説明

車両用前照灯

【課題】 遠方視認性を向上させるとともに、明暗差のはっきりとした配光パターンを形成することができる車両用前照灯を提供する。
【解決手段】 プロジェクタ型の車両用前照灯(1)は、2枚シェードを有しており、第1シェード(7)に比べて第2シェード(8)の下側エッジ(8c)が下側に傾斜している。また、上側エッジと傾斜エッジにおいては、同様の構造となっている。これにより、遠方視認性を向上させることが出来るとともに、明暗差のはっきりした配光を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロジェクタタイプのヘッドランプに係わるものである。特に、製造コストが安価であり、また、配光パターンのカットライン付近および遠方の視認性を向上させることができ、かつ、対向車への迷光を与えない配光パターンを照射することが出来る車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯として、プロジェクタタイプのヘッドランプを使用し、薄板状の2枚のシェードを用い、それぞれのシェードにより形成される配光パターンを重ね合わせて、所定の配光パターンを形成するものは従来からある。
【0003】
この場合、たとえば下記特許文献1に開示されているように、2枚のシェードのそれぞれの上縁により配光パターンのカットオフラインを形成する。その際、2枚のシェードをそれぞれ異なる高さに形成することが記載されている。
【0004】
この従来例では、リフレクタからの反射光の一部で、前後に配置された2枚のシェードの間に入射した光を、相対した2枚のシェードの内側面で反射させ、後側シェードで反射した光が、前側シェードに形成された反射光取り出し部から、配光パターンのカットオフライン近傍に照射されるように形成されており、これにより、カットオフライン近傍に追加光を照射することができ、カットオフラインを暈して、カットオフラインの明暗差を緩和させ、視認性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-187722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した車両用前照灯は、前側シェードに形成された反射光取り出し部から、配光パターンをカットオフライン近傍に追加光として照射する際、前側シェードの左側エッジは、後側シェードの左側エッジよりも高さが低く形成され、前側シェードの右側エッジは、後側シェードの右側エッジよりも高さが高く形成されている。
【0007】
このため、2つのシェードから形成される配光パターンは、上側水平カットオフラインおよび下側水平カットオフラインのいずれもが暈された配光パターンが形成されることとなる。
【0008】
したがって、カットオフライン上方の光量を増加させ、かつ、対向車への迷光を確実に防止する、という二つの課題を両立することが困難となっていた。さらに、近年では、右側走行帯と左側走行帯を追加機能なしで共用できる車両用前照灯が要望されている。
【0009】
本発明の目的は、カットオフライン上方の光量を増加させることができ、かつ、対向車への迷光を確実に防止することができる車両用前照灯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の車両用前照灯によれば、光源と、光源からの光を反射させる反射面を有するリフレクタと、反射面からの光を前方に照射する投影レンズと、投影レンズの後側焦点近傍に設けられたシェードからなるプロジェクタ型の車両用前照灯において、シェードは、光源側に配置される第1シェードと、投影レンズ側に配置される第2シェードからなり、第1シェードおよび第2シェードは、上側エッジ部と傾斜エッジ部と下側エッジ部を有しており、第2シェードの下側エッジ部は、第1シェードの下側エッジ部に比べて下方に傾斜していること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明(請求項2)の車両用前照灯によれば、第2シェードの下側エッジ部の傾斜角は、第2シェードの傾斜エッジ部の傾斜角よりも緩やかに形成されていること、を特徴とする。
【0012】
また、本発明(請求項3)の車両用前照灯によれば、シェードは、第1シェードがほぼ垂直に設置されており、第2シェードは、下端縁が上端縁よりもレンズ側に配置されている、ことを特徴とする。
【0013】
これにより(請求項1)、第1シェードの下側エッジ部よりも第2シェードの下側エッジ部が下方に傾斜していることになり、第1シェードにより作られる自車線側のカットオフラインよりも、第2シェードにより作られる自車線側のカットオフラインが上方にズレることになり、大幅に光量を増加させずに自車線側の遠方視認性を向上させることが出来る。また、第1シェードの上側エッジ部および傾斜エッジ部と、第2シェードの上側エッジ部および傾斜エッジ部とは、同様の角度で形成されているため、対向車線側のカットオフラインと斜めカットオフラインの明暗差がはっきりした配光パターンを形成することが出来る。
【0014】
これにより(請求項2)、第1シェードおよび第2シェードの傾斜エッジ部による斜めカットオフラインを明確に保ったまま、自車線側のカットオフラインを車両軸外側に向かって徐々に上方に傾斜するように形成することができ、遠方視認性を向上させることが出来る。
【0015】
これにより(請求項3)、光源からの出射光のうちリフレクタの反射面により反射され、第1シェードと第2シェードの間に入射する光は、一部は第2シェードにより遮蔽され、その他の光は、第2シェードの下端縁がレンズ側に配置されていることにより、第2シェードによって遮蔽されずに投影レンズ側へ入射する。それにより、これまで第2シェードによって遮蔽されていた光を有効に利用することができ、光束利用効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した車両用前照灯によれば、上側水平カットオフラインの上方への光量を上げることができ、かつ、下側水平カットオフラインを明暗差のはっきりとしたカットオフラインとして形成することにより対向車への迷光を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の車両用前照灯の正面図を示す図である。
【図2】図1のI―Iの断面図である。
【図3】(a)図1のI―Iのシェード構成を示す拡大図である。(b)図4のII―IIのシェード構成を示す拡大図である。
【図4】(a)本発明の第1シェードの形状を表す図である。(b)本発明の第2シェードの形状を表す図である。
【図5】(a)本発明の第1シェードにより形成される配光パターンを表す図である。(b)本発明の第2シェードにより形成される配光パターンを表す図である。
【図6】本発明の車両用前照灯の(a)すれ違い配光パターン(b)走行用配光パターンを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0019】
(実施態様1)
〈全体の構成〉
図1における車両用前照灯1は、(図示しない)アウターレンズと、ハウジングによって形成される灯室内に配置されるプロジェクタ型の車両用前照灯である。
【0020】
プロジェクタ型の車両用前照灯1は、投影レンズ2と、光源3と、リフレクタ4と、シェード6とを備える。
【0021】
前記光源3は、放電灯、いわゆる、メタルハライドランプなどの高輝度放電灯(HID)などからなる。前記光源3は、前記リフレクタ4にソケット12を介して着脱可能に取り付けられている。前記光源3の発光部分には、前記リフレクタ4の第1焦点F1が位置するように設定されている。
【0022】
前記リフレクタ4の内面には、アルミ蒸着もしくは銀塗装などにより、前記光源3に第1焦点を有し、前記投影レンズ2の後側焦点の近傍に第2焦点F2を有する、楕円を基本とする自由曲面からなる反射面5が形成されている。前記リフレクタ4は、フレーム9に固定保持されている。
【0023】
前記投影レンズ2は、非球面レンズからなり、前記投影レンズ2の後側焦点近傍には前記反射面5の第2焦点F2が位置するように形成されている。前記投影レンズ2は、フレーム9に固定保持されている。
【0024】
前記シェード6は、反射面5により反射された光源3からの光を遮蔽し、図6に示す所定のすれ違い用配光パターンLPを形成する。なお、図5および図6は、この実施例における車両用前照灯から10m先のスクリーンに投影された配光パターンの説明図である。図におけるH線はスクリーンの水平線を示し、符号V線は、同じく、スクリーンの上下垂直線を示す。
【0025】
また、前記シェード6は、配光切替手段としてのソレノイド10およびバネ部材14によって、すれ違い用配光パターンLPと、走行用配光パターンHPとに切り替えられる構成としても良い。
【0026】
前記シェード6は、第1シェード7および第2シェード8とからなり、SUS(バネ鋼板)などの弾性を有する薄板構造からなり、前記第1シェード7と前記第2シェード8とバネ部材14は、一体構造をなす。第1シェード7と第2シェード8は、かしめ又はリベット止めやスポット溶接などにより固定されており、前記第1シェード7と前記第2シェード8との間には、隙間Sが設けられている。また、この2枚のシェードの上端縁は、前記隙間Sを挟んでほぼ平行に対向している。
【0027】
図4(a)に示すように、前記第1シェード7は、光源3側に位置しており、上端縁には、第1上側水平エッジ7aと第1傾斜エッジ7bと第1下側エッジ7cとが形成されており、光軸Z−Zと直交するように設けられている。前記第1上側水平エッジ7aと前記下側エッジ7cは光軸Z-Zに対し、水平となるように設けられている。前記傾斜エッジ7bは、約45°の傾斜角度となっている。前記第1シェード7の下端側は、固定部15が設けられ、前記ソレノイド10の前記進退ロッド11に固定されている。
【0028】
図4(b)に示すように、前記第2シェード8は、投影レンズ2側に位置しており、上端縁には、第2上側水平エッジ8aと第2傾斜エッジ8bと第2下側エッジ8cが形成されており、光軸Z-Zと直交するように設けられている。前記第2上側水平エッジ8aは、光軸Z-Zに対し水平となるように設けられており、前記傾斜エッジ8bは、約45°の傾斜角度となっている。前記第2下側エッジ8cは、前記第1シェード7の第1下側エッジ7cに比べて下側に傾斜している。
【0029】
前記第1シェードは、ほぼ垂直に設置されており、前記第2シェード8は、下端縁8dが上端縁よりも投影レンズ2側に配置されている構成となっているため、前記第2シェードが傾斜するように配置されることにより、前記第1シェード7と前記第2シェード8の前記隙間Sは、上端縁から下端縁に向かうにつれて大きくなるように形成されている。
【0030】
(実施例1の作用の説明)
この実施例1における車両用前照灯1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。
【0031】
まず、光源3を点灯する。すると、光源3からの光は、リフレクタ4の反射面5により反射される。その反射光は、反射面5の第2焦点F2に集光され、第2焦点F2近傍に設置されているシェード6にて遮光され、遮光されなかった光が投影レンズ2を通って前方に照射される。その照射光は、図6に示す所定のすれ違い用配光パターンLPが得られるロービームとして、または、所定の走行用の配光パターンHPが得られるハイビームとして、それぞれ前方に照射される。
【0032】
次に、車両用前照灯1の配光パターンの切替手段について説明する。ソレノイド10は、固定ピン13により、フレーム9の下側に組み付けられている。ソレノイド10が無通電時においては、バネ部材14のバネ力により、ソレノイド10の進退ロッド11が前進状態(伸びた状態)にあり、シェード6が遮光位置に位置することで、すれ違い用配光パターンLPを形成される。また、通電時においては、進退ロッド11がバネ部材14のバネ力に抗して後退状態(縮んだ状態)となる。それにより、シェード6は、回避位置に位置し、走行用配光パターンHPが形成されるようになっている。
【0033】
反射面5の第2焦点F2は、シェード6の第1シェード7および第2シェード8の間に配置されており、すれ違い用配光パターンLPは、前記第1シェードの上端縁である第1上側水平エッジ7aと第1傾斜エッジ7bと第1下側エッジ7cとによって遮蔽され、投影レンズ2を通して照射される第1配光パターンFPと、前記第2シェード8の上端縁である第2上側水平エッジ8aと第2傾斜エッジ8bと第2下側エッジ8cによって遮蔽され、投影レンズ2を通して照射される第2配光パターンSPが合成されて形成されている。
【0034】
図4および図5に示すように、前記第1シェードでは、前記第1シェードの上端縁に設けられている第1上側水平エッジ7aにより、下側水平カットラインFP3が形成され、第1傾斜エッジ7bにより、傾斜カットラインFP2が形成され、第1下側エッジ7cにより、上側水平カットラインFP1が形成される。これにより、すれ違い用配光パターンLPのベースとなる第1配光パターンFPが形成される。
【0035】
つぎに、前記第2シェード8においては、前記第2シェード8の上端縁に設けられている第2上側水平エッジ8aにより、下側水平カットラインSP3が形成され、第2傾斜エッジ8bにより、傾斜カットラインSP2が形成され、第2下側エッジ8cにより、上側カットラインSP1が形成される。このとき、第2下側エッジ8cは、前記第1シェード7の第1下側エッジ7cよりも下側に傾斜しているため、図5の(b)に示すように、第1配光パターンFPに対して、H線よりも上方に付加配光パターンAPを付加した、第2配光パターンSPが形成される。
【0036】
(実施例の効果の説明)
図6に示すすれ違い用配光パターンLPは、第1配光パターンFPと第2配光パターンSPとの合成により得られる。第1配光パターンFPと第2配光パターンSPのカットラインが一致する部分(FP2−SP2、FP3―SP3)においては、明暗差のはっきりとしたカットラインが得られ、カットラインが一致しない部分(FP1−SP1)については、すれ違い用配光パターンのカットラインを保ちつつ、付加配光パターンAPにより遠方視認性を向上させることができる
【0037】
(実施例2)
さらに、前記第2シェード8の前記第2下側エッジの傾斜角を、前記第2傾斜エッジの傾斜角よりも緩やかにすることにより、付加配光パターンAPの照射量を調整することができる。すなわち、自車線側の遠方視認性を調整することが出来、たとえば、対向車側へのグレアとならない照射量に抑えた場合、本発明の車両用前照灯1を左側走行帯において用いたとしても、迷光を抑えた配光パターンを形成することができ、右側走行帯と左側走行帯を追加機能なしで、共有することも可能となる。
【0038】
(実施例3)
さらに、前記シェード6の前記第1シェード7がほぼ垂直に設置されており、前記第2シェードの下端縁8dが上端縁よりもレンズ側に配置される構成の場合、前記第2シェードが垂直に配置されていた際よりも、前記第2シェードの下端縁8d側においては、隙間Sを大きくすることができ、光源3からの光を多く投影レンズ2に入射させることができるため、すれ違い用配光パターンLPおよび走行用配光パターンHPの光量を増加させることが出来る。
【0039】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0040】
1……車両用前照灯、2……投影レンズ、3……光源、4……リフレクタ、5……反射面、6……シェード、7……第1シェード(光源側)、7a……第1上側水平エッジ、7b……第1傾斜エッジ、7c……第1下側エッジ、8……第2シェード、8a……第2上側水平エッジ、8b……第2傾斜エッジ、8c……第2下側エッジ、8d……第2シェード下端縁、9……フレーム、10……ソレノイド、11……進退ロッド、12……ソケット、13……固定ピン、14……バネ部材、15……固定部、S……隙間、Z−Z……光軸、F1……第1焦点、F2……第2焦点、
FP……第1配光パターン、FP1……上側水平カットライン、FP2……傾斜カットライン、FP3……下側水平カットライン、SP……第2配光パターン、SP1……上側水平カットライン、SP2……傾斜カットライン、SP3……下側傾斜カットライン、
LP……すれ違い用配光パターン、HP……走行用配光パターン、AP……付加配光パターン、L……光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源からの光を反射させる反射面を有するリフレクタと、前記反射面からの光を前方に照射する投影レンズと、前記投影レンズの後側焦点近傍に設けられたシェードからなるプロジェクタ型の車両用前照灯において、
前記シェードは、前記光源側に配置される第1シェードと、
前記投影レンズ側に配置される第2シェードからなり、前記第1シェードおよび前記第2シェードは、上側エッジ部と傾斜エッジ部と下側エッジ部を有しており、前記第2シェードの前記下側エッジ部は前記第1シェードの下側エッジ部に比べて下方に傾斜している、ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記第2シェードの下側エッジ部の傾斜角は、前記第2シェードの傾斜エッジ部の傾斜角よりも緩やかに形成されている、ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
前記シェードは、前記第1シェードがほぼ垂直に設置されており、前記第2シェードは、下端縁が上端縁よりもレンズ側に配置されている、ことを特徴とする車両用前照灯。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73844(P2013−73844A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213219(P2011−213219)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】