説明

超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法

【課題】特性に異方性のある超電導テープ線材を用いて超電導コイルを作製する際、その超電導コイルの臨界電流を容易に推定する方法を提供する。
【解決手段】(a)超電導コイルに用いる異方性のある超電導テープ線材について、テープ面垂直方向磁場およびテープ面平行方向磁場それぞれに対する臨界電流の依存性の計測を行う工程と、(b)前記超電導テープ線材を巻回するパンケーキコイルを用いて作製する超電導コイルの形状を仮に決定する工程と、(c)前記仮に決定した形状の超電導コイルについて、前記テープ面垂直方向磁場および前記テープ面平行方向磁場が最大となる位置における発生磁場の通電電流依存性を計算する工程と、(d)前記(a)で計測した臨界電流の磁場依存性と前記(c)で計算した発生磁場の通電電流依存性の交点で決まる2つの電流値のうち、小さい方の電流値を前記超電導コイルの臨界電流値であると推定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法に係り、特に、異方性のある超電導テープ線材を用いて超電導コイルを作製する時の臨界電流の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テープ線材を巻枠に巻回して層状に形成したパンケーキコイルを用いた超電導コイルが利用されている。
【0003】
かかるパンケーキコイルを用いた超電導コイルに関するものとしては、下記の特許文献1〜3に開示されるものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平09−511098号公報
【特許文献2】特開平08−298208号公報
【特許文献3】特開2006−313923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超電導テープ線材として特性に異方性のあるものを用いて超電導コイルを作製する際、その超電導コイルの臨界電流性能を簡易に知るための提案はなされていない。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、特性に異方性のある超電導テープ線材を用いて超電導コイルを作製する際、その超電導コイルの臨界電流を容易に推定することができる超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、(a)超電導コイルに用いる異方性のある超電導テープ線材について、テープ面垂直方向磁場およびテープ面平行方向磁場それぞれに対する臨界電流の依存性の計測を行う工程と、(b)前記超電導テープ線材を巻回して形成するパンケーキコイルを用いて作製する超電導コイルの形状を仮に決定する工程と、(c)前記仮に決定した形状の超電導コイルについて、この超電導コイルを構成する前記超電導テープ線材の前記テープ面垂直方向磁場および前記テープ面平行方向磁場が最大となる位置における発生磁場の通電電流依存性を計算する工程と、(d)前記(a)で計測した臨界電流の磁場依存性と前記(c)で計算した発生磁場の通電電流依存性の交点で決まる2つの電流値のうち、小さい方の電流値を前記超電導コイルの臨界電流値であると推定する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、前記超電導コイルは、1つ又は積層した複数のパンケーキコイルからなることを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、雰囲気温度を変化させて前記超電導テープ線材の前記臨界電流の磁場依存性を計測することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔1〕記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、前記推定した臨界電流値から前記超電導コイルの最大発生磁場を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特性に異方性のある超電導テープ線材を用いて超電導コイルを設計する際に、テープ面に垂直な磁場ならびに平行な磁場を与えた状態での臨界電流の磁場依存性のデータから、超電導コイルの臨界電流を簡易に知ることができる。
【0012】
さらに、上記のデータを得る際、雰囲気温度をいろいろと変えて計測することにより、特性に異方性のある超電導テープ線材を用いた超電導コイルの、それぞれの温度における臨界電流も知ることができる。
【0013】
また、推定した臨界電流値から作製する超電導コイルの最大発生磁場を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】異方性のある超電導テープ線材及びそれを用いたパンケーキコイルを示す図である。
【図2】パンケーキコイルを用いた超電導コイルの作製状態を示す断面図である。
【図3】作製された超電導コイルの断面図である。
【図4】本発明の実施例を示す異方性のある超電導テープ線材からなる超電導コイルの臨界電流の推定フローチャートである。
【図5】本発明に係る異方性のある超電導テープ線材及びそれを用いた超電導コイルの臨界電流(A)と磁場(T)の関係を示す図である。
【図6】本発明に係る雰囲気温度を30Kから77Kまで変えた場合の超電導コイルの臨界電流推定値及び測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法は、(a)超電導コイルに用いる異方性のある超電導テープ線材について、臨界電流のテープ面垂直磁場およびテープ面平行磁場に対する依存性の計測を行う工程と、(b)前記超電導テープ線材を巻回して形成するパンケーキコイルを用いて作製する超電導コイルの形状を仮に決定する工程と、(c)前記仮に決定した形状の超電導コイルについて、この超電導コイルを構成する前記超電導テープ線材のテープ面に垂直な磁場およびテープ面に平行な磁場が最大となる位置における発生磁場の通電電流依存性を計算する工程と、(d)前記(a)で計測した臨界電流の磁場依存性と前記(c)で計算した発生磁場の通電電流依存性の交点で決まる2つの電流値のうち、小さい方の電流値を前記超電導コイルの臨界電流値であると推定する工程とを有する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は異方性のある超電導テープ線材及びそれを用いたパンケーキコイルを示す図であり、図1(a)は超電導テープ線材を、図1(b)はパンケーキコイルを示している。また、図2はそのパンケーキコイルを用いた超電導コイルの作製状態を示す断面図、図3は作製された超電導コイルの断面図である。
【0018】
図1(a)に示す異方性のある超電導テープ線材1を、図1(b)に示すように、巻枠2に巻回して層状に形成し、パンケーキコイル3を形成する。このパンケーキコイル3を1つ又は複数個積層することにより、図2に示すような超電導コイル4を形成することができる。この超電導コイル4に電流を流すと、超電導コイル4の形状と通電電流の大きさによって決まる磁場が発生する。超電導コイル4の形状は、積層するパンケーキコイル3の形状、すなわち、巻枠2の形状及び超電導テープ線材1の幅、厚さ、長さもしくは巻回数で決定される。また、発生磁場は超電導コイル4の表面で最大となるが、本発明では、図3に示すA点(テープ面垂直方向磁場が最大となる位置)のテープ面垂直方向磁場の通電電流依存性ならびにB点(超電導コイル最内周の中央)のテープ面平行方向磁場の通電電流依存性を計算により求めるように構成している。
【0019】
図4は本発明の実施例を示す異方性のある超電導テープ線材からなる超電導コイルの臨界電流の推定フローチャートである。
【0020】
(1)まず、超電導コイル4に用いる異方性のある超電導テープ線材1について、テープ面垂直方向磁場及びテープ面平行方向磁場それぞれに対する臨界電流の依存性を計測する(ステップS1)。
【0021】
(2)異方性のある超電導テープ線材1により形成した1つのパンケーキコイル3、もしくは積層した複数のパンケーキコイル3からなる超電導コイル4の形状を仮に決定する(ステップS2)。
【0022】
(3)仮に決定した形状の超電導コイル4について、その超電導コイル4を構成する線材のテープ面垂直方向磁場が最大となる位置(A点)およびテープ面平行方向磁場が最大となる位置(B点)における発生磁場の通電電流依存性を計算する(ステップS3)。
【0023】
(4)上記ステップS1で計測した臨界電流の磁場依存性と上記ステップS3で計算した発生磁場の通電電流依存性の交点で決まる2つの電流値のうち、どちらか小さい方が超電導コイル4の臨界電流であるとして推定する(ステップS4)。つまり、上記ステップS1で求めたテープ面垂直方向磁場に対する臨界電流の磁場依存性と上記ステップS3で求めたA点におけるテープ面垂直方向磁場の通電電流依存性の交点で決まる電流値、もしくは上記ステップS1で求めたテープ面平行方向磁場に対する臨界電流の磁場依存性と上記ステップS3で求めたB点におけるテープ面平行方向磁場の通電電流依存性の交点で決まる電流値、これらの2つの電流値のうち小さい方を、作製する超電導コイル4の臨界電流値として推定することができる。
【0024】
図5は本発明に係る異方性のある超電導テープ線材及びそれを用いた超電導コイルの臨界電流(A)と磁場(T)の関係を示す図である。
【0025】
図5は、上記で説明した超電導コイルの臨界電流の推定を50Kの雰囲気において行った結果を示している。aはテープ面に垂直な磁場を与えた場合の超電導テープ線材1単体の臨界電流の磁場依存性計測結果を、bはテープ面に平行な磁場を与えた場合の超電導テープ線材1単体の臨界電流の磁場依存性計測結果をそれぞれ示している(上記ステップS1)。cは超電導コイル4のA点におけるテープ面垂直方向磁場の計算値を、dは超電導コイル4のB点におけるテープ面平行方向磁場の計算値をそれぞれ示している(上記ステップS3)。このaとcの交点eで得られる電流値、及びbとdの交点fで得られる電流値のうち小さい方(ここではe)を超電導コイル4の臨界電流値と推定する。
【0026】
なお、得られた臨界電流値から、作製する超電導コイル4の最大発生磁場も推定することができる。
【0027】
また、上記ステップS1で超電導テープ線材1の臨界電流の磁場依存性を計測する際、雰囲気温度を変化させることで、それぞれの温度における超電導コイルの臨界電流を推定することができる。
【0028】
図6は本発明に係る雰囲気温度を30Kから77Kまで変えた場合の超電導コイルの臨界電流推定値及び測定結果を示す図である。この図において、gはテープ面垂直方向磁場における臨界電流推定値(交点eの値)、hはテープ面平行方向磁場における臨界電流推定値(交点fの値)、iは作製した超電導コイルの臨界電流測定結果である。図5に示す交点e及びfで求められる臨界電流値の各温度における推定値を、g,hがそれぞれ示している。これらのうち小さい方の値が超電導コイルの臨界電流値として推定される。
【0029】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法は、特性に異方性のある超電導テープ線材を用いて超電導コイルを作製する際、その超電導コイルの臨界電流を容易に推定するツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 異方性のある超電導テープ線材
2 巻枠
3 パンケーキコイル
4 超電導コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)超電導コイルに用いる異方性のある超電導テープ線材について、テープ面垂直方向磁場およびテープ面平行方向磁場それぞれに対する臨界電流の依存性の計測を行う工程と、
(b)前記超電導テープ線材を巻回して形成するパンケーキコイルを用いて作製する超電導コイルの形状を仮に決定する工程と、
(c)前記仮に決定した形状の超電導コイルについて、該超電導コイルを構成する前記超電導テープ線材の前記テープ面垂直方向磁場および前記テープ面平行方向磁場が最大となる位置における発生磁場の通電電流依存性を計算する工程と、
(d)前記(a)で計測した臨界電流の磁場依存性と前記(c)で計算した発生磁場の通電電流依存性の交点で決まる2つの電流値のうち、小さい方の電流値を前記超電導コイルの臨界電流値であると推定する工程とを有することを特徴とする超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、前記超電導コイルは、1つ又は積層した複数のパンケーキコイルからなることを特徴とする超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、雰囲気温度を変化させて前記超電導テープ線材の前記臨界電流の磁場依存性を計測することを特徴とする超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法。
【請求項4】
請求項1記載の超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法において、前記推定した臨界電流値から前記超電導コイルの最大発生磁場を推定することを特徴とする超電導コイル作製時の臨界電流の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286327(P2010−286327A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139730(P2009−139730)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】