説明

車両用スタータ装置

【課題】ロールオーバを防止できることと、エンジンの振動がダンパーにより緩和されることにより、ワンウェイクラッチに使用されているスプリングの疲労破損や磨耗の防止に役立ち、ワンウェイクラッチの損傷が防止すること。
【解決手段】エンジンの振動を低減するダンパー10がワンウェイクラッチ3とエンジン1までの間でかつエンジン1と変速機4との間の位置に装着されている。これにより、例えば、スタート時において、エンジン1の着火ミスにより生ずる場合がある、逆転方向の衝撃トルクが、ダンパー10により、軽減され、ワンウェイクラッチ3の出力メンバーに入力されるトルクが緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のスタータ装置に使用される車両用スタータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両用エンジンは、スタータ用モータからワンウェイクラッチを介してエンジンを駆動し始動される。
【0003】
エンジンが始動して、ワンウェイクラッチのモータによる入力メンバーの回転数より出力側メンバーのエンジンにより回転される回転数が上回ると、ワンウェイクラッチは空転する。
【0004】
通常、エンジンが駆動されている場合においては、ワンウェイクラッチは、空転しており、エンジンからの回転は、ワンウェイクラッチにより遮断され、これにより、モータが回転されて損傷することを防止している。
【0005】
例えば、特許文献1に於いては、エンジンのクランクプーリは、クラッチを介してクランク軸に取り付けられると共に、始動用ベルトを介して始動装置のスタータプーリに連結されている。クラッチは、エンジン始動時にクランクプーリからクランク軸へ駆動トルクを伝達し、エンジン始動後にクランク軸からクランクプーリへの駆動トルクを遮断する一方向クラッチである。従って、エンジン始動後は、クラッチが切り離されるため、始動装置がOFFされて回転を停止すると、始動用ベルトおよびクランクプーリの回転も停止する。これにより、エンジンの運転中は、エンジンの発生トルクが始動用ベルトを回転させるために消費されることはなく、トルクロスを低減できる。
【0006】
また、特許文献2に於いては、始動装置は、始動用電動機の出力軸に取付けたピニオンギアと、ピニオンギアに噛合うリングギアとを備えている。ピニオンギアはシザースギア機構を備えたはすば歯車によって形成されている。リングギアは、ピニオンギアと噛合可能なはすば歯車により形成されている。リングギアは、内燃機関のクランク軸に設けられていて、ピニオンギアと常時噛合するようになっている。リングギアとクランク軸との間に、始動用電動機側から内燃機関側への駆動力の伝達のみを許容するワンウェイクラッチが設けられている。
【特許文献1】特開2006−63902号公報(P2006−63902A)
【特許文献2】特開2000−274337号公報(P2000−274337A)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、ロールオーバ(過大負荷によるワンウェイクラッチの破損の一形態)が防止できることと、エンジンの振動がダンパーにより緩和されることにより、ワンウェイクラッチに使用されているスプリングの疲労破損や磨耗の防止に役立ち、ワンウェイクラッチの損傷が防止することができる、車両用スタータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る車両用スタータ装置は、スタータ用モータとスタータ用ワンウェイクラッチが介装されている車両用スタータ装置において、
エンジン振動を低減するダンパーがワンウェイクラッチとエンジンまでの間でかつエンジンと変速機との間の位置に装着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンジン振動を低減するダンパーがワンウェイクラッチとエンジンまでの間でかつエンジンと変速機との間の位置に装着されている。これにより、例えば、スタート時において、エンジンの着火ミスにより生ずる場合がある、逆転方向の衝撃トルクが、ダンパーにより、軽減され、ワンウェイクラッチの出力メンバーに入力されるトルクが緩和される。
【0010】
その結果、ロールオーバ(過大負荷によるワンウェイクラッチの破損の一形態)が防止できることと、エンジンの振動がダンパーにより緩和されることにより、ワンウェイクラッチに使用されているスプリングの疲労破損や磨耗の防止に役立ち、ワンウェイクラッチの損傷が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る車両用スタータ装置を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用スタータ装置の模式的ブロック図である。
【0013】
図1に於いて、1は、エンジンであり、2は、スタータ用モータであり、3は、ワンウェイクラッチであり、4は、変速機である。10は、後に詳述するダンパーである。
【0014】
ワンウェイクラッチ3は、従来のスタータ用として使用されている、ディスエンゲージタイプのワンウェイクラッチを使用している。
【0015】
図2は、図1に示した車両用スタータ装置の模式的断面図である。
【0016】
図2に於いて、ワンウェイクラッチ3の外輪3aが回転すると、所定の回転数以上の空転状態で、内輪3b側と噛合いメンバー(スプラグまたはローラ)が非接触状態となり、空転時において噛合いメンバーと内輪3bの磨耗が防止できる。
【0017】
スタータ用モータ2は、ピニオンギア2aとリングギア2bを介して、常時ワンウェイクラッチ3の内輪3bと連結されている。
【0018】
ワンウェイクラッチ3の内輪3bには、軸受20を介して、エンジン1のクランク軸21が設けてある。
【0019】
クランク軸21には、ハブ22がスプライン結合してある。ハブ22には、後に詳述するダンパー10が装着してある。なお、符号10aは、スプリングであり、符号10bは、リテーナである。
【0020】
発進クラッチは、スリーブ23と、スリーブ23の内側に設けられた固定軸24と、固定軸24の内側に設けられた入力軸25とからなる。
【0021】
スリーブ23は、ハウジング26の一部であり、ハウジング26内には発進クラッチのクラッチケース27が装着されている。クラッチケース27はハウジング26と一体となって回転する。
【0022】
クラッチケース27には、クラッチピストン28が軸方向摺動自在に配置されている。
【0023】
クラッチケース27の外周円筒部には、スプラインなどを介して軸方向に摺動自在の複数のセパレータプレート29が軸方向に所定の間隔で設けられている。
【0024】
クラッチケース27の内周円筒部は、軸受を介して固定軸24に嵌合している。このクラッチケース27の内周円筒部には、半径方向外方に延在するフランジ部30が設けられ、フランジ部30とクラッチピストン28との間にスプリング31が配置されている。スプリング31は、クラッチピストン28をクラッチケース27の内周面に押しつける方向の力を与えている。
【0025】
発進クラッチの入力軸25の端部は、円板状のハブ32となっている。ハブ32の円筒部には、発進クラッチの複数の摩擦プレート33が、スプラインなどを介して軸方向に所定の間隔で軸方向摺動自在に設けられている。なお、セパレータプレート29および摩擦プレート33の枚数は任意に設定できることは言うまでもない。また、摩擦プレート33に貼着する摩擦材も両側及び片側のいずれに設けることもできる。
【0026】
なお、ここで、発進クラッチの動力伝達経路について説明する。発進クラッチの締結時は、動力はハウジング26と一体となって回転する発進クラッチのクラッチケース27に伝達され、クラッチケース27にスプライン等を介して連結されたセパレータプレート29、ピストン28によりセパレータプレート29に押しつけられた摩擦プレート33、及び、ハブ32を介して発進クラッチの入力軸25に伝達される。入力軸25に伝達された動力は、変速機4に伝達される。次に、発進クラッチの解放時には、動力は、ハウジング26と一体となって回転する発進クラッチのクラッチケース27に伝達され、クラッチケース27にスプライン等を介して連結されたセパレータプレート29に伝達される。しかしながら、発進クラッチの解放時には、セパレータプレート29と摩擦プレート33との接続が断たれているため、セパレータプレート29から摩擦プレート33への動力の伝達はなく、発進クラッチはニュートラル状態となる。
【0027】
さて、本実施の形態では、図1及び図2に示すように、エンジンの振動を低減するダンパー10がワンウェイクラッチ3とエンジン1までの間でかつエンジン1と変速機4との間の位置に装着されている。
【0028】
これにより、例えば、スタート時において、エンジン1の着火ミスにより生ずる場合がある、逆転方向の衝撃トルクが、ダンパー10により、軽減され、ワンウェイクラッチ3の出力メンバーに入力されるトルクが緩和される。
【0029】
その結果、ロールオーバ(過大負荷によるワンウェイクラッチの破損の一形態)が防止できることと、またワンウェイクラッチの空転時においてもエンジン1の振動がダンパー10により緩和されることにより、ワンウェイクラッチ3に使用されているスプリングの疲労破損や磨耗の防止に役立ち、ワンウェイクラッチ3の損傷が防止できる。
【0030】
なお、本発明に於いては、変速機は、従来のマニュアルミッション、自動変速機のいずれにおいても使用できる。
【0031】
また、マニュアルミッション、およびロックアップクラッチ付き自動変速機には、通常ダンパーが使用されているが、本発明においては、従来のダンパーの働きとワンウェイクラッチのためのダンパーとの役割を一個のダンパーで果たすことが出来る。
【0032】
また、従来のミッション側において使用されているダンパーと本発明のダンパー10を使用した場合においては、二箇所のダンパーにより、より自由度のあるダンパー設定が可能となる。
【0033】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用スタータ装置の模式的ブロック図である。
【図2】図1に示した車両用スタータ装置の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
2 スタータ用モータ
2a ピニオンギア
2b リングギア
3 ワンウェイクラッチ
3a 外輪
3b 内輪
4 変速機
10 ダンパー
10a スプリング
10b リテーナ
20 軸受
21 クランク軸
22 ハブ
23 スリーブ
24 固定軸
25 入力軸
26 ハウジング
27 クラッチケース
28 クラッチピストン
29 セパレータプレート
30 フランジ部
31 スプリング
32 ハブ
33 摩擦プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータ用モータとスタータ用ワンウェイクラッチが介装されている車両用スタータ装置において、
エンジン振動を低減するダンパーがワンウェイクラッチとエンジンまでの間でかつエンジンと変速機との間の位置に装着されていることを特徴とする車両用スタータ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−297966(P2007−297966A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126163(P2006−126163)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)