説明

超電導限流器

【課題】限流コイルにおけるクエンチの発生箇所の偏りが小さく、クエンチ後の復帰特性に優れた超電導限流器を提供する。
【解決手段】超電導限流コイル11は、第1及び第2コイル12a,12bのそれぞれに対応する2本の超電導線13a,13bを径方向に並べた状態で径方向外側から内側に向かって平面渦巻状に巻回して1層目の巻回を行った後、2層目に渡り径方向に並べた状態の各超電導線13a,13bを径方向内側から外側に向かって平面渦巻状に巻回して2層目の巻回を行い、第1及び第2コイル12a,12bの両端の端末線のいずれか一方同士が接続部15にて接続されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無誘導巻きの超電導限流コイルを有する超電導限流器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電路上に生じた過電流を限流する限流器が知られており、例えば地絡や落雷等により電力系統で生じた過電流の限流を行って、電力線や電力機器への負担を低減する限流器等が知られている。
【0003】
このような限流器の一種に、例えば特許文献1にて示されるように、超電導線を平面渦巻状に巻回した一対の第1及び第2コイルを有し、各コイルを互いに逆方向に巻回し無誘導巻きとした超電導限流コイルを用いたものがある。
【0004】
このような限流コイルを用いるものでは、通常時(臨界電流値以下)の超電導状態において超電導線自体の電気抵抗が極めて低く、しかも無誘導巻きをなす第1及び第2コイルは相互で磁界を打ち消すため、限流コイルとしてのインダクタンスも極めて小さい。つまり、通常時では、限流コイルのインピーダンスが小さく、限流器での電圧降下は非常に小さい。
【0005】
一方、電路上に過電流が生じ限流コイルへの入力電流が増大すると、第1及び第2コイルの各臨界電流値が自然に相違、若しくは積極的に相違させることで、臨界電流値の小さい側のコイルが先に超電導状態から常電導状態に転移する所謂クエンチが生じ、そのコイルのインダクタンスが増大する。すると、そのインダクタンスの急増に連動してもう一方のコイルもクエンチし、同様にインダクタンスが増大する。これにより、限流コイルのインピーダンスが急増するため、限流コイルに入力される過電流の限流が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−251757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、超電導材料を用いる限流器においては、その超電導材料が冷却装置にて十分な低温状態とされ、臨界電流値以下で超電導状態に維持されるようになっている。
特許文献1の限流コイルは、超電導線を用い互いに逆巻きをなす第1及び第2コイルを重ね合わせ、径方向内側端部が互いに半田付け等にて接合される構造をなしている。そのため、径方向内側の接合部分はその接合による接続抵抗にて通電時に発熱するが、発熱する接合部分は渦巻状の内側であるため、熱が篭もり易い。つまり、接合部分のある径方向内側部分は、超電導状態に維持する好適温度より高い温度になり易いため、他の部分よりもクエンチが生じ易く、またクエンチ後の復帰に時間を要する構造であった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、限流コイルにおけるクエンチの発生箇所の偏りが小さく、クエンチ後の復帰特性に優れた超電導限流器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超電導線を平面渦巻状に巻回した一対の第1及び第2コイルを有し、各コイルが無誘導巻きにて構成された超電導限流コイルを備え、その超電導限流コイルのクエンチ現象を用いて入力電流が過電流となった際の限流を行う超電導限流器であって、前記超電導限流コイルは、前記第1及び第2コイルのそれぞれに対応する2本の超電導線を径方向に並べた状態で径方向外側から内側に向かって平面渦巻状に巻回して1層目の巻回を行った後、2層目に渡り径方向に並べた状態の各超電導線を径方向内側から外側に向かって平面渦巻状に巻回して2層目の巻回を行い、前記第1及び第2コイルの両端の端末線のいずれか一方同士が接続部にて接続されて構成されたことをその要旨とする。
【0010】
この発明では、第1及び第2コイルに対応する2本の超電導線が径方向に並んだ状態で径方向外側から内側に向かって平面渦巻状に巻回されて1層目が構成され、そこから2層目に渡り径方向に並んだ状態の各超電導線が径方向内側から外側に向かって平面渦巻状に巻回されて2層目が構成される。第1及び第2コイルの両端の端末線は、そのいずれか一方同士が接続部にて接続される。このようにして無誘導巻き2層構造の第1及び第2コイルが構成、即ち超電導限流コイルが構成される。つまり、無誘導巻き第1及び第2コイルを2層構造として各コイル(各超電導線)の両端の端末線のいずれもコイル本体の径方向外側にて導出する構成としたことで、その端末線の接続をコイル本体の径方向外側部分で行うことが可能となる。そのため、接続抵抗による発熱でクエンチが生じ易い端末線の接続部を熱の篭もらないコイル本体の外側に位置させることで、通常時に超電導状態を維持するための冷却装置にて十分に冷却されるため、接続部から先にクエンチが生じる事象を低減でき、クエンチの発生箇所の偏りを小さくできる。また、接続部が十分に冷却されることから、仮に接続部にてクエンチが生じた後の復帰時間が短時間となり、クエンチ後の復帰特性は優れたものとなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超電導限流器において、前記超電導限流コイルは、前記第1及び第2コイルを構成する各超電導線の並びが1層目と2層目とで入れ替えられ、1層目の前記第1コイルと2層目の前記第2コイルとが対向し、1層目の前記第2コイルと2層目の前記第1コイルとが対向するように構成されたことをその要旨とする。
【0012】
この発明では、第1及び第2コイルの各超電導線の並びが1層目と2層目とで入れ替えられ、1層目の第1コイルと2層目の第2コイルとが対向し、1層目の第2コイルと2層目の第1コイルとが対向するように構成される。これにより、1層目と2層目との間においても第1及び第2コイルにて発生する磁界を打ち消すことになるため、一層無誘導化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、限流コイルにおけるクエンチの発生箇所の偏りが小さく、クエンチ後の復帰特性に優れた超電導限流器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)(b)は本実施形態の限流器の限流コイルを示す構成図である。
【図2】別例における限流器の限流コイルを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態の超電導限流器10に備えられる超電導限流コイル11は、互いに巻回方向を逆とした無誘導巻きの第1及び第2コイル12a,12bが直列に接続されて構成されている。また、第1及び第2コイル12a,12bは、2層構造をなし、2本の超電導線13a,13bを用いた巻回により構成されている。
【0016】
具体的には、限流コイル11を構成する第1及び第2コイル12a,12bは、1層目において、それぞれに対応する超電導線13a,13bの2本を径方向に並べて径方向外側から内側に向かって同一方向に平面渦巻状に巻回、本実施形態では4周巻回される。次いで、内側端部で各超電導線13a,13bの位置が入れ替わるように一度捻られつつ軸方向に渡り、2層目に移行する。次いで、2層目において、互いに位置が入れ替わった超電導線13a,13bの2本を同様に径方向に並べて径方向内側から外側に向かって1層目と同一方向に平面渦巻状に巻回、本実施形態では同じく4周巻回され、1層目と2層目の巻き径が同じとなるようにして軸方向に重ねられる。そして、超電導線13a,13bの巻き始めの端末線を他との接続を図るための接続端子14a,14bにそれぞれ接続した場合、超電導線13a,13bの巻き終わりの端末線は半田付け等による接続部15にて互いに接続されて、第1及び第2コイル12a,12bが直接接続された限流コイル11が構成される。またこのように巻回することで、第1及び第2コイル12a,12bとは互いに巻回方向が逆となる無誘導巻きとなる。
【0017】
図1(a)において、第1コイル12aのターン数(番号)は通常の数字にて示され、第2コイル12bのターン数(番号)は丸数字にて示される。即ち、一方の接続端子14aから見て、第1コイル12aは1層目において径方向外側から内側に向かって渦巻状をなし、内側端部において2層目に渡り、そこから再び径方向外側に向かって渦巻状をなして接続部15に至る。接続部15から第2コイル12bとなり、2層目において径方向外側から内側に向かって渦巻状をなし、内側端部において1層目に渡り、そこから再び径方向外側に向かって渦巻状をなして他方の接続端子14bに至る。また、1層目と2層目の間で各超電導線13a,13bの並びが入れ替わるように捻られることで、1層目の第1コイル12aと2層目の第2コイル12bとが対向し、1層目の第2コイル12bと2層目の第1コイル12aとが対向する。尚、第1コイル12aを構成する超電導線13aと第2コイル12bを構成する超電導線13bとは、クエンチに至る臨界電流値が自然に相違、若しくは積極的に相違(例えば、同一超電導材料で線径を相違させる)させるものである。
【0018】
このように超電導材料よりなる限流コイル11は、通常時において超電導状態に維持するために、例えば液体窒素中に浸してケース内に封入する等してなる冷却装置(図示略)にて所定の低温状態に維持されている。本実施形態の限流コイル11の特徴として、2本で対をなす超電導線13a,13bを径方向外側から内側に向かって巻回して1層目を構成し、2層目に渡って径方向内側から外側に向かって巻回して接続部15にて接続する構成としている。つまり、接続部15の設置位置を熱の発散が容易なコイル11本体の径方向外側としたことから、接続部15における接続抵抗は生じるものの、先の冷却装置にて接続部15が十分に冷却されるようになる。そのため、接続部15にクエンチの発生が偏ることが抑制される。
【0019】
そして、このような限流器10は、例えば電力系統の電路上に介装、即ち限流コイル11の各接続端子14a,14bが対応する電力線にそれぞれ接続されて使用される。通常時(臨界電流値以下)では超電導線13a,13bが超電導状態にあることから、限流コイル11は極めて低インピーダンスとなり、加えて限流コイル11を無誘導巻きの第1及び第2コイル12a,12bにて構成していることから、各コイル12a,12bにて発生する僅かな磁界をも相互に打ち消しあい、限流コイル11を一層低インピーダンスとする。そのため、この通常時においては、限流コイル11での電圧降下が極めて小さい高効率な電力伝送が可能である。
【0020】
また、電力系統にて短絡・落雷等にて過電流が生じた際には、限流コイル11への入力電流の増大に基づいて、臨界電流値の異なる第1及び第2コイル12a,12bのいずれかが先にクエンチして超電導状態から常電導状態に転移する。これにより、先にクエンチした第1及び第2コイル12a,12bのいずれか一方のインダクタンスが増大し、これに連動してもう一方のコイル12a,12bもクエンチし、同様にインダクタンスが増大する。これにより、限流コイル11のインピーダンスが急増して、限流コイル11に入力される過電流が限流される。このような限流器10の動作によって、過電流から電力線や電力機器等の保護が行われるようになっている。
【0021】
因みに図1(b)は、図1(a)に示す限流コイル11を最小単位として4組直列接続して構成された超電導限流コイル21である。即ち、限流コイル21は、図1(a)の限流コイル11を軸方向に4組積層し、隣接する一方の組の接続端子14bと他方の組の接続端子14aとを互いに接続することで、4組の限流コイル11を直列接続した限流コイル21が構成される。この場合も、各組間の接続端子14a,14bによる接続部分がコイル11本体の径方向外側に配置可能なことから、冷却装置にて十分に冷却され、接続端子14a,14bによる接続部分にクエンチの発生が偏ることが抑制される。尚、用途に合わせて限流コイル11の組数を適宜変更することで、様々な限流コイルとして構成することが可能である。
【0022】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)無誘導巻き第1及び第2コイル12a,12bを2層構造として各コイル12a,12b(各超電導線13a,13b)の両端の端末線のいずれもコイル11本体の径方向外側にて導出する構成としたことで、その端末線の接続はコイル11本体の径方向外側部分で行われる。そのため、接続抵抗による発熱でクエンチが生じ易い端末線の接続部15が熱の篭もらないコイル11本体の外側に位置するため、通常時に超電導状態を維持するための冷却装置(図示略)にて十分に冷却され、接続部15から先にクエンチが生じる事象を低減でき、限流コイル11におけるクエンチの発生箇所の偏りを小さくすることができる。また、接続部15が十分に冷却されることから、仮に接続部15にてクエンチが生じた後の復帰時間が短時間となり、限流コイル11のクエンチ後の復帰特性を優れたものとすることができる。
【0023】
(2)第1及び第2コイル12a,12bの各超電導線13a,13bの並びが1層目と2層目とで入れ替えられ、1層目の第1コイル12aと2層目の第2コイル12bとが対向し、1層目の第2コイル12bと2層目の第1コイル12aとが対向するように構成されている。これにより、1層目と2層目との間においても第1及び第2コイル12a,12bにて発生する磁界を打ち消すことになるため、限流コイル11の一層無誘導化を図ることができる。
【0024】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、限流コイル11の一層の無誘導化を図るべく超電導線13a,13bの並びを1層目と2層目とで入れ替えたが、図2に示す超電導限流コイル31のように、入れ替えない構成としてもよい。この限流コイル31では、1層目と2層目で第1コイル12aの超電導線13a同士、第2コイル12bの超電導線13b同士が対向する。このようにすれば、1層目と2層目で超電導線13a,13bの入れ替え(捻り)を行う必要がなくなる。
【0025】
因みに、図2に示す限流コイル31を最小単位とした複数組の限流コイルを図1(b)と同様に構成することもできる。また、図1(a)の限流コイル11と図2の限流コイル31とを混在させた複数組の限流コイルを構成することもできる。
【0026】
・上記実施形態の限流器10は、電力系統への設置のみならず、他の電気装置に設置するものであってもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…超電導限流器、11,21,31…超電導限流コイル、12a…第1コイル、12b…第2コイル、13a,13b…超電導線、15…接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線を平面渦巻状に巻回した一対の第1及び第2コイルを有し、各コイルが無誘導巻きにて構成された超電導限流コイルを備え、その超電導限流コイルのクエンチ現象を用いて入力電流が過電流となった際の限流を行う超電導限流器であって、
前記超電導限流コイルは、前記第1及び第2コイルのそれぞれに対応する2本の超電導線を径方向に並べた状態で径方向外側から内側に向かって平面渦巻状に巻回して1層目の巻回を行った後、2層目に渡り径方向に並べた状態の各超電導線を径方向内側から外側に向かって平面渦巻状に巻回して2層目の巻回を行い、前記第1及び第2コイルの両端の端末線のいずれか一方同士が接続部にて接続されて構成されたことを特徴とする超電導限流器。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導限流器において、
前記超電導限流コイルは、前記第1及び第2コイルを構成する各超電導線の並びが1層目と2層目とで入れ替えられ、1層目の前記第1コイルと2層目の前記第2コイルとが対向し、1層目の前記第2コイルと2層目の前記第1コイルとが対向するように構成されたことを特徴とする超電導限流器。

【図1】
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【図2】
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