説明

負荷時タップ切換器

【課題】小型で切換騒音が低く遮断スピードを最適化可能な負荷時タップ切換器を提供する。
【解決手段】タップ切換器を回転駆動するフックバネ8をピストンのピストンフック10とシリンダーのシリンダーフック9に装着し、前記シリンダーフック9に適当な油排出孔を開けてフックバネ8の動作速度を調整し、遮断速度を最適化できる事とともに、遮断による騒音を低減することを特長とする負荷時タップ切換器を提案するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷時タップ切換器に係わり、特に柱上変圧器などの設置場所が公衆から隔離されないものの騒音減少に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷時タップ切換器には、電気学会 電気規格調査会標準規格 JEC-2220「負荷時タップ切換装置」の6.3.2に記載するエネルギー蓄勢機構を具備しなければならない。これは駆動装置がタップ切換の途中で停止しても切換開閉器の通電用接触子がタップ切換前後のいずれかの接触位置にある構造でなければならないためである。
【0003】
このためタップ切換器は、蓄勢装置として蓄勢バネを、カム、レバーなどの従節機構により切換開閉部を動作せしめる操作装置を具備することが一般的となっている。
【特許文献1】特開平7−192939号公報
【0004】
以下に従来の負荷時タップ切換器の一例を図7、図8を用いて説明する。
【0005】
この例では変圧器本体と負荷時タップ切換器がともに同タンク内に収納され、絶縁油中に没して使用される油中遮断型の負荷時タップ切換器である。絶縁台座15の円周上に固定電極1を配置し、前記固定電極1上を可動電極2が上下から挟み込み、回転スライドするよう絶縁板3の両翼に前記可動電極2を具備し、前記絶縁板3の回転軸を1タップ毎に溝を刻んだゼネバホイール4に固定する。
【0006】
出力カム5のピン5aがを前記ゼネバホイール4の切り欠き4aに嵌合されたときはゼネバホイール4を回転させ、ピン5aと切り欠き4aが離れたときは前記出力カム5の内周円5dがゼネバホイール4の外周円4bと摺動するよう(図4)にフレーム11上に前記ゼネバホイール4と出力カム5を固定する。出力カム5の同軸上には出力レバー6を備え、前記出力レバー6の作用軸中心にバネフック14を設け、前記バネフック14の小穴14aに丸フック形の引っ張りバネ13を掛け、引っ張りバネ13のもう一方はフレーム11を固定する支柱12上の穴12aに固定した割ピン16頭に引っかける。前記出力レバー6の回転軸と同軸上には入力カム7を備える。
【0007】
以下に動作を説明する。
入力カム7を時計回りさせると前記入力カム7の切り欠き部7aが出力レバー6のピン6aを押し、前記出力レバー6を時計回り方向へ回転させる。出力レバー6が回転すると引っ張りバネ13を引っ張り蓄力していく。前記出力レバー6が180度回転すると、引っ張りバネ13は最大蓄力位置に達し、さらに+α角移動すると出力カム7のバネ死点を超えて蓄力を開放する。前記引っ張りバネ13の蓄力が開放されると出力レバー6のもう一端のピン6bが出力カム5の切り欠き部5bを押しながら回転し、出力カム5のピン5aがゼネバホイール4の切り欠き部4aに接触し、ゼネバホイール4を回転せしめる。ゼネバホイール4が回転すると一体に固定された絶縁板3が同期回転し、その両翼の可動電極2が固定電極1上をスライドし、隣接する次タップへと切り換わる。前記出力カム5がゼネバホイール4の1つの切り欠き溝を通過すると、出力カム5の内周円5cがゼネバホイール4の外周円4bと摩擦摺動し、ゼネバホイール4の回転を停止する。
【0008】
出力カム5に与えられた慣性力は、出力カム5のもう一方の切り欠き部5cが出力レバー6のピン6bに衝突して停止する。このとき大きな衝突音が発生する。なお、反時計回りでは上記に記載した動作の逆動作となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の負荷時タップ切換器においては、エネルギー蓄勢にバネを使用し、バネ蓄力を直接回動エネルギーに変換するため、その慣性力でタップ切換毎に機械衝突による騒音を発生していた。
【0010】
ところが、負荷時タップ切換器に求められる市場の要求としては、公衆設置における騒音被害の無いような低騒音化が望まれてきた。
【0011】
しかしながら、負荷時タップ切換器は、組み合わされる変圧器負荷に相当する電流を通電、切り換えする必要がある。接触部は電流を通過させるために一定の接触圧が必要であるため、この接触圧を減少させることはできない。よって接触部を動作させるためには一定のエネルギーが必要となる。必要なバネ力を得て、接触部の摩擦に打ち勝つエネルギーを得ようとすると、接触子のスピードがより一層加速し、動作後の慣性力による空走スピードも速くなるために、タップ切換毎の騒音も増加するという問題点があった。
【0012】
さらには交流電流遮断においては電流ゼロ点で遮断するというのが一般的なアーク遮断理論であるが、バネエネルギーが大きすぎると、隣接し合うタップ間への切換時間が短くなり、電流遮断動作ストローク中に電流ゼロ点を通過できなくなるという問題点があった(ここでいう電流ゼロ点とは日本においては関東地区では50Hzのため10ms毎に、関西地区では60Hzのため8.6ms毎である)
【0013】
本発明は、上記課題を解消するもので、蓄勢装置に減衰機能を一体化し、動作スピードの調整、タップ切換時の騒音減少を図った低騒音の負荷時タップ切換器を提供することを目的とする。なお、ここで言う動作スピードとは電流遮断時間を考慮して切換時間を10〜20msにすることが望ましい
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために講じた本発明の手段は次のとおりである。
主接触部は固定電極1を挟み込む形で可動電極2を絶縁板3で支持し、ゼネバホイール4の中心軸と同軸上で同期回転するよう固定する。
ゼネバホイール4の駆動輪となる出力カム5の内周円5dを前記ゼネバホイール4の外周円4bに接触回転可能に支持し、出力カム5の回転軸と同軸上に出力レバー6、入力カム7を回転可能に支持する。
前記出力レバー6の作用軸にはピストンフック10を回転可能に支持し、フックバネ8の一端を前記ピストンフック10に固定する。前記ピストンフック10はピストン部10aをシリンダーフック9のシリンダー9bとスライド可能に装着し、フックバネ8のもう一端を前記シリンダーフック9に固定する。前記シリンダーフック9は回転可能に支柱12と固定する。シリンダー9bのシリンダーフック9の近傍に油排出孔9aを設け、油がシリンダーに出入りする流量が前記油排出孔9aにより規制される事によりタップ切換器の動作スピードを調整するとともに、切換動作後の慣性エネルギーを減衰し、切換時の騒音を減少させたことを特徴とする負荷時タップ切換器。
本構成によりタップ切換器の動作スピードを調整するとともに、切換動作後の慣性エネルギーを減衰し、切換時の騒音を減少させたことを特徴とする負荷時タップ切換器を提案するものである。
また、請求項2における発明は、請求項1において油排出孔9aが複数である負荷時タップ切換器である。
請求項3における発明は請求項1の油排出孔9aをシリンダー内径とピストン外径の隙間で代用する負荷時タップ切換器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成を備え、次の効果を有する。このように構成すると、動作スピード(電流遮断スピード)の調整とタップ切換時の騒音を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施例を図1を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の請求項1に記載の特徴を有する一実施の形態例を示す負荷時タップ切換器の斜視図である。
本実施例も従来例と同様に変圧器本体とともに同タンク内に収納し、絶縁油中に没して使用される油中遮断型の負荷時タップ切換器での一例である。
【0018】
主接触部は絶縁板3で可動電極2を支持し、該可動電極2が固定電極1を挟み込む形で接触する。 ゼネバホイール4は絶縁板3と同軸上で同期回転するよう固定されている。
【0019】
ゼネバホイール4の駆動輪となる出力カム5はゼネバホイール4の外周円に回転可能に支持され、出力カム5と同軸上に出力レバー6、入力カム7が回転可能に支持される。
前記出力レバー6の作用軸にはピストンフック10を回転可能に支持し、フックバネ8を固定する。この実施例でのフックバネは引っ張りバネである。
【0020】
前記ピストンフック10から延伸したピストン10aはシリンダーフック9から伸びてきているシリンダー9b内にスライド可能に挿嵌され、フックバネ8のもう一端を前記シリンダーフック9に固定する。シリンダーフック9のフック部はバネ部の支点となるよう回転可能に支柱12に固定される。
【0021】
以下動作の詳細を図3、図4(a)〜(e)にて説明する。
図3に示すように蓄勢装置は、フックバネ8の内側にシリンダーフック9およびピストンフック10を有し、フックバネ8を両者にねじり掛ける構造である。シリンダーフック9には絶縁油400注入、排出用の油排出孔9aが開けられている。
【0022】
図4(a)〜(e)は動作時の蓄勢装置、ゼネバホイール4、出力カム5、出力レバー6、切換開閉器部(固定電極1,可動電極2,絶縁版3、ゼネバホイール4)の相関図を表す。
(a)では出力レバーは動作前の位置であり、ここから出力レバー6を背面から見て時計回りさせたときの各部の動作を(b)〜(e)で表す。2点鎖線で表示されるフックバネ8は最も縮んだ状態で力を外部に及ばしていない。出力レバー6が時計回りに回転し、ピン6bもそれにしたがって回転を始める。(e)位置まで移動したときが1タップ分の動作である。
【0023】
(b)では出力レバー6が90度回転した位置であり、この時は油排出孔9aより絶縁油400を注入しながらフックバネ8を引っ張って蓄力していく。この過程では出力レバー6のピン6bが出力カム5の切欠き5cに達していないので切換開閉器(ゼネバホイール4、絶縁板3、可動電極2)は回転動作しない。
【0024】
(c)では出力レバー6は上記(a)の位置からから180度回転せしめた位置にあり、フックバネ8は最大蓄力位置に達し、シリンダー9b内にも絶縁油400が最高位置まで充填される。この位置から+α角移動するとバネ死点を超えて蓄力エネルギーは一気に開放される。この位置では出力レバー6のピン6bが出力カム5の切り欠き5cに接触し、出力カム5を回転させるが、出力カム5のピン5aがゼネバホイール4の切り欠き4aに達していないので切換開閉器(ゼネバホイール4、絶縁板3、可動電極2)は回転動作しない。
【0025】
(d)においてはフックバネ8に蓄力したバネエネルギーが一気に開放され、出力レバー6のピン6bが出力カム5の切り欠き5cを押しながら回転し、出力カム5のピン5aがゼネバホイール4の切り欠き4aに歯合し、ゼネバホイール4を回転せしめる。ゼネバホイール4と同期回転するよう固定された絶縁板3はその回転とともに可動電極2を回動させ、固定電極1の隣接し合う次タップへと回転移動する。この時、シリンダーフック9のシリンダー9b内に充填された絶縁油400は油排出孔9aから排出される。油排出の際の流体抵抗によりバネエネルギーが緩和され、バネ縮み速度が遅くなる。
【0026】
(d)〜(e)における位置では前記(c)〜(d)における位置への移動と同様に、シリンダーフック9のシリンダー9b内に充填された絶縁油400を排出しながらゼネバホイール4を回転してゆく。(e)においてはフックバネ8は最縮となり力を及ぼさないが慣性でこの位置まで到着する。ゼネバホイール4は、出力カム5の内周円5dと外周円4aとが摩擦接触し、回転を停止する。このとき切換開閉器は可動電極2が固定電極1の隣接し合う次タップへと完全に切り換わる。出力レバー6は、フックバネ8の最縮位置にて停止し、出力レバー6に与えられた慣性エネルギーは切り欠き5bとピン6bが衝突することで消滅する。従来技術では切り欠き5bがピン6bと衝突する音が大きいという問題があった。
【0027】
本実施例の負荷時タップ切換器と変圧器と組み合わせた構成例を図5に示す。
柱上変圧器タンク100底部に変圧器本体200を固定し、前記変圧器本体200の上部に負荷時タップ切換器300を固定する。負荷時タップ切換器300の切換開閉器301および蓄勢装置302は絶縁油400に浸される位置に配置される。
【0028】
従来例および本実施例のスピード試験データ実測値を図6示す。
(a)は図8に示す従来例のストロークカーブで(b)は図1に示す本発明のストロークカーブである。
(a)従来例では全ストロークSを移動するのに要する時間はダンピングを含めた時間でt1=47msであり、ダンピングを含めない時間t2では29msである。このストローク中に可動電極は固定電極から開離し、隣り合う固定電極に回転移動する。その移動時間は開極時間tsで表される。(a)従来例での開極時間ts=5msである。
(b)本発明では全ストロークSを移動するのに要する時間t1は63msであり、本実施例で説明した蓄勢装置のスピード緩和効果により、ダンピングの発生は見られない。(b)本実施例での開極時間tsは12msである。
蓄勢装置の作用により、スピードが遅くなるので、出力レバー6のピン6bに当たる衝突エネルギーが減少し、切換騒音も減少する。(a)従来例と(b)本発明の騒音を同じ測定条件で測定した結果、(a)では75dB、(b)では60dBとなった。
【0029】
なお、本実施例のスピード緩和性能を実現する手段として、油排出孔9aの大きさによる調整を行っているが、この他に孔の数による調整、シリンダー部の断面積による調整、シリンダー内径、ピストン外径の隙間による調整、バネのサイズ、ヤング率選択による調整、バネのシリンダー、ピストンへの取付位置による調整がある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は小型で低騒音の負荷時タップ切換器に適用されるため、柱上変圧器に内蔵されるものに利用可能性が高い。さらにはこの他にも歩道部を含む路上に接地される路上用変圧器、電気室に設置の借室変圧器等、多くの電力用変圧器に適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例をもつ負荷時タップ切換器の斜視図である。
【図2】図1の負荷時タップ切換器蓄勢装置の斜視図である。
【図3】図1の負荷時タップ切換器蓄勢装置の詳細平面図である。
【図4】本発明の実施例をもつ蓄勢装置、切換開閉器の動作平面図である。
【図5】本発明の負荷時タップ切換器の変圧器組合せ例である。
【図6】本発明と従来例の動作スピード実測のオシロデータである。
【図7】従来例の負荷時タップ切換器の斜視図である。
【図8】図7の負荷時タップ切換器蓄勢装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 固定電極
2 可動電極
3 絶縁板
4 ゼネバホイール
4a 切り欠き
4b 外周円
5 出力カム
5a ピン
5b 切り欠き
5c 切り欠き
5d 内周円
6 出力レバー
6a ピン
6b ピン
7 入力カム
7a 切り欠き
8 フックバネ
9 シリンダーフック
9a 油排出孔
9b シリンダー
10 ピストンフック
10a ピストン
11 フレーム
12 支柱
12a 穴
13 引っ張りバネ
14 フック板
15 絶縁台座
100 変圧器タンク
200 変圧器
300 負荷時タップ切換器
301 切換開閉器
302 蓄勢装置
400 絶縁油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ切換の主接触部は固定電極を挟み込む形で可動電極を絶縁板で支持し、ゼネバホイールの中心軸と同軸上で同期回転するよう固定し、ゼネバホイールの駆動輪となる出力カムの内周円を前記ゼネバホイールの外周円に接触回転可能に支持し、出力カムの回転軸と同軸上に出力レバー、入力カムを回転可能に支持し、前記出力レバーの作用軸にはピストンフックを回転可能に支持し、フックバネの一端を前記ピストンフックに固定し、前記ピストンフックはピストン部をシリンダーフックのシリンダーとスライド可能に装着し、フックバネのもう一端を前記シリンダーフックに固定し、前記シリンダーフックは回転可能に支柱と固定し、前記シリンダーのシリンダーフックの近傍に油排出孔を設け、油がシリンダーに出入りする流量が前記油排出孔により規制される事によりタップ切換器の遮断スピードを調整するとともに、切換動作後の慣性エネルギーを減衰し、切換時の騒音を減少させたことを特徴とする負荷時タップ切換器。
【請求項2】
請求項1において油排出孔が複数である負荷時タップ切換器
【請求項3】
請求項1の油排出孔をシリンダー内径とピストン外径の隙間で代用する負荷時タップ切換器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−135445(P2010−135445A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308053(P2008−308053)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)