説明

車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法

【課題】車両の減速時におけるエネルギーの回生の際に、電動発電機を発電効率の高い回転数に維持して、充電器における充電状態を高いレベルで維持することができる車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】電動発電機11、充電器12、変換器13、及び制御装置14を備えた車両搭載用の動力回生装置10において、電動発電機11の内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間に変速機構11cを設け、この変速機構11cを介して内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間の回転力の伝達を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド車に用いられている電動発電機(モータージェネレーター)として適用可能な車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車、HEV車)では、電動機(モーター)の動力によって発進及び加速を行い、減速時は発電機(ジェネレーター)を使用する回生ブレーキによってエネルギーの回収を行っている。これらの車両では、充電器(バッテリー)、変換機(インバーター)、電動発電機(モータージェネレーター)、及び、制御装置(コントローラー)で構成された動直回生装置を搭載し、車両の発進時及び加速時には、電気自動車では電動機による発進・加速を行い、ハイブリッド車では内燃機関の出力をパワーアシストし、車両の減速時には、電気自動車もハイブリッド車も発電機によるエネルギー回生を行い、これらの切り替えを行いながら、走行している。
【0003】
この場合のエネルギー収支の関係としては、発進時及び加速時の電力の持ち出し量と減速時の回生量とのバランスは、相当長い下り坂でもない限り、持ち出し量が回生量を上まわる「持ち出し量>回生量」の関係になっており、充電器の充電状態(SOC:ステート オブ チャージ)は低下する一方となる。つまり、一般的に、発進時及び加速時における電気エネルギーの持ち出し量に対し、減速時における電気エネルギーの回生量は少なく、充電器の充電量は減少する傾向であり、電気自動車では走行距離が短くなってしまい、ハイブリッド車では、内燃機関の出力に対するアシスト量が小さくなってしまう。
【0004】
これに関連して、エンジン、クラッチ、自動変速機、電動機(第2モータージェネレータ)の順で接続された車両用駆動装置で、電動機の回生時にエンジンの回転速度が所定の回転速度になるようにクラッチのスリップ状態を適切に制御して、クラッチが完全係合されている場合に比較してクラッチより上流側のエンジンの回転抵抗を抑制して、電動機の回生量を多く取ることを可能にして、燃費を向上させる車両用駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−191018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の減速時におけるエネルギーの回生の際に、電動発電機を発電効率の高い回転数に維持して、充電器における充電状態を高いレベルで維持することができる車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の車両搭載用の動力回生装置は、電動発電機、充電器、変換器、及び制御装置を備えた車両搭載用の動力回生装置において、前記電動発電機の内側入出力軸と外側入出力軸の間に変速機構を設け、該変速機構を介して前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間の回転力の伝達を行うように構成される。
【0008】
この構成によれば、電動発電機の内部に変速機構を設けているので、車両の発進時及び加速時には電動発電機の出力効率の高い回転数を維持し、また、車両の減速時には電動発電機を発電効率の高い回転数に維持することができ、充電状態(SOC)を高いレベルに維持する制御を行うことができるようになる。
【0009】
つまり、充電器の充電状態に応じて、最も回生効率が良い回転数に近い領域で電動発電機を運転できるようにして、減速時の回生エネルギーを発進時及び加速時の動力として最大限に利用できるようになる。特に、従来技術では極低速における回転数での回生に主眼をおいた場合には、高速域では電動発電機の効率点を外してしまうことになるが、このようなデメリットを回避できるようになる。
【0010】
また、上記の車両搭載用の動力回生装置において、前記制御装置が、車両の発進時及び加速時には前記外側入出力軸の回転数を前記内側出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記電動発電機の動力を車輪の駆動軸側に出力し、車両の減速時には前記内側入出力軸の回転数を前記外側入出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記駆動軸側から入力された動力を前記電動発電機に伝達する制御を行うように構成すると、同じ車両速度であっても、発進時及び加速時、並びに、減速時で変速段を切り替えるので、車両の発進時及び加速時のエネルギーの放出量を減少すると共に、車両の減速時のエネルギーの回生量を増加することができ、これにより、充電器の充電状態を良好に維持することができる。
【0011】
なお、加速と減速の判断は、アクセルポジションによって行うことができ、車両の減速時には電動発電機の内側入出力軸の回転数を外側入出力軸の回転数よりも増速する変速段(ギア)が選択され、電動発電機の内側入出力軸の回転数を車両の発進時及び加速時の内側入出力軸の回転数よりも上昇させる。
【0012】
更に、上記の車両搭載用の動力回生装置において、前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間にクラッチ機構を設けると共に、前記制御装置が、前記充電器の充電状態が予め設定した範囲に達した場合で、かつ、車両が減速中の場合には、前記クラッチ機構を断絶することにより前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間を切り離すように構成すると、これにより、逆起電力による電流降下を起す回転数にならないようにクラッチ機構を制御して、電動発電機を発電効率の高い回転数に維持することで、充電器の充電状態を高いレベルで維持することができる。
【0013】
つまり、車両の減速時であっても、エネルギーの回生を必要としない場合には、クラッチ機構を断絶することにより、内側入出力軸と外側入出力軸の間を切り離すことで、引き摺りによるフリクションを低減して、惰行距離を延ばして、燃費を稼ぐことができる。つまり、電動発電機と充電器の保護及び惰行中のフリクション低減による燃費改善を図ることができる。言い換えれば、充電装置内の回生エネルギーが増加して、充電状態が所定の範囲に収まった場合には、減速時の回転数も加速時と同じ回転数となる変速段(ギア)のままとし、フリクション低減のためのクラッチの切り離しを行う。
【0014】
また、内側入出力軸と外側入出力軸の間にクラッチ機構を設けることにより、減速から再加速の際にドライバーに違和感を与えるような遅れの発生を回避でき、更に、装置自体を小さくすることができる上に、電動発電機の保護にもなる。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明の車両搭載用の動力回生装置の制御方法は、電動発電機、充電器、変換器、及び制御装置を備えた車両搭載用の動力回生装置の制御方法において、前記電動発電機の内側入出力軸と外側入出力軸の間に変速機構を設け、該変速機構を介して前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間の回転力の伝達を行うと共に、車両の発進時及び加速時には前記外側入出力軸の回転数を前記内側出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記電動発電機の動力を車輪の駆動軸側に出力し、車両の減速時には前記内側入出力軸の回転数を前記外側入出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記駆動軸側から入力された動力を前記電動発電機に伝達することを特徴とする方法である。
【0016】
この方法によれば、同じ車両速度であっても、車両の発進時及び加速時、並びに、車両の減速時で変速段を切り替えるので、車両の発進時及び加速時のエネルギーの放出量を減少し、また、車両の減速時のエネルギーの回生量を増加することができ、これにより、充電器の充電状態を良好に維持することができる。
【0017】
また、上記の車両搭載用の動力回生装置の制御方法において、前記充電器の充電状態が予め設定した範囲に達した場合で、かつ、車両が減速中の場合には、前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間に設けたクラッチ機構を断絶することにより前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間を切り離すと、これにより、逆起電力による電流降下を起す回転数にならないようにクラッチ機構を制御して、電動発電機を発電効率の高い回転数に維持することができる。
【0018】
なお、車軸用の変速機(T/M)のギア段の制御は、電動発電機のトルクカーブが最も効率の良いポイント付近で運転できるように、つまり、車速に応じて車軸用の変速機(T/M)のギア段の変速制御を電動発電機の回転数が最適になるように行う。
【0019】
また、減速時の回生時の車軸用の変速機(T/M)のギア段の制御は、基本的には、TCM(トランスミッションコントロールモジュール)の制御に従うが、充電状態によっては、HCU(ハイブリッドコントロールユニット)またはMCU(モータ−コントロールユニット)側からの制御をTCMの制御に割り込ませて優先して、一段ギアを低くしたり、ドライバーのブレーキ信号(スイッチ)を読み取り、一段ギアを下げた状態で維持したりする等の制御を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法によれば、電動発電機に内蔵された変速機構により回転数を切り替えることで、車両の発進時及び加速時に消耗したエネルギーを、車両の減速時に効率よく回生できるようになり、充電状態を安定した状態で維持できるようになる。
【0021】
これにより、充電状態を下限値以上に維持するために、エネルギーの回生量が増えることで、電気自動車(EV車)の場合には走行距離が伸び、ハイブリッド車(HV車、HEV車)の場合にはパワーアシスト量を減らしたり、パワーアシストを止めたりする心配、言い換えれば、低充電状態時にパワーアシスト制限等を受ける心配も大幅に減ることとなるとともに、燃費を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施の形態の動力回生装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に係る車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法について説明する。なお、以下では電気自動車(EV車)を例にして説明するが、本発明は電気自動車に限定されず、ハイブリッド車(HV車、HEV車)等の電動車両全般に適用可能である。
【0024】
図1に示すように、本発明に係る車両搭載用の動力回生装置10は、電動発電機(モータージェネレーター)11、充電器(バッテリー)12、変換器(インバーター)13、及び制御装置(コントローラー)14、変速機(トランスミッション:T/M)15を備えて構成される。
【0025】
この車両搭載用の動力回生装置10では、電動発電機11の内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間に変速機構11cを設け、この変速機構11cを介して内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間の回転力の伝達を行うように構成される。更に、内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間にクラッチ機構11dを設ける。例えば、この車両搭載用の動力回生装置10は、二段変速ギア内蔵クラッチ付きモータージェネレーターで構成される。
【0026】
そして、車両1の発進時や加速時等で、電動発電機11が充電器12から供給され変換機13で適切な周波数の交流電気に変換された電力によって駆動されると、内側入出力軸11aの回転力(トルク)が、クラッチ機構11d、変速機構11c、外側入出力軸11bを経て変速機15に伝達され、更に、駆動軸(プロペラ・シャフト)16と差動装置(ディファレンシャル・ギア)17と車軸(アクスル・シャフト)18を介して車輪19に回転力が伝達されて、車両を走行させる。
【0027】
また、車両1の減速時等で、電動発電機11が車輪19の回転によるエネルギーを回生する場合には、逆に、車輪19の回転力が、車軸18、差動装置17、駆動軸16、変速機15を経て、外側入出力軸11bに回転力が伝達され、変速機構11c、クラッチ機構11dを介して、内側入出力軸11aが駆動され、電動発電機11で発電されて、車輪19の回転エネルギーを電気エネルギーに変換し、更に、変換機13で直流電気に変換して、充電器12に充電する。
【0028】
この構成によれば、車両1の発進時及び加速時には電動発電機11の出力効率の高い回転数を維持し、また、車両1の減速時には電動発電機11を発電効率の高い回転数に維持することで、充電器12の充電状態(SOC)を高いレベルに維持する制御を行うことができるようになる。 次に、この車両搭載用の動力回収装置10における制御方法について説明する。車両1の発進時及び加速時には外側入出力軸11bの回転数を内側出力軸11aの回転数よりも低くする変速段に変速機構11cを切り替えて、電動発電機11の動力を車輪19の駆動軸16側に出力し、車両1の減速時には内側入出力軸11aの回転数を外側入出力軸11bの回転数よりも低くする変速段に変速機構11cを切り替えて、電動発電機11の駆動軸16側から入力された動力を電動発電機11に伝達する制御を行う。
【0029】
これにより、同じ車両速度であっても、発進時及び加速時、並びに、減速時で変速機構11cの変速段を切り替えることで、車両1の発進時及び加速時のエネルギーの放出量を減少し、また、車両1の減速時のエネルギーの回生量を増加することができるので、これにより、充電器13の充電状態(SOC)を良好に維持することができる。
【0030】
なお、加速と減速の判断は、アクセル位置検出装置20で検出されるアクセルポジションによって行うことができ、車両1の減速時には電動発電機11の内側入出力軸11aの回転数を外側入出力軸11bの回転数よりも増速する変速段(ギア)が選択され、電動発電機11の内側入出力軸11aの回転数を車両1の発進時及び加速時の内側入出力軸11aの回転数よりも上昇させる。
【0031】
更に、充電器12の充電状態が予め設定した範囲に達した場合で、かつ、車両1が減速中の場合には、クラッチ機構11dを断絶(OFF)することで内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間を切り離す。つまり、充電器12内の回生エネルギーが増加して、充電状態が所定の範囲に収まった場合には、減速時の回転数も加速時と同じ変速段(ギア)のままとし、フリクション低減のためにクラッチの切り離しを行う。
【0032】
これにより、逆起電力による電流降下を起す回転数にならないようにクラッチ機構11dを制御して、電動発電機11を発電効率の高い回転数に維持することができる。このように、車両1の減速時であっても、エネルギーの回生を必要としない場合には、クラッチ機構11dにより、内側入出力軸11aと外側入出力軸11bの間を切り離すことで、電動発電機11と充電器12の保護、及び、引き摺りによるフリクションを低減して、惰行距離を延ばして、燃費を稼ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法によれば、車両の減速時におけるエネルギーの回生の際に、電動発電機を発電効率の高い回転数に維持して、充電器における充電率を高いレベルで維持することができるので、電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車、HEV車)等の車両搭載用の動力回生装置及びその制御方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 車両
10 車両搭載用の動力回生装置
11 電動発電機(モータ−ジェネレーター)
12 充電器(バッテリー)
13 変換器(インバーター)
14 制御装置(コントローラー)
15 変速機(トランスミッション:T/M)
11a 内側入出力軸
11b 外側入出力軸
11c 変速機構
11d クラッチ機構
16 駆動軸(プロペラ・シャフト)
17 差動装置(ディファレンシャル・ギア)
18 車軸(アクスル・シャフト)
19 車輪
20 アクセル位置検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動発電機、充電器、変換器、及び制御装置を備えた車両搭載用の動力回生装置において、前記電動発電機の内側入出力軸と外側入出力軸の間に変速機構を設け、該変速機構を介して前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間の回転力の伝達を行うことを特徴とする車両搭載用の動力回生装置。
【請求項2】
前記制御装置が、車両の発進時及び加速時には前記外側入出力軸の回転数を前記内側出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記電動発電機の動力を車輪の駆動軸側に出力し、車両の減速時には前記内側入出力軸の回転数を前記外側入出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記駆動軸側から入力された動力を前記電動発電機に伝達する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両搭載用の動力回生装置。
【請求項3】
前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間にクラッチ機構を設けると共に、前記制御装置が、前記充電器の充電状態が予め設定した範囲に達した場合で、かつ、車両が減速中の場合には、前記クラッチ機構を断絶することにより前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間を切り離すことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両搭載用の動力回生装置。
【請求項4】
電動発電機、充電器、変換器、及び制御装置を備えた車両搭載用の動力回生装置の制御方法において、前記電動発電機の内側入出力軸と外側入出力軸の間に変速機構を設け、該変速機構を介して前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間の回転力の伝達を行うと共に、車両の発進時及び加速時には前記外側入出力軸の回転数を前記内側出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記電動発電機の動力を車輪の駆動軸側に出力し、車両の減速時には前記内側入出力軸の回転数を前記外側入出力軸の回転数よりも低くする変速段に切り替えて、前記駆動軸側から入力された動力を前記電動発電機に伝達することを特徴とする車両搭載用の動力回生装置の制御方法。
【請求項5】
前記充電器の充電状態が予め設定した範囲に達した場合で、かつ、車両が減速中の場合には、前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間に設けたクラッチ機構を断絶することにより前記内側入出力軸と前記外側入出力軸の間を切り離すことを特徴とする請求項4に記載の車両搭載用の動力回生装置の制御方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−83276(P2013−83276A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221534(P2011−221534)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】