部を誘導して所望のルートに容易に挿入させることができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記医療器具の磁石が略球形状からなり径方向に極性を有することとしてもよい。
このように構成することで、医療器具の磁石の対極が誘導装置の磁石による誘導操作に及ぼす影響を低減することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記誘導装置の挿入部が前記磁石を露出させて保持することとしてもよい。
このように構成することで、挿入部の磁石を視認することができる。したがって、血管に対して誘導装置の磁石の位置決めを容易にすることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記誘導装置の挿入部が保持した前記磁石を覆う透明部材を備えることとしてもよい。
このように構成することで、挿入部の磁石を露出させずに透明部材により保護しつつ、視認して容易に位置決めすることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記誘導装置の磁石が、前記血管に近接させられる面とは反対側の面に縁の角を取った外縁部を有することとしてもよい。
このように構成することで、体内に内視鏡を挿入して誘導装置の挿入部の位置を確認する場合に、磁石の血管に近接させられる面の縁が反対側の面の縁の影になって隠れてしまうのを防止することができる。したがって、磁石の血管側とは反対側の面の角を取った外縁部により、磁石の血管側の面の縁の視認性を向上し、誘導装置の挿入部を精度よく位置決めすることができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記誘導装置の挿入部が、保持した前記磁石を前記挿入部の長手方向に対して交差する方向に進退可能な磁石位置調整機構を備えることとしてもよい。
このように構成することで、誘導装置の挿入部を血管に近接させて位置決め固定した状態で、磁石位置調整機構により、挿入部を動かすことなく磁石だけを動かして医療器具の磁石との位置関係を微調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、血管の所望のルートに医療器具を容易に挿入させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る誘導型医療システムと患者の心臓近辺を示す概略図である。
【図2】図1のガイドワイヤを示す概略図である。
【図3】図1の誘導装置の全体図である。
【図4】(a)は図3のシャフト部が直線状に延びた状を示す図であり、(b)は湾曲機構の作動によりシャフト部が湾曲した状態を示す図である。
【図5】(a)は図3のデバイスヘッド部を厚さ方向に見た図であり、(b)は(a)のL−L’断面をデバイスヘッド部の基端側に向かって見た断面図であり、(c)は(a)のデバイスヘッド部を切欠の開口側から見た図である。
【図6】患者の心臓付近に図2のガイドワイヤと図3の誘導装置を挿入した状態を示す図である。
【図7】血管の分岐部におけるガイドワイヤと誘導装置の位置関係を示す図である。
【図8】(a)は血管の分岐部における誘導装置の永久磁石とガイドワイヤの磁石ヘッドの位置関係を示す図であり、(b)は(a)のM−M’断面を示す断面図であり、(c)は(a)のN−N’断面を示す断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態の変形例に係る誘導型医療システムのガイドワイヤの断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る誘導型医療システムの誘導装置のデバイスヘッド部を幅方向に切断した断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態の変形例に係る誘導型医療システムの誘導装置のデバイスヘッド部を幅方向に切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る誘導型医療システムについて、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る誘導型医療システム10は、図1に示されるように、患者Aの冠静脈脈(血管)C内に挿入する筒状または線状のガイドワイヤやカテーテル等の医療器具12と、患者Aの体内に挿入可能なデバイスヘッド部(挿入部)51を有し、冠静脈C内に挿入された医療器具12を誘導する誘導装置14とを備えている。以下、医療器具12として、ガイドワイヤを例示して説明する。図1において、符号Eは心臓を示し、符号Gは心嚢を示している。
【0024】
ガイドワイヤ12は、図2に示すように、軸方向に延びる略円柱状のシャフト21と、シャフト21の周囲を覆うように配置されたコイル23と、シャフト21の先端に設けられた磁石ヘッド(先端部)25とを備えている。
【0025】
シャフト21は、磁石ヘッド25の外径寸法と略同一の外径寸法を有する基端部21aと、基端部21aから先端に向かって延びるテーパ形状のテーパ部21bとを有している。テーパ部21bによりシャフト21の径寸法を先端に向かって徐々に小さくしていくことで、ガイドワイヤ12の先端が屈曲変形しやすいようになっている。
コイル23は、シャフト21のテーパ部21bの周囲に配置され、磁石ヘッド25の外径寸法と略同一の外形寸法を有するように径方向に間隔をあけて巻かれている。
【0026】
磁石ヘッド25は、ガイドワイヤ12の先端に向かって凸となる砲弾形状もしくは半球形状の磁性材料からなる磁性部材27と、磁性部材27よりも基端側に配置されたリング状の永久磁石からなる磁石29とを備えている。
磁石29は、シャフト21と同軸を有して配置され、例えば、磁性部材27側がN極となるように磁力により固定されている。磁石29には酸化防止のための保護層(図示略)が周囲に塗布されている。
【0027】
これらのシャフト21、コイル23、磁石ヘッド25は、周囲を親水性のコーティング層(図示略)によって被覆されている。これにより、ガイドワイヤ12は、イントロデューサ67や血管内壁との接触による摩擦力を低減し、進退を容易にしている。
このように構成されたガイドワイヤ12は、ガイドワイヤ本来の機能を持ちながら、磁石29により磁性部材27が磁性を帯びて先端の外側表面がN極の磁性を持つようになっている。
【0028】
誘導装置14は、図3に示すように、術者が把持するグリップ部31と、グリップ部31から先端に向かって延び、デバイスヘッド部51が接続されたシャフト部41とを備えている。
グリップ部31は、シャフト部41を操作するレバー33を備えている。
【0029】
シャフト部41は、シャフト本体43と、図4(a),(b)に示すようにシャフト本体43を軸方向に交差する方向に湾曲させる湾曲機構45とを備えている。
シャフト本体43は、心嚢G内においてデバイスヘッド部51の心筋組織接触面が心臓Eの方向に向かって緩やかなカーブを描くようにプリシェイプされている。これにより、心臓Eの表面に対して、垂直方向のステアリング機構無しにデバイスヘッド部51を密着させることができるようになっている。
【0030】
湾曲機構45は、シャフト本体43に収容されており、2組のステアリングコイル47およびステアリングワイヤ49を備えている。
2組のステアリングコイル47は、それぞれ両端を押し広げる余力を持たせてその両端がシャフト本体43に固定されている。また、各ステアリングコイル47は、それぞれステアリングワイヤ49を介してグリップ部31のレバー33に接続されている。
【0031】
この湾曲機構45は、レバー33の操作により、一方のステアリングワイヤ49が引っ張られて他方のステアリングワイヤ49が緩められると、引っ張られたステアリングワイヤ49に接続されたステアリングコイル47が縮み、他方のステアリングワイヤ49に接続されたステアリングコイル47が伸びるようになっている。これにより、シャフト本体43を図4(a)に示すような直線状に延びた状態から図4(b)に示すような一方向に湾曲した状態に変化させることができ、心臓Eの表面に対して水平方向に湾曲するシャフト21の湾曲動作が可能になっている。
【0032】
デバイスヘッド部51は、図5(a),(b),(c)に示すように、幅方向に奥行きを有する切欠52が形成されたコの字形状の磁石固定部53と、磁石固定部53により保持される永久磁石(磁石)55とを備えている。
磁石固定部53は、図5(a)に示すように、デバイスヘッド部51における先端側に配置される先端側支持部53Aと、デバイスヘッド部51における基端側に配置される基端側支持部53Bと、これらを連結する連結部53Cとを備えている。
【0033】
また、磁石固定部53は、図5(b),(c)に示すように、先端側支持部53Aから連結部53Cを介して基端側支持部53Bにかけて、一面に厚さ方向の途中位置まで窪む溝部53Dを有している。溝部53Dには永久磁石55が嵌め込まれている。
【0034】
磁石固定部53における溝部53Dが形成された一面(対面部。以下、心臓接触面53Eという。)は、図5(c)に示すように、緩やかな凹状の曲面形状を有しており、この心臓接触面53Eにシリコーン樹脂コーティング層が形成されている。これにより、磁石固定部53は、心臓Eに心臓接触面53Eを接触させる際に、心臓組織表面の曲面に対して安定した接触固定を可能とするとともに、心臓表面に与える損傷を低減することができるようになっている。
【0035】
永久磁石55は、磁石固定部53の心臓接触面53E側がN極となる向きで溝部53Dに嵌め込まれ、永久磁石55の表面と心臓接触面53Eにおける凹部曲面の最も窪んだ位置とが略面一になるように配置されている。また、永久磁石55は、磁石固定部53の心臓接触面53E側から切欠52の開口を介して反対側にかけて、その表面が露出させられている。このように配置された永久磁石55は、磁石固定部53の心臓接触面53Eが心臓組織に接触固定されることにより、血管を含む心臓組織内に磁場を形成させることができるようになっている。
【0036】
また、永久磁石55は、磁石固定部53の心臓接触面53Eとは反対側の面、すなわち、S極側の面に縁の角を取った外縁部55Aを有している。外縁部55Aは、永久磁石55を保持する磁石固定部53の切欠52の開口側に配置されている。磁石固定部53の切欠52の開口側に外縁部55Aを配置することで、心嚢G内に内視鏡を挿入して画面上で永久磁石55の位置を確認する場合に、永久磁石55の心臓接触面53E側の面(N極側の面)のエッジが反対側の面(S極側の面)のエッジの影となり隠れてしまうのを防止し、心嚢G内における永久磁石55の位置の視認性を向上させることができる。
【0037】
このように構成された本実施形態に係る誘導型医療システム10の動作について以下に説明する。
例えば、冠動脈疾患治療において、本実施形態に係る誘導型医療システム10のガイドワイヤ12を冠動脈血管内に留置するには、例えば、Sosaの手法(参考文献:Sosa E et al.,Nonsurgical transthoracic epicardial catheter ablation to treat recurrent ventricular tachycardia occurringlate after myocardial infarction.J Am Coll Cardiol 2000;35:1442−1449)を用いて、心嚢G内にアクセスするステアリング機構付のシース(図示略)を患者の剣状突起下に2本留置する。そして、図6に示すように、心嚢G内を観察するための内視鏡63と誘導装置14を各シースを介して心嚢G内に挿入する。
【0038】
続いて、鎖骨下静脈よりシース(もしくはイントロデューサ)67を介して冠静脈洞B内にガイドワイヤ12を挿入する。そして、グリップ部31を操作し、冠静脈洞Bから血流に逆行して冠状脈C内にガイドワイヤ12を進めていく。血管の分岐部等、ガイドワイヤ12を挿入する血管の構造が複雑になるに従い、グリップ部31による操作のみでは所望の血管ルートにガイドワイヤ12を進めることが困難になる。
【0039】
そこで、図7に示すように、心嚢G内に挿入した内視鏡63により、ガイドワイヤ12を挿入したい所望の血管ルートの入口がある血管分岐部Kを視認し、所望の血管ルートとは異なる血管ルートの入口上に誘導装置14のデバイスヘッド部51を心臓接触面53Eを接触させて配置する。
【0040】
このとき、例えば、図7および図8(a),(b),(c)に示すように、所望の血管ルートとは異なる血管ルートが延びる方向に対して交差する方向にデバイスヘッド部51を傾斜させて固定し、所望の血管ルートが延びる方向に永久磁石55を沿わせるように配置する。この状態で、ガイドワイヤ12を押し進めると、ガイドワイヤ12が所望の血管ルートとは異なる血管ルートに向かって進んだ場合に、その入口付近において誘導装置14の永久磁石55とガイドワイヤ12の磁石ヘッド25(磁石29)とが対面させられる。
【0041】
この場合において、ガイドワイヤ12における磁石ヘッド25の先端方向に向けられる極性と誘導装置14における永久磁石55の対面部51A方向に向けられる極性とが互いにN極を有するので、これら磁石ヘッド25(磁石29)と永久磁石55との間に磁気反発力が作用する。この結果、血管上に固定された誘導装置14のデバイスヘッド部51に対して、ガイドワイヤ12のデバイスヘッド部51が反発する方向に移動させられる。
【0042】
具体的には、ガイドワイヤ12の進行方向に対して所望の血管ルートが延びる方向に沿うように傾斜して配置されたデバイスヘッド部51の永久磁石55により、ガイドワイヤ12のデバイスヘッド部51が所望の血管ルートの入口に向かって進行方向を変化させられる。これにより、ガイドワイヤ12を所望の血管ルートに挿入させることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る誘導型医療システム10によれば、複数の血管ルートに枝分かれする血管分岐部Kにおいて、所望の血管ルートとは異なる血管ルートの入口上に誘導装置14のデバイスヘッド部51を傾斜させて配置し、磁気反発力によりガイドワイヤ12の磁石29を所望の血管ルートの入口に向けて反発することで、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25を所望の血管ルートへ誘導することができる。これにより、所望の血管ルートにガイドワイヤ12を容易に挿入させることができる。
【0044】
本実施形態においては、内視鏡による誘導装置14の永久磁石55と血管との位置関係の視認性を良好にするために、デバイスヘッド部51の永久磁石55を露出させることとしたが、磁石固定部53により保持される永久磁石55を透明材料からなる透明カバー(透明部材)により覆うこととしてもよい。このようにした場合も。永久磁石55の視認性を確保し、血管に対する永久磁石55の位置決めを容易にすることができる。
【0045】
本実施形態は以下のように変形することができる。
本実施形態においては、医療器具の磁石としてリング状の磁石29を例示し、磁石ヘッド25が磁石29と磁性部材27を備えることとしたが、医療器具の磁石として半球形状や砲弾形状の半球面がN極に帯磁した磁石を用い、磁性部材27を省略することとしてもよい。このとき、対極のS極の効果をガイドワイヤ12の基端側にシフトさせるために、ガイドワイヤ12のシャフト21やコイル23を磁性材料により構成することとしてもよいし、複数の磁石により構成することとしてもよい。
【0046】
本変形例においては、図9に示すように、医療器具の磁石として、略球形状からなり、径方向に極性を有する磁石125を採用することとしてもよい。このようにした場合も、ガイドワイヤ12の先端側の磁性極性をN極にすることができる。本変形例においては、シャフト21のテーパ部21bとコイル23との間の空間に、支持層として軟性樹脂を注入することとしてもよい。なお、ガイドワイヤ12は、磁石ヘッド25の先端がN極となるように磁石が搭載されていれば、磁石の形状および配置は特に限定されるものではない。
【0047】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る誘導型医療システムについて説明する。
本実施形態に係る誘導型医療システム110は、図10に示すように、デバイスヘッド部51が、永久磁石155をデバイスヘッド部51の長手方向に対して交差する方向に進退可能な回転直動変換機構(磁石位置調整機構)160を備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る誘導型医療システム10と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
永久磁石155は、台形形状を有し、デバイスヘッド部51の心臓接触面53E側にN極の極性を有している。この永久磁石155は、台形形状の斜面側が磁石固定部153の切欠52の開口側に向くように配置されている。このようにすることで、血管が延びる方向に対して直交する方向に沿ってデバイスヘッド部51を固定した場合に、血管に対して永久磁石155のN極側の面を角度を持たせて配置し、永久磁石155の有効長を大きく取ることができる。また、永久磁石155は、長辺部に凹形状のガイド凹部(図示略)を有し、台形形状の斜面に沿ってS極側の角部が取れた外縁部55Aを有している。
【0049】
磁石固定部153は、永久磁石155をデバイスヘッド部51の幅方向、すなわち、切欠52の奥行方向に進退可能に切欠52内に収納することができるようになっている。磁石固定部153の連結部53Cと永久磁石155は、永久磁石155を切欠52内に収納する方向の力が付与されたバネ152により接続されている。また、磁石固定部153は、先端側支持部53Aに永久磁石155の長辺部のガイド凹部をガイドする凸形状のガイド凸部153Fを備え、基端側支持部53Bに回転直動変換機構160を備えている。
【0050】
回転直動変換機構160は、デバイスヘッド部51の幅方向に延びる軸線回りに回転可能なネジ構造を有するネジ部161と、ネジ部161と同軸を有してネジ部161の一端に設けられた滑車163と、滑車163に一端が巻かれたワイヤ165と、ネジ部161を嵌合する雌ネジ構造を有する直動部材167とを備えている。
【0051】
ネジ部161は、滑車163が設けられた基端部が磁石固定部153の切欠52の開口側に配置され、先端部が磁石固定部153の切欠52の奥行側に配置されている。
ワイヤ165は、シャフト部41に設けられたワイヤ用孔(図示略)を通り、グリップ部31のレバー33と連動して動作する部材(図示略)に他端が接続されている。
直動部材167には、永久磁石155の短辺部が固定されている。この直動部材167は、ワイヤ165により滑車163と共にネジ部161が回転すると、ネジ部161の軸方向に移動するようになっている。
【0052】
このように構成された本実施形態に係る誘導型医療システム110によれば、誘導装置14において、グリップ部31のレバー33を操作してワイヤ165を引っ張ると、滑車163およびネジ部161が回転して直動部材167がネジ部161の基端部側に移動する。これにより、永久磁石155が磁石固定部153の切欠52から突出する方向に移動する。一方、レバー33の操作によりワイヤ165を解放すると、バネ152の復元力により、滑車163およびネジ部161が反対回りに回転して直動部材167がネジ部161の先端部側に移動する。これにより、永久磁石155が磁石固定部153の切欠52内に収納される方向に移動する。
誘導装置14の永久磁石155の駆動機構以外は、第1実施形態と同様である。
【0053】
したがって、血管上にデバイスヘッド部51を固定したまま、レバー33を操作するだけで、回転直動変換機構160により、デバイスヘッド部51の幅方向における永久磁石155の位置を微調整することができる。これにより、誘導装置14の永久磁石155をより的確な位置に配置することができ、所望の血管ルートにガイドワイヤ12をより正確に挿入させることができる。
【0054】
本実施形態においては、磁石固定部153の連結部53Cと永久磁石155との間にバネ152を配置することとしたが、バネ152は、本実施形態に示した部位に配置する場合に限定されるものではなく、ワイヤ165の引張り力を解除したときに、磁石固定部153の切欠52内に永久磁石155を収納する方向に戻す力が発揮される位置に配置することとすればよい。例えば、回転直動変換機構160のネジ部161内にバネを挿入固定し、永久磁石155を収納する方向の回転力がバネに付与された構造としてもよい。
【0055】
本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態において、磁石位置調整機構として、永久磁石155をデバイスヘッド部51の幅方向に進退可能な回転直動変換機構160を例示して説明したが、これに代えて、例えば、図11に示すように、磁石固定部153の先端側支持部53Aの磁石固定支点254を支点として永久磁石155を回動自在な磁石位置調整機構260を備えることとしてもよい。
【0056】
本変形例に係る永久磁石155は、磁石固定支点254に支持された角部とは反対側の1辺が磁石固定支点254を中心とする略円弧状に形成されている。永久磁石155の略円弧状に形成された1辺には、凹形状のガイド凹部(図示略)が設けられている。
【0057】
磁石固定部153は、基端側支持部53Bの壁面が磁石固定支点254を中心とする円弧形状を有し、永久磁石155のガイド凹部をガイドする凸形状のガイド凸部(図示略)を備えている。
【0058】
磁石位置調整機構260は、磁石固定部153の基端側支持部53Bに配置された滑車263と、滑車263を介して永久磁石155に接続されたワイヤ265と、永久磁石155を磁石固定部153の切欠52内に収納する力が付与されたバネ252とを備えている。
【0059】
滑車263は、磁石固定部253の厚さ方向に延びる軸線回りに回転可能に設けられている。
ワイヤ265は、永久磁石255における磁石固定支点254により支持された角部とは対角に位置する角部に一端が接続されている。また、ワイヤ265は、シャフト部41のワイヤ用孔(図示略)を通り、グリップ部31のレバー33と連動して動作する部材(図示略)に接続されている。
バネ252は、磁石固定部253の連結部53Cと永久磁石255におけるワイヤ265が接続された角部とを接続している。
【0060】
デバイスヘッド部51の心臓接触面53Eとは反対側の面には、磁石位置整機構260を覆う透明なカバー(図示せず)が配置されており、磁石位置整機構260からの周辺組織の保護とともに、カバーによる永久磁石155の視認性の劣化を防いでいる。
【0061】
本変形例に係る誘導型医療装置110によれば、グリップ部31のレバー33の操作によりワイヤ265を引っ張ると、磁石固定支点254を支点として永久磁石155が回動しながら切欠52から突出する。一方、レバー33の操作によりワイヤ265を元に戻すと、バネ252の復元力により永久磁石155が磁石固定支点254を支点として回動しながら切欠52内に収納される。
【0062】
これにより、血管上にデバイスヘッド部51を固定したままレバー33の操作だけで、デバイスヘッド部51の長手方向に交差する方向の永久磁石155の位置を微調整することができる。
本変形例においては、永久磁石155の脱落を防止するために、永久磁石155の動作範囲を制限するストッパを設けることとしてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記各実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。また、例えば、上記各実施形態においては、医療器具の磁石および誘導装置の磁石としてそれぞれ永久磁石を例示して説明したが、これらに代えて電磁石を採用することとしてもよい。
【0064】
また、上記各実施形態においては、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25に搭載した磁石29の先端側の極性と誘導装置14のデバイスヘッド部51に搭載した永久磁石55,155の心筋組織接触面側の極性を共にN極としたが、両磁石の極性が同極であればよく、両者にS極を配置することとしてもよい。
【0065】
また、上記各実施形態においては、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25と誘導装置14の永久磁石55,155を互いに同極どうしが対面するように配置し、磁気反発力によりガイドワイヤ12を誘導することとしたが、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25と誘導装置14の永久磁石55,155を互いに異極どうしが対面するように配置し、磁気吸引力によりガイドワイヤ12を誘導することとしてもよい。
【0066】
この場合、例えば、ガイドワイヤ12が先端側にN極を有する場合は、誘導装置14のデバイスヘッド部51の心臓接触面53E側にS極を向けて永久磁石55,155を配置することとすればよい。このようにすることで、血管上に固定した誘導装置14の永久磁石55,155に対してガイドワイヤ12の先端を近付ければ、磁気吸引力によりガイドワイヤ12の磁石ヘッド25を誘導装置14のデバイスヘッド部51に近接する方向に移動させることができる。
【0067】
例えば、複数のルートに枝分かれする血管分岐部Kにおいて、所望の血管ルートの入口上に誘導装置14の永久磁石55,155を配置し、磁気吸引力によりガイドワイヤ12の磁石29を誘導装置14のデバイスヘッド部51に引き付けることで、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25を所望の血管ルートへ誘導することができる。これにより、所望の血管ルートにガイドワイヤ12を容易に挿入させることができる。
【0068】
すなわち、上記実施例では、磁力の反発力を用いた実施例について説明したが、磁石の引力を用いることもできる。この場合、例えば、ガイドワイヤ12の磁石ヘッド25に搭載した磁石29の先端側の極性と誘導装置14のデバイスヘッド部51に搭載した永久磁石55,155の心筋組織接触面側の極性を同極としたが、それぞれが極性の異なる磁性を持つか、もしくは一方が磁力を持ち他方が磁性体で構成すればよい。
【0069】
磁石の引力を用いる場合には、上記実施例において、所望の血管ルート上に誘導装置14のデバイスヘッド部51に搭載した磁石を接触させる点と、ガイドワイヤ12の先端が所望の血管ルートに入った時に、デバイスヘッド部51に搭載した磁石を遠ざけるなり電磁石の電源を切ることにより無効にした後、ガイドワイヤ12を遠位に進める点が異なる以外は同様の操作を行なえばよい。
【0070】
磁石の引力を利用する場合には、上記のようにガイドワイヤ12を遠位に進める際にデバイスヘッド部51の磁力を無効にする必要があるが、磁石の反発力を利用した実施例においては、その必要はなくデバイスヘッド部51の位置を固定したままガイドワイヤ12を操作することが可能である点で優れている。
一方、磁石の引力を利用する場合には、ガイドワイヤ12の先端に磁性を持った部材を配置しなくても磁性体部材が配置されていれば良い点で利点がある。
【0071】
また、上記各実施形態においては、心臓再同期療法(CRT)デバイス用の左室リードを留置するに当たり、冠静脈内にガイドワイヤ12を留置する場合を例に説明したが、これに限るものではなく、冠動脈中にガイドワイヤ12を挿入する際にも応用できることはいうまでもない。
また、上記各実施形態においては、シャフト部41の湾曲機構45が1軸方向にのみ湾曲させることとして説明したが、これに代えて、公知技術である内視鏡の蛇管構造を持った2軸方向の湾曲機構を採用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10,110 誘導型医療システム
12 医療器具
14 誘導装置
25 磁石ヘッド(先端部)
29 磁石
51 デバイスヘッド部(挿入部)
53E 心臓接触面(対面部)
55,155 永久磁石(磁石)
55A 外縁部
160 回転直動変換機構(磁石位置調整機構)
260 磁石位置調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に磁石を有し、血管内に挿入可能な弾性体からなる筒状または線状の医療器具と、
磁石を保持して体内に挿入可能な挿入部を有し、前記血管内に挿入される前記医療器具の磁石に対して前記挿入部の磁石により磁気反発力を作用させて前記先端部を誘導する誘導装置とを備える誘導型医療システム。
【請求項2】
前記誘導装置の挿入部が、前記医療器具の先端部に対面させられる対面部を有し、
前記医療器具の磁石の先端方向に向けられる磁力と前記誘導装置の磁石の前記対面部方向に向けられる磁力とが同一の極性を有する請求項1に記載の誘導型医療システム。
【請求項3】
先端部に磁石を有し、血管内に挿入可能な弾性体からなる筒状または線状の医療器具と、
磁石を保持して体内に挿入可能な挿入部を有し、前記血管内に挿入される前記医療器具の磁石に対して前記挿入部の磁石により磁気吸引力を作用させて前記先端部を誘導する誘導装置とを備える誘導型医療システム。
【請求項4】
前記誘導装置の挿入部が、前記医療器具の先端部に対面させられる対面部を有し、
前記医療器具の磁石の先端方向に向けられる磁力と前記誘導装置の磁石の前記対面部方向に向けられる磁力とが対極の極性を有する請求項3に記載の誘導型医療システム。
【請求項5】
前記医療器具の磁石が略球形状からなり径方向に極性を有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の誘導型医療システム。
【請求項6】
前記誘導装置の挿入部が前記磁石を露出させて保持する請求項1から請求項5のいずれかに記載の誘導型医療システム。
【請求項7】
前記誘導装置の挿入部が保持した前記磁石を覆う透明部材を備える請求項1から請求項5のいずれかに記載の誘導型医療システム。
【請求項8】
前記誘導装置の磁石が、前記血管に近接させられる面とは反対側の面に縁の角を取った外縁部を有する請求項1から請求項7のいずれかに記載の誘導型医療システム。
【請求項9】
前記誘導装置の挿入部が、保持した前記磁石を前記挿入部の長手方向に対して交差する方向に進退可能な磁石位置調整機構を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の誘導型医療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−103075(P2013−103075A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250687(P2011−250687)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】