説明

車両用回転電機の配線部品

【課題】 ステータの外径が従来より小さく曲げ加工性に優れた車両用回転電機の配線部品を提供すること。
【解決手段】 導体の線材で形成された各相の複数のセグメントワイヤ27〜29が円周方向26に配置されて構成されるワイヤコイル13〜15(車両用回転電機の配線部品)であって、セグメントワイヤ27〜29は、端部42に半径方向21へ鈍角44で折曲される直線部45(突出直線部)と、直線部45の先端に回転軸方向25へ折曲される立上部31と、を備え、立上部31は、円周方向26に隣接するセグメントワイヤ27〜29の立上部31と導通すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッドカー等のパワートレインに使用される車両用回転電機の配線部品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用回転電機のステータは、ステータのコイル占有率を高める為、あらかじめ銅線を巻いた分割コアを円周方向に複数個配置して構成される。分割コアのコイル端部は配線部品に結線され、各分割コアは配線部品により配電される。
【0003】
従来技術として、導線で形成された複数のセグメントワイヤを円周方向に配置して配線部品を構成するものがある。セグメントワイヤの両端には半径方向の突出部が形成され、突出部の先端に回転軸方向の立上部が形成される。立上部と隣接するセグメントワイヤの立上部は、電力供給端子により接合する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-110144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では突出部と立上部の曲げ部円弧の径を確保する為、突出部の半径方向の突出量が増大し、配線部品の外径が大きくなる問題がある。また、曲げ部が三次元の形状となり、曲げ加工性が低下する問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、外径が従来より小さく曲げ加工性に優れた配線部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の課題解決手段は、導体の線材で形成された複数のセグメントワイヤが円周方向に配置されて構成される車両用回転電機の配線部品であって、前記セグメントワイヤは、端部に半径方向へ鈍角で折曲される突出直線部と、該突出直線部の先端に前記車両用回転電機の回転軸方向へ折曲される立上部と、を備え、該立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と導通すること、を特徴とする。
【0008】
本発明の第2の課題解決手段は、前記立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と溶融することにより導通すること、を特徴とする。
【0009】
本発明の第3の課題解決手段は、前記配線部品は、前記回転軸方向に複数個配置されること、を特徴とする。
【0010】
本発明の第4の課題解決手段は、前記車両用回転電機は、U相、V相及びW相の3相から構成される回転電機であって、前記3相の各前記立上部の先端は、前記回転軸方向に垂直な1つの平面上に位置すること、を特徴とする。
【0011】
本発明の第5の課題解決手段は、前記立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と端子により接合すること、を特徴とする。
【0012】
本発明の第6の課題解決手段は、前記セグメントワイヤは、絶縁被膜されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、突出部を半径方向に鈍角に折曲して直線部を形成する為、曲げ部円弧径を確保しつつ突出部の半径方向突出量を従来より減らすことができ、ステータの外径を抑えることができる。また、曲げ部円弧径の両側に直線部が確保される為、汎用加工機の適用が可能となり、曲げ加工性が向上する。
【0014】
また、立上部同士を溶融により導通する為、確実かつ強固に接合できる。
【0015】
また、配線部品を回転軸方向に配置する為、多相化してもステータの外径を抑えることができる。
【0016】
また、各相の配線部品の立上部の先端の回転軸方向の高さを揃えることにより、コイル端部との接合位置を同じにできるため、各相で共通化された分割コアを使用できる。
【0017】
また、立上部同士を端子で接合することにより、分割コアのコイル端部との接合が容易となる。
【0018】
また、突出部を半径方向に鈍角に折曲して直線部を形成する為、曲げ部円弧径を確保でき、セグメントワイヤに絶縁被膜を施しても、セグメントワイヤの絶縁被膜を損傷せず絶縁性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る車両用回転電機のステータを示す平面図である。
【図2】実施形態に係る車両用回転電機のステータの部分拡大平面図である。
【図3】実施形態に係るバスリングの平面図である。
【図4】実施形態に係るバスリングの内部を半径方向外方から見た部分斜視説明図である。
【図5】実施形態に係るU相セグメントワイヤの斜視図である。
【図6】実施形態に係るU相セグメントワイヤの正面図である。
【図7】実施形態に係るU相セグメントワイヤの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の配線部品を備えた車両用回転電機について説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係る車両用回転電機のステータ1を示す平面図であり、図2は、図1のA部の拡大図である。説明の為、図2では、後述の絶縁樹脂材料を充填していない。分割コア2は、けい素鋼板を積層し、樹脂箱3を取付けることにより構成され、ステータハウジング4の内周面5に1相当り10個(計30個)ずつ均等に保持されている。各分割コア2には、エナメル被膜された銅線が巻かれ、コイル6が形成される。各コイル6に配電する為の円環状のバスリング7は、ステータハウジング4の内周面5に分割コア2と隣接して配置される。また、樹脂箱3とバスリング7により形成される収容空間8に絶縁用樹脂材料が充填される。
【0022】
図3は、実施形態に係るバスリング7の平面図である。バスリング7は、ともに樹脂等の絶縁材により環状に形成されたアウタクリップ11とインナクリップ12とを備えており、互いに嵌合している。また、U相ワイヤコイル13、V相ワイヤコイル14及びW相ワイヤコイル15は、アウタクリップ11とインナクリップ12とにより保持され、各相のワイヤコイル13〜15には、各コイル6へ電力を供給する為の電力供給端子16が接合されている。さらに、アウタクリップ11の3か所からは、図示しない外部の制御回路の各相に接続されるU相外部端子17、V相外部端子18及びW相外部端子19が延出している。各相の外部端子17〜19は、バスリング7内において各相のワイヤコイル13〜15とそれぞれ接続される。
【0023】
図4は、実施形態に係るバスリング7の内部を半径方向21外方から見た部分斜視説明図であるが、説明の為アウタクリップ11を取外している。インナクリップ12の外周面に、円環状のU相溝22、V相溝23及びW相溝24が回転軸方向25に並んで形成され、各溝にU相ワイヤコイル13、V相ワイヤコイル14及びW相ワイヤコイル15が、接触しないようにそれぞれ絶縁されながら保持される。U相ワイヤコイル13は、円周方向26に配置された複数のU相セグメントワイヤ27から構成され、同様に、V相ワイヤコイル14はV相セグメントワイヤ28から、W相ワイヤコイル15はW相セグメントワイヤ29から構成される。以下、U相ワイヤコイル13についてのみ説明するが、V相及びW相も同様である。
【0024】
U相セグメントワイヤ27の回転軸方向25へ立上げられた立上部31同士は、電力供給端子16によりかしめられて接合し、さらに、立上部先端32は溶接される。電力供給端子16は、U相セグメントワイヤ27の立上部31にかしめられたかしめ部33と、かしめ部33からバスリング7の半径方向21内方へと延びたコイル係合部34とを有している。コイル係合部34の先端は、逆U字状に形成されており図示しないコイル一端と熱かしめにより導通して係合し、図示しないコイル他端は図示しない中性点バスリングに接続される。また、立上部31の回転軸方向25の突出高さは、異なる相でも回転軸方向25に揃えられる。
【0025】
図5、図6、図7は実施形態に係るU相セグメントワイヤ27のそれぞれ斜視図、正面図、平面図である。各U相セグメントワイヤ27には、エナメル被膜された銅線が円弧状に屈曲されて円弧状の本体部41が形成され、両方の端部42が第一折曲部43で半径方向21に鈍角44で折曲されて直線部45が形成されている。さらに、それぞれの直線部45には、半径方向21に突出した第二折曲部46で、回転軸方向25に延出するように折曲されて、立上部31が形成されている。
【0026】
制御回路からの励磁電流は、図示しない導線を介してU相外部端子17に供給され、U相外部端子17と接続するU相ワイヤコイル13を通り、各電力供給端子16を介して各コイル6へ供給される。V相及びW相へも同様に励磁電流が供給される。各相の励磁電流が時間的に変化することによりステータ1に回転磁界が生成し、生成した回転磁界が図示しないロータの永久磁石に作用する。ロータは、回転磁界の周波数に同期して回転し、回転電機は、電動機として作動する。一方、回転電機が発電機として作動する場合は、永久磁石を搭載したロータが外部動力により回転し、磁束変化に伴う電磁誘導によりステータ1の各コイル6に起電力が発生する。
【0027】
U相セグメントワイヤ27の端部42を半径方向21に鈍角44に折曲する為、半径方向21の突出量増加によるステータ1の外径拡大を招くことなく、直線部45を確保できる。また、直線部45が確保されることにより、第一折曲部43と第二折曲部46の曲率を抑制でき、絶縁被膜を損傷する虞が低下するとともに、汎用曲げ加工機の適用が可能となり、曲げ加工性が向上する。さらに、U相セグメントワイヤ27の直線部45は、本体部41に対し直角に折曲される場合、第一折曲部43同士が隣接する。そのため、本体部41の長さは精度が必要となるが、鈍角44で折曲する場合、本体部41の円周方向26の相対位置のズレをU相セグメントワイヤ27の変形により吸収でき、加工精度を緩和できる。また、第一折曲部43を鈍角44で折曲する為、直角に折曲する場合よりも折曲角度を少なくでき、使用する銅線の長さも低減できる。
【0028】
また、隣接する立上部31同士を溶接により接合する為、確実かつ強固に接合できるだけでなく、母材同士が融合する為電気抵抗の増加を抑制でき、運転効率を向上することができるとともにジュール熱による発熱を抑えることもできる。また、電気抵抗のばらつきを抑えることができ、回転時のトルク変動を抑制できるとともに、電位差の発生を低減し電磁ノイズを抑制できる。
【0029】
また、各相のワイヤコイル13〜15を回転軸方向25に配置する為、多相化してもステータ1の外径を抑えることができ、バスリング7としてユニット化することにより組付性が向上する。
【0030】
また、各相のワイヤコイル13〜15の立上部先端32の高さを揃えること、換言すれば3相の各立上部先端32は、回転軸方向25に垂直な1つの平面上に位置することにより、分割コア2を各相で共通化できる。さらに、係合部34の回転軸方向25の位置も同一となる為、かしめ易くなり組付性が向上する。
【0031】
また、電力供給端子16を立上部31に設置することにより、電力供給端子16の円周方向26の位置決めが用意となる。さらに、電力供給端子16で隣接する立上部31同士を接合することにより、各相のセグメントワイヤ27〜29を仮組みでき、バスリング7を組立てる際の組付性が向上する。
【0032】
また、第一折曲部43及び第二折曲部46の曲率を抑えることができる為、各相のセグメントワイヤ27〜29にエナメル被膜を施しても、エナメル被膜を損傷せず絶縁性を確保できる。
【0033】
実施形態では、セグメントワイヤは、本体部が円弧状であるが多角形や直線であってもよく、セグメントワイヤ同士は、電力供給端子のかしめと溶接により接合されているが、熱かしめやはんだ付けであってもよい。また、セグメントワイヤの両端は、対称形状であるが非対称形状であってもよい。さらに、ワイヤコイルは、集中巻のステータに使用されているが、分布巻のステータに使用してもよく、多相永久磁石同期機のステータのみならず、単相同期機、誘導機、SRモータ、直流機に用いても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 ステータ
2 分割コア
6 コイル
13 U相ワイヤコイル(車両用回転電機の配線部品)
14 V相ワイヤコイル(車両用回転電機の配線部品)
15 W相ワイヤコイル(車両用回転電機の配線部品)
16 電力供給端子(端子)
21 半径方向(半径方向)
25 回転軸方向(回転軸方向)
26 円周方向(円周方向)
27 U相セグメントワイヤ(セグメントワイヤ)
28 V相セグメントワイヤ(セグメントワイヤ)
29 W相セグメントワイヤ(セグメントワイヤ)
31 立上部(立上部)
41 本体部
42 端部(端部)
44 鈍角(鈍角)
45 直線部(突出直線部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の線材で形成された複数のセグメントワイヤが円周方向に配置されて構成される車両用回転電機の配線部品であって、
前記セグメントワイヤは、端部に半径方向へ鈍角で折曲される突出直線部と、
該突出直線部の先端に前記車両用回転電機の回転軸方向へ折曲される立上部と、を備え、
該立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と導通する
車両用回転電機の配線部品。
【請求項2】
前記立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と溶融することにより導通する
請求項1に記載の車両用回転電機の配線部品。
【請求項3】
前記配線部品は、前記回転軸方向に複数個配置される
請求項1又は2に記載の車両用回転電機の配線部品。
【請求項4】
前記車両用回転電機は、U相、V相及びW相の3相から構成される回転電機であって、
前記3相の各前記立上部の先端は、前記回転軸方向に垂直な1つの平面上に位置する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用回転電機の配線部品。
【請求項5】
前記立上部は、円周方向に隣接する前記セグメントワイヤの前記立上部と端子により接合する
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両用回転電機の配線部品。
【請求項6】
前記セグメントワイヤは、絶縁被膜されている
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両用回転電機の配線部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−5326(P2012−5326A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140821(P2010−140821)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】