説明

車両用シートの前倒し機構

【目的】車両用シートの前倒し機構の構成部品の部品点数を削減して、同機構の重量、およびコストの低減を図る。
【構成】前倒し機構20を、クッションフレ−ム27aに固定されるロアアーム21と、ロアアーム21に下端部を連結されるとともに上端部をバックフレーム28aに回動可能に連結されるアッパアーム22と、アッパアーム22の中間部に設けられアッパアーム22に対するシートバック28の前方への回動を解除可能に規制するロック手段24を備えた構成として、アッパアーム22の上端部側連結部Bをシートバック28の前倒し時の回動支点Bとし、従来のサブアッパフレーム、同フレームを組付けるためのボルト、ナット、支持ピンを削減した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両用シートの前倒し機構に関する。
【0002】
【従来の技術】車両用シートの一形式として、シートバックの下端部側を前倒し機構を介してシートクッションの後端部側に前後方向へ回動可能に組付けてなり、前記シートバックを前方へ回動して前記シートクッションの上面側へ同上面と略水平状態に前倒し可能に構成してなる車両用シートがある。当該車両用シートにおいて、シートバックをシートクッションの上面に対して略水平状態に前倒しするには、シートクッションおよびシートバックの厚みの関係から、シートバックのシートクッションに対する回動支点をシートクッションの後端部の上方に位置させる必要があり、前倒し機構は通常図7〜図10R>0に示すように構成されている。
【0003】すなわち、当該前倒し機構10は、ロアアーム11、アッパアーム12a、サブアッパアーム12b、ロックレバー13、ロックピン14、操作レバー15、およびテンションスプリング16を構成部材とするもので、ロアアーム11はシートクッション17を構成するクッションフレ−ム17aの後端部に固定され、またサブアッパアーム12bはシートバック18を構成するバックフレーム18aの下端部に固定されている。また、アッパアーム12aはその下端部にてロアアーム11の後端側上部に回動可能に連結され、かつその上端部にてサブアッパアーム12bの下端部に回動可能に連結されている。
【0004】当該前倒し機構10においては、アッパアーム12aの下端部側の連結部がシートバック18の前後方向の傾斜角度を調整する回動支点Aであり、かつアッパアーム12aの上端部側の連結部がシートバック18を前方へ前倒しする際の回動支点Bである。これらの回動支点のうち、回動支点Aの近傍にはラチェット、ポール、レリーズレバー等からなるリクライニング機構が配設されて、ラチェットとポールとの噛合によりアッパアーム12aをロアアーム11に対して固定してシートバック18を起立状態に保持し、かつかかる噛合をレリーズレバーの操作により解除してアッパアーム12aを前後方向へ所望量回動させて、シートバック18の前後方向の傾斜角度を調整し得るように構成される。すなわち、当該前倒し機構10は、シートバック18が2段に折れるように構成されている。
【0005】一方、回動支点Bの近傍には、ロックレバー13、ロックピン14、操作レバー15、およびテンションスプリング16が配設されている。ロックピン14はアッパアーム12aに設けられて、サブアッパアーム12bの円弧状の長孔12c内を貫通して延びている。ロックレバー13はサブアッパアーム12bに、ロックピン14とは離れた部位にて回動可能に支持されている。また、操作レバー15はロックレバー13と一体的に回動可能にサブアッパアーム12bに支持され、かつテンションスプリング16の付勢力にて図8の図示時計方向へ回動して、ロックレバー13のフック部をロックピン14に掛止して、サブアッパアーム12bのアッパアーム12aに対する回動を規制している。
【0006】従って、操作レバー15をテンションスプリング16に抗して回動すると、これに伴ってロックレバー13が同方向に回動してロックピン14から外れ、サブアッパアーム12bはアッパアーム12aに対して回転支点Bを中心に前後方向に回動可能となる。このため、シートバック18を前方へ回動して、シートクッション17の上面に沿って水平状態に前倒しすることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、当該前倒し機構10は上記したごとく、ロアアーム11、アッパアーム12a、サブアッパアーム12b、ロックレバー13、ロックピン14、操作レバー15、およびテンションスプリング16を主要構成部材とするもので、その他にこれらを組付けるためのボルト19a、ナット19b、支持ピン19c,19dを含めると、図10に示すように構成部品が多く、当該前倒し機構10を採用することにより車両用シートの重量が増大するとともに、コストの上昇を招く。従って、本発明の目的はこれらの問題に対処することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、シートバックの下端部側を前倒し機構を介してシートクッションの後端部側に前後方向へ回動可能に組付けて、前記シートバックを前方へ回動して前記シートクッションの上面側へ同上面と略水平状態に前倒し可能に構成してなる車両用シートにおいて、前記前倒し機構を、前記シートクッション側に固定されるロアアームと、同ロアアームに下端部を連結されるとともに上端部を前記シートバック側に回動可能に連結されるアッパアームと、同アッパアームの中間部に設けられ同アッパアームに対する前記シートバック側の前方への回動を解除可能に規制するロック手段を備えた構成とし、前記アッパアームの上端部側の連結部を前記シートバックの前倒し時の回動支点としたことを特徴とするものである。
【0009】本発明に係る前倒し機構においては、前記アッパアームの下端部を前記ロアアームに回動可能に連結するとともに同アッパアームの上端部を前記シートバック側に回動可能に連結して、前記アッパアームの下端部側の連結部を前記シートバックの前後方向の傾斜角度を調整する回動支点とし、かつ同アッパアームの上端部側の連結部を前記シートバックの前倒し時の回動支点として構成することができる。
【0010】
【発明の作用・効果】このように構成した車両用シートの前倒し機構においては、アッパアームの上端部をシートバック側に直接連結してこの連結部をシートバックの前倒し時の回動支点に構成しているため、従来のこの種の前倒し機構に採用されていたサブアッパアームを省略することができるとともに、さらにはサブアッパアームをアッパアームに連結するための支持ピン、サブアッパアームをシートバック側へ固定するためのボルト、ナット等を省略することができるため、構成部品の部品点数の削減、重量の低減、およびコストの低減を図ることができる。
【0011】また、本発明に係る前倒し機構において、アッパアームの下端部をロアアームに回動可能に連結するとともに同アッパアームの上端部をシートバック側に回動可能に連結して、アッパアームの下端部側の連結部をシートバックの前後方向の傾斜角度を調整する回動支点とし、かつ同アッパアームの上端部側の連結部をシートバックの前倒し時の回動支点に構成すれば、シートバックが2段に折れる前倒し機構を、構成部品、重量、およびコストを低減して構成することができる。
【0012】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基づいて説明するに、図1、図2および図6には、本発明に係る前倒し機構20が示されている。当該前倒し機構20は図1〜図6に示すように、ロアアーム21、アッパアーム22、およびロック手段を構成するロック孔23aを備えたロック部材23、ロックピン24、操作ノブ25、および圧縮スプリング26を構成部材とするもので、ロアアーム21はシートクッション27を構成するクッションフレ−ム27aの後端部に固定されている。また、アッパアーム22はその下端部にてロアアーム21の後端側上部に支持ピン29aを介して回動可能に連結され、かつその上端部にて段付ボルト29bを介してシートバック28のバックフレーム28aの下端部に回動可能に連結されている。なお、段付ボルト29bはアッパアーム22を回動可能に支持した状態で、バックフレーム28に固着したウェルドナット29cに螺着されている。
【0013】当該前倒し機構20においては、アッパアーム22の下端部側のロアアーム21に対する連結部がシートバック28の前後方向の傾斜角度を調整する回動支点Aであり、かつアッパアーム22の上端部側のバックフレーム28aに対する連結部がシートバック28を前方へ前倒しする際の回転支点Bである。これらの回動支点のうち、回動支点Aの近傍にはラチェット、ポール、レリーズレバー等からなる公知のリクライニング機構が配設されて、ラチェットとポールとの噛合によりアッパアーム22をロアアーム21に対して固定してシートバック28を起立状態に保持し、かつかかる噛合をレリーズレバーの操作により解除してアッパアーム22を回動支点Aを中心にして前後方向へ所望量回動させて、シートバック28の前後方向の傾斜角度を調整し得るように構成される。すなわち、当該前倒し機構20は、シートバック28が2段に折れるように構成されている。
【0014】一方、アッパアーム22の中間部には図1〜図3に示すように、円筒状のケーシング22aが設けられており、ケーシング22aはロックピン24を内外方向へ摺動可能に支持しているとともに、ケーシング22a内にはロックピン24を内方へ付勢する圧縮スプリング26が収容されている。ロックピン24はその外端部に操作ノブ25が固定されていて、圧縮スプリング26の付勢力にてその内端部側がアッパアーム22、バックフレーム28aを貫通した状態でロック部材23のロック孔23aに挿入されている。この状態で、バックフレーム28aのアッパアーム22に対する回動が規制されている。また、ロックピン24は操作ノブ25を外側へ引っ張り操作することにより圧縮スプリング26に抗して外側へ摺動して、ロックピン24の内端部がロック部材23のロック孔23aおよびバックフレーム28aの貫通孔から抜き出され、バックフレーム28aをアッパアーム22に対して回転支点Bを中心に前後方向へ回動可能とする。これにより、シートバック28を回動支点Bを中心にして前方へ回動させて、シートクッション27の上面に沿って水平状態に前倒しすることができる。
【0015】なお、本実施例においては図1および図3に示すように、バックフレーム28aの下端部の先端側が傾斜部28bに形成されている。この傾斜部28bはバックフレーム28が前後方向に回動する際にロックピン24と対向する位置にあり、前方に向かって漸次内側へ傾斜する形状に形成されている。このため、シートバック28が前倒しされていてロックピン24がアッパアーム22から内側へ所定長さ突出している状態において、シートバック28を後方へ回動して起立状態にする場合には、シートバック28の回動途中にロックピン24の内端がバックフレーム28aの傾斜部28bに摺接して傾斜部28b上を移行し、ロックピン24は最後にバックフレーム28aの貫通孔およびロック部材23のロック孔23aに挿入される。これにより、シートバック28は後方へ回動させるだけでロック手段により回動を規制されて、所定の傾斜角度にて起立状態となる。
【0016】このように構成した前倒し機構20において、アッパアーム22の下端部をロアアーム21に回動可能に連結するとともにアッパアーム22の上端部をバックフレーム28aに回動可能に連結して、アッパアームの下端部側の連結部をシートバック28の前後方向の傾斜角度を調整する回動支点Aとし、かつ同アッパアーム22の上端部側の連結部をシートバック28の前倒し時の回動支点Bに構成しているため、従来のサブアッパアームの使用を廃止することができるとともに、同サブアッパアームを取付けるためのボルト、ナット、支持ピン等を廃止することができるため、シートバック28が2段に折れる前倒し機構を、構成部品の部品点数を削減し、重量およびコストを低減して構成することができる。
【0017】すなわち、当該前倒し機構20においては、当該前倒し機構20の構成部品を示す図6と、従来の前倒し機構10の構成部品を示す図10とを比較すれば明らかなように構成部品の部品点数を削減することができて、これにより重量の低減およびコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る前倒し機構の正面図である。
【図2】同前倒し機構の拡大斜視図である。
【図3】同前倒し機構における図2の矢印3−3線方向に見た拡大断面図である。
【図4】同前倒し機構における図2の矢印4−4線方向に見た一部省略拡大断面図である。
【図5】同前倒し機構における図2の矢印5−5線方向に見た拡大断面図である。
【図6】同前倒し機構の拡大分解斜視図である。
【図7】従来の前倒し機構の正面図である。
【図8】同前倒し機構の部分拡大正面図である。
【図9】同前倒し機構における図8の矢印9−9線方向に見た拡大断面図である。
【図10】同前倒し機構の拡大分解斜視図である。
【符号の説明】
10,20…前倒し機構、11,21…ロアアーム、12a,22…アッパアーム、12b…サブアッパアーム、13…ロックレバー、23…ロック部材、14,24…ロックピン、16,26…スプリング、17,27…シートクッション、27a…クッションフレ−ム、18,28…シートバック、28a…バックフレーム、A,B…回動支点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】シートバックの下端部側を前倒し機構を介してシートクッションの後端部側に前後方向へ回動可能に組付けてなり、前記シートバックを前方へ回動して前記シートクッションの上面側へ同上面と略水平状態に前倒し可能に構成してなる車両用シートにおいて、前記前倒し機構を、前記シートクッション側に固定されるロアアームと、同ロアアームに下端部を連結されるとともに上端部を前記シートバック側に回動可能に連結されるアッパアームと、同アッパアームの中間部に設けられ同アッパアームに対する前記シートバックの前方への回動を解除可能に規制するロック手段を備えた構成とし、前記アッパアームの上端部側連結部を前記シートバックの前倒し時の回動支点としたことを特徴とする車両用シートの前倒し機構。
【請求項2】請求項1に記載の前倒し機構において、前記アッパアームの下端部を前記ロアアームに回動可能に連結するとともに同アッパアームの上端部を前記シートバック側に回動可能に連結して、前記アッパアームの下端部側連結部を前記シートバックの前後方向の傾斜角度を調整する回動支点とし、かつ同アッパアームの上端部側連結部を前記シートバックの前倒し時の回動支点としたことを特徴とする車両用シートの前倒し機構。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平8−324315
【公開日】平成8年(1996)12月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−138266
【出願日】平成7年(1995)6月5日
【出願人】(000101639)アラコ株式会社 (11)