説明

超音波発音体およびパラメトリックスピーカ

【課題】連続駆動による温度上昇を小さくして音圧低下を防止できる超音波発音体およびパラメトリックスピーカを提供する。
【解決手段】超音波を発生させるパラメトリックスピーカ用の超音波発音体110であって、板状の圧電素子111および圧電素子111が一方の主面に接着された振動板112により形成される圧電振動子115と、振動板112の他方の主面に設けられ、振動板112の振動に共振して超音波を発生させる共振子114と、を備え、圧電振動子115の機械的品質係数Qmは100以上である。このように、圧電素子111の機械的品質係数Qmが高いため、発熱による温度上昇を防止することができ、共振周波数の変動を防止できる。その結果、超音波発音体110の音圧を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波発音体を複数個並べて構成するパラメトリックスピーカに適した超音波発音体およびパラメトリックスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波発音体は、振動板と圧電素子を貼り合わせた圧電振動子を構成に含む。圧電素子に圧電振動子固有の共振周波数の交流電圧を印加すると圧電振動子が振動し、超音波発音体は共振周波数と同じ周波数の音を発する。その共振周波数は20kHzを超えた超音波帯域に含まれる。
【0003】
さらに圧電振動子に円錐筒状の共振子を取り付けることで、発生する超音波の音圧を増大させ、その超音波に前方60〜70度の指向性を持たせることができる。なお、超音波発音体は超音波センサと同様な構造を有するが、超音波センサは超音波の送信、受信を行ない、超音波発音体は超音波センサの送信のみを行なう点で両者は相違している。
【0004】
パラメトリックスピーカは、このような超音波発音体を複数個並べて構成されている(例えば特許文献1、2参照)。パラメトリックスピーカの各々の超音波発音体が発した超音波は、空気中で重なり合い、ある音圧以上に達すると可聴音へ復調される。また、超音波が重なり合った中心部の位置のみで可聴音が生じるため、パラメトリックスピーカは、鋭い指向性を持ったスピーカとして機能する。
【0005】
なお、上記の超音波センサには、圧電振動子の共振周波数の変化を低減し、温度−音圧変化特性を向上させようとするものがある。たとえば、特許文献3記載の超音波トランスジューサは、圧電体よりも線膨張係数が小さい振動板を用いて圧電振動子の共振周波数の変化を低減しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−167597号公報
【特許文献2】特開昭62−296698号公報
【特許文献3】特開2001−258098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような超音波発音体や超音波センサは、駆動周波数を圧電振動子が最も振動する共振周波数に設定することで高音圧が得られる。しかし、共振周波数で駆動する際は音圧が得られる反面、圧電振動子の発熱が大きい。そして、圧電振動子は温度が上がると図7に示すように共振周波数が低くなり、設定した駆動周波数が共振周波数から離れ、音圧は低下してしまう。これに対し、例えば特許文献3記載の技術を超音波発音体に適用することも考えられるが、この技術により温度に対する共振周波数変化量が顕著に変わるわけではない。
【0008】
超音波センサは、送信、受信を交互に行ない、間欠駆動するため、その圧電振動子の温度上昇は小さい。したがって、特許文献3記載の程度の効果でも十分である。一方、超音波発音体は、パラメトリックスピーカの構成要素として連続駆動するため、圧電振動子の温度上昇が大きくなり、音圧が低下する。これに対しては、温度に対する共振周波数変化量を調整するより超音波発音体の駆動による温度上昇を小さくする方が効果的である。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、連続駆動による温度上昇を小さくして音圧低下を防止できる超音波発音体およびパラメトリックスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波発音体は、超音波を発生させるパラメトリックスピーカ用の超音波発音体であって、板状の圧電素子および前記圧電素子が一方の主面に接着された振動板により形成される圧電振動子と、前記振動板の他方の主面に設けられ、前記振動板の振動に共振して超音波を発生させる共振子と、を備え、前記圧電振動子の機械的品質係数Qmは100以上であることを特徴としている。
【0011】
このように、圧電素子の機械的品質係数Qmが高いため、発熱による温度上昇を防止することができ、共振周波数の変動を防止できる。その結果、超音波発音体の音圧を維持できる。
【0012】
(2)また、本発明の超音波発音体は、前記圧電素子および前記振動板が、いずれも円板状に形成されていることを特徴としている。これにより、圧電素子の機械的品質係数Qmを高くすることができる。また、作製時の歩留まり向上、および駆動時の故障率低下が可能になる。
【0013】
(3)また、本発明のパラメトリックスピーカは、上記の超音波発音体が複数設けられ、前記超音波発音体を連続駆動することで、超音波が伝播する際の非線形特性により可聴音を出現させることを特徴としている。このように本発明のパラメトリックスピーカは、圧電素子の機械的品質係数Qmが高いため、連続駆動しても圧電振動子の温度上昇が抑制され、音圧を高く維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発熱による温度上昇を防止し、共振周波数の変動を防止できる。その結果、超音波発音体の音圧を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のパラメトリックスピーカを示す正面図である。
【図2】本発明の超音波発音体の構成を示す側面図である。
【図3】(a)、(b)いずれも本発明の超音波発音体の動作の一場面を模式的に示す側面図である。
【図4】パラメトリックスピーカの電気的構成を示すブロック図である。
【図5】圧電素子の機械的品質係数Qmと温度上昇との関係を示すグラフである。
【図6】(a−1)〜(c−2)それぞれ円形の振動板に各形状の板状の圧電素子を貼り付けた圧電振動子を示す側面図および底面図である。
【図7】圧電振動子の各温度における共振周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(パラメトリックスピーカの構成)
図1は、パラメトリックスピーカ100を示す正面図である。パラメトリックスピーカ100は、強力な音圧で変調された超音波を発生させ、空気中を超音波が伝播する際の非線形特性により、可聴音を出現させる。このようにして方向や距離を特定し指向性を与えて音響情報を伝えることを可能にする。図1に示すように、パラメトリックスピーカ100は、複数の超音波発音体110が基板120上に設けられて構成されている。超音波発音体110は、変調信号に基づいて超音波を発生させる。基板120は、超音波発音体110を固定し支持している。なお、図1では、外観構成を示し、電気的構成は省略している。
【0018】
(超音波発音体の構成)
図2は、超音波発音体110の構成を示す側面図である。超音波発音体110は、パラメトリックスピーカに用いられ、超音波を発生させる。超音波発音体110は、電圧の印加により変調超音波信号を発生させる。超音波発音体110は、圧電素子111、振動板112、リード線113a、113b、共振子114により構成されている。
【0019】
圧電素子111は、板状に形成され、厚み方向への電圧の印加により伸縮する。圧電素子111は、振動板112の一方の主面に接着されて設置されている。圧電素子111は、振動板112の他方の主面が振動面となっており、振動面を介し、超音波を発生させることができる。
【0020】
共振子114は、円錐筒形状に形成されており、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていることが好ましい。なお、円錐筒形状には、パラボラ状または漏斗状が含まれる。共振子114は、振動板112の他方の主面に設けられ、振動板112の振動に共振して超音波を発生させる。圧電素子111の両主面には、それぞれ電極が形成されており、本体部分の圧電体は厚み方向に分極されている。振動板112は、圧電素子111が一方の主面に接着されている。振動板112は、たとえば、真鍮、SUS304、42アロイまたはアルミニウム等の金属により円板状に形成されている。
【0021】
圧電素子111および振動板112は、圧電振動子115を形成している。圧電振動子115は、あらかじめ一定の共振周波数となるように設計されている。圧電振動子の機械的品質係数Qmは100以上である。圧電振動子115の機械的品質係数Qmが高いため、発熱による温度上昇を防止することができ、共振周波数の変動を防止できる。その結果、超音波発音体110の音圧を維持できる。また、圧電素子111および振動板112は、いずれも円板状に形成されていることが好ましい。これにより、圧電素子111の機械的品質係数Qmを高くすることができる。また、作製時の歩留まり向上、および駆動時の故障率低下が可能になる。さらには、パラメトリックスピーカ100は、連続駆動しても圧電振動子の温度上昇が抑制され、音圧を高く維持することができる。
【0022】
(超音波発音体の動作)
図3(a)、(b)は、いずれも本発明の超音波発音体110の動作の一場面を模式的に示す側面図である。図3(a)、(b)に示すように、超音波発音体110は、厚み方向に分極された圧電素子111の両主面の電極に交流電圧を印加することで屈曲振動する。その際には、圧電振動子115の共振周波数を駆動周波数として電圧を印加する。このとき、圧電振動子115の機械的品質係数Qmが高いと電気エネルギーが熱として消費され難くなり、温度上昇を防止することができる。
【0023】
(超音波発音体の作製)
超音波発音体110の作製方法を説明する。まず、圧電振動子115について所定以上のQmを有するように、圧電素子111および振動板112の材料を決定し、それぞれの外形形状も設計しておく。
【0024】
圧電材料により板状の圧電体を形成し、電極を設けて分極することで、圧電素子111を形成する。圧電素子111を振動板112の一方の主面に接着する。そして、リード線113a、113bを所定箇所の電極または振動板112に接続する。振動板112の他方の主面に共振子114を接着する。このようにして、超音波発音体を作製することができる。
【0025】
なお、圧電素子111の形状は圧電振動子115の製造時の歩留まりおよび駆動時の故障率に影響する。六角形、正方形のように角を有する圧電素子111は振動板との貼り付け時及び駆動時に掛かる応力が角に集まるため、破損しやすい。一方、円形は貼り付け時及び駆動時に掛かる応力が均等になるため、破損しにくくなり、作製時の歩留まり向上および駆動時の故障率低下ができる。
【0026】
(パラメトリックスピーカの電気的構成)
図4は、パラメトリックスピーカ100の電気的構成を示すブロック図である。図4に示すように、パラメトリックスピーカ100は、発振器101、変調器102、増幅器105および超音波発音体110を備え、これらを介して超音波を発生させる。発振器101は、超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する。発振される周波数は、発振信号が超音波発音体110に伝達されたとき圧電素子111を駆動する駆動周波数であり、パラメトリックスピーカ100の用途に応じてあらかじめ決定されている。
【0027】
変調器102は、音声信号で発振信号をAM変調する。変調は、AM変調に代えて、DSB変調、SSB変調、FM変調であってもよい。増幅器105は、変調された発振信号を増幅し、超音波発音体110に出力する。超音波発音体110は、増幅された発振信号を音波に変換する。
【0028】
上記のように構成されたパラメトリックスピーカ100は、超音波帯域の周波数の信号を発振し、発振信号を所望の音声信号で変調し、変調信号を増幅して、超音波発音体110で音波に変換して放射する。このようにして、指向性の鋭い超音波を放射することができる。たとえば狭い範囲にいる人に選択的に案内を流すことができるため、美術館や水族館、博物館、アミューズメント施設などに利用できる。今後、交通案内などでも利用可能である。
【0029】
(実験1)
次に、それぞれ機械的品質係数Qmの異なる圧電振動子115を同じ電気エネルギーで駆動し、温度上昇を測定することで、機械的品質係数Qmと温度上昇との関係を調べた。図5は、圧電素子の機械的品質係数Qmと温度上昇との関係を示すグラフである。図5では、圧電素子の機械的品質係数Qmと温度上昇との関係を回帰直線で表わしている。図5に示すように、機械的品質係数Qmが高いほど温度上昇が低くなった。このように、圧電振動子115の機械的品質係数Qmが高いほど、超音波発音体110の音圧を維持するには好ましいことが分かった。
【0030】
(実験2)
次に、機械的品質係数Qmの高い圧電振動子115の形状について実験を行なった。測定には共振周波数50kHzの超音波発音体を用いた。以下のように形状の異なる圧電素子111を用いた圧電振動子115の機械的品質係数Qmを測定した。
【0031】
図6(a−1)〜(c−2)は、それぞれ円形の振動板に各形状の板状の圧電素子を貼り付けた圧電振動子を示す側面図および底面図である。図6(a−1)、(a−2)は、圧電素子111が円板状である圧電振動子115を示している。図6(b−1)、(b−2)は、圧電素子111が正六角板状である圧電振動子115を示している。図6(c−1)、(c−2)は、圧電素子111が正方板状である圧電振動子115を示している。
【0032】
表1は、それぞれの圧電振動子115の機械的品質係数Qmを示している。表1に示すように、円板状の圧電素子111を円板状の振動板112に貼り付けた圧電振動子115のQmが最も高いことが分かった。この場合の圧電振動子115により、発熱による温度上昇およびそれに伴う共振周波数の変動を防止でき、超音波発音体110の音圧を維持できることが実証された。なお、共振周波数50kHzの超音波発音体ではQmが100以上で温度上昇が10℃以下となった。
【表1】

【符号の説明】
【0033】
100 パラメトリックスピーカ
101 発振器
102 変調器
105 増幅器
110 超音波発音体
111 圧電素子
112 振動板
113a、113b リード線
114 共振子
115 圧電振動子
120 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生させるパラメトリックスピーカ用の超音波発音体であって、
板状の圧電素子および前記圧電素子が一方の主面に接着された振動板により形成される圧電振動子と、
前記振動板の他方の主面に設けられ、前記振動板の振動に共振して超音波を発生させる共振子と、を備え、
前記圧電振動子の機械的品質係数Qmは100以上であることを特徴とする超音波発音体。
【請求項2】
前記圧電素子および前記振動板は、いずれも円板状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の超音波発音体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の超音波発音体が複数設けられ、前記超音波発音体を連続駆動することで、超音波が伝播する際の非線形特性により可聴音を出現させることを特徴とするパラメトリックスピーカ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−77991(P2013−77991A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216815(P2011−216815)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】