説明

超音波流量計

【課題】小流量における感度の良さを損なうことなく、流体停止時等での急激な圧力変化に対して、誤出力を防止できる超音波流量計を提供する。
【解決手段】超音波流量計は、超音波の伝搬時間の差から流速値を算出する流速算出部44と、流速値の算出に伴い超音波の音速値を算出する音速算出部45と、流速値と音速値とを対応付けて所定回数分順次記憶するメモリ46と、流速値に対応する音速値の音速変化量を求め、音速変化量に基づいて、流速値を補正する流速値補正部47とを備える。流速値補正部47は、音速算出部45により算出された第1の音速値と第1の音速値の所定回前に算出された第2の音速値とに基づいて、第1の音速値の第2の音速値に対する音速変化量を求め、音速変化量が音速変化設定閾値以上である場合、第1の音速値に対応する流速値を、第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドし、所定期間経過後にホールドを解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計に関し、より詳細には、超音波トランスデューサ間で互いに超音波を送受信することで流体の流量を計測する超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波流量計は、周知のように測定管に対して斜めに横切る超音波を流れの順方向と逆方向とに送受信して伝搬時間差法または伝搬時間逆数差法などに基づいて流れを妨げずに流量計測を可能とする代表的な流量計で、超音波が伝搬する全ての流体を測定できる特徴を有している。超音波流量計と同様に流れを妨げることのない流量計として電磁流量計が知られているが、この電磁流量計は、非導電性の流体を測定することはできない。超音波流量計は、気体はもとより電磁流量計では測定できない非導電性の流体流量も測定できるため、より汎用性の高い流量計と言うことができる。
【0003】
このように超音波流量計は、超音波が伝搬する流体流量を測定することができるため、例えば、特許文献1に記載されているように、気体の流量測定にも用いられている。この特許文献1に記載の超音波流量計によれば、流量計測するために超音波を送受信する時間以外の周期あるいは信号低下等の異常が検知されたときに、超音波トランスデューサに、この超音波トランスデューサを構成する圧電素子の固有振動数に等しい周波数の電圧を印加することにより得られる超音波振動エネルギーを利用して簡単にダストミストの除去を行うようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3251378号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載したような超音波流量計において、計測時に安定した圧力下で温度が急峻に変化することは稀であるが、圧力の急変が生じた場合、断熱圧縮または断熱膨張により気体の温度が瞬間的に変化し、場合によっては100℃近くに変化することもある。気体の音速は温度に、密度は圧力に対する依存性が高いため、圧力や温度の状態が急激に変化した場合、一時的に超音波の受信波に乱れが生じて計測に支障を来す場合がある。この場合、流体(気体)が流れている状態であればそれほど影響はないが、流体(気体)が流れていない停止時に誤出力してしまうことがあった。
【0006】
図6は、従来の超音波流量計による流量計測において、流体が流れていない停止状態にあるときの流量(流速)及び音速の出力の状態を説明するための図である。図中、縦軸に流量(m/h)及び音速(m/s)、横軸に時間(s)とする。流量計下流側の流量調整弁の開度を0(閉止)にした状態で、流量計上流側の供給タンクを切り替えた場合、図6に示すように、わずかな出力(流量)が5〜10秒程度計測される(この現象を流量停止時発信という)。これは、測定管内には流体が流れていない停止状態であるため、本来計測されるべきではない流量が誤って出力されたものである。この誤出力は、供給タンクの切り替え時に発生する圧力変化が原因と考えられる。
【0007】
圧力変化によって、測定管内の温度は図7(A)、(B)に示すような状態になる。図7(A)は圧力変化が急激な場合の測定管内の温度変化の様子を示し、図7(B)は圧力変化が緩やかな場合の測定管内の温度変化の様子を示す図である。そして、音速は、温度に依存するため、このような温度変化によって、音速も変化する(図6参照)。
【0008】
上記を踏まえ、流量停止時発信の原因として、以下の点が考えられる。
・供給タンクの切り替えにより測定管内の圧力が変化する。
・圧力が上昇した場合に断熱圧縮、圧力が減少した場合には断熱膨張が発生し、ガス温度が変化、すなわち、圧力上昇時は温度が上がり、圧力減少時は温度が下がる。
・ガス温度の変化に伴って、音速が変化する。
【0009】
上記の過渡的な状態において、超音波の伝搬時間差が生じ、あたかも流量が計測される現象を引き起こす。この伝搬時間差が生じる理由としては、1サイクル計測中に音速変化により伝搬時間差を生じる、あるいは、受信波形に乱れが生じ、正しい伝搬時間を計測できていない、などが考えられる。また、測定管内は完全な断熱状態ではなく、管表面は外気に晒されているため、断熱圧縮又は断熱膨張が発生した途端に管表面から熱の移動が発生する。熱の移動には時間がかかるため、管内の温度が安定するまでに時間がかかり、それに応じて音速も徐々に変化する。
【0010】
このように、圧力変化により、ガス温度が瞬間的に数十℃変化することで、過渡的に計測状態が不安定となる。そして、これによってガス停止状態において流量が誤出力されてしまい、計測に支障を来す場合があった。また、停止状態以外でも、小流量が流れている場合には同じような現象が起こる可能性がある。
【0011】
このような状況を回避するために、通常、流速(流量)出力に対してLowカットオフ域を設定することで、そのLowカットオフ設定値以内の流速の場合には、変換器の電気的な制御により強制的に出力をカットして誤出力しないようにしている。しかし、このような方法では、設定パラメータであるLowカットオフ設定値を誤出力の程度に合わせて大きな値にしなければならず、超音波流量計の特徴である小流量から計測可能な、高レンジャビリティ性を損なうことになるという問題があり、特に流量停止時発信を起こさない安定した計測手法の確立が必要とされていた。
【0012】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、小流量における感度の良さを損なうことなく、流体停止時等での急激な圧力変化に対して、誤出力を防止することができる超音波流量計を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の技術手段は、流体が流れる測定管と、該測定管に配設された超音波トランスデューサとを備え、該超音波トランスデューサ間で超音波を送受信し、該送受信に要する前記超音波の伝搬時間から前記流体の流量を計測する超音波流量計であって、前記超音波の伝搬時間の差から流速値を算出する流速算出部と、該流速値の算出に伴い前記超音波の音速値を算出する音速算出部と、前記流速算出部で算出される流速値と前記音速算出部で算出される音速値とを対応付けて所定回数分順次記憶する記憶部と、前記流速値に対応する音速値の音速変化量を求め、該求めた音速変化量に基づいて、前記流速値を補正する流速値補正部とを備え、該流速値補正部は、前記音速算出部により算出された第1の音速値と該第1の音速値よりも所定回前に算出された第2の音速値とに基づいて、前記第1の音速値の前記第2の音速値に対する音速変化量を求め、該求めた音速変化量が音速変化設定閾値以上である場合、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドし、該所定期間経過後にホールドを解除することを特徴としたものである。
【0014】
第2の技術手段は、第1の技術手段において、前記音速変化量は、前記第1の音速値の前記第2の音速値に対する音速変化率であることを特徴としたものである。
【0015】
第3の技術手段は、第1又は第2の技術手段において、前記第1の音速値よりも所定回後の音速値を第3の音速値とし、該第3の音速値よりも所定回後の音速値を第4の音速値とした場合、前記流速値補正部は、前記第2の音速値から前記第1の音速値への第1の変化方向と、前記第3の音速値から前記第4の音速値への第2の変化方向とを検出し、前記第1の変化方向及び前記第2の変化方向に基づいて、前記所定期間を決定することを特徴としたものである。
【0016】
第4の技術手段は、第3の技術手段において、前記所定期間は、前記第1の変化方向と前記第2の変化方向とが異なる方向の場合に、前記第1の変化方向と前記第2の変化方向とが同じ方向の場合よりも短く設定されることを特徴としたものである。
【0017】
第5の技術手段は、第3又は第4の技術手段において、前記第3の音速値は、前記第1の音速値の次回の音速値であり、前記第4の音速値は、前記第3の音速値の次回の音速値であることを特徴としたものである。
【0018】
第6の技術手段は、第1又は第2の技術手段において、前記流速値補正部は、前記ホールド開始から予め定められた期間以内に、前記第1の音速値以降に順次算出される音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたか否かを検出し、該検出結果に基づいて、前記所定期間を決定することを特徴としたものである。
【0019】
第7の技術手段は、第6の技術手段において、前記所定期間は、前記予め定められた期間以内に、前記音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出した場合に、検出しなかった場合よりも短く設定されることを特徴としたものである。
【0020】
第8の技術手段は、第6の技術手段において、前記所定期間は、前記音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出してから一定の期間経過するまでの間に設定されることを特徴としたものである。
【0021】
第9の技術手段は、第1〜第8のいずれか1の技術手段において、前記流速値補正部は、前記音速変化量が前記音速変化設定閾値以上であり、さらに、前記第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値以内である場合に、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドすることを特徴としたものである。
【0022】
第10の技術手段は、第1〜第8のいずれか1の技術手段において、前記流速値補正部は、前記音速変化量が前記音速変化設定閾値以上であり、さらに、前記第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値を超えて該第1の流速設定閾値よりも大きい第2の流速設定閾値以内である場合に、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドすることを特徴としたものである。
【0023】
第11の技術手段は、第9又は第10の技術手段において、前記第1の流速設定閾値に代えて、低流量出力をカットするLowカットオフ値が設定されていることを特徴としたものである。
【0024】
第12の技術手段は、第10又は第11の技術手段において、前記流速値補正部は、前記第2の音速値に対応する流速値にホールドした後に、前記流速算出部で所定値以上の流速値を算出した場合、前記流速値のホールドを強制的に解除することを特徴としたものである。
【0025】
第13の技術手段は、第12の技術手段において、前記所定値は、前記第2の流速設定閾値であることを特徴としたものである。
【0026】
第14の技術手段は、第1〜第13のいずれか1の技術手段において、前記第2の音速値は、前記第1の音速値の前回あるいは前々回に算出された音速値であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、急激な圧力変化による断熱圧縮または断熱膨張を、音速の変化から検知し、この音速変化に基づいて、流速値の出力をカットすることができるため、誤出力の程度に合わせてカットオフを大きくする必要がなく、小流量における感度の良さを維持しつつ、流体停止時等での急激な圧力変化に対して、誤出力を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波流量計の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す超音波流量計による流速値補正方法の一例を説明するための図である。
【図3】図1に示す超音波流量計による流速値補正方法の他の例を説明するための図である。
【図4】本発明の超音波流量計による流速値補正処理の一例を説明するためのフロー図である。
【図5】実際の音速値変化に対し本発明による流速値補正処理を行ったときの流速値の出力例を示す図である。
【図6】従来の超音波流量計による流量計測において、流体が流れていない停止状態にあるときの流量(流速)及び音速の出力の状態を説明するための図である。
【図7】圧力変化に応じた測定管内の温度変化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の超音波流量計に係る好適な実施の形態について説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波流量計の構成例を示すブロック図である。この超音波流量計は、流体が流れる測定管1と、測定管1に配設された例えば2つの超音波トランスデューサ2,3と、超音波トランスデューサ2,3と接続された制御ユニット4とを備え、超音波トランスデューサ2,3間で互いに超音波を送受信し、送受信に要する超音波の伝搬時間から流体(以下、気体で代表する)の流量を計測する。計測原理としては、例えば、超音波流量計で広く使用される伝搬時間逆数差法を用いることができる。この伝搬時間逆数差法は、気体の測定流速Vを気体中の超音波の伝搬速度の変化、すなわち、伝搬時間の逆数である周波数の差Δfとして計測し、既知の管路断面積Sと乗算することで、流量Qを測定する方法である。
【0031】
制御ユニット4は、超音波トランスデューサ2,3への送信パルスを送信する送信回路41と、超音波トランスデューサ2,3からの受信パルスを受信する受信回路42と、送信回路41と超音波トランスデューサ2,3との間で経路を切り換え、超音波トランスデューサ2,3と受信回路42との間で経路を切り換える切換回路43と、超音波の伝搬時間の差から所定期間毎に流速値を算出する流速算出部44と、流速値の算出に伴い超音波の音速値を算出する音速算出部45とを備える。
【0032】
また、制御ユニット4は、流速算出部44で算出される流速値と音速算出部45で算出される音速値とを対応付けて所定回数分順次記憶する記憶部に相当するメモリ46と、流速値に対応する音速値の音速変化量を求め、求めた音速変化量に基づいて、流速値を補正する流速値補正部47と、流速算出部44で算出された流速値の出力を制御する流速値出力部48とを備えている。この流速値出力部48は、Lowカットオフ範囲を参照して、流速値補正部47により補正された流速値を出力しないように制御する。メモリ46には、例えば、流速値及び音速値の計測値が順次、時系列的に記憶される。
【0033】
本発明では、急激な圧力変化による断熱圧縮または断熱膨張により気体の音速が変化することに着目し、流速と共に、音速変化量の推移を監視する。これにより、圧力の急変を察知して、流速値の出力を、所定回前に計測された流速値に置き換え、これを一定期間保持して誤出力を防止することができるため、誤出力の程度に合わせて大きなLowカットオフを設定する必要がなくなる。このため、小流量における感度の良さを損なうことなく、急激な圧力変化に対して、誤出力を防止することができる。
【0034】
ここで、図1の例に基づいて、超音波を測定管内面で1回反射させるV(反射)法について説明する。なお、図中、測定管1の矢印の方向に気体が流れているものとする。測定管1の上流側には超音波トランスデューサ2が、その下流側には超音波トランスデューサ3が取り付けられる。制御ユニット4の送信回路41より発振された送信パルスが専用ケーブルを経て超音波トランスデューサ2の振動子(図示せず)を励振させる。振動子は送信パルス(電気信号)を超音波パルス(音響信号)に変換し気体中へ発射する。
【0035】
気体中を伝搬した超音波パルスは測定管1の内面で反射し、超音波トランスデューサ3に到達し、超音波トランスデューサ3の振動子を励振する。振動子は超音波パルスを受信し、受信パルス(電気信号)に変換し、専用ケーブルを経て、制御ユニット4の受信回路42に帰還する。この電気信号と音響信号が一巡するサイクルの流れに沿って、超音波トランスデューサ2から超音波トランスデューサ3へ向かう方向(順方向)の伝搬時間t23が測定できる。そして、伝搬時間t23の測定が終了すると、直ちに次の測定動作である流れに逆らった方向、すなわち、超音波トランスデューサ3から超音波トランスデューサ2へ向かう方向(逆方向)の伝搬時間t32の測定を行う。これにより、流れに逆らった方向の伝搬時間t32が測定できる。
【0036】
そして、気体中の超音波パルスの伝搬経路長のうち、超音波トランスデューサ2から測定管1の反射面までの経路長をL(m)とすれば、この反射面から超音波トランスデューサ3までの経路長もL(m)となるので、超音波トランスデューサ2から超音波トランスデューサ3までの伝搬経路長は2L(m)となる。気体固有の音速をC(m/s)、超音波の伝搬経路と測定管1の管軸のなす角をθとすると、超音波トランスデューサ2,3の間を往き来する超音波パルスの音速Cは、流速Vの影響を受け、
=C±Vcosθ …(1)
となる。
【0037】
ここで、超音波パルスの気体中の伝搬時間を、順方向(超音波トランスデューサ2から3に向かう方向)のときをt23、逆方向(超音波トランスデューサ3から2に向かう方向)のときをt32とすると、伝搬時間t23とt32は、
23=2L/C=2L/(C+Vcosθ) …(2)
32=2L/C=2L/(C−Vcosθ) …(3)
となる。
【0038】
ここで、伝搬時間t23,t32の逆数に比例した測定回路上の周波数f23,f32を考えると、
23=N/t23 …(4)
32=N/t32 …(5)
【0039】
なお、Nは測定回路上の定数(倍数)であり、これらの周波数差Δfをとると、
Δf=f23−f32
=N/t23−N/t32
=(Ncosθ/L)・V …(6)
で表される。
【0040】
よって、測定流速Vは、
V=(L/cosθ)・((1/t23)−(1/t32)) …(7)
となる。
【0041】
従って、測定流速V(m/s)に、平均流速に換算するための流量補正係数Kと、管路断面積S(m)とを演算することにより、流量Q(m/h)は、
Q=KVS×3600 …(8)
と求まる。なお、上述の伝搬時間逆数差法の他に伝搬時間差法により流量を求めることもできる。
【0042】
また、超音波の音速は、上述のように、超音波トランスデューサ2から超音波トランスデューサ3に向けて超音波パルスを送信・受信する間の伝搬時間t23を所定期間毎に測定しているため、伝搬経路長2Lを、この伝搬時間t23で除算すればよい。なお、音速は、超音波トランスデューサ3から超音波トランスデューサ2に向けて超音波パルスを送信・受信する間の伝搬時間t32を用いても構わない。伝搬時間t23,t32に差がある場合、当然音速も異なる結果となるが、本発明では音速変化量を算出するため、いずれか一方の伝搬時間を用いることでよい。なお、上記では、一対の超音波トランスデューサ間での計測方法について示したが、複数対の超音波トランスデューサを用いてもよい。
【0043】
本発明の概要を説明する。流速算出部44及び音速算出部45で所定期間毎に算出される流速値及び音速値は、メモリ46において各々N個のシフトカウンタに格納される。例えばN=2回以上、好ましくはN=3回分ずつ順次格納される。具体的には、それぞれ“今回値”、“前回値”、“前々回値”として格納される。そして、メモリ46に格納された流速値の“今回値”を出力対象流速値(以下、今回流速値という)とした場合、これに対応した第1の音速値(以下、今回音速値ともいう)が格納され、例えば、第1の音速値の所定回前に算出された第2の音速値である“前回値”あるいは“前々回値”に対する音速変化量の算出に使われる。
【0044】
上記において、「所定回」は、“前回”あるいは“前々回”に限らず、後述する設定値aにより適宜設定される。また、「音速変化量」としては、第1の音速値と第2の音速値との差分であってもよいが、第1の音速値の第2の音速値に対する変化率で求めるのが好適である。以下では音速変化率を例示して説明するものとする。
【0045】
流速値補正部47は、第1の音速値及び第2の音速値に基づき算出された音速変化率が音速変化設定閾値(この閾値を±W1%とする)以上である場合、第1の音速値に対応する流速値を、第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドし、所定期間経過後にホールドを解除する。
【0046】
また、流速値補正部47は、音速変化率が音速変化設定閾値(±W1%)以上であり、さらに、補正可否条件として第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値(以下、この第1の流速設定閾値を±L1m/sとする)以内である場合に、第1の音速値に対応する流速値を、第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドしてもよい。換言すれば、音速変化率が音速変化設定閾値(±W1%)以上であっても、第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値(±L1m/s)を越える場合には、上記のホールド処理を行わず、第1の音速値に対応する流速値をそのまま出力する。
【0047】
また、流量停止時発信を抑制してより安定な流量出力をはかるため、流速値補正部47は、音速変化率が音速変化設定閾値(この閾値を±W2(>±W1)%とする)以上であり、さらに、補正可否条件として第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値(±L1m/s)を超えて第1の流速設定閾値よりも大きい第2の流速設定閾値(以下、この第2の流速設定閾値を±L2m/sとする)以内である場合に、第1の音速値に対応する流速値を、第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドしてもよく、好適な方策となる。換言すれば、音速変化率が音速変化設定閾値(±W2%)以上であっても、第1の音速値に対応する流速値が第2の流速設定閾値(±L2m/s)を越える場合には、上記のホールド処理を行わず、第1の音速値に対応する流速値をそのまま出力する。
【0048】
以上のように、圧力の急変を察知するために、音速変化の推移を監視して、音速変化が比較的大きかったときの流速値の出力を、前回あるいは前々回など、所定回前の流速値に一定期間置き換えてホールド処理することで、誤出力を防止するように構成されている。この手法(アルゴリズム)について図2に基づいて具体的に説明する。
【0049】
図2は、図1に示す超音波流量計による流速値補正方法の一例を説明するための図である。本例は、停止時に圧力変化があったときの流速及び音速の変化の様子を示したものである。横軸は期間(時間軸)であり、前述の演算式で算出される実計測結果が得られる毎の回数(T+k)に対応して表されている。T(今回)に対して、(T−n)〜(T+n)回とし、1回毎の計測間隔は、約1秒とされ、この期間毎に流速V及び音速SVが測定(算出)される。
【0050】
流速Vは流速算出部44によって算出される流速値であり、音速SVは音速算出部45によって算出される音速値である。それぞれの流速V及び音速SVを一般式で表現すると、
V=f(T+k)、SV=g(T+k) −n≦k≦n …(9)
となる。ここで、
k=0のとき、T(今回)で計測された計測値(今回値)
−n≦k<0のとき、T(今回)の前に計測された計測値(例、前回値、前々回値)
0<k≦+nのとき、T(今回)の後に計測される計測値(例、次回値、次々回値)
【0051】
図2中、圧力変化のない(T−n)〜(T−2)では、停止状態であるため、流速V及び音速SV共に変化がないが、(T−1)付近で圧力変化があり、流速V及び音速SV共に変化している。一般的表現では、変化の起点をk=a、すなわち、(T+a)とした場合、この(T+a)に対応する音速値はg(T+a)となる。前述の第1の音速値と第2の音速値との関係でいえば、第1の音速値がT(今回)における音速値g(T)に相当し、第2の音速値がT+a(a回前)における音速値(T+a)に相当する。すなわち、第2の音速値は、第1の音速値のa回前に算出された音速値となる。なお、このaは、−n≦a<0の範囲で任意に設定可能な設定値である。そして、k=0、つまり、T(今回)での音速値をg(T)とした場合、音速値g(T)の音速値g(T+a)に対する音速変化率Aは次式で求めることができる。
A(%)=(g(T)−g(T+a))/g(T+a)×100 …(10)
【0052】
前述したように、メモリ46のNシフトカウンタには、流速V及び音速SVの“今回値”、“前回値”、“前々回値”が順次格納される。ここで、例えば、設定値a=−2であれば、変化の起点がT−2(前々回)となる。なお、メモリ46に格納された流速V及び音速SVの今回値はTに、前回値は(T−1)に、前々回値は(T−2)にそれぞれ対応している。本例の場合、T(今回)に対応する今回音速値g(T)が第1の音速値となり、T−2(前々回)に対応する前々回音速値g(T−2)が第2の音速値となる。また、音速変化設定閾値として、±W1%が予め設定されている。この±W1%としては、例えば、±0.25%などと設定することができる。
【0053】
そして、今回流速値f(T)が予め定めた第1の流速設定閾値(±L1m/s)以内の場合、今回音速値g(T)と前々回音速値g(T−2)により上記式(10)で求めた音速変化率A(%)と、音速変化設定閾値(±W1%)とを比較して、|A|<W1の場合、出力ホールド処理を実行しない。また、|A|≧W1の場合、今回流速値f(T)を前々回流速値f(T−2)に置き換えて、出力ホールド処理を所定期間実行する。なお、第1の流速設定閾値(±L1m/s)の代わりに、Lowカットオフ値(例えば±0.1m/s)を設定することができる。
【0054】
|A|≧W1の場合に出力ホールド処理を行う期間は、出力ホールド処理が開始された後に、予め定めた出力ホールド期間(x)または出力ホールド期間(y)のいずれかに決定される。ここで、出力ホールド処理後に計測を開始する点(計測開始点)を(T+b)とした場合、この(T+b)に対応する音速値はg(T+b)となる。なお、このbは、1≦bの範囲で任意に設定可能な設定値である。例えば、設定値b=1であれば、計測点T+1(次回)が指定される。またさらに別の設定値cを考慮する。この設定値cは、1≦cの範囲で任意に設定可能であり、計測開始点(T+b)からの計測期間を設定するためのパラメータである。例えば、設定値c=1であれば、計測期間に“1”が設定され、計測点T+b+c、故にT+2(次々回)が指定される。本例の場合、T+1(次回)に対応する次回音速値g(T+1)が第3の音速値となる。また、次回音速値g(T+1)の次回、つまり、今回音速値g(T)から見ると、次々回の(T+2)に対応する次々回音速値g(T+2)が第4の音速値となる。
【0055】
なお、上述の音速変化設定閾値(±W1%)、第1の流速設定閾値(±L1m/s)、設定値a,b,cは、図2の例に限定されるものではなく、フィールドでの条件によって適宜設定することができる。
【0056】
上記例において、流速値補正部47は、前々回音速値g(T−2)から今回音速値g(T)への第1の変化方向と、次回音速値g(T+1)から次々回音速値g(T+2)への第2の変化方向とを検出する。すなわち、流速値補正部47は、第1の変化方向として、前々回音速値g(T−2)から今回音速値g(T)への変化が増加方向であるか、減少方向であるかを検出すると共に、第2の変化方向として、次回音速値g(T+1)から次々回音速値g(T+2)への変化が増加方向であるか、減少方向であるかを検出する。
【0057】
そして、流速値補正部47は、第1の変化方向及び第2の変化方向に基づいて、出力ホールド処理を行う期間を決定する。具体的には、第1の変化方向と第2の変化方向とが異なる方向、例えば、一方の変化方向が減少方向で、他方の変化方向が増加方向である場合、出力ホールド期間(x)が設定される。また、第1の変化方向と第2の変化方向とが同じ方向、すなわち、両方の変化方向が減少方向あるいは増加方向である場合、出力ホールド期間(x)よりも長い出力ホールド期間(y)が設定される。この出力ホールド期間(x)または(y)の経過後は、流速値のホールドが解除され、計測回毎の流量計測値が出力される。
【0058】
すなわち、第1の音速値よりも所定回後(設定値bにより設定)の音速値を第3の音速値とし、第3の音速値よりも所定回後(設定値cにより設定)の音速値を第4の音速値とした場合、例えば、第3の音速値を第1の音速値の次回(b=1)の音速値とし、第4の音速値を第3の音速値の次回(c=1)の音速値とした場合、流速値補正部47は、第2の音速値から第1の音速値への第1の変化方向と、第3の音速値から第4の音速値への第2の変化方向とを検出する。つまり、流速値補正部47は、音速値の変化方向が減少方向であるか、増加方向であるかを検出する。そして、流速値補正部47は、第1の変化方向及び第2の変化方向に基づいて、出力ホールド処理を行う期間を決定する。この出力ホールド期間は、第1の変化方向と第2の変化方向とが異なる方向の場合に、第1の変化方向と第2の変化方向とが同じ方向の場合よりも短く設定される。
【0059】
また、別の方法として、次回音速値g(T+1)と次々回音速値g(T+2)との差分をBとした場合、この差分B(=B2−B1)を、今回音速値g(T)と前々回音速値g(T−2)から求めた音速変化率Aに乗じて変化の方向(つまり、極性の変化)を検出してもよい。すなわち、A×B<0であれば、極性反転しているため、出力ホールド期間(x)を設定し、また、A×B≧0であれば、極性反転していないため、出力ホールド期間(x)よりも長い出力ホールド期間(y)を設定する。なお、差分Bと音速変化率Aとを除算しても、同様に、極性反転の有無を判定することができる。このようにして、流速値のホールド開始より、音速値の変化の方向を検出して、出力ホールド期間の長短が適切に選択される。
【0060】
また、さらに別の方法として、流速値補正部47は、ホールド開始から予め定められた期間以内に、第1の音速値、すなわち、今回音速値g(T)以降に順次算出される音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたか否かを検出し、検出結果に基づいて、出力ホールド期間を決定してもよい。上記の予め定められた期間として、例えば、T〜(T+1)の期間を3倍した期間を設定する。そして、この期間以内に、音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出した場合に、検出しなかった場合よりも短く設定される。つまり、T〜(T+1)の期間を3倍した期間以内に、音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出した場合、T〜(T+1)の期間を4倍した出力ホールド期間(x)が設定され、検出されなった場合、出力ホールド期間(x)よりも長い出力ホールド期間(y)が設定される。
【0061】
これに関して、図2の例では、T(今回)で出力ホールド状態に移行するが、メモリ46に、T(今回)〜T+2(次々回)で計測された音速値が格納されたときに、2つ以上の音速値を比較することで、T+1(次回)とT+2(次々回)との間に実際の音速値のピーク値があると判定することができる。このピーク値は、T〜(T+1)の期間を3倍した期間以内に含まれるため、T(今回)〜T+1(次回)の期間を4倍した出力ホールド期間(x)を、出力ホールド状態とする。換言すれば、音速値の極性反転を検出できた場合には、出力ホールド期間(x)の間、出力ホールド状態にする。
【0062】
そして、T〜(T+1)の期間を3倍した期間以内に、実際の音速値のピーク値がないと判定された場合、つまり、音速値の極性反転が検出できない場合には、出力ホールド期間(x)よりも長い出力ホールド期間(y)を出力ホールド状態とする。本例の場合、各期間を約1秒とすると、出力ホールド期間(x)が約4秒となり、出力ホールド期間(y)は約7秒となる。このように音速値にピーク値を持つ場合、より早く安定状態に移行するものと考えられるため、出力ホールド期間(x)のように出力ホールド状態の期間を短くすることができる。なお、これらの出力ホールド期間(x)、(y)はユーザにより適宜設定可能としており、上記の値に限定されるものではない。
【0063】
また、上記の出力ホールド期間は、ホールド開始から予め定められた期間以内に、第1の音速値、すなわち、今回音速値g(T)以降に順次算出される音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出してから一定の期間経過するまでの間に設定してもよい。この一定の期間としては、例えば、T〜T+1の期間の2倍の期間を設定する。図2の例において、ホールド開始から予め定められた期間として、出力ホールド期間(y)に相当する期間が設定されている。そして、この期間以内のT+2(次々回)で音速値の変化量が減少から増加に転じたことが検出される。この場合、出力ホールド期間は、T+2(次々回)を起点として、T〜T+1の期間の2倍の期間経過するまでの間に設定される。つまり、ホールド開始のTからT+3、T+4のいずれかまで出力ホールド状態とされる。
【0064】
ここで、前述したように、流速値補正部47は、今回音速値g(T)と前々回音速値g(T−2)により求めた音速変化率Aが音速変化設定閾値(例えば±0.25%)以上であると判定し、さらに、今回流速値f(T)が第1の流速設定閾値(例えば±0.1m/s)以内であると判定した場合には、今回流速値f(T)を、前々回流速値f(T−2)に置き換えてホールドする補正処理を一定期間行う。
【0065】
本例の場合、今回流速値f(T)は、図1の流速値出力部48で流量出力(4−20mA)のLowカットオフ値が設定されていれば、このままでも出力はカットされるが、音速変化率Aが大きい場合には、次回以降の計測で流速値がLowカットオフ範囲を超える可能性がある。しかしながら、Lowカットオフ値を極端に大きく設定することは性能を大きく犠牲にすることになる。このため、Lowカットオフ範囲以内で安定時(T−n)〜(T−2)の流速値により近い前々回流速値に一定期間出力ホールド状態にしておき、圧力変化の影響が収まるまで、流速値の出力を確実にホールドさせることが有効となる。なお、前々回値の代わりに、前回値または前々回以前の値を一定期間出力ホールド状態にするようにしてもよい。
【0066】
以上のように、音速変化量に基づいて流量計測値を補正することができるが、一般的には、前述したように、流量出力は、4−20mA(或いは1−5V)で表現され、Lowカットオフ値が設定される。よって、本発明により補正される出力とLowカットオフ値との関係について連動させてもよい。つまり、第1の流速設定閾値(±L1m/s)がLowカットオフ値となるようにパラメータ設定して活用するとよい。
【0067】
ここで、停止時の圧力変動に伴う挙動、例えば、圧力(昇圧/減圧)の大きさ、または温度の変化により流速(または流量)が変動した場合には、上述した第1の流速設定閾値(±L1m/s)及び音速変化設定閾値(±W1%、以下では第1の音速変化設定閾値という)だけでは抑制し難い場合がある。このような場合の対応として、第1の流速設定閾値と第1の音速変化設定閾値に対して、新たに第2の流速設定閾値と第2の音速変化設定閾値を設け、例えば、以下のように設定してより大きく急峻な変化に対応できるようにしてもよい。第2の流速設定閾値を±L2m/s、第1の流速設定閾値を±L1m/s、第2の音速変化設定閾値を±W2%、第1の音速変化設定閾値を±W1%とすると、
±L2=±L1×d (d>2の設定値、例えば、d=4) …(11)
±W2=±W1×e (e>2の設定値、例えば、e=2) …(12)
【0068】
上記の設定値d,eは、フィールドで任意に変えることが可能であるが、第1の流速設定閾値(±L1m/s)をLowカットオフ値として取り扱うことが望ましいため、このLowカットオフ値に基づいて設定値d,eを決定することが望ましい。
【0069】
図3は、図1に示す超音波流量計による流速値補正方法の他の例を説明するための図である。この図3の例は、上記の事例を示したもので、第1の流速設定閾値(±L1m/s)に相当するLowカットオフ範囲(±0.1m/s)よりも大きい第2の流速設定閾値(±L2m/s)として、Lowカットオフ範囲の4倍(設定値d=4)となる±0.4m/sが設定されている。また、第1の音速変化設定閾値(±W1%)である(±0.25%)よりも大きい第2の音速変化設定閾値(±W2%)として、第1の音速変化設定閾値の2倍(設定値e=2)となる±0.50%が設定されている。
【0070】
圧力変化のない(T−n)〜(T−2)では、停止状態であるため、流速V及び音速SV共に変化がないが、(T−1)付近で圧力変化があり、流速V及び音速SV共に変化している。本例の場合、メモリ46に格納された流速V及び音速SVの今回値はTに、前回値は(T−1)に、前々回値は(T−2)にそれぞれ対応している。そして、Tの今回流速値f(T)に対して、これに対応する今回音速値g(T)の前々回音速値g(T−2)に対する音速変化率Aを求める。流速値補正部47は、今回流速値f(T)が±0.1m/sを越えて±0.4m/s以内であり且つ求めた音速変化率Aが±0.50%以上であると判定した場合には、今回流速値f(T)を、Lowカットオフ範囲以内にある前々回音速値g(T−2)に対応する流速値f(T−2)に補正する処理を一定時間行う。
【0071】
本例の場合、音速変化率Aが±0.50%以上と大きく、また、今回流速値f(T)がLowカットオフ範囲を超えているため、このままだと誤出力になってしまう。しかしながら、上記の補正処理、すなわち、Lowカットオフ範囲以内で安定時(T−n)〜(T−2)の流速値により近い前々回値f(T−2)に一定期間ホールドしておくことで、圧力変化の影響が収まるまで、流速値の出力を確実にカットすることができる。なお、前々回値の代わりに、前回値または前々回以前の値を一定期間ホールドするようにしてもよい。
【0072】
ここで、第2の音速値を例えば前々回音速値g(T−2)とした場合に、流速値補正部47は、前々回音速値g(T−2)に対応する前々回流速値f(T−2)にホールドした後に、流速算出部44で所定値(例えば、第2の流速設定閾値)以上の流速値を算出した場合、前々回流速値f(T−2)のホールドを強制的に解除するようにしてもよい。例えば、T(今回)において、出力ホールド期間(x)または(y)の出力ホールド状態に移行した後に、今回流速値f(T)が第2の流速設定閾値(±L2m/s)を越えた場合には、出力ホールド状態を解除し、今回流速値に対して補正を行わず、通常処理に移行する。
【0073】
図2、図3の例において、音速変化率が比較的大きく、Lowカットオフ範囲(±0.1m/s)以内あるいは±0.1m/sを超えて±0.4m/s以内の流速値は、流速値補正部47で補正され、全てLowカットオフ範囲以内に入るため、流速値出力部48により出力されない。なお、音速変化率が比較的小さく、流速値が±0.1m/s以内の場合にも、Lowカットオフ範囲にあるため、流速値出力部48により出力されない。一方、音速変化率が比較的小さく、±0.4m/sを超える流速値は、運転状態と考えられるため、流速値補正部47で補正されず、また、Lowカットオフ範囲を超えるため、流速値出力部48により出力される。
【0074】
図4は、本発明の超音波流量計による流速値補正処理の一例を説明するためのフロー図である。本例では、第1の音速値を今回音速値とし、第2の音速値を前々回音速値とした場合について説明する。まず、流速算出部45が流速Vを算出し、音速算出部44が音速SVを算出し(ステップS1)、算出した流速値Vと音速値SVとを対応付けて所定回数分順次記憶する(ステップS2)。そして、流速値補正部47は、今回音速値と今回音速値よりも前々回前の前々回音速値とに基づいて、音速変化量を求める(ステップS3)。
【0075】
次に、流速値補正部47は、ステップS3で求めた音速変化量が音速変化設定閾値以上であるか否かを判定し(ステップS4)、音速変化量が音速変化設定閾値以上と判定した場合(YESの場合)、今回流速値を前々回流速値に置き換え、出力ホールド状態に移行する(ステップS5)。また、ステップS4において、音速変化量が音速変化設定閾値未満であると判定した場合(NOの場合)、ステップS1に戻り処理を繰り返す。
【0076】
次に、流速値補正部47は、出力ホールド状態移行後に所定期間経過したか否かを判定し(ステップS6)、所定期間経過したと判定した場合(YESの場合)、出力ホールド状態を解除し(ステップS7)、ステップS1に戻る。また、ステップS6において、所定期間経過していないと判定した場合(NOの場合)、ステップS6で待機状態に移行する。
【0077】
以上の手順に従い、LNG計測ラインにて実流試験を実施して本発明による流速値補正処理を行ったときの実際の流速値(及び音速値)の出力例を図5に示す。音速のY1、Y2では、急加圧、急減圧により音速が大きく変化していると共に、この音速の変化を検知し、流速のX1、X2に示すように、流速値の出力をホールドしている。すなわち、音速の変化を検知したときに、そのときの流速値をLowカットオフ範囲以内の前回あるいは前々回の流速値に置き換えてホールドする処理を行う。これにより、誤出力を防止することができる。このように、本発明によれば、急激な圧力変化による断熱圧縮または断熱膨張を、音速の変化により検知し、この音速変化量に基づいて、流速値の出力をカットすることができるため、誤出力の程度に合わせてLowカットオフ値を大きくする必要がなく、小流量における感度の良さを維持しつつ、流体停止時等での急激な圧力変化に対して、誤出力を防止することができる。
【符号の説明】
【0078】
1…測定管、2,3…超音波トランスデューサ、4…制御ユニット、41…送信回路、42…受信回路、43…切換回路、44…流速算出部、45…音速算出部、46…メモリ、47…流速値補正部、48…流速値出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる測定管と、該測定管に配設された超音波トランスデューサとを備え、該超音波トランスデューサ間で超音波を送受信し、該送受信に要する前記超音波の伝搬時間から前記流体の流量を計測する超音波流量計であって、
前記超音波の伝搬時間の差から流速値を算出する流速算出部と、該流速値の算出に伴い前記超音波の音速値を算出する音速算出部と、前記流速算出部で算出される流速値と前記音速算出部で算出される音速値とを対応付けて所定回数分順次記憶する記憶部と、前記流速値に対応する音速値の音速変化量を求め、該求めた音速変化量に基づいて、前記流速値を補正する流速値補正部とを備え、
該流速値補正部は、前記音速算出部により算出された第1の音速値と該第1の音速値よりも所定回前に算出された第2の音速値とに基づいて、前記第1の音速値の前記第2の音速値に対する音速変化量を求め、該求めた音速変化量が音速変化設定閾値以上である場合、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドし、該所定期間経過後にホールドを解除することを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波流量計において、前記音速変化量は、前記第1の音速値の前記第2の音速値に対する音速変化率であることを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波流量計において、前記第1の音速値よりも所定回後の音速値を第3の音速値とし、該第3の音速値よりも所定回後の音速値を第4の音速値とした場合、前記流速値補正部は、前記第2の音速値から前記第1の音速値への第1の変化方向と、前記第3の音速値から前記第4の音速値への第2の変化方向とを検出し、前記第1の変化方向及び前記第2の変化方向に基づいて、前記所定期間を決定することを特徴とする超音波流量計。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波流量計において、前記所定期間は、前記第1の変化方向と前記第2の変化方向とが異なる方向の場合に、前記第1の変化方向と前記第2の変化方向とが同じ方向の場合よりも短く設定されることを特徴とする超音波流量計。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の超音波流量計において、前記第3の音速値は、前記第1の音速値の次回の音速値であり、前記第4の音速値は、前記第3の音速値の次回の音速値であることを特徴とする超音波流量計。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の超音波流量計において、前記流速値補正部は、前記ホールド開始から予め定められた期間以内に、前記第1の音速値以降に順次算出される音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたか否かを検出し、該検出結果に基づいて、前記所定期間を決定することを特徴とする超音波流量計。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波流量計において、前記所定期間は、前記予め定められた期間以内に、前記音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出した場合に、検出しなかった場合よりも短く設定されることを特徴とする超音波流量計。
【請求項8】
請求項6に記載の超音波流量計において、前記所定期間は、前記音速値の変化量が減少から増加あるいは増加から減少に転じたことを検出してから一定の期間経過するまでの間に設定されることを特徴とする超音波流量計。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の超音波流量計において、前記流速値補正部は、前記音速変化量が前記音速変化設定閾値以上であり、さらに、前記第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値以内である場合に、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドすることを特徴とする超音波流量計。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の超音波流量計において、前記流速値補正部は、前記音速変化量が前記音速変化設定閾値以上であり、さらに、前記第1の音速値に対応する流速値が第1の流速設定閾値を超えて該第1の流速設定閾値よりも大きい第2の流速設定閾値以内である場合に、前記第1の音速値に対応する流速値を、前記第2の音速値に対応する流速値に置き換えて所定期間ホールドすることを特徴とする超音波流量計。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の超音波流量計において、前記第1の流速設定閾値に代えて、低流量出力をカットするLowカットオフ値が設定されていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の超音波流量計において、前記流速値補正部は、前記第2の音速値に対応する流速値にホールドした後に、前記流速算出部で所定値以上の流速値を算出した場合、前記流速値のホールドを強制的に解除することを特徴とする超音波流量計。
【請求項13】
請求項12に記載の超音波流量計において、前記所定値は、前記第2の流速設定閾値であることを特徴とする超音波流量計。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の超音波流量計において、前記第2の音速値は、前記第1の音速値の前回あるいは前々回に算出された音速値であることを特徴とする超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−247373(P2012−247373A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121152(P2011−121152)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【Fターム(参考)】