説明

超高純度シリカ粉及びその製造方法、並びに前記超高純度シリカ粉を用いた単結晶引上げ用シリカガラスルツボ

【課題】本発明は、半導体工業や光通信工業で使用できる超高純度のシリカ粉、特に単結晶引上げ用ルツボの製造原料としてもまた、LSIの封止剤用充填物として有用なシリカ粉、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】珪酸アルカリ水溶液から製造した超高純度シリカ粉であって、鉄成分の含有量が80ppb以下である超高純度シリカ粉および珪酸アルカリ水溶液から生成した高純度含水シリカゲルを高温加圧下で無機酸処理したのち、1000℃以上の温度で焼成する超高純度シリカ粉の製造方法、並びに前記超高純度シリカ粉から得られた結晶引上げ用ルツボ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超高純度シリカ粉及びその製造方法、さらに詳しくは半導体工業や光通信工業に用いられる高純度シリカガラスの原料やLSIの製造に用いる封止剤用充填物である超高純度シリカ粉及びその製造方法、並びに前記超高純度シリカ粉を用いて形成した単結晶引上げ用シリカガラスルツボに関する。
【0002】
【従来技術】従来、半導体工業や光通信工業の分野で用いるシリカガラス原料としては、高純度の天然石英(水晶)を微粉砕した結晶質シリカ粉が用いられてきた。しかしながら前記高純度の天然石英は資源的にも少ない上に枯渇の問題がある。そのため資源的に制限の少ない原料によるシリカ粉の研究が盛んに行われ、例えば高度に蒸留純化した化学薬品であるエトキシシランやメトキシシランのような珪酸エステルや四塩化珪素の加水分解で生成したシリカゲルから高純度シリカ粉を製造する方法が提案された。しかし、前記原料の珪酸エステル等は高価でコスト高となるため、より安価な原料である珪酸アルカリ水溶液(水ガラス)を使用する高純度シリカ粉の製造が検討され研究されたが、珪酸アルカリ水溶液中にはナトリウムを始めとして各種不純物が多く含まれており、従来の製造方法ではそれらの不純物を十分に除去することができず半導体工業や光通信工業の分野で使用するシリカガラスの原料としては不向きであった。そこで、前記不純物を除去し高純度のシリカ粉とする方法が、例えば特開昭59ー54632号公報、特公平5ー5766号公報、特公平5−35087号公報、特公平7ー57685号公報等で提案されている。前記提案の製造方法で得られたシリカ粉はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属元素、放射性元素などの不純物が除去され高純度ではあるが、半導体工業や光通信工業の分野で使用するシリカガラスの製造原料とするには未だ充分な純度とはいいがたく、特に単結晶引上げ用ルツボの製造に使用するには鉄成分含有量が高すぎる欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】こうした現状に鑑み本発明者等は鋭意研究を続けた結果、上記各公報等に記載の方法で得られた高純度含水シリカゲルをさらに高温加圧下で無機酸で処理することで鉄成分の含有量の少ない超高純度の含水シリカゲルが得られ、それを焼成することで超高純度のシリカ粉が得られることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち、
【0004】本発明は、半導体工業や光通信工業の分野で有用に使用できる超高純度シリカ粉を提供することを目的とする。
【0005】また、本発明は、上記超高純度シリカ粉の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】さらに、本発明は、上記超高純度シリカ粉を用いて形成した単結晶引上げ用ルツボを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明は、珪酸アルカリ水溶液から製造された超高純度のシリカ粉であって、鉄成分の含有量が80ppb以下である超高純度シリカ粉、および珪酸アルカリ水溶液から生成した高純度含水シリカゲルを高温加圧下で無機酸処理したのち、1000℃以上の温度で焼成する超高純度シリカ粉の製造方法、並びに前記超高純度シリカ粉を用いた単結晶引上げ用シリカガラスルツボに係る。
【0008】本発明の超高純度シリカ粉は、公知の高純度含水シリカゲルを高温でかつ加圧状態で無機酸処理し、含有不純物、特に鉄成分を80ppb以下とした超高純度のシリカ粉である。前記超高純度とは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の含有量が1ppm以下、放射性元素の含有量が1ppb以下、遷移金属元素の含有量が100ppb以下で、かつ鉄成分の含有量が80ppb以下のことをいう。本発明のシリカ粉はこのように超高純度であるところから、半導体処理用治具作成のためのシリカガラス原料としても、またLSIの製造時に用いる封止剤用充填剤としても充分に使用できる。さらに、鉄成分の含有量が80ppb以下であるので、高純度化が要請される単結晶引上げ用ルツボの製造用原料として有効に利用できる。
【0009】上記超高純度シリカ粉は、珪酸アルカリ水溶液に無機酸を作用させて生成した高純度の含水シリカゲルを高温加圧下で無機酸処理し、次いで純水で洗浄し、乾燥したのち、1000℃以上の温度で焼成することで製造されるが、前記「珪酸アルカリ水溶液」とは、液状の水ガラスであって、アルカリと珪酸系ガラスの濃厚水溶液のことをいう。また前記「無機酸」とは、各種の一般的な無機酸及びそれらの混酸をいい、二酸化珪素を溶かすフッ化水素酸は包含しない。特に好適な無機酸としては、含水シリカゲルの乾燥後残存しない塩酸、硝酸及びそれらの混酸が挙げられる。前記無機酸は、含水シリカゲルの形成や高温加圧処理で使用されるが、その際同一の無機酸を用いてもまた異なった無機酸を用いてもよい。前記高純度含水シリカゲルの製造方法としては、例えば特開昭59ー54632号公報記載の珪酸アルカリの水溶液を水素イオン濃度1.5以下の強酸性で処理する方法、特公平5−35087号公報、特公平7ー57685号公報等に記載の珪酸アルカリの水溶液をノズルから無機酸紡糸浴に紡出した繊維状ゲル中空体又は中実体とする方法などが挙げられる。
【0010】ところで、含水シリカゲルはシリカの1次粒子とその間隙をなす細孔の集合体として構成されているが、不純物の抽出はこれら1次粒子内に存在する不純物元素を細孔を通してシリカゲルの外へ移動させる操作である。1次粒子はシリカ分子の密な集合体であるから、不純物の抽出速度は1次粒子の大きさにコントロールされ、1次粒子の粒子径が小さければ小さい程抽出が有利となる。
【0011】一方、1次粒子径と比表面積との間には式(1)
【0012】
【式1】
SA=2730/d (1)
(式中、SA:比表面積(m2/g)、d:シリカ1次粒子径(nm)である)の関係がある。
【0013】本発明者等の実験によれば、含水シリカゲルの比表面積が400m2/g以上となると不純物の抽出が容易になるが、反対に比表面積が400m2/g未満では1次粒子径が成長し過ぎ微量なレベルでの不純物の抽出が困難となることがわかっている。そのため、本発明にあっては含水シリカゲルの比表面積を400m2/g以上とする。前記比表面積はマイクロトラックベータソープ自動表面積計モデル4200(日揮装株式会社製)を用いたBET法で測定するのがよい。
【0014】本発明の製造方法における、高純度含水シリカゲルの高温加圧下での無機酸処理条件としては、温度110〜170℃、圧力1.2〜2.0気圧、処理時間3〜8時間の範囲で容器の耐熱性に応じた範囲が選択される。使用容器としては無機酸に浸食されない容器であれば密閉容器でもまた加圧手段を有する非密閉容器でもよいが、好ましくはフッ素樹脂製の密閉容器がよい。該容器は無機酸に侵されない上に、容器の耐熱性が170℃であるところから、約170℃にまで密閉状態で加熱でき、容器内の圧力が1.2〜2気圧にまで上昇し加圧手段を必要としない。より好ましい容器としてはフッ素樹脂容器の外側に密接して金属容器を配した二重構造の容器、特に耐塩酸性ステンレス鋼のSUS316製鞘容器とする密閉容器がよい。前記密閉容器を用いて、含水シリカゲルと塩酸とを導入し、それを160℃で3〜8時間加熱保持することで超高純度シリカ粉が容易に製造できる。前記フッ素樹脂としては、具体的にポリ四フッ化エチレン(PTFE)、TFEとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、TFEとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体、エチレンとTFEとの共重合体、エチレンとビニルフルオライドとの共重合体、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体などが挙げられる。
【0015】本発明の超高純度シリカ粉の製造方法において、1回目の高温加圧下での無機酸処理で、溶出した鉄成分の含有量が含水シリカゲル中の二酸化珪素1グラム当たり10ナノグラムを超える場合には、無機酸を新たに取り替えた上で高温加圧下での無機酸処理を複数回繰り返し、鉄成分の含有量を含水シリカゲル中の二酸化珪素1グラム当たり10ナノグラム以下とするのがよい。前記高純度の含水シリカゲルを1000℃以上の温度で焼成することで鉄成分の含有量が80ppb以下のシリカ粉が製造できる。これは、含水シリカゲルの表層部近傍の鉄成分が浸出されても中心部分では鉄成分が残るため、製造されたシリカ粉中の平均鉄成分の含有量が80ppb以下になることによる。
【0016】本発明の製造方法において無機酸の使用量を多くする程鉄元素が多く抽出できるが、その反面処理できるシリカゲル量が少なくなるので、両者のバランスを配慮した使用量の範囲が選ばれる。通常、使用する無機酸の濃度範囲は1〜30重量%、好ましくは5〜15重量%、さらに好ましくは7〜12重量%である。一方、含有シリカゲルに関しては二酸化珪素基準で3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは7〜15重量%である。
【0017】本発明のシリカ粉は、鉄成分の含有量が80ppb以下であるところから単結晶引上げ用ルツボの製造用原料として使用できる。ルツボ全体を本発明のシリカ粉で形成してもよいが、さらに好ましくは回転している型内に結晶質天然石英粉を供給してルツボ形状の粉体層を形成し、粉体層の内面から加熱して前記粉体層を溶融させ、多気泡のルツボ基体を製造し、この多気泡のルツボ基体内を高温雰囲気にし、そこに本発明のシリカ粉を供給し、部分的に溶融させながら前記多気泡のルツボ基体に付着させて透明シリカガラス層とする単結晶引上げ用ルツボがよい(特開平5ー105577号公報参照)。
【0018】
【発明の実施の態様】次に具体例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれにより限定されるものではない。
【0019】
【実施例】
実施例1JIS3号水ガラスを加熱濃縮して、20℃における粘度を300センチポイズとした。この水ガラス8リットルをポンプで加圧し、濾過機(目開き70μm)を経てノズル(孔径0.2mm、孔数50個)を通して、50℃に保持された15重量%の硫酸水溶液300リットルの凝固浴中に毎分24mの速度で紡出して繊維状シリカを得た。前記繊維状シリカを酸含有液として10倍量の新たに調製した15重量%硫酸水溶液中に浸漬して温度95℃で約1時間攪拌して不純物の抽出を行い、繊維状含水シリカを酸含有液から分離した。この繊維状含水シリカを10倍量の純水を用いて4回洗浄したのち濾過による固液分離で分離し高純度の繊維状含水シリカゲルを得た。前記高純度の繊維状含水シリカゲルの10グラムを分取して50℃で減圧乾燥したのちBET法で比表面積を測定したところ700m2/gであった。一方、繊維状含水シリカゲルを1グラム分取して電気炉で1200℃で焼成したところ0.55グラムの二酸化珪素が得られた。
【0020】上記高純度の繊維状含水シリカゲル2グラムを蓋付きフッ素樹脂容器にとり、それに20%硫酸を10ml加えて蓋をし、ステンレス製鞘容器内に挿入し密封し、160℃で4時間加熱した。冷却後硫酸中の鉄成分を測定したところ120ナノグラムであった。この繊維状含水シリカゲル2グラムには1.1グラムの二酸化珪素に相当するシリカが含まれているから、二酸化珪素1グラム当たり109ナノグラムの鉄成分が溶出していることがわかる。繊維状含水シリカゲルを抽出水からデカンテーションにより分離し、それに再び20%塩酸を10ミリリットル加えて、高温加圧処理を繰り返した。抽出された鉄成分は二酸化珪素1グラム当たり10ナノグラム以下であった。得られた繊維状含水シリカゲルを濾別し乾燥したのち1200℃に焼成してシリカ粉を得た。該シリカ粉中の鉄成分の含有量は60ppbであった。
【0021】実施例2JIS3号水ガラス100gをビュウレットを通してゆっくりと50℃に保持した15重量%硫酸水溶液1リットルを入れたフッ素樹脂製ビーカーに滴下した。滴下終了後攪拌しながら30分間保持し、得られた塊状シリカを、酸含有液として10倍量の新たに調整した15重量%硫酸水溶液中に浸漬して温度95℃で約1時間攪拌して不純物の抽出を行い、分離した。次いで前記塊状含水シリカを10倍量の純水を用いて4回洗浄したのち濾過による固液分離で高純度の塊状含水シリカゲルを得た。該高純度塊状含水シリカゲルを実施例1と同様にして蓋付きフッ素樹脂容器に入れ、さらに20%の硝酸を入れて高温加圧処理を行ったのち、1200℃で焼成したところ鉄成分含有量が40ppbのシリカ粉が得られた。
【0022】比較例1実施例1で得た繊維状含水シリカゲルを内部が常圧のロータリーエバポレーター内で、加熱硫酸で繰り返し洗浄した。得られたシリカゲルは二酸化珪素1グラム当たり700ppbの鉄成分を含んでいた。
【0023】比較例2比較例1で得た繊維状含水シリカゲルを500℃で熱処理して含水量が30%の繊維状含水シリカゲルとし、実施例1と同様に高温加圧下の無機酸処理を繰り返した。前記処理を3回繰り返し、繊維状含水シリカゲル中の鉄成分含有量を測定したところ500ppbであった。さらに前記処理を3回繰り返したが鉄成分含有量は500ppbのままであった。
【0024】
【発明の効果】本発明の超高純度シリカ粉は、鉄成分の含有量が80ppb以下である上に、放射性元素の含有量も1ppb以下であり、半導体工業で使用する各種部材の原料としてもまたLSIの製造に用いる封止剤用充填物として有用である。特に鉄成分の含有量が少ないところから、単結晶引き上げ用ルツボ製造原料としても十分に利用できる。前記超高純度シリカ粉は高温加圧下で高純度含水シリカゲルを無機酸で処理し、それを洗浄、乾燥、焼成するという簡易な方法で製造でき、工業的価値は高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】珪酸アルカリ水溶液から製造した超高純度のシリカ粉であって、鉄成分の含有量が80ppb以下であることを特徴とする超高純度シリカ粉。
【請求項2】珪酸アルカリ水溶液から生成した高純度含水シリカゲルを高温加圧下で無機酸処理したのち、1000℃以上の温度で焼成することを特徴とする超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項3】高温加圧下の無機酸処理を、該無機酸により抽出される鉄成分の含有量が含水シリカゲル中の二酸化珪素1グラム当たり10ナノグラム以下となるまで繰り返すことを特徴とする請求項2記載の超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項4】高温加圧下の無機酸処理を温度110〜170℃、圧力1.2〜2気圧で3〜8時間行うことを特徴とする請求項2又は3記載の超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項5】高純度含水シリカゲルの比表面積が400m2/g以上であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1記載の超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項6】高純度含水シリカゲルが珪酸アルカリの水溶液に無機酸を作用させて生成した高純度含水シリカゲルであることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1記載の超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項7】高純度含水シリカゲルが珪酸アルカリの水溶液を無機酸の紡糸浴に紡出して生成した高純度繊維状シリカゲルであることを特徴とする請求項6記載の超高純度シリカ粉の製造方法。
【請求項8】請求項1記載の超高純度シリカ粉を用いて形成した単結晶引上げ用シリカガラスルツボ。
【請求項9】結晶質シリカガラスを原料とする気泡含有シリカガラス層の内層を請求項1記載の超高純度シリカ粉で形成した透明石英ガラス層としたことを特徴とする単結晶引上げ用シリカガラスルツボ。

【公開番号】特開平11−11931
【公開日】平成11年(1999)1月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−179174
【出願日】平成9年(1997)6月20日
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【出願人】(591138038)株式会社龍森 (4)
【出願人】(000003953)日東化学工業株式会社 (11)