説明

車両用緩衝器

【課題】伸縮時のピストン速度が低速である場合にあっても減衰力発生応答性を向上することができ、車両における乗り心地をも向上することができる車両用液圧緩衝器を提供することである。
【解決手段】車両用緩衝器Dにおいて、インナーシリンダ1と、アウターシリンダ2と、ピストン3と、インナーシリンダ1内に上記ピストンで区画される上室R1と下室R2と、液室Lと、液室Lを加圧する加圧手段Pと、アウターシリンダ2の側方に設けたバルブケース4と、バルブケース4内に設けた隔壁5と、排出通路8と、ピストン通路9と、吸込通路10と、圧側減衰バルブ11と、伸側減衰バルブ12と、吸込チェック弁13と、懸架ばね受14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用緩衝器にあっては、減衰力発生応答性の向上を図ったものとして、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されて中央にピストンを保持するピストンロッドと、シリンダの下端に連結される外筒と、外筒内に収容されてピストンロッドの下端側の挿通を許容する内筒と、外筒と内筒の双方に摺動自在に挿入されて外筒と内筒との間に液室と気室とを画成するフリーピストンとを備えたものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
車両用緩衝器の減衰力発生応答性を向上させる方法としては、シリンダ内の圧力を高めることが挙げられる。一般的に、液体は、弾性を備えており、また、液体中に気体が溶け込んでいる場合には、液柱剛性は低くなる。液柱剛性が低くなると、車両用緩衝器の伸縮し始めにおいて、液体がばねとして振る舞って、減衰力の立ち上がりが時間的に遅れる傾向となる。そこで、シリンダ内圧力を高くして液体を加圧し、液柱剛性を高くしておくと、減衰力発生応答性が向上するのである。
【0004】
しかしながら、片ロッド型の緩衝器でシリンダ内圧力を高く設定すると、緩衝器は、シリンダ内圧によって常に伸長するように附勢されるため、ロッド反力が大きくなって、却って車両における乗り心地を損なってしまう結果となる。
【0005】
これに対して上記した従来の車両用緩衝器にあっては、ピストンロッドが伸側室と圧側室の双方に挿通される、いわゆる両ロッド型の緩衝器とされているため、片ロッド型緩衝器のように、気室の圧力を高く設定してシリンダ内圧力を高めても、ロッド反力が大きくならないことから、液柱剛性を高めて減衰力発生応答性を向上しつつも、車両における乗り心地を損なわず、減衰力発生応答性の向上と乗心地とを両立させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−71413号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の車両用緩衝器にあっては、特に、伸縮し始めやゆっくり伸縮する場合、ピストン速度が低く、液体が圧側室と液室とを連通するオリフィスをさほど抵抗なく通過することができる。つまり、オリフィスを通過する液体の流量が小さい場合、オリフィスが液体の流れに与える抵抗が小さくなるから、液体は液室と圧側室とを抵抗なく行き来することができるため、見掛け上、液室も圧側室として振る舞うようになる。
【0008】
見掛け上の液室が圧側室と振る舞うと、見掛け上の圧側室の液体量は、圧側室の液体量に液室の液体量を加算したものとなるから、当該見掛け上の圧側室の液体の液柱剛性は、圧側室のみの液体の液柱剛性よりも低くなる。
【0009】
したがって、従来の車両用緩衝器にあっては、伸縮時のピストン速度が低くなる場合、見掛け上、圧側室の液柱剛性が低くなるため、減衰力の立ち上がりが時間的に遅れることになる、つまり、減衰力発生応答性が悪くなる。
【0010】
また、伸縮初期の車両用緩衝器の減衰力発生応答性が悪いと、車両旋回時、制動時や加速時といった車体の姿勢変化を姿勢変化初期からしっかり抑制することができなくなるため、車両における乗り心地も悪くなる。
【0011】
そこで、本発明は、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、伸縮時のピストン速度が低速である場合にあっても減衰力発生応答性を向上することができ、車両における乗り心地をも向上することができる車両用液圧緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明の課題解決手段は、インナーシリンダと、当該インナーシリンダを覆うアウターシリンダと、上記インナーシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、上記インナーシリンダ内に上記ピストンで区画される上室と下室と、上記アウターシリンダ内であって上記下室よりも下方に設けた液室と、当該液室を加圧する加圧手段と、上記アウターシリンダの側方に設けたバルブケースと、当該バルブケースを上記下室に連通される下室側室と上記液室に連通される液室側室とに区画する隔壁と、当該隔壁に設けられて上記下室側室と上記液室側室とを連通する排出通路と、上記ピストンに設けられて上記上室と上記下室とを連通するピストン通路と、上記インナーシリンダと上記アウターシリンダとの間に形成される隙間を介して上記上室と上記液室とを連通する吸込通路と、上記排出通路を開閉し上記下室側室から上記液室側室へ向かう液体の流れのみを許容するとともに当該液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブと、上記ピストン通路を開閉し上記上室から上記下室へ向かう液体の流れのみを許容するとともに当該液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブと、上記吸込通路の途中に設けられて上記液室から上記上室へ向かう液体の流れのみを許容する吸込チェック弁と、上記アウターシリンダの上記バルブケースよりも上方に設けた懸架ばね受とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この車両用緩衝器にあっては、液室と液室を加圧する加圧手段を備えているので、シリンダ内の伸側室と圧側室内の液柱剛性を高めることができる。そして、この車両用緩衝器にあっては、伸長行程時に圧縮される伸側室が何ら抵抗の無い通路を介して液室に連通されることがなく、収縮行程時においても圧縮される圧側室が圧側減衰バルブを介して液室に連通されるため何ら抵抗の無い通路介して液室に連通されることがないので、その伸縮両行程時において液室が圧縮側の室として振る舞うことがなく液体の液柱剛性の低下を招くことがない。
【発明の効果】
【0014】
以上より、本発明の車両用緩衝器によれば、伸縮時のピストン速度が低速である場合であっても減衰力発生応答性を向上することができ、車両における乗り心地をも向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施の形態における車両用緩衝器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における車両用緩衝器Dは、インナーシリンダ1と、当該インナーシリンダ1を覆うアウターシリンダ2と、インナーシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン3と、インナーシリンダ1内にピストン3で区画される上室R1と下室R2と、アウターシリンダ2内であって下室R2よりも下方に設けた液室Lと、当該液室Lを加圧する加圧手段Pと、アウターシリンダ2の側方に固定されるバルブケース4と、当該バルブケース4を下室R2に連通される下室側室6と液室Lに連通される液室側室7とに区画する隔壁5と、隔壁5に設けられて下室側室6と液室側室7とを連通する排出通路8と、ピストン3に設けられて上室R1と下室R2とを連通するピストン通路9と、インナーシリンダ1とアウターシリンダ2との間に形成される隙間を介して上室R1と液室Lとを連通する吸込通路10と、排出通路8を開閉し下室側室6から液室側室7へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブ11と、ピストン通路9を開閉し上室R1から下室R2へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブ12と、吸込通路10の途中に設けられて液室Lから上室R1へ向かう液体の流れのみを許容する吸込チェック弁13と、アウターシリンダ2のバルブケース4よりも上方に設けた懸架ばね受14とを備えて構成されており、図示しない車両の車体と車軸との間に介装されて伸縮時に減衰力を発揮して車体の振動を抑制するものである。
【0017】
以下、各部材について詳細に説明する。インナーシリンダ1は、筒状であって、このインナーシリンダ1よりも長い筒状のアウターシリンダ2内に収容されている。つまり、インナーシリンダ1は、アウターシリンダ2によって外周が覆われており、この場合、アウターシリンダ2との間に環状の隙間を形成している。また、インナーシリンダ1内には、ピストン2が摺動自在に挿入されていて、インナーシリンダ1内は、図1中上方の上室R1と下方の下室R2とに区画されている。
【0018】
なお、インナーシリンダ1は、内周が表面処理されており、ピストン3と円滑な摺動を実現できるようになっている。このように、アウターシリンダ2よりも短いインナーシリンダ1の表面処理を行えばよいので、長いアウターシリンダ2の表面処理を行わなくて済むから加工コストを低減でき、ピストン3から入力される図中横方向の力をインナーシリンダ1で受けるので、アウターシリンダ2に軽量で比較的軟らかい金属を使用することも可能となる。
【0019】
ピストン3は、環状とされており、ピストンロッド15の中間に固定されている。具体的には、ピストンロッド15は、上部15aと、下部15bとで構成され、上部15aの下端に設けた螺子軸15cを下部15bの上端に設けた螺子孔15dに螺子締結することで一体とされ、上部15aと下部15bでピストン3を挟み込んでピストン3を固定している。なお、本実施の形態では、車両用緩衝器Dは、ピストン3がピストンロッド15の中間に固定され、ピストンロッド15の上端と下端とがアウターシリンダ2から外部へ突出する、いわゆる、両ロッド型の緩衝器とされているが、ピストンロッド15の下部15bを廃止して上部15aの下端にピストン3を固定する、いわゆる、片ロッド型の緩衝器とされてもよい。
【0020】
戻って、ピストン3は、シリンダ1内を上室R1と下室R2とに区画していて、上室R1と下室R2とを連通するピストン通路9を備えている。そして、ピストン3の図1中下端には、ピストン通路9の下端を開閉する環状のリーフバルブでなる伸側減衰バルブ12が積層されている。伸側減衰バルブ12は、ピストン3がインナーシリンダ2に対して図1中上方へ移動する伸長作動時において液体がピストン通路9を圧縮される上室R1から拡大される下室R2へ向けて流れる際に、開弁して当該液体の流れに抵抗を与えるようになっている。反対に、収縮作動時には、ピストン通路9を閉塞して、下室R2から上室R1へ向かう液体の流れを阻止する。
【0021】
なお、伸側減衰バルブ12は、上室R1から下室R2へ向かう液体の流れのみを許容し、当該液体の流れに抵抗を与えればよいので、リーフバルブ以外の減衰バルブとされてもよく、チョークやオリフィス等といった双方向通行を許すバルブとチェック弁との組み合わせとされてもよい。
【0022】
アウターシリンダ2は、上方に内径を小径にして設けた上方小径部2aと、当該小径部2aよりも図1中上方の開口部内周に設けた雌螺子部2bと、下方の内周を小径にして設けた下方小径部2cと、下方小径部2cよりも下方に設けられて内周側へ突出する環状凸部2dと、当該環状凸部2dの内周に設けた内周螺子部2eと、下端外周に設けた雄螺子部2fと、下方小径部2cの上端段部から開口して環状凸部2dの下端段部へ通じる穿孔2gと、側方に突出するように一体化されるバルブケース4と、外周であってバルブケース4よりも上方に設けた外周螺子部2hとを備えている。
【0023】
雄螺子部2eには、図示はしないが、アウターシリンダ2を車両の図示しない車軸側へ連結可能なブラケットが螺着される。また、外周螺子部2hには、環状の懸架ばね受14が螺着されている。この懸架ばね受14は、車両の車体を支承する懸架ばねを支持するものであり、図示はしないが、ピストンロッド15の上端に連結される上方側の懸架ばね受と協働して、この懸架ばねを挟持するようになっている。この場合、懸架ばね14は、外周螺子部2hの軸方向設置範囲内であれば、アウターシリンダ2に対する軸方向取付位置を変更することが可能であるが、アウターシリンダ2に対して固定的に取り付けるようにされてもよい。
【0024】
アウターシリンダ2は、インナーシリンダ1よりも長く、上記した上方小径部2aの内周には、ピストン3を保持してシリンダ1内に移動自在に挿入されるピストンロッド15の図1中上部15a側を軸支する環状のロッドガイド16が嵌合されている。また、アウターシリンダ2の下方小径部2cには、ピストンロッド15の図1中下部15b側を軸支する環状のロッドガイド17が嵌合されている。
【0025】
ロッドガイド16は、下方に設けられて切欠16bを備えた筒状のソケット部16aと、外周に装着されて上方小径部2aの内周に密着してアウターシリンダ2とロッドガイド16との間をシールするシールリング16cとを備えている。このソケット部16aの内周には、環状の吸込チェック弁13が収容されている。そして、このソケット部16aには、吸込チェック弁13の下方に環状の弁固定部材18が装着されている。この弁固定部材18は、これを軸方向に貫くポート18aと、外周に上記ソケット部16a内に嵌合する筒状の嵌合部18bと、下方側がインナーシリンダ1の上端開口端内周に嵌合される。このように、弁固定部材18をロッドガイド16とインナーシリンダ1に嵌合すると、弁固定部材18の嵌合部18bとロッドガイド16とで吸込チェック弁13の外周が挟持される。吸込チェック弁13は、上記したように外周側が固定されるので内周のみの撓みが許容される。また、吸込チェック弁13は、内周をロッドガイド16に密着させる状態では、インナーシリンダ1とアウターシリンダ2との隙間に通じる切欠16bとポート18aとの連通を遮断するが、撓んで開弁すると切欠16bとポート18aとを連通する。ロッドガイド17は、環状であって図1中上端から外周へ通じる通路17aを備えている。
【0026】
また、ロッドガイド16よりも上方には、当該ロッドガイド16とピストンロッド15との間をシールする環状のシール部材19とスペーサ39とが積層され、アウターシリンダ2の下方小径部2cの内周であって環状凸部2dとロッドガイド17との間にはピストンロッド15とアウターシリンダ2との間をシールする環状のシール部材20とスペーサ40が収容される。
【0027】
そして、アウターシリンダ2の内方に、スペーサ40、シール部材20、ロッドガイド17、インナーシリンダ1、弁固定部材18、吸込チェック弁13、ロッドガイド16、シール部材19およびスペーサ39の順に収容し、雌螺子部2bに外周に螺子部を持つナット21を螺着すると、上記したアウターシリンダ2内に収容される各部材がナット21と環状凸部2dとで挟持されてアウターシリンダ2に固定される。このようにして上記シール部材19,20とシールリング16cとでピストンロッド15とアウターシリンダ2との間が密にシールされ、上室R1および下室R2は、液密に保たれている。
【0028】
また、アウターシリンダ2の環状凸部2dの内周に設けた内周螺子部2eには、筒状のロッド挿通筒22が螺着されている。ロッド挿通筒22は、下端にアウターシリンダ2の内周に嵌合するキャップ24を備え、ピストンロッド15の下部15bの挿通を許容しており、ピストンロッド15のアウターシリンダ2に対する上下動を可能としている。
【0029】
上述のようにアウターシリンダ2内にインナーシリンダ1を収容して固定すると、アウターシリンダ2における上方小径部2aと下方小径部2cとの間の内面とインナーシリンダ1の外面との間には、環状の隙間が形成される。この隙間は、アウターシリンダ2の下方小径部2cの上端段部から開口して環状凸部2dの下端段部へ通じる穿孔2gによってアウターシリンダ2の下方に設けた液室Lへ通じている。したがって、この場合、インナーシリンダ1とアウターシリンダ2との間に形成される隙間と、ポート18a、切欠16bおよび穿孔2gで上室R1と液室Lとを連通する吸込通路10を形成している。なお、インナーシリンダ1とアウターシリンダ2との間に形成される隙間は環状隙間に限られず、形状は問われない。
【0030】
液室Lは、アウターシリンダ2の環状凸部2dよりも下方の内周と上記したロッド挿通筒22の外周の双方に軸方向移動可能に摺接する環状のフリーピストン23によって画成されている。また、アウターシリンダ2とロッド挿通筒22との間の空隙はロッド挿通筒22の下端に設けた環状のキャップ24で閉塞されており、フリーピストン23は、このキャップ24と協働して、アウターシリンダ2とロッド挿通筒22との間に気室Gを画成している。そして、この気室G内の圧力で、フリーピストン23を図1中上方へ押圧して液室Lを加圧しており、これによって、附勢手段としての気体ばねを形成している。
【0031】
すなわち、この実施の形態の場合、加圧手段Pは、アウターシリンダ2内に摺動自在に挿入されるフリーピストン23と、当該フリーピストン23を液室Lへ向けて附勢する附勢手段としての気体ばねとで構成されている。また、キャップ24には、気室Gへ通じる気道24aが設けられており、気道24aをバルブ24bによって閉塞することで気室Gは気密に保たれる。そして、気道24aを介して気室Gへ気体を供給したり、気室Gから気体を排出したりして、気室G内の圧力を調節することができるようになっている。この車両用緩衝器Dにあっては、気室Gと気体とで気体ばねを構成して液室Lを加圧することができ、液室Lの圧力は、上記した吸込通路10と後述する排出通路8を通じて上室R1と下室R2へ伝播するので、シリンダ1内をも加圧することができる。なお、この実施の形態の場合、気体ばねで液室Lを加圧するが、気体ばねの他に、コイルばね等といった気体ばね以外のばねを附勢手段として用いてもよく、加圧手段としては、その他にも、液室L内に内部に気体を充填した金属ベローズやダイヤフラム等を収容し、これを加圧手段としてもよく、金属ベローズを使用する場合には、内部に気体ばね以外のばねを設けるようにしてもよい。附勢手段をフリーピストン23で区画した気室G内に封入した気体で液室Lを加圧する気体ばねとすることで、附勢手段における附勢力の調節が容易となるだけでなく、金属製のコイルばね等を用いるものに比較して車両用緩衝器Dを軽量化することができる利点がある。
【0032】
つづいて、バルブケース4は、アウターシリンダ2に設けた中空なケース本体30と、ケース本体4aの開口部を閉塞する蓋31と、ケース本体30に挿通されて蓋31に螺合する軸部材32とを備えて構成されていて、この場合、アウターシリンダ2の側方に一体化されて、これらで一部品となっている。なお、バルブケース4は、アウターシリンダ2と別部品で構成して、アウターシリンダ2に一体化するようにしてもよい。
【0033】
詳しくは、ケース本体30は、下端から開口する中空部30aと、図1中右端側から開口して中空部30aに通じる二つの通路30b,30cと、上端から開口して中空部30aに通じる軸挿通孔30dとを備えている。そして、通路30bは、ロッドガイド17の外周の通路17aの開口端に面し、この通路17aを通じて、下室R2へ連通されている。他方の通路30cは、液室Lへ通じている。
【0034】
ケース本体30の中空部30aには、隔壁5が嵌合されている。この隔壁5は、外周をケース本体30の中空部30aの内面に接していて、当該中空部30a内を図1中上方側の下室側室6と図1中下方側の液室側室7とに区画している。下室側室6は、上記した通路30bおよび通路17aを介して下室R2へ通じており、また、液室側室7は、上記した通路30cを介して液室Lに通じている。
【0035】
隔壁5は、環状であって、下室側室6と液室側室7とを連通する排出通路8と、同じく下室側室6と液室側室7とを連通する補償通路33とを備えている。そして、隔壁5は、ケース本体30の軸挿通孔30dに挿通される軸部材32の外周に装着されることで、ケース本体30に固定されている。
【0036】
また、隔壁5の図1中下面となる液室側室面には、軸部材32の外周に固定されて排出通路8の図1中下端開口部を開閉する環状のリーフバルブでなる圧側減衰バルブ11が積層され、図1中上面となる下室側室面には、軸部材32の外周に固定されて補償通路33の図1中上端開口部を開閉する環状のリーフバルブでなる補償チェック弁34が積層されている。なお、圧側減衰バルブ11は、下室R2から液室Lへ向かう液体の流れのみを許容し当該流れに対して抵抗を与えるものであればよいので、リーフバルブ以外の減衰バルブとされてもよく、チョークやオリフィス等といった双方向通行を許すバルブとチェック弁との組み合わせとされてもよい。また、圧側減衰バルブ11は、補償通路33の図1中上端開口部を閉塞しないようになっており、補償チェック弁34もまた排出通路8の図1中下端開口部を閉塞しないようになっている。
【0037】
軸部材32は、軸部32aと、軸部32aの図1中上端に設けたフランジ32bと、軸部32aの先端である図1中下端外周に設けた螺子部32cとを備え、軸部32aがケース本体30における軸挿通孔30dに挿入されている。
【0038】
そして、軸部材32の軸部32aの外周に、環状のスペーサ41、補償チェック弁34、隔壁5および圧側減衰バルブ11が順に装着され、蓋31を螺子部32cに螺着することで、これら中空部30a内に収容される各部材がケース本体30に固定される。
【0039】
なお、蓋31は、内周に雌螺子を備えた筒部31aと、筒部31aの外周に設けた鍔31bと、鍔31bの外周に装着されるシールリング31cとを備えている。そして、筒部31aを軸部材32の螺子部32cに螺着すると、筒部31aと軸部材32におけるフランジ32bとで、ケース本体30、環状のスペーサ41、補償チェック弁34、隔壁5および圧側減衰バルブ11を挟持することができ、これによって、各部材が一体化される。また、蓋31は、中空部30aの開口をシールリング31cで密閉して、中空部30aを液密に保っている。
【0040】
このように、バルブケース4をアウターシリンダ2の側方に設けて、このバルブケース4内に隔壁5と圧側減衰バルブ11を設けることで、圧側減衰バルブ11を容易に交換可能となり、圧側減衰力のチューニングが容易となる他、隔壁5と圧側減衰バルブ11をアウターシリンダ2外に出すことでアウターシリンダ2を短くすることができる。
【0041】
なお、この実施の形態では、ケース本体30に対して中空部30aが下方向けて開口しているが、上方に向けて開口するように設けてもよい。また、中空部30aの底に筒状のナットを一体化した構造としておき、蓋31側に軸部材を設けて蓋31の軸部材の外周に補償チェック弁34、隔壁5および圧側減衰バルブ11を装着して、蓋31の軸部材の先端をナットに螺着することで中空部30aの密閉と、補償チェック弁34、隔壁5と圧側減衰バルブ11の中空部30aへの収容固定を行うようにしてもよく、この場合にも、中空部30aの開口を上方へ向けておくこともできる。
【0042】
つづいて、上述のように構成された車両用緩衝器Dの作動について説明する。まず、図1中でピストン3が上方へ移動して車両用緩衝器Dが伸長する場合について説明する。この伸長作動時においてピストン3の上昇によって圧縮される上室R1の液体は、伸側減衰バルブ12を押し開いて下室R2へ移動する。したがって、車両用緩衝器Dが伸長作動する際には、伸側減衰バルブ12が開いて液体の流れに抵抗を与えるため、伸側減衰バルブ12によって伸側減衰力が発生される。この場合、車両用緩衝器Dは、両ロッド型に設定されており、伸側減衰バルブ12が開弁し上室R1と下室R2とが連通され、上室R1で減少する容積に見合って下室R2の容積が増大するため、液室Lとインナーシリンダ1内とで液体の出入りがないが、車両用緩衝器Dが片ロッド型に設定される、つまり、ピストンロッド17の下部17bを廃した場合には、補償チェック弁34が開いて液室Lから不足する液体が下室R2へ供給されることになる。
【0043】
次に、図1中でピストン3が下方へ移動して車両用緩衝器Dが収縮する場合について説明する。この収縮作動時においてピストン3の下降によって圧縮される下室R1の液体は、圧側減衰バルブ11を押し開いて液室Lへ移動する。したがって、車両用緩衝器Dが収縮作動する際には、圧側減衰バルブ11が開いて液体の流れに抵抗を与えるため、圧側減衰バルブ11によって圧側減衰力が発生される。また、拡大される上室R1には、吸込チェック弁13が開弁することで、液室Lから液体が供給される。
【0044】
このように車両用緩衝器Dは作動するが、この車両用緩衝器Dにあっては、液室Lと液室Lを加圧する加圧手段Pを備えているので、インナーシリンダ1内の上室R1と下室R2内の液柱剛性を高めることができる。
【0045】
そして、この車両用緩衝器Dにあっては、伸長行程時に圧縮される上室R1が何ら抵抗の無い通路を介して液室Lに連通されることがなく、収縮行程時においても圧縮される下室R2が圧側減衰バルブ8を介して液室Lに連通されるため何ら抵抗の無い通路介して液室Lに連通されることがないので、その伸縮両行程時において液室Lが圧縮側の室として振る舞うことがなく液体の液柱剛性の低下を招くことがない。
【0046】
このように、車両用緩衝器Dによれば、上室R1と下室R2の液柱剛性を高めることができるだけでなく、伸縮行程時においても液室Lが圧縮側の室として振る舞うことなく液柱剛性が低下しないので、伸縮時のピストン速度が低速である場合であっても減衰力発生応答性を向上することができ、車両における乗り心地をも向上することができる。したがって、この車両用緩衝器Dにあっては、車両旋回時、制動時や加速時といった車体の姿勢変化を姿勢変化初期からしっかり抑制することができる。
【0047】
さらに、この車両用緩衝器Dにあっては、アウターシリンダ2の側方に設けたバルブケース4内に排出通路8を備えた隔壁5を設け、当該排出通路8を開閉し下室側室6から液室側室7へと向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブ11をバルブケース4内に収容したので、減衰力発生応答性を高めつつ、アウターシリンダ2の外周に懸架ばねSを支承する懸架ばね受14を設けることができるとともに、圧側減衰バルブ11をアウターシリンダ2外に設置しているからシリンダ長も短くなるので、車両への搭載性も犠牲になることがない。
【0048】
また、車両用緩衝器Dでは、上室R1を起点とすれば、液体の流れは、上室R1から下室R2、液室Lを経て上室R1へ循環する一方通行の流れとなるので、車両用緩衝器Dの伸縮の切り換わりにて液体の流れが反転しなくなる。このように、液体の流れの反転が生じなくなるので、車両用緩衝器Dの伸縮の切り換わりにおける減衰力発生遅れを抑制することが可能となる。また、この車両用緩衝器Dでは、補償通路33および補償チェック弁34とを廃止することも可能であるが、これらを設けておく場合には、下室R2内で圧力が減少した場合に液室Lから下室R2へ液体を速やかに供給することができ、下室R2の圧力を補償してバキュームを防止することが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態における車両用緩衝器Dでは、両ロッド型とされているので、伸縮作動に際して、液室Lとインナーシリンダ1内とで液体の出入りがなくいため、液室L内での圧力変動がなく、更なる減衰力発生応答性の向上に寄与できる。
【0050】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の車両用液圧緩衝器は、車両の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 インナーシリン
2 アウターシリンダ
3 ピストン
4 バルブケース
5 隔壁
6 下室側室
7 液室側室
8 排出通路
9 ピストン通路
10 吸込通路
11 圧側減衰バルブ
12 伸側減衰バルブ
13 吸込チェック弁
14 懸架ばね受
23 フリーピストン
33 補償通路
34 補償チェック弁
L 液室
P 加圧手段
R1 上室
R2 下室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーシリンダと、当該インナーシリンダを覆うアウターシリンダと、上記インナーシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、上記インナーシリンダ内に上記ピストンで区画される上室と下室と、上記アウターシリンダ内であって上記下室よりも下方に設けた液室と、当該液室を加圧する加圧手段と、上記アウターシリンダの側方に設けたバルブケースと、当該バルブケースを上記下室に連通される下室側室と上記液室に連通される液室側室とに区画する隔壁と、当該隔壁に設けられて上記下室側室と上記液室側室とを連通する排出通路と、上記ピストンに設けられて上記上室と上記下室とを連通するピストン通路と、上記インナーシリンダと上記アウターシリンダとの間に形成される隙間を介して上記上室と上記液室とを連通する吸込通路と、上記排出通路を開閉し上記下室側室から上記液室側室へ向かう液体の流れのみを許容するとともに当該液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブと、上記ピストン通路を開閉し上記上室から上記下室へ向かう液体の流れのみを許容するとともに当該液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブと、上記吸込通路の途中に設けられて上記液室から上記上室へ向かう液体の流れのみを許容する吸込チェック弁と、上記アウターシリンダの上記バルブケースよりも上方に設けた懸架ばね受とを備えたことを特徴とする車両用緩衝器。
【請求項2】
上記隔壁に上記下室側室と上記液室側室とを連通する補償通路を設け、当該補償通路を開閉し上記液室から上記下室へ向かう液体の流れのみを許容する補償チェック弁を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用緩衝器。
【請求項3】
上記加圧手段は、上記シリンダ内に摺動自在に挿入されるフリーピストンと、当該フリーピストンを上記液室へ向けて附勢する附勢手段とを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用緩衝器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−104497(P2013−104497A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249308(P2011−249308)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】