説明

車両用冷却液制御バルブ

【課題】弁体の開状態を通常量の流体を流通させる状態とそれよりも小量の流体を流通させる状態とに切換え可能に構成された車両用冷却液制御バルブを提供する。
【解決手段】流体を流通させるバルブ本体8を備えると共に、磁性体を有し流体の流通を制御する弁体11,21と、流体の流路を構成し、弁体11,21と当接して流路を閉塞可能な弁座14,24と、磁力によって弁体11,21と弁座14,24との当接状態を維持させるソレノイド2,3と、弁体11,21を弁座14,24の側に付勢する付勢機構18,28とを備えるバルブ機構10,20を、バルブ本体8の内部に一対設け、一対の弁体11,21の何れか一方に、当該弁体21が当接状態を維持している状態で流体を流通可能な流通孔21cを備え、一対のソレノイド2,3が各別に通電制御可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の冷却系に使用される車両用冷却液制御バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンは、燃費の向上等のために、エンジン温度が低い場合には暖機運転を行い、エンジン温度が上昇した後にその温度を略一定にする制御がなされる。そのためのエンジンの冷却系として、サーモスタットバルブの開閉により、冷却水温度が低い場合には、当該バルブを閉じて冷却水がラジエータを経由せずにバイパス通路を介して循環させ、冷却水温度が高くなった場合に、当該バルブを開いて冷却水がラジエータを通るよう循環させて、冷却水温を一定に制御するシステムが一般的に存在する。また、冷却水が低温状態のときは暖機運転により、エンジン温度を最適温度に早期に上昇させることができ、その後のエンジン温度を略一定にして燃焼を安定させて燃費を向上させることができる。
【0003】
特許文献1には、エンジンの冷却水出口側の独立したサーモエレメント感温室にラジエータ出口流路との通路を設け、ラジエータ出口側液温を加味した作動を行えるサーモスタッドバルブが開示されている。このサーモスタットバルブのサーモエレメントには熱膨張するサーモワックスが封入されており、冷却水温により弁体を開閉動作させる。さらに、サーモエレメントにニクロムヒータ等の発熱素子を組み合わせて弁体を開閉させ冷却水温を電子制御している。
【0004】
特許文献2には、スプリングによって閉方向に付勢された可動部を持つソレノイドバルブが開示されている。ソレノイドバルブでは、コイル非励磁時には閉状態となり、コイル励磁時に開状態となるよう構成されているため、開閉状態の切換えを素早く行うことができる。これにより、上述のエンジンの冷却系におけるエンジン出口側にソレノイドバルブを設けた場合には、冷却水がラジエータを経由せずにバイパス通路を介して循環させるバルブ閉状態と、冷却水温度が高くなった場合に冷却水がラジエータを通って循環させるバルブ開状態との切換えを即座に行うことができ、バルブの応答性は良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−328753号公報
【特許文献2】特開2002−340219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンの冷却系統において、エンジンからの冷却水出口に特許文献2に記載のソレノイドバルブを設置した場合には、当該ソレノイドバルブを閉状態にすると、冷却系統全体の冷却水の流れが停止する。この状態では、エンジン内部の熱が外部に放出されないので暖機促進される。しかしながら、エンジン内の温度が所定温度になったことを検知してソレノイドバルブを開放する際には、ソレノイドバルブは即座に開状態になるため、エンジン外部において暖められていない冷却水が一気にエンジン内部に流れ込むこととなりエンジンの冷却が促進される。そうなると、図10に示すように、エンジン内の温度は急激に低下しエンジンにおける燃焼が不安定となる。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、弁体の開状態を通常量の流体を流通させる状態とそれよりも小量の流体を流通させる状態とに切換え可能に構成された車両用冷却液制御バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用冷却液制御バルブの第1特徴構成は、流体を流通させるバルブ本体を備えると共に、磁性体を有し流体の流通を制御する弁体と、前記流体の流路を構成し、前記弁体と当接して前記流路を閉塞可能な弁座と、磁力によって前記弁体と前記弁座との当接状態を維持させるソレノイドと、前記弁体を前記弁座の側に付勢する付勢機構とを備えるバルブ機構を、前記バルブ本体の内部に一対設け、一対の前記弁体の何れか一方に、当該弁体が前記当接状態を維持している状態で前記流体を流通可能な流通孔を備え、前記一対のソレノイドが各別に通電制御可能に構成してある点にある。
【0009】
本構成の如く、磁性体を有し流体の流通を制御する弁体と、流体の流路を構成し、弁体と当接して流路を閉塞可能な弁座と、磁力によって弁体と弁座との当接状態を維持させるソレノイドと、弁体を前記流体の流通方向とは反対側に付勢する付勢機構とを備えることで、ソレノイドが通電状態になると磁力によって弁体と弁座との当接状態が維持されて弁体が閉状態となり、ソレノイドが非通電状態になると弁体と弁座との当接状態は維持されなくなり弁体を流体が流通可能な開状態にすることができる。
【0010】
また、流通孔が設けられた弁体を有するバルブ機構についてはソレノイドに通電し弁体と弁座との当接状態を維持し、流通孔が設けられていない弁体を有するバルブ機構についてはソレノイドへの通電を停止又は弱めて弁体を流体が流通可能な開状態にすると、流体は弁体に形成された流通孔と開状態の他方の弁体とを流通し、流体の少量流通状態を実現することができる。その後、一対の弁体に対するソレノイドへの通電を両方停止又は弱めることで、一対の弁体は共に流体圧を受けて開放され通常の流量の流体が流通する状態にすることができる。これにより、エンジン内の温度が所定温度になったことを検知して、冷却液制御バルブを開状態する際に、当初においては流通孔が設けられていない弁体のみを開いて小量の冷却液をエンジンに流入させることができる。その結果、エンジン内の温度は急激に低下することを防止することができ、エンジンにおける燃焼を安定的に行うことができる。
【0011】
本発明に係る車両用冷却液制御バルブの第2特徴構成は、前記付勢機構が、前記バルブ本体と前記弁体とに亘って設けられたコイルスプリングである点にある。
【0012】
本構成の如く、付勢機構をバルブ本体と弁体とに亘って設けられたコイルスプリングで構成することで、付勢機構の簡易に構成でき、また、ポンプが停止して流体圧がほとんどない状態において弁体を閉方向に確実に移動することができる。
【0013】
本発明に係る車両用冷却液制御バルブの第3特徴構成は、前記流通孔が、一対の弁体のうち下流側の弁体に設けてある点にある。
【0014】
バルブ本体内に直列に設けた一対の弁体のうち、仮に上流側の弁体に流通孔が設けてあると、エンジン始動時においてエンジンの温度が所定温度になるまで冷却液制御バルブ全体を閉状態にするには、一対のバルブ機構の両方のソレノイドに通電する必要がある。一方、本構成のように、下流側の弁体に流通孔が設けてあると、上流側の弁体が閉じられているエンジン始動時においては、下流側のバルブ機構のソレノイドに通電する必要がない。したがって、ソレノイドへの通電効率を向上させることができる。
【0015】
また、上流側の弁体に流通孔が設けられている場合、バルブ本体全体が閉状態のときから下流側の弁体は流体圧を受けることとなる。一方、下流側の弁体に流通孔が設けられている場合には、下流側の弁体は上流側の弁体が開放されるまで流体圧を受けず、上流側の弁体が開放されても下流側の弁体に設けられた流通孔を流体が通過するため、下流側の弁体が受ける流体圧はそれほど大きくならない。これにより、弁体に流通孔が設けられた下流側がバルブ機構に磁力の弱いソレノイドを用いることが可能となる。その結果、冷却液制御バルブの低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エンジン冷却系の全体構成を示す概略図である。
【図2】車両用冷却液制御バルブの断面図であって,(a)はバルブの閉状態、(b)はバルブの小開状態、(c)はバルブの全開状態をそれぞれ示す。
【図3】エンジン内温度、制御弁流量、電流比と制御弁の開閉状態との関係を示す図である。
【図4】第2実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図であって,(a)はバルブの閉状態、(b)はバルブの小開状態、(c)はバルブの全開状態をそれぞれ示す。
【図5】別実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図であって,(a)はバルブの閉状態、(b)はバルブの小開状態、(c)はバルブの全開状態をそれぞれ示す。
【図6】別実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図であって,(a)はバルブの閉状態、(b)はバルブの小開状態、(c)はバルブの全開状態をそれぞれ示す。
【図7】別実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図である。
【図8】別実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図である。
【図9】別実施形態の車両用冷却液制御バルブの断面図である。
【図10】エンジン内温度、制御弁流量、電流比と従来の制御弁の開閉状態との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車両用冷却液制御バルブの実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、車両におけるエンジン冷却系30の全体構成を示す説明である。エンジン31の冷却水(冷却液)流出ポート32にラジエータ33の流入ポート34が接続され、ラジエータ33の流出ポート35は、サーモスタットバルブ36の流入ポート37に接続される。サーモスタットバルブ36の流出ポート38は、ウォータポンプ41の吸込ポート42に接続され、ウォータポンプ41の図示しない吐出ポートは、エンジン31の図示しない冷却水(冷却液)流入ポートに接続される。一方、エンジン31の図示しない暖房用流出ポートは、車両用冷却液制御バルブ1の流入ポート6(図2参照)に接続される。車両用冷却液制御バルブ1の流出ポート7は、ヒータコア43の流入ポート44に接続され、ヒータコア43の流出ポート45は、サーモスタットバルブ36のバイパス流入ポート39に接続される。バイパス流入ポート39は流出ポート38まで連通する。
【0019】
車両用冷却液制御バルブ(以下、冷却液制御バルブ)1は、図2(a)に示すように、ハウジング(バルブ本体)8と、ハウジング8内に直列に設けられた上流側の第1バルブ機構10及び下流側の第2バルブ機構20とを備える。
【0020】
上流側の第1バルブ機構10は、弁座14と、弁座14から離間する位置と当該弁座14に当接する位置とに移動可能な弁体11と、弁座14と弁体11との当接を通電により維持可能なソレノイド2とを備えている。また、下流側の第2バルブ機構20は、弁座24と、弁座24から離間する位置と当該弁座24に当接する位置とに移動可能な弁体21と、弁座24と弁体21との当接を通電により維持可能なソレノイド3とを備えている。下流側の弁体21には流体の流通孔21cが形成されている。この流通孔21cが後述する小流量の流体の流路となる。
【0021】
ソレノイド2,3は、図示しないコネクタにより駆動回路に電気的に接続され、鉄等の磁性体により成型されたボビン4,5の内径部4a,5aの外側に巻かれ、内径部4a,5aと外径部4b,5bに内包される銅線により構成される。ボビン4、5は、流入ポート6及び流出ポート7を備えたハウジング8内に設置される。ボビン4、5の内径部4a,5aの内側には弁内流路9が形成されており、弁内流路9は流入ポート6に連通する。
【0022】
弁体11及び弁体21は、鉄等の円盤状磁性体11a,21aと樹脂部11b、21bにより成型されている。また、弁体11及び弁体12は、図示しないガイド部によりスライド可能にハウジング8等に支持されている。弁体11、21と当接する弁座14,24は、ボビン4、5における下流側のフランジ面に形成される。弁体11と第2バルブ機構20におけるボビン5との間には、付勢機構としてコイルスプリング18が設置されており、コイルスプリング18は弁体11を弁座14の方向に付勢する。また、弁体21とハウジング8との間には、付勢機構としてコイルスプリング28が設置されており、コイルスプリング28は弁体21を弁座24の方向に付勢する。
【0023】
弁体11は、ソレノイド2が通電により励磁されると弁座14に吸着され、弁体11と弁座14との当接状態が維持される。また、弁体21は、ソレノイド3が通電により励磁されると弁座24に吸着され、弁体21と弁座24との当接状態が維持される。この状態は、バルブ本体(ハウジング8)の閉状態である。
【0024】
エンジン31の停止時には、ウォータポンプ41も停止しており流体圧は発生していない。したがって、弁体11、21はコイルスプリング18、28の付勢力により付勢されて弁座14、24に当接した閉状態が保持される(図2(a)参照)。
【0025】
エンジン31の始動時には、上流側のソレノイド2は通電により励磁され、磁性体により成形された弁体11に吸引力が作用する。上流側の弁体11は、ソレノイド2による吸引力とコイルスプリング18による付勢力とを受け、弁座14に当接しウォータポンプ41の吐出による流体圧が弁体11に作用しても弁座14に当接した状態(閉状態)に保持される。このとき、バルブ本体(ハウジング8)の弁体11は閉状態である(図2(a)参照)。なお、下流側のソレノイド3は上流側のソレノイド2と電気的に直列に接続されているため、上流側のソレノイド2と同様に通電されている。
【0026】
エンジン31内の温度が所定温度まで上昇し冷却液制御バルブ1に対し流体の供給要求が与えられると、上流側のソレノイド2への通電が弱まり、弁体11は流入ポート6からの流体圧を受けることにより開方向に移動する。一方、下流側のソレノイド3は通電が弱まっても弁体21は弁座24と当接する閉状態が維持される。(図2(b)参照)。なお、下流側のソレノイド3による弁体21との当接を維持するために、上流側のソレノイド2よりも下流側のソレノイド3のコイル巻き数を増加させることが考えられる。もしくは、上流側の弁体11と弁座14との接触面積よりも下流側の弁体21と弁座24とのお接触面積を増加させることが考えられる。
【0027】
上流側の弁体11が開状態になると、下流側の弁体21に形成された流通孔21cに流体が流通するようになり、流体を小量流通させることができる。これにより、図3に示すように、エンジン31内の温度は、冷却水がエンジン31に供給された直後において緩やかに低下することとなる。その結果、エンジン31内の温度の急激な温度低下が防止でき、エンジン31における燃焼を安定的に行うことができる。
【0028】
上流側の弁体11が開状態となる小流量モードになった後、エンジン31内の温度が再び所定温度になると、ソレノイド3への通電電流を解除して下流側の弁体21を開放する。弁体21に作用する流体圧は、コイルスプリング28による付勢力に抗して弁体21を開状態に保持する(図2(c)参照)。
【0029】
冷却水はエンジン31の内部で加熱後、ラジエータ33により冷却され、サーモスタットバルブ36を経由してウォータポンプ41によって循環する。エンジン31が低温時には、サーモスタットバルブ36が閉状態となる。暖房作動時には、エンジン31の内部で加熱された冷却水は、流体圧によって開状態に保持された冷却液制御バルブ1を経由してヒータコア43に供給され、室内が暖められる。ヒータコア43で冷却された冷却水は、サーモスタットバルブ36を経由してウォータポンプ41により循環する。
【0030】
冷却液制御バルブ1は、サーモワックス等の熱膨張による開動作ではなく、応答性に優れ電流により自在に制御できるソレノイド2、3により開動作する為、暖房の効きを早めることができ寒冷時の快適性が向上する。また、閉状態では、弁体11(弁体21)と弁座14(弁座24)とが当接して磁性体間の距離が接近するため電流当たりの吸引力が増大し、コイルスプリング18(コイルスプリング28)の付勢力により弁体11(弁体21)が閉状態に付勢されることにより、ソレノイド2、3の小型化及び電力消費を低減できる。さらに、コイルスプリング18、28により常時付勢されることにより液圧脈動による弁体11,21の振動を抑制できる。
【0031】
バルブ本体(ハウジング8)内に直列に設けた一対の弁体11,21のうち、本構成のように、下流側の弁体21に流通孔21cが設けてあると、上流側の弁体11が閉じられているエンジン始動時においては、下流側の第2バルブ機構20のソレノイド3に通電する必要がない。したがって、ソレノイドへの通電効率を向上させることもできる。
【0032】
また、下流側の弁体21は上流側の弁体11が開放されるまで流体圧を受けず、上流側の弁体11が開放されても下流側の弁体21に設けられた流通孔21cを流体が通過するため、下流側の弁体21が受ける流体圧はそれほど大きくならない。これにより、弁体21に流通孔21cが設けられた下流側が第2バルブ機構20に磁力の弱いソレノイド3を用いることが可能となる。その結果、冷却液制御バルブ1の低コスト化を図ることができる。
【0033】
〔第2実施形態〕
上記の第1実施形態では、下流側の弁体21に流通孔21cを設ける例を示したが、図4(a)〜図4(c)に示すように、上流側の弁体11に流通孔11cを設けてもよい。
【0034】
エンジン31の停止時には、ウォータポンプ41も停止しており流体圧は発生していない。したがって、弁体11、21はコイルスプリング18、28の付勢力により付勢されて弁座14、24に当接した閉状態が保持される(図4(a)参照)。
【0035】
エンジン31の始動時には、上流側のソレノイド2は通電により励磁され、磁性体により成形された弁体11に吸引力が作用する。上流側の弁体11は、ソレノイド2による吸引力とコイルスプリング18による付勢力とを受け、弁座14に当接しウォータポンプ41の吐出による流体圧が弁体11に作用しても弁座14に当接した状態(閉状態)に保持される。このとき、バルブ本体(ハウジング8)の弁体11は閉状態である(図4(a)参照)。なお、下流側のソレノイド3は上流側のソレノイド2と電気的に直列に接続されているため、上流側のソレノイド2と同様に通電されている。
【0036】
エンジン31内の温度が所定温度まで上昇し冷却液制御バルブ1に対し流体の供給要求が与えられると、下流側のソレノイド3への通電が弱まり、弁体21は流入ポート6からの流体圧を受けることにより開方向に移動する。一方、上流側のソレノイド2は通電が弱まっても弁体11は弁座14と当接する閉状態が維持される。(図4(b)参照)。
【0037】
下流側の弁体21が開状態になると、上流側の弁体11に形成された流通孔11cに流体が流出ポート7まで流通するようになり、流体を小量流通させることができる。これにより、図3に示すように、エンジン31内の温度は、冷却水がエンジン31に供給された直後において緩やかに低下することとなる。その結果、エンジン31内の温度の急激な温度低下が防止でき、エンジン31における燃焼を安定的に行うことができる。
【0038】
下流側の弁体21が開状態となる小流量モードになった後、エンジン31内の温度が再び所定温度になると、ソレノイド2への通電電流を解除して上流側の弁体11を開放する。弁体11に作用する流体圧は、コイルスプリング18による付勢力に抗して弁体11を開状態に保持する(図4(c)参照)。
【0039】
〔その他の実施形態〕
(1)冷却液制御バルブ1は、図5に示すように、上流側の第1バルブ機構10をサーモバルブで構成してもよい。サーモバルブはサーモケース51と、サーモケース51内に充填されたワックス52と合成ゴム53と弁体54付きのピストン55とを備えている。弁体54には、流通孔21cよりも小径の流通孔54aが設けられている。流体が所定温度以上になると、固体のワックス52が膨張し合成ゴム53が圧縮されてピストン55を押し下げる。これにより、弁体54が開放位置に移動し、下流側の弁体21の流通孔21cに流体が流通する小流量モードとなる。サーモバルブは、流体の液温が低下するとワックス52が収縮し、合成ゴム53が元の状態に戻ることでピストン55が押し上げられて弁体54が閉鎖位置に移動する。また、図示しないが、上流側の第1バルブ機構10をソレノイド弁で構成し、下流側の第2バルブ機構20をサーモバルブで構成してもよい。
【0040】
(2)冷却液制御バルブ1は、図6に示すように、上流側の第1バルブ機構10を弁体11と弁体11を閉方向に付勢する付勢機構(コイルスプリング)18とで構成してもよい。流入ポート6の流体圧が弁体11への付勢機構18による付勢力より大きくなると、弁体11が開放され、下流側の弁体21の流通孔21cに流体が流通する小流量モードとなる。また、図示しないが、上流側の第1バルブ機構10をソレノイド弁で構成し、下流側の第2バルブ機構20を弁体11と弁体11を閉方向に付勢する付勢機構(コイルスプリング)18とで構成してもよい。
【0041】
(3)冷却液制御バルブ1は、図7に示すように、ソレノイドバルブである第1バルブ機構10と第2バルブ機構20とを並列に配置して構成してもよい。流入ポート6から分岐する細管25が第2バルブ機構20に接続されており、第2バルブ機構20と流出ポート7とは細管26で接続されている。すなわち、本実施形態は、第1バルブ機構10を通過する弁内流路19と、第2バルブ機構20を通過する弁内流路29とを別々に備える構成である。弁体11はコイルスプリング18により閉方向に付勢され、弁体21はコイルスプリング28により閉方向に付勢されている。
【0042】
冷却液制御バルブ1を小流量モードにするには、ソレノイド2を通電状態にしたまま、ソレノイド3への通電を停止する。これにより、第1バルブ機構10の弁体11が閉状態に維持され、第2バルブ機構20の弁体21が流体圧を受けて開状態となる。
【0043】
(4)冷却液制御バルブ1は、図8に示すように、第1バルブ機構10をソレノイドバルブで構成し、第2バルブ機構20をサーモバルブで構成して、両バルブ機構10,20を並列に配置してもよい。弁体54には、小径の流通孔54aが設けられている。また、図9に示すように、第1バルブ機構10をソレノイドバルブで構成し、第2バルブ機構20を弁体21と付勢機構28とで構成して、両バルブ機構10,20を並列に配置してもよい。図8及び図9に示すいずれの場合においても、第2バルブ機構20が開状態となることで小流量モードが実現される。
【0044】
(5)上記の実施形態では、冷却液制御バルブ1をヒータコア43への流路を開閉する冷却液制御バルブに適用した例を示したが、ラジエータ33への流路を開閉するサーモスタットバルブ36に適用してもよい。
【0045】
(6)上記の実施形態では、冷却液制御バルブ1のソレノイド2は弁内流路9、19、29の周囲に設置されているが、搭載上等の理由により冷却水流路から離れた位置に設置されていてもよい。また、弁体11、21の付勢機構としてコイルスプリング18、28が用いられているが、空気ばね、磁力、弁体11,21の質量に作用する重力等の他の移動手段で弁体11,21を閉方向に付勢してもよい。冷却水を循環させる手段はウォータポンプ41だけでなく、蓄圧器等を補助的に用いてもよい。
【0046】
(7)上記の実施形態では、冷却液制御バルブ1をエンジン31本体の冷却系に用いているが、排気管に設置される触媒の冷却系又は液冷式オイルクーラ等に適用してもよい。他に、電動車両に使用されるモータ、インバータ、二次電池、燃料電池等の熱源の冷却系又は排熱回収系の冷却液制御バルブとして適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る車両用冷却液制御バルブは、各種車両における幅広い冷却対象に対して利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 冷却液制御バルブ(車両用冷却液制御バルブ)
2,3 ソレノイド
9,19,29 流路(弁内流路)
10 第1バルブ機構
11,21 弁体
11c,21c 流通孔
14,24 弁座
18,28 コイルスプリング(付勢機構)
20 第2バルブ機構
41 ウォータポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通させるバルブ本体を備えると共に、
磁性体を有し流体の流通を制御する弁体と、前記流体の流路を構成し、前記弁体と当接して前記流路を閉塞可能な弁座と、磁力によって前記弁体と前記弁座との当接状態を維持させるソレノイドと、前記弁体を前記弁座の側に付勢する付勢機構とを備えるバルブ機構を、前記バルブ本体の内部に一対設け、
一対の前記弁体の何れか一方に、当該弁体が前記当接状態を維持している状態で前記流体を流通可能な流通孔を備え、
前記一対のソレノイドが各別に通電制御可能に構成してある車両用冷却液制御バルブ。
【請求項2】
前記付勢機構が、前記バルブ本体と前記弁体とに亘って設けられたコイルスプリングである請求項1に記載の車両用冷却液制御バルブ。
【請求項3】
前記流通孔が、一対の弁体のうち下流側の弁体に設けてある請求項1又は2に記載の車両用冷却液制御バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96377(P2013−96377A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242692(P2011−242692)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)