説明

踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置

【課題】しゃ断かんを動作させる電動モータの電流データに基づき、しゃ断かんの折損の有無を正確に判断する。
【解決手段】本発明は、電動モータにより動作するしゃ断かんによって鉄道と交差する道路を踏切道の手前で遮断する踏切しゃ断機におけるしゃ断かんの折損を検知する踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置2であって、しゃ断かんが動作する時の電動モータの電流値の時系列データを収集するデータ収集部3と、時系列データの近似関数を算出する近似演算部4と、所定の判定基準時において近似関数が判定許容範囲から逸脱するか否かにより、しゃ断かんの折損を判定する異常判定部6とを備える。
【効果】近似関数により折損有無や折損状況の違いによるモータ電流の時系列変化の違いを顕在化させ、判定許容範囲の設定のみならず、判定基準時の選択により折損の検出精度を追及でき、折損をより正確に判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、踏切しゃ断機では、主に自動車によるしゃ断かんの折損が度々発生している。これは、例えば、自動車がしゃ断かんの降下完了の直前に踏切を強引に通過しようとしたり、しゃ断かんによって閉じ込められた踏切内から脱出しようとしたりして発生する。このようなしゃ断かんの折損は、踏切への侵入防止の機能が失われて非常に危険であるため、速やかに検知される必要がある。
【0003】
このしゃ断かんの折損を検知するために、しゃ断かんを動作させる電動モータの電流データを用いる技術がある。
特許文献1に記載の装置にあっては、モータ電流の時系列データの線形統計量を算出して、その線形統計量の合計値を求めるとともに、時系列データに基づいて軌道平行測度を演算して非線形統計量を算出し、非線形統計量の平均値を求め、線形統計量の合計値および非線形統計量の平均値をそれぞれ評価関数として、2次元空間にプロットし、プロットされた外側の各点により形成される領域を正常エリアとする。その後、しゃ断機が動作するたびに、しゃ断機が動作したときの電流データを収集して、線形統計量の合計値および非線形統計量の平均値を求め、これらを2次元空間にプロットした点が正常エリアの外部に存在すれば、しゃ断かんの折損と判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の発明にあっては、正常エリアを決定するためにモータ電流の時系列データを大量に蓄積する必要があり、蓄積データ数が少なければ検知精度が低下し、ある程度の検知精度を得るために蓄積データ数を多くするとデータ収集作業に時間を要してしまう。
また、特許文献1記載の発明にあっては、「軌道平行測度」等のパラメータがユーザにとって直感しにくいため、導入に理解が得がたいとともにユーザによる設定に委ねる項目を設けることが難しい。
また、しゃ断かんの折損には、しゃ断かんがすべて奪われる完全折損のみならず、いずれかの部位から部分的に奪われる部分折損のほか、折れた部位から先が繋がった状態でぶら下がるぶら下がり折損などの様々な状況があり、いずれも検知すべきである。
しかし、従来技術にあっては、正常を異常と判断したり異常を正常と判断したりする誤検知が生じることがあり、しゃ断かん折損検知の精度を向上するという課題が依然として存在する。
【0006】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、しゃ断かんを動作させる電動モータの電流データに基づきしゃ断かんの折損を検知するにあたり、折損の有無を正確に判断することができる踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、鉄道と交差する道路を踏切道の手前で電動モータにより動作するしゃ断かんによって遮断する踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置であって、
前記しゃ断かんが略水平位置から略垂直位置に上昇動作する時の前記電動モータの電流値の時系列データを収集するデータ収集部と、
前記時系列データの近似関数を算出する近似演算部と、
前記近似演算部で算出した近似関数をしゃ断かんの個体識別情報と関連付けて蓄積するデータベース部と、
前記しゃ断かんが略水平位置から略垂直位置に上昇動作する区間に属する所定の判断基準時における、しゃ断かんを上昇動作させる毎に算出した近似関数の値が、判定許容範囲から逸脱するか否かにより前記しゃ断かんの折損を判定する異常判定部と、を備えることを特徴とする踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記近似演算部は、
前記時系列データの入力を受けると、前記時系列データにおける前記電動モータの起動電流を除く前記電動モータ電流中から最大値を検出する最大値検出部と、
前記最大値検出部で検出した最大値となった時間以前又は以後の範囲にある前記時系列データから所定の電流値となる時間を当てはめ区間開始点として設定する当てはめ区間設定部と、を備え、
前記当てはめ区間開始点から収集を中止する時点までの範囲にある前記時系列データに対して前記近似関数を算出することを特徴とする請求項1に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記データベース部は、前記異常判定部による判定が行われたその都度の判定結果と、判定の対象となった前記しゃ断かんの上昇動作時の前記時系列データ、及び前記近似関数を決定する情報を前記しゃ断かんが上昇動作した時刻と関連付けて蓄積することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記データベース部から読み出された近似関数を表示する表示手段と、
前記判定許容範囲をオペレータに設定させる設定手段と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記データベース部は、折損していない正常なしゃ断かん及び折損防止器等の付属品を取り付けた実際の使用状態で踏切しゃ断機をしゃ断かんの長さ毎に上昇動作させたときの前記電動モータの電流に基づき算出した近似関数並びに同条件で上昇動作を複数繰り返して得た近似関数群をもとに設定した判定許容範囲を記憶していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記異常判定部は、しゃ断かん上昇時の所定位置における電動モータの電流値と同一時点の判定許容範囲の値を比較し、判定許容範囲の値から逸脱したことを検知して折損判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【0013】
請求項7記載の発明は、前記異常判定部は、しゃ断かんの位置が略水平時に近い時点における判定許容範囲の値とこれと同一時点の電動モータの電流値を比較して、折損判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれかに一に記載のしゃ断かん折損検知装置である。
【0014】
請求項8記載の発明は、前記踏切しゃ断機は、バランスウエイト及びバランス補助機構を有さない踏切しゃ断機であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、踏切しゃ断機を敷設して使用するしゃ断かんを複数回上昇させた時のそれぞれの電動モータの電流値を時系列データとして収集するなどして前記時系列データの近似関数を算出し、予め正常時における複数の近似関数からなる近似関数群等に基づき設定される判定許容範囲を参照して、実稼動時の近似関数が、所定の判定基準時において当該判定許容範囲から逸脱するか否かにより、しゃ断かんの折損を判定する。近似関数により折損有無や折損状況の違いによるモータ電流の時系列変化の違いを顕在化させ、判定許容範囲の設定のみならず、判定基準時の選択により折損の検出精度を追及でき、折損をより正確に判断することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る踏切しゃ断機としゃ断かん折損検知装置の構成ブロック図である。
【図2】長さの異なる3つのしゃ断かんをそれぞれ水平位置から垂直位置まで上昇動作させた時のモータ電流の時系列データの一例を示すグラフである。
【図3】図2に示した各時系列データの当てはめ区間にそれらの一次関数による近似関数を重ねて表示したグラフである。
【図4】同じ長さのしゃ断かんをそれぞれ水平位置から垂直位置まで繰り返し上昇動作させた時のモータ電流の時系列データ群の一例を示すグラフと、これらの時系列データの一次関数による近似関数群を重ねて表示したグラフである。
【図5】図2に示した各時系列データの当てはめ区間にそれらの二次関数による近似関数を重ねて表示したグラフである。
【図6】図4のグラフの一次関数による近似関数群をしゃ断かん水平時方向に延長し、これを挟む判定許容範囲を設定すべき一例の領域を仕切る上閾値と下閾値を破線で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0018】
図1に示すように踏切しゃ断機1に接続された本実施形態のしゃ断かん折損検知装置2は、データ収集部3と、近似演算部4と、データベース部5と、異常判定部6と、しゃ断かん長設定スイッチ7とを本体部に備え、さらに本体部にコネクタ8を介して着脱自在に接続される設定・モニタ部9とを備える。
【0019】
踏切しゃ断機1は、しゃ断かんを水平回動軸に保持し、電動モータによりしゃ断かんを水平位置から垂直位置に、垂直位置から水平位置に昇降動作させる。
【0020】
データ収集部3は、踏切しゃ断機1からモータ電流、昇降開始信号及び昇降停止信号の入力を受ける。
データ収集部3は、電流センサ31と、A/D変換器32と、データ記憶部33と、時計34とを有する。
データ収集部3は、上昇開始信号を受けるとモータ電流の計測及び時系列データの収集を開始する。すなわち、データ収集部3は、電流センサ31により検出した電流値をA/D変換器32によりA/D変換するとともに、順次時計34により刻まれる時刻に対応付けて蓄積することでモータ電流の時系列データを生成し、データ記憶部33に記憶する。
データ収集部3は、上昇停止信号を受けると一の上昇動作信号に係る時系列データを完結し、この時系列データを近似演算部4に出力する。
【0021】
近似演算部4は、データ収集部3から上記の時系列データの入力を受ける。
近似演算部4は、最大値検出部41と、当てはめ区間決定部42と、近似式演算部43とを有する。
近似演算部4は、時系列データの入力を受けると、まず、最大値検出部41が当該時系列データにおけるモータの起動電流を除くモータ電流の中から最大値を検出する。すなわち、最大値検出部41は、モータの起動電流を除くモータ電流の最大値及び最大値となった時間を特定する。
次に、当てはめ区間決定部42は、最大値となった時間以前又は以後の範囲にある時系列データから最大値の10〜100%の間で定めた電流値となる時間を設定すると、これを当てはめ区間開始点とする。最大値の10〜100%の間での定めは、予めデータベース部5に保存しておくので、当てはめ区間決定部42は、これを参照する。
次に、近似式演算部43は、当てはめ区間開始点から計測中止までの範囲にある時系列データに対し、一次関数、二次関数、三次関数等による近似式の最小2乗法等の手法による当てはめを行って、近似式を決定、すなわち、近似関数を算出する。
時系列データ及びその近似式を決定する情報が、しゃ断かんの固体識別情報に関連付けてデータベース部5に保存される。近似式を決定する情報には、関数の種類とその係数及び定数が相当する。
【0022】
設定・モニタ部9は、オペレータからの操作信号を入力する入力装置及び表示モニタから構成される。すなわち、設定・モニタ部9は設定手段及び表示手段を構成する。
しゃ断かん折損検知装置2は、設定・モニタ部9から入力される要求に従って、データベース部5から当該要求に係る近似式を決定する情報を読出して近似関数を再計算し、設定・モニタ部9に近似関数をグラフ表示する。しゃ断かん折損検知装置2は、正常時の近似関数、異常時の近似関数とを色分け等により区別可能にして複数の近似関数をグラフ表示する。また、しゃ断かん折損検知装置2は、設定・モニタ部9から入力される要求に従って、設定・モニタ部9に時系列データをグラフ表示する。
また、しゃ断かん折損検知装置2は、設定・モニタ部9から判定許容範囲の設定入力、設定変更入力を受け、これをしゃ断かんの固体識別情報に関連付けてデータベース部5に保存する。データベース部5は、判定許容範囲の変更履歴を蓄積し、異常判定部6には最終の判定許容範囲を出力する。なお、判定基準時における判定許容範囲が設定対象となる。判定基準時は、しゃ断かん水平時から垂直時までの区間から判断しやすい時点を選んで設定することができる。
また、しゃ断かん折損検知装置2は、設定・モニタ部9から上述した近似式の当てはめ区間の設定変更入力を受け、これをデータベース部5に保存する。
【0023】
しゃ断かん長設定スイッチ7は、オペレータの操作に従ってしゃ断かん長の設定を異常判定部6に入力する。オペレータは、しゃ断かん長設定スイッチ7を操作して、踏切しゃ断機1に装備されるしゃ断かんの長さを設定入力する。なお、しゃ断かん長設定スイッチ7の機能を、上記の設定・モニタ部9に実現してもよい。
【0024】
異常判定部6は、近似値計算部61と、判定部62と、許容範囲記憶部63とを有する。
異常判定部6は、しゃ断かん長設定スイッチ7から入力された設定に従ってしゃ断かんの固体識別情報を特定してデータベース部5からその判定許容範囲を読出し、許容範囲記憶部63に記憶する。
必要な設定が完了した後、異常判定部6の判定機能が有効とされる。
判定機能が有効とされた異常判定部6においては、しゃ断かんの上昇動作毎に近似値計算部61が、その上昇動作に係る時系列データに対して近似演算部4が決定した近似式に判定基準時を入力して、判定基準時におけるモータ電流の近似値を計算し、判定部62に出力する。
判定部62は、近似値計算部61から近似値の入力を受けると、許容範囲記憶部63から判定許容範囲を読出し、当該近似値が当該判定許容範囲から逸脱するか否かによりしゃ断かんの折損を判定する。すなわち、判定部62は当該近似値が当該判定許容範囲内の値なら正常と判断し、当該近似値が当該判定許容範囲外の値なら折損と判断し、判定信号を外部出力する。
判定部62の判定があるたびに、データベース部5は、判定結果と、判定の対象となったしゃ断かんの上昇動作時の時系列データ及びその近似式を決定する情報を、しゃ断かんが上昇動作した時刻と関連付けて記憶蓄積する。
【0025】
次に、図2から図5のグラフを参照しながら改めて本実施形態のしゃ断かん折損検知装置2につき説明する。
しゃ断かんを昇降させるモータの負荷を軽減することを主な目的として、しゃ断かん回転軸より後端側のしゃ断かん後端部に取り付けられたバランスウエイトや、しゃ断かん回転軸に補助力を入力するスプリング等による補助機構が利用されている。
図2から図5に示すデータは、踏切しゃ断機1を、バランスウエイトも補助機構もない踏切しゃ断機とした場合である。バランスウエイトも補助機構もない踏切しゃ断機は、バランスウエイトや補助機構を有する踏切しゃ断機に比較してモータの負荷が大きいため、モータの動力をしゃ断かん回転軸に伝達する減速機構の減速比が大きく設定されて実現されている。
またバランスウエイトも補助機構もない場合、しゃ断かん水平時から垂直時へ上昇駆動期間中の初期の負荷トルクが終期の負荷トルクに対して著しく大きいため、しゃ断かん水平時から垂直時へ上昇するときに、モータ電流が変動しながら漸次減少していく傾向を示す。このような傾向の踏切しゃ断機に対しては、本発明のしゃ断かん折損検知装置を特に好適に適用することができる。
【0026】
図2は、長さの異なる3つのしゃ断かんをそれぞれ水平位置から垂直位置まで上昇動作させた時のモータ電流の時系列データを示すグラフである。図2に示すように、モータ電流が細かく増減変動しながらも全体的には漸次減少していく傾向を示す。3つのうち時系列データV1が最も長いしゃ断かんのデータ、時系列データV2が中間の長さ、時系列データV3が最も短いしゃ断かんのデータである。
データ収集部3は、図2に示すような時系列データを収集し近似演算部4に出力する。
【0027】
図3にも、時系列データV1,V2,V3が示される。但し、当てはめ区間決定部42が決定する当てはめ区間内のデータのみが表示される。
図3は最大値となった時間以前の範囲にある時系列データから最大値の約80%となる時間を当てはめ区間開始点とした一例であり、この当てはめ区間開始点から計測中止までの範囲を当てはめ区間としている。しゃ断かん水平時から垂直時へ上昇するときに、モータ電流が変動しながら漸次減少していく傾向を示す踏切しゃ断機の場合においては、電動モータの起動電流を除くデータから電動モータの最大値を検出して、当該最大値を含む±略20%の間で定めた電流値となる時間以降の範囲にある時系列データに対し近似関数を算出することで、良好にしゃ断かん折損検知が可能である。
次に、近似式演算部43は、当てはめ区間の時系列データV1に対して一次関数による近似式の最小2乗法の手法による当てはめを行って、近似式を決定、すなわち、図3のグラフに示す近似関数V1aを算出する。
同様に、当てはめ区間の時系列データV2に対して近似関数V2aを、当てはめ区間の時系列データV3に対して近似関数V3aを算出する。
【0028】
図4に示す時系列データ群V1sは、図3に示した時系列データV1に相当するしゃ断かんの繰り返し上昇動作により取得したもので、当てはめ区間のみのものである。
上記と同様に近似式演算部43は、時系列データ群V1s中の各時系列データに対して近似関数を算出し、図4に示す近似関数群V1asを作成する。
【0029】
以上の図3、図4に示した時系列データと近似関数が設定・モニタ部9に表示される。なお、図5に示しように二次関数の近似関数V1b,V2b,V3bやその他の種類の関数を適用してもよい。
【0030】
次に、本実施形態のしゃ断かん折損検知装置2を、その初期設定から使用開始までの一連の流れに沿って説明する。
【0031】
まず、次のように本装置2の製造時に初期設定を行う。
しゃ断かん折損検知装置2の本体部に設定・モニタ部9を接続する。
しゃ断かんを複数回上昇動作させて得た時系列データに前記した手順に従って近似関数群を取得し、それを元に判定許容範囲を設定する。さらに長さの異なるしゃ断かん及びしゃ断かん折損防止器付きしゃ断かん等の場合についても同様に判定許容範囲を設定し、これらを標準的な判定許容範囲としてデータベース部5に記憶させておく。
すなわち、データベース部5は、折損していない正常なしゃ断かん、及び折損防止器等の付属品を取り付けた実際の使用状態で踏切しゃ断機をしゃ断かんの長さ毎に上昇動作させたときの電動モータの電流に基づき算出した近似関数並びに同条件で上昇動作を複数繰り返して得た近似関数群をもとに設定した判定許容範囲を記憶する。
【0032】
図3の近似関数V1a,V2a,V3aから分かるように、長さの異なるしゃ断かんを上昇させるモータの電流は、グラフの左端で最も大きく差がついており、右に行くほど差は小さくなる。このことから、判定基準時をグラフの左端に近づけるほど判定が容易となることがわかる。判定基準時は、デフォルトでプログラムに書き込まれる。後で入力可能とする場合には、設定・モニタ部9が操作されて判定基準時が入力され、データベース部5に記憶される。
次に、判定許容範囲を決める。判定許容範囲は、判定基準時において図4に示す近似関数群V1asが含まれる幅に風や周囲振動の影響によるしゃ断かんの揺れを考慮して多少の幅を加味して設定しておくとよい。例えば、図6に示すように破線VL−破線VH間の幅で判定許容範囲を設定する。
これにより、しゃ断かん正常時には、近似値計算部61が計算する近似値は判定許容範囲に含まれるので正常と判定でき、折損するとしゃ断かんは短くなるから近似関数群V2asの方へ移動して判定許容範囲を外れて折損と判定することができる。
以上のような判定許容範囲をしゃ断かん長毎に設定し、データベース部5に入力する。
【0033】
次に、踏切しゃ断機設置現場における本しゃ断かん折損検知装置2の使用前の設定や確認につき説明する。
まず、しゃ断かん折損検知装置2の本体部に設定・モニタ部9を接続する。
オペレータが設定・モニタ部9(又はしゃ断かん長設定スイッチ7)を操作してしゃ断かん長を選択する。
選択されたしゃ断かんの時系列データ群、近似関数群及び判定許容範囲が設定・モニタ部9に表示される。
オペレータは、設定されている判定許容範囲を確認し、判定許容範囲に変更があれば設定・モニタ部9を操作して判定許容範囲を変更入力した後、設定を終了する。
【0034】
判定許容範囲が設定されていれば、異常判定部6は有効に働き、本しゃ断かん折損検知装置2の使用が開始される。但し、まずはテスト使用として、以下のように判定動作をモニタリングして確認し、必要に応じて判定許容範囲を調整する。
それには、まず、しゃ断かん折損検知装置2の本体部に設定・モニタ部9を接続する。
オペレータが設定・モニタ部9を操作して、選択されたしゃ断かんの時系列データ群、近似関数群及び設定された判定許容範囲が設定・モニタ部9に表示させる。
しゃ断かんの動作に伴ってモータ電流値の時系列データが設定・モニタ部9にグラフ表示され、一回の上昇動作終了後に計算された近似関数が設定・モニタ部9にグラフ表示される。そして、近似値計算部61の計算する近似値も設定・モニタ部9に表示出力されるとともに、判定許容範囲内ならば「正常」が、判定許容範囲外ならば「しゃ断かん折損」が設定・モニタ部9に表示出力される。
判定があるたびに、データベース部5は、判定結果と、判定の対象となったしゃ断かんの上昇動作時の時系列データ及びその近似関数を決定する情報を、しゃ断かんが上昇動作した時刻と関連付けて記憶蓄積する。
オペレータは、以上のように判定動作をモニタリングして、判定許容範囲を調整すべきときは、設定・モニタ部9を操作して判定許容範囲を変更入力する。
すべての確認、設定が完了すれば、しゃ断かん折損検知装置2の本体部から設定・モニタ部9を切り離す。これにより、しゃ断かん折損検知装置2が検知機能を発揮できる状態となったので踏切しゃ断機1を動作させて使用すればしゃ断かん折損検知が可能となる。更に使用中にしゃ断かん折損検知装置2が正常と判断したデータを収集し、近似式を計算した結果をデータベース部5に記憶しておき、設定・モニタ部9を接続して判定許容範囲の再設定を行う際に追加データとして参照できるようにしておくと判定精度を向上させることができる。
設定・モニタ部9を常時接続して使用する場合には設定表示と使用表示の画面切替スイッチを設け、設定表示の画面では判定許容範囲の調整操作の案内表示を行い、使用表示の画面では判定動作、判定結果を表示するようにしても良い。また、判定結果としては正常、不明、折損」の他、部分折損を表示できるようにしても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 踏切しゃ断機
2 しゃ断かん折損検知装置
3 データ収集部
4 近似演算部
5 データベース部
6 異常判定部
7 しゃ断かん長設定スイッチ
8 コネクタ
9 設定・モニタ部
V1,V2,V3 モータ電流の時系列データ
V1a,V2a,V3a 近似関数
V1s モータ電流の時系列データ群
V1as 近似関数群
V1b,V2b,V3b 近似関数(二次関数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道と交差する道路を踏切道の手前で電動モータにより動作するしゃ断かんによって遮断する踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置であって、
前記しゃ断かんが略水平位置から略垂直位置に上昇動作する時の前記電動モータの電流値の時系列データを収集するデータ収集部と、
前記時系列データの近似関数を算出する近似演算部と、
前記近似演算部で算出した近似関数をしゃ断かんの個体識別情報と関連付けて蓄積するデータベース部と、
前記しゃ断かんが略水平位置から略垂直位置に上昇動作する区間に属する所定の判断基準時における、しゃ断かんを上昇動作させる毎に算出した近似関数の値が、判定許容範囲から逸脱するか否かにより前記しゃ断かんの折損を判定する異常判定部と、を備えることを特徴とする踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項2】
前記近似演算部は、
前記時系列データの入力を受けると、前記時系列データにおける前記電動モータの起動電流を除く前記電動モータ電流中から最大値を検出する最大値検出部と、
前記最大値検出部で検出した最大値となった時間以前又は以後の範囲にある前記時系列データから所定の電流値となる時間を当てはめ区間開始点として設定する当てはめ区間設定部と、を備え、
前記当てはめ区間開始点から収集を中止する時点までの範囲にある前記時系列データに対して前記近似関数を算出することを特徴とする請求項1に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項3】
前記データベース部は、前記異常判定部による判定が行われたその都度の判定結果と、判定の対象となった前記しゃ断かんの上昇動作時の前記時系列データ、及び前記近似関数を決定する情報を前記しゃ断かんが上昇動作した時刻と関連付けて蓄積することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項4】
前記データベース部から読み出された近似関数を表示する表示手段と、
前記判定許容範囲をオペレータに設定させる設定手段と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項5】
前記データベース部は、折損していない正常なしゃ断かん及び折損防止器等の付属品を取り付けた実際の使用状態で踏切しゃ断機をしゃ断かんの長さ毎に上昇動作させたときの前記電動モータの電流に基づき算出した近似関数並びに同条件で上昇動作を複数繰り返して得た近似関数群をもとに設定した判定許容範囲を記憶していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項6】
前記異常判定部は、しゃ断かん上昇時の所定位置における電動モータの電流値と同一時点の判定許容範囲の値を比較し、判定許容範囲の値から逸脱したことを検知して折損判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項7】
前記異常判定部は、しゃ断かんの位置が略水平時に近い時点における判定許容範囲の値とこれと同一時点の電動モータの電流値を比較して、折損判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれかに一に記載のしゃ断かん折損検知装置。
【請求項8】
前記踏切しゃ断機は、バランスウエイト及びバランス補助機構を有さない踏切しゃ断機であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載の踏切しゃ断機のしゃ断かん折損検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35667(P2012−35667A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175061(P2010−175061)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】