説明

貴金属の吸着方法および貴金属吸着材

【課題】原料コストや製造工程コストが低く、貴金属を選択的に吸着することができる貴金属吸着材、および、当該貴金属吸着材を用いて金や白金等の貴金属のみを選択的に吸着する吸着方法を提供する。
【解決手段】粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる粒子状の貴金属吸着材を用いて、貴金属が溶存している溶液から貴金属を吸着して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属の選択的な吸着方法および貴金属吸着材に関する。より詳細には、本発明は、水に溶存した貴金属を選択的に吸着する、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーを重合してなるグラフト鎖を有する貴金属吸着材、およびその貴金属吸着材を用いて貴金属を効率的に吸着する吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や各種家電、ゴミ焼却灰等の廃棄物中、鉱石中、或いは、メッキ廃液等の工業廃液に存在する高濃度の金や白金等の貴金属の回収手段として、沈殿法、加熱濃縮法、活性炭吸着法、電気分解法等が知られている。しかし、一般的にこれらの方法は溶存する貴金属の濃度が低い場合、特に1000ppm以下である場合には、回収されずに残存する貴金属が多くなり、適用することができないという問題がある。一方、溶存する貴金属が低濃度の場合でも回収できる方法としては青化法やチオ尿素法等が知られている。しかしながら、これらの回収方法は、環境汚染の問題や、共存するイオンの影響を受け易く、回収効率が低いという問題がある。
【0003】
最近では、スチレン系のイオン交換樹脂を用いて貴金属を回収する方法も提案されており、回収率が高いことが知られている。しかしながら、イオン交換樹脂を用いる方法では、干渉イオンの影響により、効率的に回収することが困難になることがある。また、貴金属を吸着した樹脂から当該貴金属を回収する際に容易に脱着させることができず、高価なイオン交換樹脂を焼却灰化して貴金属を回収せざるを得ず、結果的に回収コストが高くなってしまうという問題がある。
【0004】
そこで、水中に溶存する金を吸着し容易に脱着することができるポリアニリン系樹脂からなる吸着材や、ポリオレフィン系樹脂の繊維上にアミン等の官能基を含むグラフト鎖を導入した吸着材が提案されている(特許文献1,2を参照)。これらの吸着材を用いることで、環境汚染を抑えつつ、従来の回収方法に比べて高い回収効率、吸着容量、吸着速度で、水中に溶存した金や白金等の貴金属を回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−154973号公報(2005年6月16日公開)
【特許文献2】特開2008−49315号公報(2008年3月6日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の吸着材を用いた場合には、金や白金と共に、ニッケル、コバルト等の他の金属が共存すると、金や白金のみを選択的に吸着することができない。このため、金や白金のみを回収したい場合でも、対象としない金属を含めて吸着してしまう結果となるため、金属回収後、対象とする金属の精製に多くの工程とコストが必要になる等の問題がある。
【0007】
また、吸着性官能基を有するモノマーとしてアリルアミン等が挙げられているが、アリルアミン等のグラフト重合鎖では主鎖と吸着性官能基であるアミン基との距離が近すぎるため、金属の吸着効率が悪くなってしまうという問題もある。
【0008】
さらに、吸着性官能基を有するアリルアミン等は単独でグラフト重合ができないため、他の親水性モノマーと共重合をしなければならない。そうすると、アミンと他の官能基とが混在するようになるため、金属の吸着効率が悪くなるという問題もある。また、他の親水性モノマーと共重合する場合には、吸着材における膨潤性を有する官能基の濃度が低下してしまい、吸着材の膨潤性が低下するという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の吸着材は、金や白金を選択的に吸着することができる吸着材ではあるものの、アニリンを酸化重合させることにより製造される樹脂を用いており、製造効率が低く、製造工程コストが比較的高いため、実用性に乏しいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、原料コストや製造工程コストを低く抑えることができると共に、金や白金等の貴金属と高い親和性を有し、貴金属を選択的に吸着することができる実用的な貴金属吸着材、および、その貴金属吸着材を用いて金や白金等の貴金属のみを選択的に吸着する吸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルのグラフト鎖を導入した粒子状の貴金属吸着材が、とりわけ優れた貴金属の吸着性を有していることを見出した。さらに、本発明者は鋭意検討した結果、上記の貴金属吸着材は、干渉イオンの影響を受けず、選択的に貴金属を吸着することができるという効果を有していることを見出した。特に、本発明者は、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル由来の構造の側鎖に、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質が存在することを見出した。
【0012】
即ち、上記の貴金属吸着材を用いることにより、吸着による回収コストを抑えることができると共に、高効率、高選択率を実現した貴金属の吸着方法を提供することができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記課題を解決するために、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる粒子状の貴金属吸着材を、貴金属が溶存している溶液に接触させて、上記貴金属吸着材に貴金属を吸着させる吸着工程を含むことを特徴としている。
【0014】
上記の吸着方法によれば、グラフト鎖の原料である(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルは一般的に安価であるため、貴金属吸着材の製造コストを抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。
【0015】
また、グラフト鎖として導入された(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル由来の構造の側鎖は、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質を有しているため、コバルトやニッケル等の対象としない金属が共存する溶液中から、白金や金等の貴金属のみを選択的に吸着することができる。これにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができる。
【0016】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記貴金属が金および白金のうち少なくとも一つから選ばれることがより好ましい。これにより、より選択的かつ効率的に、高い純度の金や白金を吸着することができる。
【0017】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルが、式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。]
式(1)で表される化合物はより安価であるため、貴金属吸着材の製造コストをさらに抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。
【0020】
また、式(1)で表される化合物を用いた場合には、貴金属吸着材の親水性がさらに高くなり、式(1)で表される化合物由来の構造に起因する効果により、金や白金等の貴金属との選択的な相互作用も大きくなるため、より効率的にかつ選択的に金や白金等の貴金属を吸着することができる。
【0021】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記グラフト鎖が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルの単独重合体、または、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルとそれ以外の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとの共重合体であることがより好ましい。メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルを用いることにより、さらに効率的にかつ選択的に金や白金等の貴金属を吸着することができる。
【0022】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記貴金属吸着材における(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーのグラフト率が100%以上であることがより好ましい。これにより、金や白金等の貴金属をより効率的に吸着することができる。
【0023】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記吸着工程の前に、上記溶液のpHを1.0〜5.0の範囲内に調整する調整工程を含むことがより好ましい。これにより、金や白金等の貴金属をより効率的に吸着することができる。
【0024】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記基材が有機高分子化合物からなることがより好ましい。これにより、安価にかつ効率的にグラフト鎖が導入された貴金属吸着材が得られるので、貴金属の吸着による回収コストをさらに抑えることができる。
【0025】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、上記吸着工程の後に、上記貴金属吸着材を焼却することによって貴金属を回収する回収工程を含むことがより好ましい。これにより、吸着した貴金属をより効率的に回収することができる。
【0026】
また、本発明に係る貴金属吸着材は、上記課題を解決するために、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなることを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、グラフト鎖の原料である(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルは一般的に安価であるため、貴金属吸着材の製造コストを抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。
【0028】
また、グラフト鎖として導入された(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル由来の構造の側鎖は、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質を有しているため、コバルトやニッケル等の対象としない金属が共存する溶液中から、白金や金等の貴金属のみを選択的に吸着することができる。それにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができる。
【0029】
本発明に係る貴金属吸着材は、上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルが、式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0030】
【化2】

【0031】
[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。]
式(1)で表される化合物はより安価であるため、貴金属吸着材の製造コストをさらに抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。
【0032】
また、式(1)で表される化合物を用いた場合には、貴金属吸着材の親水性がさらに高くなり、式(1)で表される化合物由来の構造に起因する効果により、金や白金等の貴金属との選択的な相互作用も大きくなるため、より効率的にかつ選択的に金や白金等の貴金属を吸着することができる。
【0033】
本発明に係る貴金属吸着材は、上記グラフト鎖が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルの単独重合体、または、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルとそれ以外の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとの共重合体であることがより好ましい。メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルを用いることにより、貴金属の吸着に掛かるコストをさらに抑えることができる。
【0034】
本発明に係る貴金属吸着材は、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーのグラフト率が100%以上であることがより好ましい。これにより、金や白金等の貴金属をより効率的に吸着することができる。
【0035】
本発明に係る貴金属吸着材は、上記基材が有機高分子化合物からなることがより好ましい。これにより、安価にかつ効率的にグラフト鎖が導入された貴金属吸着材が得られる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る貴金属の吸着方法では、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる粒子状の貴金属吸着材を用いて吸着工程を行うことで、貴金属が溶存している溶液から当該貴金属を効率的に吸着することができる。上記の吸着方法によれば、貴金属吸着材の製造コストを抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。また、上記貴金属吸着材は、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質を有しているため、白金や金等の貴金属のみを選択的に吸着することができる。これにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができるという効果を奏する。
【0037】
また、本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に一般的に安価である(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなるため、製造コストを抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。また、上記貴金属吸着材は、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質を有しているため、白金や金等の貴金属のみを選択的に吸着することができる。これにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができるという効果を奏する。
【0038】
さらに、本発明に係る貴金属吸着材は、市販されているイオン交換樹脂と同様に、従来のカラムや吸着塔を用いて、貴金属が溶存している溶液から当該貴金属を処理吸着することができるので汎用性がある。また、基材にグラフト鎖を導入する際には、例えば電子線等の電離放射線を照射することによりラジカル活性点を容易に生成させることができるので、工業的に量産化し易く実用的である。
【0039】
即ち、本発明に係る貴金属の吸着方法および貴金属吸着材によれば、低コストで、効率的にかつ選択的に貴金属を吸着することができるので、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の当該貴金属を回収することができるという効果を合わせて奏する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1に係る貴金属吸着材の製造方法におけるグラフト率と反応時間との関係を表すグラフである。
【図2】実施例2に係る貴金属吸着材の効果の一例を示すグラフであり、金の吸着率と吸着時間との関係を表すグラフである。
【図3】実施例3に係る貴金属吸着材の効果の一例を示すグラフであり、白金の吸着率と吸着時間との関係を表すグラフである。
【図4】実施例4に係る貴金属吸着材の効果の一例を示すグラフであり、カラムを通過した溶液の金の濃度(出口金濃度)と通水時間との関係を表すグラフである。
【図5】実施例4に係る貴金属吸着材の焼却試験における、金の吸着前および吸着後の貴金属吸着材を撮影した写真であり、左側のシャーレは吸着前の貴金属吸着材を示し、右側のシャーレは吸着後の貴金属吸着材を示す。
【図6】実施例4に係る貴金属吸着材の焼却試験後に回収された残渣を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明に係る貴金属の吸着方法は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる粒子状の貴金属吸着材を、貴金属が溶存している溶液に接触させて、上記貴金属吸着材に貴金属を吸着させる吸着工程を含んでいる。また、本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる。
【0042】
以下、本発明の実施の一形態について、貴金属吸着材、貴金属吸着材の製造方法、貴金属の吸着方法の順に詳細に説明する。
【0043】
(1)貴金属吸着材
本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる。
【0044】
本発明において用いられる上記粒子状の基材の材質は、特に限定されるものではなく、有機物質であってもよいし、無機物質であってもよい。
【0045】
上記有機物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリオレフィン系の有機高分子化合物を含む有機微粒子を好適に用いることができる。また、上記無機物質としては、シリカ、カーボン等の微粒子を好適に用いることができる。
【0046】
特に、上記基材は、電子加速器を使って電子線を照射することにより、グラフト鎖を導入するためのラジカル活性点を容易に生成させることができ、効率的にグラフト鎖を導入することができるという観点から、有機高分子化合物であることが好ましい。つまり、上記基材にグラフト鎖を導入する際には、例えば電子線等の電離放射線を照射することによりラジカル活性点を容易に生成させることができるので、工業的に量産化し易く実用的である。中でも、コストの面からポリエチレン、ポリプロピレンであることがより好ましい。これら有機高分子化合物を用いることにより、従来開発されてきた、グラフト鎖を導入した吸着材よりも高いグラフト率を有する貴金属吸着材を提供することができる。
【0047】
また、上記基材の平均粒子径は、乾燥状態で、30μm以上、800μm以下であることが好ましく、50μm以上、500μm以下であることがより好ましく、100μm以上、300μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
なお、本明細書において、別途規定する場合を除き、平均粒子径とは以下の方法で決定された値をいう。先ず、試料となる粒子の集合の数箇所から試料を採取する。各々の試料について、顕微鏡による観察を行い、数箇所から採取した試料全体で合計100個以上の粒子に対して、それぞれ、対象となる粒子一つの長軸径、即ち、粒子の形状で最も寸法の大きい方向の寸法を計測する。計測した粒子100個以上の値のうち、上下各20%を除いた、60%の計測値の平均を、本発明における平均粒子径とする。
【0049】
本発明に係る貴金属吸着材に導入されているグラフト鎖とは、粒子状の基材に固定される、上記モノマーの重合体を意味する。係るグラフト鎖を導入することにより、貴金属吸着材は貴金属を錯体アニオンとして選択的に吸着することができる。
【0050】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味している。
【0051】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとしては、特に限定されるものではないが、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
【化3】

【0053】
[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。]
およびRが炭化水素基である場合に、当該炭化水素基は炭素数1〜6であることがより好ましく、炭素数1〜3であることがさらに好ましい。上記炭化水素基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0054】
また、上記炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。さらに、上記炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。
【0055】
Aで表されるアルキレン基は炭素数1〜3であることがより好ましく、エチレン基であることがさらに好ましい。
【0056】
それゆえ、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとしては、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ジプロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ジブチルアミノ)エチルの何れかであることがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルであることが特に好ましく、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)であることが最も好ましい。
【0057】
これら(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルは、工業的に容易にかつ安価に入手することができ、結果的に貴金属吸着材の製造コストを抑えることができる。また、これら(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを用いることにより、親水性が比較的高く、貴金属の吸着性が高い粒子状の貴金属吸着材を提供することができる。
【0058】
さらに、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明に用いられるモノマーは、一種類以上の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーであればよく、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル以外の他のモノマーが含まれていてもよい。
【0059】
即ち、本発明において上記基材に導入されるグラフト鎖は、一種類の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルが単独重合してなる単独重合体であってもよいし、上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルの二種類以上が共重合してなる共重合体であってもよいし、上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルの一種類以上と上記他のモノマーの一種類以上とが共重合してなる共重合体であってもよい。
【0060】
本発明に係る貴金属吸着材のグラフト鎖となるモノマーにおいて、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルは、50重量%以上用いられていることが好ましく、70重量%以上用いられていることがより好ましく、90重量%以上用いられていることがさらに好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルにおいては、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルが50重量%以上用いられていることが好ましく、70重量%以上用いられていることがより好ましく、90重量%以上用いられていることがさらに好ましい。
【0061】
また、上記他のモノマーは、例えば、エチレン性不飽和基を2つ以上有する多官能性モノマーであってもよい。係るモノマーを共存させることにより、グラフト鎖が架橋した構造を得ることができる。これにより、本発明で用いられる貴金属吸着材の表面の膨潤度を調整することができる。
【0062】
また、上記他のモノマーは、例えば、エチレン性不飽和基を1つ以上有し、かつ、貴金属以外の特定の金属を選択的に吸着する官能基を有する吸着性モノマーであってもよい。係るモノマーを共存させることにより、貴金属を吸着させると同時に、当該貴金属以外の、回収をする必要がある特定の金属を吸着させることができる。
【0063】
また、上記他のモノマーは、例えば、エチレン性不飽和基を1つ以上有する親水性モノマーであってもよい。親水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、N−ビニルアセトアミド、ビニルアルコール等が挙げられる。貴金属吸着材の親水性が乏しい場合に、係るモノマーを共存させることにより、溶媒和を向上させることができ、対象とする貴金属を効率的に回収することができる。
【0064】
本発明において用いられる貴金属吸着材においては、上記基材に上記グラフト鎖が導入されていればよく、導入されるグラフト鎖のグラフト率は特に限定されるものではないが、100%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、190%以上であることがさらに好ましく、220%以上であることが特に好ましい。グラフト鎖のグラフト率が100%以上であると、貴金属と相互作用するグラフト鎖の量をより多くすることができる。それゆえ、貴金属の吸着能力のより高い貴金属吸着材を得ることができる。グラフト率の上限は、特に限定されるものではないが、300%程度である。
【0065】
本発明においてグラフト率とは、基材に対するグラフト鎖の重量を重量百分率で表した値のことであり、以下の方法で算出される。即ち、予め乾燥重量を測定した基材に、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖を導入することにより貴金属吸着材を製造した後、当該貴金属吸着材を純水に48時間浸漬して、未反応のモノマーおよびグラフト鎖とならなかったポリマーを除去する。次いで、当該貴金属吸着材をさらに純水に12時間浸漬することにより洗浄した後、50℃で24時間乾燥する。乾燥後の貴金属吸着材の重量を測定し、当該重量(W)と、上記基材の重量(W)とから、次式
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100
によってグラフト率を算出する。但し、基材がシラン化された無機微粒子である場合は、上記基材の重量とは、シラン化された無機微粒子の重量を指す。
【0066】
本発明において用いられる貴金属吸着材においては、基材に導入されるグラフト鎖の単位面積当たりの鎖数または密度に関しては、より大きい方が好ましく、また、グラフト重合度に関してもより大きい方が好ましい。
【0067】
また、本発明において用いられる貴金属吸着材のイオン交換容量は、3.0mmol/L以上であることが好ましく、3.5mmol/L以上であることがより好ましく、4.0mmol/L以上であることがさらに好ましい。これにより、貴金属を効率的に吸着することができる貴金属吸着材を提供することができる。
【0068】
本明細書において、「イオン交換容量」とは、貴金属吸着材1L当たりの樹脂が保持することができるイオンのモル数のことであり、測定方法としては、公知の水酸化ナトリウム水溶液等による中和滴定法を用いることができる。
【0069】
本発明において用いられる貴金属吸着材の形状は、上記基材と同様に、粒子状であれば特に限定されるものではないが、球形、楕円形、不定形破砕形状等であることが好ましい。中でも、上記貴金属吸着材の形状は、機械的強度の観点から、球形であることがより好ましい。
【0070】
また、本発明において用いられる貴金属吸着材の平均粒子径は、100μm以上、1500μm以下であることが好ましく、100μm以上、800μm以下であることがより好ましく、200μm以上、500μm以下であることがさらに好ましい。貴金属吸着材の平均粒子径が上記範囲内であることにより、市販されているイオン交換樹脂と同様に、従来のカラムや吸着塔を用いて、貴金属が溶存している溶液から当該貴金属を処理吸着することができるので汎用性がある。
【0071】
なお、本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されていればよいので、導入後にプロトン化させた貴金属吸着材も本発明に係る貴金属吸着材の範疇に含まれる。
【0072】
また、本発明に係る貴金属吸着材が吸着対象とする貴金属としては、金、白金、パラジウム等が挙げられる。中でも、金および白金が選択的にかつ効率的に吸着することができる。
【0073】
(2)貴金属吸着材の製造方法
本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなっていればよく、従って、どのような製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0074】
本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材を活性化して、ラジカル活性点を生成させ、ラジカル活性点が生成している当該基材にグラフト鎖を導入することにより製造することができる。
【0075】
上記基材を活性化する方法は、続いて行われるグラフト鎖の導入工程でグラフト鎖を導入することができるように、ラジカル活性点を生成させることができる方法であればよく、その手法は特に限定されるものではない。例えば、ラジカル重合開始剤を用いて化学的に活性化を行う方法、電離放射線を照射することにより活性化を行う方法、紫外線を照射することにより活性化を行う方法、超音波を用いて活性化を行う方法、プラズマを照射することにより活性化を行う方法等を用いることができる。中でも電離放射線を照射する方法は、製造プロセスが簡単、安全、かつ低公害であるという利点を有する。また、工業的に量産化し易く実用的である。さらに、グラフト鎖を基材の表面から内部まで導入することができ、吸着能力により優れた貴金属吸着材を得ることができる。
【0076】
電離放射線を照射することにより活性化を行う場合は、その線量は1kGy以上、300kGy以下であることが好ましく、100kGy以上、200kGy以下であることがより好ましい。電離放射線の線量が1kGy以上であることにより、照射時間を短くすることができると共に、上記基材に、必要な量のラジカル活性点を生成することができる。また、電離放射線の線量が300kGy以下であることにより、エネルギーを節約することができるため、製造コストを低減することができる。上記電離放射線の照射時間は、生産効率の面から、2分以内であることが好ましい。
【0077】
上記電離放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、X線等を挙げることができるが、中でも、工業的な生産性の観点から、例えばコバルト−60から放射されるγ線、電子線加速器から放射される電子線、X線等をより好適に用いることができる。また、電子線加速器から放射される電子線を用いる場合、当該電子線加速器としては、厚物に対する照射を行うことができる電子線加速器を用いることがより好ましく、加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギーの電子線加速器を好適に用いることができる。また、照射時に、粒子状の基材を例えばプラスチックバッグの中に平板化して(平らに並べて)封着すれば、1MeV以下の中低エネルギー電子線加速器を用いた場合でも電子線を透過させることができるため、好適に上記基材を活性化することができる。
【0078】
さらに、電離放射線の照射は、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。これにより、基材へのグラフト鎖の導入をより効果的に行うことができる。
【0079】
また、電離放射線の照射は、−20℃以上、0℃以下の冷却条件下で行うことがより好ましい。これにより、基材へのグラフト鎖の導入をより効果的に行うことができる。
【0080】
基材に生成したラジカル活性点にグラフト鎖を導入する方法も特に限定されるものではないが、例えば、活性化された上記基材を、上記モノマーを含む溶液に浸漬する等して接触させることにより、上記モノマーを上記基材にグラフト重合させてグラフト鎖を導入する方法等を用いることができる。
【0081】
上記モノマーを含む溶液における溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン等の親水性ケトン等の親水性溶媒、またはそれらの混合溶媒を挙げることができる。中でも上記溶媒は水を主成分とするものがより好ましく、水であることがさらに好ましい。有機溶媒を使用しないことにより、製造プロセスのコスト低減、環境に対する負荷の低減、および、プロセスの安全性向上に寄与することができる。なお、ここで用いられる水としては、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
【0082】
上記溶液に含まれる上記モノマーの濃度は、特に限定されるものではないが、0.5M以上、4M以下であることがより好ましく、1M以上、3M以下であることがさらに好ましい。モノマーをこの範囲内で含むことにより、上記基材に、高いグラフト率で上記モノマーをグラフト重合することができる。さらに活性化された上記基材と、上記モノマーを含む溶液との接触時間も短縮することができる。
【0083】
また、上記基材と上記モノマーを含む溶液との接触方法は特に限定されるものではないが、例えば、活性化された上記基材を上記溶液に浸漬する方法や、上記基材に上記溶液を塗布する方法等を挙げることができる。
【0084】
活性化された上記基材と上記モノマーを含む溶液との接触時間は、接触方法として浸漬する方法を用いる場合には、好ましくは30分間以上、48時間以下であり、より好ましくは2時間以上、24時間以下である。
【0085】
また、反応温度、即ち、活性化された上記基材と上記モノマーを含む溶液とを接触させる温度は、接触方法として浸漬する方法を用いる場合には、好ましくは20℃以上、80℃以下であり、より好ましくは、40℃以上、50℃以下である。
【0086】
また、活性化された上記基材と上記モノマーを含む溶液との接触は、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。これにより、ラジカル活性点と酸素との反応を防止することができる。
【0087】
(3)貴金属の吸着方法
本発明の貴金属吸着材による吸着対象となる、貴金属が溶存している溶液としては、例えば、貴金属を含むスクラップから酸処理等によって貴金属を抽出した溶液、簡易的な他の方法を用いて貴金属を回収や精製した後に排出される微量の貴金属を含む溶液、貴金属を含む触媒を用いた反応後の溶液(廃液)等、貴金属が溶存している各種工業排水や鉱業排水等が挙げられる。
【0088】
上記貴金属としては、金、白金、パラジウム等が挙げられる。中でも、本発明の貴金属吸着材は金および白金を選択的にかつ効率的に吸着することができるので、これら金および白金の回収に好適である。
【0089】
貴金属が溶存している溶液における当該貴金属の形態としては、特に限定はないものの、原子価が+1〜+4の形態となっていることが好ましい。また、貴金属が安定に溶存することができる形態であれば特に限定はないものの、酸性条件下で主として溶液中において錯体イオンの形態として存在していることがより好ましく、例えばクロロ錯体やシアノ錯体等の錯体陰イオンの形態として存在していることがさらに好ましい。
【0090】
本発明に係る貴金属の吸着方法において効率的に貴金属を吸着することができる、溶存している貴金属の濃度は、0.01〜1000ppmの範囲内であることが好ましく、0.5〜500ppmの範囲内であることがより好ましく、1〜30ppmの範囲内であることがさらに好ましい。濃度が0.01ppmよりも低いと貴金属の吸着率が低くなり、吸着の効率が低下するおそれがある。一方、濃度が1000ppmよりも高いと貴金属吸着材が直ぐに吸着飽和してしまい、吸着することができなくなるので、吸着の効率が低下するおそれがある。
【0091】
(調整工程)
本発明に係る貴金属の吸着方法では、貴金属吸着材に貴金属を吸着させる吸着工程を行う前に、貴金属が溶存している溶液のpHを予め酸性にする調整工程を行うことがより好ましい。つまり、貴金属が溶存している溶液に、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸を加えて、貴金属が溶存している溶液を酸性状態にすることがより好ましい。具体的には、貴金属が溶存している溶液の水素イオン濃度をpH=1.0〜5.0の範囲内に調整するのが好ましく、pH=1.0〜4.0の範囲内に調整するのがより好ましい。
【0092】
貴金属が溶存している溶液の水素イオン濃度がpH>5.0の条件では、貴金属の吸着の効率が低下するおそれや、貴金属の吸着選択性が低下するおそれがある。また、pH<1.0の条件では、貴金属吸着材の化学構造の一部が化学的に分解されてしまい、結果的に貴金属の吸着の効率が低下するおそれがある。
【0093】
(吸着工程)
本発明において、貴金属が溶存している溶液から貴金属を吸着する方法としては、貴金属が溶存している溶液と貴金属吸着材とを接触させることができる方法であればよく、特に限定するものではない。溶液と貴金属吸着材とを接触させる方法としては、例えば、貴金属が溶存している溶液に貴金属吸着材を投入して攪拌する方法、貴金属が溶存している溶液に貴金属吸着材を浸漬させる方法、貴金属吸着材をカラムや吸着塔に充填して貴金属が溶存している溶液をこれらカラムや吸着塔に通液する方法等が挙げられる。
【0094】
貴金属が溶存している溶液に貴金属吸着材を投入して攪拌する方法としては、例えば、貴金属が溶存している溶液に、貴金属の濃度に応じて当該貴金属を吸着することが可能な量の貴金属吸着材を投入し、攪拌子等の通常の攪拌手段によって攪拌する方法が挙げられる。攪拌手段による攪拌速度は、特に限定されるものではない。また、攪拌時間は、0.5時間以上、20時間以下であることが好ましく、1時間以上、10時間以下であることがより好ましい。攪拌時の温度は、特に限定されるものではないが、0℃以上、100℃以下であることが好ましく、10℃以上、60℃以下であることがより好ましい。上記条件下で吸着することにより、貴金属を貴金属吸着材に効率的に吸着することができる。
【0095】
一方、貴金属吸着材をカラムや吸着塔に充填して貴金属が溶存している溶液をこれらカラムや吸着塔に通液する方法においては、例えば、貴金属吸着材を水に浸漬してスラリー状態としてカラム内や吸着塔内に充填すればよい。カラムや吸着塔の径および高さは、吸着する貴金属の総量や溶液の濃度に合わせて適宜設定すればよい。流速は、吸着する貴金属の総量や溶液の濃度に合わせて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、SV(空間速度)が5〜20h−1の範囲内であることが好ましい。通液時の温度は、特に限定されるものではないが、10℃以上、60℃以下であることが好ましく、15℃以上、30℃以下であることがより好ましい。
【0096】
本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなるので、金や白金等の貴金属と高い親和性を有し、上記溶液中に貴金属以外の金属が溶存している場合においても、貴金属のみを選択的に吸着することができる。これにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の貴金属を回収することができ、回収コストを抑えることができる。
【0097】
(回収工程)
本発明において、吸着工程後に得られた、貴金属を吸着している貴金属吸着材から当該貴金属を回収する方法としては、貴金属を吸着している貴金属吸着材を焼却する方法、貴金属に応じた脱離剤を用いて、貴金属を吸着している貴金属吸着材から当該貴金属を脱離する方法等が挙げられる。とりわけ、本発明に係る貴金属吸着材は安価であるので、貴金属を吸着している貴金属吸着材を焼却する方法、つまり、貴金属吸着材を焼却することによって貴金属を回収する回収工程を行うことが好ましい。
【0098】
貴金属吸着材を焼却する方法を用いることにより、吸着した貴金属を高収率で回収することができる。また、回収コストを抑えることができると共に、貴金属の回収効率をより高くすることができる。そして、回収に脱離剤等の薬剤を用いないので、環境汚染のおそれが無く、貴金属吸着材の化学構造の一部が化学的に分解された分解物が混入するおそれが無く、回収後の貴金属を精製する工程も必要が無い。
【0099】
貴金属吸着材を焼却する具体的な方法としては、貴金属吸着材を乾燥させた後、一般的な高温炉を用いて当該貴金属吸着材の焼却を行う方法が挙げられる。焼却は空気雰囲気下、常圧で行うことが好ましい。焼却温度は800〜1500℃の範囲内であることが好ましい。焼却温度が1500℃よりも高い場合は焼却コストが高くなるおそれがあり、焼却温度が800よりも低い場合は焼却後に得られる貴金属に貴金属吸着材の残渣(燃えカス)が混入するおそれがある。
【0100】
また、焼却時間は焼却温度にもよるが、4時間〜10時間の範囲内であることが好ましい。焼却時間が10時間よりも長い場合は焼却コストが高くなるおそれがあり、焼却時間が4時間よりも短い場合は焼却後に得られる貴金属に貴金属吸着材の残渣(燃えカス)が混入するおそれがある。
【0101】
吸着工程後に得られた、貴金属を吸着している貴金属吸着材から当該貴金属を回収する回収工程を行うことにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1:貴金属吸着材の製造〕
(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーを含む溶液として、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)3M水溶液200mlを予め調製した。そして、当該水溶液に溶存している酸素を、窒素ガスをバブリングすることにより除去した。
【0104】
一方、市販されているPE(ポリエチレン)微粒子(東ソー株式会社製,HDPE,ニポロンハード8600A,直径:200〜500μm,密度:0.950g/mL,粒子の形状:不規則粒子)10gを基材として使用した。当該PE微粒子をプラスチックバッグの中に平たく並べて配置した後、当該プラスチックバッグ内の空気を窒素ガスに置換して封着した。窒素ガス雰囲気下で、ドライアイスによる冷却によりPE微粒子の温度を−20℃に調節しながら、工業用高性能電子加速器から放射される電子線を200kGyの線量で2分間照射して、PE微粒子にラジカル活性点を生成させた。電子線照射後のPE微粒子を、窒素雰囲気下で、予め調製した上記水溶液200mlに直ちに浸漬して、窒素ガスでバブリングしながら、30℃で、10分間、20分間、30分間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間、バッチ式で反応させた。これにより、本発明に係る貴金属吸着材(以下、単に吸着材と記す)を製造した。
【0105】
上記方法で製造した吸着材のグラフト率と反応時間との関係をグラフにして図1に示す。グラフの縦軸はグラフト率(単位:%)を示し、横軸は反応時間(単位:時)を示す。グラフから明らかなように、反応時間が1時間でグラフト率は100%を超え、反応時間が長くなるに連れてグラフト率は増加したが、反応時間が8時間を越えるとグラフト率の増加は緩やかになった。そして、反応時間が24時間でグラフト率は220%に達した。
【0106】
一般的にグラフト率が高ければ高いほど、吸着に寄与する官能基の数が多くなる。上記方法で製造したグラフト率が140%(反応時間が1時間)の吸着材、190%(反応時間が2時間)の吸着材、220%(反応時間が24時間)の吸着材、および、比較対象として市販されている金吸着用の陰イオン交換樹脂SA10A(三菱化学製)のイオン交換容量を、水酸化ナトリウム水溶液を用いた公知の中和滴定法でそれぞれ調べた。その結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
〔実施例2:金の吸着試験〕
実施例1に示した方法により製造した吸着材を用いて、代表的な金錯体イオン溶液からの金の吸着試験を行った。先ず、市販されているテトラクロロ金(III)酸(H[AuCl])1000ppm標準液、およびシアン化金(I)カリウム(K[Au(II)(CN)])試薬を用いて、純水に金が濃度10ppmで溶存している溶液をそれぞれ調製した。そして、テトラクロロ金(III)酸を用いた溶液をpH=2.0に、シアン化金(I)を用いた溶液をpH=3.0にそれぞれ調節した。
【0109】
実施例1で製造したグラフト率が190%の吸着材0.1gを、上記各溶液100mlに添加して、20℃で、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、8時間および24時間(吸着時間)攪拌して、バッチ式で吸着させた。そして、それぞれ攪拌後の上澄み液に溶存している金の濃度をICP発光分系装置により測定し、上澄み液の金の濃度(残留濃度)と調製した溶液の金の濃度(初期濃度)とから、吸着材に吸着された金の吸着率を求めた。
【0110】
上記方法で求めた金の吸着率と吸着時間との関係をグラフにして図2に示す。グラフの縦軸は吸着率(単位:%)を示し、横軸は吸着時間(単位:分)を示す。また、テトラクロロ金(III)酸を用いた場合の数値は「○」で、シアン化金(I)を用いた場合の数値は「●」で示す。グラフから明らかなように、本発明に係る吸着材は水中に存在する金の錯体陰イオンを素早く吸着することが判った。また、グラフから、テトラクロロ金(III)酸を用いた場合には吸着時間が2時間で金の吸着率は99%に達し、シアン化金(I)を用いた場合には吸着時間が2時間で金の吸着率は93%に達することが判った。
【0111】
〔実施例3:白金の吸着試験〕
実施例1に示した方法により製造した吸着材を用いて、代表的な白金錯体イオン溶液からの白金の吸着試験を行った。先ず、市販されているヘキサクロロ白金(IV)酸(H[PtCl])標準液(塩酸水溶液)を用いて、純水に白金が濃度10ppmで溶存している溶液を調製した。そして、当該溶液をpH=2.0に調節した。
【0112】
実施例1で製造したグラフト率が190%の吸着材0.1gを、上記溶液100mlに添加して、20℃で、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、8時間および24時間(吸着時間)攪拌して、バッチ式で吸着させた。そして、それぞれ攪拌後の上澄み液に溶存している白金の濃度をICP発光分系装置により測定し、上澄み液の白金の濃度(残留濃度)と調製した溶液の白金の濃度(初期濃度)とから、吸着材に吸着された白金の吸着率を求めた。
【0113】
上記方法で求めた白金の吸着率と吸着時間との関係をグラフにして図3に示す。グラフの縦軸は吸着率(単位:%)を示し、横軸は吸着時間(単位:分)を示す。グラフから明らかなように、本発明に係る吸着材は水中に存在する白金の錯体陰イオンを素早く吸着することが判った。また、グラフから、吸着時間が4時間で白金の吸着率は95%に達することが判った。
【0114】
〔実施例4:金の通水吸着試験と焼却試験〕
実施例1に示した方法により製造した吸着材を用いて、代表的な金錯体イオン溶液からの金の通水吸着試験を行った。先ず、市販されているテトラクロロ金(III)酸(H[AuCl])1000ppm標準液を純水で希釈して、金が濃度50ppmで溶存している溶液を調製した。そして、当該溶液をpH=1.0に調節した。
【0115】
一方、実施例1で製造したグラフト率が190%の吸着材を水に浸漬してスラリー状態として、ポリエチレン製のカラム内に充填した。カラムの寸法はφ16×77.5mm(約15ml床容積)であった。そして、当該カラムに、ミニポンプを使って上記溶液を20℃、流速2.5ml/分(SV(空間速度)=10h−1)で通水して吸着試験を開始した。
【0116】
上記カラムを通過した溶液の金の濃度(出口金濃度)と通水時間との関係をグラフにして図4に示す。グラフの縦軸は出口金濃度(単位:mg/L)を示し、横軸は通水時間(単位:時)を示す。グラフから明らかなように、本発明に係る吸着材は水中に存在する金の錯体陰イオンを素早く吸着することが判った。また、グラフから、通水時間が4時間で金の吸着率は95%に達することが判った。そして、通水時間が8時間に達した時点で、吸着材の吸着量は飽和状態になったことが判った。グラフから算出した結果、吸着材1L当たり、凡そ220gの金を吸着することができることが判った。
【0117】
金の吸着前および吸着後の吸着材を撮影した写真を図5に示す。左側のシャーレは吸着前の吸着材を示し、右側のシャーレは吸着後の吸着材を示す。吸着試験の開始前は白色であった吸着材は、溶液の通水と共に徐々に金色に変化していき、吸着試験の終了時には深い金色になった。
【0118】
吸着試験の終了後、上記カラムに純水を通水して吸着材を取り出し、洗浄および乾燥した。乾燥の方法としては、50℃の条件下で48時間、真空乾燥した。
【0119】
次いで、乾燥した上記吸着材を高温炉内に投入して、焼却温度1000℃で8時間、焼却試験を行った。焼却試験後の残渣を回収してX線光電子分光(XPS)等により元素分析した結果、回収した残渣は、純度99.99%の金であることが確認された。また、焼却試験によって回収した金の重量は、上記グラフから算出した金の吸着量(重量)にほぼ一致した。
【0120】
焼却試験後に回収された残渣を撮影した写真を図5に示す。この残渣は深い金色をしている。
【0121】
以上の結果から、本発明に係る吸着材は、溶液に溶存している金や白金を効率的に吸着することができることが判った。また、吸着後の吸着材を焼却することにより、金や白金を効率的に回収することができることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係る貴金属吸着材は、粒子状の基材に一般的に安価である(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなるため、製造コストを抑えることができ、結果的に貴金属の吸着に掛かるコストを抑えることができる。また、上記貴金属吸着材は、金や白金等の貴金属を選択的に吸着する性質を有しているため、白金や金等の貴金属のみを選択的に吸着することができる。これにより、吸着後、精製処理をせずとも高い純度の白金や金等の貴金属を回収することができる貴金属吸着材、および貴金属の吸着方法を提供することができる。
【0123】
したがって、例えば、貴金属が溶存している各種工業排水や鉱業排水等から当該貴金属を効率的に回収することができる貴金属吸着材、および貴金属の吸着方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなる粒子状の貴金属吸着材を、貴金属が溶存している溶液に接触させて、上記貴金属吸着材に貴金属を吸着させる吸着工程を含むことを特徴とする貴金属の吸着方法。
【請求項2】
上記貴金属が金および白金のうち少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項3】
上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルが、式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の吸着方法。
【化1】

[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。]
【請求項4】
上記グラフト鎖が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルの単独重合体、または、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルとそれ以外の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとの共重合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項5】
上記貴金属吸着材における(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーのグラフト率が100%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項6】
上記吸着工程の前に、上記溶液のpHを1.0〜5.0の範囲内に調整する調整工程を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項7】
上記基材が有機高分子化合物からなることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項8】
上記吸着工程の後に、上記貴金属吸着材を焼却することによって貴金属を回収する回収工程を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の貴金属の吸着方法。
【請求項9】
粒子状の基材に(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーが重合したグラフト鎖が導入されてなることを特徴とする貴金属吸着材。
【請求項10】
上記(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルが、式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項9に記載の貴金属吸着材。
【化2】

[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。炭化水素基の一部の水素は、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。炭化水素基の一部の炭素原子は、酸素原子または窒素原子で置換されていてもよい。]
【請求項11】
上記グラフト鎖が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルの単独重合体、または、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルとそれ以外の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとの共重合体であることを特徴とする請求項9または10に記載の貴金属吸着材。
【請求項12】
(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルを含むモノマーのグラフト率が100%以上であることを特徴とする請求項9〜11の何れか一項に記載の貴金属吸着材。
【請求項13】
上記基材が有機高分子化合物からなることを特徴とする請求項9〜12の何れか一項に記載の貴金属吸着材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103161(P2013−103161A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248007(P2011−248007)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】