説明

車両用変速機の冷却構造

【課題】変速機内への通風機能を確保しつつ、外部からの有害な水侵入を阻止することのできる車両用変速機の冷却構造を提供する。
【解決手段】クラッチハウジング2の排気口5を覆う防水カバー10により、クラッチハウジング2の斜め上方からの水侵入経路Wが遮断され、水の侵入を阻止することができる。同時に、排気口5から排出される排気に対しては、前カバー部12とクラッチハウジング2の外周側壁部との間の下方隙間、後カバー部13とクラッチハウジング2の外周側壁部との間の下方隙間からの経路Gを通して、クラッチハウジング2内の高温空気の流れを妨げることなく排気させることができ、冷却性能の低下を招くことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から空気を導入して内部の高温空気を外部に排出する車両用変速機の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載される変速機は、駆動輪に連結されたプロペラシャフトに対してエンジンの回転を変速して伝達する変速機構と、エンジンと変速機構との間に配置されてエンジンのクランクシャフトの回転を変速機構に伝達するクラッチ部とを有している。クラッチ部は、例えば摩擦クラッチによって構成され、この摩擦クラッチの作動によって摩擦面が高温化することになる。
【0003】
このため、変速機内部に外部から空気を導入して内部の高温の空気を外部に排出することで、変速機内部を冷却する冷却構造が採用するものが知られている。この変速機の冷却構造では、外部から空気を導入するための吸気口と、変速機内部の高温空気を外部に排出するための排気口とが開口されているため、これらの開口部分、特に排気口に外部から水が侵入する虞がある。
【0004】
これに対処するに、例えば、特許文献1には、Vベルト式変速機の駆動プーリ、従動プーリ、ベルト及び排気ダクトを覆う伝動カバーに、外気を吸気する吸気口と、外気を排出する排気口とを備えると共に、排気ダクトの一端に、排気口と、排気口よりも上方の他端にある通気口とを備え、伝動ユニット内から通気口に流れる外気を、排気口より放出する冷却構造において、排気ダクトの内壁に突出する、第1水返しリブ、第2水返しリブ、第1防水リブ、第2防水リブを備えることで、排気口から伝動ユニットへ跳ね返って入る水を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−201230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているような防水構造では、第1水返しリブ、第2水返しリブ、第1防水リブ、第2防水リブによる複雑な経路を経て変速機内から空気が排出されることになり、排気の流れが妨げられて冷却性能の低下を招く虞がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、変速機内への通風機能を確保しつつ、外部からの有害な水侵入を阻止することのできる車両用変速機の冷却構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による車両用変速機の冷却構造は、エンジンの出力軸からの動力を伝達するクラッチを収納するクラッチハウジングと、前記クラッチハウジング後方の外周側壁部に設けられ、前記クラッチハウジング内に外部からの空気を導入するための吸気口と、前記クラッチハウジング前方の外周側壁部に設けられ、前記クラッチハウジング内の空気を外部に排出するための排気口と、前記クラッチハウジングの外周側壁部に取り付けられ、前記排気口を所定の間隙をもって覆う防水カバーとを備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変速機内への通風機能を確保しつつ、外部からの有害な水侵入を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】クラッチハウジングに設けた吸気口及び排気口を示す外観図
【図2】クラッチハウジングの排気口を示す断面図
【図3】排気口に装着した防水カバーを示す外観図
【図4】防水カバーの取付面と直交する方向の断面図
【図5】空気及び水の経路を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において符号1は、図示しない車両に搭載されるエンジンの出力軸に連結される変速機であり、エンジンの出力軸からの動力を伝達するクラッチを収納するクラッチハウジング2の後方に、変速機構を収納するトランスミッションケース3が接合されている。
【0012】
尚、本実施の形態においては、変速機1はマニュアル操作によるマニュアル変速機として説明するが、変速機1は、遊星歯車等を用いた自動変速機、駆動プーリ及び従動プーリを用いて無段変速を行う無段変速機であっても良く、クラッチハウジング2は、流体トルクコンバータを収納するコンバータハウジングであっても良い。
【0013】
ここで、変速機1は、外気を導入して内部冷却を行うための冷却構造を備えている。変速機1の冷却構造は、クラッチハウジング2に設けられた2つの開口穴、すなわち外部の空気を取り入れるための吸気口4と内部の高温の空気を排出するための排気口5とを備えて構成され、クラッチの回転を利用して内部の高温空気を効率的に外部に排出することができる。この冷却構造においては、更に、排気口5を覆う後述の防水カバー10(図3以下参照)を備えており、この防水カバー10により、排気の流れを妨げることなく、外部からの水侵入を阻止することができる。
【0014】
吸気口4は、クラッチハウジング2後方(トランスミッションケース3側)の下部側で外周側壁部に沿って長手方向に延びるダクト部6の入口穴として開口されている。ダクト部6は、トランスミッションケース3の合わせ面に突き当てられるクラッチハウジング2の合わせ面よりも外方に突出しており、ダクト部6の入口である吸気口4は、トランスミッションケース3に向かって開口し、ダクト部6内部の通路を通してクラッチハウジング2内部のクラッチ室に連通している。
【0015】
一方、排気口5は、クラッチ室からの高温の空気を効率的に排出して冷却効果を高めるため、クラッチ室に比較的近い位置、本実施の形態においては、クラッチハウジング2のエンジンに接合される開放端面を形成するフランジ部2aの直後方の部位に設けられている。この排気口5は、トランスミッションケース3側に向かって狭まる略三角形状で、クラッチハウジング2の側壁部を略周方向に斜め下方に切り欠いて形成されており、切り欠き形状のテーパ面5aに沿って内部の高温の空気が斜め下方に排出される。
【0016】
また、排気口5は、排気効率と外部への騒音漏れを考慮して、図2に示すように、クラッチハウジング2の横方向断面から見てクラッチ20の軸中心を通る略水平線上或いは若干下の位置に開口されている。従って、被水による水侵入を阻止し、錆等によるクラッチ20の不具合発生を未然に防止するため、排気口5をカバーで覆うことが考えられるが、単にカバーで覆うのみでは排気の流れを妨げてしまい、内部冷却機能が低下することが懸念される。
【0017】
尚、吸気口4は、クラッチハウジング2後方のダクト部6に、トランスミッションケース3側に向かって開口されており、前輪からも比較的遠いため、飛散による水侵入は殆ど無く、万一、水が侵入したとしてもクラッチには達せず、特に問題は生じない。
【0018】
このため、排気口5は、図3に示すような防水カバー10で所定の間隙をもって覆われ、通風による冷却機能と防水機能とを同時に確保するようにしている。尚、防水カバー10と排気口5との間の間隙は、排気口5の形状にもよるが、排気口5の開口周縁の全て又は大部分が防水カバー10に接しておらず、所定の距離で離間していることを意味するものとする。
【0019】
防水カバー10は、クラッチハウジング2に専用の取付部を特に設けることなく、フランジ部2aに設けられたボス7を利用して取り付けられる。ここに、ボス7は、クラッチハウジング2をエンジンに螺合・固定するためのボルト孔を有するものであり、クラッチハウジング2と防水カバー10の取付部11とが図示しないボルトによりエンジンに共締めされて固定される。
【0020】
防水カバー10は、外部からの水の侵入方向を考慮した形状に形成されており、例えば板金のプレス成形によって形成される。詳細には、防水カバー10は、細長の取付部11と、取付部11の長手方向の略中央から互いに反対方向に延出される前カバー部12と後カバー部13とを有している。取付部11は、細長形状のアーム部11aの両端に、ボス7に取り付けるための取付孔11bを有している。
【0021】
また、図4に示すように、取付部11のアーム部11a両端の取付面と直交する方向から見たとき、前カバー部12はアーム部11aの略中央上側から略直角に折り曲げられて延出されると共に、後カバー部13がアーム部11aの略中央下側から前カバー部12と反対側で斜め下方に折り曲げられて延出されている。防水カバー10は、外部からの水の侵入を防止しつつ通風性能を確保可能なように各部の形状寸法が設定されており、前カバー部12をエンジン側に配置して排気口5の前方部分を覆い、後カバー部13をトランスミッションケース3側に配置して排気口の後方部分を覆うように取り付けられる。
【0022】
このようなクラッチハウジング2を有する変速機1は、エンジンが駆動されて車両が走行状態となると、クラッチ20の回転によりその周囲には空気流が発生することになる。その結果、外部の空気が吸気口4からクラッチハウジング2内に流入し、摩擦熱により昇温したクラッチ20の周囲空気が排気口5を通って効率的に外部に排出されてクラッチハウジング2内が換気され、クラッチ20の冷却が行われる。
【0023】
このとき、図5に示すように、排気口5を覆う防水カバー10により、図中に破線の矢印で示すようなクラッチハウジング2の斜め上方からの水侵入経路Wが遮断され、水の侵入を阻止することができる。同時に、排気口5から排出される排気に対しては、図5中に太矢印で示すように、前カバー部12とクラッチハウジング2の外周側壁部との間の下方隙間、後カバー部13とクラッチハウジング2の外周側壁部との間の下方隙間からの経路Gを通して、クラッチハウジング2内の高温空気の流れを妨げることなく排気させることができ、冷却性能の低下を招くことがない。
【0024】
すなわち、図4に示すように、取付孔11bが設けられるアーム部11aの両端の取付面を基準として、前カバー部12は、取付面から先端までの長さL1及び取付孔11b中心からの高さH1が、排気口5のテーパ面5aに沿った斜め下方への空気の流れを妨げないように、排気口5の開口周縁と前カバー部12の端面部との間に適切な間隙が生じるように設定されている。また、前カバー部12の形状は、取付面から前方側(エンジン側)で前輪から跳ね上げられる等して外部から飛散する水の侵入を阻止可能なように、所定の面積で排気口5の前方側を覆う略台形の平板状に形成されている。
【0025】
また、後カバー部13は、取付面から先端までの長さL2、及び取付孔11bから折り曲げ基部までの高さH2と折り曲げ角度θとが、前カバー部12と同様、排気口5のテーパ面5aに沿った斜め下方への空気の流れを妨げないように設定されている。また、後カバー部13の形状は、取付面から後方側(トランスミッションケース3側)で外部から飛散する水の侵入を阻止可能なように、所定の面積で排気口5の後方側を覆う略三角形の平板状に形成されている。
【0026】
このように本実施の形態においては、クラッチハウジング2の吸気口4及び排気口5を介した内部への通風による冷却構造において、比較的クラッチに近い位置に設けられてクラッチからの高温の空気を外部に排気する排気口5を、外部からの有害な水侵入を阻止しつつ、排気の流れを妨げることのない防水カバー10で覆っている。これにより、内部冷却のための通風機能と内部への水侵入を阻止するための防水機能とを同時に確保することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 変速機
2 クラッチハウジング
2a フランジ部
3 トランスミッションケース
4 吸気口
5 排気口
7 ボス
10 防水カバー
11 取付部
11a アーム部
11b 取付孔
12 前カバー部
13 後カバー部
20 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸からの動力を伝達するクラッチを収納するクラッチハウジングと、
前記クラッチハウジング後方の外周側壁部に設けられ、前記クラッチハウジング内に外部からの空気を導入するための吸気口と、
前記クラッチハウジング前方の外周側壁部に設けられ、前記クラッチハウジング内の空気を外部に排出するための排気口と、
前記クラッチハウジングの外周側壁部に取り付けられ、前記排気口を所定の間隙をもって覆う防水カバーと
を備えたことを特徴とする車両用変速機の冷却構造。
【請求項2】
前記クラッチハウジングは、エンジンに接合される開放端面を形成するフランジ部を有し、
前記防水カバーは、前記フランジ部に設けたボスを介して前記クラッチハウジングがエンジンに螺合・固定されるとき、前記ボスに取り付けられて固定されることを特徴とする請求項1記載の車両用変速機の冷却構造。
【請求項3】
前記防水カバーは、前記ボスに取り付けられる細長の取付部と、この取付部の略中央から延出されて前記排気口の前方部分を覆う前カバー部と、前記取付部の略中央から前記前カバー部と反対方向に延出されて前記排気口の後方部分を覆う後カバー部とを有することを特徴とする請求項2記載の車両用変速機の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113388(P2013−113388A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260690(P2011−260690)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】