説明

超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法

【課題】簡易に精度よく、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを予測することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、下記の(1)〜(3)式を用いて予測する、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法を提供する。
εas=γ×3070×exp{−7.2×(W/P)}×{1−exp(−a×t} …(1)
a=2.79×exp{−10.1×(W/P)} …(2)
b=0.11×exp{7.92×(W/P)} …(3)
(式中、εasは自己収縮ひずみ(×10−6)を表し、γは実験定数(0.45)を表し、W/Pは水粉体比(%)を表し、tは超高強度コンクリートの凝結始発時を起点とする該コンクリートの材齢(日)を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは引張強度が低いため、コンクリートの収縮によりひび割れ(収縮ひび割れ)が発生する場合がある。この収縮ひび割れは、コンクリート造建築物の美観を損なうほか、コンクリートの水密性・気密性の低下や鉄筋の腐食などの、建築物の耐久性低下の原因にもなっている。したがって、コンクリートの耐久性を確保するためには、収縮ひび割れを制御することが必要となる。
この収縮ひび割れには、主に、コンクリートの乾燥により生じる乾燥収縮ひずみと、コンクリート中のセメントの水和に起因して生じる自己収縮ひずみとがある。そして、コンクリートの圧縮強度が高くなるに従い、自己収縮ひずみが収縮ひび割れの主因となって、無視できなくなることが知られている。したがって、特に、超高強度コンクリートの収縮ひび割れを制御するためには、主因となる自己収縮ひずみを事前に把握する必要がある。
【0003】
しかし、自己収縮ひずみを事前に把握するためには、コンクリート供試体の作製や、長期にわたるひずみの測定等の作業が必要となり、手間がかかる。よって、コンクリートの自己収縮ひずみを実測することなく、精度よく予測することができれば、収縮ひび割れの制御等のコンクリートの品質管理上、極めて有益である。
そこで、例えば、非特許文献1では、自己収縮ひずみを時間の関数として予測することができる、下記の一連の式(4.3.5)、および、式(解4.3.3)〜式(解4.3.8)が提案されている(53頁、54頁)。
【0004】
【数1】

【0005】
【表1】

【0006】
【数2】

【0007】
【数3】

【0008】
式(解4.3.5)のashおよびbshは自己収縮ひずみの進行特性を表す係数であり、セメントの種類により、下記の式(解4.3.6)〜式(解4.3.8)から求める。
【0009】
【数4】

【0010】
【表2】

【0011】
しかし、前記予測式が対象とするコンクリートは、水セメント比が30〜55%の範囲で、設計基準強度が60N/mm程度までのコンクリート構造物である(1頁、53頁)。
したがって、前記予測式を、水セメント比が30%未満の(超)高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測に用いた場合、後掲する図2に示すように、その予測曲線は実測値と大きく乖離して、予測に供することはできない。
【0012】
また、非特許文献2では、圧縮強度が120N/mmまでの高強度コンクリートの自己収縮ひずみのデータを用いて求めた、下記の予測式が提案されている(33頁)。
【0013】
【数5】

【0014】
【表3】

【0015】
【数6】

【0016】
【表4】

【0017】
しかし、前記予測式は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用いたコンクリートを対象としている。そして、該文献において、コンクリートの自己収縮は、結合材の種類や、水結合材比の影響を大きく受けることが知られており、他の種類の結合材を用いる場合は、別に実験を行って自己収縮の値を定めなければならないとされている(33頁)。
したがって、前記予測式を、結合材や水結合材比が異なる超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測に用いた場合、その予測精度は十分ではないと予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「マスコンクリートのひび割れ制御指針2008」、日本コンクリート工学協会編、1頁、53頁、54頁、2008年11月21日発行
【非特許文献2】「高強度コンクリートを用いたPC構造物の設計施工基準」、プレストレストコンクリート技術協会編、33頁、2008年10月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明は、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、簡易に精度よく予測することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の式を用いれば、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、簡易に精度よく予測できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供する。
[1]超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、下記の(1)〜(3)式を用いて予測する、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。
εas=γ×3070×exp{−7.2×(W/P)}×{1−exp(−a×t)} …(1)
a=2.79×exp{−10.1×(W/P)} …(2)
b=0.11×exp{7.92×(W/P)} …(3)
(式中、εasは自己収縮ひずみ(×10−6)を表し、γは実験定数(0.45)を表し、W/Pは水粉体比(%)を表し、tは超高強度コンクリートの凝結始発時を起点とする該コンクリートの材齢(日)を表す。)
[2]前記超高強度コンクリートが、中庸熱ポルトランドセメントおよび/または低熱ポルトランドセメントと、シリカフュームと、骨材と、水とを少なくとも含む、前記[1]に記載の超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。
[3]前記超高強度コンクリートの水粉体比が10〜25%である、前記[1]または[2]に記載の超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。
ここで、水粉体比とは、超高強度コンクリートに含まれる、骨材由来の粉体を除いた粉体の質量に対する水の質量の比をいい、単位は%である。また、該粉体は、例えば、セメント、シリカフューム等のポゾラン物質、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石灰石および石膏等から選ばれる、少なくとも1種以上である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の予測方法によれば、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、簡易に精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】超高強度コンクリートの圧縮強度を示す図である。
【図2】超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの実測値と、本発明に係る予測式を用いて得た予測曲線と、参考例として非特許文献1に係る予測式を用いて得た予測曲線とを示す図であって、水粉体比が(a)では20%、(b)では16.5%、(c)では13%である場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、上述したとおり、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、前記(1)〜(3)式を用いて予測する方法である。
以下に、本発明について詳細に説明する。なお、%は特に示さない限り、質量%である。
【0025】
1.超高強度コンクリート
本発明において、自己収縮ひずみを予測する対象となるコンクリートは、超高強度コンクリートである。
そして、前記超高強度コンクリートは、通常、中庸熱ポルトランドセメントおよび/または低熱ポルトランドセメントと、シリカフュームと、骨材と、水とを少なくとも含むものである、
また、前記シリカフュームのBET比表面積は5〜15m/gが好ましく、7〜13m/gがより好ましい。該値が5m/g未満では、シリカフュームの反応性が低下し、超高強度コンクリートの初期の強度発現性が不十分になるおそれがあり、該値が15m/gを超えると、超高強度コンクリートの流動性が低下するおそれがある。
また、粉体中のシリカフュームの含有率は5〜30%が好ましく、8〜25%がより好ましい。該値が5%未満では、水粉体比が、例えば、17%以下、特に15%以下と低い場合に、超高強度コンクリートの粘性が上昇して流動性が低下するおそれがある。また、該値が30%を超えると、超高強度コンクリートの強度発現性が低下するおそれがある。
前記超高強度コンクリートに用いる骨材は、特に制限されないが、例えば、玄武岩、安山岩、流紋岩、斑レイ岩、石灰石、硬質砂岩、粘板岩、砂岩、花崗岩、角閃岩、凝灰岩および砂利等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。かかる骨材は、天然骨材でも再生骨材でもよい。
【0026】
また、前記超高強度コンクリートの水粉体比は、施工性や強度発現性などの観点から、10〜25%が好ましく、10〜20%がより好ましく、10〜18%が更に好ましい。
前記水粉体比を有する超高強度コンクリートの圧縮強度は、例えば、材齢28日において100N/mm以上、かつ、材齢91日において120N/mm超が好ましく、材齢28日において120N/mm超、かつ、材齢91日において150N/mm以上がより好ましい。
また、前記超高強度コンクリートにおいて、流動性および強度発現性の向上のために、さらに石膏を添加してもよい。この場合、粉体中の石膏の含有率はSO換算で10%以下が好ましい。該値が10%を超えると、材料分離が生じやすく、強度が低下するおそれがある。また、石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。
さらに、前記超高強度コンクリートは、減水剤、高性能減水剤および高性能AE減水剤などの混和剤を含んでもよい。
【0027】
2.超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測
該予測は、下記(1)〜(3)式を用いて、自己収縮ひずみを算出することにより行われる。
εas=γ×3070×exp{−7.2×(W/P)}×{1−exp(−a×t} …(1)
a=2.79×exp{−10.1×(W/P)} …(2)
b=0.11×exp{7.92×(W/P)} …(3)
(式中、εasは自己収縮ひずみ(×10−6)を表し、γは実験定数(0.45)を表し、W/Pは水粉体比(%)を表し、tは超高強度コンクリートの凝結始発時を起点とする該コンクリートの材齢(日)を表す。)
本発明に係る予測式は、上記のとおり、変数として水粉体比とコンクリートの材齢だけを用いるため、自己収縮ひずみを極めて簡易に算出して予測することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[超高強度コンクリートの自己収縮ひずみと圧縮強度の測定]
表5に示す材料を用い、表6に示す配合に従い、超高強度コンクリートの供試体を作製し、その自己収縮ひずみと圧縮強度を測定した。
具体的には、自己収縮ひずみは、日本コンクリート工学協会基準・JCI−SAS2「セメントペースト、モルタルおよびコンクリートの自己収縮および自己膨張試験方法(案)」に準じ、材齢1日で、大きさが100×100×400mmの供試体を脱型した後、該供試体の露出面の全てに、アルミ箔粘着テープを貼付し、20℃の恒温室内で封緘養生を継続しながら、測温機能付き埋込型ひずみ計を用いて測定した。また、圧縮強度については、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じ、標準養生(20℃の水中で養生)した、大きさがφ100×200mmの円柱供試体の、材齢7日、28日および91日における圧縮強度を測定した。
圧縮強度の測定結果を、図1に示す。また、自己収縮ひずみの測定結果と、本発明に係る予測式を用いて得た自己収縮ひずみの予測曲線と、参考例として非特許文献1に記載の予測式を用いて得た自己収縮ひずみの予測曲線とを、図2に示す。
【0029】
図1に示すように、全ての供試体の圧縮強度は、材齢28日で120N/mmを超え、材齢91日では150N/mmを超えている。
また、図2から分かるように、本発明に係る予測式を用いて算出した予測値(予測曲線)は、骨材の種類に依らず、いずれの水結合材比においても、実測値とよく一致している。
したがって、本発明の予測方法を用いれば、簡易に精度よく、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを予測することができる。
【0030】
【表5】

【0031】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高強度コンクリートの自己収縮ひずみを、下記の(1)〜(3)式を用いて予測する、超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。
εas=γ×3070×exp{−7.2×(W/P)}×{1−exp(−a×t} …(1)
a=2.79×exp{−10.1×(W/P)} …(2)
b=0.11×exp{7.92×(W/P)} …(3)
(式中、εasは自己収縮ひずみ(×10−6)を表し、γは実験定数(0.45)を表し、W/Pは水粉体比(%)を表し、tは超高強度コンクリートの凝結始発時を起点とする該コンクリートの材齢(日)を表す。)
【請求項2】
前記超高強度コンクリートが、中庸熱ポルトランドセメントおよび/または低熱ポルトランドセメントと、シリカフュームと、骨材と、水とを少なくとも含む、請求項1に記載の超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。
【請求項3】
前記超高強度コンクリートの水粉体比が10〜25%である、請求項1または2に記載の超高強度コンクリートの自己収縮ひずみの予測方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−36769(P2013−36769A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170848(P2011−170848)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】