説明

車両用ドア開閉装置

【課題】部品点数の増大及び車両ドアの質量増加を抑制することができる車両用ドア開閉装置を提供する。
【解決手段】駆動部材21は、駆動モータ22及び該駆動モータ22により回転駆動されるドラムを有し、該ドラムを介して車両ボディに連結されてスライドドアに設置される。リレー41及びトランジスタ42等は、駆動モータ22の両端子22a,22b間に電力供給可能な通電可能状態と、スライドドアの全開位置で駆動モータ22の両端子22a,22b間を短絡するブレーキ状態とを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドア開閉装置としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。図8に示すように、この装置において、車両ドアとしてのスライドドア81は、車両ボディ82に対して車両前後方向に移動可能に支持されている。このスライドドア81は、車両ボディ82に搭載された駆動部材83の駆動力又は手動による操作力によって車両前後方向に移動することで、車両ボディ82の側部に形成されたドア開口82aを開閉する。つまり、スライドドア81は、ドア開口82aを閉塞する全閉位置から該ドア開口82aを最大限に開放する全開位置までの範囲を移動する。
【0003】
駆動部材83は、正逆回転可能なモータ84と、該モータ84により回転駆動されるドラム85とを備えて構成される。そして、ドラム85には、両端末がスライドドア81に連結された動力伝達用のケーブル86が巻回されている。駆動部材83は、モータ84の回転によりその回転方向に応じてケーブル86を巻取り及び繰り出しさせることで、スライドドア81を開閉駆動する。
【0004】
なお、モータ84とドラム85との間の動力伝達経路には、該動力伝達経路を断接可能な電磁クラッチが設けられている。この電磁クラッチは、電動によるスライドドア81の開閉操作時には接続状態に切り替えられることでモータ84の回転をドラム85に伝達可能とし、手動によるスライドドア81の開閉操作時には切断状態に切り替えられることでドラム85の回転をモータ84に伝達不能とする。これは、特に手動によるスライドドア81の開閉操作時にドラム85側の回転トルクをモータ84側から切り離して、軽微な操作力でスライドドア81の開閉操作を可能にするためである。
【0005】
また、スライドドア81内には、車両ボディ82側と係合することでスライドドア81を全閉位置で保持する全閉ロック91、同じく車両ボディ82側と係合することでスライドドア81を全開位置で保持する全開ロック92が設置されている。全開ロック92は、スライドドア81に設けられた操作ハンドル93からの手動による操作力又はレリーズアクチュエータ94からの電動による操作力が伝達されることで、車両ボディ82側との係合を解除してスライドドア81の閉作動を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−293257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1では、スライドドア81を全開位置(全閉位置以外の開閉位置)で保持するための全開ロック92や、該全開ロック92を解除するためのレリーズアクチュエータ94などが必要であるため、部品点数の増大及びスライドドア81の質量増加を余儀なくされている。
【0008】
本発明の目的は、部品点数の増大及び車両ドアの質量増加を抑制することができる車両用ドア開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、永久磁石モータ及び該永久磁石モータにより回転駆動される出力部材を有し、該出力部材を介して車両ボディ及び車両ドアのいずれか一方に連結されて前記車両ボディ及び前記車両ドアのいずれか他方に設置される駆動部材を備え、前記出力部材を回転させて前記車両ドアを開閉作動させる車両用ドア開閉装置において、前記永久磁石モータの両端子間に電力供給可能な通電可能状態と、前記車両ドアの全閉位置を除く開閉位置で前記永久磁石モータの前記両端子間を短絡するブレーキ状態とを切り替える切替手段を備えたことを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、前記通電可能状態において、前記永久磁石モータの前記両端子間に電力供給されると、前記永久磁石モータにより回転駆動される前記出力部材の一方向への回転に伴って前記車両ドアが開作動し、あるいは前記出力部材の逆方向への回転に伴って前記車両ドアが閉作動する。一方、前記永久磁石モータの前記両端子間が短絡される前記ブレーキ状態では、前記永久磁石モータのコギングトルクが急増する。従って、このコギングトルクを前記永久磁石モータ(及び出力部材)のブレーキとして活用することで、例えば坂路であっても前記全閉位置を除く前記開閉位置で前記車両ドアを保持できる。また、前記ブレーキ状態から前記通電可能状態に切り替えれば、前記永久磁石モータのコギングトルクの急増が解消することで、前記全閉位置を除く前記開閉位置での前記車両ドアの保持を解除できる。このように、前記切替手段による電気的な回路の切替えで、前記車両ドアの保持及びその解除を実現できるため、装置全体としての構成をより簡素化することができる。そして、部品点数の増大及び車両ドアの質量増加を抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用ドア開閉装置において、前記永久磁石モータ及び前記出力部材間に介設され、前記永久磁石モータ及び前記出力部材間の回転伝達を断接するクラッチを備えたことを要旨とする。
【0012】
同構成によれば、前記クラッチが前記永久磁石モータ及び前記出力部材間の回転伝達を切断する状態にあれば、例えば手動による前記車両ドアの開閉操作時に前記出力部材側の回転トルクを前記永久磁石モータ側から切り離すことができ、軽微な操作力で前記車両ドアを開閉操作することができる。一方、前記ブレーキ状態において前記クラッチが前記永久磁石モータ及び前記出力部材間の回転伝達を接続する状態にあれば、前記出力部材側の回転トルクを前記永久磁石モータ側に伝達することができる。従って、特に前記永久磁石モータから前記出力部材への回転伝達に減速が伴う場合には、即ち前記出力部材から前記永久磁石モータへの回転伝達に増速が伴う場合には、増速比に応じたトルク減少との協働で前記車両ドアを保持できる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用ドア開閉装置において、前記切替手段は、その非切替制御時に前記通電可能状態を維持することを要旨とする。
同構成によれば、前記切替手段は、その非切替制御時に前記通電可能状態を維持することで、例えば前記車両ドアが前記全閉位置を除く前記開閉位置で保持されているときに故障等で前記切替手段が切替制御不能の状態に陥った場合、前記永久磁石モータのコギングトルクの急増を解消できる。従って、このような状態で前記車両ドアを手動で開閉操作する際、比較的軽微な操作力で前記車両ドアを開閉操作することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、部品点数の増大及び車両ドアの質量増加を抑制することができる車両用ドア開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す模式図。
【図2】同実施形態を示す模式図。
【図3】同実施形態の電気的構成を示す回路図。
【図4】(a)〜(c)は、同実施形態の動作を示す概略図。
【図5】同実施形態の開作動時の制御態様を示すフローチャート。
【図6】同実施形態の閉作動時の制御態様を示すフローチャート。
【図7】本発明の変形形態を示す模式図。
【図8】従来形態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図6を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において「前後方向」は、車両における前後方向に一致する。
図1に示すように、車両ボディ10には、その側部に形成されたドア開口10aの上縁及び下縁に沿ってアッパレール11及びロアレール12が設置されるとともに、ドア開口10aの後方のクォータパネル10bにおいて前後方向に延在するセンターレール13が設置されている。そして、これらアッパレール11、ロアレール12及びセンターレール13には、ガイドローラユニット14を介して車両ドアとしてのスライドドア20が前後方向に移動可能に支持されている。このスライドドア20は、前後方向への移動に伴ってドア開口10aを開閉する。つまり、スライドドア20は、ドア開口10aを閉塞する全閉位置から該ドア開口10aを最大限に開放する全開位置までの範囲を移動する。なお、クォータパネル10bには、センターレール13の下縁に沿ってその全長に亘りケーブルガイド15が設置されている。
【0017】
スライドドア20の内部後部には、センターレール13の車両高さ付近において駆動部材21が固定されている。この駆動部材21は、永久磁石モータからなる駆動モータ22及び該駆動モータ22により回転駆動される出力部材としてのドラム23を有しており、該ドラム23には第1ケーブル24及び第2ケーブル25が巻回されている。すなわち、これら第1及び第2ケーブル24,25は、一方の端末がドラム23にそれぞれ係止された状態で該ドラム23に巻回されている。第1及び第2ケーブル24,25は、駆動部材21により選択的に巻取り・繰出しされる。また、駆動部材21は、中間プーリ26を更に有しており、第1及び第2ケーブル24,25の各々は、中間プーリ26及びセンターレール13を移動するガイドローラユニット14に連結された案内プーリ27を経てスライドドア20側から車両ボディ10側へと渡され、ケーブルガイド15に沿って前後方向に配索されている。なお、中間プーリ26及び案内プーリ27は、センターレール13の車両高さ付近となるドラム23の後方位置及び更にその後方位置にそれぞれ配置されている。そして、第1ケーブル24は、ケーブルガイド15に案内されて前側に配索され、他方の端末に連結されたテンショナー28を介して、ケーブルガイド15の前端側で車両ボディ10側に連結されている。また、第2ケーブル25は、ケーブルガイド15に案内されて後側に配索され、他方の端末に連結されたテンショナー29を介して、ケーブルガイド15の後端側で車両ボディ10側に連結されている。
【0018】
このような構成にあって、例えば駆動部材21により第1ケーブル24を繰り出しつつ第2ケーブル25を巻き取ると、スライドドア20はドア開口10aを開放すべく後方に移動する。一方、駆動部材21により第1ケーブル24を巻き取りつつ第2ケーブル25を繰り出すと、スライドドア20はドア開口10aを閉鎖すべく前方に移動する。
【0019】
図2に示すように、スライドドア20内には、車両ボディ10側と係合することでスライドドア20を全閉位置で保持するフロントロック31及びリアロック32が設置されている。また、スライドドア20内には、リアロック32に駆動連結されて、半ドア状態にあるスライドドア20を全閉位置まで閉作動させるとともに、リアロック32によるスライドドア20の全閉位置での保持を解除させるクローザ&レリーズアクチュエータ33が設置されている。このクローザ&レリーズアクチュエータ33は、リモートコントローラ34を介してフロントロック31と機械的に連係されており、該フロントロック31によるスライドドア20の全閉位置での保持を併せて解除させる。
【0020】
なお、フロントロック31及びリアロック32は、スライドドア20に設けられた操作ハンドル35と機械的に連係されており、該操作ハンドル35から手動の操作力が伝達されることでも、スライドドア20の全閉位置での保持を解除する。
【0021】
従って、フロントロック31及びリアロック32によりスライドドア20が全閉位置で保持されているとき、クローザ&レリーズアクチュエータ33からの電動による操作力(駆動力)又は操作ハンドル35からの手動による操作力が伝達されると、フロントロック31及びリアロック32による車両ボディ10側との係合が解除されてスライドドア20の開作動が可能となる。
【0022】
なお、スライドドア20内には、前記駆動部材21と共にクローザ&レリーズアクチュエータ33に常時給電するための給電装置36が搭載されている。
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。図3に示すように、スライドドア20の開閉制御に係るECU(Electronic Control Unit )40は、例えばマイクロ・コントローラ(MCU)を主体に構成されており、駆動部材21内に設けられている。このECU40は、例えば単極双投型のリレー41の可動片41aを介して前記駆動モータ22の一側の端子22aに電気的に接続可能であるとともに、該駆動モータ22の他側の端子22bに電気的に接続されている。なお、駆動モータ22の両端子22a,22b間は、リレー41の可動片41aを介して電気的に接続(即ち短絡)可能である。リレー41の励磁コイル41bは、一側の端子が給電装置36の正極(VB)に接続されるとともに、他側の端子がNPN型のトランジスタ42のコレクタに接続されている。このトランジスタ42は、エミッタが接地されるとともに、ベースがECU40に接続されている。リレー41及びトランジスタ42は、ECU40と共に切替手段を構成する。
【0023】
リレー41は、トランジスタ42のベースが非通電状態に維持されて該トランジスタ42がオフ状態にあるときには、可動片41aを介してECU40と駆動モータ22の端子22aとを電気的に接続する(通電可能状態)。このとき、ECU40は、駆動モータ22の両端子22a,22b間に前記給電装置36の電源電圧を供給することで、その極性に応じて駆動モータ22を一方向又は逆方向に回転駆動する。つまり、駆動モータ22は、リレー41等の非切替制御時には自動的に通電可能状態となる。
【0024】
一方、リレー41は、ECU40によりトランジスタ42のベースが通電状態に切り替えられて該トランジスタ42がオン状態になるときには、励磁コイル41bを介して駆動モータ22の両端子22a,22b間を短絡する。このとき、駆動モータ22は、ECU40側から電気的に切り離されるとともに、そのコギングトルクを急増する(ブレーキ状態)。
【0025】
なお、駆動モータ22は、駆動部材21に内蔵された機構部43の減速機構43aを介して前記ドラム23に機械的に連結されている。従って、ECU40により駆動モータ22が回転駆動されると、該駆動モータ22の回転が減速機構43aにおいて減速されてドラム23に伝達される。本実施形態の減速機構43aは、高効率の減速を実現可能な構成(例えば駆動モータ22の回転軸に直結されるピニオン及び円盤歯車からなる食い違い軸歯車と遊星歯車機構との2段構成など)となっている。これは、駆動モータ22の小型化を実現するためである。ドラム23の回転に伴ってスライドドア20が開閉作動することは既述のとおりである。
【0026】
また、ECU40は、例えばブラシモータからなるクラッチモータ44の両端子44a,44bとそれぞれ電気的に接続されている。このクラッチモータ44は、機構部43のクラッチとしてのクラッチ機構43bに駆動連結されている。クラッチ機構43bは、減速機構43aと機械的に連係されており、クラッチモータ44により作動位置が2位置間で切り替えられることで、減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達を選択的に断接する。なお、クラッチ機構43bによる駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達の断接は、クラッチモータ44による作動位置の機械的な切替えであるため、駆動モータ22の駆動を停止した後もそのときの切替え状態が維持されるようになっている。
【0027】
そして、クラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が接続状態に切り替えられているときには、駆動モータ22を回転駆動することでドラム23が回転し、スライドドア20が開閉作動する。一方、クラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が切断状態に切り替えられているときには、例えば手動によるスライドドア20の開閉操作に伴ってドラム23が回転しても、該回転が減速機構43aを介して駆動モータ22に伝達されることはなく、軽微な操作力でのスライドドア20の開閉操作が可能となる。
【0028】
なお、クラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が接続状態に切り替えられているときも、駆動モータ22が前述のブレーキ状態になければ、手動によるスライドドア20の開閉操作に伴ってドラム23が回転するとともに、減速機構43aを介して駆動モータ22も回転する。これは、減速機構43aの減速効率が高いためである。従って、この場合であっても、比較的軽微な操作力でのスライドドア20の開閉操作が可能となる。
【0029】
ECU40は、開閉操作スイッチ45に電気的に接続されており、該開閉操作スイッチ45からの信号に基づいてスライドドア20に対する開閉操作の有無を検出する。また、ECU40は、パルスセンサ46に電気的に接続されており、該パルスセンサ46からのパルス信号に基づいて駆動モータ22の回転位置等、即ちスライドドア20の開閉位置等を検出する。すなわち、このパルスセンサ46は、駆動モータ22により回転駆動される環状の磁石の、所定角度ごとに極性(N極、S極)の切り替わる外周面に対向配置される一対のホール素子を備えるとともに、該磁石即ち駆動モータ22の所定角度ごとの回転の都度にこれらホール素子から互いに位相の異なるパルス信号を出力する。従って、ECU40は、例えばいずれか一方のパルス信号の立ち上がりエッジ(又は立ち下がりエッジ)をカウントすることで駆動モータ22の回転位置を検出する。また、ECU40は、この立ち上がりエッジ(又は立ち下がりエッジ)の時間間隔に基づいて駆動モータ22の回転速度を検出するとともに、両パルス信号の位相差に基づいて該駆動モータ22の回転方向(正転又は逆転)を検出する。
【0030】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図4(a)に示すように、駆動モータ22の端子22aがECU40に接続されて通電可能状態にあるときには、ECU40は、駆動モータ22の両端子22a,22b間に前記給電装置36の電源電圧を供給することで、その極性に応じて駆動モータ22を一方向又は逆方向に回転駆動する。これにより、駆動モータ22の回転方向に応じてスライドドア20が開作動又は閉作動する。
【0031】
また、図4(b)に示すように、駆動モータ22の両端子22a,22bが短絡されてブレーキ状態にあるときには、駆動モータ22のコギングトルクが急増する。ECU40は、例えばスライドドア20が全開位置(全閉位置以外の開閉位置)にあるときに駆動モータ22をブレーキ状態に切り替えることで、例えば坂路であっても当該全開位置でスライドドア20を保持する。特に、クラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が接続状態に切り替えられていれば、ドラム23から駆動モータ22への回転伝達に増速が伴うことで、増速比に応じたトルク減少との協働でスライドドア20が保持される。
【0032】
さらに、図4(c)に示すように、給電装置36とECU40との電気的接続が切断されるなど、何らかの故障でリレー41等が切替制御不能の状態に陥った場合には、駆動モータ22の端子22aがECU40に自動的に接続されて通電可能状態となる。従って、例えばスライドドア20の全開位置において駆動モータ22がブレーキ状態に切り替えられていたとしても、リレー41等が切替制御不能の状態に陥ることに伴って、駆動モータ22が自動的に通電可能状態に切り替わる。そして、仮にクラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が接続状態に切り替えられたままであったとしても、比較的軽微な操作力でスライドドア20を全閉位置へと閉操作できる。
【0033】
次に、ECU40によるスライドドア20の基本的な開閉制御態様について説明する。なお、クラッチ機構43bにより減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達が接続状態に切り替えられているものとする。
【0034】
まず、スライドドア20が全閉位置にあるときのECU40によるスライドドア20の開作動時の制御態様について説明する。この処理は、開閉操作スイッチ45により操作ハンドル35の開操作が検知され、クローザ&レリーズアクチュエータ33によりフロントロック31及びリアロック32によるスライドドア20の全閉位置での保持が解除されることで起動される。このとき、駆動モータ22は通電可能状態に切り替えられている。
【0035】
図5に示すように、処理がこのルーチンに移行すると、スライドドア20を開作動させるべく、駆動モータ22が駆動される(S1)。続いて、スライドドア20が全開位置に到達したか否かが判断され(S2)、全開位置に到達するまで駆動モータ22の駆動が継続される。そして、スライドドア20が全開位置に到達したと判断されると、駆動モータ22の駆動が停止される(S3)。続いて、駆動モータ22がブレーキ状態に切り替えられて(S4)、その後の処理が終了される。
【0036】
次いで、スライドドア20が全開位置にあるときのECU40によるスライドドア20の閉作動時の制御態様について説明する。この処理は、開閉操作スイッチ45により操作ハンドル35の閉操作が検知されることで起動される。駆動モータ22がブレーキ状態に切り替えられていることは既述のとおりである。
【0037】
図6に示すように、処理がこのルーチンに移行すると、駆動モータ22のブレーキ状態が解除されて通電可能状態に切り替えられる(S11)。そして、スライドドア20を閉作動させるべく、駆動モータ22が駆動される(S12)。続いて、スライドドア20が半ドア状態に到達したか否かが判断され(S13)、半ドア状態に到達するまで駆動モータ22の駆動が継続される。そして、スライドドア20が半ドア状態に到達したと判断されると、駆動モータ22の駆動が停止されて(S14)、その後の処理が終了される。スライドドア20の半ドア状態は、フロントロック31又はリアロック32の状態を検知するための周知のラッチスイッチ(図示略)によって検出してもよいし、十分な精度が確保されるのであればパルスセンサ46によって検出してもよい。
【0038】
なお、スライドドア20が半ドア状態に到達すると、フロントロック31及びリアロック32によりスライドドア20を全閉位置で保持すべく、クローザ&レリーズアクチュエータ33が駆動されるようになっている。従って、半ドア状態に到達したスライドドア20は、フロントロック31及びリアロック32により全閉位置へと引き込まれる。スライドドア20が全閉位置に到達したとき、駆動モータ22が通電可能状態に切り替えられたままであることはいうまでもない。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、駆動モータ22のブレーキ状態では、その急増するコギングトルクを駆動モータ22(及びドラム23)のブレーキとして活用することで、例えば坂路であっても全開位置でスライドドア20を保持できる。また、駆動モータ22のブレーキ状態から通電可能状態に切り替えれば、駆動モータ22のコギングトルクの急増が解消することで、全開位置でのスライドドア20の保持を解除できる。このように、リレー41等による電気的な回路の切替えで、スライドドア20の保持及びその解除を実現できるため、従来例のようなロック装置(例えば全開ロック)やレリーズアクチュエータを採用する場合に比べて装置全体としての構成をより簡素化することができる。そして、部品点数・コストの増大及びスライドドア20の質量増加を抑制することができる。
【0040】
(2)本実施形態では、クラッチ機構43bが駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達を切断する状態にあれば、例えば手動によるスライドドア20の開閉操作時にドラム23側の回転トルクを駆動モータ22側から切り離すことができ、軽微な操作力でスライドドア20を開閉操作することができる。一方、駆動モータ22のブレーキ状態においてクラッチ機構43bが駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達を接続する状態にあれば、ドラム23側の回転トルクを駆動モータ22側に伝達することができる。従って、ドラム23から駆動モータ22への回転伝達に増速が伴うことで、増速比に応じたトルク減少との協働でスライドドア20を保持できる。
【0041】
(3)本実施形態では、リレー41等は、その非切替制御時に駆動モータ22の通電可能状態を維持することで、例えばスライドドア20が全開位置で保持されているときに故障等でリレー41等が切替制御不能の状態に陥った場合、駆動モータ22のコギングトルクの急増を解消できる。従って、このような状態でスライドドア20を手動で閉操作する際、比較的軽微な操作力でスライドドア20を閉操作することができる。
【0042】
(4)本実施形態では、減速機構43aの減速効率を高めたことで、その分、より小型の駆動モータ22を採用することができる。
(5)本実施形態では、従来例のようなロック装置(全開ロック)を廃止したことで、施解錠に係るシステムをより簡素化することができ、ひいては部品点数・コストの増大及びスライドドア20の質量増加を抑制することができる。
【0043】
(6)本実施形態では、機械的なクラッチ機構43bを採用したことで、電動によるスライドドア20の開閉作動中に、例えば挟み込み検知などで駆動モータ22の通電を止めてスライドドア20の開閉作動を停止しても、減速機構43aを介した駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達を接続状態に維持できる。従って、パルスセンサ46との併用により、駆動モータ22の通電を再開した際にスライドドア20を好適に開閉作動できる。また、クラッチ機構43bは、例えば電磁クラッチのように接続状態を維持するために通電し続ける必要がなく、電力消費量を削減することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図7に示すように、スライドドア20内に、車両ボディ10側と係合することでスライドドア20を全開位置で保持する全開ロック51が設置されていてもよい。この全開ロック51は、リモートコントローラ34を介して前記クローザ&レリーズアクチュエータ33に機械的に連係されており、該クローザ&レリーズアクチュエータ33から電動の操作力が伝達されることでスライドドア20の全開位置での保持を解除する。また、全開ロック51は、操作ハンドル35と機械的に連係されており、該操作ハンドル35から手動の操作力が伝達されることでも、スライドドア20の全開位置での保持を解除する。
【0045】
従って、全開ロック51によりスライドドア20が全開位置で保持されているとき、クローザ&レリーズアクチュエータ33からの電動による操作力(駆動力)又は操作ハンドル35からの手動による操作力が伝達されると、全開ロック51による車両ボディ10側との係合が解除されてスライドドア20の閉作動が可能となる。
【0046】
この場合、スライドドア20の全閉位置及び全開位置を除くこれらの間の任意の開閉位置で駆動モータ22をブレーキ状態に切り替えれば、当該開閉位置でスライドドア20を保持できる。従って、スライドドア20の全閉位置及び全開位置を除くこれらの間の任意の開閉位置又は所定の開閉位置でスライドドア20を保持するロック装置やその解除のためのレリーズアクチュエータを採用する場合に比べて装置全体としての構成をより簡素化することができる。
【0047】
なお、例えば、インサイドハンドル又はアウトサイドハンドルがスイッチ操作であるもの(いわゆるイーラッチ)に適用した場合は、全開ロック51及びフロントロック31はリモートコントローラ34を介さずに、クローザ&レリーズアクチュエータ33と機械的に連結してもよい。この場合、インサイドハンドル又はアウトサイドハンドルとクローザ&レリーズアクチュエータ33とは電気的に連係されることになる。
【0048】
・前記実施形態において、スライドドア20の全閉位置を除く任意の開閉位置又は所定の開閉位置で駆動モータ22をブレーキ状態に切り替えて、当該開閉位置でスライドドア20を保持するようにしてもよい。
【0049】
・前記実施形態において、スライドドア20の全開位置又は全閉位置は、適宜のリミッタスイッチで検出してもよいし、十分な精度が確保されるのであればパルスセンサ46で検出してもよい。
【0050】
・前記実施形態において、減速機構43aを割愛して、駆動モータ22の回転軸とドラム23とを直結してもよい。
・前記実施形態において、減速機構43aは、減速効率が低いウォームギヤであってもよい。ただし、この場合、手動によるスライドドア20の開閉操作を容易にするためにクラッチを設けることがより好ましい。
【0051】
・前記実施形態において、駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達の断接を、クラッチ機構43bに代えて電磁クラッチで行ってもよい。また、クラッチ機構43bを割愛して、駆動モータ22及びドラム23間の回転伝達を常時接続するようにしてもよい。
【0052】
・前記実施形態において、スライドドア20の全閉位置での保持を協働する機械的なチェック機構を更に設けてもよい。これにより、例えば想定外の坂路において駆動モータ22のブレーキ能力を超えたとしても、チェック機構との協働でスライドドア20を全開位置で保持できる。なお、チェック機構は、前記ガイドローラユニット14のロアローラ投入口のカバー(ロアローラの脱落防止用のカバー)を兼用すればよい。
【0053】
・前記実施形態において、励磁コイル41bに接続される給電装置36の極性を逆転させるとともに、これに合わせてトランジスタ42をPNP型のものにしてもよい。また、トランジスタ42は、FETなどであってもよい。
【0054】
・前記実施形態において、切替手段の回路構成は一例である。例えばECU40がリレー41(励磁コイル41b)を直接駆動する能力を有するのであれば、トランジスタ42を割愛してもよい。あるいは、定格電流を超えないのであれば、半導体スイッチ(バイポーラトランジスタ、FETなど)のみの組み合わせで構成してもよい。
【0055】
・前記実施形態において、非切替制御時に駆動モータ22のブレーキ状態を維持する切替手段であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…車両ボディ、20…スライドドア(車両ドア)、21…駆動部材、22…駆動モータ(永久磁石モータ)、22a,22b…端子、23…ドラム(出力部材)、40…ECU(切替手段)、41…リレー(切替手段)、42…トランジスタ(切替手段)、43…機構部、43a…減速機構、43b…クラッチ機構(クラッチ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石モータ及び該永久磁石モータにより回転駆動される出力部材を有し、該出力部材を介して車両ボディ及び車両ドアのいずれか一方に連結されて前記車両ボディ及び前記車両ドアのいずれか他方に設置される駆動部材を備え、前記出力部材を回転させて前記車両ドアを開閉作動させる車両用ドア開閉装置において、
前記永久磁石モータの両端子間に電力供給可能な通電可能状態と、前記車両ドアの全閉位置を除く開閉位置で前記永久磁石モータの前記両端子間を短絡するブレーキ状態とを切り替える切替手段を備えたことを特徴とする車両用ドア開閉装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドア開閉装置において、
前記永久磁石モータ及び前記出力部材間に介設され、前記永久磁石モータ及び前記出力部材間の回転伝達を断接するクラッチを備えたことを特徴とする車両用ドア開閉装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用ドア開閉装置において、
前記切替手段は、その非切替制御時に前記通電可能状態を維持することを特徴とする車両用ドア開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91962(P2013−91962A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234065(P2011−234065)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】