超音波発振ユニット及び超音波発振システム
【課題】経穴に痛みを伴わない刺激を与えるウエアラブルな使用ができる超音波発振ユニット及び超音波発振システムを提供する。
【解決手段】超音波発振器10を有し、体表Tに固定したときに超音波が体表に向かって収束するように超音波発振器10を体表に固定する固定具20を有する。固定具20は、発振器支持具21と体表側固着具22と接合分離手段とでなる。発振器支持具21は、体表側に超音波ゲル充填用空間を有して超音波発振器10を支持する。体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着剤が塗布された粘着面となっている。接合分離手段は、発振器支持具21の端面と体表側固着具22の他方の面とを接合分離する。体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表Tに粘着し体表側固着具22に発振器支持具21を接合した状態において、超音波発振器10から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される。
【解決手段】超音波発振器10を有し、体表Tに固定したときに超音波が体表に向かって収束するように超音波発振器10を体表に固定する固定具20を有する。固定具20は、発振器支持具21と体表側固着具22と接合分離手段とでなる。発振器支持具21は、体表側に超音波ゲル充填用空間を有して超音波発振器10を支持する。体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着剤が塗布された粘着面となっている。接合分離手段は、発振器支持具21の端面と体表側固着具22の他方の面とを接合分離する。体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表Tに粘着し体表側固着具22に発振器支持具21を接合した状態において、超音波発振器10から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエアラブルな経穴刺激治療に適用できる超音波発振ユニット及び超音波発振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鍼灸治療では、体の気の流れである経絡に沿って存在する経穴に鍼を刺す、灸を据える等により刺激する経穴刺激治療が行われている。鍼治療のメカニズムは組織への鍼灸針刺入による神経終末の物理的刺激によるとされているが、具体的な機序は解明されていない。指圧や灸による刺激も同様に経穴へ何らかの物理的刺激を与えることで効果を得ていると考えられる。鍼灸針刺入の効果を高めるために刺入後さらに周波数1〜100Hz前後、5〜15mA程度の電気刺激を加えることや、刺入した鍼を用手的に数分間回転させること、また、灸による加熱を同時に加えることも行われる。
【0003】
経穴の刺激には、その効果の高さから鍼灸針を皮膚から刺入することが広く行われているが、鍼を刺すという侵襲性から有資格者のみが施行を許され、一般に患者は施行される場所に出向いて鍼治療を受ける必要がある。
【0004】
鍼刺激では、毎回刺激をするときに装着し、刺激をやめる時には外さなければならない。また、鍼刺激では、鍼で刺激を行う際に鍼を刺すときどうしても僅かな痛みを伴う。さらに、鍼や灸のような経穴刺激は日常生活で持続的に刺激し続けることや、身につけておいて必要な時にだけ刺激するということができない。
【0005】
鍼の効果は個人差もあるが、鍼を抜去後、時間の経過とともにその効果は消失する。一方で慢性的、持続的な疼痛や悪心(吐き気)などに鍼治療が奏功することが多いが、効果が長続きしないと患者は再びその症状に悩まされる。鍼治療の持続的な効果をねらって、絆創膏と微小な鍼を組み合わせた貼付型の鍼灸針が市販されているが、安全のため鍼を細く短くしていることもあり、従来の鍼灸針よりもその効果は弱く、期待されるほどには普及していない。
【0006】
上記したような事情のため、日常生活をしながら効果的、連続的に経穴を刺激できるデバイスが求められている。皮膚に電極を貼付し、持続的または間欠的に電気刺激を行うことで経穴を刺激できることが知られているが、刺激部位は広く、効果的に経穴を刺激しているとは言えない。とくに皮膚表面から深部に存在する経穴は刺激できない。
【0007】
レーザーを用いた経穴刺激もあるが高価で装置も大きい。一方、超音波を組織に照射することで積極的に組織に何らかの作用を及ぼし治療につなげる試みがある。例えば、急性及び慢性の疼痛及び炎症部位に経皮的に超音波を照射することで音圧によるマッサージと温熱作用で症状の改善がみられるとして、いくつかの製品が市販されている。
【0008】
また、骨折部位に超音波を照射すると治癒が促進されることが知られており、そのための製品が市販されている。骨折治療の機序として、高出力超音波により筋肉組織に熱を発生させ骨周辺部の血流増大と鎮痛作用を行うものと、低出力超音波により骨組織に機械的刺激を与え自己炎症修復反応を促進するものが知られている。
【0009】
また、化粧品や薬品を皮膚に塗布し、超音波を照射することで化粧品や薬品の皮膚浸透性を向上させる効果がフォノフォレーシスとして知られている。超音波は生体軟部組織内を効率よく伝搬することから体内深部へ照射ができ、収束させることで焦点位置に限局して強い強度を得ることができる。例えば医療応用として腎ならびに上部尿管結石を治療するESWL(体外衝撃波結石破砕術)がある。
【0010】
他方、超音波治療器による経穴刺激治療も提案されている。超音波治療器は、高周波発振回路等を含む治療機器本体と、超音波発振体を備えたプローブと、プローブに一体に設けられ治療機器本体に分離可能に接続されるケーブルとからなり、超音波発振体に高周波電力に印加することにより発生する超音波を、人体の患部または経穴に照射して、温熱作用、鎮痛作用およびミクロな機械的振動作用を与えることによって治療効果を得る治療機器であり、腰痛、神経痛さらには肩凝り等の治療に有効であることが知られている。
【0011】
特許文献1に記載された超音波素子パッドによれば、超音波発振体が絶縁性を有するゴム製の保護部材に一部を露出して埋め込まれ、配線の一部が保護部材に固定されてなる軽量薄型形態である。この超音波素子パッドによれば、保護部材を人体の患部の形状に応じて自在に変形させることができるので、保護部材に、人体の皮膚との粘着性が優れた超音波ゲル体を粘着して超音波治療を行う。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された超音波素子パッドによれば、超音波発振子から発生した超音波は音響整合層を通過して直進あるいは放射状に伝播し、しかも超音波発振子から離れるに従ってその強度は弱くなるため、例えば人体深部の経穴等では、到達する超音波の強度は非常に弱く充分な治療効果を得ることができない。そこで、超音波を人体等の所望の部位に収束することのできる超音波素子パッドが提案されている(特許文献2、3)。
【0013】
特許文献2に記載された超音波素子パッドによれば、保護部材で発振子を取り囲んで保護し、この発振子の超音波放射面に音波伝播速度が速い材料からなる超音波媒体を重ね、この超音波媒体に凸レンズを備えて、超音波を凸レンズの焦点に収束させることで、小さなデバイスで強い超音波を人体等の内部の所望深さに収束させることができ、経穴治療に役立たせられることが記載されている。
【0014】
また特許文献3には、球殻状の治療用圧電素子を用いて超音波を収束させ、かつ超音波を水とは音速の異なる液体中を通して収束させこの液体を交換することで焦点距離を変更して、被験者に対する苦痛を少なくし、目的部位の治療を行うことが記載されている。
【0015】
また特許文献4に記載された超音波プローブは、カテーテルの先端に球殻状の治療用圧電素子を用いて超音波を収束させ、体内の目的部位の治療を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】第2680693号公報
【特許文献2】第2695011号公報
【特許文献3】特開平10−1276781号公報
【特許文献4】特開2006−314474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1、2に記載された超音波素子パッドによれば、小型化を提案しているものの、体表への固着については改善の余地があり、また、焦点距離の変更を行えないという問題がある。また、特許文献3に記載された治療用圧電素子は、コンパクトではなく、焦点距離の変更も大掛かりで、迅速な施行ができにくく、ウエアラブルな技術から掛け離れている。さらに、特許文献4に記載された超音波プローブは、経穴の刺激には簡便に適用できる内容が含まれていない。
【0018】
本発明は、上述した点に鑑みて案出されたもので、超音波発振器を超小型に構成して体表に着脱容易かつ安定して固着させることができ、経穴刺激装置として取り扱いが容易であり、日常生活において常に経穴部位に取り付けたままとすることができ、しかも必要な時だけ経穴に痛みを伴わない刺激を与えるウエアラブルな使用が可能な、超音波発振ユニット及び超音波発振システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の超音波発振ユニットは、超音波を収束する超音波発振器と、超音波発振器を体表に固定する固定具と、を有し、固定具が、発振器支持具と体表側固着具と接合分離手段と、からなり、発振器支持具が、体表側に超音波ゲル充填用空間を有し超音波発振器を支持する構成であり、体表側固着具が、体表に接触する一方の面を粘着面にした構成であり、接合分離手段が、発振器支持具と体表側固着具の他方の面とを接合分離する構成であり、体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着し体表側固着具に発振器支持具を接合した状態において、超音波発振器から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である、ことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、以下の手順で超音波発振器を体表へ固定し、超音波発振を行う。まず、体表側の面が粘着面である環状シート状の体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着する。次いで、筒部と鍔部とからなり筒部内に超音波発振器を収容し固定している発振器支持具の超音波ゲル充填用空間に超音波ゲルを盛り付け、発振器支持具を体表側固着具に接合し、超音波ゲルが超音波発振器の超音波放射面と体表側固着具の環状シート状の中央の孔に露出する体表部位との間に充満させる。次いで、超音波発振器にコントローラから制御電圧を印加し超音波発振器から超音波を発振させ、経穴に収束させて刺激を行う。
【0021】
複数の経穴への刺激治療を行いたい場合には、複数の体表側固着具を用意し、これらを異なる位置の複数の経穴に対応する体表に正確に位置させて予め粘着する。必要に応じて複数の発振器支持具をそれぞれの体表側固着具に接合し該発振器支持具で支持された超音波発振器にコントローラから制御電圧を印加することにより超音波発振器より超音波を放射させて同時に複数の経穴への超音波を収束させる刺激治療を行う。このようにして、異なる位置の経穴について同時に超音波を収束させる刺激治療を行うことができる。
【0022】
上記構成の超音波発振ユニットは、発振器支持具が筒部を有してなり、超音波発振器が、筒部内に収容されかつ収容位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。この構成にすると、人によって、また実態の部位によって深さが異なり、しかも深さが明らかではない経穴に対応する体表に向けて超音波を発振させ、かつ深さを異ならせることで、当該刺激治療を行っている人の感触で経穴の深さを探り当てて超音波を収束させることができ、効果的に刺激治療を行うことができる。皮膚に貼付した小型の超音波トランスデューサによる経穴刺激は、比較的狭い範囲を刺激できるばかりでなく、その皮膚からの高さ位置やトランスデューサの形状を変えることで刺激深さも変えることができる。経穴ごとに経験的な推奨深さが存在することから、照射深さを変えることで効果的な経穴刺激が期待できる。
従来の鍼治療では勘に頼っていた刺激の種類や大きさを自由に変えることができる。刺激の強度や刺激パターンを最適化することで従来の鍼灸針を越えた効果もありうる。患者本人が刺激強度やパターンを変えることができる自由度も併せ持つ。なによりも、従来の、針を刺されるという侵襲性に抵抗感を持つ患者へ効果的な経穴刺激を実現できることから、今後、広く利用されていく可能性が高い。
【0023】
上記構成の超音波発振ユニットは、発振器支持具の筒部が可撓性を有しており、超音波発振器が、発振器支持具の筒部を拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であるか、又は発振器支持具の筒部に雌ねじを有していると共に、雌ねじに螺合する雄ねじを超音波発振器の外周面に有しており、雌ねじが螺動されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。
【0024】
この構成にすると、超音波発振器の位置を無段階に変更することができるから、超音波の焦点距離を無段階に変更することができ、経穴の深さに超音波を正確に収束させることができ、一層効果的に刺激治療を行うことができる。
【0025】
上記構成の超音波発振ユニットは、超音波発振器の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる構造であり、複数の電極に時間を異ならせて超音波発振を行うことにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。
【0026】
この構成にすると、プログラムで用意された超音波発振モードの数の段数だけ、超音波の焦点距離を複数段階に変更することができ、経穴の深さに併せて超音波を収束させることができ、効果的に刺激治療を行うことができる。
【0027】
上記構成の超音波発振ユニットの発振器支持具について、以下のいずれかの構成とすることが可能である。
(i)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段が、発振器支持具の鍔部と、体表密着部材の他方の面とを磁気吸引する構成。
(ii)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具の鍔部と体表密着部材の他方の面とを粘着する粘着面が両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
(iii)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具が、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具の鍔部と体表密着部材の他方の面とを係合する係合具が両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0028】
本発明の超音波発振ユニットは、発振器支持具に、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔を有する構成であってよい。
【0029】
本発明の超音波発振システムは、上述した構成の超音波発振ユニットと、超音波発振ユニットの超音波発振器に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる。
【0030】
この構成にすると、超音波発振器を経穴に対応する体表部位に容易に固定することができ、複数の経穴に対応する体表部位にそれぞれ体表側固着具を予め固着し、超音波発振器を支持した発振器支持具を、超音波刺激を行いたい複数の経穴位置の体表側固着具に重ねることで超音波刺激を行うことができる。
【0031】
本発明の超音波発振システムは、超音波発振ユニットとコントローラとバッテリーとが、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さが選択された構成であることが好ましい。この構成にすると、簡易に長期間にわたって装着できる、いわゆるウエアラブルな超音波発振システムを提供できる。
【0032】
本発明の超音波発振システムは、コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している構成であることが好ましい。また、コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように複数の超音波発振モード有するプログラムを記憶部に記憶されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、超音波発振器を超小型に構成して体表に着脱容易かつ安定して固着させることができ、経穴刺激装置として取り扱いが容易であり、日常生活において常に経穴部位に取り付けたままとすることができ、必要な時だけ経穴に痛みを伴わない刺激を与えるウエアラブルな使用が可能な、超音波発振ユニット及び超音波発振システムを提供することができる。
【0034】
本発明によれば、体表側固着具をきわめて低コストで製作できるから消耗品として使い捨てにすることができる。従って、病院等の施設において、異なる被治療者に対して超音波刺激治療を行う場合には、注射針と同様に複数人に決して共用しないことと同様に、体表側固着具を一回使用の使い捨てにして衛生を保つことができる。
【0035】
従来の研究で行われている2周波の正弦波を用いた経穴刺激では、2方向から異なる周波数の超音波を照射しているため、二つの超音波発振器の位置合わせが必要であり、体への固定をしっかりする必要がある。また、電源装置についても異なる2つの周波数を発生させなければならないため複雑になってしまう。
【0036】
これに対し、本発明の超音波発振ユニットでは、接合分離自在な発振器支持具と体表側固着具を備えているので、超音波発振器は例えば直径約6mm程度と小型に構成しても発振器支持具で確実に支持することができ、発振器支持具を体表側固着具へ接合するだけで、超音波を経穴に収束する発振が行える状態で体表に固定し得るから、日常生活で常に正確かつ迅速に装着することができる。また、一つの周波数で低い電圧を与えるだけなので電源装置も簡単で、小型化・ウエアラブル化が容易である。
【0037】
日常生活の中で経穴刺激を行うために円皮鍼も用いられているが、これは刺す際にわずかな痛みを伴ってしまい、つけている間はずっと刺激を与え続ける。これに対し本発明の超音波発振ユニットでは超音波を用いているため非侵襲であり、痛みを感じない。さらにデバイスに電圧を入力しているときにだけ刺激を与えるため必要な時に必要な時間だけ刺激を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波発振ユニットの分解斜視図である。
【図2】(a)は図1の超音波発振ユニットの体表への固定前の状態を示す縦断面図、(b)は固定状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の超音波発振器の縦断面図である。
【図4】実施例1に係り、試作した超音波発振器を構成するPZTの縦断面図である。
【図5】実施例1に係り、試作した超音波発振器の製作工程図である。
【図6】図5の超音波発振器の外観を示す像である。
【図7】図5の超音波発振器の音場と印加電圧に対する超音波強度の関係を測定する方法の説明図である。
【図8】音場測定の結果を示すグラフである。
【図9】音場測定の結果を示すもので、入力電圧に対応して出力する音圧との関係を示すグラフである。
【図10】図5の超音波発振器の共振周波数測定を示すオシロスコープの表示画面の像である。
【図11】図5の超音波発振器を固定具で体表へ固定する状態を示すものである。
【図12】図4の超音波発振器と、小型化、ウエアラブル化した電源装置コントローラを身体に取り付けた状態を示すものである。
【図13】(a)は図4の超音波発振器で嚥下反射潜時測定を行ったときの超音波の発振パターンを示す図であり、(b)は脚の経穴の位置を示す図である。
【図14】嚥下反射潜時測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態に係る超音波発振ユニットについて図面を参照して説明する。
【0040】
図1、図2(a),(b)に示すように、この実施形態に係る超音波発振ユニット1は、超音波発振器10と固定具20を有してなる。固定具20は、使用者の体表に固定したときに発振器支持具21が放射する超音波が体表の経穴で収束するように、超音波発振器10を体表に簡便に固定するものであり、発振器支持具21と体表側固着具22とを互いに接合分離可能に有してなる。発振器支持具21は、超音波発振器10を超音波の焦点位置を変更可能とするために位置調整可能に収容する。体表側固着具22は、治療したい経穴に対応する体表に粘着固定する。
【0041】
図2に示すように、超音波発振器10は、圧電セラミック11と、支持体12と、表面電極(上部電極)13と、裏面電極(下部電極)14a,14bと、導電性接着剤15a,15bと、2本の配線16a,16bと、を有してなる。支持体12は、任意構成要素であるが、備えていることで、摘んで取り扱えてかつ発振器支持具21との組付性が向上し利便性を有する。
【0042】
圧電セラミック11は、PZT板を三次元加工機で加工してなる小片であり、焦点を有する曲面形状(球面状、放物面状又は双曲面状)でありかつ放射方向正面から視て円形に形成されていて、厚み方向に分極されている。圧電セラミック11は、PZTの他には、圧電特性に優れる圧電単結晶のPMN-PT(マグネシウムニオブ酸チタン酸亜鉛)を用いることが好ましい。
【0043】
支持体12は、円筒状の樹脂ブロックを三次元加工機で加工してなり、圧電セラミック11を支持する面が圧電セラミック11の凸面とほぼ同一の曲率半径の凹面に形成されている。
【0044】
表面電極13は、圧電セラミック11の凹面に形成されている。裏面電極14aは圧電セラミック11の凸面に形成されており、裏面電極14bは支持体12の凹面に形成されている。圧電セラミック11に形成された裏面電極14aと、支持体12に形成された裏面電極14bと、が導電性接着剤15aにより接着されている。裏面電極14a,14bと、導電性接着剤15aの周面がエポキシ樹脂接着剤17により隠蔽されていて、圧電セラミック11と支持体12との接着補強が図られている。
【0045】
2本の配線16a,16bは、導電性接着剤15bにより支持体12の後面に接着されている。表面電極13から圧電セラミック11の一側面に図示しない端子が設けられているとともに、表面電極13の端子と配線16aとが導線18aと導電性接着剤により接続されている。また、裏面電極14bの端子と配線16bとが導線18bと導電性接着剤により接続されている。
【0046】
電極13,14a,14bと配線が設けられた圧電セラミック11と支持体12の組立体は、上部電極13を除き非導電性皮膜19で隠蔽されてなる。この非導電性皮膜19は、すぐれた物理特性、化学安定性をもつパラキシリレン樹脂をコンフォーマル・コーティングしてなる被膜であり、常温・真空中に反応性に富むモノマーガスを導入し、ガスが物体表面に接したところで重合してポリマー膜を形成するため、均一なピンホールフリーの薄膜として形成される。
【0047】
発振器支持具21は、筒部21aと鍔部21bとを有してなり、筒部21a内に超音波発振器10を支持しかつその体表側に超音波ゲル充填用空間を有する構成である。体表側固着具22は、鍔部21bに対応した環状シート状であり、一方の面が、体表に粘着する粘着剤が塗布されて粘着面となっている構成である。
【0048】
接合分離手段は、発振器支持具21と体表側固着具22とを分離接合自在な構成であれば良く、具体的には以下の3つの態様が挙げられる。
(i)発振器支持具21が、筒部21aの体表側固着具22寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを磁気吸引する構成。
【0049】
この構成では、鍔部21bは磁石で構成され、鍔部21bに対応した環状シート状の体表側固着具22は、片面粘着ペーパ22aと鉄ペーパ22bとを積層して環状に打ち抜き形成される。超音波ゲルを鍔部21bに塗布してから発振器支持具21の鍔部21bを体表側固着具22の鉄ペーパ22bに重ねると、磁力及び超音波ゲルによる吸着力が強く発現する。本実施形態は、この構成を採用している。
(ii)発振器支持具21が、筒部21aの発振器支持具21寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを粘着する粘着面が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0050】
この構成では、鍔部21bは樹脂で構成でき、体表側固着具22は、両面粘着ペーパの両面に離型紙を貼ってなるシートを鍔部21bの形状に合わせて打ち抜いたものを採用することができる。両面の離型紙は使用に際して剥離する。
(iii)発振器支持具21が、筒部21aの発振器支持具21寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを係合する係合具が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0051】
この構成では、係合具として、雄型係合具と雌型係合具とを接合分離可能に一対に有し、一方を鍔部21bに、他方を体表側固着具22に設ける。
【0052】
図1、図2(a)に示すように、超音波発振ユニット1は、発振器支持具21の筒部21a内に超音波発振器10を収容していて、該収容位置が調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成である。
【0053】
本実施形態では、超音波の焦点距離を無段階に機械的変更するため以下のように構成されている。発振器支持具21の筒部21aがシリコーンゴム、または可撓性プラスチックからなり可撓性を有しており、超音波発振器10が、発振器支持具21の筒部21aを拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成とされている。
【0054】
なお、超音波の焦点距離を無段階で機械的に変更するための他の構成として、ねじを利用できる。すなわち、発振器支持具21の筒部21aに雌ねじを有していると共に、雌ねじに螺合する雄ねじが超音波発振器10の外周面に有しており、雌ねじが螺動されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成としても良い。この他に、超音波の焦点距離を複数段階で機械的に変更するための構成としても良い。
【0055】
さらに、超音波の焦点距離の変更は、機械的構成のみに限定されるものではない。例えば、超音波発振器10の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる、いわゆるフェーズドアレイの構造であり、コントローラから複数の電極への電圧印加を時間を異ならせて行うことで超音波発振を行うことにより、超音波の焦点距離を変更する構成としても良い。表面電極と裏面電極の複数分割は同心円となる複数分割が好ましい。亀甲状の複数分割も含まれる。
【0056】
本実施形態に係る超音波発振ユニット1は、発振器支持具21に、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔30を有する構成であることが好ましい。先に鍼灸鍼を行ってから超音波を行うか、鍼灸鍼治療と同時に超音波を行うことにより、奏合刺激効果が得られる。
【0057】
超音波発振ユニット1は、体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表に粘着し体表側固着具22に接合した状態において、超音波発振器10から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である。
【0058】
本実施形態に係る超音波発振システムは、上述した構成の超音波発振ユニット1と、超音波発振ユニット1の超音波発振器10に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる(図1には、コントローラとバッテリーは図示されていないが、図12にバッテリー付きのコントローラが示されている。)。超音波発振ユニット1とコントローラとバッテリーとは、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さが選択された構成であり、ウエアラブルな超音波発振システムを提供する。コントローラは、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している構成である。
【0059】
本実施形態に係る超音波発振システムによれば、超音波発振器10を経穴に対応する体表部位に容易に固定することができる。また、複数の経穴に対応する体表部位にそれぞれ体表側固着具22を予め固着し、超音波発振器10を支持した発振器支持具を、超音波刺激を行いたい複数の経穴位置の体表側固着具22にそれぞれ重ねることで超音波刺激を行うことができる。
【0060】
本実施形態に係る超音波発振器及び超音波発振システムによれば、以下の手順で超音波発振器10の体表への固定を行い、超音波発振を行う。
【0061】
図2(a)に示すように、体表側の面が粘着面である環状シート状の体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表に粘着する。次いで、筒部21aと鍔部21bとからなり筒部21a内に超音波発振器10を収容し固定している発振器支持具21の超音波ゲル充填用空間に超音波ゲル40を盛り付け、図2(b)に示すように、発振器支持具21を体表側固着具22に接合し、超音波ゲルが超音波発振器10の超音波放射面と体表側固着具22の環状シート状の中央の孔に露出する体表部位との間に充満させる。次いで、超音波発振器10にコントローラから制御電圧を印加し超音波発振器10から超音波を発振させ経穴に収束させて刺激を行う。
【0062】
複数の経穴への刺激治療を行いたい場合には、複数の体表側固着具22を用意し、これらを異なる位置の複数の経穴に対応する体表に正確に位置させて予め粘着する。必要に応じて複数の発振器支持具21をそれぞれの体表側固着具22に接合し該発振器支持具21で支持された超音波発振器10にコントローラから制御電圧を印加することにより超音波発振器10より超音波を放射させて同時に複数の経穴への超音波を収束させる刺激治療を行う。このようにして、異なる位置の経穴について同時に超音波を収束させる刺激治療を行うことができる。
〔その他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が特許請求の範囲の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例1】
【0063】
〔要旨〕
東洋医学の分野において経穴(ツボ)に鍼灸針を刺入することで様々な治療が可能であり、広く施行されている。しかし、慢性的な疼痛や自律神経障害において抜去後の鍼灸針の効果を持続させることが難しく、効果的な治療ができない。
【0064】
本発明者らは、以下に述べるように、皮膚に貼付した直径数mm、厚さ数mmの小型超圧電アクチュエータを超音波トランスデューサとして用い経皮的に経穴を刺激し、バッテリー駆動のポータブルなシステムにすることで連続的または間欠的な刺激により効果の持続と増強を得られ、従来の鍼灸針刺入による経穴(ツボ)刺激の欠点を克服する、超音波を用いた新しい経穴刺激方法を開発し、その有効性を実証し、さらにその特徴を生かし、鍼治療の機序の解明を行った。
【0065】
まず、超音波発振器(トランスデューサ)を試作し、これを用いた経穴刺激の有効性を確認するための評価方法を定め、照射条件(超音波強度、周波数、照射時間など)の最適化を行った。その結果に基づき、超音波発振器の再設計と再評価を行い、ウエアラブルな超音波発振システムを作製し、数日程度の長期における照射について効果を評価した。また、刺激の強さ種類(連続、間欠など)を自在に変えることができるプラグラムを作成した。そして、中心孔を設けて鍼刺治療と併用できるようにした。
【0066】
本発明者らは、システムの完成度が上がった時点でのニーズがウエアラブルな超音波発振システムであるものとして、痛みを伴わず日常生活において常に体に取り付けたまま必要な時だけ超音波を経穴部分に収束させ刺激を行える超音波を用いた小型の新しい経穴刺激装置(すなわち、超音波発生システム)の作製を行った。
〔デバイスの作製〕
超音波発振器は、図5に示すように、超音波発振子(PZT+上部電極+下部電極)と、これを支える基体(ポリマー)と、を有して構成した。超音波発振子となるPZT(圧電セラミック)については、PZT原板から球面板状に三次元加工機で切削加工し、直径5.5mm、厚さ1.1mm、凹面の曲率半径9mmの大きさ・形状とし、中央孔を設けた(図4,図5(1))。次いで、基体については、樹脂ブロックを三次元加工機で切削加工し、PZTに密着して支持する面は、PZTの凸面部分に対応する凹面となるように切削加工し、中央孔を設けた(図5(1))。次いで、PZTの凸面部分及び基体の凹面部分にそれぞれCr/Auスパッタにより裏面電極(下部電極)を作製した(図5(2))。上記一対の裏面電極同士を導電性接着剤で接着し、周面に端子を取出した(図5(3))。次いで、接着部分の周囲にエポキシ樹脂を塗って裏面電極の電気的絶縁を行った(図5(4))。その後、PZTの凹面部分にCr/Auスパッタで表面電極(上部電極)を作成し、周面に端子を取り出した(図5(5))。続いて、基体の後面に図示しないコントローラに接続される2本の給電線を導電性接着剤で接着した(図5(6))。そして、導線と導電性接着剤を用い、一方の給電線の接着部と表面電極から取り出した端子とを接続し、また他方の給電線の接着部と裏面電極から取り出した端子とを接続した。次いで、表面電極を保護してデバイス全体の表面にパラキシリレン樹脂をコーティングし耐久性・耐水性を有する絶縁被膜を形成した(図5(7))。最後に、PZTの再分極を1100Vで30分間行った。
【0067】
作製したデバイスの外観を図6に示す。
【0068】
この超音波発振器(以下、デバイスとも言うものとする。)は、外径を約6mm程度の大きさで実現することができ、体表に装着してもその重さや大きさが気にならないものとすることができ、ウエアラブルに適する。
〔超音波発振器の性能測定〕
本発明者らは、試作した超音波発振器について、安全に経穴を刺激することを確認するために、その音場と印加電圧に対する超音波強度の関係を測定した。
【0069】
図7(a),(b)に示すように、完成したデバイスの音場分布を測定するために、超音波を水平に放射するように水中にデバイスを配置固定し、デバイスの凹面中心部分を原点とし、放射方向をZ軸、放射方向に直角な水平方向をX軸、放射方向に直角な上下方向をY軸に取り、3軸自動ステージに固定したニードル型ハイドロフォン(HNR0500、ONDA製)を用い、デバイスの各座標での超音波強度を測定した。パルサーレシーバーからデバイスに16μJのパルス波を印加した。デバイスから発生した超音波をハイドロフォンで受信し、デジタルオシロスコープで各点での超音波波形を測定した。3軸自動ステージはコンピュータによって500μm刻みで制御され、ハイドロフォンは、X軸、Y軸、Z軸の3軸についてそれぞれ500μm刻みで音場を測定した。
【0070】
音場測定の結果は図8(a),(b)のようになった。図8(a)はXZ平面(Y=0mm)での測定値、図8(b)はXY平面(Z=9mm)での測定値である。測定された音場を見ると、デバイスから約9mmの焦点位置でX軸およびY軸方向にはかなり急なピークでありZ軸方向は焦点を中心にある程度緩やかに減じている。これによりこのデバイスは、ほぼ焦点位置のみに強い超音波を発生させることができることが確認できた。
【0071】
次に、音場測定で得られた焦点の位置にハイドロフォンを固定しファンクションジェネレータと高周波増幅器を用いて10Vp-pの正弦波をデバイスに印加した。その際に、入力の周波数を変化させ、ハイドロフォンから出力された電圧から利得を求めることにより共振周波数を確認した。最後に求められた共振周波数の正弦波を入力電圧0〜50Vp-pで変化させ、入力電圧に対する焦点位置での超音波強度の変化を測定した。
【0072】
入力電圧に対する出力超音波強度の計測は、共振周波数で電圧を変化させ、入力電圧による音圧の変化を測定し、計算式によって超音波強度を算出した。
【0073】
入力電圧と、この入力電圧に対応して出力する音圧との関係は図9のようになった。
【0074】
ハイドロフォンによる音圧測定において、超音波強度をI,水中での音速をc,水の密度をρ,音圧の実効値をpとしたときに、計算式I=p2/(ρc)により超音波強度を算出した。これにより、入力電圧と超音波強度との関係は図9のようになった。なお、試作した5つのデバイスについて測定を行った。
【0075】
図9を見ると、超音波強度はXZ平面ではZ=9mm,X=0mmのところにピークを持ち、そこを中心に緩やかに減じている。YZ平面でも同様の結果が得られた。また、焦点位置でのXY平面の音場はX=0、Y=0に急なピークを持った形になっている。焦点における強度24.9W/cm2となった。
【0076】
印加電圧と発生超音波強度の関係においては、発生する超音波の音圧と印加電圧は線形関係にあり、そのときの焦点での超音波強度は、I=p2/(ρc)の式から印加電圧の二乗に比例することになる。この測定は水中で行ったが、生体に超音波を照射した場合でもほぼ同様の結果になると思われる。
【0077】
ファンクションジェネレータを用いた水中での共振周波数測定では、図10に示すように、約1.8〜1.9MHzの共振周波数であることを確認した。
【0078】
デバイスの共振周波数の設計値は一般に超音波療法で用いられている0.8〜3MHzの範囲内の約1.84MHzであり、作製したデバイスにおいてほぼ計算通りの共振周波数が得られている。
【0079】
印加電圧を変化させた場合、発生した超音波の音圧は入力電圧に比例して増加する。また、この値をI=p2/(ρc)の式を用いて超音波強度にすると図9のような関係になる。焦点位置での超音波強度は入力電圧により決められることを確認した。
〔経穴刺激テスト〕
実際に経穴を刺激する際は体表へ固定する手段が必要になる。そこで、図11(a),(b)に示す固定具を作製して経穴刺激テストを行った。測定によれば、印加電圧を正しく与えれば安全に経穴刺激ができることを確認できた。
【0080】
この固定具は、デバイス固定部と体表側固定部に分かれており、デバイス固定部は円環形に切り取ったシート状磁石にシリコーンゴムよりなる可撓性チューブを接着している。なお、可撓性チューブとしてテフロン(テフロンは登録商標)チューブを用いても良い。また、体表側固定部はスチールペーパの裏に片面粘着シートを接着しシート状磁石の輪郭に沿って切り取った。片面粘着シートは、サージカルテープを用いるのが好ましい。
【0081】
デバイス固定部の可撓性チューブ内にデバイスを強制的に挿入し、デバイスの先に超音波ゲルを満たした。それを予め照射したい位置に接着した体表側固定部に重ねると、デバイス固定部のシート状磁石と体表側固定部のスチールペーパとが磁力により吸着する。この際、スチールペーパに超音波ゲルを塗っておくと、超音波ゲルを塗らないときよりもシート状磁石とスチールペーパとの吸着力が大きくなる。なお、デバイス固定部を体表側固定部に重ねると、シート状磁石とスチールペーパとの間へ超音波ゲルが洩れ出るので、スチールペーパに超音波ゲルを塗っておかなくても良い。デバイス固定部は直接肌に触れないため何度でも使用可能である。体表側固定部は低コストで製作でき、消耗品として使い捨てにできる。
【0082】
今回、経穴刺激装置として小型の超音波発生器を作製し、その超音波強度は印加電圧によって制御できることを確認したので、コントローラと電源装置についても図12に示すように小型化、ウエアラブル化を行った。
【0083】
実際に生体に照射する際には国際的な医療機器の安全規格であるIEC60601-2-5などを参考に3W/cm2以下の超音波で刺激する嚥下反射潜時測定を行った。被験者9人(正常の方5人、病気の方4人)に対して図13(a)に示すパターンで図13(b)に示す足三里と太谿に対して超音波刺激を行い、嚥下反射潜時測定を行った。測定結果を図14に示す。特に嚥下反射の遅かった人に関しては、刺激前に比べて刺激後は反射が良くなっている。
グラフ中のEに関しては、もともと嚥下反射に問題が無かったため、誤差で刺激前よりも大きくなっている。
〔その他の測定について〕
なお、頭痛の改善につながる経穴として風池を刺激すると良い。慢性疼痛の一つとして腰痛の場合は腎兪という経穴を刺激し、膝関節痛の場合は足三里を刺激すると良い。足三里、太谿などの経穴を刺激することで嚥下反射が改善し誤嚥及び誤嚥性肺炎を防止できる。さらに、この装置を用いて経穴を刺激し、刺激前後の上腕動脈の血流量の変化を測定することで、経穴刺激治療の効果が期待される。
〔まとめ〕
本発明は、超音波という新たな刺激を行う本デバイスを用いることにより、日常生活の中で装着し刺激の際の痛みや感染の危険がなく必要な時に間欠的または持続的な経穴刺激を行うことが可能であり、さらに超音波による新たな治療効果も期待される。本発明によれば、鍼を刺入しない無侵襲な方法なので、鍼に抵抗感を持つ人にも広く受け入れられる効果も期待される。また、超音波により局所的に経穴を刺激することで高い効果が期待でき、超音波の機械作用、温熱作用などを生かした新たな治療効果も期待できる。
【0084】
また本発明は、超音波トランスデューサ自体が薄く小さいことから皮膚に貼付しても特に違和感はないと思われ、バッテリー駆動のポータブル化、ウエアラブル化により連続的または間欠的な経穴刺激が可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1…超音波発振ユニット
10…超音波発振器
T…体表
20…固定具
21…発振器支持具
21a…筒部
21b…鍔部
22…体表側固着具
22a…片面粘着ペーパ
22b…鉄ペーパ
30…小孔
40…超音波ゲル
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエアラブルな経穴刺激治療に適用できる超音波発振ユニット及び超音波発振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鍼灸治療では、体の気の流れである経絡に沿って存在する経穴に鍼を刺す、灸を据える等により刺激する経穴刺激治療が行われている。鍼治療のメカニズムは組織への鍼灸針刺入による神経終末の物理的刺激によるとされているが、具体的な機序は解明されていない。指圧や灸による刺激も同様に経穴へ何らかの物理的刺激を与えることで効果を得ていると考えられる。鍼灸針刺入の効果を高めるために刺入後さらに周波数1〜100Hz前後、5〜15mA程度の電気刺激を加えることや、刺入した鍼を用手的に数分間回転させること、また、灸による加熱を同時に加えることも行われる。
【0003】
経穴の刺激には、その効果の高さから鍼灸針を皮膚から刺入することが広く行われているが、鍼を刺すという侵襲性から有資格者のみが施行を許され、一般に患者は施行される場所に出向いて鍼治療を受ける必要がある。
【0004】
鍼刺激では、毎回刺激をするときに装着し、刺激をやめる時には外さなければならない。また、鍼刺激では、鍼で刺激を行う際に鍼を刺すときどうしても僅かな痛みを伴う。さらに、鍼や灸のような経穴刺激は日常生活で持続的に刺激し続けることや、身につけておいて必要な時にだけ刺激するということができない。
【0005】
鍼の効果は個人差もあるが、鍼を抜去後、時間の経過とともにその効果は消失する。一方で慢性的、持続的な疼痛や悪心(吐き気)などに鍼治療が奏功することが多いが、効果が長続きしないと患者は再びその症状に悩まされる。鍼治療の持続的な効果をねらって、絆創膏と微小な鍼を組み合わせた貼付型の鍼灸針が市販されているが、安全のため鍼を細く短くしていることもあり、従来の鍼灸針よりもその効果は弱く、期待されるほどには普及していない。
【0006】
上記したような事情のため、日常生活をしながら効果的、連続的に経穴を刺激できるデバイスが求められている。皮膚に電極を貼付し、持続的または間欠的に電気刺激を行うことで経穴を刺激できることが知られているが、刺激部位は広く、効果的に経穴を刺激しているとは言えない。とくに皮膚表面から深部に存在する経穴は刺激できない。
【0007】
レーザーを用いた経穴刺激もあるが高価で装置も大きい。一方、超音波を組織に照射することで積極的に組織に何らかの作用を及ぼし治療につなげる試みがある。例えば、急性及び慢性の疼痛及び炎症部位に経皮的に超音波を照射することで音圧によるマッサージと温熱作用で症状の改善がみられるとして、いくつかの製品が市販されている。
【0008】
また、骨折部位に超音波を照射すると治癒が促進されることが知られており、そのための製品が市販されている。骨折治療の機序として、高出力超音波により筋肉組織に熱を発生させ骨周辺部の血流増大と鎮痛作用を行うものと、低出力超音波により骨組織に機械的刺激を与え自己炎症修復反応を促進するものが知られている。
【0009】
また、化粧品や薬品を皮膚に塗布し、超音波を照射することで化粧品や薬品の皮膚浸透性を向上させる効果がフォノフォレーシスとして知られている。超音波は生体軟部組織内を効率よく伝搬することから体内深部へ照射ができ、収束させることで焦点位置に限局して強い強度を得ることができる。例えば医療応用として腎ならびに上部尿管結石を治療するESWL(体外衝撃波結石破砕術)がある。
【0010】
他方、超音波治療器による経穴刺激治療も提案されている。超音波治療器は、高周波発振回路等を含む治療機器本体と、超音波発振体を備えたプローブと、プローブに一体に設けられ治療機器本体に分離可能に接続されるケーブルとからなり、超音波発振体に高周波電力に印加することにより発生する超音波を、人体の患部または経穴に照射して、温熱作用、鎮痛作用およびミクロな機械的振動作用を与えることによって治療効果を得る治療機器であり、腰痛、神経痛さらには肩凝り等の治療に有効であることが知られている。
【0011】
特許文献1に記載された超音波素子パッドによれば、超音波発振体が絶縁性を有するゴム製の保護部材に一部を露出して埋め込まれ、配線の一部が保護部材に固定されてなる軽量薄型形態である。この超音波素子パッドによれば、保護部材を人体の患部の形状に応じて自在に変形させることができるので、保護部材に、人体の皮膚との粘着性が優れた超音波ゲル体を粘着して超音波治療を行う。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された超音波素子パッドによれば、超音波発振子から発生した超音波は音響整合層を通過して直進あるいは放射状に伝播し、しかも超音波発振子から離れるに従ってその強度は弱くなるため、例えば人体深部の経穴等では、到達する超音波の強度は非常に弱く充分な治療効果を得ることができない。そこで、超音波を人体等の所望の部位に収束することのできる超音波素子パッドが提案されている(特許文献2、3)。
【0013】
特許文献2に記載された超音波素子パッドによれば、保護部材で発振子を取り囲んで保護し、この発振子の超音波放射面に音波伝播速度が速い材料からなる超音波媒体を重ね、この超音波媒体に凸レンズを備えて、超音波を凸レンズの焦点に収束させることで、小さなデバイスで強い超音波を人体等の内部の所望深さに収束させることができ、経穴治療に役立たせられることが記載されている。
【0014】
また特許文献3には、球殻状の治療用圧電素子を用いて超音波を収束させ、かつ超音波を水とは音速の異なる液体中を通して収束させこの液体を交換することで焦点距離を変更して、被験者に対する苦痛を少なくし、目的部位の治療を行うことが記載されている。
【0015】
また特許文献4に記載された超音波プローブは、カテーテルの先端に球殻状の治療用圧電素子を用いて超音波を収束させ、体内の目的部位の治療を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】第2680693号公報
【特許文献2】第2695011号公報
【特許文献3】特開平10−1276781号公報
【特許文献4】特開2006−314474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1、2に記載された超音波素子パッドによれば、小型化を提案しているものの、体表への固着については改善の余地があり、また、焦点距離の変更を行えないという問題がある。また、特許文献3に記載された治療用圧電素子は、コンパクトではなく、焦点距離の変更も大掛かりで、迅速な施行ができにくく、ウエアラブルな技術から掛け離れている。さらに、特許文献4に記載された超音波プローブは、経穴の刺激には簡便に適用できる内容が含まれていない。
【0018】
本発明は、上述した点に鑑みて案出されたもので、超音波発振器を超小型に構成して体表に着脱容易かつ安定して固着させることができ、経穴刺激装置として取り扱いが容易であり、日常生活において常に経穴部位に取り付けたままとすることができ、しかも必要な時だけ経穴に痛みを伴わない刺激を与えるウエアラブルな使用が可能な、超音波発振ユニット及び超音波発振システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の超音波発振ユニットは、超音波を収束する超音波発振器と、超音波発振器を体表に固定する固定具と、を有し、固定具が、発振器支持具と体表側固着具と接合分離手段と、からなり、発振器支持具が、体表側に超音波ゲル充填用空間を有し超音波発振器を支持する構成であり、体表側固着具が、体表に接触する一方の面を粘着面にした構成であり、接合分離手段が、発振器支持具と体表側固着具の他方の面とを接合分離する構成であり、体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着し体表側固着具に発振器支持具を接合した状態において、超音波発振器から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である、ことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、以下の手順で超音波発振器を体表へ固定し、超音波発振を行う。まず、体表側の面が粘着面である環状シート状の体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着する。次いで、筒部と鍔部とからなり筒部内に超音波発振器を収容し固定している発振器支持具の超音波ゲル充填用空間に超音波ゲルを盛り付け、発振器支持具を体表側固着具に接合し、超音波ゲルが超音波発振器の超音波放射面と体表側固着具の環状シート状の中央の孔に露出する体表部位との間に充満させる。次いで、超音波発振器にコントローラから制御電圧を印加し超音波発振器から超音波を発振させ、経穴に収束させて刺激を行う。
【0021】
複数の経穴への刺激治療を行いたい場合には、複数の体表側固着具を用意し、これらを異なる位置の複数の経穴に対応する体表に正確に位置させて予め粘着する。必要に応じて複数の発振器支持具をそれぞれの体表側固着具に接合し該発振器支持具で支持された超音波発振器にコントローラから制御電圧を印加することにより超音波発振器より超音波を放射させて同時に複数の経穴への超音波を収束させる刺激治療を行う。このようにして、異なる位置の経穴について同時に超音波を収束させる刺激治療を行うことができる。
【0022】
上記構成の超音波発振ユニットは、発振器支持具が筒部を有してなり、超音波発振器が、筒部内に収容されかつ収容位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。この構成にすると、人によって、また実態の部位によって深さが異なり、しかも深さが明らかではない経穴に対応する体表に向けて超音波を発振させ、かつ深さを異ならせることで、当該刺激治療を行っている人の感触で経穴の深さを探り当てて超音波を収束させることができ、効果的に刺激治療を行うことができる。皮膚に貼付した小型の超音波トランスデューサによる経穴刺激は、比較的狭い範囲を刺激できるばかりでなく、その皮膚からの高さ位置やトランスデューサの形状を変えることで刺激深さも変えることができる。経穴ごとに経験的な推奨深さが存在することから、照射深さを変えることで効果的な経穴刺激が期待できる。
従来の鍼治療では勘に頼っていた刺激の種類や大きさを自由に変えることができる。刺激の強度や刺激パターンを最適化することで従来の鍼灸針を越えた効果もありうる。患者本人が刺激強度やパターンを変えることができる自由度も併せ持つ。なによりも、従来の、針を刺されるという侵襲性に抵抗感を持つ患者へ効果的な経穴刺激を実現できることから、今後、広く利用されていく可能性が高い。
【0023】
上記構成の超音波発振ユニットは、発振器支持具の筒部が可撓性を有しており、超音波発振器が、発振器支持具の筒部を拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であるか、又は発振器支持具の筒部に雌ねじを有していると共に、雌ねじに螺合する雄ねじを超音波発振器の外周面に有しており、雌ねじが螺動されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。
【0024】
この構成にすると、超音波発振器の位置を無段階に変更することができるから、超音波の焦点距離を無段階に変更することができ、経穴の深さに超音波を正確に収束させることができ、一層効果的に刺激治療を行うことができる。
【0025】
上記構成の超音波発振ユニットは、超音波発振器の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる構造であり、複数の電極に時間を異ならせて超音波発振を行うことにより、超音波の焦点距離を変更する構成であることが好ましい。
【0026】
この構成にすると、プログラムで用意された超音波発振モードの数の段数だけ、超音波の焦点距離を複数段階に変更することができ、経穴の深さに併せて超音波を収束させることができ、効果的に刺激治療を行うことができる。
【0027】
上記構成の超音波発振ユニットの発振器支持具について、以下のいずれかの構成とすることが可能である。
(i)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段が、発振器支持具の鍔部と、体表密着部材の他方の面とを磁気吸引する構成。
(ii)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具の鍔部と体表密着部材の他方の面とを粘着する粘着面が両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
(iii)発振器支持具が、筒部の発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、体表側固着具が、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具の鍔部と体表密着部材の他方の面とを係合する係合具が両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0028】
本発明の超音波発振ユニットは、発振器支持具に、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔を有する構成であってよい。
【0029】
本発明の超音波発振システムは、上述した構成の超音波発振ユニットと、超音波発振ユニットの超音波発振器に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる。
【0030】
この構成にすると、超音波発振器を経穴に対応する体表部位に容易に固定することができ、複数の経穴に対応する体表部位にそれぞれ体表側固着具を予め固着し、超音波発振器を支持した発振器支持具を、超音波刺激を行いたい複数の経穴位置の体表側固着具に重ねることで超音波刺激を行うことができる。
【0031】
本発明の超音波発振システムは、超音波発振ユニットとコントローラとバッテリーとが、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さが選択された構成であることが好ましい。この構成にすると、簡易に長期間にわたって装着できる、いわゆるウエアラブルな超音波発振システムを提供できる。
【0032】
本発明の超音波発振システムは、コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している構成であることが好ましい。また、コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように複数の超音波発振モード有するプログラムを記憶部に記憶されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、超音波発振器を超小型に構成して体表に着脱容易かつ安定して固着させることができ、経穴刺激装置として取り扱いが容易であり、日常生活において常に経穴部位に取り付けたままとすることができ、必要な時だけ経穴に痛みを伴わない刺激を与えるウエアラブルな使用が可能な、超音波発振ユニット及び超音波発振システムを提供することができる。
【0034】
本発明によれば、体表側固着具をきわめて低コストで製作できるから消耗品として使い捨てにすることができる。従って、病院等の施設において、異なる被治療者に対して超音波刺激治療を行う場合には、注射針と同様に複数人に決して共用しないことと同様に、体表側固着具を一回使用の使い捨てにして衛生を保つことができる。
【0035】
従来の研究で行われている2周波の正弦波を用いた経穴刺激では、2方向から異なる周波数の超音波を照射しているため、二つの超音波発振器の位置合わせが必要であり、体への固定をしっかりする必要がある。また、電源装置についても異なる2つの周波数を発生させなければならないため複雑になってしまう。
【0036】
これに対し、本発明の超音波発振ユニットでは、接合分離自在な発振器支持具と体表側固着具を備えているので、超音波発振器は例えば直径約6mm程度と小型に構成しても発振器支持具で確実に支持することができ、発振器支持具を体表側固着具へ接合するだけで、超音波を経穴に収束する発振が行える状態で体表に固定し得るから、日常生活で常に正確かつ迅速に装着することができる。また、一つの周波数で低い電圧を与えるだけなので電源装置も簡単で、小型化・ウエアラブル化が容易である。
【0037】
日常生活の中で経穴刺激を行うために円皮鍼も用いられているが、これは刺す際にわずかな痛みを伴ってしまい、つけている間はずっと刺激を与え続ける。これに対し本発明の超音波発振ユニットでは超音波を用いているため非侵襲であり、痛みを感じない。さらにデバイスに電圧を入力しているときにだけ刺激を与えるため必要な時に必要な時間だけ刺激を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波発振ユニットの分解斜視図である。
【図2】(a)は図1の超音波発振ユニットの体表への固定前の状態を示す縦断面図、(b)は固定状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の超音波発振器の縦断面図である。
【図4】実施例1に係り、試作した超音波発振器を構成するPZTの縦断面図である。
【図5】実施例1に係り、試作した超音波発振器の製作工程図である。
【図6】図5の超音波発振器の外観を示す像である。
【図7】図5の超音波発振器の音場と印加電圧に対する超音波強度の関係を測定する方法の説明図である。
【図8】音場測定の結果を示すグラフである。
【図9】音場測定の結果を示すもので、入力電圧に対応して出力する音圧との関係を示すグラフである。
【図10】図5の超音波発振器の共振周波数測定を示すオシロスコープの表示画面の像である。
【図11】図5の超音波発振器を固定具で体表へ固定する状態を示すものである。
【図12】図4の超音波発振器と、小型化、ウエアラブル化した電源装置コントローラを身体に取り付けた状態を示すものである。
【図13】(a)は図4の超音波発振器で嚥下反射潜時測定を行ったときの超音波の発振パターンを示す図であり、(b)は脚の経穴の位置を示す図である。
【図14】嚥下反射潜時測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態に係る超音波発振ユニットについて図面を参照して説明する。
【0040】
図1、図2(a),(b)に示すように、この実施形態に係る超音波発振ユニット1は、超音波発振器10と固定具20を有してなる。固定具20は、使用者の体表に固定したときに発振器支持具21が放射する超音波が体表の経穴で収束するように、超音波発振器10を体表に簡便に固定するものであり、発振器支持具21と体表側固着具22とを互いに接合分離可能に有してなる。発振器支持具21は、超音波発振器10を超音波の焦点位置を変更可能とするために位置調整可能に収容する。体表側固着具22は、治療したい経穴に対応する体表に粘着固定する。
【0041】
図2に示すように、超音波発振器10は、圧電セラミック11と、支持体12と、表面電極(上部電極)13と、裏面電極(下部電極)14a,14bと、導電性接着剤15a,15bと、2本の配線16a,16bと、を有してなる。支持体12は、任意構成要素であるが、備えていることで、摘んで取り扱えてかつ発振器支持具21との組付性が向上し利便性を有する。
【0042】
圧電セラミック11は、PZT板を三次元加工機で加工してなる小片であり、焦点を有する曲面形状(球面状、放物面状又は双曲面状)でありかつ放射方向正面から視て円形に形成されていて、厚み方向に分極されている。圧電セラミック11は、PZTの他には、圧電特性に優れる圧電単結晶のPMN-PT(マグネシウムニオブ酸チタン酸亜鉛)を用いることが好ましい。
【0043】
支持体12は、円筒状の樹脂ブロックを三次元加工機で加工してなり、圧電セラミック11を支持する面が圧電セラミック11の凸面とほぼ同一の曲率半径の凹面に形成されている。
【0044】
表面電極13は、圧電セラミック11の凹面に形成されている。裏面電極14aは圧電セラミック11の凸面に形成されており、裏面電極14bは支持体12の凹面に形成されている。圧電セラミック11に形成された裏面電極14aと、支持体12に形成された裏面電極14bと、が導電性接着剤15aにより接着されている。裏面電極14a,14bと、導電性接着剤15aの周面がエポキシ樹脂接着剤17により隠蔽されていて、圧電セラミック11と支持体12との接着補強が図られている。
【0045】
2本の配線16a,16bは、導電性接着剤15bにより支持体12の後面に接着されている。表面電極13から圧電セラミック11の一側面に図示しない端子が設けられているとともに、表面電極13の端子と配線16aとが導線18aと導電性接着剤により接続されている。また、裏面電極14bの端子と配線16bとが導線18bと導電性接着剤により接続されている。
【0046】
電極13,14a,14bと配線が設けられた圧電セラミック11と支持体12の組立体は、上部電極13を除き非導電性皮膜19で隠蔽されてなる。この非導電性皮膜19は、すぐれた物理特性、化学安定性をもつパラキシリレン樹脂をコンフォーマル・コーティングしてなる被膜であり、常温・真空中に反応性に富むモノマーガスを導入し、ガスが物体表面に接したところで重合してポリマー膜を形成するため、均一なピンホールフリーの薄膜として形成される。
【0047】
発振器支持具21は、筒部21aと鍔部21bとを有してなり、筒部21a内に超音波発振器10を支持しかつその体表側に超音波ゲル充填用空間を有する構成である。体表側固着具22は、鍔部21bに対応した環状シート状であり、一方の面が、体表に粘着する粘着剤が塗布されて粘着面となっている構成である。
【0048】
接合分離手段は、発振器支持具21と体表側固着具22とを分離接合自在な構成であれば良く、具体的には以下の3つの態様が挙げられる。
(i)発振器支持具21が、筒部21aの体表側固着具22寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを磁気吸引する構成。
【0049】
この構成では、鍔部21bは磁石で構成され、鍔部21bに対応した環状シート状の体表側固着具22は、片面粘着ペーパ22aと鉄ペーパ22bとを積層して環状に打ち抜き形成される。超音波ゲルを鍔部21bに塗布してから発振器支持具21の鍔部21bを体表側固着具22の鉄ペーパ22bに重ねると、磁力及び超音波ゲルによる吸着力が強く発現する。本実施形態は、この構成を採用している。
(ii)発振器支持具21が、筒部21aの発振器支持具21寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを粘着する粘着面が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0050】
この構成では、鍔部21bは樹脂で構成でき、体表側固着具22は、両面粘着ペーパの両面に離型紙を貼ってなるシートを鍔部21bの形状に合わせて打ち抜いたものを採用することができる。両面の離型紙は使用に際して剥離する。
(iii)発振器支持具21が、筒部21aの発振器支持具21寄りの端部に固定された鍔部21bを有してなり、体表側固着具22は、一方の面が体表に粘着する粘着面となっており、接合分離手段は、発振器支持具21の鍔部21bと、体表密着部材の他方の面とを係合する係合具が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成。
【0051】
この構成では、係合具として、雄型係合具と雌型係合具とを接合分離可能に一対に有し、一方を鍔部21bに、他方を体表側固着具22に設ける。
【0052】
図1、図2(a)に示すように、超音波発振ユニット1は、発振器支持具21の筒部21a内に超音波発振器10を収容していて、該収容位置が調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成である。
【0053】
本実施形態では、超音波の焦点距離を無段階に機械的変更するため以下のように構成されている。発振器支持具21の筒部21aがシリコーンゴム、または可撓性プラスチックからなり可撓性を有しており、超音波発振器10が、発振器支持具21の筒部21aを拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成とされている。
【0054】
なお、超音波の焦点距離を無段階で機械的に変更するための他の構成として、ねじを利用できる。すなわち、発振器支持具21の筒部21aに雌ねじを有していると共に、雌ねじに螺合する雄ねじが超音波発振器10の外周面に有しており、雌ねじが螺動されることにより、超音波の焦点距離を変更する構成としても良い。この他に、超音波の焦点距離を複数段階で機械的に変更するための構成としても良い。
【0055】
さらに、超音波の焦点距離の変更は、機械的構成のみに限定されるものではない。例えば、超音波発振器10の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる、いわゆるフェーズドアレイの構造であり、コントローラから複数の電極への電圧印加を時間を異ならせて行うことで超音波発振を行うことにより、超音波の焦点距離を変更する構成としても良い。表面電極と裏面電極の複数分割は同心円となる複数分割が好ましい。亀甲状の複数分割も含まれる。
【0056】
本実施形態に係る超音波発振ユニット1は、発振器支持具21に、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔30を有する構成であることが好ましい。先に鍼灸鍼を行ってから超音波を行うか、鍼灸鍼治療と同時に超音波を行うことにより、奏合刺激効果が得られる。
【0057】
超音波発振ユニット1は、体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表に粘着し体表側固着具22に接合した状態において、超音波発振器10から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である。
【0058】
本実施形態に係る超音波発振システムは、上述した構成の超音波発振ユニット1と、超音波発振ユニット1の超音波発振器10に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる(図1には、コントローラとバッテリーは図示されていないが、図12にバッテリー付きのコントローラが示されている。)。超音波発振ユニット1とコントローラとバッテリーとは、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さが選択された構成であり、ウエアラブルな超音波発振システムを提供する。コントローラは、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している構成である。
【0059】
本実施形態に係る超音波発振システムによれば、超音波発振器10を経穴に対応する体表部位に容易に固定することができる。また、複数の経穴に対応する体表部位にそれぞれ体表側固着具22を予め固着し、超音波発振器10を支持した発振器支持具を、超音波刺激を行いたい複数の経穴位置の体表側固着具22にそれぞれ重ねることで超音波刺激を行うことができる。
【0060】
本実施形態に係る超音波発振器及び超音波発振システムによれば、以下の手順で超音波発振器10の体表への固定を行い、超音波発振を行う。
【0061】
図2(a)に示すように、体表側の面が粘着面である環状シート状の体表側固着具22を所望の経穴に対応する体表に粘着する。次いで、筒部21aと鍔部21bとからなり筒部21a内に超音波発振器10を収容し固定している発振器支持具21の超音波ゲル充填用空間に超音波ゲル40を盛り付け、図2(b)に示すように、発振器支持具21を体表側固着具22に接合し、超音波ゲルが超音波発振器10の超音波放射面と体表側固着具22の環状シート状の中央の孔に露出する体表部位との間に充満させる。次いで、超音波発振器10にコントローラから制御電圧を印加し超音波発振器10から超音波を発振させ経穴に収束させて刺激を行う。
【0062】
複数の経穴への刺激治療を行いたい場合には、複数の体表側固着具22を用意し、これらを異なる位置の複数の経穴に対応する体表に正確に位置させて予め粘着する。必要に応じて複数の発振器支持具21をそれぞれの体表側固着具22に接合し該発振器支持具21で支持された超音波発振器10にコントローラから制御電圧を印加することにより超音波発振器10より超音波を放射させて同時に複数の経穴への超音波を収束させる刺激治療を行う。このようにして、異なる位置の経穴について同時に超音波を収束させる刺激治療を行うことができる。
〔その他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が特許請求の範囲の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例1】
【0063】
〔要旨〕
東洋医学の分野において経穴(ツボ)に鍼灸針を刺入することで様々な治療が可能であり、広く施行されている。しかし、慢性的な疼痛や自律神経障害において抜去後の鍼灸針の効果を持続させることが難しく、効果的な治療ができない。
【0064】
本発明者らは、以下に述べるように、皮膚に貼付した直径数mm、厚さ数mmの小型超圧電アクチュエータを超音波トランスデューサとして用い経皮的に経穴を刺激し、バッテリー駆動のポータブルなシステムにすることで連続的または間欠的な刺激により効果の持続と増強を得られ、従来の鍼灸針刺入による経穴(ツボ)刺激の欠点を克服する、超音波を用いた新しい経穴刺激方法を開発し、その有効性を実証し、さらにその特徴を生かし、鍼治療の機序の解明を行った。
【0065】
まず、超音波発振器(トランスデューサ)を試作し、これを用いた経穴刺激の有効性を確認するための評価方法を定め、照射条件(超音波強度、周波数、照射時間など)の最適化を行った。その結果に基づき、超音波発振器の再設計と再評価を行い、ウエアラブルな超音波発振システムを作製し、数日程度の長期における照射について効果を評価した。また、刺激の強さ種類(連続、間欠など)を自在に変えることができるプラグラムを作成した。そして、中心孔を設けて鍼刺治療と併用できるようにした。
【0066】
本発明者らは、システムの完成度が上がった時点でのニーズがウエアラブルな超音波発振システムであるものとして、痛みを伴わず日常生活において常に体に取り付けたまま必要な時だけ超音波を経穴部分に収束させ刺激を行える超音波を用いた小型の新しい経穴刺激装置(すなわち、超音波発生システム)の作製を行った。
〔デバイスの作製〕
超音波発振器は、図5に示すように、超音波発振子(PZT+上部電極+下部電極)と、これを支える基体(ポリマー)と、を有して構成した。超音波発振子となるPZT(圧電セラミック)については、PZT原板から球面板状に三次元加工機で切削加工し、直径5.5mm、厚さ1.1mm、凹面の曲率半径9mmの大きさ・形状とし、中央孔を設けた(図4,図5(1))。次いで、基体については、樹脂ブロックを三次元加工機で切削加工し、PZTに密着して支持する面は、PZTの凸面部分に対応する凹面となるように切削加工し、中央孔を設けた(図5(1))。次いで、PZTの凸面部分及び基体の凹面部分にそれぞれCr/Auスパッタにより裏面電極(下部電極)を作製した(図5(2))。上記一対の裏面電極同士を導電性接着剤で接着し、周面に端子を取出した(図5(3))。次いで、接着部分の周囲にエポキシ樹脂を塗って裏面電極の電気的絶縁を行った(図5(4))。その後、PZTの凹面部分にCr/Auスパッタで表面電極(上部電極)を作成し、周面に端子を取り出した(図5(5))。続いて、基体の後面に図示しないコントローラに接続される2本の給電線を導電性接着剤で接着した(図5(6))。そして、導線と導電性接着剤を用い、一方の給電線の接着部と表面電極から取り出した端子とを接続し、また他方の給電線の接着部と裏面電極から取り出した端子とを接続した。次いで、表面電極を保護してデバイス全体の表面にパラキシリレン樹脂をコーティングし耐久性・耐水性を有する絶縁被膜を形成した(図5(7))。最後に、PZTの再分極を1100Vで30分間行った。
【0067】
作製したデバイスの外観を図6に示す。
【0068】
この超音波発振器(以下、デバイスとも言うものとする。)は、外径を約6mm程度の大きさで実現することができ、体表に装着してもその重さや大きさが気にならないものとすることができ、ウエアラブルに適する。
〔超音波発振器の性能測定〕
本発明者らは、試作した超音波発振器について、安全に経穴を刺激することを確認するために、その音場と印加電圧に対する超音波強度の関係を測定した。
【0069】
図7(a),(b)に示すように、完成したデバイスの音場分布を測定するために、超音波を水平に放射するように水中にデバイスを配置固定し、デバイスの凹面中心部分を原点とし、放射方向をZ軸、放射方向に直角な水平方向をX軸、放射方向に直角な上下方向をY軸に取り、3軸自動ステージに固定したニードル型ハイドロフォン(HNR0500、ONDA製)を用い、デバイスの各座標での超音波強度を測定した。パルサーレシーバーからデバイスに16μJのパルス波を印加した。デバイスから発生した超音波をハイドロフォンで受信し、デジタルオシロスコープで各点での超音波波形を測定した。3軸自動ステージはコンピュータによって500μm刻みで制御され、ハイドロフォンは、X軸、Y軸、Z軸の3軸についてそれぞれ500μm刻みで音場を測定した。
【0070】
音場測定の結果は図8(a),(b)のようになった。図8(a)はXZ平面(Y=0mm)での測定値、図8(b)はXY平面(Z=9mm)での測定値である。測定された音場を見ると、デバイスから約9mmの焦点位置でX軸およびY軸方向にはかなり急なピークでありZ軸方向は焦点を中心にある程度緩やかに減じている。これによりこのデバイスは、ほぼ焦点位置のみに強い超音波を発生させることができることが確認できた。
【0071】
次に、音場測定で得られた焦点の位置にハイドロフォンを固定しファンクションジェネレータと高周波増幅器を用いて10Vp-pの正弦波をデバイスに印加した。その際に、入力の周波数を変化させ、ハイドロフォンから出力された電圧から利得を求めることにより共振周波数を確認した。最後に求められた共振周波数の正弦波を入力電圧0〜50Vp-pで変化させ、入力電圧に対する焦点位置での超音波強度の変化を測定した。
【0072】
入力電圧に対する出力超音波強度の計測は、共振周波数で電圧を変化させ、入力電圧による音圧の変化を測定し、計算式によって超音波強度を算出した。
【0073】
入力電圧と、この入力電圧に対応して出力する音圧との関係は図9のようになった。
【0074】
ハイドロフォンによる音圧測定において、超音波強度をI,水中での音速をc,水の密度をρ,音圧の実効値をpとしたときに、計算式I=p2/(ρc)により超音波強度を算出した。これにより、入力電圧と超音波強度との関係は図9のようになった。なお、試作した5つのデバイスについて測定を行った。
【0075】
図9を見ると、超音波強度はXZ平面ではZ=9mm,X=0mmのところにピークを持ち、そこを中心に緩やかに減じている。YZ平面でも同様の結果が得られた。また、焦点位置でのXY平面の音場はX=0、Y=0に急なピークを持った形になっている。焦点における強度24.9W/cm2となった。
【0076】
印加電圧と発生超音波強度の関係においては、発生する超音波の音圧と印加電圧は線形関係にあり、そのときの焦点での超音波強度は、I=p2/(ρc)の式から印加電圧の二乗に比例することになる。この測定は水中で行ったが、生体に超音波を照射した場合でもほぼ同様の結果になると思われる。
【0077】
ファンクションジェネレータを用いた水中での共振周波数測定では、図10に示すように、約1.8〜1.9MHzの共振周波数であることを確認した。
【0078】
デバイスの共振周波数の設計値は一般に超音波療法で用いられている0.8〜3MHzの範囲内の約1.84MHzであり、作製したデバイスにおいてほぼ計算通りの共振周波数が得られている。
【0079】
印加電圧を変化させた場合、発生した超音波の音圧は入力電圧に比例して増加する。また、この値をI=p2/(ρc)の式を用いて超音波強度にすると図9のような関係になる。焦点位置での超音波強度は入力電圧により決められることを確認した。
〔経穴刺激テスト〕
実際に経穴を刺激する際は体表へ固定する手段が必要になる。そこで、図11(a),(b)に示す固定具を作製して経穴刺激テストを行った。測定によれば、印加電圧を正しく与えれば安全に経穴刺激ができることを確認できた。
【0080】
この固定具は、デバイス固定部と体表側固定部に分かれており、デバイス固定部は円環形に切り取ったシート状磁石にシリコーンゴムよりなる可撓性チューブを接着している。なお、可撓性チューブとしてテフロン(テフロンは登録商標)チューブを用いても良い。また、体表側固定部はスチールペーパの裏に片面粘着シートを接着しシート状磁石の輪郭に沿って切り取った。片面粘着シートは、サージカルテープを用いるのが好ましい。
【0081】
デバイス固定部の可撓性チューブ内にデバイスを強制的に挿入し、デバイスの先に超音波ゲルを満たした。それを予め照射したい位置に接着した体表側固定部に重ねると、デバイス固定部のシート状磁石と体表側固定部のスチールペーパとが磁力により吸着する。この際、スチールペーパに超音波ゲルを塗っておくと、超音波ゲルを塗らないときよりもシート状磁石とスチールペーパとの吸着力が大きくなる。なお、デバイス固定部を体表側固定部に重ねると、シート状磁石とスチールペーパとの間へ超音波ゲルが洩れ出るので、スチールペーパに超音波ゲルを塗っておかなくても良い。デバイス固定部は直接肌に触れないため何度でも使用可能である。体表側固定部は低コストで製作でき、消耗品として使い捨てにできる。
【0082】
今回、経穴刺激装置として小型の超音波発生器を作製し、その超音波強度は印加電圧によって制御できることを確認したので、コントローラと電源装置についても図12に示すように小型化、ウエアラブル化を行った。
【0083】
実際に生体に照射する際には国際的な医療機器の安全規格であるIEC60601-2-5などを参考に3W/cm2以下の超音波で刺激する嚥下反射潜時測定を行った。被験者9人(正常の方5人、病気の方4人)に対して図13(a)に示すパターンで図13(b)に示す足三里と太谿に対して超音波刺激を行い、嚥下反射潜時測定を行った。測定結果を図14に示す。特に嚥下反射の遅かった人に関しては、刺激前に比べて刺激後は反射が良くなっている。
グラフ中のEに関しては、もともと嚥下反射に問題が無かったため、誤差で刺激前よりも大きくなっている。
〔その他の測定について〕
なお、頭痛の改善につながる経穴として風池を刺激すると良い。慢性疼痛の一つとして腰痛の場合は腎兪という経穴を刺激し、膝関節痛の場合は足三里を刺激すると良い。足三里、太谿などの経穴を刺激することで嚥下反射が改善し誤嚥及び誤嚥性肺炎を防止できる。さらに、この装置を用いて経穴を刺激し、刺激前後の上腕動脈の血流量の変化を測定することで、経穴刺激治療の効果が期待される。
〔まとめ〕
本発明は、超音波という新たな刺激を行う本デバイスを用いることにより、日常生活の中で装着し刺激の際の痛みや感染の危険がなく必要な時に間欠的または持続的な経穴刺激を行うことが可能であり、さらに超音波による新たな治療効果も期待される。本発明によれば、鍼を刺入しない無侵襲な方法なので、鍼に抵抗感を持つ人にも広く受け入れられる効果も期待される。また、超音波により局所的に経穴を刺激することで高い効果が期待でき、超音波の機械作用、温熱作用などを生かした新たな治療効果も期待できる。
【0084】
また本発明は、超音波トランスデューサ自体が薄く小さいことから皮膚に貼付しても特に違和感はないと思われ、バッテリー駆動のポータブル化、ウエアラブル化により連続的または間欠的な経穴刺激が可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1…超音波発振ユニット
10…超音波発振器
T…体表
20…固定具
21…発振器支持具
21a…筒部
21b…鍔部
22…体表側固着具
22a…片面粘着ペーパ
22b…鉄ペーパ
30…小孔
40…超音波ゲル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を収束する超音波発振器と、該超音波発振器を体表に固定する固定具と、を有し、
上記固定具が、発振器支持具と体表側固着具と接合分離手段と、からなり、
上記発振器支持具が、体表側に超音波ゲル充填用空間を有し上記超音波発振器を支持する構成であり、
上記体表側固着具が、体表に接触する一方の面を粘着面にした構成であり、
上記接合分離手段が、上記発振器支持具と上記体表側固着具の他方の面とを接合分離する構成であり、
上記体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着し該体表側固着具に上記発振器支持具を接合した状態において、上記超音波発振器から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である、超音波発振ユニット。
【請求項2】
前記発振器支持具が筒部を有してなり、前記超音波発振器が、上記筒部内に収容されかつ収容位置を調整されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項1記載の超音波発振ユニット。
【請求項3】
前記発振器支持具の筒部が可撓性を有しており、前記超音波発振器が上記発振器支持具の筒部を拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2記載の超音波発振ユニット。
【請求項4】
前記発振器支持具の筒部に雌ねじを有していると共に、該雌ねじに螺合する雄ねじを前記超音波発振器の外周面に有しており、上記雌ねじが螺動されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2記載の超音波発振ユニット。
【請求項5】
前記超音波発振器の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる構造であり、該複数の電極に時間を異ならせて超音波発振を行うことにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2に記載の超音波発振ユニット。
【請求項6】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを磁気吸引する構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項7】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを粘着する粘着面が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項8】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを係合する係合具が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項9】
前記発振器支持具が、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔を有する、請求項1乃至8のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の超音波発振ユニットと、該超音波発振ユニットの超音波発振器に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、該コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる超音波発振システム。
【請求項11】
前記超音波発振ユニットと前記コントローラと前記バッテリーとが、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さに構成されている、請求項10に記載の超音波発振システム。
【請求項12】
コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している、請求項10に記載の超音波発振システム。
【請求項13】
コントローラが、入力操作により超音波発振モードが切り替わる複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶されている、請求項10に記載の超音波発振システム。
【請求項1】
超音波を収束する超音波発振器と、該超音波発振器を体表に固定する固定具と、を有し、
上記固定具が、発振器支持具と体表側固着具と接合分離手段と、からなり、
上記発振器支持具が、体表側に超音波ゲル充填用空間を有し上記超音波発振器を支持する構成であり、
上記体表側固着具が、体表に接触する一方の面を粘着面にした構成であり、
上記接合分離手段が、上記発振器支持具と上記体表側固着具の他方の面とを接合分離する構成であり、
上記体表側固着具を所望の経穴に対応する体表に粘着し該体表側固着具に上記発振器支持具を接合した状態において、上記超音波発振器から発振する超音波が経穴に収束するように焦点距離が設定される構成である、超音波発振ユニット。
【請求項2】
前記発振器支持具が筒部を有してなり、前記超音波発振器が、上記筒部内に収容されかつ収容位置を調整されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項1記載の超音波発振ユニット。
【請求項3】
前記発振器支持具の筒部が可撓性を有しており、前記超音波発振器が上記発振器支持具の筒部を拡径して強制嵌入されかつ嵌入位置を調整されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2記載の超音波発振ユニット。
【請求項4】
前記発振器支持具の筒部に雌ねじを有していると共に、該雌ねじに螺合する雄ねじを前記超音波発振器の外周面に有しており、上記雌ねじが螺動されることにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2記載の超音波発振ユニット。
【請求項5】
前記超音波発振器の表面電極と裏面電極が対応した状態でそれぞれ複数に分割されてなる構造であり、該複数の電極に時間を異ならせて超音波発振を行うことにより、前記超音波の焦点距離を変更する構成である、請求項2に記載の超音波発振ユニット。
【請求項6】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを磁気吸引する構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項7】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを粘着する粘着面が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項8】
前記発振器支持具が、前記筒部の上記発振器支持具寄りの端部に固定された鍔部を有してなり、
前記接合分離手段が、上記発振器支持具の鍔部と、上記体表側固着具の他方の面とを係合する係合具が、両者の少なくとも一方に設けられてなる構成である、請求項2乃至5のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項9】
前記発振器支持具が、その中心を貫通して鍼灸鍼を通すための小孔を有する、請求項1乃至8のいずれかに記載の超音波発振ユニット。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の超音波発振ユニットと、該超音波発振ユニットの超音波発振器に超音波を発振させる制御電圧を印加するコントローラと、該コントローラの電源としてのバッテリーと、を備えてなる超音波発振システム。
【請求項11】
前記超音波発振ユニットと前記コントローラと前記バッテリーとが、身体に付けられるように設けられ、かつ日常生活において気にならない大きさと重さに構成されている、請求項10に記載の超音波発振システム。
【請求項12】
コントローラが、入力操作により超音波発振モードを切り替えるように経穴刺激に適した複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶している、請求項10に記載の超音波発振システム。
【請求項13】
コントローラが、入力操作により超音波発振モードが切り替わる複数の超音波発振モードを有するプログラムを記憶部に記憶されている、請求項10に記載の超音波発振システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図13】
【図14】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図13】
【図14】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−62373(P2011−62373A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216287(P2009−216287)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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