説明

車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法

【課題】車載用半導体センサ内の内部メモリが外部からの信号により書き換わってしまうことを防止するための内部メモリのデータ書き換わり防止方法を提供する。
【解決手段】繰り返し書き込みが可能な不揮発性メモリのメモリエリアを2分し、一方のメモリエリアには、メモリが未使用の場合のみに書き込みを許可することを特徴とする車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法である。本データ書き換わり防止方法によれば、センサの自己診断機能により繰り返し記憶しなければならない故障履歴等の情報を保存するためのEEPROMのメモリエリアを共用した上で、データの書き換わりを防止することが可能となるため、安価で信頼性の高いデータ保持機能をもつセンサを提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用半導体センサ内の内部メモリが外部からの信号により書き換わってしまうことを防止するための内部メモリのデータ書き換わり防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車には車載電子機器を制御するために多くの半導体センサが搭載されている。
例えば、トルクセンサの検出信号を用いて制御を行うシステムの一つとして、トルクセンサとメカニカル部分からなるトルクセンサ装置と、その出力信号を用いて演算した制御信号を出力する電子機器制御(ECU)から構成されているものが、このシステムに使用するセンサの特性の補正は、ECUに付属する調整回路を工場出荷時に調整したり、ECUの不揮発性メモリに補正情報を覚え込ませる等してECU側で補正している。(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−240652
【0004】
また、自動車の姿勢安定化制御システムや自動運転制御システム等で使用する半導体センサでは、センサの感度、中点電圧、温度ドリフトなど出力特性の補正データを内部の不揮発性メモリ(繰り返し書き込み可能なEEPROM等)に記憶しており、センサ起動時にその補正データを読み込み、出力信号を補正している。
この補正データはセンサの精度を保つための重要なデータであり、生産工程において全数検査を行いそれぞれの部品に対応した補正データを作成し書き込みを実施している。
また近年は、コントローラエリアネットワーク(CAN)に対応したデジタル出力タイプのセンサが広く普及しており、車両のバス上に多数のユニットが接続され、数多くのメッセージがネットワーク上に送信されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし前者(特許文献1)に記載されたシステムでは、センサ装置の一部または全部が故障した場合には現場側で制御システム全体を取り替えるか、あるいはその一部の部分を交換したのち、ECU側で調整する必要がある等の問題がある。
【0006】
また、後者の場合におけるセンサの生産工程では、上記の補正データを内部のEEPROMへ特定のメッセージIDで書き込みを行なっているが、車両搭載後に同様のメッセージIDが送信されると補正データが書き換わってしまうという問題が発生する可能性がある。
例えば高速CANの場合、メッセージIDが11bitであるため最大では2048種類のメッセージにわけることが可能であるが、ネットワークの設計段階で1/2048の確率で補正データが書き換わる危険性が考えられる。
また、整備工場においてシステムのメンテナンスのために外部診断機器(ネットワークアナライザ等)を接続する場合、本来意図しないメッセージIDが送信され、補正データが書き換わってしまうことも考えられる。
【0007】
これらの問題点は電気的にデータの消去や書換えが可能なEEPROMを使用している場合であるが、これをOTPROM(書き込み回数は1回だけ)やUV−EPROM(消去には10〜20分程度の紫外線照射が必要)に変更すればこの問題はなくなる。
しかし、これらのメモリを使用すると生産工程において書き込みを失敗した場合にはリワークが困難となる(即ち、メモリチップの交換が必要となる等)ことや、センサ故障履歴等の記憶メモリとして広く使用されているEEPROMとメモリエリアを共通使用できなくなるという問題も発生する。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の問題点を解消するために、EEPROM等の繰り返し書き込みが可能な不揮発性メモリに補正データを書き込むとき、規定されたデータ書き込み用のメッセージIDを受信した場合でも当該アドレスのデータがFF(hex)の場合、つまり、メモリが未使用の場合のみ書き込み可能とすることにより、製品出荷後に補正データが書き換わってしまう問題を解決する。
つまり、EEPROMをOTPROMと同様に書き込み回数を1回として使用することを特徴とする。
【0009】
ここで実際のOTPROMではデータ書き込み後にメモリ内部に容易された回路を電気的に焼き切ることで書き込み回数を1回だけに制限するEEPROMタイプと、紫外線照射窓を省いたUV−EPROMタイプの2種類あるが、いずれのタイプでも生産工程において書き込みを失敗した場合はメモリチップの交換が必要となる(物理的にメモリの再生が不可能)。
【0010】
このような問題を解決するために、本発明ではEEPROMへのデータ書き込みを行なうマイクロコントローラにメモリ再生用デジタル信号を入力し、この信号とメッセージIDとの論理和でメモリへの書き込み制限を解除することにより、市場において補正データが書き換わってしまうことを防止するとともに、生産工程において書き込み失敗した場合でも容易にメモリの再生を可能(メモリチップの交換が不要)とする。
以上の処置により、センサの自己診断機能により繰り返し記憶しなければならない故障履歴等の情報を保存するためのEEPROMのメモリエリアを共用した上で、データの書き換わりを防止することが可能となるため、安価で信頼性の高いデータ保持機能をもつセンサを提供することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明が採用した技術解決手段は、
繰り返し書き込みが可能な不揮発性メモリのメモリエリアを2分し、一方のメモリエリアには、メモリが未使用の場合のみに書き込みを許可することを特徴とする車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法である。
また、前記書き込み許可がされたメモリエリアは、メモリ再生用のデジタル信号とデータ書き込み用メッセージIDとの論理和により書き込み許可ができるようにしたことを特徴とする車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成からなる車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法によれば、センサの自己診断機能により繰り返し記憶しなければならない故障履歴等の情報を保存するためのEEPROMのメモリエリアを共用した上で、データの書き換わりを防止することが可能となるため、安価で信頼性の高いデータ保持機能をもつセンサを提供することが可能となる。
通常状態におけるEEPROMへの書き込みを1回に制限することにより市場におけるデータの書き換わりを防止する。
メモリ再生用のデジタル信号とデータ書き込み用メッセージIDとの論理和によって書き込み制限を解除することにより書き込み失敗時の生産性低下を防止する(リワーク性を向上させる)。
故障履歴等の重要性の低い情報を記憶するEEPROMとメモリエリアを共用した上で、重要性の高いデータの保持性能を向上させる。
なお、メモリ再生用のデジタル信号端子は生産工程でしか使用しないため、製品内部に設置して、さらに信号論理は回路断線などの故障モードを考慮した場合、Hiレベルで再生、Loレベルで非再生とすることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、EEPROMへのデータ書き込みを行なうマイクロコントローラにメモリ再生用デジタル信号を入力し、この信号とメッセージIDとの論理和でメモリへの書き込み制限を解除することにより、市場において補正データが書き換わってしまうことを防止する。また、生産工程においてEEPROMへのデータ書き込みを行なう作業の中で書き込み失敗した場合でも容易にメモリの再生を可能(メモリチップの交換が不要)とする。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明すると、図1は本発明に係るEEPROMの使用方法の概略図、図2は同EEPROMの使用方法の実施例、図3は本実施例に係る内部メモリのデータ書き換わり防止方法のフローチャートである。
図1、2においてEEPROMのメモリエリアは2分され、一方のエリアは故障コードエリア、他方のエリアはセンサ情報エリアとしている。故障コードエリアは従来のEEPROMの使用方法とおなじ方法で使用し、他方のエリアは後述するように書き込み回数を1回のエリアとして使用する。
このように2分されたエリアのうち、書き込み回数を1回に制限したエリアでは次のような制限が行われる。
図3において、データ書き換わり防止のプログラムが開始されると、ステップ1でEEPROMへの書き込みコマンドを受信したか否かを判断する。コマンドを受信した場合にはステップ2でEEPROMデータがFFFF以外か否か(書き込み履歴が有るか否か)を判断し、書き込み履歴がある場合にはデジタル信号入力がしきい値(例えば4.5V)以上か否か(具体的にはメモリ再生用デジタル信号とメッセージIDとの論理和が4.5V以上か否か)を判断し、デジタル信号入力がしきい値以上の時にはステップ4で指定されたアドレスにデータを書き込むようにする。
またステップ3でEEPROMデータに書き込み履歴が無い場合には、そのままステップ4に進み指定されたアドレスにデータを書き込む。
【0015】
以上のように、本発明ではEEPROM等の繰り返し書き込みが可能な不揮発性メモリに補正データを書き込むとき、規定されたデータ書き込み用のメッセージIDを受信した場合でも当該アドレスのデータがFF(hex)の場合、つまり、メモリが未使用の場合のみ書き込み可能とすることにより、製品出荷後に補正データが書き換わってしまう問題を解決することができる。また、EEPROMデータに書き込みが行われた場合でも、メモリ再生用のデジタル信号とデータ書き込み用メッセージIDとの論理和によって書き込み制限を解除することにより書き込み失敗時の生産性低下を防止できる(リワーク性を向上させる)。さらにセンサの自己診断機能により繰り返し記憶しなければならない故障履歴等の情報を保存するためのEEPROMのメモリエリアを共用した上で、データの書き換わりを防止することが可能となるため、安価で信頼性の高いデータ保持機能をもつセンサを提供することが可能となる。
【0016】
上述した本発明に係る内部メモリのデータ書き換わり防止方法では当該アドレスのデータがFF(hex)の場合のみ書き込みを許可する方法を採用したが、書き込み回数を1回に制限する方法としては、メモリエリアに書き込み回数を記憶させ、書き込み時に当該アドレスの書き込み回数が0の場合だけ書き込みを許可する方法なども考えられる。
さらにまた、本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいかなる形でも実施できる。そのため、前述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、自動車分野で使用する車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法等に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るEEPROMの使用方法の概略図である。
【図2】同EEPROMの使用方法の実施例である。
【図3】本発明に係る車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し書き込みが可能な不揮発性メモリのメモリエリアを2分し、一方のメモリエリアには、メモリが未使用の場合のみに書き込みを許可することを特徴とする車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法。
【請求項2】
前記書き込み許可がされたメモリエリアは、メモリ再生用のデジタル信号とデータ書き込み用メッセージIDとの論理和により書き込み許可ができるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車載用半導体センサにおける内部メモリのデータ書き換わり防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−122784(P2007−122784A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310678(P2005−310678)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】