説明

起泡性水中油型乳化物

【課題】保存時の乳化安定性に優れ、ホイップタイムが良好かつ終点幅が広く、さらに生クリームと同等の濃厚な乳風味やコク味を有する起泡性水中油型乳化物を提供すること。
【解決手段】生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される乳脂原料から1種又は2種以上を配合し、該乳脂原料に由来する乳脂が乳化物の油分中60質量%以上を占め、かつタンパク質含有量が1.5質量%以下である起泡性水中油型乳化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化物又はそれを起泡してなるホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
生クリームは牛乳から遠心分離によって作られ、乳風味・コク味の点で他に類するものがない程優れているとされる。このうち油分含有量が40%以上の生クリームは良好な起泡性を有することから、起泡(ホイップ)させることで『ホイップドクリーム』として製菓、製パン用途に広く使用され、特に油分含有量が48%のものが最適の起泡性を有していることから、45〜48%程度の生クリームがこの用途に広く使用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、生クリームはホイップ前の状態では、保存中の品温上昇や輸送中の振動によってボテと呼ばれる急激な粘度の上昇や固化が起こりやすく、保存時の乳化安定性や取り扱い面でも問題があった。また、ホイップ時では最適なオーバーランを得ることのできる終点幅が短いために大量生産では非常に扱いづらいものであった。
【0004】
そのため、乳脂肪の全部を植物油脂に置き換え、乳蛋白質、乳化剤、水等を加え乳化した水中油型乳化物が開発された。このように成分調製されたホイップ用途のクリームは起泡性水中油型乳化物と呼ばれ、上記物性面、起泡特性の面の諸問題が改善されていることから、製菓、製パン業界等において広く利用されている。しかし、この起泡性水中油型乳化物は、安定した製造を行う目的や、物性コントロールのため多量のリン酸塩、乳化剤、ガム類を使用しているので、風味・コク味の点では十分とはいえなかった。(例えば特許文献1及び2参照)
【0005】
そこで、多量のリン酸塩、乳化剤、ガム類を使用せずとも、生クリームや乳脂の持つ優れた風味と植物油脂による安定した物性を両立させた起泡性水中油型乳化物を得るべく、生クリームや乳脂と植物油脂を併用した起泡性水中油型乳化物に関するさまざまな検討が行われている。
【0006】
例えば、乳脂を含有する水中油型乳化物と乳脂を含有しない水中油型乳化物を混合する方法(例えば特許文献3〜5参照)、特定の粘度特性のキサンタンガムを含有し、油分含有量が40質量%以下である起泡性水中油型乳化油脂組成物(特許文献6)が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献3〜6に記載の方法では、保存時の十分な乳化安定性を得ることができないという問題があることに加え、良好な起泡特性を得るためには、乳脂含量を減らす必要があり、その場合乳の良好な風味やコクを得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−62387号公報
【特許文献2】特開昭63−267250号公報
【特許文献3】特開平5−276888号公報
【特許文献4】特開平5−328928号公報
【特許文献5】特開平11−56283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、保存時の乳化安定性に優れ、ホイップタイムが良好かつ終点幅が広く、さらに生クリームと同等の濃厚な乳風味やコク味を有する起泡性水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく種々検討した結果、乳化油脂の形態である乳脂原料を油分中に特定量以上使用した場合においては、生クリーム等の乳原料において乳風味や乳化安定性の面から多く使用することが必要とされてきた乳タンパク質をむしろ削減し、タンパク質含有量を一定量以下とした場合に上記課題を解決可能であるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記(a)〜(c)の条件を満たす、起泡性水中油型乳化物を提供するものである。
(a)乳脂原料として生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される1種又は2種以上を含有する。
(b)上記(a)の乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の1.5質量%以下である。
【0012】
また、本発明は、上記の起泡性水中油型乳化物を起泡してなるホイップドクリームを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存時の乳化安定性に優れ、ホイップタイムが良好かつ終点幅が広く、さらに生クリームと同等の濃厚な乳風味やコク味を有する起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の起泡性水中油型乳化物について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の起泡性水中油型乳化物は、下記(a)〜(c)の条件を満たすものである。
(a)乳脂原料として生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される1種又は2種以上を含有する。
(b)上記(a)の乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の1.5質量%以下である。
【0015】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、油分のうち60質量%以上を乳脂が占めるものである。尚、この油分は、直接配合する油脂以外に、油脂分を含有する食品素材や食品添加物を使用した場合には、それらに含まれる油脂分をあわせて算出するものとする。
【0016】
上記乳脂の由来としては、生クリーム、バター、バターオイル、クリームチーズ、デイリースプレッド等が挙げられるが、本発明においては、上記(a)及び(b)の条件の通り、上記油分のうち60質量%以上が、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される1種又は2種以上よりなる乳脂原料(以下、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド、バターを合わせて乳脂原料ともいう)によるものとし、上記油分のうち好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上が、上記乳脂原料である。上記範囲で上記乳脂原料を使用することにより、後述のようにタンパク質含有量が低い場合であっても濃厚なコク味があり、乳風味が良好であり、且つ、乳化安定性と起泡特性が良好である起泡性水中油型乳化物を得ることができる。
また、上記乳脂のうちバターに由来する割合は、後述のようにタンパク質含有量を低く抑えながら本発明の効果を引き出す点から、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが最も好ましい。
【0017】
本発明において、なぜ乳脂を含む原料として上記乳脂原料を使用した場合に限ってこのような効果が得られるのか、以下のように考えている。
一般に生クリームには50質量%程度、バターには20質量%程度、クリームチーズには35質量%程度、デイリースプレッドには30質量%程度の水性相が存在する。この水性相中にはミネラル分、風味分等の多様な成分が含まれており、乳原料特有の乳味感を付与するものと考えられてきた。
一方で、生クリーム、クリームチーズ、バター、デイリースプレッドの水性相と油性相の境界は、乳脂肪球皮膜と呼ばれるリン脂質を主体とする膜が界面を形成している。乳脂肪球皮膜は、内膜と外膜の2層が再構成された多成分系膜となっている。
本発明者は、乳原料特有のコク味や乳風味は水性相だけでなく、上記のような乳脂肪球皮膜部分が重要な役割を担っているのではないかとの仮説をたて検討を進めた結果、上記条件下でコク味や乳風味が顕著に強化されることを見出した。
この理由は明らかではないが、多成分系膜である乳脂肪球皮膜がコク味や乳風味に大きく影響する呈味成分を効果的に取り込み保持することができ、その結果呈味成分が多く残るためであると考えている。
このような効果は水相成分を含有する上記乳原料を使用した場合顕著に見られる一方で、バターオイルとバターの水相成分を併せて添加しても大きく減じられた効果しかみられない。おそらく、一度乳脂分と分離された乳脂肪球皮膜部分では呈味成分の保持が低下してしまうものと考えている。
また、乳化安定性や起泡特性についても、同様に、その乳脂肪球皮膜部分の存在形態によりその機能が大きく変化してしまうものと考えられる。
尚、上記乳脂原料としては、後述のようにタンパク質含有量を低く抑える点からも、バターを使用することが最も好ましい。
【0018】
本発明の起泡性水中油型乳化物においては、上記乳脂原料の他に、ラウリン系油脂を油分基準で5〜30質量%含有するのが好ましく、10〜25質量%含有するのがより好ましく、12〜24質量%含有するのが最も好ましい。ラウリン系油脂とは、油脂を構成する脂肪酸のうちラウリン酸含有率が40質量%を超えるような油脂の総称である。具体的なラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、これらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。上記範囲でラウリン系油脂を乳脂とともに含有させることで、より濃厚なコク味の感じられるホイップドクリームを得ることができる。
【0019】
本発明の起泡性水中油型乳化物で用いることができるその他の油脂としては、例えば、パーム油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の各種植物油脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明においては、上記の油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明の起泡性水中油型乳化物中の油脂の含有量については、上記乳脂原料、上記ラウリン系油脂、及びその他の配合原料中に含まれる油分も含めた油分含有量が35質量%より大であることが好ましく、40質量%より大であることが最も好ましい。上記油分含有量が35質量%よりも小さい場合、ホイップタイムが長くなり本発明の効果を十分に得られにくい。
尚、上限については、55質量%未満、好ましくは50質量%未満である。
【0021】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物中の水分含量は、15〜64質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。尚、この水分含量には、直接配合する水以外に、水分を含有する食品素材や食品添加物を使用した場合には、それらに含まれる水分をあわせて算出するものとする。
【0022】
次に、本発明の起泡性水中油型乳化物に含有されるタンパク質について説明する。
本発明の起泡性水中油型乳化物においては、上記(c)の条件の通り、乳化物中に含まれるタンパク質含有量が乳化物基準で1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、最も好ましくは0.8質量%以下である。タンパク質含有量が1.5質量%より大きい場合、ホイップタイムが長くなり、生産効率の悪いものとなる。
【0023】
上記タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、α−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイ蛋白質、カゼイン、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等のカゼイン蛋白質、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白質、プロラミン、グルテリン等の米蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等のタンパク質が挙げられる。これらのタンパク質は、上記条件を満たす量であれば、目的に応じて1種ないし2種以上の蛋白質として、或いは1種ないし2種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
【0024】
本発明の起泡性水中油型乳化物では、より乳風味が良好で、且つ、併せた他の風味成分が引き立つ起泡性水中油型乳化物を得ることが可能な点で、乳清ミネラルを添加することが好ましい。
【0025】
上記乳清ミネラルとは、乳又はホエイ(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエイ中のミネラル組成に近い比率となる。
【0026】
本発明で使用する乳清ミネラルとしては、乳蛋白質を含有する場合であっても殺菌時に焦げが生じない点、良好な乳風味を有する起泡性水中油型乳化物が得られる点で、固形分中のカルシウム含有量が2質量%未満、好ましくは1質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含有量は低いほど好ましい。
【0027】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含有量が5質量%以上である。このため、上記カルシウム含有量が2質量%未満の乳清ミネラルを得るためには、乳又はホエイから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエイを用いる方法、或いは甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法等を採ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0028】
本発明の起泡性水中油型乳化物における上記乳清ミネラルの含有量は、固形分として0.3〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%、より好ましくは1〜3質量%である。上記乳清ミネラルの含有量が固形分として0.3質量%未満であると、本発明の効果が見られない場合があり、また、5質量%を超えると、苦味を感じる場合がある。
【0029】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物では、より良好な乳風味を呈し、且つ、乳化剤の使用量を減じても乳化安定性が良好な起泡性水中油型乳化物を得ることが可能な点から、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を使用することが好ましい。
【0030】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、該固形分を基準として、3質量%以上である乳原料を使用することが好ましく、更に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である乳原料を使用する。
【0031】
上記乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを指す。
また、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から、本発明においては、上記乳原料として用いないのが好ましい。
【0032】
本発明においては、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料由来のリン脂質が、本発明の起泡性水中油型乳化物中の上記乳脂原料(生クリーム、クリームチーズ、バター、デイリースプレッド)由来のリン脂質1質量部に対し、0.5〜5質量部であることが好ましく、0.8〜3質量部であることが最も好ましい。
これにより、上記乳脂原料由来の多成分膜を形成しているリン脂質と上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料に含まれるリン脂質が一定の割合で並存することになる。これにより、保存中の乳化安定性と、乳風味・コク味をより高めることができる。
【0033】
乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分中のリン脂質の定量方法としては、例えば下記の定量方法が挙げられる。但し、抽出方法等については乳原料の形態等によって適正な方法が異なるため、下記の定量方法に限定されるものではない。
先ず、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の脂質をFolch法により抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から、以下の計算式を用いて、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳由来のリン脂質を含有する乳原料−乳由来のリン脂質を含有する乳原料の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0034】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。該クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5〜1.5質量%程度であるのに対して、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、おおよそ2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0035】
本発明において、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した濃縮物、或いはその乾燥物を用いることは可能である。
上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法の一例を以下に説明する。
【0036】
上記クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
先ず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0037】
一方、上記バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
先ず、バターを溶解機で溶解し、熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0038】
本発明で用いることができる上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上であれば、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また、噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。
但し、乳由来のリン脂質は、高温加熱するとその機能が低下するため、上記加温処理や上記濃縮処理中或いは殺菌等により加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物では、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、上記乳原料中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、上記乳原料をそのままリゾ化したものであってもよく、また上記乳原料を濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、更に濃縮或いは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0040】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
尚、上記乳原料の起源となる乳としては、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳を例示することができるが、特に牛乳が好ましい。
【0041】
本発明の起泡性水中油型乳化物では、本発明の効果を阻害しない範囲内(好ましくは合計で50質量%以下)で所望により、乳化剤、安定剤、増粘安定剤、乳製品(既述のものを除く)、糖類、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、調味料、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤等の、一般的な起泡性水中油型乳化物に使用することのできるその他の成分を、必要に応じ任意に配合することができる。
【0042】
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明における上記乳化剤の含有量は、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.005〜1質量%である。尚、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を使用する場合は、乳化剤の含量を減じることができ、その場合の乳化剤の好ましい含有量は0.001〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.3質量%である。
【0043】
上記安定剤としては、リン酸塩(ヘキサメタリン酸、第2リン酸、第1リン酸)、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明における増粘安定剤の含有量は、0〜0.02質量%が好ましく、0〜0.001質量%がより好ましい。
【0045】
上記糖類としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、油性相(油相):水性相(水相)の質量比率は、良好な乳化安定性及びホイップタイムの点から、好ましくは35〜55:65〜45、より好ましくは40〜50:60〜50である。
尚、油相には、上記乳脂原料、ラウリン系油脂、その他の油脂等の油脂類、及び油性成分〔食品素材や食品添加物に含有される油脂分が含まれるほか、油溶性の任意成分(例えば、油溶性の乳化剤、酸化防止剤、着色料、着香料)を使用した場合には、これらも含まれる。〕が含まれる。また水相には、水や、水性成分〔食品素材や食品添加物に含有される水分が含まれるほか、水溶性の任意成分(例えば、水溶性の乳化剤、酸化防止剤、着色料、着香料)を使用した場合には、これらも含まれる。〕が含まれる。
【0047】
次に、本発明の起泡性水中油型乳化物の製造方法について以下に説明する。
先ず、油脂及び必要によりその他の原料を含有させた油性相と、水及び必要により乳原料やその他の原料を含有させた水性相とをそれぞれ個別に調製し、次いで、該油性相と該水性相とを混合乳化し、水中油型に乳化することにより、本発明の起泡性水中油型乳化物が得られる。
これを、必要により、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により圧力0〜100MPaの範囲で均質化しても良い。
また、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理を施しても良く、或いは直火等の加熱調理により加熱しても良い。
また、加熱後に必要に応じて再度均質化しても良い。また、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施しても良い。
【0048】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、起泡してホイップドクリームとすることで、フィリング用、サンド用、トッピング用、ナッペ用、センター用に主に使用することができる。また、本発明の起泡性水中油型乳化物は、コーヒーホワイトナーとして、或いは食品練り込み用クリームとしても用いることができる。
【0049】
上記の食品としては、例えば、食パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、クロワッサン、フランスパン、セミハードロール、シュー、ドーナツ、ケーキ、クラッカー、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等のベーカリー製品、洋菓子、和菓子、チョコレート菓子、冷菓、プリン、ムース等のデザート、シチュー、グラタン、ドリア、飲料等を挙げることができる。
【0050】
次に、本発明のホイップドクリームについて以下に説明する。
本発明のホイップドクリームは、上記本発明の起泡性水中油型乳化物を起泡させたものである。尚、その好ましいオーバーランは100〜140、より好ましくは110〜130である。
【0051】
得られたホイップドクリームは、各種菓子、パン、惣菜等の各種食品に対し、フィリング用、サンド用、トッピング用、ナッペ用、センター用として使用することができる。また、上記用途における本発明の起泡性水中油型乳化物の使用量は、使用用途により異なるものであり、特に限定されるものではない
【実施例】
【0052】
次に実施例、及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0053】
<乳清ミネラルの製造>
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエイをナノ濾過膜分離した後、更に逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これを更にエバポレーターで濃縮したのち、固形分が40質量%となるように水で希釈し、乳清ミネラルAとした。得られた乳清ミネラルAの固形分中のカルシウム含量は0.4質量%であった。
【0054】
[実施例1]
無塩バター(油分82.5質量%、リン脂質0.24質量%及びタンパク質0.5質量%、以下同じ)45質量部、パーム核ステアリン6質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水37.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Aを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Aは、油分が43質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が86.1質量%であった。
【0055】
[実施例2]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、パーム核ステアリン9質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水39.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Bを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Bは、油分が42質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が78.6質量%であった。
【0056】
[実施例3]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、パーム核ステアリン9質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水43.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Cを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Cは、油分が42質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が78.6質量%であった。
【0057】
[実施例4]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、パーム核ステアリン9質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水33.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Dを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Dは、油分が42質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が78.6質量%であった。
【0058】
[実施例5]
無塩バター(油分82.5質量%)35質量部、パーム核ステアリン5質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水48.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Eを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Eは、油分が34質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が85.2質量%であった。
【0059】
[実施例6]
無塩バター(油分82.5質量%)31質量部、パーム核ステアリン5質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水17.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相及び生クリーム(乳脂肪分47質量%、リン脂質0.22質量%、タンパク質1.6質量%、以下同じ)35質量部を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Fを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Fは、油分が47質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が54.4質量%であり、上記生クリームに由来する乳脂が35.0質量%であった。
【0060】
[実施例7]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、パーム核ステアリン5質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水47.76質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Gを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Gは、油分が38質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が86.8質量%であった。
【0061】
[実施例8]
無塩バター(油分82.5質量%)50質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水38.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の起泡性水中油型乳化物Hを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Hは、油分が41質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が100質量%であった。
【0062】
[比較例1]
バターオイル38質量部、パーム核ステアリン6質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水44.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の起泡性水中油型乳化物Iを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Iは、油分が44質量%であり、該油分のう
ち、上記バターオイルに由来する乳脂が86.4質量%であった。
【0063】
[比較例2]
無塩バター(油分82.5質量%)5質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水3.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相及び生クリーム(乳脂肪分47質量%)80質量部を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、起泡性水中油型乳化物Jを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Jは、油分が42質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が9.9質量%であり、上記生クリームに由来する乳脂が90.1質量%であった。
【0064】
[比較例3]
無塩バター(油分82.5質量%)30質量部、パーム核ステアリン20質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水38.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、起泡性水中油型乳化物Kを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Kは、油分が45質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が55.3質量%であった。
【0065】
[比較例4]
パーム核ステアリン40質量部、ソルビタン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)4質量部、乳糖7質量部、キサンタンガム0.02質量部、グアーガム0.02質量部、乳清ミネラルA0.5質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、水48.26質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、起泡性水中油型乳化物Lを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Lは、油分が40質量%であった。
【0066】
[比較例5]
生クリーム(乳脂肪分47質量%)90質量部、乳糖7質量部、及び水3質量部を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、起泡性水中油型乳化物Mを得た。得られた起泡性水中油型乳化物Mは、油分が42質量%であり、該油分のうち、上記生クリームに由来する乳脂が100質量%であった。
【0067】
[起泡性水中油型乳化油脂組成物の評価]
得られた起泡性水中油型乳化物に関し、保管中の乳化安定性について、下記の方法で評価を行なった。結果を下記〔表1〕及び〔表2〕に示す。更に、得られた起泡性水中油型乳化物をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーを使用して毎分700回転の速度で最適起泡状態に達するまで起泡させ、起泡時間及び終点幅を測定し、下記の方法で評価を行った。結果を〔表1〕及び〔表2〕に示す。また、得られたホイップドクリームの食感(乳風味及びコク味)について、下記の方法で評価を行った。結果を下記〔表1〕及び〔表2〕に示す。
【0068】
・乳化安定性(ボテ)の評価方法
得られた起泡性水中油型乳化物を20℃で1時間調温した後、振動器を用い100回/37秒で水平方向に振動させた。起泡性水中油型乳化物が流動性を失うまでの振動回数が10000回以上のものを◎、5000回以上〜10000回未満のものを○、5000回未満のものを×とした。
【0069】
・起泡時間(ホイップタイム)の評価方法
起泡時間が3分以上5分未満のものを◎、2分以上3分未満又は5分以上6分未満のものを○、2分未満又は6分以上のものを×として評価した。
【0070】
・終点幅の評価方法
オーバーランが90以上、且つ硬さが40gf以上を保持できる時間を測定し、この時間が30秒以上のものを◎、20秒以上30秒未満のものを○、10秒以上20秒未満のものを△、10秒未満のものを×として評価した。終点幅の終点はオーバーランが下降し始めた時点とした。
尚、硬さの測定は、FUDOUレオメーター(レオテック社製)にて行った。測定方法は、測定直前にホイップドクリームを、内径63mm及び高さ50mmのサンプル容器(ステンレス)に入れ、サンプル容器中のホイップドクリームに対し、直径30mmのプランジャーを速度6cm/分で挿入し、プランジャーが10mm進入したときの硬さを評価した。
【0071】
・風味(乳風味)の評価方法
得られたホイップドクリームを口にふくんだときの乳味感を、15人のパネラーにて官能試験した。「乳風味が良好なもの」、「乳風味が不良なもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「乳風味が良好なもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「乳風味が不良なもの」に0点を与え、合計点が26点以上のものを◎+、23〜25点のものを◎、20〜22点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0072】
・コク味の評価
得られたホイップドクリームを口にふくんだときのコク味を、15人のパネラーにて官能試験した。「コク味が良好なもの」、「コク味が不良なもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「コク味が良好なもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「コク味が不良なもの」に0点を与え、合計点が28点以上のものを◎+、25〜27点のものを◎、20〜24点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
上記〔表1〕及び〔表2〕の結果から、上記(a)〜(c)の条件を具備する本発明の起泡性水中油型乳化物は、保存時の乳化安定性に優れ、ホイップタイムが良好かつ終点幅が広く、さらに生クリームと同等の濃厚な乳風味やコク味を有するものであった。
一方、上記(a)〜(c)の条件の何れかを満たさない比較の起泡性水中油型乳化物は、保存時の乳化安定性が不良であったり、ホイップタイムが短かかったり、終点幅が狭かったり、乳風味又はコク味が不良であったりするものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の条件を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)乳脂原料として生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される1種又は2種以上を含有する。
(b)上記(a)の乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の1.5質量%以下である。
【請求項2】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有することを特徴とする、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項3】
乳清ミネラルを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項4】
油分含有量が40質量%より大である、請求項1〜3の何れか1項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の起泡性水中油型乳化物を起泡してなるホイップドクリーム。

【公開番号】特開2013−34462(P2013−34462A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175659(P2011−175659)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】