説明

車両用内装材

【課題】 硬質合成樹脂製基材の表面化粧層を形成すると共に、所望箇所にエアバッグ用リッドを形成するための脆弱部が裏面側から形成される内装材であって、脆弱部を形成するためのレーザ出力を変えることなく、一定深さの脆弱部とすることができる新規な車両用内装材を提供する。
【解決手段】 弾性発泡シート層1、下地シート層2、上地シート層3からなる三層構造の内装材aであり、下地シート層(中間層)2をレーザ光透過性の低い濃色系(例えば黒色)の樹脂製とすることで遮蔽作用が働き、上地シート層(外側層)3へのレーザ光の到達(透過)を抑制することができる。よって、一定出力のレーザ照射xにより、上地シート層3に所定厚の残肉部eを残した脆弱部(溝)cを、弾性発泡シート層1から下地シート層2にわたって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの表面化粧層を形成する車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載されるエアバッグは、エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの裏面側に折り畳んだ状態で収容状に配置されており、緊急時において、前記リッドを破断して膨張展開するようになっている。
エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルは、パネル本体を構成する硬質合成樹脂製の基材の表面に、表面化粧層を形成する内装材を積層してなり、該内装材は、通常、発泡合成樹脂製の弾性発泡シート層と、該弾性発泡シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製のシート層からなる二層構造になっている。
エアバッグ用リッドは、エアバッグが膨張した際に開くよう、インストルメントパネルの裏面側(基材側)からのレーザ照射により、パネル裏面から表面に向けてリッド破断用脆弱部をミシン目状に形成してなり、該脆弱部は、前記基材と弾性発泡シート層を貫通しシート層に至る所定深さの溝で形成されている(例えば特許文献1、2など参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−291069号公報
【特許文献2】特開2004−352103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処で、インストルメントパネルの表面化粧層を形成する従来の内装材は、前記したように、発泡合成樹脂製の弾性発泡シート層と、該弾性発泡シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製のシート層からなる二層構造であり、レーザ照射でもってインストルメントパネルにエアバッグ用リッドを形成する際、脆弱部の溝深さにばらつきが生じるという問題があった。
すなわち、前記脆弱部は、車両内において視認されることを防止するため、インストルメントパネルの表面側に所定厚の残肉部を残した溝として形成されるが、内装材を構成する熱可塑性合成樹脂製のシート層は、黒色、茶色などの濃色系の樹脂からなるものと、赤色、橙色などの淡色系の樹脂からなるものがあり、濃色系の場合と淡色系の場合とでレーザ光の透過性(吸収性)が異なる。よって、一定深さの脆弱部(溝)を形成するには、シート層が濃色系である場合と淡色系である場合とでレーザ出力を変えなければならず、その分だけ、エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの製造に手間がかかるという不具合が生じていた。
詳しくは、インストルメントパネルの裏面側からのレーザ照射により前記脆弱部を形成する際、インストルメントパネルの表面側に配置したセンサによりレーザ光を検出してレーザ出射時間を自動的に調整するようになっており、レーザ光透過性の低いシート層を用いた場合はレーザ出射時間が長くなり、レーザ光透過性の高いシート層を用いた場合はレーザ出射時間が短くなる。その結果、レーザ出力が一定であると、脆弱部の深さ(残肉部の厚さ)にばらつきがでてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来事情に鑑みて成されたもので、その目的とする処は、硬質合成樹脂製基材(パネル本体)の表面に積層されて化粧層を形成すると共に、所望箇所にエアバッグ用リッドを形成するための脆弱部(溝)が裏面側から形成される車両用内装材であって、前記脆弱部を形成するためのレーザ出力を変えることなく、一定深さの脆弱部を形成することができる、新規な車両用内装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために本発明は、エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの表面化粧層を形成する車両用内装材であって、発泡合成樹脂製の弾性発泡シート層と、該弾性発泡シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製の下地シート層と、該下地シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製の上地シート層からなり、前記下地シート層が、レーザ光の透過を抑制するレーザ光吸収層であることを特徴とする。
すなわち、本発明に係る車両用内装材は、弾性発泡シート層と下地シート層と上地シート層からなる三層構造の内装材であって、その下地シート層(中間層)をレーザ光透過性の低い(レーザ光吸収率が高い)濃色系の樹脂からなるレーザ光吸収層とすることで遮蔽作用が働き、レーザ光透過性が一定の範囲に制御され、上地シート層(外側層)へのレーザ光の到達(透過)を抑制することができる。よって、一定出力のレーザ照射により、上地シート層に所定厚の残肉部を残した脆弱部(溝)を、弾性発泡シート層から下地シート層にわたって形成することが可能になる。
【0007】
本発明において、レーザ光透過性の低い(レーザ光吸収率が高い)濃色系の樹脂として、黒色の樹脂、濃い茶色の樹脂、濃い青色(濃紺)の樹脂などの、一般的な濃色系の樹脂をあげることができる。これらの中でも、所定の遮蔽作用が得られると共に、安価に入手でき、低コストでの製造が可能になる等の理由から、カーボンブラックの含有により黒色とした樹脂を用いることが好ましい。カーボンブラックの含有割合は、下地シート層を構成する熱可塑性合成樹脂に対し、0.3〜1.0重量%の範囲とすることが好ましい。
【0008】
本発明において、前記上地シート層は、レーザ光透過性の低い濃色系の樹脂またはレーザ光透過性の高い(レーザ光吸収率の低い)淡色系の樹脂のいずれであっても良い。上地シート層をレーザ光透過性の高い淡色系の樹脂としても、前記した下地シート層による遮蔽作用(レーザ光吸収による透過抑制作用)により、前述した効果を得ることができる。レーザ光透過性の高い淡色系の樹脂として、赤色、橙色、黄色、灰色などの一般的な淡色系の樹脂をあげることができる。
【0009】
本発明において、弾性発泡シート層としては、例えば、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンなどの発泡オレフィンからなるものを用いることができる。また、熱可塑性合成樹脂製の下地シート層、上地シート層としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、超低密度ポリエチレン(L.LDPE)などのオレフィン系熱可塑性樹脂からなるものを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係る車両用内装材は、弾性発泡シート層、下地シート層、上地シート層の三層構造であって、下地シート層をレーザ光透過性の低い濃色系の樹脂からなるレーザ光吸収層とすることで、所定の遮蔽性を得ることができ、上地シート層として任意の色の樹脂からなるものを選択しても、一定出力のレーザ照射により所望深さの脆弱部を形成することができる。よって、エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの製造に好適に供することができるなど、多くの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両用内装材の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。
図1は本例の車両用内装材aの拡大断面図であり、この内装材aは、発泡ポリプロピレン(PPF)からなる弾性発泡シート層1の上に、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)からなる下地シート層2が積層され、該下地シート層2の上に、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)からなる上地シート層3が積層された、三層構造のシートとして成形されている。
【0012】
下地シート層2はカーボンブラックの含有により黒色としたレーザ光透過性の低い(レーザ光吸収率が高い)レーザ光吸収シート層である。上地シート層3は、黒色、茶色などのレーザ光透過性の低いシート層、赤色、橙色、黄色などのレーザ光透過性の高い(レーザ光吸収率が低い)シート層のいずれであっても良く、任意の色を選択することができる。
【0013】
図2はこの内装材aで表面化粧層を形成したエアバッグ用リッド付きインストルメントパネルAの要部拡大断面図、図3はこのインストルメントパネルAを裏面側(基材b側)から見た斜視図である。
インストルメントパネルAは、硬質合成樹脂製の基材(パネル本体)bの表面に本例の車両用内装材aを積層して表面化粧層とし、且つ、裏面側(基材b側)からレーザ照射xを行い、表面側(内装材a側)に配置したセンサyでのレーザ光検出に基づきその照射時間を調整することにより、所定深さfのリッド破断用脆弱部(溝)cをミシン目状に穿設して、エアバッグ用リッドdを形成したものである。
【0014】
リッド破断用脆弱部cは、基材b、弾性発泡シート層1、下地シート層2を貫通するが、上地シート層3には至らない、若しくは至ったとしても上地シート層3内に所定厚の残肉部eが残るよう、所定深さfに形成された溝である。該脆弱部cは、インストルメントパネルAの所望箇所に所定形状(通常、四角枠状)を呈するように連続的に、且つ、隣り合せる脆弱部c,c同士の間に所定の隙間を残したミシン目状に形成され、該脆弱部cで囲まれた部分に、所定形状(通常、四角形状)のエアバッグ用リッドdが形成される。
【0015】
エアバッグ用リッドdは、前記脆弱部cでインストルメントパネルAの所望箇所に区画形成されたもので、インストルメントパネルAの裏面側に折り畳んだ状態で収容状に配置されたエアバッグgを塞いでおり、エアバッグgが膨張展開した際に前記脆弱部cで破断されるようになっている。
【0016】
以下、実施例と比較例による試験結果について説明する。
〔実施例1〕
図1に示す前述した内装材aであって、発泡率15倍、厚さ3mmのPPFからなる弾性発泡シート層1と、カーボンブラック含有の黒色TPOからなる厚さ0.325mmの下地シート層2と、赤色顔料含有の赤色TPOからなる厚さ0.325mmの上地シート層3の三層構造の内装材aを形成した。前記した各層1〜3は、車両用内装材として用いる一般的なPPFシート、TPOシートと同様にして得られるものであり、その配合、製法等は周知であるため詳細については省略する。
この内装材aを、上地シート層3が最外層となるよう、図3に示す硬質合成樹脂製の基材bの表面に積層して、試験サンプルとしてのインストルメントパネルAを作製し、その裏面側(基材b側)からレーザ照射して、四角枠状を呈するよう連続的に脆弱部cをミシン目状に形成し、四角形状のエアバッグ用リッドdを形成した。レーザ照射xは、炭酸ガスレーザを、波長10.6μm、出力1.5KW、ビーム径(集光スポットサイズ)0.3〜1.0mmの条件で照射し、センサyでのレーザ光検出に基づきレーザ出射時間を自動的に調整した。
このようにしてエアバッグ用リッドdが形成されたインストルメントパネルAの表面化粧層(内装材a)における、脆弱部c形成箇所の残肉部eの厚さを測定したところ、該厚さは0.35mm±0.05mmの範囲であり、上地シート層3に所定厚の残肉部eを残した脆弱部(溝)cが、弾性発泡シート層1から下地シート層2にわたって形成されていることが確認できた。
【0017】
〔実施例2〕
下地シート層2として、茶色顔料含有の茶色TPOからなる厚さ0.325mmの下地シート層2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製し、実施例1と同条件でエアバッグ用リッドdを形成して、脆弱部c形成箇所の残肉部eの厚さを測定した。該厚さは0.35mm±0.05mmの範囲であり、上地シート層3に所定厚の残肉部eを残した脆弱部(溝)cが、弾性発泡シート層1から下地シート層2にわたって形成されていることが確認できた。
【0018】
〔比較例1〕
下地シート層2として、橙色顔料含有の橙色TPOからなる厚さ0.325mmの下地シート層2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製し、実施例1と同条件でエアバッグ用リッドdを形成して、脆弱部c形成箇所の残肉部eの厚さを測定した。該厚さは0.65mmであり、弾性発泡シート層1には溝が形成されているが、下地シート層2まで至っておらず、エアバッグ用リッドdの形成が不十分であることが確認できた。該例において残肉部eの厚さが厚くなる理由は、下地シート層2と上地シート層3の双方においてレーザ光透過性が高く、センサyによるレーザ光検出が実施例1,2の場合より早くなるので、レーザ光照射時間が短くなってしまうことに起因する。
【0019】
〔比較例2〕
下地シート層2として、赤色顔料含有の赤色TPOからなる厚さ0.325mmの下地シート層2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製し、実施例1と同条件でエアバッグ用リッドdを形成して、脆弱部c形成箇所の残肉部eの厚さを測定した。該厚さは0.65mmであり、比較例1と同様の結果であることが確認できた。
【0020】
上記の測定結果から、本発明に係る車両用内装材の優位性を確認することができた。
以上、本発明に係る車両用内装材の実施形態例を図面及び実施例に基づいて説明したが、本発明は図示例や前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両用内装材の実施形態の一例を示す拡大縦断面図。
【図2】図1の車両用内装材を用いたエアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの一例を示す要部の拡大断面図。
【図3】エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの一例を示す裏面側から見た斜視図。
【符号の説明】
【0022】
a:車両用内装材
1: 弾性発泡シート層
2:下地シート層(レーザ光吸収層)
3:上地シート層
b:硬質合成樹脂製の基材(パネル本体)
c:リッド破断用脆弱部(溝)
d:エアバッグ用リッド
e:残肉部
f:脆弱部(溝)の深さ
x:レーザ照射
y:センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ用リッド付きインストルメントパネルの表面化粧層を形成する車両用内装材であって、発泡合成樹脂製の弾性発泡シート層と、該弾性発泡シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製の下地シート層と、該下地シート層上に積層された熱可塑性合成樹脂製の上地シート層からなり、前記下地シート層が、レーザ光の透過を抑制するレーザ光吸収層であることを特徴とする車両用内装材。
【請求項2】
前記下地シート層がカーボンブラックを含有した黒色の樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−110647(P2008−110647A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293979(P2006−293979)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】