説明

赤身魚肉の色調保持方法及び生食用赤身魚肉

【課題】保存中に変色しにくい生食用赤身魚肉を提供する。
【解決手段】二酸化ケイ素、特に好ましくは、アルカリ化剤及び酸化防止剤を添加した生食用赤身魚肉である。また、二酸化ケイ素、特に好ましくは、アルカリ化剤及び酸化防止剤を含有する赤身魚肉の色調保持剤である。赤身魚肉に対して魚肉のpHが6〜7になる量のアルカリ化剤と0.0125〜2.0重量%の二酸化ケイ素を添加することを特徴とする赤身魚肉の色調保持方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉色が褐色化しにくい生食用赤身魚肉、赤身魚肉の色調保持剤、及び赤身魚肉の色調保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切ったばかりのマグロの肉食は暗赤紫色をしている。これはマグロの筋肉色素ミオグロビンが、空気にふれていない時の色であるが、しばらく時間がたつと酸素とミオグロビンが結合し、鮮赤食に変化する。この状態のマグロが最もおいしそうに見え、商品価値が高い。しかし、さらに酸化が進むとオキシミオグロビンがメトミオグロビンに変化し、肉色が褐色になってしまう。これがメト化と呼ばれる現象であり、−35℃より温度が上がると急に進むようになる。家庭の冷凍庫の温度である−18℃程度では、冷凍保存している間にもメト化が進み、色が悪くなる。
このメト化の防止方法として、酸化防止剤、pH調整剤の使用等、種々の方法が提案されている(特許文献1〜3等参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−345797号
【特許文献2】特公昭52−35743号
【特許文献3】特開平10−295263号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、メト化あるいは褐色化しにくい、色調の保持された赤身魚肉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)〜(5)の生食用赤身魚肉を要旨とする。
(1)アルカリ化剤及び二酸化ケイ素を添加した生食用赤身魚肉。
(2)魚肉のpHが6〜7になる量のアルカリ化剤と0.0125〜2.0重量%の二酸化ケイ素を添加した生食用赤身魚肉。
(3)さらに酸化防止剤を添加した(1)又は(2)の生食用赤身魚肉。
(4)赤身魚肉がマグロである(1)ないし(3)いずれかの生食用赤身魚肉。
(5)赤身魚肉がミンチ状魚肉である(1)ないし(4)いずれかの生食用赤身魚肉。
【0006】
本発明は、(6)〜(8)の赤身魚肉の色調保持剤を要旨とする。
(6)二酸化ケイ素を含有する赤身魚肉の色調保持剤。
(7)アルカリ化剤及び二酸化ケイ素を含有する赤身魚肉の色調保持剤。
(8)さらに酸化防止剤を含有する(7)の色調保持剤。
【0007】
本発明は、(9)〜(10)の赤身魚肉の色調保持方法を要旨とする。
(10)(6)ないし(8)いずれかの色調保持剤を赤色魚肉に添加することを特徴とする赤身魚肉の色調保持方法。
(11)赤身魚肉に対して魚肉のpHが6〜7になる量のアルカリ化剤と0.0125〜2.0重量%の二酸化ケイ素を添加することを特徴とする赤身魚肉の色調保持方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生食用赤色魚肉は保存中の色調変化が抑制されており、通常の冷凍品の流通温度である−18℃前後で保存した場合にも、肉色の褐色化が遅く、長期の保存が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の赤身魚肉とは、マグロ、ブリ、アジ、イワシなどの魚肉、血合い部分などにミオグロビンを多く含む、通常赤い色調を有する赤身魚に属する魚の肉である。これらの魚肉では、ミオグロビンによる赤色が酸化により褐色に変色してしまうのが、品質上の問題となっている。本発明によりこの色調の変化を抑制することができる。特に刺身、ネギトロなどのような生食用の魚肉を冷凍保存する場合に有用である。マグロを例にすると、マグロは天然物でも養殖物でも良いが、漁獲後すぐ処理するのでなければ、−50℃以下で凍結保存された鮮度、色調の保持されたものを用いる。
【0010】
本発明において二酸化ケイ素とは、食品添加物として用いることのできる二酸化ケイ素であり、例えば、微粒二酸化ケイ素、微粒シリカゲルである。これらは食品に2%以下の添加が認められている。二酸化ケイ素の添加量は魚肉に対して0.0125〜2.0重量%であり、好ましくは、0.1〜1.0重量%である。
【0011】
本発明においてアルカリ化剤とは魚肉のpHを調整するために用いるので、食品に添加することができるアルカリ化剤であれば何でも構わない。アルカリ化剤の強度によって使用量を調節する。アルカリ化剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、有機酸塩類などが例示されるが、弱アルカリであり、食品添加物として使用しやすい炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。魚肉のpHが6〜7、好ましくは6.3〜6.9になる用量のアルカリ化剤を魚肉に添加する。
例えば、pHを6〜7にするためには、用いるアルカリ化剤によるが魚肉重量あたり、およそ0.2〜1.0重量%添加する。例えば、炭酸水素ナトリウムであれば、刺身重量あたり、0.3〜0.8重量%、炭酸ナトリウムであれば、0.2〜0.6重量%添加するのが好ましい。味に影響しない範囲であれば、pHを高めにするほど、褐色化を防ぐ効果は高い。炭酸水素ナトリウムは濃度を高くすると苦味がでてくる。また、炭酸ナトリウムは臭みがでる。これらがでない範囲で使用する。
【0012】
さらに、酸化防止剤を添加することにより、油脂の酸化も抑えることができ、褐色化も抑制され、保存性が高まる。酸化防止剤としては、食品に使用することができる安全で、味に影響しないものであれば何でも使用でき、アスコルビン酸、トコフェロール、カテキン類などが例示される。好ましくは、カテキン類、トコフェロールを用いる。特にトコフェロールは褐色化防止に有効である。酸化防止剤は、用いるものによるがおよそ0.01〜1.0重量%用いる。例えば、トコフェロールであれば、0.02〜0.3重量%程度が好ましい。
【0013】
本発明において赤身魚肉への二酸化ケイ素、アルカリ化剤の添加方法は、ネギトロのようなミンチ状の魚肉であれば、粉末あるいは水に混ぜて、混合撹拌する。また、刺身のような切り身であれば、水溶液にして浸漬、注入するか、粉末あるいは水に混ぜて、表面に噴霧、塗布などする。魚肉の表面を本発明の色調保持剤が覆う状態にできればどんな方法で添加してもよい。
【0014】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
二酸化ケイ素の赤身魚肉の色調保持作用
冷凍まぐろ赤身肉を−5℃まで解凍し、サイレントカッターで約1分間カットしミンチ状にした。続いて、表1に示す配合(重量比率)でネギトロを作製した。油脂以外の各添加物は水溶液として添加し、続いて油脂を添加し、混合した。作製したネギトロは−40℃で凍結した。凍結したネギトロを−18℃で0〜120日保存した。保存後の各検体を室温で解凍した後、15℃保管中の経時変化を48時間まで確認し、メト化進行の程度を確認した。
使用した添加物は、炭酸ナトリウム(株式会社トクヤマ製、ソーダ灰ライト)、乳糖(Fronterra co-operative group ltd.製USP200 mesh)、ソルビット(日研化学株式会社製、ソルビトールFP50M)、デキストリン(三和澱粉工業株式会社製、サンデックス#70D)、微粒二酸化ケイ素(富士シリシア化学株式会社製、サイロページ720)である。
【0016】
【表1】

【0017】
目視による官能検査の結果を表2に示した。他の添加物と比較して、微粒二酸化ケイ素添加によりメト化が大きく抑制された。特に過酷な保存条件である−18℃において明らかな差が認められた。30日保管では解凍後24時間後でも評価4であり、60日保管しても解凍直後であれば、評価4であった。
【0018】
【表2】

【実施例2】
【0019】
微粒二酸化ケイ素の添加量
二酸化ケイ素の効果を添加量を変えて確認した。
冷凍まぐろ赤身肉を−5℃まで解凍し、サイレントカッターで約1分間カットしミンチ状にした。続いて、表3に示す配合(重量比率)でネギトロを作製した。油脂以外の各添加物は水溶液として添加し、続いて油脂を添加し、混合した。作製したネギトロは−40℃で凍結し、−40℃で2日間保管した。保存後のネギトロを室温で解凍した後、15℃保管中の経時変化を48時間まで確認し、メト化進行の程度を確認した。用いた添加物は実施例1と同じ製品である。
【0020】
【表3】

【0021】
目視による官能検査の結果を表4に示す。微粒二酸化ケイ素は低用量でも効果を示し、特に0.1%〜1.0%の添加量で優れた結果であった。
【0022】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の色調保持剤を添加した赤身魚肉は、通常の冷凍品の流通温度での褐色化が抑制されているので、商品価値が高く、保存期間も延長することができる。長期保存可能なマグロのネギトロなどを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ化剤及び二酸化ケイ素を添加した生食用赤身魚肉。
【請求項2】
魚肉のpHが6〜7になる量のアルカリ化剤と0.0125〜2.0重量%の二酸化ケイ素を添加した生食用赤身魚肉。
【請求項3】
さらに酸化防止剤を添加した請求項1又は2の生食用赤身魚肉。
【請求項4】
赤身魚肉がマグロである請求項1ないし3いずれかの生食用赤身魚肉。
【請求項5】
赤身魚肉がミンチ状魚肉である請求項1ないし4いずれかの生食用赤身魚肉。
【請求項6】
二酸化ケイ素を含有する赤身魚肉の色調保持剤。
【請求項7】
アルカリ化剤及び二酸化ケイ素を含有する赤身魚肉の色調保持剤。
【請求項8】
さらに酸化防止剤を含有する請求項7の色調保持剤。
【請求項9】
請求項6ないし8いずれかの色調保持剤を赤色魚肉に添加することを特徴とする赤身魚肉の色調保持方法。
【請求項10】
赤身魚肉に対して魚肉のpHが6〜7になる量のアルカリ化剤と0.0125〜2.0重量%の二酸化ケイ素を添加することを特徴とする赤身魚肉の色調保持方法。