説明

軌道における噴泥防止構造

【課題】道床が形成された軌道において、噴泥の発生を防止できるように構成する。
【解決手段】地盤1上に、バラスト層3bを備えた道床3と、複数の枕木4と、これら枕木4の両端部に連結手段を介して支持される一対のレール5とにより構成される道床3を備えた有道床軌道2を設ける場合に、枕木4のレール支持部の下方に、枕木4下面に当接する枕木当接部6aと、地盤1に埋設される振動受け部6bとを備えた支持体6をレール長方向に複数設けて、レール5に作用する列車の荷重や振動を地盤1に伝達するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車が走行する軌道における噴泥防止構造の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、列車が走行する軌道のなかには、地盤上に、バラスト層を備えた道床と、枕木と、該枕木に連結手段を介して支持される一対のレールとにより構成される有道床軌道があり、このようにしたものでは、繰り返しレール上を走行する列車(車両)の荷重や振動が枕木を介して道床全体で受け止められるようになるとともに、道床がレールに対して弾性を付与して列車の乗り心地を向上させるようになっている。ところが、前記道床はバラストを用いた層が形成されており、列車が走行することによりレールの振動が道床に波及すると、バラストが粉砕されたりバラスト内に形成される空隙が移動する等して道床が沈下するという問題がある。特に、レールの継ぎ目部近傍部位では、列車の走行に伴いレールが上下向に大きく振動するため、沈下現象が顕著になる。
一方、軌道の敷設部位によっては、地下水位がレール設置位置よりも上位に位置することがあり、この場合に、道床を、地盤上層部としての盛り土を締め固めた路盤と、該路盤上に載置されるバラスト層とにより構成したものでは、道床の沈下と滞水とによりレールの振動に伴い道床噴泥や路盤噴泥を発生し、道床の弾性力が低下して列車の乗り心地が悪化するばかりでなく、道床が陥没する等の軌道変状が生じることがあって問題がある。
そこで、噴泥を防止および/または抑止する手段として多数の手法が提唱されており、例えば、噴泥が発生した場合に、噴泥箇所の路盤面を被覆材で被覆して滞水を防止すること(特許文献1)や、噴泥箇所に噴泥固結材を散布して道床を固結すること(特許文献2)の手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−363903号公報
【特許文献2】特開2007−112912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者のものは、噴泥が発生した部位においてバラストを全部排除して被覆材を散布し、再びバラストを戻すようにするものであり、作業が面倒であるばかりでなく、再度噴泥が発生して被覆材を散布する場合では、バラストに有機系の材料が混入することになるため、リサイクル処理ができないという問題がある。一方、後者のものは、噴泥固結材により固結された部位の硬さがバラスト部位の硬さと異なるため、列車の走行が繰り返されて道床が振動すると硬度の異なる部位同士が擦れあって再び噴泥が発生し、頻繁な保守、管理が従前通り必要になるという問題があり、何れの場合においても噴泥の根本的な防止がなされることはない。
一方、軌道のなかには、地盤上層部として地盤上に盛り土をして締め固めた路盤を形成し、該路盤上にレール長方向に長いスラブマットを配設し、該スラブマット上に一対のレールを連結手段を介して連結支持するようにしたスラブ軌道があり、このものでは、メンテナンス性に優れるという利点を有しているが、レールの設置位置が地下水位よりも高位にあって路盤が滞水するような場合では、レールの振動により路盤が沈下して噴泥現象が発生することがあり、これに対する対処については未だ提案がなく、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、地盤上に、バラスト層を備えた道床と、複数の枕木と、これら枕木に連結手段を介して支持される一対のレールとにより構成される有道床軌道を設けるにあたり、上端部が枕木のレール支持部の下面に当接し、下端部が地盤に埋設される支持体を、レール長方向に複数設ける構成としたことを特徴とする軌道における噴泥防止構造である。
請求項2の発明において、地盤上に、複数のスラブマットと、これらスラブマットに連結手段を介して支持される一対のレールとにより構成されるスラブ軌道を設けるにあたり、上端部がスラブマットのレール支持部の下面に当接し、下端部が地盤に埋設される支持体を、レール長方向に複数設ける構成としたことを特徴とする軌道における噴泥防止構造である。
請求項3の発明において、レールは、予め設定される長さのものを複数継いで構成されるものとし、支持体は、レールの少なくとも継ぎ目部近傍部位に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の軌道における噴泥防止構造である。
請求項4の発明において、支持体は、金属材で予め形成された構造物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の軌道における噴泥防止構造である。
請求項5の発明において、支持体は、枕木の下方に形成した孔に注入される地盤注入材により構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の軌道における噴泥防止構造である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、列車の荷重や振動を、支持体を介して地盤に伝達することができて、道床の沈下が防止され、噴泥現象の発生を根本的に防止できる。
請求項2の発明とすることにより、列車の荷重や振動を、支持体を介して地盤に伝達することができて、地盤上層部の沈下が防止されて噴泥現象の発生を根本的に防止できる。
請求項3の発明とすることにより、列車の走行で顕著に振動するレールの継ぎ目部の直下が支持体に支持されることにより、噴泥現象の発生のさらなる防止が図れる。
請求項4の発明とすることにより、支持体を設けた軌道の施工を容易に行なうことができる。
請求項5の発明とすることにより、既設の有道床軌道に対しても支持体を設けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1(A)、(B)はそれぞれ有道床軌道を説明する平面図、正面断面図である。
【図2】軌道を説明する一部を切欠いた平面図である。
【図3】図3(A)、(B)はそれぞれスラブ軌道を説明する平面図、正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図面において、1は地盤であって、該地盤1上に、図示しない列車が走行する有道床軌道2が形成されている。前記有道床軌道2は、地盤1上に盛り上げた土を締め固めることにより構成される地盤上層部としての路盤3aと、該路盤3a上に積載されたバラスト層3bとにより構成される道床3を備えて構成されている。そして、有道床軌道2は、上面が道床3のバラスト層3bから露出し、所定間隙を存して配設される複数の枕木4と、これら枕木4の両端部に、図示しない連結手段を介して連結される一対のレール5とにより構成されている。
尚、レール5は、予め設定される所定の長さ(レール長)に形成されたものを、レール連結体5aを用いてレール長方向に継ぐ(連結する)ことにより必要な長さとなるように構成されており、各レール5同士の継ぎ目部には遊間(隙間)Sが形成されている。
【0009】
6は、地盤1および道床3内に埋設される支持体であって、該支持体6は、本実施の形態では金属材により一体形成された構造物となっている。
前記支持体6は、上端部に位置する四角プレート状の枕木当接部6aと、下端部に位置する四角柱状の振動受け部6bと、枕木当接部6aと振動受け部6bとを一体的に連結する細首状の支柱部6cとを一体形成することにより構成されている。そして、支持体6は、図1に示すように、複数配設されている枕木4のうち、レール5の継ぎ目部近傍部位に位置する枕木4と、適宜本数(本実施の形態では一本)の枕木4を間においた枕木4、好ましくは、全ての枕木4の下方に位置してそれぞれ埋設されるように設定されている。
【0010】
このとき、支持体6は、一つの枕木4に対し二つのものが、レール5を支持する部位である両端部に位置してそれぞれ設けられている。そして、各支持体6は、振動受け部6bと、これに続く支柱部6cの下端部とが地盤1に埋設され、地盤1上に突出する支柱部6cが道床3(路盤3a、バラスト層3b)内を貫通し、枕木当接部6aが枕木4のレール5支持部の下面に当接する状態となって埋設されている。
因みに、支持体6が埋設された有道床軌道2は、予め支持体6の振動受け部6bを地盤1に埋設し、その後、地盤1上に路盤3a、バラスト層3bからなる道床3を形成し、枕木4、レール5を敷設することで構築することができる。
【0011】
このように構成された有道床軌道2において、列車が走行することにより発生する荷重や振動は、枕木4を介して道床3側に伝達されることになるが、この場合に、支持体6により支持されている枕木4については、レール5から受けた荷重や振動を、支持体6の枕木当接部6aから振動受け部6bを介して地盤1に伝達して、地盤1により受け止めるように構成されている。一方、支持体6が設けられていない枕木4については、隣接する枕木4同士が支持体6を介して地盤1に支持されていることから、バラスト層3bに対して軽く浮き上がったような状態となっていて、道床3側に荷重や振動が伝達するが低減されるように構成されている。これによって、列車の走行に基づく荷重や振動は、支持体6を介して道床3の下方の地盤1によって受け止められ、道床3への伝達が低減されて沈下が防止され、もって、噴泥現象の発生を防止できるように構成されている。
【0012】
叙述の如く構成された本形態において、道床3を備えた有道床軌道2において、道床3に設けられる枕木4のうち、レール5の継ぎ目近傍部位に位置する枕木4と、一本の枕木4を間においた位置の枕木4とには、レール5を支持する部位に対向して支持体6が設けられていて、これら枕木4は、支持体6を介して地盤1に支持されている。これによって、列車がレール5上を走行した場合に、列車の荷重や振動は、支持体6を経由して道床3の下方の地盤1に直接伝達され、該地盤1において受け止められることになり、道床3に荷重や振動が伝達されることが大幅に低減されて道床3の沈下が抑制され、もって、噴泥現象の発生を根本的に防止することができる。
【0013】
さらに、本発明が実施されたものにあっては、地盤1に埋設される振動受け部6bを備えた支持体6が、レール5支持部に対向する枕木4に当接し、該枕木4に作用する荷重や振動を地盤1により受け止めるようにしたものであるが、支持体6は、列車の走行で顕著に振動するレール5の継ぎ目部近傍部位の枕木4に設けられているので、該部位の沈下を確実に低減できて、噴泥現象の発生のさらなる防止を図ることができる。
【0014】
また、本実施の形態においては、構造物として支持体6を形成したので、該支持体6の下端部を地盤1に埋設した後に道床3を構築することができて、有道床軌道2の施工を容易に行なうことができる。
【0015】
尚、本発明は前記実施の形態に限定されないことは勿論であって、支持体としては、予めコンクリートにより構成した構造物としてもよい。さらには、支持体を構造物とすることなく、地盤上に道床を構築した状態に対し、地盤注入材(例えばシリカ系ゾル)を、道床表面から地盤の内部に至るように注入することにより形成してもよく、このようにすることにより、レールに作用する荷重や振動を道床と地盤とに分散して伝達することができて、噴泥発生の根本的な防止を図れるという効果を奏することができる。尚、この場合では、既設の有道床軌道に対しても支持体を設けることが可能となるという利点がある。
【0016】
さらに、図3に示す第二の実施の形態のようにすることができる。
前記第二の実施の形態の軌道は、スラブ軌道7であって、該スラブ軌道7は、地盤1上に盛り上げた土を締め固めることにより、地盤上層部としての路盤1aを形成し、該路盤1a上面に塗布されたコンクリートアスファルトモルタル(CAモルタル)8aを介してレール長方向に長い複数のスラブマット8を設け、該スラブマット8に連結手段9aを介して一対のレール9を支持することにより構成されている。尚、レール9は、前記第一の実施の形態と同様に、所定の長さのものを複数用いて構成されており、レール9同士の継ぎ目部はレール連結体9bを介して遊間Sを存した状態で連結されている。
【0017】
そして、スラブ軌道7には、スラブマット8下方のレール9が支持される部位に対向して複数の支持体10が設けられているが、これら支持体10は、それぞれ上端部のスラブマット当接部10aと、下端部の振動受け部10bと、これらの間の支柱部10cとを一体形成することにより構成されており、振動受け部10bは、路盤1aより下方の堅固な地盤1に埋設され、スラブマット当接部10aは、路盤1a部位に埋設されてスラブマット8のレール支持部の下面に当接するように設けられている。尚、支持体10は、レール9の継ぎ目部近傍部位を始めとして、レール長方向に所定の間隔を存して複数埋設されていることは、前記第一の実施の形態と同様である。
【0018】
このように構成されたスラブ軌道7において、列車が走行することにより発生する荷重や振動は、レール9からスラブマット8を介して路盤1aや地盤1により受け止められることになるが、スラブマット8は複数の支持体10により支持されており、レール9が受けた荷重や振動は、支持体6のスラブマット当接部10a、振動受け部10bを経由して地盤1に伝達するように構成されている。これによって、列車の走行に基づく荷重や振動が地盤1により受け止められることになって、路盤1aに与える影響が低減されて沈下防止がなされ、もって、噴泥現象の発生を根本的に防止することができる。
また、支持体としては、地盤に孔を形成し、該孔に地盤注入材(例えばシリカ系ゾル)を注入して形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、鉄道の軌道を構築する場合に、噴泥現象を防止するために利用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 地盤
2 軌道
3 道床
3a 路盤
3b バラスト層
4 枕木
5 レール
5a レール連結体
6 支持体
6a 地盤埋設部
6b 枕木当接部
6c 支柱部
S 遊間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に、バラスト層を備えた道床と、複数の枕木と、これら枕木に連結手段を介して支持される一対のレールとにより構成される軌道を設けるにあたり、上端部が枕木のレール支持部の下面に当接し、下端部が地盤に埋設される支持体を、レール長方向に複数設ける構成としたことを特徴とする軌道における噴泥防止構造。
【請求項2】
地盤上に、複数のスラブマットと、これらスラブマットに連結手段を介して支持される一対のレールとにより構成される軌道を設けるにあたり、上端部がスラブマットのレール支持部の下面に当接し、下端部が地盤に埋設される支持体を、レール長方向に複数設ける構成としたことを特徴とする軌道における噴泥防止構造。
【請求項3】
レールは、予め設定される長さのものを複数継いで構成されるものとし、支持体は、レールの少なくとも継ぎ目部近傍部位に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の軌道における噴泥防止構造。
【請求項4】
支持体は、金属材で予め形成された構造物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の軌道における噴泥防止構造。
【請求項5】
支持体は、枕木の下方に形成した孔に注入される地盤注入材により構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の軌道における噴泥防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−6866(P2011−6866A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149506(P2009−149506)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】