説明

車両用非常出入口

【課題】車両の先頭妻面に設置された非常出入口の、使い勝手を向上させ、非常出入口からの乗客の降下を円滑にする。
【解決手段】車両用非常出入口12は、通常時には、梯子20と手摺22とが、先頭妻面14に形成された開口部16に面して格納され、開口部16が扉18によって塞がれている。一方、非常時には、開口部16に面する車内床面26上に倒立状態で格納された梯子20を、開口部16から前方傾斜して突出する使用位置へと回転させることで、梯子20がその自重により使用状態にセットされる。又、手摺22についても、梯子20と平行に格納された状態から、梯子20と並行に前方へと突出する使用位置へと回転して、開口部16から突出することで、使用状態にセットされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用非常出入口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両(レール上を鉄輪で走行する一般的な鉄道車両)や、いわゆる新交通システム、モノレール等の車両において、先頭車両の妻面に、車内から軌道上への乗客乗員の避難経路として、非常出入口が設けられたものが多い。この非常出入口は、通常はドアによって閉じられて、先頭妻面の一部をなしているが、非常時にはドアを開放して、開口部から折り畳まれた階段やスロープを前方へと下ろす構造が採用されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−193862号公報
【特許文献2】特開昭60−110563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、車両の先頭妻面に設置された非常出入口の、使い勝手を向上させることにある。又、非常出入口からの乗客の降下を円滑にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。又、各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。よって、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)車両の先頭妻面に設置された非常出入口であって、先頭妻面に形成された開口部に面する車内床面上に倒立状態で格納され、前記開口部から前方傾斜して突出する使用位置へと回転可能に軸着された梯子と、格納状態の前記梯子と平行に格納され、前記開口部から前記梯子と並行に前方へと突出する使用位置へと、回転可能に軸着された手摺と、前記開口部を塞ぐ扉とを備える車両用非常出入口(請求項1)。
【0007】
本項に記載の車両用非常出入口は、通常時には、梯子と手摺とが、先頭妻面に形成された開口部に面して格納され、開口部が扉によって塞がれている。そして、非常時には、開口部に面する車内床面上に倒立状態で格納された梯子を、開口部から前方傾斜して突出する使用位置へと回転させることで、梯子がその自重により使用状態にセットされる。又、手摺についても、梯子と平行に格納された状態から、梯子と並行に前方へと突出する使用位置へと回転して、開口部から突出することで、使用状態にセットされるものである。
【0008】
(2)上記(1)項において、前記手摺は、格納状態の前記梯子と閉扉状態の前記扉との間に挟まれる格納位置と、前記扉の開扉状態において、使用位置に突出する前記梯子と前記開口部の縦縁部とに挟まれ、前方へと突出する使用位置との間を回転可能に、車体側に軸着されている車両用非常出入口(請求項2)。
本項に記載の車両用非常出入口は、格納状態の梯子と閉扉状態の扉との間に挟まれる格納位置に格納された手摺が、扉を開扉状態とすることで、前方へと突出する使用位置へと回転可能となる。そして、開口部に面する車内床面上に倒立状態で格納された梯子を、開口部から前方傾斜して突出する使用位置へと回転させることで、手摺は梯子に押されて、使用位置に突出する梯子と、開口部の縦縁部とに挟まれ前方へと突出する使用位置にセットされる。手摺は、梯子と開口部の縦縁部とに挟まれることで、使用位置に固定される。
【0009】
(3)上記(2)項において、前記扉は片開き戸であり、そのヒンジと、前記手摺を車体側に軸着するピボットとが、前記開口部の両側に分けて配置されている車両用非常出入口(請求項3)。
本項に記載の車両用非常出入口は、片開き戸である扉と手摺とが、開口部の両側に分けて配置されたヒンジ及びピボットを中心に、各々回転することで、扉と手摺とが互いに干渉することなく解放され、手摺及び梯子が使用位置にセットされるものである。
【0010】
(4)上記(1)から(3)項において、前記梯子と前記手摺とが、各々の格納状態において、前記扉の上方寄りの範囲に形成された窓に掛からない高さに収まる車両用非常出入口(請求項4)。
本項に記載の車両用非常出入口は、梯子と手摺とが、各々の格納状態において、扉の上方寄りの範囲に形成された窓に掛からない高さに収まることで、通常時における車内から妻面前方方向の視界の妨げとなることを回避するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明はこのように構成したので、車両の先頭妻面に設置された非常出入口の、使い勝手を向上させることが可能となる。又、非常出入口からの乗客の降下を円滑にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用非常出入口を供える車両の外観図を(a)に、非常出入口の使用状態における異なる角度から示した斜視図を(b)、(c)に示したものである。
【図2】図1に示される車両用非常出入口の、梯子及び前記手摺の格納状態を、拡大して示す斜視図である。
【図3】図1に示される車両用非常出入口の、梯子及び前記手摺の使用状態を、拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る車両10の非常出入口12は、車両の先頭妻面(最後尾妻面)14に形成された開口部16と、開口部16を塞ぐ扉18と、開口部16に面するようにして車内に格納された梯子20及び手摺22と、を含むものである。
【0014】
図示の例では、開口部16は先頭妻面14の正面視右寄りに配置されており、扉18は、開口部16の中央寄り縦縁部に設けられたヒンジ24(図1(b))を中心に車体の外側へと開閉する片開き戸である。又、梯子20は、開口部16に面する車内床面26上に倒立状態で格納され(図2)、開口部16から傾斜して突出する使用位置(図1(b)(c)、図3)へと回転可能となるように、その基端部側が、車内床面(車体側)26に軸着された回転アーム28を介して固定されている。なお、梯子20は、図3に示されるように、第1段部20a、第2段部20b、第3段部20cがスライドして伸縮自在となる構造を有しており、その倒立状態(図2)では、梯子20は最も縮んだ状態となり、扉18の上方寄りの範囲に形成された窓18w(図1)に掛からない高さに収まる。又、梯子20の使用位置では、先端部側が下方に位置することで、梯子20は自重により最も伸張した状態となる。
なお、図2、図3において、符号28aは回転アーム28を軸支する軸受、符号28bは軸受28aを車内床面26に固定するブラケット、符号28cは梯子20の使用位置において、車内床面26に当接するクッション材である。
【0015】
一方、手摺22は、格納状態の梯子20と閉扉状態の扉18との間に挟まれる状態で格納される(図2参照)。そして、扉18の開扉状態において、開口部16から梯子20と並行に突出する使用位置(図3参照)へと回転可能に、ピボット30によって、車内床面26及び開口部16の外寄り縦縁部32(図1(a)(b))に対し軸着されている。手摺22は、その使用位置にあるとき、使用位置に突出する梯子20と、開口部16の外寄り縦縁部32とに挟まれ、固定される。なお、図示の例では、手摺22は、パイプを環状に湾曲させたものであり、扉18の車内側に突出するライトユニット34(図1(b)(c))を避け、かつ、扉18の窓18wに掛からない高さに収まるように、形成されている。
又、図2、図3の符号30aはピボット30の上下端部を軸支する軸受、符号30bはピボット30の下端の軸受30aを車内床面26に固定するブラケット、符号30cは、ピボット30の上端の軸受30aを開口部16の外寄り縦縁部32の壁面に固定するブラケットである。
【0016】
更に、図示の例では、回転アーム28に、手摺22を使用位置に固定するための、ゴム等の弾性材料が使用されたストッパー29が設けられている。ストッパー29は、図2に示されるように、梯子20の格納状態では手摺22に当接しないが、図3に示されるように、梯子20を使用位置へと回転させることで、使用位置にある手摺22に当接し、手摺22を開口部16の外寄り縦縁部32に付勢して固定するものである。なお、図2、図3に符号31で示される部材は、開口部16の外寄り縦縁部32側に固定されたクッション材であり、使用位置にある手摺22に当接して、手摺22を固定するものである。
又、梯子20には、その格納状態において、梯子20と平行に配置され、梯子20の回転と共に、梯子20に対して起立するコ字状の支持脚36が軸着されている。そして、起立した支持脚36が、先頭妻面14の適切な場所、図1に示された例では排障器38に当接することで、梯子20の荷重を排障器38で受け、使用位置における梯子20の姿勢を安定させている。
【0017】
非常出入口12の操作手順は次の通りである。まず、扉18を開放して開口部16を露出させる。続いて、手摺22を開口部16の外側前方へ向けて若干回転させ、更に梯子20を前方へと転回させる。このとき、手摺22が使用位置まで回転していなくとも、梯子20により押し出されるようにして前方へと回転し、使用位置に突出する梯子20と、開口部16の外寄り縦縁部32とに挟まれることで、強制的に使用位置に固定される。又、倒立状態では最も縮んだ状態の梯子20は、使用位置では、自重により最も伸張した状態となる。
【0018】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態に係る車両用非常出入口12は、通常時には、梯子20と手摺22とが、先頭妻面14に形成された開口部16に面して格納され、開口部16が扉18によって塞がれている(図1(a)参照)。一方、非常時には、開口部16に面する車内床面26上に倒立状態(図2参照)で格納された梯子20を、開口部16から前方傾斜して突出する使用位置(図1(b)、(c)、図3参照)へと回転させることで、梯子20がその自重により使用状態にセットされる。又、手摺22についても、梯子20と平行に格納された状態から、梯子20と並行に前方へと突出する使用位置(図1(b)、(c)、図3参照)へと回転して、開口部16から突出することで、使用状態にセットされるものである。
【0019】
又、格納状態の梯子20と閉扉状態の扉18との間に挟まれる格納位置(図2参照)に格納された手摺22が、扉18を開扉状態とすることで、前方へと突出する使用位置へと回転可能となる。そして、開口部16に面する車内床面26上に倒立状態で格納された梯子20を、開口部16から前方傾斜して突出する使用位置(図1(b)、(c)、図3参照)へと回転させることで、手摺22は梯子20に押されて、使用位置に突出する梯子20と、開口部16の縦縁部32とに挟まれ、前方へと突出する使用位置にセットされる。そして、手摺22は、梯子20と開口部16の縦縁部32とに挟まれることで、使用位置に確実に固定されることとなる。
【0020】
しかも、片開き戸である扉18と手摺22とが、開口部16の両側に分けて配置されたヒンジ24及びピボット30を中心に、各々回転することで、扉18と手摺22とが互いに干渉することなく解放されて、手摺22と梯子20とが使用位置にセットされるものである。
以上のごとく、本発明の実施の形態によれば、梯子20や手摺22を開口部16とは別の格納場所から取出して、開口部16にセットする等といった作業が不要となり、梯子20と手摺22とのセットを同時に行うことが可能となる。よって、車内から軌道上への乗客乗員の避難路を、簡単、確実かつ迅速に確保することが可能となる。
【0021】
又、梯子20と手摺22とが、各々の格納状態(図2参照)において、扉18の上方寄りの範囲に形成された窓18wに掛からない高さに収まることで、通常時における、車内から妻面前方方向の視界の妨げとなることを回避し、良好な視界を確保することが出来る。
【0022】
なお、梯子20及び手摺22の格納及び使用に支承の無い限り、扉19のヒンジ24と、手摺22のピボット30とが、開口部16の同一側に配置されていても良い。又、扉18は図示の片開き戸に限定されるものではなく、両開き戸、引戸、折戸、プラグドア等を適宜使用することも可能である。更に、手摺22の格納位置を、格納状態の梯子20と閉扉状態の扉18との間に挟まれる位置ではなく、格納状態の梯子20の更に車内内側に配置し、車内側から手摺22を開口部16の外側へと押し出すことで、手摺22に押されて梯子20が格納状態から使用位置へと回転するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0023】
10:車両、12:非常出入口、14:先頭妻面、16:開口部、18:扉、18w:窓、20:梯子、22:手摺、24:ヒンジ、26:車内床面、28:回転アーム、30:ピボット、32:外寄り縦縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の先頭妻面に設置された非常出入口であって、先頭妻面に形成された開口部に面する車内床面上に倒立状態で格納され、前記開口部から前方傾斜して突出する使用位置へと回転可能に軸着された梯子と、格納状態の前記梯子と平行に格納され、前記開口部から前記梯子と並行に前方へと突出する使用位置へと、回転可能に軸着された手摺と、前記開口部を塞ぐ扉とを備えることを特徴とする車両用非常出入口。
【請求項2】
前記手摺は、格納状態の前記梯子と閉扉状態の前記扉との間に挟まれる格納位置と、前記扉の開扉状態において、使用位置に突出する前記梯子と前記開口部の縦縁部とに挟まれ、前方へと突出する使用位置との間を回転可能に、車体側に軸着されていることを特徴とする請求項1記載の車両用非常出入口。
【請求項3】
前記扉は片開き戸であり、そのヒンジと、前記手摺を車体側に軸着するピボットとが、前記開口部の両側に分けて配置されていることを特徴とする請求項2記載の車両用非常出入口。
【請求項4】
前記梯子と前記手摺とが、各々の格納状態において、前記扉の上方寄りの範囲に形成された窓に掛からない高さに収まることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の車両用非常出入口。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171402(P2012−171402A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33171(P2011−33171)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)