説明

調製粉乳及びその製造方法、並びに酸化抑制剤

【課題】保存安定性に優れた、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳を提供すること。
【解決手段】カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製し、当該調乳液を乾燥して調製粉乳を製造する工程、を含む、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳の製造方法、及び該製造方法によって製造される調製粉乳。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳、及びその製造方法に関する。
また、本発明は、カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、かつ、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳のための、コハク酸モノグリセリドを有効成分とする酸化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質は食生活に必須の栄養素であり、主に飲食品の摂取により体内に取り込まれる。脂質としては動物性油脂と植物性油脂があり、動物性油脂としては牛や水牛、ヤギ、ロバ等から得られる乳脂肪、豚油(ラード)、魚油等がある。また、植物性油脂としては、大豆油、コーン油、ゴマ油、エゴマ油等の植物から得られる油脂の他、微生物を培養して得られる油脂がある。
【0003】
近年、栄養学の発展やこれに伴う栄養所要量の変更により、飲食品、特に乳幼児用飲食品、栄養機能食品、特定保健用食品等の各種成分について改良が行われてきた。油脂では不飽和脂肪酸の栄養特性が注目されており、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸を配合、増強した飲食品が次々と発売されている。
【0004】
しかしながら、不飽和脂肪酸は、脂肪酸構造中に不飽和結合が存在することから、非常に酸化されやすいことが知られている。不飽和脂肪酸を含む油脂の酸化は、光、温度、酸素等によって容易に促進される。
【0005】
一般的な調製粉乳では、蛋白質としてカゼイン、ホエイ、及びこれらの分解物が配合されている。そして、一般的な乳幼児用調製粉乳であれば、例えば、蛋白質組成はカゼイン4割、ホエイ蛋白質6割といった割合に設定される。
【0006】
乳製品は、ほ乳類であるヒトにとって、重要かつ優れた栄養源である。特に、乳幼児用の調製粉乳は、過去数十年にわたって世界各国における乳幼児の栄養状態を大きく改善して、生存率を劇的に向上させてきた。ところが、乳幼児の中には一定の割合で、先天的あるいは後天的な乳糖不耐症のために、乳糖を含む調製粉乳を摂取すると下痢その他の症状を呈してしまい、通常の調製粉乳を栄養源とすることができない患者がいる。乳糖不耐症は、いったん成人になってしまえば生存上さほど重大な問題ではないが、乳幼児にとっては、生存上きわめて重大な不利益をもたらす。そこで現在では、乳糖不耐症患者である乳幼児用の調製粉乳が、特別に製造されている。
【0007】
乳糖不耐症患者用の調製粉乳では、乳糖を注意深く完全に除去する必要がある。しかし、一般的な乳幼児用調製粉乳のタンパク質組成、例えば、上述したようなカゼイン4割、ホエイタンパク質6割といったタンパク質組成とした場合には、ホエイに含まれる乳糖が、不可避的に混入してしまう。そこで、ホエイなどの原材料から、乳糖を注意深く完全に除去するためには、一般的な調製粉乳と比較して、複雑な製造工程が必要となっている。
【0008】
コハク酸モノグリセリドは乳化剤として使用されてきた。
【0009】
特許文献1には、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を含有することを特徴とする油脂乳化組成物が記載されている。しかし、有機酸モノグリセリドは、生クリームなどの風味をもたらすために、単に乳化剤として使用することが開示されているだけである。
【0010】
特許文献2には、蛋白質またはその分解物、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、および水を主成分とする乳化状栄養組成物において、乳化剤として、コハク酸モノグリセリド、リンゴ酸モノグリセリド、及びクエン酸モノグリセリドから選ばれる1種以上を全組成量に対し0.05〜3重量%含有し、かつ乳化後に高温滅菌処理を行うことを特徴とする乳化状栄養組成物が記載されている。しかし、これらの有機酸モノグリセリドは、単に乳化剤として使用することが開示されているだけである。
【0011】
特許文献3には、栄養組成物において、脂肪、乳清蛋白加水分解物、カゼイン加水分解物、及び乳化剤としてコハク酸モノグリセリド及び/又はタピオカ澱粉を含有することを特徴とする乳化安定性の良好な栄養組成物、が記載されている。しかし、コハク酸モノグリセリドは、単に乳化剤として使用することが開示されているだけである。
【0012】
特許文献4には、有機酸モノグリセリドを添加して熱安定性を付与した乳が記載されている。しかし、有機酸モノグリセリドは、加熱時における乳蛋白質の沈殿の生成を抑制するために、単に乳化剤として使用することが開示されているだけである。
【0013】
特許文献5には、固形分中に、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂5〜70重量%と蛋白質及び/又はその分解物10〜50重量%を含有する水中油型の均質乳化液を乳化剤及び乳化機を用いて調製したのち、これを高真空下で乾燥させることを特徴とする高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法、が記載されている。しかし、有機酸モノグリセリドは、水中油型の均質乳化液を製造するため使用可能な乳化剤として列挙されたうちの一つとして開示されているだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−170号公報
【特許文献2】特開昭61−56061号公報
【特許文献3】特開2001−54367号公報
【特許文献4】特開2000−32910号公報
【特許文献5】特開平5−78692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、複雑な製造工程を経ることなく、できるだけ簡易な工程で製造できるような、乳糖不耐症患者のための乳幼児用の調製粉乳を、開発してきた。そして、栄養学的な配慮や原材料としての入手のしやすさと、複雑な乳糖除去工程をできるだけ回避するという観点から、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳の開発を鋭意進めてきた。
しかし、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳は、カゼインとホエイを配合する一般的な蛋白質組成の調製粉乳と比較して、長期の保存安定性に劣るという問題があることを、本発明者は見いだした。
そこで、本発明者は、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳において、長期の保存安定性に優れ、品質保持期限が長く、風味良好な調製粉乳を希求してさらに開発を進めてきた。
したがって、本発明の目的は、保存安定性に優れた、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意研究により、全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなる調製粉乳において、コハク酸モノグリセリドを配合することにより、製造される調製粉乳の保存安定性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
ところが、通常の配合の調製粉乳にコハク酸モノグリセリドを添加しても、そのような保存安定性の顕著な向上が見られることはなかった。そこで、本発明者らは、さらに研究を進めて、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳においては、カゼインとホエイを配合する一般的な蛋白質組成の調製粉乳と比較して、調製粉乳中の油脂の酸化が早く進行すること、そして酸化が早く進行することが、長期の保存安定性が劣る原因となっていることを見いだした。
【0018】
本発明者は、このようにして、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳、特に全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなる調製粉乳に配合した場合に限って、コハク酸モノグリセリドが、油脂の酸化を顕著に抑制して(抗酸化作用)、調製粉乳の長期の保存安定性を顕著に向上させることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0019】
また、コハク酸モノグリセリドを配合した場合には、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳、特に全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなる調製粉乳が、長期の保存安定性が顕著に向上したものとなっているので、同じ保存期間で比較した場合には、本発明の調製粉乳は、風味が顕著に改善されたものとなっている。
【0020】
前記課題を解決する本願第一の発明は、カゼインが全蛋白質の95質量%以上であることを特徴とする、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳の製造方法であって、カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製する工程、当該調乳液を乾燥して調製粉乳を得る工程、を含む製造方法、である。
【0021】
また、本願第二の発明は、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳、である。
【0022】
本願第二の発明は、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を、[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を2質量部以上で含有することが好ましく、2〜4質量部で含有することがさらに好ましい。
【0023】
本願第三の発明は、コハク酸モノグリセリドを有効成分とすることを特徴とする、カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳のための酸化抑制剤、である。
【0024】
本願第三の発明は、好ましい実施の態様において、酸化抑制が、調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制である。
【0025】
本発明の好ましい実施の態様において、調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が以下のα、βの関係を満たすことが好ましい。
β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
【0026】
本発明の好ましい実施の態様において、調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が、以下のα、βの関係を満たすことがさらに好ましい。
1.164×α≦β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
【0027】
本発明の好ましい実施の態様において、酸化抑制が調製粉乳に含まれる香気成分の産生抑制であることが好ましく、香気成分がヘキサナールであることがさらに好ましい。
【0028】
したがって、本発明は次の[1]〜[14]にある。
[1]
カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳の製造方法であって、
カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、
脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、
前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、
前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製する工程、
当該調乳液を乾燥する工程、
を含む製造方法。
[2]
コハク酸モノグリセリドと乳化剤添加脂質混合物との混合が、
[乳化剤添加脂質混合物]を100質量部に対して、[コハク酸モノグリセリド]を1.5〜4.5質量部の範囲で混合する[1]に記載の製造方法。
[3]
コハク酸モノグリセリドと乳化剤添加脂質混合物との混合が、
[乳化剤添加脂質混合物]を100質量部に対して、[コハク酸モノグリセリド]を2〜4質量部の範囲で混合する[1]に記載の製造方法。
【0029】
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法によって製造された、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳。
[5]
コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を、
[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]を100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を1.5〜4.5質量部で含有する[4]に記載の調製粉乳。
[6]
コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を、
[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]を100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を2〜4質量部で含有する[4]に記載の調製粉乳。
【0030】
[7]
コハク酸モノグリセリドを有効成分として含有する、
カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳用の酸化抑制剤。
[8]
酸化抑制が、調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制である[7]に記載の酸化抑制剤。
[9]
調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が、以下のα、βの関係を満たす[8]に記載の酸化抑制剤:
β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
[10]
調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が、以下のα、βの関係を満たす[8]に記載の酸化抑制剤:
1.164×α≦β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
[11]
酸化抑制が、調製粉乳に含まれる香気成分の産生抑制である[7]に記載の酸化抑制剤。
[12]
香気成分がヘキサナールである[11]に記載の酸化抑制剤。
【0031】
[13]
カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳の酸化を抑制する方法であって、
カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、
前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を、調製粉乳の蛋白質成分として添加して、調製粉乳を製造する工程、
を含む方法。
[14]
前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を、調製粉乳の蛋白質成分として添加して使用して、調製粉乳を製造する工程が、
脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、
前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、
前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製し、当該調乳液を乾燥する工程、
によって行われる、[13]に記載の方法。
【0032】
さらに、本発明は、上記調製粉乳を製造するためのコハク酸モノグリセリドの使用、上記調製粉乳の酸化を抑制するためのコハク酸モノグリセリドの使用にも関する。
さらに、本発明は、上記調製粉乳を製造するためのカゼインとコハク酸モノグリセリドが混合されてなるコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液の使用、上記調製粉乳の酸化を抑制するためのカゼインとコハク酸モノグリセリドが混合されてなるコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液の使用にも関する。
さらに、本発明は、上記調製粉乳を製造する方法であってカゼインとコハク酸モノグリセリドが混合されてなるコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製粉乳の蛋白質成分として添加する工程を含む方法、上記調製粉乳の酸化を抑制する方法であってカゼインとコハク酸モノグリセリドが混合されてなるコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製粉乳の蛋白質成分として添加する工程を含む方法にも関する。
さらに、本発明は、酸化抑制された抗酸化性調製粉乳、長期保存性が向上した長期保存性調製粉乳、過酸化物価が上昇抑制された調製粉乳にも関し、それらの製造方法にも関する。
さらに、本発明は、上記調製粉乳の製造に使用できる、過酸化物価の上昇を抑制する過酸化物価上昇抑制剤、酸化抑制剤、抗酸化剤にも関する。
【発明の効果】
【0033】
本願第一の発明に係る調製粉乳の製造方法によれば、全蛋白質の95%質量%以上がカゼインであって、長期の保存安定性が顕著に向上した調製粉乳を製造することができる。
本願第二の発明に係る調製粉乳は、全蛋白質の95質量%以上がカゼインである調製粉乳において、コハク酸モノグリセリドを配合することにより、長期の保存安定性が顕著に向上したものである。
本発明によって得られる調製粉乳は高い抗酸化性を有するものであって、長期間にわたり良好な品質を維持することができる。すなわち、本発明によって得られる調製粉乳は、保存安定性に優れ、品質保持期限が長く、酸化安定性に優れ、同じ保存期間であれば風味が向上したものとなっている。
本願第三の発明に係る酸化抑制剤は、全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなる調製粉乳に使用することにより、当該調製粉乳の過酸化物価の上昇を効果的に抑制することができ、長期の保存に伴って調製粉乳から生じる不快な香気成分の産生を抑制し、長期保存後の風味を向上させて、調製粉乳の保存安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明による調製粉乳の保存期間と過酸化物価(POV)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。 なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0036】
[調製粉乳の製造方法]
本願第一の発明は、カゼインが全蛋白質の95質量%以上であることを特徴とする、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳の製造方法であって、カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製する工程、当該調乳液を乾燥して調製粉乳を得る工程、を含む製造方法、である。
本発明の好適な実施の一態様において、調製粉乳は以下に例示する工程を含んで製造することができる。
【0037】
(1) カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程:
カゼインとコハク酸モノグリセリドを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程である。
本明細書では、カゼインとコハク酸モノグリセリドを混合して調製された溶液をコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と記載する。
混合されるカゼインは、粉末などの固体、溶液などの液体のいずれの状態であってもよい。好ましい実施の一態様において、カゼインを溶解水で溶解したカゼイン溶液を使用することができる。カゼイン溶液については、溶解時の溶解濃度や溶解温度、pHは常法に従って適宜調整することができる。
混合されるコハク酸モノグリセリドは、粉末などの固体、溶液などの液体のいずれの状態であってもよい。好ましい実施の一態様において、溶解水で溶解した状態(コハク酸モノグリセリド溶液)であることが好ましい。コハク酸モノグリセリド溶液の使用は、カゼインと混合する際に容易に均一な溶液を調製することができる点で好ましい。コハク酸モノグリセリドを溶解する溶媒は、温度やpHを常法に従って適宜調整することができるが、コハク酸モノグリセリドは、アルカリ性のpHに調整して80〜90℃に加温した溶解水に溶解すると容易に溶解することから好ましい。
カゼイン溶液とコハク酸モノグリセリド溶液は混合されて、コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液となる。
【0038】
(2) 脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程:
脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を混合する工程である。コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤としては、公知の乳化剤を使用することができる。好ましい実施の態様において、レシチンを用いることが好ましい。脂質及び乳化剤は、加温して融解した後に混合してもよく、脂質と乳化剤を混合した後に融解してもよい。
好ましい実施の一態様において、油脂の融解温度は30℃〜90℃とすることができるが、脂質の融点に合わせて適宜調整することが好ましい。
本発明の製造方法において、脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の混合物を乳化剤添加脂質混合物と記載することがある。
【0039】
(3) コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程:
乳化液を調製する工程とは、前記(1)のコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記(2)の乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を得る工程である。
【0040】
(4) 乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製する工程:
調乳液を調製する工程とは、前記(3)の乳化液と、糖類とを混合して調乳液を得る工程である。
混合される糖類としては、調製粉乳に配合される公知の糖類を使用することができる。本発明においては、調製粉乳に使用される糖類が配合されることが好ましい。しかし、糖類を混合する工程を行わずに、糖類が配合されない調製粉乳の製造方法、及び該方法によって製造された糖類が含まれない調製粉乳であっても、本発明の範囲内である。
混合される糖類は溶解水に溶解しておくことが好ましい。乳化液と糖類の溶解液は混合され、調乳液となる。
好ましい実施の一態様において、前記調乳液には、糖類の他、ミネラル類、ビタミン類を所望によってさらに添加することができる。ミネラル類及びビタミン類は、本発明の調製粉乳に用いられるものを用いることができる。
【0041】
(5) 当該調乳液を乾燥して調製粉乳を得る工程:
そして、(4)で調製された調乳液は、公知の乾燥方法によって、乾燥して調製粉乳とすることができる。好ましい乾燥方法としては、凍結乾燥又は熱風乾燥を挙げることができる。
好ましい実施の一態様において、調製した調乳液は、所望により、乾燥工程前にプレート殺菌機等を用いて75〜150℃で加熱殺菌することができる。
好ましい実施の一態様において、さらに殺菌工程に続いて、所望により、調乳液の水相と油相の分離を防止するために均質化処理を行ってもよく、調乳液を濃縮して乾燥効率を高めるために濃縮処理を行ってもよい。
【0042】
本願第一の発明の製造方法(以下、本発明の製造方法と記載する)により得られる、全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなる調製粉乳は、油脂類の酸化が十分に抑制され、風味良好なものであり、長期間保存できるという本発明の効果が十分に発揮されたものとなっている。
【0043】
[コハク酸モノグリセリドの配合量]
本発明の製造方法は、コハク酸モノグリセリドの配合量を脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の混合物(乳化剤添加脂質混合物)の合計質量に対して、一定の比率で含まれることが好ましく、単位を「質量部」として表すことができる。
前記したように、「質量部」とは、「脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤」と「コハク酸モノグリセリド」を質量比で表現するための単位であって、脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の質量の合計を100(質量部)としたときのコハク酸モノグリセリドの質量を表すものである。
【0044】
本発明の製造方法においては、脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の混合物が「乳化剤添加脂質混合物」であるから、「脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤」は「乳化剤添加脂質混合物」と置き換えることができる。
すなわち、本発明の製造方法においては、好ましい実施の一態様において、「乳化剤添加脂質混合物」の質量を100質量部としたときの「コハク酸モノグリセリド」の質量が、好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上であり、さらに好ましくは2.5質量部以上であり、好ましくは4.5質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下であり、特に好ましくは1.5〜4.5質量部の範囲、さらに好ましくは2〜4質量部の範囲、さらに好ましくは2〜3質量部の範囲とすることができる。
言い換えれば、本発明の製造方法では、好ましい実施の一態様において、コハク酸モノグリセリドと乳化剤添加脂質混合物との混合が、[乳化剤添加脂質混合物]100質量部に対して、[コハク酸モノグリセリド]を、好ましくは1.5〜4.5質量部の範囲、さらに好ましくは2〜4質量部の範囲、さらに好ましくは2〜3質量部の範囲で好適に混合することができる。
【0045】
[調製粉乳]
本願第二の発明は、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、カゼインが全蛋白質の95質量%以上であることを特徴とする調製粉乳である。
本願第二の発明の調製粉乳(以下、本発明の調製粉乳と記載する)には、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)において、「生乳、牛乳、特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、乳幼児に必要な栄養分を加え粉末状にしたもの」として定義されるものが含まれる。
また、一般に調製粉乳は、各種の蛋白質、ミネラル類、ビタミン類等の栄養成分が配合されたものであって、粉末状に加工されたものをいい、本発明の調製粉乳にはこれらも含まれる。
特に、本発明の調製粉乳は、全蛋白質の95質量%以上がカゼインからなることを特徴としており、その他の蛋白質としてはラクトフェリンやラクトパーオキシダーゼのような機能性蛋白質や大豆蛋白質等を配合することができる。
本発明の調製粉乳には、乳児用調製粉乳、乳幼児用調製粉乳(フォローアップミルク)のほか、妊産婦・授乳婦用調製粉乳、成人用栄養粉末、高齢者用栄養粉末等の態様が含まれる。
【0046】
[カゼイン]
本明細書において、カゼインは、生乳中に存在するカゼインを、酸や酵素で分解せずに分離または精製等して取り出したものを意味し、カゼインを酸や酵素で分解して得られるカゼイン分解物やアミノ酸は含まない。本発明のカゼインには、カゼインの他、調製粉乳で使用されるカゼインの塩が含まれ、例えばカゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウムが含まれる。
本願発明の調製粉乳の全蛋白質におけるカゼインの割合は、全蛋白質が実質的にカゼインからなるものであればよく、好ましい実施の一態様において、全蛋白質に対するカゼインの割合は、好ましくは95.0質量%以上、さらに好ましくは96.0質量%以上、さらに好ましくは97.0質量%以上、さらに好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上である。
【0047】
[コハク酸モノグリセリド]
本明細書において、コハク酸モノグリセリドは、食品又は医薬品に許容されるコハク酸モノグリセリドを使用することができ、これらの市販品を使用することができる。
【0048】
[コハク酸モノグリセリドの配合量]
本発明の調製粉乳に含まれるコハク酸モノグリセリドの配合量は、同じく調製粉乳に含まれる脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の質量の合計に対して一定の比率で含まれることが好ましい。
「質量部」とは、「脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤」と「コハク酸モノグリセリド」を質量比で表現するための単位であって、脂質及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤の質量の合計を100(質量部)としたときのコハク酸モノグリセリドの質量を表すものである。
本発明の調製粉乳は、脂質とコハク酸モノグリセリドの質量の合計を100質量部としたときのコハク酸モノグリセリドの質量が、一般に1質量部以上、好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部以上であり、一般に6質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは4.5質量部以下であり、さらに好ましくは4質量部以下であり、特に好ましくは1.5〜4.5質量部の範囲、さらに好ましくは2〜4質量部の範囲、さらに好ましくは2〜3質量部の範囲である。
言い換えれば、本発明の調製粉乳では、[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]を100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を2質量部以上で含有することが好ましく、2〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0049】
[脂質]
本明細書において、脂質は、牛、水牛、ヤギ、ロバ等から得られる乳脂肪、魚油、卵黄油等の動物性油脂、大豆油、コーン油、ゴマ油、エゴマ油、ナタネ油等の植物性油脂のいずれも使用することができるが、植物性油脂が好ましい。
【0050】
[コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]
本願発明においては、乳化剤として、公知の乳化剤を使用することができる。本願発明で使用される、コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤としては、コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤であれば特に制限はないが、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を使用することができる。
【0051】
[糖類]
本明細書において、糖類とは、乳糖、デキストリン、澱粉、ラフィノース、ラクチュロース、トレハロース等を使用することができる。
但し、調製粉乳が乳糖不耐症用として製造されるとき等は、乳糖を配合しないことが好ましい。
【0052】
[ミネラル類]
本明細書において、ミネラル類としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、マンガン等の塩類を使用することができ、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マンガン等として配合することが好ましい。
【0053】
[ビタミン類]
本明細書において、ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸等のビタミンB群やビタミンC等の水溶性ビタミンの他、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンK等の脂溶性ビタミンを使用することができる。
【0054】
[酸化抑制剤]
本願第三の発明は、コハク酸モノグリセリドを有効成分とすることを特徴とする、カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳のための酸化抑制剤、である。
本願第三の発明の酸化抑制剤(以下、本発明の酸化抑制剤と記載する)は、コハク酸モノグリセリドを有効成分としている。そして、本発明の酸化抑制剤は、カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、かつ、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳を適用対象としており、当該構成を有する調製粉乳の製造工程において調乳液、好ましくは乳化液に配合することにより、最終製品として得られる調製粉乳の保存中の脂肪酸化を顕著に抑制することができるのである。
【0055】
上述のように、従来の調製粉乳においては、全蛋白質におけるカゼインの含有割合が90質量%以上、特に95質量%以上となると、その調製粉乳は、保存性に劣るものとなる。ところが、コハク酸モノグリセリドを含有させることで、この保存性の劣化が回避されることがわかった。しかも、このコハク酸モノグリセリドによる効果は、カゼインの含有量が少ない場合には、ほとんど発揮されないものであった。この現象をもとに、さらに解析を進めたところ、従来の調製粉乳においては、全蛋白質におけるカゼインの含有割合が95質量%以上となると、極端に酸化が進行して、この保存性の劣化をもたらすことがわかった。そして、この保存性の劣化は、全蛋白質におけるカゼインの含有割合が小さい場合(例えば、通常の調製粉乳の程度である場合)には生じないこと、コハク酸モノグリセリドによる風味劣化抑制の効果は、全蛋白質におけるカゼインの含有割合が大きい場合に生じる特有の酸化の進行を抑制することによって、生じることがわかった。
したがって、本発明による風味の劣化の抑制と、酸化の抑制は、調製粉乳の全蛋白質におけるカゼインの割合が、全蛋白質が実質的にカゼインからなるもの、好ましい実施の一態様において、全蛋白質に対するカゼインの割合が、好ましくは95.0質量%以上、さらに好ましくは96.0質量%以上、さらに好ましくは97.0質量%以上、さらに好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上であるものに対して、好適に発揮されるものである。
【0056】
[酸化抑制の評価]
本発明において、製造された調製粉乳についての酸化抑制の評価は、酸化の程度を表す過酸化物価(POV)、香気成分の一種であるヘキサナールの定量、および風味試験に基づく官能評価のそれぞれによって行うことができる。
【0057】
[過酸化物価(POV)]
POVは、油脂の酸化で生ずるハイドロパーオキサイドの含有量をヨウ素滴定法によって測定するもので、初期段階の酸敗度を判定する指標として広く用いられている。POVの単位にはmeq/kgが用いられ、この数字が大きいほど酸化が進んでいることを意味している。
【0058】
POVの測定は、日本油化学協会の公定法であるヨウ素滴定法(日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、「食品分析法」、第552ページ、光琳、昭和57年)に準じて試験することができる。
例えば、調製粉乳(試料)から油脂約10gを抽出し、精密に量る。この油脂を、共栓三角フラスコに入れてクロロホルム・氷酢酸混液(2:3)35mlを加えて溶解する。次いで、フラスコ内の空気を窒素ガス又は二酸化炭素を通じながら飽和ヨウ化カリウム溶液1mlを加え、直ちに共栓をして約1分間混ぜた後、デンプン試液を指示薬として、0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。別に同様に操作して空試験を行って補正する。
【0059】
POVは次式により求められる。
POV(meq/kg)=[(a×F)/S]×10
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液の消費量(ml)
F:0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液の力価
【0060】
なお、POV値は、試料の保存環境(温度、湿度、光、酸素)にも影響されることから、本発明の製造方法で製造される調製粉乳のPOV値は、これらを考慮したものとして定義されることが望ましい。
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳の過酸化物価(POV)は十分に低減される。好適な実施の一態様において、その低減の程度は、次の式Iを満たすものとすることができる。
β≦2.446×α (式I)
α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
β:調製粉乳の過酸化物価(POV)(meq/kg)
【0061】
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、αとβの関係が、図1のグラフの試験試料1(黒く塗られた菱形)の直線より下の範囲(図1の濃い灰色又は薄い灰色で塗りつぶされた部分)を満たすものとすることができる。さらに好ましくは、本発明の調製粉乳は、αとβの関係が、図1のグラフの試験試料1の直線と試験試料3(黒く塗られた三角形)の直線に挟まれた範囲(濃い灰色で塗りつぶされた部分)とすることができる。図1において、X軸(横軸)はα(保存月数)であり、Y軸(縦軸)はβ(過酸化物価)である。図1においてY=A・Xで表されている近似直線(Aは直線の傾きであって試験試料ごとに異なる)は、β=A・αの直線を意味する。
【0062】
すなわち、Y軸のβは、X軸のαとの関係において、好ましくは次の式Ia:
β≦2.446×α (式Ia)
さらに好ましくは次の式Ib:
1.164×α≦β≦2.446×α (式Ib)
を満たすものとすることができる。
【0063】
また、好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、アルミ袋等で密封され、37℃、遮光下で、1ヶ月保存したときの調製粉乳の過酸化物価が、3.00meq/kg以下であることが好ましく、2.45meq/kg以下であることがより好ましく、1.55meq/kg以下であることがさらに好ましく、1.17meq/kg以下であることが特に好ましい。
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、アルミ袋等で密封され、37℃、遮光下で、1ヶ月、あるいは2ヶ月、あるいは3ヶ月の保存が、過酸化物価の上昇を抑制しつつ可能である。
【0064】
[香気成分の測定]
本発明においては、油脂の酸化が進行するとともに増加する香気成分のヘキサナールを測定し、これを酸化の度合いとして評価することができる。
ヘキサナールは、数値が低いほど酸化の程度が低いことを示し、通常、製造直後から一定量が存在し、保存期間に比例して増加する。
【0065】
[香気成分の定量]
ヘキサナールは、調製粉乳を温度調整した水に溶解した際に発生する香気成分として測定することが可能であり、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)等で分析することができる。
なお、本発明のヘキサナール量とは、測定されたクロマトグラム上の面積を数値化し、さらに内部標準法で定量化したものである。ヘキサナール量の測定では、測定ごとに内部標準試料を添加して面積を測定し、絶対値に誤差が生じないようにした。
香気成分の分析条件は以下の測定機器、測定条件で行うことが可能である。
【0066】
[測定機器]
・GC:AGILENT社製、6890型
・MS:AGILENT社製、5973型
・カラム:INNOWAX(商品名、AGILENT社製)
膜厚:0.5μm 長さ:30m 口径:0.25mm
・SPMEファイバー:SUPELCO社製
[香気成分の分離濃縮方法]
・固相マイクロ抽出法(SPME):50℃、30分ヘッドスペース法
[測定条件]
・GC注入口温度:265℃
・ガス流量:1.2ml/分
・ヘリウムガスオーブン昇温条件:40℃、2分、4℃/分(120分まで)、6℃/分(240分まで)、10分保持
・MS測定モード:スキャン 2.32(SCAN/秒)
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、アルミ袋等により密封され、37℃、遮光下で、1ヶ月保存したときの調製粉乳のヘキサナール量が、2.3ppm以下であることが好ましく、2.0ppm以下であることがさらに好ましく、1.75ppm以下であることが最も好ましい。
【0067】
[官能評価]
調製粉乳の酸化抑制効果は、官能評価で表現することができる。
本発明における官能評価とは、5〜8名のパネラーにより、保存後の試料を固形分として14.0g/100mlとなるようにお湯で溶解して試料溶液を調製し、風味及び外観について評価するものである。
具体的には、風味(酸化臭)について、「非常に良好」(5点)、「良好」(4点)、「やや良好」(3点)、「やや不良」(2点)、「不良」(1点)の5段階で評価することができる。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
本発明の製造方法により調製粉乳を製造した。
1)乳化液の調製
カゼインカルシウム(Tatua co-operative. Dairy company製)142gを溶解水1400gで溶解して、カゼイン溶液を調製した。
続いて、炭酸カリウム(旭硝子製)0.4gを溶解した水400gを80℃に加温した水溶液に、コハク酸モノグリセリド(花王製)5.4gを溶解してコハク酸モノグリセリド溶液を調製し、さらにカゼイン溶液に添加してコハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液を調製した。
一方、油脂(太陽油脂製)176g、大豆レシチン(辻製油製)4g、及び、脂溶性ビタミンの混合物を融解して乳化剤添加脂質混合物を調製した。
そして、乳化剤添加脂質混合物と前記のコハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液とを混合して、乳化液を調製した。
乳化液は、均質機を用いて15MPaの圧力条件で均質化処理をした。
【0069】
2)調乳液の調製
糖類として、デキストリン(東洋精糖製)500g、グラニュー糖(三井製糖製)100g及び水溶性ビタミン類の混合物を溶解水1000gに溶解し、前記乳化液と混合して調乳液を調製した。
さらに、調乳液を125℃、2秒の条件で殺菌し、15MPaの圧力条件で均質化処理し、その後、固形分が50%になるように濃縮した。
【0070】
3)乾燥工程
濃縮された前記調乳液に、ピロリン酸第二鉄(富田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び硫酸銅(富田製薬製)13mg及びラクトフェリン(森永乳業製)1gを水50gに溶解したミネラル溶液を10℃以下に冷却して調乳液に添加した。
ミネラル溶液を添加した調乳液を常法により噴霧乾燥し、調製粉乳を得た。
得られた調製粉乳は、外観、風味共に良好であり、製造直後の過酸化物価は0.5meq/kg未満であった。さらに、得られた調製粉乳を、遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃の恒温室で1ヶ月保存したところ、POVは1.44meq/kgであった。
なお、本実施例で得られた調製粉乳に含まれるカゼインは全蛋白質中99質量%であった。
【0071】
[実施例2]
本発明の酸化抑制剤を製造した。
コハク酸モノグリセリド24gを、炭酸カリウム1.6gを溶解して80℃に加温した溶解液(炭酸カリウム水溶液)1600gに溶解し、酸化抑制剤を調製した。
この酸化抑制剤を、カゼイン溶液に添加した。さらに、油脂、大豆レシチン及び脂溶性ビタミンの混合物を、コハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液に添加して、カゼインが調製粉乳中の全蛋白質の95質量%である調製粉乳を製造した。この調製粉乳は、保存中の酸化が抑制されたものとなっていた。
【0072】
[実施例3]
実施例2で調製した酸化抑制剤を、カゼイン溶液に添加した。さらに、油脂、大豆レシチン及び脂溶性ビタミンの混合物を、コハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液に添加して、カゼインが調製粉乳中の全蛋白質の97質量%である調製粉乳を製造した。この調製粉乳は、保存中の酸化が顕著に抑制されたものとなっていた。
【0073】
[実施例4]
実施例2で調製した酸化抑制剤を、カゼイン溶液に添加した。さらに、油脂、大豆レシチン及び脂溶性ビタミンの混合物を、コハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液に添加して、カゼインが調製粉乳中の全蛋白質の98質量%である調製粉乳を製造した。この調製粉乳は、保存中の酸化が顕著に抑制されたものとなっていた。
【0074】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例]
[試験例1] 本試験は、本発明の調製粉乳及び本発明の製造方法で製造された調製粉乳の顕著な酸化抑制効果を確認することを目的としている。
また、本試験は、本発明の酸化抑制剤が、カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、当該調製粉乳中のカゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳に対して、顕著な酸化抑制効果を有することを確認することを目的とした。
【0075】
(1) 試料の調製
実施例1で製造した調製粉乳を試験試料2とした。
また、コハク酸モノグリセリドを3.6g配合したことを除き、すべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を試験試料1とした。同様に、コハク酸モノグリセリドを7.2g配合したことを除き、すべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を試験試料3とした。
さらに、コハク酸モノグリセリドを配合しないことを除き、すべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を試験試料コントロール(試験試料C)とした。
ここで、試験試料1は、[脂質+レシチン(乳化剤添加脂質混合物)]100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を2質量部(乳化剤添加脂質混合物:コハク酸モノグリセリド=100:2)使用しており、試験試料2は、[脂質+レシチン(乳化剤添加脂質混合物)]100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を3質量部(乳化剤添加脂質混合物:コハク酸モノグリセリド=100:3)使用しており、試験試料3は、[脂質+レシチン(乳化剤添加脂質混合物)]100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を4質量部(乳化剤添加脂質混合物:コハク酸モノグリセリド=100:4)使用している。
【0076】
(2) 試験方法
試験試料1〜3、及び試験試料コントロールを、それぞれ遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。試験期間は2ヶ月とし、製造直後、保存開始から2週間後、1ヵ月後、及び2ヶ月後の各試料について、POVの測定、及び香気成分の測定を行った。
【0077】
(3) 結果
本試験のPOVの測定結果を表1に示した。また、ヘキサナール量の測定結果を表2に示した。官能評価の結果を表3に示した。試験試料3はヘキサナール量を測定していない。
試験試料1〜3は、POVの増加抑制、官能評価のいずれの結果においても、試験試料コントロールと比較して顕著に良好な結果が得られた。また、試験試料1及び2は、ヘキサナールの産生抑制においても、試験試料コントロールと比較して顕著に良好な結果が得られた。
すなわち、コハク酸モノグリセリドは、全蛋白質の95%以上がカゼインからなる調製粉乳に対して、酸化抑制剤としての効果を有することが確認された。
また、コハク酸モノグリセリドを2質量部配合した試験試料1、3質量部配合した試験試料2、及び4質量部配合した試験試料3では、コハク酸モノグリセリドの配合量が増加するにつれPOVの増加、ヘキサナールの産生が一層抑制されていた。一方、官能評価は2ヶ月後において試験試料2が4であったのに対し、試験試料3は3であった。ここからは、コハク酸モノグリセリドが増加するほど、風味に好ましくない影響を与える可能性が出てくることが示唆された。また、試験試料3では風味が良好の範囲であったから、油脂及び乳化剤の和に対して4質量部までの使用は、風味に好ましくない影響をほとんど与えないことが明らかとなった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表1の結果の他、試験試料1、2及び試験試料コントロールの3ヶ月後のPOV測定を実施した。3ヶ月経過後のPOVは、試験試料1が7.50、試験試料2が4.89、試験試料Cが19.9であった。
そして、各試料のPOVの結果から、X軸を保存経過期間(月)、Y軸をPOV値(meq/kg)としたグラフを作成し、図1に示した。
図1のグラフにおいて、近似直線は、上から順に、試験試料C(黒く塗られた丸)、試験試料1(黒く塗られた菱形)、試験試料2(白抜きの正方形)、試験試料3(黒く塗られた三角形)に対応している。
試験試料コントロールが、「Y=7.012X」となったのに対し、試験試料1は、「Y=2.446X」となり、POVの上昇を示すグラフの傾きが顕著に小さくなった。また、コハク酸モノグリセリドの配合量を増加した試験試料2は「Y=1.547X」となり、試験試料3は「Y=1.164X」となった。
【0082】
[試験例2]
本試験は、本発明の調製粉乳、又は、本発明の製造方法で製造された調製粉乳の保存時の顕著な酸化抑制効果が、一般的な蛋白質組成の調製粉乳の酸化抑制効果と比較して顕著であることを明らかにすることを目的とした。
また、本発明の酸化抑制剤が、酸化抑制剤を使用して製造した全蛋白質の95%以上がカゼインからなる調製粉乳に対して、顕著な酸化抑制効果を発揮することを明らかにすることを目的としている。
【0083】
(1)試料の調製
a)試験例
試験例1の方法で製造した試験試料2及び試験試料コントロール(試験試料C)を使用した。
【0084】
b)対照例
本試験の対照試料1として、全蛋白質の40%がカゼインである調製粉乳を製造した。
1)乳化液の調製
苛性ソーダで溶解して脱臭した10%カゼイン溶液286gを調製した。
続いて、炭酸カリウム(旭硝子製)0.7gを溶解した水680gを80℃に加温した水溶液に、コハク酸モノグリセリド(花王製)9.2gを溶解してコハク酸モノグリセリド溶液を調製し、カゼイン溶液に添加し、コハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液を調製した。
一方、植物油脂(太陽油脂製)299g、大豆レシチン(辻製油製)7g、及び、脂溶性ビタミン類を融解して乳化剤添加脂質混合物を調製した。
そして、乳化剤添加脂質化合物と前記のコハク酸モノグリセリド含有カゼイン溶液とを混合して、乳化液を調製した。
乳化液は、均質機を用いて15MPaの圧力条件で均質化処理をした。
【0085】
2)調乳液の調製
脱脂乳(森永乳業製)2320g、脱塩ホエイ粉(ドモ製)938g、乳糖(ミライ製)20g、及びデキストリン(東洋精糖製)100g、及び水溶性ビタミン類を水4760gに溶解し、前記乳化液と混合して調乳液を調製した。
さらに、調乳液を125℃、2秒の条件で殺菌し、15MPaの圧力条件で均質化処理し、その後、固形分が50%になるように濃縮した。
【0086】
3)乾燥工程
濃縮された前記調乳液に、硫酸銅(富田製薬製)22mg、ピロリン酸第二鉄(富田製薬製)522mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)177mg、及びラクトフェリン(森永乳業製)2gを水100gに溶解してミネラル溶液を調製し、10℃以下に冷却して、先に調製した濃縮液に添加して、調製粉乳原料溶液を調製した。
前記調製粉乳原料溶液を常法により噴霧乾燥し、対照試料1を調製した。
【0087】
なお、対照試料1のコハク酸モノグリセリドの量は、脂質及びレシチンの質量の合計を100質量部としたときに、3質量部となっていた。
上記対照試料1では、脱脂乳(蛋白質含有3.4%、カゼイン:ホエイ=8:2)2320g、脱塩ホエイ粉(蛋白質含有13%)938g、10%カゼイン溶液286gの値から、全蛋白質の40%がカゼインと算出された。
【0088】
また、対照試料1とは別に、コハク酸モノグリセリドを配合しないことを除いてすべて対照例と同じ条件で調製した調製粉乳を「対照試料コントロール」(対照試料C)とした。
【0089】
(2)試験方法
試験試料2、試験試料コントロール、対照試料1、対照試料コントロールを、それぞれ遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃の恒温室に保存した。試験期間は1ヶ月とし、製造直後、及び保存開始から1ヵ月後の試料について、POVの測定、及び香気成分の測定を行った。
【0090】
(3)結果
本試験の結果は表4及び表5に示す通りである。表4はPOV値、表5ではヘキサナール量の測定結果を示す。いずれの表においても、試験試料コントロールは「試験試料C」と記載し、対照試料コントロールは「対照試料C」と記載した。
また、表4及び表5において、試験試料2を試験試料コントロールと比較するための指標として抑制率を記載した。
【0091】
抑制率とは、下記式に示す通り、試験試料コントロール(又は対照試料コントロール)のPOV値(又はヘキサナール量)と、それぞれ試験試料2(又は対照試料1)のPOV値(又はヘキサナール量)との差分を、それぞれ試験試料コントロール(又は対照試料コントロール)のPOV値(又はヘキサナール量)で割ったときの百分率であり、数値が高いほど試料の酸化抑制効果が大きいことを示す。
(抑制率)={(試験試料コントロール又は対照試料コントロールの測定値)−(試験試料2又は対照試料1の測定値)}/(試験試料コントロール又は対照試料コントロールの測定値)×100(%)
【0092】
表4において、1ヶ月経過後のPOV値についてみると、試験試料2が1.44meq/kg、試験試料コントロールが8.09meq/kgであって、試験試料2の抑制率は82%であった。
一方、1ヶ月経過後の対照試料1及び対照試料コントロールのPOV値についてみると、対照試料1が0.48meq/kg、対照試料コントロールが0.80meq/kgであって、抑制率は40%であった。
このように、試験試料2は対照試料1と比較して、顕著に酸化が抑制されていることが明らかになった。
【0093】
続いて、表5のヘキサナール量について、試験試料2と試験試料コントロールを比較すると、1ヶ月経過後の抑制率は66%であって、顕著にヘキサナールの発生が抑制されていた。
一方、対照試料1と対照試料コントロールを比較すると、1ヶ月経過後の抑制率は42%であって、酸化抑制が十分ではなかった。
【0094】
表4及び表5の結果より、カゼインが全蛋白質中の95%以上含まれる組成を有する調製粉乳は、一般的な蛋白質組成、すなわち蛋白質のカゼイン:ホエー比が40:60である調製粉乳(全蛋白質の40%がカゼインである)との対比において顕著な酸化抑制効果を示すことが明らかになった。
また、表4及び表5の結果より、コハク酸モノグリセリドを有効成分とする酸化抑制剤は、全蛋白質の95%以上がカゼインからなる調製粉乳に使用したときに酸化抑制効果を発揮し、その効果は、一般的な蛋白質組成、すなわち蛋白質のカゼイン:ホエー比が40:60である調製粉乳(全蛋白質の40%がカゼインである)と比較して顕著な程度といえるものであった。
【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
[試験例3]
本試験は、本発明の調製粉乳及び本発明の製造方法に使用されるコハク酸モノグリセリドが、他の有機酸モノグリセリドや有機酸と比較して顕著な効果を有することを明らかにすることを目的としている。
【0098】
(1) 試料の調製
コハク酸モノグリセリドを5.4g使用し、実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を、試験試料4とした。
また、コハク酸モノグリセリド5.4gを酒石酸モノグリセリド5.4gに置換したことを除き、すべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を対照試料2とした。さらに、コハク酸モノグリセリド5.4gをコハク酸5.4gに置換したことを除き、すべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を対照試料3とした。さらに、コハク酸モノグリセリドを添加しないことを除いてすべて実施例1と同じ条件で製造した調製粉乳を対照試料4とした。
ここで、試験試料4、対照試料2及び3は、[脂質+レシチン(乳化剤添加脂質混合物)]100質量部に対して[有機酸モノグリセリド又は有機酸]を3質量部(乳化剤添加脂質混合物:有機酸モノグリセリド又は有機酸=100:3)使用している。
【0099】
(2) 試験方法
試験試料4、対照試料2〜4について、それぞれ遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。試験期間は1ヶ月(4週間)とし、製造直後、保存開始から2週間後、及び保存開始から1ヶ月後の試料について、POVの測定、及び香気成分の測定を行った。
【0100】
(3) 結果
本試験の結果は表6に示す通りである。保存期間の0.5(月)は2週間を示す。
2週間経過後のPOV値についてみると、試験試料4が0.52meq/kgであるのに対し、対照試料2が1.21meq/kg、対照試料3が1.79meq/kg、対照試料4が3.95meq/kgであった。
同様に、1ヶ月経過後のPOV値についてみても、試験試料4が1.18meq/kgであるのに対し、対照試料2が2.87meq/kg、対照試料3が5.03meq/kg、対照試料4が8.09meq/kgであった。
本試験の結果から、コハク酸モノグリセリドを配合して製造された調製粉乳は、他の有機酸モノグリセリド及び有機酸を配合して製造された調製粉乳と比較して、顕著に酸化が抑制されることが明らかになった。
【0101】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、蛋白源として実質的にカゼインのみを配合する調製粉乳を製造する場合において、長期の保存においても脂肪酸化が抑制されて、良好な風味が維持され、長期の保存安定性に優れた調製粉乳の製造が可能である。
また、本発明の酸化抑制剤は、実質的にカゼインのみを蛋白質源とする調製粉乳に配合することによって、長期の保存においても脂肪酸化を抑制して、良好な風味を維持し、長期の保存安定性に優れた調製粉乳を製造することができる。
このように本発明は、産業上有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳の製造方法であって、
カゼインとコハク酸モノグリセリドとを混合してコハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液を調製する工程、
脂質とコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤とを混合して乳化剤添加脂質混合物を調製する工程、
前記コハク酸モノグリセリド添加カゼイン溶液と、前記乳化剤添加脂質混合物とを混合して乳化液を調製する工程、
前記乳化液と糖類とを混合して調乳液を調製する工程、
当該調乳液を乾燥して調製粉乳を得る工程、
を含む製造方法。
【請求項2】
コハク酸モノグリセリドと乳化剤添加脂質混合物との混合が、
[乳化剤添加脂質混合物]を100質量部に対して、[コハク酸モノグリセリド]を2質量部以上で混合する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
コハク酸モノグリセリドと乳化剤添加脂質混合物との混合が、
[乳化剤添加脂質混合物]を100質量部に対して、[コハク酸モノグリセリド]を2〜4質量部で混合する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法によって製造された、カゼイン、コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有する調製粉乳であって、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳。
【請求項5】
コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を、
[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]を100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を1.5〜4.5質量部で含有する請求項4に記載の調製粉乳。
【請求項6】
コハク酸モノグリセリド、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を、
[脂質+コハク酸モノグリセリド以外の乳化剤]を100質量部に対して[コハク酸モノグリセリド]を2〜4質量部で含有する請求項4に記載の調製粉乳。
【請求項7】
コハク酸モノグリセリドを有効成分とすることを特徴とする、
カゼイン、脂質、及びコハク酸モノグリセリド以外の乳化剤を含有し、カゼインが全蛋白質の95質量%以上である調製粉乳用の酸化抑制剤。
【請求項8】
酸化抑制が、調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制である請求項7に記載の酸化抑制剤。
【請求項9】
調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が、以下のα、βの関係を満たす請求項8に記載の酸化抑制剤:
β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
【請求項10】
調製粉乳の保存時の過酸化物価上昇抑制が、以下のα、βの関係を満たす請求項8に記載の酸化抑制剤:
1.164×α≦β≦2.446×α
但し、α:37℃での調製粉乳の保存期間(月)、β:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)。
【請求項11】
酸化抑制が、調製粉乳に含まれる香気成分の産生抑制である請求項7に記載の酸化抑制剤。
【請求項12】
香気成分がヘキサナールである請求項11に記載の酸化抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−210162(P2012−210162A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76583(P2011−76583)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】